説明

シャープペンシル

【課題】筆記圧を受けた筆記芯の前後動により筆記芯を徐々に回転させる回転駆動機構を備えたものにおいて、筆記芯の前後動にダンパー機能を持たせること。
【解決手段】筆記圧を受けた筆記芯の前後動に基づいて筆記芯を徐々に回転させる回転駆動機構が備えられ、この回転駆動機構の一部を構成するシリンダー部材30とトルクキャンセラー31との間に粘着性媒体を介在させることによりダンパー機能を持たせる。(A)に示す状態で注入孔30bより空間部30cに注入された粘着性媒体は、(B)に示すようにトルクキャンセラー31が若干押し込まれた状態で、トルクキャンセラーによって前記注入孔30bと空間部30cが遮断されて、前記空間部が略密閉状態になされる。これに続き(C)に示すようにトルクキャンセラー31をさらに押し込むことで、粘着性媒体はトルクキャンセラーとシリンダー部材との間の空隙内に満遍なく行き渡る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筆記圧を利用して筆記芯(替え芯)を回転させることができるシャープペンシルに関し、特に筆記に伴う筆記芯の前後動にダンパー機能を付与したシャープペンシルに関する。
【背景技術】
【0002】
シャープペンシルによって筆記を行う場合には、一般的には軸筒を筆記面(紙面)に対して直交状態で使用することなく、筆記面に対して若干傾けた状態で使用される場合が多い。この様に軸筒を傾けた状態で筆記した場合においては、書き進むにしたがって筆記芯が偏摩耗(片減り)するために、描線が書き始めに比較して太くなるという現象が発生する。また描線の太さが変るだけでなく、筆記面に対する筆記芯の接触面積が変るために、書き進むにしたがって描線の濃さも変化する(描線が薄くなる)現象が発生する。
【0003】
前記した問題を回避するには、軸筒を回転させつつ筆記するようにすれば、筆記芯の尖っている側が順次紙面に接して筆記されるので、描線が書き進むにしたがって太くなるなどの問題を避けることができる。しかしながら、軸筒を回転させつつ筆記しようとすれば、筆記の進行にしたがって軸筒を持ち直す操作が必要であるという煩わしさが発生し、筆記の能率を著しく落とすとことになる。
【0004】
この場合、軸筒の外装が円筒状に形成されている場合においては、軸筒を持ち直して順次回転させつつ筆記をすることは不可能ではないものの、その外装が円筒状ではなく中腹に突起の付いたデザインであったり、またサイドノック式のシャープペンシルである場合、前記したように軸筒を順次回転させるように持ち直して筆記することも困難となる。
【0005】
そこで、前記したような問題を解消するために、筆記芯を把持するチャックが筆記圧を受けて後退するように構成し、この後退動作を利用して前記チャックと共に前記筆記芯を回転させる回転駆動機構を備えたシャープペンシルが次に示す先行技術文献に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3882272号公報
【特許文献2】特許第3885315号公報
【0007】
ところで、前記した先行技術文献に開示されたシャープペンシルによると、軸筒内に縦突起と縦溝とが交互に配置され、これらに跨がるように傾斜面を備えたカム部が環状に形成されている。また軸筒内にはその周方向に間欠的に突起を形成した回転子が収容されている。
【0008】
そして、筆記芯を大きく後退させることにより前記回転子を押し上げ、回転子の突起が軸筒内の前記カム部に形成された縦突起を乗り上げ、前記傾斜面を経て隣の縦溝に落ち込むのを利用して回転子を回転せしめ、前記回転子の回転運動を芯ケースに伝達して筆記芯を回転駆動させるように構成されている。これは、ノック式ボールペン等に多用されている周知のカーンノック機構を利用したものである。
【0009】
前記した構成のシャープペンシルによると、回転子を回転させるにあたって、軸筒内に形成された縦突起を回転子側の突起が乗り越えるに必要な筆記芯の大きな後退ストロークが必要である。このために、筆記により芯が片減りした場合には、通常の筆記圧以上の圧力を筆記芯に加えて回転子を軸筒内で後退させることで、回転子側の突起が軸筒内に形成された前記縦突起を乗り越えさせる筆記とは別の操作が必要となる。この操作は筆記芯が片減りする度に比較的頻繁に行う必要があるため、筆記の能率を落とすという問題が残される。
【0010】
そこで、本件出願人は前記した先行技術文献に開示されたシャープペンシルの問題点を解消するために、筆記に伴う筆記芯のわずかな後退および前進動作(これを以下において、クッション動作ともいう。)を利用して、筆記芯を回転駆動させるシャープペンシルを、特願2007−339074および特願2007−339075等で出願している。
【0011】
前記出願にかかるシャープペンシルにおいては、円筒状に形成された回転子の各端面に第1と第2のカム面が形成され、筆記圧による前記回転子の後退動作によって、前記第1のカム面が、第1の固定カム面に当接して噛み合わされるようになされる。また筆記圧の解除による回転子の前進動作によって、前記第2のカム面が、第2の固定カム面に当接して噛み合わされるようになされる。
【0012】
そして、前記各カムの往復の噛み合わせにより、回転子が一方向に順次回転されるようになされ、この回転動作が筆記芯を把持するチャックを介して筆記芯に伝達されるように構成されている。
【0013】
前記した構成によると、筆記に伴う芯の後退量(クッション動作量)を0.05〜0.5mm程度に設定することで、筆記芯を順次回転駆動させることが可能であり、これにより筆記の能率を低下させることのない実用性に優れたシャープペンシルを提供することができる。
【0014】
ところで、前記した構成によるシャープペンシルにおいては、筆記により芯が前記したクッション動作を伴うため、筆記芯の後退動作において「ヘコヘコ」した感触がつきまとい、またクッションスプリングによる筆記芯の戻り動作に「カチャカチャ」する感触も発生する。
【0015】
