説明

シャー切断鋼板用突き合せ自動溶接装置

【課題】開先加工しないシャー切断エッジを直接突き合せた突き合せ部を、抜け落ちが生じるのを防止しつつ良好に溶接する。
【解決手段】突き合せ部13に沿って走行自在な溶接台車21に、突き合せ部にに検出エアを吹き付けてその背圧から突き合せ部の形状を検出する突合せ検出装置22と、小さい入熱量で突き合せ部13の表面ルート間隔を閉塞するように先行溶接する先行溶接装置23と、先行アーク溶接装置23の後方に配置されて大きい入熱量で突き合せ部の溶け込みを深くなるように後続溶接する後続溶接装置24とを具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャー切断された鋼板のエッジを、開先加工することなく突き合せ溶接する自動溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、シャー切断された鋼板のエッジを開先加工することなく突き合せ溶接する溶接方法や溶接装置を、たとえば特願2009−27953号や特願2009−225669で提案している。
【0003】
加工された開先部を突き合せ溶接する一般的な技術は、たとえば特許文献1に、開先の変化に対応するために、溶接技術データに基づいて初層溶接された開先部を、非接触式形状計測センサで検出し、この開先部の検出データにより、補正条件演算手段を使用して溶接データ記憶手段の溶接データを補正し、溶接トーチ制御装置を操作して2層目以降の多層盛り溶接するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−155543
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シャー切断エッジは、多様な断面形状を呈しており、シャー切断鋼板を開先加工しないで突き合せた場合、鋼板のエッジ表面同士が当接して開先空間が発生しない突き合せ部や、鋼板のエッジ底面同士が当接して開先空間が奥部まで伸びる突き合せ部、エッジが当接せずに隙間が貫通する突き合せ部などが不規則に生じる。鋼板を突き合せ溶接する場合、突合せ面に十分な溶け込み深さを得るために入熱量が大きいサブマージドアーク溶接が用いられている。しかしサブマージドアーク溶接は入熱量が大きいため、エッジが開放されていると、左右のエッジ端面に熱量が均等に伝わらず、片方あるいは両方のエッジ端部にのみ入熱されて溶融されてしまい、肉盛りされずに抜け落ちが生じるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決して、開先加工しないシャー切断エッジを直接突き合せて溶接した時に、抜け落ちが生じるのを防止しつつ良好に溶接することができるシャー切断鋼板用突き合せ自動溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、シャー切断された鋼板のエッジを突き合せて溶接する自動溶接装置であって、
溶接線に沿って走行自在な台車に、シャー切断エッジの突き合せ部を検出する突合せ検出装置と、当該突合せ検出装置の後方で突き合せ部を先行溶接する先行アーク溶接装置と、当該先行溶接機の所定距離後方に配置されて前記突き合せ部を後続溶接する後続アーク溶接装置と、前記突合せ検出装置により検出された検出信号に基づいて、先行アーク溶接装置および後続アーク溶接装置の溶接条件を制御する溶接条件制御装置とを具備し、
突合せ検出装置は、エアノズルから突き合せ部の上面に検出エアを吹き付け、検出エアの背圧を検出して当該突き合せ部の形状を検出するように構成され、
先行アーク溶接装置は、小さい入熱量で突き合せ部の間隙を閉塞するようにその表面を先行溶接するアーク溶接機であり、
後続アーク溶接装置は、先行アーク溶接装置より大きい入熱量で、突き合せ部の溶け込みを深くなるように少なくとも表面を後続溶接するサブマージドアーク溶接機であることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成において、
