説明

シュラウドセグメントの製造方法及びシュラウドセグメント

【課題】ガスタービンエンジンに用いられ、フック部における強度が高いシュラウドセグメントを容易に製造可能とする。
【解決手段】円筒形の繊維織物10の周面を押圧してシュラウドセグメント形状に成形する成形工程と、シュラウドセグメント形状に成形された繊維織物にマトリックスを含浸形成するマトリックス形成工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュラウドセグメントの製造方法及びシュラウドセグメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガスタービンエンジンのタービンにおける高温化に対応すべく、タービン動翼周りに設置されるシュラウドをCMC(セラミックス基複合材料)等の繊維強化複合材料で形成することが提案されている。
この繊維強化複合材料によってシュラウドを形成することにより、耐熱性が高くかつ軽量のシュラウドとすることができる。
【0003】
ところで、特許文献1には、シュラウドを周方向に分割された複数のシュラウドセグメントから構成する方法が提案されている。このシュラウドセグメントは、ガスタービンケーシングに固定されたサポート部品に係止するフック部を備えている。
そして、このようなシュラウドセグメントを上述の繊維強化複合材料に製造する場合には、シート状の繊維織物を積層してシュラウドセグメント形状に成形し、この成形されたシュラウドセグメント形状の繊維織物に対してマトリックスを含浸成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−36443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の繊維強化複合材料からなるシュラウドセグメントは、シート状の繊維織物を積層して製造されることから、その側端において繊維同士が積層方向に連続していない。このため、シュラウドの強度をさらに向上させるためには、複数のシート状の繊維織物を積層方向に縫い合わすスティッチ等の煩雑な作業を行う必要があり、工程数の増大を招き、コストが増加する原因となる。
特に、上述のフック部を備えるシュラウドセグメントにおいては、フック部において十分に高い強度を確保する必要がある。このため、煩雑な作業を行うことなく、容易に強度の高いシュラウドセグメントを製造可能な方法が求められている。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、ガスタービンエンジンに用いられ、フック部における強度が高いシュラウドセグメントを容易に製造可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0008】
第1の発明は、ガスタービンエンジンにおいて、フック部が係止することにより動翼を囲むケーシングと前記動翼との間に配置される繊維強化複合材料からなるシュラウドセグメントの製造方法であって、円筒形の繊維織物の周面を押圧してシュラウドセグメント形状に成形する成形工程と、シュラウドセグメント形状に成形された前記繊維織物にマトリックスを含浸形成するマトリックス形成工程とを有するという構成を採用する。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、前記成形工程にて前記繊維織物の周面を押圧する際に、前記フック部に相当する箇所を除く箇所に、前記繊維織物の過変形を許容する隙間を設けるという構成を採用する。
【0010】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、前記成形工程にて、円筒形の繊維織物の内部に補強部材を配置して収容し、当該補強部材を含めて前記繊維織物を成形するという構成を採用する。
【0011】
第4の発明は、ガスタービンエンジンにおいて、フック部が係止することにより動翼を囲むケーシングと前記動翼との間に配置される繊維強化複合材料からなるシュラウドセグメントであって、シュラウドセグメントの周方向に切れることなく連続する複数の連続繊維と、当該連続繊維に付着成形されるマトリックスとを有する前記繊維強化複合材料からなるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、円筒形の繊維織物の周面が押圧されてシュラウドセグメント形状とされ、このシュラウドセグメント形状に成形された円筒形の繊維織物に対してマトリックスが形成される。
このため、周方向に切れることなく連続する複数の連続繊維を含み、スティッチを行うことなく強度の高いシュラウドセグメントを製造することができる。
したがって、本発明によれば、ガスタービンエンジンに用いられ、フック部における強度が高いシュラウドセグメントを容易に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態におけるシュラウドセグメントを示す図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるシュラウドセグメントの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態におけるシュラウドセグメントの製造方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係るシュラウドセグメントの製造方法及びシュラウドセグメントの一実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
