説明

シューズ用ポリエステル織編物

【課題】 高い耐摩耗性を維持したまま、ソフトな風合を有するシューズ用ポリエステル織編物の提供を目的とする。
【解決手段】 ジカルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合体ポリエステルであって、該ジカルボン酸成分のうち80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ4.0〜12.0モル%がシクロヘキンサジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ2.0〜8.0モル%が脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であって、該グリコール成分はエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするポリエステル樹脂からなるポリエステル繊維であり、また、ガラス転移温度(Tg)及び結晶化温度(Tch)が下記の要件(a)〜(c)を同時に満足するポリエステル樹脂からなるポリエステル繊維を使用したシューズ用織編物で、高い耐摩耗性を維持したまま、ソフトな風合を有するシューズ用ポリエステル織編物を提供する。
(a)ガラス転移温度(Tg):60℃≦Tg≦80℃
(b)結晶化温度(Tch):120℃≦Tch≦150℃
(c)ΔT(Tch−Tg):50℃≦ΔT(Tch−Tg)≦80℃

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シューズ用ポリエステル織編物に関する。より詳細には、耐摩耗性を維持したまま、ソフトな風合を有するポリエステル織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、力学的特性や発色性及び取扱い性などの特性から、衣料、生活資材、産業資材用途を中心に様々な分野で使用されている。しかし、一般にポリエステル繊維は剛直であり、シューズ用途に用いるためには風合をソフトにする必要があり、そのためには、繊度を細くしたり仮撚加工や捲縮加工により捲縮を付与したりする手段が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、それらの手段は生地の耐摩耗性を減じてしまうため、耐磨耗性を維持しながら風合をソフトにするには限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−340102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような従来技術における問題点を解決するものであり、具体的には摩耗性を維持したまま、ソフトな風合を有するシューズ用ポリエステル織編物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記の課題を鑑み、鋭意検討した結果、特定の共重合成分を特定量共重合してなるポリエステル繊維が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、ポリエステル樹脂からなる繊維であって、該ポリエステル樹脂がジカルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合体ポリエステルであって、該ジカルボン酸成分のうち80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ4.0〜12.0モル%がシクロヘキンサジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ2.0〜8.0モル%が脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であって、該グリコール成分はエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするポリエステル繊維を用いたシューズ用織編物である。
【0007】
そして本発明は、ガラス転移温度(Tg)及び結晶化温度(Tch)が下記の要件(a)〜(c)を同時に満足するポリエステル樹脂重合物からなる上記のポリエステル繊維を用いたシューズ用織編物である。
(a)ガラス転移温度(Tg):60℃≦Tg≦80℃
(b)結晶化温度(Tch):120℃≦Tch≦150℃
(c)ΔT(Tch−Tg):50℃≦ΔT(Tch−Tg)≦80℃。
【0008】
さらに本発明は、上記ポリエステル繊維を、生地中に30質量%以上100質量%以下使用したシューズ用織編物である。
【発明の効果】
【0009】