突合せ検出装置は、溶接線に平行な軸心周りに揺動されるエアノズルと、当該エアノズルの揺動角を検出する揺動角検出部と、前記エアノズルから噴射された検出エアの背圧を検出する背圧検出部と、当該背圧検出部と前記揺動角検出部の検出値から、突き合せ部のルート間隔、溶接狙い位置およびルート深さを求める突き合せ部形状判断部とを具備したことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の構成において、
突合せ検出装置は、突き合せ部の長さ方向に略直角な幅方向に互いに平行に配置されて検出エアをそれぞれ噴射する複数のエアノズルと、当該エアノズルから噴射された検出エアの背圧をそれぞれ検出する背圧検出部と、当該背圧検出部により検出された背圧検出値に基づき、各エアノズルから突き合せ部までの距離を求め、突き合せ部のルート位置と、溶接狙い位置、ルート深さを求める突合せ部形状判断部とを具備したことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項2または3のいずれかに記載の構成において、
溶接条件制御装置は、突合せ検出装置により突き合せ部のルート間隔が大きいと判断した時に、先行アーク溶接装置の入熱量が大きくなるように、溶接電流と溶接電圧と溶接速度と溶接速度とを制御し、突き合せ部のルート間隔が小さいと判断した時に、先行アーク溶接装置の入熱量が小さくなるように、溶接電流と溶接電圧と溶接速度とを制御し、さらに突合せ検出装置により突き合せ部のルート間隔が所定値以下の時に先行アーク溶接装置による溶接を停止するように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の構成によれば、突き合せ検出装置により検出された突き合せ部の形状に対応して、先行アーク溶接装置により小さい入熱量で先行溶接して突き合せ部の隙間を閉塞させた後、後続アーク溶接装置により大きい入熱量で後続溶接して、大きい溶け込み深さの接合を行うので、開先加工しないシャー切断エッジを直接突き合せて溶接した場合でも、溶接熱による抜け落ちが生じるのを防止しつつ、十分な溶け込み深さで良好に接合することができる。また突き合せ検出装置は、検出エアを吹き付けてその背圧により形状を検出するので、簡易な構造で、低コストで提供することができ、また検出エアにより突き合せ部を溶接前に清掃することができて良好な溶接が可能となる。
【0012】
請求項2記載の構成によれば、揺動されるエアノズルを使用して、その揺動角と検出エアの背圧から突き合せ部の形状を容易に検出することができ、突き合せ部の形状から、ルート間隔や溶接狙い位置、ルート深さを求めることで、適正位置にアークを発生させて、良好な接合が可能となる。
【0013】
請求項3記載の構成によれば、複数本幅方向に並設された複数のエアノズルを使用し、エアノズルからそれぞれ噴出される検出エアの背圧から突き合せ部の形状を容易に検出することができ、突き合せ部のルート位置やルート間隔、ルート深さを求めることで、適正位置にアークを発生させて、良好な接合が可能となる。
【0014】
請求項4記載の構成によれば、突き合せ検出装置により検出された突き合せ部のルート間隔やルート位置、ルート深さから、溶接ワイヤのアーク発生点を適正な位置に制御することができ、良好な溶接が可能となる。またルート間隔が小さいか、無い場合には、先行アーク溶接装置を停止して、後続アーク溶接装置でのみ溶接することで、抜け落ちのない良好な接合が可能となり、効率よく溶接作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る突き合せ溶接装置の実施例を示し、全体構成を示す概略斜視図である。
【図2】シャー切断エッジの突き合せ部の断面形状を示す説明図である。