図1は、本実施形態におけるシュラウドセグメントを示す図であり、(a)がガスタービンエンジンのタービンに設置された様子を示す断面図であり、(b)がシュラウドセグメントの斜視図である。
【0016】
本実施形態におけるシュラウドセグメント1は、タービン動翼周りに配置され、タービン動翼周りにおける隙間を調節するものである。なお、本実施形態のシュラウドセグメント1が複数配置されることによって、リング状のシュラウドが形成される。
そして、本実施形態におけるシュラウドセグメント1は、セラミックス基複合材料(CMC)から形成されている。より詳細には、本実施形態においては、セラミックス基複合材料として、炭化ケイ素からなる繊維織物と、当該繊維織物に対して含浸された炭化ケイ素からなるマトリックスとからなる繊維強化複合材料を用いてシュラウドセグメント1が形成されている。
【0017】
本実施形態におけるシュラウドセグメント1は、図1に示すように、タービン動翼の回転領域に対向する対向部2と、当該対向部2から立設すると共に先端部3aが対向部2と平行に折れ曲がったフック部3とを備えている。
【0018】
対向部2は、図1に示すように、タービン動翼の回転軸周り(タービン動翼の回転方向)に湾曲された板形状を有している。
また、対向部2の上記回転軸方向における長さは、タービン動翼の長さよりも長くなるように設定されている。そして、対向部2は、このような回転軸方向の長さを確保するために、端部2aがフック部3の立ち上がり領域よりも前後に突出部して設けられている。
【0019】
フック部3は、図1(a)に示すように、ガスタービンエンジンのケーシング100に対して取り付けられたサポート部品200に対して係止するためのものであり、タービン動翼の回転軸方向に離間して2つ設けられている。
なお、ガスタービンエンジンにおける流れ方向において、上流側に配置されるフック部3の先端部3aは上流側に向けて折り曲げられており、下流側に配置されるフック部3の先端部3aは下流側に向けて折り曲げられている。
【0020】
そして、本実施形態においては、シュラウドセグメント1は、シュラウドセグメント1の周方向に切れることなく連続複数の連続繊維と、当該連続繊維に付着形成されるマトリックスとを有している。
そして、このようなシュラウドセグメント1は、以下に説明する製造方法によって製造される。
【0021】
本実施形態におけるシュラウドセグメント1の製造方法は、図2のフローチャートに示すように、成形工程S1と、含浸工程S2と、焼成工程S3とを有している。なお、含浸工程S2と焼成工程S3とによって本発明におけるマトリックス形成工程が構成されている。
【0022】
成形工程S1は、円筒形の繊維織物の周面を押圧してシュラウドセグメント形状に成形する工程である。
まず、図3(a)に示すように、周長が、シュラウドセグメント1の周長と等しく設定され、長さが、シュラウドセグメント1のタービン動翼の回転方向の長さと等しく設定された円筒形の繊維織物である円筒織物10を用意する。この円筒織物10は、炭化ケイ素の繊維が撚られて糸状とされたものを織ることによって形成されている。なお、円筒織物10は、径の異なる複数の円筒形状の薄い織物を同心円状に重ね合わせることによって、予め設定された厚みとされている。
【0023】
続いて、図3(b)に示すように、円筒織物10の周面に対して複数の型20を押し当て、さらに図3(c)に示すように、複数の型20を押し込むことによって円筒織物10をシュラウドセグメント形状に成形する。なお、図3には図示していないが、各型20は、複数の貫通孔を有している。
【0024】
また、図3(c)に示すように、型20で押圧する際に、シュラウドセグメント1の対向部2の先端部2aに相当する箇所に隙間Xを設けている。
つまり、本実施形態のシュラウドセグメント1の製造方法によれば、成形工程S1にて円筒織物10の周面を押圧する際に、フック部3に相当する箇所を除く箇所に、円筒織物10の過変形を許容する隙間Xが設けられている。この隙間によって、円筒織物10は、フック部3に相当する箇所以外の箇所が、柔軟に変形可能とされている。
【0025】
このような成形工程S1が完了すると、続いて含浸工程S2が行われる。含浸工程S2は、シュラウドセグメント形状に成形された円筒織物10に対して炭化ケイ素を含浸させる工程である。なお、円筒織物10は、成形工程S1における型20で押圧されたまま含浸工程S2を施される。
この含浸工程S2としては、例えば、気相含浸法(CVI法)あるいは液相含浸法(PIP法)等の周知の方法によって炭化ケイ素を含浸させる。
【0026】
続いて、焼成工程S3が行われる。焼成工程S3は、含浸工程S2が完了した円筒織物10を焼成することによって、炭化ケイ素を炭化ケイ素マトリックスとするための工程である。
【0027】
なお、必要に応じて、含浸工程S2と焼成工程S3は、繰り返し行っても良い。これによって、より緻密なマトリックスを形成することが可能となる。