ジカルボン酸成分のうち、シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を4.0〜12.0モル%、脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を2.0〜8.0モル%共重合化して得られるポリエステル樹脂重合物から、低ヤング率のポリエステル繊維を得ることができ、それを用いた織編物はソフトな風合を有するので、シューズ用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するために使用するポリエステルに関し、最良の形態について具体的に説明する。
本発明に使用するポリエステル繊維に用いるポリエステル樹脂は、エチレンテレフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルであり、その繰り返し単位の80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体(以下、テレフタル酸成分と称することもある)であり、且つジカルボン酸成分のうちシクロヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が4.0〜12.0モル%、好ましくは5.0〜10.0モル%、また脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が2.0〜8.0モル%、好ましくは3.0〜6.0モル%共重合されている必要がある。
【0011】
シクロヘキサンジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体(以下、シクロヘキサンジカルボン酸成分と称することもある)及びアジピン酸又はそのエステル形成性誘導体(以下、アジピン酸成分と称することもある)をポリエチレンテレフタレートに共重合した場合、他の脂肪族ジカルボン酸に比べて結晶構造の乱れが小さい特徴を有しているため、分散染料で染色しても、高い染色堅牢性のものを得ることができる。
【0012】
シクロヘキサンジカルボン酸成分を共重合化することによって、ポリエステル繊維の結晶構造に乱れが生じ、非晶部の配向は低下する。そのため、ポリエステル繊維の剛直性が減じられ、結果としてヤング率の低いポリエステル繊維となる。
更に、シクロヘキサンジカルボン酸成分は他の脂肪族ジカルボン酸に比べ結晶構造の乱れが小さいことから、分散染料で染色しても高い染色堅牢度が得られる。
【0013】
シクロヘキサンジカルボン酸成分の共重合量がジカルボン酸成分において4.0モル%未満では、繊維内部における非晶部位の配向度が高くなるため、ヤング率が十分低くならない。また、ジカルボン酸成分において12.0モル%を超えた場合、延伸を伴わない高速紡糸手法で製糸を行った場合、樹脂のガラス転移温度が低いことと繊維内部における非晶部位の配向度が低いことによって高速捲取中に自発伸長が発生し、安定な高速曳糸性を得ることができない。
【0014】
本発明に使用するポリエステル繊維に用いられるシクロヘキサンジカルボン酸には、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の3種類の位置異性体があるが、本発明の効果が得られる点からはどの位置異性体が共重合されていても構わないし、また複数の位置異性体が共重合されていても構わない。また、それぞれの位置異性体について、シス/トランスの異性体があるが、いずれの立体異性体を共重合しても、あるいはシス/トランス双方の位置異性体が共重合されていても構わない。シクロヘキサンジカルボン酸誘導体についても同様である。
【0015】
脂肪族ジカルボン酸成分についてもシクロヘキンジカルボン酸成分と同様に、ポリエステル繊維の結晶構造に乱れが生じ、非晶部の配向が低下するため、ポリエステル繊維の剛直性が減じられ、結果としてヤング率の低いポリエステル繊維とすることが可能となる。
【0016】
ジカルボン酸成分中の脂肪族ジカルボン酸成分の共重合量が2.0モル%未満では、ヤング率が十分低くならない。また、ジカルボン酸成分中の脂肪族ジカルボン酸成分の共重合量が8.0モル%を超えた場合、延伸を伴わない高速紡糸手法で製糸を行った場合には繊維内部における非晶部位の配向度が低くなり、高速捲取中での自発伸長が顕著となり、安定な高速紡糸性を得ることができない。好ましくは3.0〜6.0モル%である。
【0017】
本発明の脂肪族ジカルボン酸成分として好ましく用いられるものとしては、発色性、製糸工程性などの点から、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸が例示できる。またこれらは単独又は2種類以上を併用することもできる。
【0018】
本発明に使用するポリエステル繊維の品位を落とすことのない範囲であれば、テレフタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分、及び脂肪族ジカルボン酸成分以外の他のジカルボン酸成分を共重合しても良い。具体的には、イソフタル酸やナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分(スルホン酸基を有するものも含む)又はそのエステル形成誘導体を単独であるいは複数の種類を合計10.0モル%以下の範囲で共重合化させてもよい。