【図3】(a)〜(c)はシャー切断エッジの突き合せ部を説明する断面図で、(a)は表面のルート間隔が形成され、かつ当接部を有する開先形状部を示し、(b)は表面のルート間隔が形成され、かつ裏面まで貫通している連通形状部を示し、(c)は端面全体が当接されて表面のルート間隔がほとんどない閉塞形状部を示す。
【図4】突き合せ検出装置を示す構成図である。
【図5】突き合せ検出装置の動作を説明する説明図である。
【図6】先行溶接装置および後続溶接装置を示すブロック図である。
【図7】溶接条件制御部の動作を示すフロー図である。
【図8】(a)〜(c)は突き合せ溶接装置における溶接部を示す横断面図で、(a)は先行溶接部を示し、(b)は後続溶接部を示し、(c)は裏面溶接部を示す。
【図9】突き合せ検出装置の他の実施例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を図1〜図7に基づいて説明する。
(全体構造)
図1に示すように、作業定盤14上にガイド材(図示せず)を介して、表面が上面となるように2枚の鋼板11,12を、そのシャー切断エッジを互いに突き合せて固定し、一方の鋼板11上に溶接台車(台車)21が配置され、この溶接台車21は、走行駆動装置27により回転駆動される走行車輪(図示せず)により、ガイド装置26を介して突き合せ部13の長さ方向(溶接線)に沿って走行される。この溶接台車21の走行速度=溶接速度は、走行制御装置28により走行駆動装置28を制御して行われる。
【0017】
前記ガイド装置26は、図示しないが、鋼板11または12上面に溶接線に平行にガイドレールを敷設し、溶接台車21に設けられた倣いローラにより鋼板の突合せ部13に沿って移動させるように構成されている。
【0018】
前記溶接台車21には、前部から後方に順に、図4に示すように、シャー切断エッジの突き合せ部13を検出する突合せ検出装置22と、当該突合せ検出装置22の後方で突き合せ部13に図8(a)に示す先行溶接部W1を形成する先行溶接装置(先行アーク溶接装置)23と、当該先行溶接装置23の所定距離後方に配置されて前記突き合せ部13の先行溶接部W1を含んで、図8(b)に示す後続溶接部W2を形成する後続溶接装置(後続アーク溶接装置)24と、前記突合せ検出装置22により検出された検出信号に基づいて、先行溶接装置23および後続溶接装置24の溶接条件を制御する溶接条件制御部25が搭載されている。また鋼板11,12を反転して、前記後続溶接装置24により突き合せ部13に図8(c)に示す裏面溶接部W3を形成する。
【0019】
(突き合せ部)
図2に示すように、大型の圧延鋼板11,12は、そのミルエッジがシャー切断機により切断されて不規則なシャー切断エッジを呈している。ここで使用される鋼板11,12は、その厚みt=6mm〜20mmである。そして表面を上面として2枚の鋼板11,12のシャー切断エッジを突き合せた場合、この突き合せ部13の表面ルート幅(表面の開口部幅):Ga=0〜10mm、中間部ルート間隔(中間部の開口部幅):Gb=0〜10mm、裏面ルート間隔(裏面の開口部幅):Gb=0〜10mmである。また表面垂れ量:σa=0〜−10mm、裏面垂れ量:σb=0〜5mmである。ここで表面とは、切断時にシャー切断刃が最初に当たった面をいう。突き合せ部13の基本的な断面形状は、図3(a)に示すように、表面ルート間隔Gaがたとえば1mm以上で、かつ中間ルート間隔Gbおよび/または裏面ルート間隔Gcが当接している一般的な開先形状部Raと、図3(b)に示すように、表面、中間、裏面ルート間隔Ga,Gb,Gcがそれぞれ1mm以上で貫通している連通形状部Rb、(c)は表面のルート間隔Gaが1mm未満の閉塞形状部Rcとがある。なお、表面ルート間隔Gaの1mm以上を開放、1mm未満を閉鎖状態としたが、この数値は、溶接の溶け落ちに関係する値であるため、溶接状態に応じて任意に設定できるものである。
【0020】