【0028】
ここで、本実施形態のシュラウドセグメント1の製造方法によれば、円筒織物10の周面が押圧されてシュラウドセグメント形状とされ、このシュラウドセグメント形状に成形された円筒織物10に対してマトリックスが形成される。
このため、周方向に切れることなく連続する複数の連続繊維を含み、スティッチを行うことなく強度の高いシュラウドセグメントを製造することができる。
したがって、本実施形態のシュラウドセグメント1の製造方法によれば、フック部3を含んで全体の強度が高いシュラウドセグメントを容易に製造することが可能となる。
【0029】
また、本実施形態のシュラウドセグメント1の製造方法においては、成形工程S1にて円筒織物10の周面を押圧する際に、フック部3に相当する箇所を除く箇所に、円筒織物10の過変形を許容する隙間Xが設けられている。このため、円筒織物10のフック部3に相当する箇所以外の箇所が、柔軟に変形可能となり、確実にフック部3を予め設定された形状に成形することが可能となる。
したがって、本実施形態のシュラウドセグメント1の製造方法によれば、確実にサポート部品200に係止可能なシュラウドセグメント1を製造することが可能となる。
【0030】
なお、図3(d)に示すように、成形工程S1において、円筒織物10の内部に補強部材30を配置して収容し、当該補強部材30を含めて円筒織物10を成形しても良い。これによって、補強部材30を備えるシュラウドセグメントを製造することができる。
例えば、補強部材30としては、セラミックス板や補助繊維織物等が考えられる。セラミックス板を補強部材30として用いた場合には、シュラウドセグメントに対して衝撃が加わった際に、当該セラミックス板が割れることによって衝撃を吸収することができ、衝撃に強いシュラウドセグメントを製造することができる。また、補助繊維織物を補強部材30として用いた場合には、中央部の繊維密度が高くて強度の高いシュラウドセグメントを製造することが可能となる。
【0031】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態においては、炭化ケイ素からなる繊維織物と、当該繊維織物に対して含浸された炭化ケイ素からなるマトリックスとからなる繊維強化複合材料からシュラウドセグメントが形成される例について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、他の繊維教科複合材料、例えば、炭素からなる繊維織物と、炭化ケイ素あるいは炭素からなるマトリックスとからなる繊維強化複合材料からシュラウドセグメントを形成することも可能である。
【0033】
また、上記実施形態においては、スティッチを行うことなく、強度の高いシュラウドセグメントを製造できることを説明した。
しかしながら、本発明は、スティッチを排除するものではなく、必要に応じてさらに追加してスティッチを行っても良い。この場合には、より強度の高いシュラウドセグメントを製造することができる。さらに、シュラウドセグメント1に対して後加工を行うようにしても良い。
【0034】
また、上記実施形態においては、図3(a)に示すように、円筒織物10が平面視において真円形状である構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、円筒織物10の平面視形状が、真円でなくても良い。
【符号の説明】
【0035】
1……シュラウドセグメント、2……対向部、3……フック部、10……円筒織物、20……型、30……補強部材、100……ケーシング、200……サポート部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンエンジンにおいて、フック部が係止することにより動翼を囲むケーシングと前記動翼との間に配置される繊維強化複合材料からなるシュラウドセグメントの製造方法であって、
円筒形の繊維織物の周面を押圧してシュラウドセグメント形状に成形する成形工程と、
シュラウドセグメント形状に成形された前記繊維織物にマトリックスを含浸形成するマトリックス形成工程と
を有することを特徴とするシュラウドセグメントの製造方法。
【請求項2】
前記成形工程にて前記繊維織物の周面を押圧する際に、前記フック部に相当する箇所を除く箇所に、前記繊維織物の過変形を許容する隙間を設けることを特徴とする請求項1記載のシュラウドセグメントの製造方法。
【請求項3】
前記成形工程にて、円筒形の繊維織物の内部に補強部材を配置して収容し、当該補強部材を含めて前記繊維織物を成形することを特徴とする請求項1または2記載のシュラウドセグメントの製造方法。
【請求項4】
ガスタービンエンジンにおいて、フック部が係止することにより動翼を囲むケーシングと前記動翼との間に配置される繊維強化複合材料からなるシュラウドセグメントであって、
シュラウドセグメントの周方向に切れることなく連続する複数の連続繊維と、当該連続繊維に付着成形されるマトリックスとを有する前記繊維強化複合材料からなることを特徴とするシュラウドセグメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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