【0019】
しかし、これらの成分を共重合化させることでエステル交換反応、重縮合反応が煩雑になるばかりでなく、共重合量が適正範囲を超えると染色堅牢性を低下させることがある。具体的には、イソフタル酸およびそのエステル形成性誘導体がジカルボン酸成分に対して10モル%を越えて共重合させると、本発明の構成要件を満足させたとしても、染色堅牢特性を低下させる恐れがあり、5モル%以下での使用が望ましく、さらに望ましくは0モル%であること(共重合化しないこと)がより望ましい。
【0020】
更に、本発明に使用するポリエステル繊維には、それぞれ、酸化チタン、硫酸バリウム、硫化亜鉛などの艶消剤、リン酸、亜リン酸などの熱安定剤、あるいは光安定剤、酸化防止剤、酸化ケイ素などの表面処理剤などが添加剤として含まれていてもよい。
【0021】
これら添加剤は、ポリエステル樹脂を重合によって得る際に、重合系内にあらかじめ加えておいても良い。ただし、一般に酸化防止剤などは重合末期に添加するほうが好ましく、特に重合系に悪影響を与える場合や、重合条件下で添加剤が失活する場合はこちらが好ましい。一方、艶消剤、熱安定剤などは重合時に添加するほうが均一に樹脂重合物内に分散しやすいため好ましい。
【0022】
本発明に使用するポリエステル繊維に用いるポリエステル樹脂は、固有粘度0.6〜0.7であるが、好ましくは0.62〜0.68、より好ましくは0.63〜0.66である。固有粘度が0.7を上回ると、繊維化時の高速紡糸性が著しく乏しくなる。また、紡糸が可能であり、目標の低ヤング率の繊維が得られた場合においても、筒編染色生地で染色斑や筋が発生したりするなど、得られた織編物の表面品位が低下し好ましくない。また、固有粘度が0.6を下回ると紡糸中に断糸しやすく生産性が乏しくなるばかりでなく、得られた繊維の強度も低いものとなり好ましくない。
【0023】
本発明に使用するポリエステル繊維の製造方法の紡糸工程において、ポリエステル樹脂は通常の溶融紡糸装置を用いて口金より紡出する。また、口金の形状や大きさによって、得られる繊維の断面形状や径を任意に設定することが可能である。
【0024】
次に、本発明に使用するポリエステル繊維に用いるポリエステル樹脂は、例えば単軸押出機や二軸押出機を用いて溶融混練する。溶融混練する際の温度は、シクロヘキサジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸の共重合量によって異なるが、斑なく安定に溶融混練し且つ安定な製糸性や品位を得るためには、ポリマーの融点から30〜60℃高い温度範囲で溶融押出するのが好ましく、20〜50℃高い温度範囲とすることがより好ましい。
更に、混練設備を通過してから紡糸頭に至るまでの間の溶融温度についても、シクロヘキサンジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸の共重合量によって異なるため一概に特定はできないが、溶融斑なく安定な状態で紡出させ、且つ安定な製糸性や品位を得るためには、ポリマーの融点から30〜60℃高い温度範囲で溶融押出するのが好ましく、20〜50℃高い温度範囲とすることがより好ましい。
【0025】
そして、上記によって溶融紡出したポリエステル繊維を、一旦そのガラス転移温度以下の温度、好ましくはガラス転移温度よりも10℃以上低い温度に冷却する。この場合の冷却方法や冷却装置としては、紡出したポリエステル繊維をそのガラス転移温度以下に冷却できる方法や装置であればいずれでもよく特に制限されないが、紡糸口金の下に冷却風吹き付け筒などの冷却風吹き付け装置を設けておいて、紡出されてきたポリエステル繊維に冷却風を吹き付けてガラス転移温度以下に冷却するのが好ましい。その際に冷却風の温度や湿度、冷却風の吹き付け速度、紡出糸条に対する冷却風の吹き付け角度などの冷却条件も特に制限されず、口金から紡出されてきたポリエステル繊維を繊維の揺れなどを生じないようにしながら速やかに且つ均一にガラス転位温度以下にまで冷却できる条件であればいずれでもよい。そのうちでも、冷却風の温度を20℃〜30℃、冷却風の湿度を20%〜60%、冷却風の吹き付け速度を0.4〜1.0m/秒として、紡出繊維に対する冷却風の吹き付け方向を紡出方向に対して垂直にして紡出したポリエステル繊維の冷却を行うのが、高品質のポリエステル繊維を円滑に得ることができるので好ましい。また、冷却風吹き付け筒を用いて前記の条件下で冷却を行う場合は、紡糸口金の直下にやや間隔を空けてまたは間隔を空けないで、長さが約80〜120cm程度の冷却風吹き付け筒を配置するのが好ましい。
【0026】