このような独特の感触による違和感が発生するのを緩和させるために、筆記芯と共に軸方向に移動する可動部材と、前記可動部材の移動面に対峙した固定部材との間に粘着性媒体(粘着性グリス)を介在させることで、筆記芯のクッション動作にダンパー機能を付与させたシャープペンシルを本件出願人はすでに提案している。これは、前記した特願2007−339075(国際公開WO2009/84446号)に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、前記出願に係るシャープペンシルにおけるダンパー機能をもたらす粘着性グリスは、前記した可動部材としてのトルクキャンセラーの周面に塗り付けられ、この状態のトルクキャンセラーを、固定部材である円筒状のストッパー部材の内周面に沿って装着することで組み立てられる。
【0017】
したがって、前記した粘着性グリスの塗布および充填操作によると、トルクキャンセラーの周面に対して常にほぼ同量の粘着性グリスを付着させても、トルクキャンセラーをストッパー部材の内周面に沿って装着させる場合に、両者の組み方のわずかな違いにより両者間に充填されるグリスの量が変わるという問題を有している。
【0018】
すなわち、前記トルクキャンセラーと前記ストッパー部材との間の隙間に充填される粘着性グリスの量は安定せず、両者の隙間の全域にわたって粘着性グリスが充填される保証もない。それ故、前記ダンパー機能にバラツキが発生し易く、機能上において安定性に欠けるという問題を抱えている。
【0019】
この発明は、筆記芯の回転駆動機構を備えたシャープペンシルにおける前記したダンパー機能の問題点に着目してなされたものであり、特に熟練を要することなく粘着性グリスの充填操作を容易に、しかも両者の隙間への粘着性グリスの充填量を安定かつ確実に実行することができ、ダンパー機能にバラツキを発生させることのないシャープペンシルを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記した課題を解決するためになされたこの発明にかかるシャープペンシルは、ノック部材のノック操作に基づくチャックの前後動により筆記芯の解除と把持を行い、前記筆記芯を前方に繰り出すことができるように構成され、前記チャックが前記筆記芯を把持した状態で前後動および軸芯を中心にして回転可能となるように軸筒内に収容されると共に、前記筆記芯の筆記圧による前記チャックの前後動に基づいて、前記チャックに把持された筆記芯を回転駆動させる回転駆動機構を具備したシャープペンシルであって、前記筆記芯の筆記圧による前記チャックの前後動に基づいて、軸方向に移動動作する可動部材と、前記可動部材の移動面に対峙した固定部材との間に粘着性媒体が介在され、前記粘着性媒体により前記筆記芯の後退および前進動作にダンパー機能を持たせるように構成され、前記固定部材の側壁には、前記固定部材に対して前記可動部材が第1の相対位置になされた状態において、前記固定部材と前記可動部材との間に、前記注入孔に連通する空間部が形成されるようになされ、前記固定部材に対して前記可動部材が第2の相対位置になされた状態において、前記可動部材によって前記注入孔と空間部が遮断されて、前記空間部が略密閉状態になされ、前記固定部材に対して前記可動部材が第3の相対位置になされた状態において、略密閉された前記空間部の容積が縮小されるように構成したことを特徴とする。
【0021】
この場合、前記粘着性媒体を注入することができる注入孔が形勢されていることが望ましい。また好ましくは前記固定部材は、前記可動部材を内側に配して当該可動部材を摺動可能に支持する筒状部材により構成されると共に、前記可動部材には外周面に沿って連続する溝部が形成され、前記固定部材に対して可動部材が前記第3の相対位置になされた状態において、前記空間部内に貯留された粘着性媒体が、前記溝部を介して前記可動部材と固定部材との間の隙間に浸入できるように構成される。
【0022】
加えて、前記固定部材に対して可動部材が前記第3の相対位置になされた状態において、前記可動部材に形成された前記溝部が、前記固定部材と前記可動部材との間に形成された第2の空間部に連通した構成にされることが望ましい。
【0023】
一方、前記回転駆動機構には前記チャックに連結された回転子が具備され、当該回転子は円環状に形成されてその軸方向の一端面および他端面に第1と第2のカム面がそれぞれ形成されると共に、前記第1と第2のカム面にそれぞれ対峙するように第1と第2の固定カム面が具備され、前記筆記圧による前記チャックの後退動作によって、前記円環状回転子における第1のカム面が、前記第1の固定カム面に当接して噛み合わされ、前記筆記圧の解除により前記回転子における第2のカム面が、前記第2の固定カム面に当接して噛み合わされるように構成され、前記回転子側の第1カム面が、前記第1の固定カム面に噛み合わされた状態において、前記回転子側の第2カム面と前記第2の固定カム面が、軸方向においてカムの一歯に対して位相がずれた関係に設定され、前記回転子側の第2カム面が、前記第2の固定カム面に噛み合わされた状態において、前記回転子側の第1カム面と前記第1の固定カム面が、軸方向においてカムの一歯に対して位相がずれた関係に設定される。
【0024】
この場合、前記回転駆動機構には、筆記圧が解除された状態において、前記回転子における第2のカム面を、前記第2の固定カム面に当接させて噛み合わせ状態に付勢するクッションスプリングが具備されていることが望ましい。
【0025】
さらに、前記した構成に加えて、前記回転駆動機構における前記回転子の後端部と前記クッションスプリングとの間に、前記回転子の後端部との間においてすべりを発生させるトルクキャンセラーが介在され、前記回転子の回転運動が前記クッションスプリングに伝達されるのを阻止するように構成されていることが望ましい。
【0026】
この場合、一つの好ましい形態においては、前記トルクキャンセラーを、チャックと共に軸方向に移動動作する前記可動部材として利用し、前記トルクキャンセラーを前記ダンパー機能の一部を兼ねた構成にすることができる。
【発明の効果】
【0027】
