説明

シュードモナス・エルギノーサ(PseudomonasAeruginosa)のPcrV抗原に対する抗体

本発明は、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)感染を治療するために投与される場合に免疫原性が低減されている、シュードモナス・エルギノーサPcrVタンパク質に対する高親和性抗体を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によって本明細書に組み込まれる、2007年11月30日に出願した米国特許仮出願第60/991,679号の恩典を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)(P. エルギノーサ(P. aeruginosa))は、健常人に疾病を引き起こすことはまれだが、重篤な病気または免疫不全の個体にとっては重大な問題である日和見病原体である。感染は、嚢胞性線維症(CF)を有する個体において主要な問題であり、ここでP. エルギノーサは、細菌による再発性および慢性の気道感染がもたらす肺機能の進行性喪失の原因病原体である。シュードモナス・エルギノーサ感染による危険性がある他の個体は、人工呼吸器を付けている患者、好中球減少性の癌患者、および熱傷患者を含む。P. エルギノーサは多くの場合、ほとんどの抗生物質に対して抵抗性を有しており、新しい治療アプローチが非常に必要とされている。
【0003】
III型分泌システムは、宿主の防御システムを阻害する、重要な病原性決定要素である。活性化されると、III型分泌装置は、毒素を宿主細胞の細胞質内に移動させ、細胞円形化、リフティング(lifting)、および壊死またはアポトーシスによる細胞死をもたらす。PcrVは、III型分泌装置の不可欠な構成要素である。PcrVの遮断は、III型分泌システムを介する毒素分泌を阻害することができ、その結果、天然の除去機構による細菌の排除を可能にする。PcrVは、今まで試験された全てのP. エルギノーサ株で保存されている。
【0004】
シュードモナスのPcrV抗原に対する抗体は、当技術分野において公知である。本発明は、例えばシュードモナス・エルギノーサ感染の治療のための、改良されたPcrV抗体を提供する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、高親和性、例えば約50 nM、または約10 nMもしくはそれ以下で、シュードモナス・エルギノーサ由来のPcrV抗原に結合する改変された抗体に関する。そのような抗体は多くの場合、III型分泌の機能的なアンタゴニストである、すなわち、抗体はPcrVに結合し、II型分泌システムを阻害する。いくつかの態様において、本発明の抗体は、PcrVに結合すること、およびマクロファージによる食作用、マクロファージもしくはNK細胞による抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体カスケードの活性化、および/または好中球による酸化的バーストの発生を刺激するために、免疫系の複数の細胞型をリクルート(recruit)することができる。
【0006】
本発明の抗体は、ヒト生殖系列のVH配列およびVL配列に対して高度の同一性を有する可変領域を有し、ヒトにおいて免疫原性がより低い。本発明の重鎖および軽鎖のCDR3配列は、抗PcrVモノクローナル抗体Mab166由来の1組の結合特異性決定基(BSD)を含む(Frank et al., J. Infectious Dis. 186: 64-73, 2002)。本発明の抗体は典型的には、Mab166とPcrVタンパク質上の中和エピトープへの結合において競合する能力がある。
【0007】
CDRH3内のBSD配列は、アミノ酸配列NRGDIYYDFTYを有する。CDRL3内のBSDは、FWXTPである(ここでXはSまたはGいずれかであることができる)。BSDがCDR3の一部を形成し、付加配列がCDR3を完成しかつFR4配列を付加するために用いられる、完全なV領域が作製される。典型的には、BSDを除くCDR3の部分と完全なFR4とは、ヒト生殖系列配列で構成される。好ましくは、BSDを除くCDR3-FR4配列は、各鎖の2個以下のアミノ酸だけヒト生殖系列配列と異なる。CDR3-FR4は、ヒト生殖系列Vセグメントに対して高度の同一性、例えば、少なくとも80%、または少なくとも90%、またはそれより高度の同一性を有するVセグメントに連結される。
【0008】
いくつかの局面において、本発明は、PcrVに対して高親和結合、例えば10 nMまたはそれより優れた親和結合を示し、III型分泌システムのアンタゴニストである抗PcrV抗体を提供する。
【0009】
多くの態様において、PcrVに選択的に結合する本発明の抗PcrV抗体は、FWGTPを含むCDR3を含むVL領域含む。典型的な態様において、そのような抗体は、ヒト生殖系列Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を有するVL領域Vセグメントを有する。FR4領域は典型的には、ヒト生殖系列JセグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を有する。
【0010】
いくつかの態様において、本発明の抗PcrV抗体は、FWGTPを含むCDR3、FR4およびVセグメントを含み、FR4は、ヒトJK2生殖系列遺伝子セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性またはJL2生殖系列配列に対して少なくとも90%の同一性を含み;かつVセグメントは、ヒト生殖系列のVκI配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも80%同一性、またはヒト生殖系列 Vλ配列に対して少なくとも80%の同一性を含む。いくつかの態様において、VL領域 CDR3は、配列Q(Q/H)FWGTPYTを有する。いくつかの態様において、抗体は、配列NRGDIYYDFTYを有するCDR3、FR4およびVセグメントを含むVH領域をさらに含み、FR4は、ヒトJH3セグメントまたはヒトJH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつVセグメントは、ヒトVHl-18サブクラスVセグメントまたはヒトVH3-30.3Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む。いくつかの態様において、VH領域は、配列

