説明

シューズソール

【課題】ウェットグリップ性を向上させたシューズソールを提供する。
【解決手段】 シューズソールの接地面を、ゴム材料または熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂、またはそれらの混合物またはそれらの発泡体を基材としたアパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物より、構成する。接地面として、アウトソール、スタッド、および、三層構造において下層の貫通孔を介し接地面に露出した中間層に設けられた突起等をアパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物より構成すると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シューズソールに関するものであり、接地面を構成するパーツのいずれか1以上を、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物で構成することによって、ウェットグリップ性を向上させたものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特開平6−113902に開示されるように、シューズソールを構成する基材に酸化チタンを配合することは一般的であり、主にゴムを白色に着色するための材料として、酸化チタンが用いられていた。
【0003】
ところで、酸化チタンは、その優れた分解能により、配合された基材そのものを分解してしまうという問題があった。よって、従来、シューズソールの基材に酸化チタンを配合する場合には、その分解能を非活性にするために何らかのコーティング加工を施した上で基材に配合していた。
【特許文献1】特開平6−113902
【0004】
また、特開平1−119202に開示されるように、酸化チタンを組織中に含有した素材で靴を構成したものもあった。
【0005】
この場合、酸化チタンは抗菌消臭等を目的として用いられており、ウェットグリップ性の向上を目的としたものではなく、接地面への配置はされていなかった。そもそもグリップ性に着目して酸化チタンを基材に配合することは、従来は行なわれていなかった。
【特許文献2】特開平1−119202
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、シューズソールにおいて、ウェットグリップ性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、シューズソールであって、接地面を構成するパーツのいずれか1以上が、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物からなることを特徴とするシューズソールに関するものである。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記混合組成物が、基材100重量部に対して前記アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が5重量部以上配合された混合組成物であることを特徴とするシューズソールに関するものである。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1ないし2のいずれかにおいて、前記混合組成物の前記基材がゴム材料または熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂、またはそれらの混合物またはそれらの発泡体であることを特徴とするシューズソールに関するものである。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、シューズソールであって、アウトソールが請求項1ないし3のいずれかに記載の混合組成物からなることを特徴とするシューズソールに関するものである。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、シューズソールであって、スタッドが請求項1ないし3のいずれかに記載の混合組成物からなることを特徴とするシューズソールに関するものである。
【0012】
また、請求項6に記載の発明は、シューズソールであって、
上層、中層および下層の3層から構成されており、前記上層および前記下層が軟質弾性部材で形成され、前記中層が前記上層および前記下層の間に挟持されるとともに前記上層および前記下層よりも硬度が高い天然ゴムまたは合成ゴム製または合成樹脂製のシートから構成されており、前記中層が接地面側に突出する複数の突起を有し、前記下層が上下方向に延びる複数の貫通孔を有しており、前記貫通孔に前記中層の前記突起が嵌入されるとともに、前記上層、前記中層および前記下層が一体化されている積層物を含むシューズソールであって、
前記突起が、請求項1ないし3のいずれかに記載の混合組成物からなることを特徴とするシューズソールに関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、シューズソールにおいて、ウェットグリップ性を向上させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明におけるシューズ1を外甲側から見た模式図である。また、本明細書中の図中において斜線が施されている部分は、その部分が、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物から構成されていることを表している。
【0015】
図1に示す様に、接地面5を、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物で構成すると良い。
【0016】
アパタイト結晶を付した酸化チタン部材とは、酸化チタンの表面にアパタイトを分散させ、皮膜状に結晶させたものである。
酸化チタンは超親水性を有しており、紫外線を照射することによって、酸化チタンが含まれている混合組成物表面では水は水滴にならずに、ほぼ完全に拡散し表面に水がよくなじむ現象(光親水化反応)を生じる。よって、シューズ1の接地面5を、酸化チタンが含まれている混合組成物で構成することによって、接地面5に超親水性を持たせることが出来るので、濡れた路面や体育館の床等でシューズを使用した場合にも、接地面5の表面に滑りの原因である水膜が生じない為、ウェットグリップ性が著しく向上する。
一方、酸化チタンは優れた分解能を有する為、酸化チタンのみを基材に配合した場合、基材そのものを分解してしまうという問題があった。よって、従来は酸化チタンの分解能を非活性にするために何らかの材料で酸化チタンをコーティングした上で、基材に配合していた。この場合、酸化チタンが基材を分解してしまうことは無くなるものの、酸化チタンが表面に露出しないため、超親水性、すなわちウェットグリップ性は期待できなかった。
【0017】