前記したこの発明にかかるシャープペンシルによると、筆記圧を受けることにより回転子を回転駆動させる回転駆動機構が具備され、前記回転子の回転運動はチャックを介して筆記芯に伝達される。したがって、筆記動作に伴って筆記芯は除々に回転駆動を受けるので、書き進むにしたがって筆記芯が偏摩耗するのを防止させることができ、描線の太さや描線の濃さが大きく変化するという問題を解消させることができる。
【0028】
加えて、筆記圧を受けることによる前記チャックの前後動に粘着性媒体によるダンパー機能が施され、当該ダンパー機能は、固定部材に対する可動部材の第1〜第3の相対位置応じて、注入孔への粘着性媒体の注入から前記両者の隙間に粘着性媒体が均等に充填される一連の動作が実行されるようになされる。
【0029】
したがって、熟練を要することなく粘着性媒体の充填操作を容易に、しかも両者の隙間への粘着性媒体の充填を安定かつ確実に行うことができ、ダンパー機能にバラツキを発生させることのないシャープペンシルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明にかかるシャープペンシルの前半部を示した断面図である。
【図2】同じく後半部を示した断面図である。
【図3】筆記芯の繰り出しユニットおよび筆記芯の回転駆動機構を示す正面図および中央断面図である。
【図4】先軸およびグリップ部材の構成を示した断面図である。
【図5】筆記芯の回転駆動機構の拡大断面図である。
【図6】回転駆動機構に具備された回転子の回転駆動作用を順を追って説明する模式図である。
【図7】図6に続く回転子の回転駆動作用を説明する模式図である。
【図8】回転駆動機構に具備されたトルクキャンセラーの外観斜視図および断面図である。
【図9】回転駆動機構に具備されたトルクキャンセラーとシリンダー部材の関係を示した断面図である。
【図10】図9におけるa−a線、b−b線およびc−c線より矢印方向に視た状態の断面図である。
【図11】回転駆動機構の最終組み立て工程を説明する断面図である。
【図12】図11に続く組み立て工程を説明する断面図である。
【図13】図12に続く組み立て工程を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
この発明にかかるシャープペンシルについて図に示す実施の形態に基づいて説明する。図1および図2はその全体構成を断面図で示したものであり、図1はシャープペンシルの前半部を示し、図2は後半部を示している。なお、以下に示す各図においては同一部分を同一符号で示しているが、図1および図2に示す全体図においては、その代表的な部分に符号を付けている。
【0032】
符号1で示す口先部(クチプラ)は、金属素材により構成された軸筒を構成する先軸2の先端部に螺合されることで、着脱可能に取り付けられている。そして、前記先軸2および後述する後軸の中心部に沿って筒状の芯ケース3が同軸状に収容されている。この芯ケース3の先端部には図3に示すように短軸の芯ケース継手4が取り付けられ、前記芯ケース継手4を介して真ちゅう製のチャック5が連結されている。
【0033】
このチャック5内には、その軸芯に沿って図示せぬ筆記芯の通孔が形成され、また先端部が複数に分割されて、分割された先端部が真ちゅうによりリング状に形成された締め具6内に遊嵌されている。またリング状の前記締め具6は前記チャック5の周囲を覆うようにして配置されたパイプ継手7の内面に装着されている。
【0034】
前記パイプ継手7の前端部には、前記した口先部1内に収容されてその前端部が口先部より突出される円筒状のスライダー8が取り付けられ、さらにスライダー8の前端部には、筆記芯を案内する先端パイプ9が取り付けられている。なお、前記スライダー8の内面には、図3に示したように軸芯部分に通孔を形成したゴム製の保持チャック10が収容されている。
【0035】
前記した構成により、芯ケース3よりチャック5内に形成された通孔、前記保持チャック10の軸芯に形成された通孔を介して、先端パイプ9に至る直線状の芯挿通孔が形成されており、この直線状の芯挿通孔内に図示せぬ筆記芯が挿通される。そして、前記したパイプ継手7と芯ケース継手4との間には、コイル状のチャックスプリング11が配置されている。
【0036】
なお、前記チャックスプリング11の後端部は前記芯ケース継手4の前端面に、また前記チャックスプリング11の前端部はパイプ継手7の内周面に形成された環状部材に当接した状態で収容されている。したがって、前記チャックスプリング11の作用により、前記チャック5は後退する方向に、すなわち筆記芯を把持する方向に付勢されている。
【0037】
前記した構成による筆記芯の繰り出しユニットにおいては、後で説明するノック部材(ノック棒)をノック操作することで、前記芯ケース4が軸筒内において前進する。この時、前記スライダー8に形成された大径部が口先部1の内面に当接して、その前進が阻まれるため、チャック5の先端部が締め具6から相対的に突出し、チャック5による筆記芯の把持状態が解除される。そして、前記ノック操作の解除により、チャックスプリング11の作用により芯ケース3およびチャック5は軸筒内において後退する。
【0038】
この時、筆記芯は保持チャック10に形成された通孔内において摩擦により保持されており、この状態でチャック5が後退してその先端部が前記締め具6内に収容されることで、筆記芯を再び把持状態にする。すなわち、後述するノック棒のノック操作の繰り返しによりチャック5が前後動し、これにより筆記芯の解除と把持が行われ、筆記芯はチャック5から順次前方に繰り出されるように作用する。
【0039】
図1および図4に示したように、軸筒を構成する前記先軸2にはグリップ部材13が先軸2を取り巻くようにして装着されている。このグリップ部材13は、図4に詳細に示されているとおり、先軸2の後端部に嵌合された金属製の軸継手14と前記した口先部1との間に装着されている。そして、グリップ部材13はゴム素材により形成された内側層13bと、同じくゴム素材により形成された被覆層13aより構成されており、両者の間には必要に応じてゲル状物質が充填された構成になされている。
【0040】