を有するCDR3を含み、X1はI、Q、Y、またはSである。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、
X1がI、Q、Y、またはSである配列

を有する、CDR3、
X1がYである場合にFR4領域がWGQGTSVTVSSではないという条件で、FR4がヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつVセグメントがヒト生殖系列VHl-18サブクラスVセグメントまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、FR4およびVセグメント
を含むVH領域を含む、PcrVに結合する抗PcrV抗体を提供する。
【0012】
いくつかの態様において、本発明は、
X1がI、Q、Y、またはSである配列

を有する、CDR3、
X1がYである場合にFR4領域がWGQGTSVTVSSではないことを条件として、FR4がヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつVセグメントがヒト生殖系列VHl-18サブクラスVセグメントまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、FR4およびVセグメント
を含むVH領域と;
FW(S/G)TPを含むCDR3、
FR4がヒト生殖系列JK2遺伝子セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JL2セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつVセグメントがヒト生殖系列VKI L12配列に対して少なくとも80%の同一性、またはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列のVλ2 2cセグメントもしくはVλ3 31セグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、FR4およびVセグメント
を含むVL領域と
を含む、PcrVに結合する抗PcrV抗体を提供する。
【0013】
いくつかの態様において、本発明の抗体のVH領域のFR4は、配列WGQGTX2VTVSSを有し、X2はTまたはMである。
【0014】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、配列Q(H/Q)FW(G/S)TPYTを有する軽鎖CDR3を有する。
【0015】
いくつかの態様において、VL領域のFR4は、配列FGQGTKLEIKまたはFGGGTKLTVLを有する。
【0016】
本発明はまた、抗PcrV抗体を提供し、ここでVH領域Vセグメントはヒト生殖系列VH3-30.3セグメントに対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ重鎖領域CDRlは、X3がS、T、またはNであり、X4がYまたはAであり、X5がA、G、またはPであり、かつX6がM、I、またはLである配列X3X4X5X6Hを含み;かつ重鎖領域CDR2は、X7がV、F、またはNであり、X8がSまたはWであり、X9がDまたはNであり、X10がS、K、RまたはYであり、X11がN、S、DまたはEであり、X12がK、I、またはEであり、X13がY、S、DまたはWであり、かつX14がDまたはSである配列

を含む。いくつかの態様において、抗体はVH3-30.3Vセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する。いくつかの態様において、CDRlはTAGMH、SYGIH、SYGMH、SYPLH、またはNYPMHである。いくつかの態様において、CDR2は

である。いくつかの態様において、CDRlはTAGMH、SYGIH、SYGMH、SYPLH、またはNYPMHであり;かつCDR2は

である。
【0017】
本発明はまた、抗PcrV抗体を提供し、ここでVH領域Vセグメントはヒト生殖系列VHl-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性、または少なくとも90%の同一性を有し、かつCDRlは配列DHAISを有し、かつCDR2は配列