次に、より効率的な生産性で且つ安定した品位の延伸糸を得る方法として、紡出後に一旦ガラス転移温度以下に糸条を冷却した後、引き続いてそのまま直接加熱帯域、具体的にはチューブ型加熱筒などの装置内を走行させて延伸熱処理し給油後に3500〜5500m/分の速度で捲取ることで延伸糸を得ることができる。加熱工程における加熱温度は延伸しやすい温度、すなわちガラス転移温度以上で融点以下の温度が必要であり、具体的にはガラス転移温度よりも30℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがより好ましい。また融点よりも20℃以上低いことが好ましく、30℃以上低いことがより好ましい。これにより、冷却工程においてガラス転移温度以下に冷えた糸条が加熱装置で加熱されることで分子運動を促進活発化し延伸を行う。
【0027】
油剤は加熱装置による延伸処理工程通過後に付与する。これにより油剤による延伸断糸が少なくなる。油剤としては通常ポリエステルの紡糸に用いられるものであれば制限はない。給油方法としてはギヤポンプ方式によるオイリングノズル給油またはオイリングローラー給油のいずれでもよい。ただし、紡糸速度が高速化するにつれて前者の方式の方が糸条に斑無く、安定した油剤付着が可能である。油剤の付着量については特に制限はなく、断糸や原糸毛羽の抑制効果と織編物の工程に適した範囲であれば適宜調節しても良い。
そのうちでも、油剤の付着量を0.3〜2.0質量%とすることが高品質のポリエステル繊維を円滑に得ることができるので好ましく、0.3〜1.0質量%とすることがより好ましい。
【0028】
そして、上述した一連の工程からなる延伸したポリエステル繊維を、3500〜5500m/分で引き取ることが必要であり、引き取り速度4000〜5000m/分であることがより好ましい。ポリエステル繊維の引き取り速度が3500m/分未満の場合は生産性が低下し、また加熱帯域において繊維の延伸が十分に行われなくなり、得られるポリエステル繊維の機械的物性が低下する。引き取り速度が5500m/分を超えた場合は安定な高速紡糸性が得られにくく、また加熱帯域において繊維の延伸が十分に行われなくなり、
得られるポリエステル繊維の機械的物性が低下する。
【0029】
本発明に使用するポリエステル繊維のヤング率は20cN/dTex以上70cN/dTexであることが好ましい。20cN/dTex未満であると強度もそれに伴って低くなりすぎるため、シューズ用ポリエステル繊維として不適である。また、70cN/dTexより大きいとソフトな風合をもつ織編物が得られない。
【0030】
本発明に使用するポリエステル繊維は、上記製造方法による延伸糸に限られるものではなく、最終製品に求められる品質や良好な工程通過性を確保するために、最適な紡糸手法を選択することができる。より具体的には、スピンドロー方式や、紡糸原糸を採取した後に別工程で延伸を行う2−Step方式、また延伸を行わず非延伸糸のまま引き取り速度が2000m/分以上の速度で捲取る方式においても、任意の糸加工工程を通過させた後に製品化することで、良好なポリエステル製品を得ることができる。
【0031】
本発明にいうソフトな風合というのは、起毛した生地のような表面にふれた際に感じる風合ではなく、生地を面とした場合、その面から垂直に指等で押した際に感じる風合であり、生地に剛直性がないような場合にソフトに感じるものである。シューズは足の形に沿うことが重要であるが、シューズに用いられる織編物の風合がハードであると、織編物が足の形に沿いにくく、シューズの履き手に不快感を与え、靴擦れなどのトラブルも発生しやすい。したがって、シューズに用いる織編物は風合のソフトなものが好まれる。
【0032】
ソフトな風合をもつ織編物を製造するには、織編物自体の剛直性を小さくすれば良いため、1フィラメントあたりの繊度の小さい糸を使用したり、捲縮を付与した糸を使用する方法等がとられる。1フィラメントあたりの繊度の小さい糸を使用する場合、表面をふれた際に感じる風合も良くなるというメリットももつが、シューズ用に用いられる生地は強い圧力で擦られることになるため、耐摩耗性が劣るようになり、使用中に破れるというトラブルを発生しやすく好ましくない。また、捲縮を付与した糸の使用は、広い範囲で使用できるが、伸縮性も付与されるため、生地に伸縮性が必要以上に付与され使用する部位を制限されたり、光沢が失われるため、デザイン的に拘束される場合があったりする。
しかしながら、本発明の低ヤング率ポリエステル繊維を用いた織編物は、糸自体の剛直性が小さいためソフトな風合を有するため、1フィラメントあたりの繊度、光沢、捲縮に有無等、想定される使用部位に適したタイプの低ヤング率ポリエステル繊維で織編物を提供できる。
【0033】
本発明のシューズ用ポリエステル織編物の目付は特に制約はないが、必要とされる耐磨耗性、強度を考慮にいれると200g/m〜800g/m、さらには250g/m〜500g/mが好ましい。また、織編物の形態は、織物でも、経編物でも緯編物でもよく、それらはシューズの使用部位によって選択される。
【0034】
また、本発明のシューズ用ポリエステル織編物の中で上記低ヤング率ポリエステル繊維の占める割合は、30質量%〜100質量%、さらには40質量%〜100質量%が好ましい。低ヤング率ポリエステル繊維の占める割合が30質量%未満であると、目的とする風合のソフトな織編物が得られず好ましくない。
