説明

シャー切断工具

【課題】シャー切断工具において、コーティング層の剥離を抑制して長寿命化を可能とする。
【解決手段】歯車型カッタ11,12の外周部に設けられる複数の刃部23,24の表面にクロムコーティング層31を設け、このクロムコーティング層31の表面に窒化クロムコーティング層32を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に対してせん断力を作用して加工する工作機械に用いられるシャー切断工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械に使用される工具としてのカッタは、摩耗、変形、欠けなどを防止して寿命を延長する目的で、表面にコーティングが施されている。カッタの表面にコーティングする方法として、窒化物、炭化物、または、これらの複合硬質セラミックコーティングが一般的である。従来のコーティングを施したカッタとしては、例えば、下記に示す特許文献に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−271852号公報
【特許文献2】特開平05−220531号公報
【特許文献3】特開平08−325706号公報
【特許文献4】特開平08−325707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来のチタン系コーティングを施したカッタは、カッタを構成する基材の表面にコーティング層を直接コーティングしている。また、コーティング層を形成する材料としては、窒化チタンが多く用いられている。しかし、被加工物に対してせん断力を作用させて加工するシャー切断工具の場合、加工時にこの大きなせん断力によりコーティング層が剥離してしまうという問題が発生する。
【0005】
本発明は上述した課題を解決するものであり、コーティング層の剥離を抑制して長寿命化を可能とするシャー切断工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本発明のシャー切断工具は、外周部に設けられる複数の刃部の表面にクロムコーティング層が設けられ、該クロムコーティング層の表面に窒化クロムコーティング層が設けられる、ことを特徴とするものである。
【0007】
従って、刃部の表面にクロムコーティング層を介して窒化クロムコーティング層が設けられることで、密着性が増加し、刃部の表面から窒化クロムコーティング層が剥離しにくくなり、また、最外表面が窒化クロムコーティング層とされることで、被加工物との凝着を抑制してコーティング層の剥離を抑制することとなり、長寿命化を可能とすることができる。
【0008】
本発明のシャー切断工具では、前記クロムコーティング層から前記窒化クロムコーティング層に向けて、窒素濃度が増加する第2窒化クロムコーティング層が設けられることを特徴としている。
【0009】
従って、第2窒化クロムコーティング層はその組成が連続的に変化することで、線膨張係数も連続的に変化することとなり、加工時に発生する熱応力に対する追従性が増加し、クロムコーティング層と窒化クロムコーティング層との剥離抵抗を増加させることができる。また、硬度も連続的に変化することで、荷重に対するコーティング層の変形抵抗が増加することにより耐曲げ性が増大し、窒化クロムコーティング層の割れに基づく剥離を防止することができる。
【0010】
本発明のシャー切断工具では、前記クロムコーティング層及び前記窒化クロムコーティング層は、物理蒸着法により形成されることを特徴としている。
【0011】
従って、容易にクロムコーティング層及び窒化クロムコーティング層を形成することができる。
【0012】
本発明のシャー切断工具では、前記クロムコーティング層及び前記窒化クロムコーティング層は、前記刃部における少なくともせん断力が作用する領域に設けられることを特徴としている。
【0013】
従って、コーティング層の製造コストを低減することができる。
【0014】
本発明のシャー切断工具では、前記刃部は、円盤の外周部に複数設けられることで歯車型カッタを構成することを特徴としている。
【0015】
従って、歯車型カッタとすることで、せん断加工を容易に行うことができると共に、長寿命化を可能とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシャー切断工具によれば、刃部の表面にクロムコーティング層を設け、このクロムコーティング層の表面に窒化クロムコーティング層を設けるので、刃部の表面から窒化クロムコーティング層が剥離しにくくなり、また、最外表面が窒化クロムコーティング層とされることで、被加工物との凝着を抑制してコーティング層の剥離を抑制することとなり、長寿命化を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係るシャー切断工具における刃部のコーティング層を表す概略図である。
【図2−1】図2−1は、実施例1のシャー切断工具における刃部を表す概略図である。
【図2−2】図2−2は、実施例1のシャー切断工具における刃部の変形例を表す概略図である。
【図3】図3は、実施例1のシャー切断工具を表す概略図である。
【図4】図4は、従来の工具における加工状態を表す概略図である。
【図5】図5は、実施例1のシャー切断工具における加工状態を表す概略図である。
【図6】図6は、本発明の実施例2に係るシャー切断工具における刃部のコーティング層を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るシャー切断工具の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の実施例1に係るシャー切断工具における刃部のコーティング層を表す概略図、図2−1は、実施例1のシャー切断工具における刃部を表す概略図、図2−2は、実施例1のシャー切断工具における刃部の変形例を表す概略図、図3は、実施例1のシャー切断工具を表す概略図、図4は、従来の工具における加工状態を表す概略図、図5は、実施例1のシャー切断工具における加工状態を表す概略図である。