を有する。
【0018】
本発明はまた、CDR3配列

、CDR1配列DHAISおよびCDR2配列

を有するVH領域を含む、PcrVに結合する抗PcrV抗体を提供する。
【0019】
いくつかの態様において、VH領域は、SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列のVセグメント領域を含む。例えば、VH領域は、SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0020】
本発明はまた、抗PcrVを提供し、ここでVL領域Vセグメントは、ヒト生殖系列のVκI L12配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも80%もしくは90%の同一性;またはヒト生殖系列のVλ3 31配列もしくはVλ2 2c配列に対して少なくとも80%もしくは90%の同一性を含む。いくつかの態様において、VL領域 Vセグメントは、ヒト生殖系列VKI L12セグメントに対して少なくとも80%または90%の同一性を有し、かつCDRlは配列

を有し、ここでX15はQまたはEであり、X16はSまたはGであり、X17はIまたはVであり、X18はSまたはDであり、X19はS、R、またはTであり、X20はWまたはYであり、かつX21はLまたはVであり; かつCDR2は配列X21ASX22LX23Sを有し、ここでX21はDまたはAであり、X22はS、A、またはTであり、かつX23はE、Q、またはKである。いくつかの態様において、CDRlは配列

を有するか;あるいはCDR2は、配列AASSLQS、DASSLKS、AASSLQS、DASALQS、またはDASTLQSを有する。いくつかの態様において、CDRl は配列

を有し;かつCDR2は、配列AASSLQS、DASSLKS、AASSLQS、DASALQS、またはDASTLQSを有する。
【0021】
本発明はまた、抗PcrV抗体を提供し、ここでVL領域 Vセグメントは、ヒト生殖系列VKIII L2配列に対して少なくとも80%または少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有し、かつCDRlは、配列RASNSVGAYNLAまたはRASQSVSSNLAを有するか;またはCDR2は、配列(A/G)AS(T/R)RA(T/P)を有する。いくつかの態様において、CDRlは、配列RASNSVGAYNLAまたはRASQSVSSNLAを有し;かつCDR2 は、配列(A/G)AS(T/R)RA(T/P)を有する。
【0022】
さらに本発明は、抗PcrV抗体提供し、ここでVL領域 Vセグメントはヒト生殖系列VλL3 31セグメントに対して少なくとも80%または少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有し、かつCDRlは配列QGDSLRS(Y/L)YASを有するか;またはCDR2は配列(G/S)KN(N/S)RPSを有する。いくつかの態様において、CDRlは配列QGDSLRS(Y/L)YASを有し、かつCDR2は配列(G/S)KN(N/S)RPSを有する。
【0023】
いくつかの態様において、本発明は、抗PcrV抗体を提供し、ここでVL領域 Vセグメントはヒト生殖系列VλL2 2cセグメントに対して少なくとも80%または少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有し、かつCDRlは配列