本発明では、シューズソールの接地面5を、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物で構成している。すなわち、酸化チタンにアパタイト結晶が付されていることより、酸化チタンの基材への接触面積が減るため基材そのものが分解される事も少なく、かつ、部分的に酸化チタンが露出する為、酸化チタンの超親水性、すなわちウェットグリップ性能を発揮させる事が出来る。また、アパタイト結晶として親水性を有する材料を用いる事によって、さらに、超親水性、すなわちウェットグリップ性を向上させることが出来る。
【0018】
図2に示すグラフ1は、合成ゴムに、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材を配合した混合組成物により、シューズソールを作成し、ウェットグリップ試験を行った結果を表したものである。
また、図3に示す表1はウェットグリップ試験を行った際の採点一覧である。
【0019】
ウェットグリップ試験の方法は以下の通りである。
まず、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材を、0phr、1phr、2phr、3phr、4phr、5phr、10phr、30phr配合した合成ゴムを用意し、27.0cmのシューズソールを8足分作成した。次に、それぞれのシューズソールから、27.0cmのシューズを8足作成した。
体重70kgの被験者2名がそれぞれのシューズを履き、表面全体が濡れている状態の塩化ビニルタイルの上を時速5kmで10歩づつ歩行し、その際に感じた滑り状態を、図3に示す表1の7段階から選び採点を行った。その際、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材を配合していない、すなわち0phrのシューズを履いた際の滑り状態を4点とし、0phrのシューズを履いた際と比較した滑り具合を表1に基づいて採点した。
上記を各人2回ずつ行い、その際に採点した点数の平均値を表したものがグラフ1である。
【0020】
グラフ1に示す様に、基材の合成ゴムに、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材を配合した合成ゴムからなるシューズソールは、5phr程度の添加で、ウェットグリップ性が大きく向上する。
このことより、基材に、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材を添加することによって、5phr程度の添加でウェットグリップ性を大きく向上させることが出来ることが分かる。
よって、基材100重量部に対して、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材を5重量部以上配合するのが好ましい。
また、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材を添加する量が多いほど、その効果は高くなる事が分かる。
よって、シューズソールの接地面5を、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物で構成することによって、ウェットグリップ性が向上することが分かる。
【0021】
混合組成物の基材としては、天然ゴムや合成ゴム等のゴム材料または熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂、またはそれらの発泡体が良い。
【0022】
ゴム材料としては比較的安価で加工性、耐摩耗性、グリップ性にすぐれた材料が好ましい。具体的には、BR、SBR、NBR、CR、IIR、IR、NR、およびそれらの混合品が適している。
熱可塑性樹脂としては、インジェクション成形により成形できるものであればよく、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アイオノマー樹脂などがあげられる。
具体的には加工性、柔軟性を重視する場合はスチレン系樹脂、加工性と価格を重視した場合はオレフィン系樹脂、耐摩耗性を重視した場合はウレタン系樹脂やポリエステル系樹脂、軽量性と剛性を重視した場合はポリアミド系樹脂等が適している。
熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂等が適している。
発泡体としては、ゴムやEVA等の発泡体が好ましい。
【0023】
基材にアパタイト結晶を付した酸化チタン部材を添加する方法は以下の通りである。
【0024】
天然ゴムおよび合成ゴムにアパタイト結晶を付した酸化チタン部材を添加する場合には、以下の手順で行う。
まず、加硫前に天然ゴムおよび合成ゴムを混練する段階で混練機により、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材と、天然ゴムおよび合成ゴムとを混練する。混練温度および混練時間はゴム材料により異なるが、例えばSBR、BRの場合、40〜50℃、50分程度ですべてのアパタイト結晶を付した酸化チタン部材が未加硫ゴム中に分散される。そして、混練された未加硫ゴムを金型に入れ、通常のゴムの加熱圧縮成形条件と同条件で成形する。例えば、SBRやBRの場合、160℃、10分程度である。
【0025】
熱可塑性樹脂にアパタイト結晶を付した酸化チタン部材を添加する場合には、以下の手順で行う。
まず、ニ軸混練機により、熱可塑性樹脂基材にアパタイト結晶を付した酸化チタン部材を定量添加し、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が均一に添加されたペレットを作製する。
作製されたペレットを射出成形機に投入し、通常の樹脂の射出条件と同条件で射出成形する。例えば、ウレタン系樹脂の場合、180℃〜220℃程度で成形する。
【0026】
熱硬化性樹脂にアパタイト結晶を付した酸化チタン部材を添加する場合には、以下の手順で行う。
まず硬化前の樹脂基材にアパタイト結晶を付した酸化チタン部材を定量添加し、撹拌する。さらに硬化剤添加後、加熱硬化させる。例えば、エポキシ樹脂の場合、130℃、約30分程度で成形する。
【0027】
発泡体にアパタイト結晶を付した酸化チタン部材を添加する方法としては、以下の手順で行う。
主となる材料のペレットに、あらかじめアパタイト結晶を付した酸化チタン部材を添加しておく。次に該ペレットを、各種添加薬品、充填剤とともに混練し、発泡用材料を練り上げる。作製された発泡用材料を発泡用金型内に充填し、金型を加熱圧縮し、1次発泡体を作製する。次にこの1次発泡体をミッドソール形状に裁断加工したあと、金型内に設置し、金型を加熱圧縮後冷却することにより最終形状に仕上げる。
【0028】
図4は本発明の実施態様におけるシューズソール3を、接地面側から見た図である。
図4に示すように、接地面5として、アウトソール6を、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物から構成してもよい。
また、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物は、アウトソール6全体に用いても良いが、踵部、爪先部、拇指球部等、特にウェットグリップ性が必要な箇所のみに用いても良い。
【0029】