(突合せ検出装置)
図4,図5に示すように、突合せ検出装置22は、ノズル揺動装置32により溶接線(溶接予定線ともいう)に平行な揺動軸心O周りに往復揺動して、突き合せ部13を含む検出範囲Wに所定圧の検出エアを吹き付け幅方向に走査する1本のエアノズル31と、当該エアノズル31の揺動角θを検出する揺動角検出器32aと、エアノズル31のエア供給管33に接続された分岐管34を介して検出エアの背圧を検出する背圧検出部35と、この背圧検出部35で検出された背圧と揺動角検出器32で検出され揺動角θから突き合せ部13の表面を求める突き合せ部形状判断部36とを具備している。
【0021】
検出エアは、コンプレッサ37から送られた高圧エアがエアアキュムレータ38に蓄圧され、定圧のエアが、エアアキュムレータ38から定圧制御弁39が介在されたエア供給管33を介してエアノズル31に安定して供給される。
【0022】
背圧検出部35では、背圧を検出して電気信号に変換し、突き合せ部形状判断部36に出力する。
突き合せ部形状判断部36では、検出エアの背圧が鋼板11,12の表面に当たる最大背圧Pmaxと、突き合せ部13を吹き抜ける最小背圧Pminとの間にあり、最大背圧Pmaxから急激に低下または最大背圧Pmaxまで急激に上昇する2つの位置を、表面ルート間隔Gaの両端と判断する。またこの表面ルート間隔Gaの中心を溶接狙い位置(溶接線)WCとする。さらに最大背圧Pmaxと、最も低い背圧の検出値Pminとの差に対して予め試験により求められたデータに基づいて、検出背圧をルート深さDとして換算する。ところで、揺動角θが大きいと、エアノズル31から突き合せ部13の表面までの距離が長くなるとともに、衝突した時の検出エアの抵抗が小さく背圧が低くなる傾向にあるため、揺動角θに基づいて補正処理しているが、その補正値が形状に影響を与えないほど小さい場合には、背圧検出部35で検出された背圧を補正せず、揺動角θを検出位置のみを示す指標として使用してもよい。
【0023】
このように、突き合せ部形状判断部36では、背圧により求められたエアノズル31と突き合せ部13表面までの距離と、エアノズル31の揺動角θから突き合せ部13の形状をプロファイルし、突き合せ部13における表面ルート間隔Gaと溶接狙い位置(ルート位置)WCとルート深さDを求める。
【0024】
(先行溶接装置)
図6に示すように、先行溶接装置23には、小さい入熱量で突き合せ部13の間隙を閉塞するように突き合せ部13を溶接するシールドガスアーク溶接装置が採用されているが、小さい入熱量のノンシールドガスアーク溶接装置や被覆アーク溶接装置であっても差し支えない。
【0025】
先行溶接装置23は、溶接ワイヤ40を出退自在に支持する溶接ヘッド41に、溶接ワイヤ40を溶接条件に対応して所定速度で送給するワイヤ送給装置42と、溶接ヘッド41に溶接用電力を供給する溶接電源43と、溶接ヘッド41を介してアークおよび溶融金属の周辺にシールドガスを供給するシールドガス供給装置44とが設けられている。
【0026】
溶接台車21には、溶接ヘッド41をZ軸に沿う溶接線に対して直交するX軸方向(幅方向)にシフトして、溶接ワイヤ40先端のアーク発火点を、溶接狙い位置(ルート位置)WCに制御するX軸方向調整装置45と、ルート深さDに対応して、溶接ヘッド41をY軸方向(昇降方向)に昇降して、溶接ワイヤ40先端のアーク発火点とワークであるシャー切断エッジ)との距離を適正に調整して、アークを安定して形成するY軸方向調整装置46とが設けられている。X軸方向調整装置45とY軸方向調整装置46は、溶接条件制御部25から制御信号によりそれぞれ制御される。また、これらX軸方向調整装置45とY軸方向調整装置46には、たとえば調整用電動モータにより回転駆動される送りねじ軸と雌ねじ部材とを使用した直線駆動機構などが採用される。
【0027】
(後続溶接装置)