【0020】
実施例1において、図3に示すように、シャー切断工具は、歯車型カッタ11,12であり、円盤21,22の外周部に複数の刃部23,24が周方向に均等間隔に設けられて構成されている。この場合、歯車型カッタ11,12は、炭素鋼により製造される。そして、歯車型カッタ11,12は、矢印方向に回転し、この間に被加工物(冷間圧延鋼板など)13を矢印方向に沿って搬送することで、この被加工物13に対して上下からせん断力を付与し、例えば、フィン加工を施すことができる。
【0021】
図1及び図2−1において、実施例1の歯車型カッタ11(12)は、各刃部23(24)を構成する基材30の表面にクロム(Cr)コーティング層31が設けられ、このクロムコーティング層31の表面に窒化クロム(CrN)コーティング層32が設けられている。この場合、クロムコーティング層31は、1〜2μmの厚さが好ましく、窒化クロムコーティング層32は、1〜10μmの厚さが好ましい。また、クロムコーティング層31及び窒化クロムコーティング層32は、物理蒸着法(PVD)により形成される。物理蒸着法として、イオンプレーティングやスパッタリングのいずれを用いてもよい。
【0022】
この場合、クロムコーティング層31及び窒化クロムコーティング層32は、図2−1に斜線で表すように、刃部23(24)の表面23a(24a)及び側面23b(24b)に形成することが望ましい。但し、図2−2に斜線で表すように、刃部23(24)における少なくともせん断力が作用する領域面、つまり、刃部23(24)におけるせん断角部25の周辺面25a,25b,25cだけに形成するようにしてもよい。
【0023】
ここで、従来の切削工具による切削加工と、実施例1のシャー切断工具(歯車型カッタ11,12)によるせん断加工との差異について説明する。
【0024】
図4に示すように、従来の切削工具001が左方に移動して、被加工物002の切削加工を行うとき、切削工具001は、すくい面と逃げ面にそれぞれコーティング層003,004が施されている。この場合、すくい面のーティング層003に対して、垂直に加工力Fが作用することとなり、この加工力F(せん断力は小さい)に対して剥離強度の高いコーティング層003が必要となる。
【0025】
一方、図5に示すように、実施例1の歯車型カッタ11,12では、回転する歯車型カッタ11,12の間に被加工物13を搬送することで、この被加工物13に対してせん断力が付与されて切断(破断)される。この場合、コーティング層31,32に対して、ほぼ水平方向のせん断力F1,F2が作用することとなり、従来の切削工具001のせん断力Fとは異なる大きなせん断力F1,F2となり、このせん断力F1,F2に対して剥離強度の高いコーティング層31,32が必要となる。
【0026】
即ち、切削工具としてのエンドミルやドリル等の一般工具と、シャー切断工具としての歯車型カッタ11,12とでは、刃先に加わるせん断力が大きくことなり、シャー切断工具の方が大きいものとなる。この点から、一般の工具に多く適用されている物理蒸着法によるチタン系窒化物等のコーティングをシャー切断工具に適用した場合、せん断力負荷によりコーティングが剥離を生じて長寿命化を図ることができない。
【0027】
このチタン系窒化物等のコーティングでは、被切断物、炭素鋼、ステンレス鋼との間で高面圧が作用した場合、工具と被加工物間の摩擦抵抗が大きいため、せん断力が大きくなるものと考えられる。この摩擦抵抗が極めて大きい場合には凝着が発生し、短時間でコーティングが剥離してしまう。
【0028】
本実施例の歯車型カッタ11(12)は、各刃部23(24)を構成する基材30の表面にクロムコーティング層31を設け、このクロムコーティング層31の表面に窒化クロムコーティング層32を設けている。窒化クロムは、耐凝着性に優れており、せん断力を低減させることが可能である。しかし、単層であれば密着力は十分でなく、剥離が生じる可能性がある。そのため、2層のコーティング層としている。
【0029】
このように実施例1のシャー切断工具にあっては、歯車型カッタ11,12の外周部に設けられる複数の刃部23,24の表面にクロムコーティング層31を設け、このクロムコーティング層31の表面に窒化クロムコーティング層32を設けている。
【0030】
従って、刃部23,24の表面にクロムコーティング層31を介して窒化クロムコーティング層32を設けることで、刃部23,24の表面から窒化クロムコーティング層32が剥離しにくくなり、また、最外表面が窒化クロムコーティング層とされることで、被加工物との凝着を抑制してコーティング層の剥離を抑制することとなり、長寿命化を可能とすることができる。
【0031】
また、実施例1のシャー切断工具では、クロムコーティング層31及び窒化クロムコーティング層32を物理蒸着法により形成している。容易にクロムコーティング層及び窒化クロムコーティング層を形成することができる。
【0032】
この場合、クロムコーティング層31及び窒化クロムコーティング層32を、刃部23,24における少なくともせん断力が作用する領域に設ければよく、コーティング層31,32の製造コストを低減することができる。
【実施例2】
【0033】
図6は、本発明の実施例2に係るシャー切断工具における刃部のコーティング層を表す概略図である。なお、上述した実施例と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0034】