図5は本発明の第二の実施態様におけるシューズ1を、外甲側から見た図である。
図5に示すように、アウトソール6から連続して少なくともミッドソール4おびよび/またはアッパー2の側面を覆う形状に形成される巻上げ部分61を、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物から構成してもよい。
【0030】
図6は本発明の第三の実施態様におけるシューズソール3を、接地面側から見た図である。
図6に示すように、アウトソール6上に凸状に形成されたスタッド62をアパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物から構成してもよい。スタッド62はシューズソール3に一体として固着されたものでも、別体として取りはずしが可能なものでも良い。
【0031】
図7は、本発明の第四の実施態様におけるシューズソール3を接地面側から見たものと、その断面図である。
図7に示すように、シューズソール3は上層71、中層72および下層73の3層から構成されており、上層71および下層73が軟質弾性部材で形成され、中層72が上層71および下層73の間に挟持されるとともに上層71および下層73よりも硬度が高い合成ゴム製または合成樹脂製のシートから構成されており、中層72が接地面側に突出する複数の突起74を有し、下層73が上下方向に延びる複数の貫通孔75を有しており、貫通孔75に中層72の突起が嵌入されるとともに、上層71、中層72および下層73が一体化されている積層物を含んでいる。また、図示はしないが、積層体の下層73の下に合成ゴム層等をもう一層設けても良い。
本実施例に示すシューズソール3において、突起74を、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物より構成してもよい。
【0032】
いずれの場合にも、接地面5を構成する各パーツを、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物から構成することによって、ウェットグリップ性を向上させることが出来る。
【0033】
また、接地面5をアパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物から構成するに際して、接地面5全体をアパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物から構成しても良いし、必要なパーツのみを、部分的に、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物で構成しても良い。
部分的に用いる場合は、一定の領域をアパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物から構成しても良いし、接地する表面のみをアパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物から構成しても良い。
この場合、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材の使用量が少量で済み、安価で機能的なシューズソールを得ることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の活用例としては、ランニング、テニス、野球、バスケット、サッカー、ゴルフ、卓球等の競技用のスポーツ用靴および、ウォーキングシューズ、紳士靴、婦人靴等の一般靴が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明におけるシューズ1を外甲側から見た模式図である。
【図2】合成ゴムに、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材を配合した混合組成物により、シューズソールを作成し、ウェットグリップ試験を行った結果を表したものである。
【図3】ウェットグリップ試験を行った際の採点一覧である。
【図4】本発明の実施態様におけるシューズソール3を、接地面側から見た図である。
【図5】本発明の第二の実施態様におけるシューズソール3を、外甲側から見た図である。
【図6】本発明の第三の実施態様におけるシューズソール3を、接地面側から見た図である。
【図7】本発明の第四の実施態様におけるシューズソール3を接地面側から見たものと、その断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1:シューズ
2:アッパー
3:シューズソール
4:ミッドソール
5:接地面
6:アウトソール
61:巻上げ
62:スタッド
71:上層
72:中層
73:下層
74:突起
75:貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューズソールであって、接地面を構成するパーツのいずれか1以上が、アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が含まれている混合組成物からなることを特徴とするシューズソール。
【請求項2】
請求項1において、前記混合組成物が、基材100重量部に対して前記アパタイト結晶を付した酸化チタン部材が5重量部以上配合された混合組成物であることを特徴とするシューズソール。
【請求項3】
請求項1ないし2のいずれかにおいて、前記混合組成物の前記基材がゴム材料または熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂、またはそれらの混合物またはそれらの発泡体であることを特徴とするシューズソール。
【請求項4】
シューズソールであって、アウトソールが請求項1ないし3のいずれかに記載の混合組成物からなることを特徴とするシューズソール。
【請求項5】
シューズソールであって、スタッドが請求項1ないし3のいずれかに記載の混合組成物からなることを特徴とするシューズソール。
【請求項6】
シューズソールであって、
上層、中層および下層の3層から構成されており、前記上層および前記下層が軟質弾性部材で形成され、前記中層が前記上層および前記下層の間に挟持されるとともに前記上層および前記下層よりも硬度が高い天然ゴムまたは合成ゴム製または合成樹脂製のシートから構成されており、前記中層が接地面側に突出する複数の突起を有し、前記下層が上下方向に延びる複数の貫通孔を有しており、前記貫通孔に前記中層の前記突起が嵌入されるとともに、前記上層、前記中層および前記下層が一体化されている積層物を含むシューズソールであって、
前記突起が、請求項1ないし3のいずれかに記載の混合組成物からなることを特徴とするシューズソール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−6571(P2006−6571A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186962(P2004−186962)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】