後続溶接装置24は、先行溶接装置より大きい入熱量で、突き合せ部13の溶け込みを深くできるように、フラックス中で表面の後続溶接と裏面溶接とを行うサブマージドアーク溶接機である。
【0028】
溶接ワイヤ50を出退自在に支持する溶接ヘッド51に、ワイヤ送給装置52と、溶接ヘッド51を介して溶接ワイヤ50に溶接電力を供給する溶接電源53と、溶接ヘッド51の前方にフラックスを供給し、溶接ヘッド51の後方でフラックスを回収するフラックス供給・回収装置54とが設けられている。溶接台車には、溶接ヘッド41をX軸方向にシフトするX軸方向調整装置55と、溶接ヘッド41をY軸方向にシフトするY軸方向調整装置56とが設けられている。
【0029】
先行溶接装置23と後続溶接装置24のX軸方向調整装置45,55とY軸方向調整装置46,56には、たとえば調整用電動モータにより回転駆動される送りねじ軸と雌ねじ部材を使用した直線駆動機構などが採用される。
【0030】
(溶接条件制御部)
溶接条件制御部25は、突き合せ部形状判断部36から入力された突き合せ部13における溶接狙い位置WCと表面ルート間隔Gaとルート深さDから、先行、後続溶接装置23,24のX軸方向調整装置45,55とY軸方向調整装置46,56にそれぞれ操作信号をして、溶接ワイヤ40,50の先端位置を制御するとともに、前記各データに基づいて溶接電流と溶接電圧と溶接速度と求め、予め先行溶接条件設定器47と後続溶接条件設定器57からそれぞれ入力された基本的な溶接データをそれぞれ補正して、溶接電源43,53に制御信号を出力し、また溶接速度に対応して走行制御装置28に操作信号を出力し、溶接台車21の走行速度、すなわち溶接速度を制御するように構成される。
【0031】
すなわち、図7に示すように、突き合せ部形状判断部36で突き合せ部13の形状が検出され、表面ルート間隔Gaと溶接狙い位置WCとルート深さDの各データが溶接条件制御部25に入力される(STEP.1)と、表面ルート間隔Gaが所定値(たとえば1mm)以上あるかどうかが判断され(STEP.2)、表面ルート間隔Gaが所定値以上ある場合には、先行溶接装置23の溶接電圧、溶接電流、溶接速度が演算される(STEP.3)。次いで後続溶接装置24の溶接電圧、溶接電流、溶接速度を演算する(STEP.4)。ここで、この溶接速度が先行溶接装置23の溶接速度と同一になるように演算する。そしてたとえば先行溶接装置23の溶接速度が後続溶接装置24の溶接速度の範囲に属しない場合(STEP.5)には、再度演算を行い(STEP.3、4)、先行溶接装置23と後続溶接装置24の溶接速度とを同一として、これらのデータを先行溶接装置23と後続溶接装置24の溶接電源43,53と走行制御装置28とに制御信号を出力する。またワイヤ送給装置42,52とX軸方向調整装置45,55とY軸方向調整装置46,56とに制御信号を出力する。
【0032】
突合せ部形状判断部36により突き合せ部13の表面ルート間隔Gaが所定値(1mm)以上で、開先形状部Raまたは連通形状部Rbと判断された場合において、ルート間隔Gaが大きい1.5mm以上の時には、先行アーク溶接装置23の入熱量が大きくなるように、溶接電流と溶接電圧と溶接速度と溶接速度とを制御し、突き合せ部13のルート間隔Gaが小さい1.5mm未満の時には、先行アーク溶接装置23の入熱量が小さくなるように、溶接電流と溶接電圧と溶接速度とを制御する。さらに、表面ルート間隔Gaが所定値(1mm)以下である閉鎖形状部Rcの場合には、先行溶接装置23を停止し(STEP.6)、後続溶接装置24の溶接電圧、溶接電流、溶接速度のみを演算して(STEP.4)、後続溶接装置24の溶接電源53と走行制御装置28に制御信号を出力する。またワイヤ送給装置42,52とX軸方向調整装置55とY軸方向調整装置56とに制御信号を出力する。
【0033】
上記構成の溶接装置の溶接作業方法を説明する。
i.作業定盤14上にガイド材を介して、表面が上面となるように2枚の鋼板11,12を配置し、シャー切断エッジを突き合せて鋼板11,12を固定する。