なお、前記軸継手14の前端部に形成された鍔部14aを覆うようにして合成樹脂製の軸飾り15が嵌め込まれており、前記グリップ部材13の後端部は、前記軸飾り15に覆われるようにして装着されている。
【0041】
前記軸継手14の外周面には螺旋状のねじが形成されており、このねじを利用して図2に示すように軸筒を構成する後軸17がねじ込まれて取り付けられている。また後軸17の外側を覆うようにしてクリップ部18aが一体に成形された外軸18が装着されており、この外軸18は、前記後軸17の後端部に螺着された止めリング19によって、前記軸飾り15との間で軸方向に挟み込まれるようにして取り付けられている。
【0042】
この実施の形態においては前記したとおり、先軸2側に比較的肉厚のグリップ部材13が装着されている関係で、筆記芯の回転駆動機構21は、図2に示すようにグリップ部材13の装着位置よりも後方である前記後軸17と芯ケース3との間に配置されている。この回転駆動機構21の構成は後で詳細に説明するが、シャープペンシル本体とは独立した1つのユニットにより構成されて前記軸筒内に収容されている。
【0043】
そして、汎用品として利用できるようにユニット化された前記回転駆動機構21には、図3に示すように可撓性の素材により構成された中継パイプ22の後端部が接続されており、当該中継パイプ22の前端部は、チャック5を支持するパイプ継手7に接続されている。
【0044】
すなわち、前記中継パイプ22は前記芯ケース3を覆うようにして同軸状に配置されており、当該中継パイプ22は、筆記動作に基づく筆記芯の後退および前進動作(クッション動作)を回転駆動機構21に伝達させると共に、クッション動作によって生ずる前記回転駆動機構21による回転運動を前記中継パイプ22を介して前記パイプ継手7およびチャック5に伝達させるように作用する。
【0045】
なお、前記回転駆動機構21は、図2に示されているとおり、その前端部において前記軸継手14との間に介在された軸スプリング24によって後方に付勢されている。また回転駆動機構21の後端部は前記後軸17内の縮径により形成された段部17aに、前記軸スプリング24の付勢力により当接している。
【0046】
すなわち、この実施の形態においては、ユニット化された前記回転駆動機構21は後軸17内の段部17aに当接することによる摩擦により回動が規制され、前記したクッション動作によって生ずる前記回転駆動機構21による回転運動を、前記チャック5側に伝達させるように作用する。なお、前記回転駆動機構21の軸筒内への取り付けは前記した構成に限られることなく、回転駆動機構21を軸筒の一部に例えば嵌め込みの手段により取り付けるようにしてもよい。
【0047】
図5は、前記回転駆動機構21の構成を拡大して示したものである。この回転駆動機構21には円筒状に形成された回転子26が具備されており、前記した中継パイプ22は、回転駆動機構21の前端部において、前記回転子26の内周面に嵌合することで結合されている。
【0048】
前記回転子26は、その前端部付近が若干径を太くした太径部になされ、その太径部の一端面(後端面)には第1のカム面26aが形成されており、太径部の他端面(前端面)には第2のカム面26bが形成されている。一方、前記回転子26の後端部側を覆うようにして円筒状の上カム形成部材27が、前記回転子26との間で回動可能に配置されており、前記上カム形成部材27の前端部外周には、円筒状の下カム形成部材28が嵌合されて取り付けられている。
【0049】
そして、前記回転子26における第1のカム面26aに対峙する上カム形成部材27の前端面に、固定カム面(第1の固定カム面ともいう。)27aが形成されている。また、前記回転子26における第2のカム面26bに対峙する下カム形成部材28の前端部内面に、固定カム面(第2の固定カム面ともいう。)28aが形成されている。
【0050】
なお、前記回転子26に形成されている第1と第2のカム面26a,26bと、前記第1の固定カム面27a、第2の固定カム面28aとの関係および相互の作用については、図6および図7に基づいて後で詳細に説明する。
【0051】
図5に示すように、前記した上カム形成部材27の後端部側には、シリンダー部材30が嵌め込まれており、このシリンダー部材30の後端部には芯ケース3が挿通できる挿通孔30aが形成されている。そして、前記シリンダー部材30内には円筒状に形成され軸方向に移動可能なトルクキャンセラー31が配置され、当該トルクキャンセラー31の内周面前端と前記シリンダー部材30の内周面後端との間にはコイル状のクッションスプリング32が装着されている。
【0052】
前記クッションスプリング32は、前記トルクキャンセラー31を前方に付勢するように作用し、この付勢力を受けた前記トルクキャンセラー31に押されて前記回転子26は前方に向かうように作用する。
【0053】
以上のとおり前記した回転駆動機構21は、その中央部が芯ケース3を通す空間部になされて芯ケース3とは隔離されており、回転駆動機構21は前記した符号26〜32で示す各部材により一体に結合されてユニット化されている。
【0054】
前記した回転駆動機構21の構成によると、チャック5が筆記芯を把持した状態で、前記回転子26は中継パイプ22を介してチャック5と共に軸芯を中心にして回転可能になされている。そして、シャープペンシルが筆記状態以外の場合においては、前記クッションスプリング32の作用により前記トルクキャンセラー31を介して回転子26は前方に付勢されている。
【0055】
一方、シャープペンシルを使用した場合、すなわち先端パイプ9から突出している筆記芯に筆記圧が加わった場合には、前記チャック5は前記クッションスプリング32の付勢力に抗して後退し、これに伴って回転子26も軸方向に後退する。したがって、図5に示す回転子26に形成された第1のカム面26aは前記第1の固定カム面27aに接合して噛み合い状態になされる。
【0056】