【0035】
また、上記低ヤング率ポリエステル繊維以外のポリエステル繊維としては、その繊維に用いるポリエステル樹脂が、エチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレートもしくはブチレンテレフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルであり、その繰り返し単位の80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であるものでよい。その内、テレフタル成分にスルホン酸基が導入されたイソフタル酸が共重合されているポリエステル樹脂で紡糸されたポリエステル繊維がデザインの見地からよく使用される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものでない。なお、ジカルボン酸成分共重合量、ポリエステル樹脂のガラス転移温度、融点、固有粘度、繊度、繊維の各物性の評価は以下の方法に従った。
【0037】
<ジカルボン酸成分共重合量>
共重合量は、該ポリエステル繊維を重トリフロロ酢酸溶媒中に5.0wt%/volの濃度で溶解し、50℃で500MHzH−NMR(日本電子製核磁気共鳴装置LA−500)装置を用いて測定した。
【0038】
<ガラス転移温度>
島津製作所製 示差走査熱量計(DSC−60)にて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0039】
<結晶化温度>
島津製作所製 示差走査熱量計(DSC−60)にて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0040】
<固有粘度>
溶媒としてフェノール/テトラクロロエタン(体積比1/1)混合溶媒を用い30℃でウベローデ型粘度計(林製作所製HRK−3型)を用いて測定した。
【0041】
<繊度>
JIS L−1013の測定方法に準拠して測定した。
【0042】
<破断強度>
インストロン型の引張試験機を用いて得られた荷重−伸度曲線より求めた。
【0043】
<破断伸度>
インストロン型の引張試験機を用いて得られた荷重−伸度曲線より求めた。
【0044】
<ヤング率>
インストロン型の引張試験機を用いて得られた荷重−伸度曲線より求めた。
【0045】
<耐摩耗性>
JIS L−1096C法(テーバー磨耗法)で磨耗輪CS10、荷重4.9N、1000回の条件で実施した。
なお、外観状態については、以下の基準にて評価した。
A; 異常なし
B; やや損傷している
C; 経または緯が切断している
【0046】
<風合:剛軟性>
JIS L−1096A法(45°カンチレバー法)で測定した。
【0047】
(実施例1)
ジカルボン酸成分のうち91モル%がテレフタル酸であり、且つ1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を6.0モル%、アジピン酸を3.0モル%それぞれ含んだ全カルボン酸成分とエチレングリコール、及び所定の添加剤とでエステル交換反応及び重縮合反応を行い、本発明のポリエステル樹脂重合物を得た。この原料のガラス転移温度、及び結晶化温度を測定したところ、それぞれ72℃、144℃であった。この原料を基に、孔数24個(孔径0.20mmφ)の口金を用いて紡糸温度260℃、単孔吐出量=1.57g/分で紡出し、温度25℃、湿度60%の冷却風を0.5m/秒の速度で紡出糸条に吹付け糸条を60℃以下にした後、紡糸口金下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口ガイド系8mm、出口ガイド系10mm、内径30mmφチューブヒーター(内温185℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した後、チューブヒーターから出てきた糸条にオイリングノズルで給油し2個の引き取りローラーを介して4500m/分の速度で捲取り、167T/48fのポリエステルフィラメントを得た。得られた繊維の破断強度、破断伸度、ヤング率は表1に示した。
【0048】
(実施例2、3)
ポリエステル樹脂の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びアジピン酸の共重合量を変更した以外は実施例1と同様にして、表1に示す熱特性を有する共重合物を得た。更に、この重合物を実施例1と同様の手法で紡糸して167T/48fのポリエステルフィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1に示した。
【0049】
(比較例1〜3)