【0034】
ii.鋼板11上に溶接台車21をセッティングし、ガイド装置26により溶接台車21を突き合せ部13に沿って走行させるとともに、突き合せ検出装置22のエアノズル31から検出エアを噴射させて揺動させ、背圧検出部35で検出したエアノズル31の背圧と、揺動角検出器32aにより検出されたエアノズル31の揺動角θとにより、突き合せ部形状判断部36で突き合せ部13の形状をプロファイルし、表面ルート間隔Gaと溶接狙い位置WCとルート深さDとを求める。
【0035】
iii.溶接条件制御部25では、突き合せ部形状判断部36からの信号と、先行溶接条件設定器47および後続溶接条件設定器57の入力値に基づいて、先行溶接装置23と後続溶接装置24の溶接電圧および溶接電流を制御するとともに、走行制御装置28を操作して溶接台車21の走行速度、すなわち溶接速度を制御する。さらに、溶接狙い位置WCに対応して、X軸方向調整装置45を操作し溶接ヘッド41,51の溶接ワイヤ40,50の位置を幅方向に調整すると同時に、ルート深さDに対応して、Y軸方向調整装置46,56を操作し溶接ヘッド41,51の溶接ワイヤ40,50の高さを調整する。またワイヤ送給装置42,52およびシールドガス供給装置44ならびにフラックス供給・回収装置54をそれぞれ操作する。
【0036】
iv.突き合せ部形状判断部36で、突き合せ部13で隙間が極めて小さく、表面ルート間隔Gaが1mm以下の閉鎖形状部Rcと判断された場合、先行溶接装置23に停止指令を出力して、溶接を停止させる。
【0037】
v.鋼板11,12において、図8(a)に示す表面の先行溶接部W1と、図8(b)に示す表面の後続溶接部W2が形成される(または後続溶接部W2のみ)。これが終了すると、鋼板11,12を反転して裏面溶接を行い、図8(c)に示す裏面溶接部W3を形成する。この裏面溶接は、先の溶接装置の後続溶接装置24のみを使用してもよいし、別の溶接台車に搭載された単独のサプマージドアーク溶接装置を使用してもよい。
【0038】
ここで溶接条件を例示する。
1)鋼板11,12の板厚t=6mm以上、8mm以下の場合、先行溶接と後続溶接を単独で行う時、
先行溶接装置23の溶接電流は270A、溶接電圧は29V、溶接速度は50cm/minであり、それぞれ±15%の範囲で調整する。またこの突き合せ部13に対する溶け込み深さは、表面から3mm以内、肉盛りの高さは表面から2mm以下である。
【0039】
後続溶接装置23の溶接電流は550A、溶接電圧は32V、溶接速度は80cm/minであり、それぞれ±15%の範囲で調整する。また突き合せ部13に対する肉盛りの高さは表面から2mm以下である。
【0040】
同一の溶接台車21で先行溶接と後続溶接を行う場合には、溶接速度を同一に設定する必要があるため、溶接電流と溶接電圧とを調整して、溶接速度を65cm/min±30cm/minとする。
【0041】
2)鋼板11,12の板厚t=8mmを越え以上、12mm以下の場合、先行溶接と後続溶接を単独で行う時、
先行溶接装置23の溶接電流は280A、溶接電圧は32V、溶接速度は45cm/minであり、それぞれ±15%の範囲で調整する。またこの突き合せ部13に対する溶け込み深さは、表面から4mm以内、肉盛りの高さは表面から2mm以下である。
【0042】
後続溶接装置24の溶接電流は650A、溶接電圧は35V、溶接速度は65cm/minであり、それぞれ±15%の範囲で調整する。また突き合せ部13に対する肉盛りの高さは表面から3mm以下である。
【0043】
同一の溶接台車21で先行溶接と後続溶接を行う場合には、溶接速度を同一に設定する必要があるため、溶接電流と溶接電圧とを調整して、溶接速度を55cm/min±25cm/minとする。
【0044】
3)鋼板11,12の板厚t=12mmを越え、20mm以下の場合、先行溶接と後続溶接を単独で行う時、