図6(A)〜(C)および図7(D),(E)は、前記した動作により回転子26を回転駆動させる回転駆動機構21の基本動作について順を追って説明するものである。図6および図7において、符号26は前記した回転子を模式的に示したものであり、その一端面(図の上側の面)には、周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第1のカム面26aが円環状に形成されている。また回転子26の他端面(図の下側の面)にも、同様に周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第2のカム面26bが円環状に形成されている。
【0057】
一方、図6および図7に示すように、上カム形成部材27の円環状の端面にも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第1の固定カム面27aが形成されており、下カム形成部材28の円環状の端面にも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第2の固定カム面28aが形成されている。
【0058】
そして、回転子26に形成された第1のカム面26a、第2のカム面26b、上カム形成部材27に形成された第1の固定カム面27a、下カム形成部材28に形成された第2の固定カム面28aの周方向に沿って鋸歯状に形成された各カム面は、そのピッチが互いにほぼ同一となるように形成されている。なお、図6および図7における回転子26の中央部に描いた○印は、回転子26の回転移動状態を示している。
【0059】
図6(A)は、シャープペンシルが不使用の状態(筆記状態以外の場合)における上カム形成部材27、回転子26、下カム形成部材28の関係を示したものである。この状態においては、回転子26に形成された第2のカム面26bは、下カム形成部材28の第2の固定カム面28a側に、図5に示したクッションスプリング32の付勢力により当接されている。この時、前記回転子26側の第1カム面26aと前記第1の固定カム面27aが、軸方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
【0060】
図6(B)は、シャープペンシルの使用により筆記芯に筆記圧が加わった初期の状態を示している。この場合においては、チャック5および中継パイプ22を介して、回転子26はクッションスプリング32を収縮させて軸方向に後退する。これにより、回転子26は上カム形成部材27側に移動する。
【0061】
図6(C)は、シャープペンシルの使用により筆記芯に筆記圧が加わり、回転子26が上カム形成部材27側に当接した状態を示しており、この場合においては回転子26に形成された第1カム面26aが、上カム形成部材27側の第1の固定カム面27aに噛み合う。これにより回転子26は第1カム面26aの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を受ける。そして図6(C)に示す状態においては、前記回転子26側の第2カム面26bと前記第2の固定カム面28aが、軸方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
【0062】
次に図7(D)は、シャープペンシルによる筆記が終わり、筆記芯に対する筆記圧が解かれた初期の状態を示しており、この場合においては、前記したクッションスプリング32の作用により回転子26は軸方向に前進する。これにより、回転子26は下カム形成部材28側に移動する。
【0063】
さらに図7(E)は、前記したクッションスプリング32の作用により、回転子26が下カム形成部材28側に当接した状態を示しており、この場合においては回転子26に形成された第2カム面26bが、下カム形成部材28側の第2の固定カム面28aに噛み合う。これにより回転子26は第2カム面26bの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を再び受ける。
【0064】
したがって、回転子26の中央部に描いた○印で示すように、筆記圧を受けた回転子26の軸方向への往復運動に伴って回転子26は、第1および第2カム面26a,26bの一歯(1ピッチ)に相当する回転駆動を受け、前記した中継パイプ22、パイプ継手7およびチャック5を介して、これに把持された筆記芯も同様に回転駆動される。
【0065】
前記した構成のシャープペンシルによると、筆記による回転子26の軸方向への往復動作により、回転子はその都度カムの一歯に対応する回転運動を受け、この繰り返しにより筆記芯は順次回転駆動される。それ故、書き進むにしたがって筆記芯が偏摩耗するのを防止させることができ、描線の太さや描線の濃さが大きく変化するという問題を解消することができる。
【0066】
さらに、前記した構成のシャープペンシルによると、筆記芯を案内する先端パイプ9およびスライダー8は、パイプ継手7および中継パイプ22を介して前記回転子26と一体となって動作するので、筆記動作に伴う前記したチャック5の後退および前進動作に伴い、先端パイプ9およびスライダー8は中継パイプ22を介して同方向に移動する。
【0067】
したがって筆記動作に伴い、筆記芯がわずかに前後動(クッション動作)しても、筆記芯を案内する先端パイプ9も同方向に移動するので、先端パイプ9と筆記芯との間において軸方向の相対移動が生ずることはなく、先端パイプ9からの筆記芯の出寸法を一定に保つことができる。
【0068】
また、先端パイプ9およびスライダー8は中継パイプ22を介して前記回転子26に結合されているので、筆記芯が回転運動を受けた場合に、先端パイプ9およびスライダー8も同様に回転運動を受けることになり、先端パイプ9と筆記芯は一体となって回転することになる。
【0069】
したがって、前記した構成のシャープペンシルによると、筆記中において先端パイプ9からの筆記芯の出寸法がその都度変化して違和感を与えるという問題を解消させることができる。さらに先端パイプ9からの筆記芯の出寸法の変化により先端パイプにより芯を切削することによる芯折れの発生を防止させることができ、また芯の削りかすにより筆記面を汚染させるという問題も解消することができる。
【0070】