実施例2のシャー切断工具としての歯車型カッタ11(12)は、図6に示すように、クロムコーティング層31から窒化クロムコーティング層32に向けて、窒素濃度が増加する第2窒化クロムコーティング層33を設けている。即ち、実施例2の歯車型カッタ11(12)は、各刃部23(24)を構成する基材30の表面にクロムコーティング層31が設けられ、このクロムコーティング層31の表面に窒素濃度が増加する第2窒化クロムコーティング層33が設けられ、この第2窒化クロムコーティング層33の表面に第1窒化クロムコーティング層32が設けられている。
【0035】
この第2窒化クロムコーティング層33は、クロムコーティング層31から窒化クロムコーティング層32に向けて、窒素の原子濃度(at%)が0から55%まで比例増加するものである。なお、第1窒化クロムコーティング層32は、実施例1の窒化クロムコーティング層32と同様であり、窒素の原子濃度(at%)が55%となっている。この場合、各コーティング層31,32,33は、物理蒸着法(PVD)により形成される。
【0036】
実施例2の歯車型カッタ11(12)は、物理蒸着法により3層のコーティング層31,32,33を設けている。この物理蒸着法は、特に、刃部23(24)に作用するせん断力が大きい場合には、本実施例のように、中間層として、クロムコーティング層31の近傍ではクロム金属が100%となり、第1窒化クロムコーティング層32の近傍まで窒素濃度が漸次上昇するような手法をとることで、第2窒化クロムコーティング層33を設けるとよい。
【0037】
この第2窒化クロムコーティング層33は、その組成が連続的に変化することにより、線膨張係数も連続的に変化する。そのため、加工時(被加工物の切断時)に発生する熱応力に対する追従性が増加して剥離に対して抵抗をもつようになる。更に、硬度も連続的に増加することにより、荷重に対する膜の変形抵抗が増し、コーティング層31,32,33に高い荷重が作用しても、上層となる第1窒化クロムコーティング層32に対する曲げ応力が低下し、この第1窒化クロムコーティング層32の割れを防止して剥離を防止できる。
【0038】
このように実施例2のシャー切断工具にあっては、歯車型カッタ11,12の外周部に設けられる複数の刃部23,24の表面にクロムコーティング層31を設け、このクロムコーティング層31の表面に窒素濃度が増加する第2窒化クロムコーティング層33を設け、この第2窒化クロムコーティング層33の表面に第1窒化クロムコーティング層32を設けている。
【0039】
従って、第2窒化クロムコーティング層33はその組成が連続的に変化することで、線膨張係数も連続的に変化することとなり、加工時に発生する熱応力に対する追従性が増加し、クロムコーティング層31と第1窒化クロムコーティング層32との剥離抵抗を増加させることができる。また、硬度も連続的に変化することで、荷重に対する第2窒化クロムコーティング層33の変形抵抗が増加することにより耐曲げ性が増大し、第1窒化クロムコーティング層32の割れに基づく剥離を防止することができる。
【0040】
なお、上述した各実施例のシャー切断工具では、歯車型カッタ11,12に適用したが、これに限定されるものではなく、シャー切断工具であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係るシャー切断工具は、刃部の表面にクロムコーティング層を設け、クロムコーティング層の表面に窒化クロムコーティング層を設けることで、コーティング層の剥離を抑制して長寿命化を可能とするものであり、いずれのカッタにも適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
11,12 歯車型カッタ(シャー切断工具)
13 被加工物
21,22 円盤
23,24 刃部
30 基材
31 クロムコーティング層
32 窒化クロムコーティング層、第1窒化クロムコーティング層
33 第2窒化クロムコーティング層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に設けられる複数の刃部の表面にクロムコーティング層が設けられ、
該クロムコーティング層の表面に窒化クロムコーティング層が設けられる、
ことを特徴とするシャー切断工具。
【請求項2】
前記クロムコーティング層から前記窒化クロムコーティング層に向けて、窒素濃度が増加する第2窒化クロムコーティング層が設けられることを特徴とする請求項1に記載のシャー切断工具。
【請求項3】
前記クロムコーティング層及び前記窒化クロムコーティング層は、物理蒸着法により形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のシャー切断工具。
【請求項4】
前記クロムコーティング層及び前記窒化クロムコーティング層は、前記刃部における少なくともせん断力が作用する領域に設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のシャー切断工具。
【請求項5】
前記刃部は、円盤の外周部に複数設けられることで歯車型カッタを構成することを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のシャー切断工具。


【図1】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−255386(P2011−255386A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129365(P2010−129365)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】