先行溶接装置23の溶接電流は330A、溶接電圧は31V、溶接速度は40cm/minであり、それぞれ±15%の範囲で調整する。またこの突き合せ部13に対する溶け込み深さは、表面から5mm以内、肉盛りの高さは表面から3mm以下である。
【0045】
後続溶接装置24の溶接電流は650A、溶接電圧は35V、溶接速度は40cm/minであり、それぞれ±15%の範囲で調整している。また突き合せ部13に対する肉盛りの高さは表面から4mm以下である。
【0046】
同一の溶接台車21で先行溶接と後続溶接を行う場合には、溶接速度を同一に設定する必要があるため、溶接電流と溶接電圧とを調整して、溶接速度を40cm/min±6cm/minとする。
【0047】
(実施例の効果)
上記実施例によれば、突き合せ検出装置22により検出された突き合せ部13の形状から求められたルート間隔Ga、溶接狙い位置WC、ルート深さDに対応して、先行溶接装置23により小さい入熱量で先行溶接を行い、突き合せ部13で表面の隙間(ルート間隔Ga)を閉塞させた後、後続溶接装置24により大きい入熱量で大きい溶け込み深さの後続溶接を行うので、開先加工しないで不規則なシャー切断エッジを直接突き合せて溶接した場合でも、溶接熱による抜け落ちが生じるのを防止しつつ、十分な溶け込み深さで良好に接合することができる。
【0048】
また突き合せ検出装置22に、検出エアを吹き付けてその背圧により突き合せ部の形状を検出するので、簡易な構造で、低コストで提供することができるとともに、検出エアにより突き合せ部13を溶接前に清掃することができ、精度良く突き合せ部13の形状を検出できるとともに、良好な溶接が可能となる。
【0049】
さらに突き合せ検出装置22では、幅方向に揺動されるエアノズル31を使用して、その揺動角θと検出エアの背圧から突き合せ部13の形状を容易に検出することができ、突き合せ部13の形状から溶接ヘッド41を適正位置に制御してアークを安定して発生させ、安定した溶接が可能となる。
【0050】
また突き合せ検出装置22により、突き合せ部13のルート間隔Gaや溶接狙い位置WC、ルート深さDから、溶接ワイヤ40,50先端のアーク発生点を適正な位置に配置することができて、高精度な溶接が可能となる。さらにルート間隔Gaが小さい場合には、先行溶接装置23を停止し、後続溶接装置24でのみ溶接することで、抜け落ちのない良好な接合が可能となり、効率よく溶接作業を行うことができる。
【0051】
(突合せ検出装置の他の実施例)
図9は、突合せ検出装置の他の実施例で、同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0052】
この突合せ検出装置61は、複数のエアノズル62を突き合せ部13の長さ方向(溶接線方向)に略直角な幅方向に検出エアをそれぞれ噴射する複数のエアノズル62を互いに平行に配置し、マニホールド65から均一な検出エアを各エアノズル62にそれぞれ供給し、各エアノズル62から噴射される検出エアの背圧をそれぞれ背圧検出部63で検出し、突き合せ部形状判断部64で各エアノズル62と突き合せ部13表面の距離を求めて突き合せ部13の形状をプロファイルし、溶接狙い位置(ルート位置)WCと表面ルート間隔Gaとルート深さDとを判断している。
【0053】
上記他の実施例によれは、突合せ検出装置61に、複数本幅方向に並設された複数のエアノズル62を使用して、それぞれのエアノズル62の背圧から突き合せ部13の形状をプロファイルし、突き合せ部13のルート間隔Gaや溶接狙い位置、ルート深さDを求めることで、溶接ワイヤ40,50先端のアーク発生点を適正な位置に制御でき、安定してアークを発生させて良好な溶接が可能となる。
【符号の説明】
【0054】
Ga 表面ルート間隔
t 板厚
θ 揺動角
W 検出幅
W1 先行溶接部
W2 後続溶接部
W3 裏面溶接部
WC 溶接狙い位置(ルート位置)
Ra 開先形状部
Rb 連通形状部
Rc 閉塞形状部