なお、前記したコイル状のクッションスプリング32の付勢力を受けて回転子26を前方に押し出す円筒状のトルクキャンセラー31は、このトルクキャンセラー31の前端面と前記回転子26の後端面との間ですべりを発生させて、筆記作用の繰り返しにより生ずる前記回転子26の回転運動を、クッションスプリング32に伝達させるのを防止させるように作用する。
【0071】
換言すれば、前記回転子26とクッションスプリング32との間に、トルクキャンセラー31が介在されることにより、前記回転子26の回転運動が前記したすべり作用により前記スプリング32に伝達されるのを阻止するように作用し、スプリング32の捩じれ戻り(バネトルク)が発生することで、回転子26の回転動作に障害を与えるという問題を解消させることができる。
【0072】
ところで、前記した構成のシャープペンシルにおいては、図5に示すクッションスプリング32の付勢力に対抗した筆記中のクッション動作において、前記したとおり「ヘコヘコ」または「カチャカチャ」した感じが付きまとい筆記の感触が悪いという問題が残される。
【0073】
これを解消させるために、この実施の形態においては、前記トルクキャンセラー31の周側面と前記シリンダー部材30の内周面との間に、粘着性媒体、好ましくは粘着性グリス(図示せず)を介在させることで、シリンダー部材30内を軸方向に移動するトルクキャンセラー31にダンパー効果を持たせている。
【0074】
すなわち、前記構成においては、トルクキャンセラー31は、筆記芯の筆記圧による前記チャックの前後動に基づいて軸方向に移動動作する可動部材として機能し、シリンダー部材30は、前記可動部材(トルクキャンセラー31)の移動面に対峙した固定部材として機能する。
【0075】
前記したシリンダー部材30とトルクキャンセラー31を利用してダンパー機能を容易にかつ確実に構成させるために、前記シリンダー部材30の側壁の180度対向する位置に、前記粘着性グリスの注入孔30bがそれぞれ形成されている。そして、トルクキャンセラー31側には、前記注入孔30bを介して粘着性グリスを注入した時に、当該グリスを封止してトルクキャンセラー31の周側面の全体に前記グリスを行き渡らせる凸状部材31aおよび溝部31bが形成されている。
【0076】
図8〜図10は、前記したタンパー機構において、固定部材として機能するシリンダー部材30と、可動部材として機能するトルクキャンセラー31のより詳細な構成およびその作用を説明するものである。図8(A)は前記トルクキャンセラー31の外観構成を示し、また図8(B)および図8(C)は、トルクキャンセラー31を周方向の互いに直交する位置でそれぞれ切断した状態の断面図である。
【0077】
このトルクキャンセラー31の周側面における180度対向するほぼ中央位置には、凸状部材31aがそれぞれ形成されている。またトルクキャンセラー31の前記凸状部材31aに隣接する軸方向の直後には、周方向に沿って連続する溝部31bが形成されている。さらにトルクキャンセラー31の前記凸状部材31aに直交する周側面は、軸方向に平面状に加工された面そぎ部31cが形成されている。
【0078】
図9は、前記した構成のトルクキャンセラー31を、シリンダー部材30内に挿入し、シリンダー部材30の注入孔30bを利用して粘着性グリスを注入する順序を説明するものである。すなわち、前記シリンダー部材30の内周面には、前記トルクキャンセラー31における一対の凸状部材31aが収容される凹状部30cが軸方向に沿って、かつ前記注入孔30bに連通するようにそれぞれ形成されている。
【0079】
図9(A)は、シリンダー部材30の注入孔30bを利用して粘着性グリスを注入する場合における両者の位置関係を示している。すなわち、固定部材としてのシリンダー部材30に対する可動部材としてのトルクキャンセラー31との位置関係が前記第1の相対位置になされた場合を示している。なお、図9(A)においてa−a線より矢印方向に視た断面図を図10(A)に示している。
【0080】
すなわち、前記第1の相対位置になされた状態においては、トルクキャンセラー31における凸状部材31aが、シリンダー部材30に形成された注入孔30bよりも前方に位置している。この状態で前記注入孔30bに図示せぬノズルの先端部を挿入して、前記粘着性グリスが注入される。これにより前記グリスは、シリンダー部材30の凹状部(空間部とも言う。)30c内に貯留される。
【0081】
図9(B)は、粘着性グリスの注入後にトルクキャンセラー31をシリンダー部材30内に若干押し込んだ状態を示している。すなわち、固定部材としてのシリンダー部材30に対する可動部材としてのトルクキャンセラー31との位置関係が前記第2の相対位置になされた場合を示している。なお、図9(B)におけるb−b線より矢印方向に視た断面図を図10(B)に示している。
【0082】
この状態においては、トルクキャンセラー31における凸状部材31aが、シリンダー部材30の注入孔30bよりも後方に移動するために、シリンダー部材30に形成された注入孔30bとシリンダー部材30内の凹状部30cにより形成された空間部は遮断されて、前記凹状部30c(空間部)は略密閉状態になされる。すなわち、空気が僅かに漏れる程度に前記空間部がシールされる。これにより、前記凹状部30c内は粘着性グリスのグリス溜まりになされる。
【0083】
続いて図9(C)は、トルクキャンセラー31をシリンダー部材30内にさらに押し込んだ状態を示している。すなわち、固定部材としてのシリンダー部材30に対する可動部材としてのトルクキャンセラー31との位置関係が前記第3の相対位置になされた場合を示している。なお、図9(C)におけるc−c線より矢印方向に視た断面図を図10(C)に示している。
【0084】
この状態においては、グリス溜まりに封入された凹状部30c(空間部)内の粘着性グリスは、トルクキャンセラー31による押し込み圧力を受けて容積が縮小されるために、トルクキャンセラー31に形成された前記溝部31bに入り込む。
【0085】
そして、粘着性グリスは前記溝部31bを経由してトルクキャンセラー31の周側面、すなわちトルクキャンセラー31とシリンダー部材30との間のわずかな隙間に浸入して、両者の間に満遍なく行き渡る。