ポリエステル樹脂の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びアジピン酸の共重合量変更以外は実施例1と同様にして、表1に示す熱特性を有する共重合物を得た。更に、この重合物を実施例1と同様の手法で紡糸して167T/48fのポリエステルフィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1に示した。
【0050】
(実施例4)
26G30インチ丸編機を用い、実施例1で作成したポリエステル繊維を100質量%使用して、モックロディの組織で編立した。編立した生地を精錬、染色し、目付290g/mで仕上げた。得られた生地の耐摩耗性はA、風合は経25mm緯30mmであり、耐摩耗性が優れていながら、風合の柔らかい生地が得られた。
【0051】
(実施例5、6、比較例4〜6)
使用するポリエステル繊維を変更したこと以外は変更した以外は実施例4と同様にして、表2に示す生地を得た。実施例5、6では耐摩耗性が優れていながら、風合の柔らかい生地が得られたが、比較例4〜6では耐摩耗性が優れていたが、風合の硬い生地が得られた。
【0052】
(実施例7)
26G30インチ丸編機を用い、実施例1で作成したポリエステル繊維を80質量%、比較例3で作成したポリエステル繊維を20質量%使用して、モックロディの組織で編立した。編立した生地を精錬、染色し、目付290g/mで仕上げた。得られた生地の耐摩耗性はA、風合は経28mm緯33mmであり、耐摩耗性が優れていながら、風合の柔らかい生地が得られた。
【0053】
(比較例7)
26G30インチ丸編機を用い、実施例1で作成したポリエステル繊維を20質量%、比較例3で作成したポリエステル繊維を80質量%使用して、モックロディの組織で編立した。編立した生地を精錬、染色し、目付289g/mで仕上げた。得られた生地の耐摩耗性はA、風合は経40mm緯45mmであり、耐摩耗性が優れていたが、風合の固い生地が得られた。
【0054】
(比較例8)
比較例3と同様の方法で110T/24fのポリエステル繊維を得た(破断強度4.1cN/dTex、破断伸度34%、ヤング率97cN/dTex)。26G30インチ丸編機を用い、上記作成したポリエステル繊維を100質量%使用して、モックロディの組織で編立した。編立した生地を精錬、染色し、目付220g/mで仕上げた。得られた生地の耐摩耗性はC、風合は経25mm緯30mmであり、風合は柔らかいが、耐摩耗性の劣った生地となった。
【0055】
(実施例8)
経糸、緯糸共に実施例1で作成したポリエステル繊維を用いて、3/1のツイル織物を製織した。製織した生地を精錬、染色し、目付200g/mで仕上げた。得られた生地の耐摩耗性はA、風合は経40mm緯45mmであり、耐摩耗性が優れ、風合の柔らかい生地が得られた。
【0056】
(比較例9)
経糸、緯糸共に実施例6で作成したポリエステル繊維を用いて、3/1のツイル織物を製織した。製織した生地を精錬、染色し、目付205g/mで仕上げた。得られた生地の耐摩耗性はA、風合は経55mm緯65mmであり、耐摩耗性が優れていたが、風合の固い生地が得られた。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、高い耐摩耗性を維持したまま、ソフトな風合を有するシューズ用ポリエステル織編物を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合体であって、該ジカルボン酸成分のうち80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ4.0〜12.0モル%がシクロヘキンサジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ2.0〜8.0モル%が脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であって、該グリコール成分はエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とすることを特徴とするポリエステル樹脂からなるポリエステル繊維を用いたシューズ用織編物。
【請求項2】
ガラス転移温度(Tg)及び結晶化温度(Tch)が下記の条件(a)〜(c)を同時
に満足する、請求項1に記載のポリエステル繊維を用いたシューズ用織編物。
(a)ガラス転移温度(Tg):60℃≦Tg≦80℃
(b)結晶化温度(Tch):120℃≦Tch≦150℃
(c)ΔT(Tch−Tg):50℃≦ΔT(Tch−Tg)≦80℃
【請求項3】
請求項1または2記載のポリエステル繊維を、生地中に30質量%以上100質量%以下使用したシューズ用織編物。

【公開番号】特開2012−249798(P2012−249798A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124239(P2011−124239)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】