11,12 鋼板
13 突き合せ部
21 溶接台車
22 突き合せ検出装置
23 先行溶接装置(先行アーク溶接装置)
24 後続溶接装置(後続アーク溶接装置)
25 溶接条件制御部
26 ガイド装置
27 走行駆動装置
28 走行制御装置
31 エアノズル
32 ノズル揺動装置
32a 揺動角検出器
35 背圧検出部
36 突き合せ部形状判断部
40 溶接ワイヤ
41 溶接ヘッド
42 ワイヤ送給装置
43 溶接電源
44 シールドガス供給装置
45 X軸方向調整装置
46 Y軸方向調整装置
47 先行溶接条件設定器
50 溶接ワイヤ
51 溶接ヘッド
52 ワイヤ送給装置
53 溶接電源
54 フラックス供給・回収装置
55 X軸方向調整装置
56 Y軸方向調整装置
57 後続溶接条件設定器
61 突き合せ検出装置
62 エアノズル
63 背圧検出部
64 突き合せ部形状判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャー切断された鋼板のエッジを突き合せて溶接する自動溶接装置であって、
溶接線に沿って走行自在な台車に、シャー切断エッジの突き合せ部を検出する突合せ検出装置と、当該突合せ検出装置の後方で突き合せ部を先行溶接する先行アーク溶接装置と、当該先行溶接機の所定距離後方に配置されて前記突き合せ部を後続溶接する後続アーク溶接装置と、前記突合せ検出装置により検出された検出信号に基づいて、先行アーク溶接装置および後続アーク溶接装置の溶接条件を制御する溶接条件制御装置とを具備し、
突合せ検出装置は、エアノズルから突き合せ部の上面に検出エアを吹き付け、検出エアの背圧を検出して当該突き合せ部の形状を検出するように構成され、
先行アーク溶接装置は、小さい入熱量で突き合せ部の間隙を閉塞するようにその表面を先行溶接するアーク溶接機であり、
後続アーク溶接装置は、先行アーク溶接装置より大きい入熱量で、突き合せ部の溶け込みを深くなるように少なくとも表面を後続溶接するサブマージドアーク溶接機である
ことを特徴とするシャー切断鋼板用突き合せ自動溶接装置。
【請求項2】
突合せ検出装置は、溶接線に平行な軸心周りに揺動されるエアノズルと、当該エアノズルの揺動角を検出する揺動角検出部と、前記エアノズルから噴射された検出エアの背圧を検出する背圧検出部と、当該背圧検出部と前記揺動角検出部の検出値から、突き合せ部のルート間隔、溶接狙い位置およびルート深さを求める突き合せ部形状判断部とを具備した
ことを特徴とする請求項1記載のシャー切断鋼板用突き合せ自動溶接装置。
【請求項3】
突合せ検出装置は、突き合せ部の長さ方向に略直角な幅方向に互いに平行に配置されて検出エアをそれぞれ噴射する複数のエアノズルと、当該エアノズルから噴射された検出エアの背圧をそれぞれ検出する背圧検出部と、当該背圧検出部により検出された背圧検出値に基づき、各エアノズルから突き合せ部までの距離を求め、突き合せ部のルート位置、溶接狙い位置およびルート深さを求める突合せ部形状判断部とを具備した
ことを特徴とする請求項1記載のシャー切断鋼板用突き合せ自動溶接装置。
【請求項4】
溶接条件制御装置は、突合せ検出装置により突き合せ部のルート間隔が大きいと判断した時に、先行アーク溶接装置の入熱量が大きくなるように、溶接電流と溶接電圧と溶接速度と溶接速度とを制御し、突き合せ部のルート間隔が小さいと判断した時に、先行アーク溶接装置の入熱量が小さくなるように、溶接電流と溶接電圧と溶接速度とを制御し、さらに突合せ検出装置により突き合せ部のルート間隔が所定値以下の時に先行アーク溶接装置による溶接を停止するように構成された
ことを特徴とする請求項2または3に記載のシャー切断鋼板用突き合せ自動溶接装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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