【0086】
この時、凹状部30cにより形成されたるグリス溜まりに封入された余剰な粘着性グリスは、前記溝部31bを経由して図10(C)に示すように、トルクキャンセラー31の周側面に形成された前記面そぎ部31cと、シリンダー部材30との間に形成された第2の空間部(面そぎ部と同一の符号31cで示す。)内に入り込み貯留される。
【0087】
なお、前記粘着性グリスとしては、そのちょう度が100〜400の範囲のものを用いることが望ましく、前記粘着性グリスとしては、例えば信越化学工業社製の商品名「信越シリコーングリス」品番:G330〜334,G340〜342,G351〜353,G631〜633などを好適に利用することができる。
【0088】
前記した工程により形成されたダンパー機構によると、前記トルクキャンセラー31の急激な軸方向への移動動作には大きな粘性抵抗が付与され、比較的緩慢に動く静的な荷重に対しては粘性抵抗が非常に小さくなるダンパー機能を有することになる。
【0089】
したがって前記した構成によると、筆記圧の解除によりトルクキャンセラーが前進移動する場合において、効果的にダンパーの機能を与えることができ、前記したクッション動作に伴って発生する筆記の感触の悪さを効果的に是正させることができる。加えて、前記した構成によると、ダンパー機能を果たす粘着性グリスの注入および塗布操作を容易にすることができ、またダンパー機能を果たす部分への粘着性グリスの塗布量も均一にすることができるので、ダンパー特性のバラツキを極めて小さくすることが可能となる。
【0090】
なお、前記した実施の形態においては、シリンダー部材30には一対の注入孔30bと凹状部30cがそれぞれ形成され、一方、前記トルクキャンセラー31には一対の凸状部材31aが形成されているが、これは粘着性グリスの注入および塗布操作の作業の利便性のために一対になされているもので、これらはそれぞれ1つ形成されることで、その機能を果たすことができる。
【0091】
図2に戻り、前記した内軸17の後端部内には、ノック部材としてのノック棒35が後軸17に対して摺動可能に取り付けられており、後軸17とノック棒35との間の空間部にはノック棒のリターンスプリング36が配置されている。そして、ノック棒35の中央よりも若干後端部寄りには、筆記芯の補給孔を備えた当接部35aが形成されている。なお、ノック棒35の後端部には、消しゴム37が着脱可能に装着されると共に、消しゴム37を覆うノックカバー38がノック棒35の後端部の周面に着脱可能に取り付けられている。
【0092】
前記したノック棒35の当接部35aと、前記した芯ケース3の後端部とは所定の間隔をもって対峙した構成にされている。すなわち、芯ケース3は前記ノック棒35に機械的に連結されることなく、前記間隔をもって分離されている。
【0093】
この構成において、前記ノック棒35のノック操作を行うと、ノック棒35の前記当接部35aが芯ケース3の後端部に当たり、そのまま芯ケース3を前方に押し出すように作用する。これにより、前記したとおりチャック5が前進して筆記芯を先端パイプ9より繰り出させるように作用する。そして前記したノック操作の解除によりノック棒35は、リターンスプリング36の作用により後退して図2に示す状態に復帰する。
【0094】
前記した構成によると、ノック棒35に形成された当接部35aと、前記芯ケース3の後端部とが所定の間隔をもって対峙しているので、筆記によるクッション動作によりチャック5および芯ケース3が若干後退しても、芯ケース3の後端部が前記ノック棒35の当接部35aに衝突することはなく、前記回転駆動機構21による回転動作に障害を与えるのを防止することができる。
【0095】
ところで、前記した回転駆動機構21においては、すでに説明したとおり筆記圧を受けて回転子26が軸方向に往復移動(クッション動作)することにより、回転子26に形成された第1および第2カム面26a,26bが、第1および第2固定カム面27a,28aに交互に噛み合い、筆記芯は回転駆動を受ける。
【0096】
したがって、前記した構成による回転駆動機構21においては、筆記圧による前記回転子26の後退動作の途中において、また筆記圧の解除による前記回転子26の前進動作の途中において、回転子側の第1と第2のカム面26a,26bが、第1と第2の固定カム面27a,28aからそれぞれ離れて前記回転子26が回転方向にフリーとなる瞬間が発生する。
【0097】
この瞬間において、わずかな外力や振動等を受けて回転子26は回転動作の不良に陥る場合がある。すなわち回転子側のカム歯が半ピッチずれた固定側の次のカム歯に乗らない状態が生ずることが発明者らの試作および検証結果において確認されている。したがって、前記した現象が連続して続くことで、筆記芯が回転不能になることも予想される。
【0098】
図11〜図13は、その対策例を説明するものであり、これは図8〜図10に示したようにシリンダー部材30とトルクキャンセラー31との間に、粘着性グリスによるダンパー機能を構成させた後において、前記回転駆動機構21を組み立てる場合において実行される。
【0099】
すなわち図11は、シリンダー部材30に対して上カム形成部材27を嵌め込む回転駆動機構21の最終組み立て工程を示すものであり、上カム形成部材27内に収容されている前記回転子26の筒体部分に粘着性グリスGが周方向に沿って塗布される。この状態で前記シリンダー部材30の開口部に上カム形成部材27の端部を若干挿入することで、図12に示すように前記粘着性グリスGは、シリンダー部材30の開口部と上カム形成部材27の端部との間に形成された空間部に閉じ込められる。
【0100】
さらに、図13に示すようにシリンダー部材30の開口部内面に上カム形成部材27の端部周側面を嵌合して、回転駆動機構21を組み立てることで、前記粘着性グリスGは、上カム形成部材27と回転子26の筒体部との間に入り込む。これにより、回転子26には前記粘着性グリスGにより回転方向に粘性抵抗が付与される。
【0101】
前記した構成によると、前記回転子26は前記粘着性グリスGにより回転方向に僅かな粘性抵抗が与えられるので、前記したように回転子26が回転方向にフリーとなる瞬間において振動等を受けても、回転子26は粘着性グリスGにより保持される。また、回転子26の第1もしくは第2のカム面が、第1もしくは第2の固定カム面に噛み合うときには、その回転に影響を与えることはない。
【0102】
これにより、筆記動作に連動して確実に筆記芯の回転動作を実行させることができるシャープペンシルを提供することができる。なお、回転子26の回転方向に粘性抵抗を付与する前記粘着性グリスGは、前記したトルクキャンセラー31にダンパー機能を与えるために用いられる粘着性グリスと同様のものを用いることができる。
【符号の説明】
【0103】
1 口先部(クチプラ)
2 先軸(軸筒)
3 芯ケース
5 チャック
6 締め具
8 スライダー
13 グリップ部材
14 軸継手
17 後軸(軸筒)
18 外軸
21 回転駆動機構
22 中継パイプ
24 軸スプリング
26 回転子
26a 第1カム面
26b 第2カム面
27 上カム形成部材
27a 第1固定カム面
28 下カム形成部材
28a 第2固定カム面
30 シリンダー部材
30b 注入孔
30c 凹状部(空間部)
31 トルクキャンセラー
31a 凸状部材
31b 溝部
31c 面そぎ部(第2の空間部)
32 クッションスプリング
35 ノック棒(ノック部材)
36 リターンスプリング
37 消しゴム
38 ノックカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノック部材のノック操作に基づくチャックの前後動により筆記芯の解除と把持を行い、前記筆記芯を前方に繰り出すことができるように構成され、前記チャックが前記筆記芯を把持した状態で前後動および軸芯を中心にして回転可能となるように軸筒内に収容されると共に、前記筆記芯の筆記圧による前記チャックの前後動に基づいて、前記チャックに把持された筆記芯を回転駆動させる回転駆動機構を具備したシャープペンシルであって、
前記筆記芯の筆記圧による前記チャックの前後動に基づいて、軸方向に移動動作する可動部材と、前記可動部材の移動面に対峙した固定部材との間に粘着性媒体が介在され、前記粘着性媒体により前記筆記芯の後退および前進動作にダンパー機能を持たせるように構成され、
前記固定部材の側壁には、前記固定部材に対して前記可動部材が第1の相対位置になされた状態において、前記固定部材と前記可動部材との間に、前記注入孔に連通する空間部が形成されるようになされ、前記固定部材に対して前記可動部材が第2の相対位置になされた状態において、前記可動部材によって前記注入孔と空間部が遮断されて、前記空間部が略密閉状態になされ、前記固定部材に対して前記可動部材が第3の相対位置になされた状態において、略密閉された前記空間部の容積が縮小されるように構成したことを特徴とするシャープペンシル。
【請求項2】
前記粘着性媒体を注入することができる注入孔が形成されたことを特徴とする請求項1に記載されたシャープペンシル。
【請求項3】
前記固定部材は、前記可動部材を内側に配して当該可動部材を摺動可能に支持する筒状部材により構成されると共に、前記可動部材には外周面に沿って連続する溝部が形成され、前記固定部材に対して可動部材が前記第3の相対位置になされた状態において、前記空間部内に貯留された粘着性媒体が、前記溝部を介して前記可動部材と固定部材との間の隙間に浸入できるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載されたシャープペンシル。
【請求項4】
前記固定部材に対して可動部材が前記第3の相対位置になされた状態において、前記可動部材に形成された前記溝部が、前記固定部材と前記可動部材との間に形成された第2の空間部に連通していることを特徴とする請求項3に記載されたシャープペンシル。
【請求項5】
前記回転駆動機構には、前記チャックに連結された回転子が具備され、当該回転子は円環状に形成されてその軸方向の一端面および他端面に第1と第2のカム面がそれぞれ形成されると共に、前記第1と第2のカム面にそれぞれ対峙するように第1と第2の固定カム面が具備され、
前記筆記圧による前記チャックの後退動作によって、前記円環状回転子における第1のカム面が、前記第1の固定カム面に当接して噛み合わされ、前記筆記圧の解除により前記回転子における第2のカム面が、前記第2の固定カム面に当接して噛み合わされるように構成され、
前記回転子側の第1カム面が、前記第1の固定カム面に噛み合わされた状態において、前記回転子側の第2カム面と前記第2の固定カム面が、軸方向においてカムの一歯に対して位相がずれた関係に設定され、前記回転子側の第2カム面が、前記第2の固定カム面に噛み合わされた状態において、前記回転子側の第1カム面と前記第1の固定カム面が、軸方向においてカムの一歯に対して位相がずれた関係に設定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載されたシャープペンシル。
【請求項6】
前記回転駆動機構には、筆記圧が解除された状態において、前記回転子における第2のカム面を、前記第2の固定カム面に当接させて噛み合わせ状態に付勢するクッションスプリングが具備されていることを特徴とする請求項5に記載されたシャープペンシル。
【請求項7】
前記回転駆動機構における前記回転子の後端部と前記クッションスプリングとの間に、前記回転子の後端部との間においてすべりを発生させるトルクキャンセラーが介在され、前記回転子の回転運動が前記クッションスプリングに伝達されるのを阻止するように構成したことを特徴とする請求項6に記載されたシャープペンシル。
【請求項8】
前記トルクキャンセラーを、チャックと共に軸方向に移動動作する前記可動部材として利用し、前記トルクキャンセラーを前記ダンパー機能の一部を兼ねた構成にしたことを特徴とする請求項7に記載されたシャープペンシル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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