を有するか;またはCDR2は配列(E/D)VT(K/N)RPSを有する。いくつかの態様において、CDRl は配列

を有し;かつCDR2は配列(E/D)VT(K/N)RPSを有する。
【0024】
本発明の抗PcrV抗体は、SEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列のVセグメントを含む領域を有することができる。例えば、VL領域は、SEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0025】
したがって本発明は、以下を含む抗PcrV抗体を提供する:SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、VH領域、ならびにSEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、VL領域。したがって、いくつかの態様において、本発明の抗体は、SEQ ID NO: 1のVH領域およびSEQ ID NO: 2のVL領域、またはSEQ ID NO: 3のVH領域およびSEQ ID NO: 4のVL領域、またはSEQ ID NO: 5のVH領域およびSEQ ID NO: 6のVL領域、またはSEQ ID NO: 7のVH領域およびSEQ ID NO: 8のVL領域、またはSEQ ID NO: 11のVH領域およびSEQ ID NO: 12のVL領域、またはSEQ ID NO: 9のVH領域およびSEQ ID NO: 10のVL領域、またはSEQ ID NO: 13のVH領域およびSEQ ID NO: 10のVL領域、またはSEQ ID NO: 13のVH領域およびSEQ ID NO: 4のVL領域、またはSEQ ID NO: 13のVH領域およびSEQ ID NO: 37のVL領域、またはSEQ ID NO: 21のVH領域およびSEQ ID NO: 18のVL領域、またはSEQ ID NO: 17のVH領域およびSEQ ID NO: 18のVL領域、またはSEQ ID NO: 26のVH領域およびSEQ ID NO: 24のVL領域、またはSEQ ID NO: 25のVH領域およびSEQ ID NO: 24のVL領域、またはSEQ ID NO: 23のVH領域およびSEQ ID NO: 24のVL領域、またはSEQ ID NO: 35のVH領域およびSEQ ID NO: 36のVL領域、またはSEQ ID NO: 29のVH領域およびSEQ ID NO: 20のVL領域、またはSEQ ID NO: 29のVH領域およびSEQ ID NO: 28のVL領域、またはSEQ ID NO: 29のVH領域およびSEQ ID NO: 30のVL領域、またはSEQ ID NO: 29のVH領域およびSEQ ID NO: 34のVL領域、またはSEQ ID NO: 3のVH領域およびSEQ ID NO: 32のVL領域を含む。
【0026】
いくつかの態様において、本発明の抗PcrV抗体は、図1に示されている重鎖および/または図2に示されている軽鎖を含むか:または図1または図2にそれぞれに示されている重鎖もしくは軽鎖の1つに由来する少なくとも1個のCDR、多くの場合少なくとも2個のCDR、およびいくつかの態様において少なくとも3個のCDRを含む。多くの態様において、CDRlおよび/またはCDR2配列は生殖系列の配列ではない。
【0027】
いくつかの態様において、抗体はFab'フラグメントである。
【0028】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、Fab、またはFab'であり、約10 nMまたはそれより低い親和性を有する。いくつかの態様において、抗体は、Mab166のFabまたは Fab 'の親和性と同等またはより優れた親和性を有する。
【0029】
本発明の抗体、例えばFabの力価は、P. エルギノーサのIII型分泌システムの活性の阻害において、Mab 166 Fabと典型的には同等である(細胞に基づくアッセイで活性の2倍以内)。いくつかの態様において、本発明の抗体は、P. エルギノーサによる細胞傷害の防止においてMab 166より強力である。
【0030】
いくつかの態様において、抗体はヒンジ領域を含む。
【0031】
他の態様において、抗体はIgGまたはIgAである。
【0032】
いくつかの態様において、抗体はペグ化されている。例えば、抗体はジペグ化されうる。
【0033】
いくつかの態様において、VH領域もしくはVL領域のアミノ酸配列、またはVH領域とVL領域との両方のアミノ酸配列は、N末端にメチオニンを含む。
【0034】
さらなる局面において、本発明は、P. エルギノーサに感染した患者を治療する方法を提供し、方法は本明細書に記載された抗体の治療的有効量を投与する工程を含む。いくつかの態様において、抗体は、静脈内投与されるか、皮下投与されるか、または吸入により投与される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】抗PcrV抗体のVH領域の配列を示す。CDR配列に下線を引く。VHl配列をヒト生殖系列配列VH1-18に対して整列させる。VH3-サブクラスをヒト生殖系列配列VH3-30.3対して整列させて示す。Jセグメントをヒト生殖系列のJH3またはJH6いずれかに対して整列させる。図1に示すVHセグメントは、CDR3配列までの配列に対応する。
【図2】抗PcrV抗体のVL領域の配列を示す。CDR配列に下線を引く。Vκ-サブクラス抗体をヒト生殖系列配列VKI Ll 2に整列させて示す。Jセグメントをヒト生殖系列JK2に対して整列させる。Vλ-サブクラス抗体をヒト生殖系列配列V13 31に対して整列させて示す。Jセグメントをヒト生殖系列JL2に対して整列させる。
【図3】Fab'重鎖および軽鎖に連結できる例示的な定常領域配列を示す。チオール反応性マレイミド誘導体の結合に使用可能なヒンジ領域中の2個のシステイン残基に下線を引く。鎖間ジスルフィド結合の形成に関与するシステイン残基を四角で囲む。
【図4】2分子のmPEG-マレイミドがチオエーテル結合を介してFab'タンパク質のヒンジ領域中のシステイン残基に結合している、ジペグ化されたFab'の構造の図示を示す。例示的な抗体は、2つの鎖の間の横棒で示されるジスルフィド結合により連結されたヒトFd'重鎖およびヒトκ軽鎖で構成される。(Fab構成要素およびPEG構成要素は正確な縮尺ではない。)
【図5】致死量のPA103による攻撃誘発時に様々な用量のPcrVに対する抗体で処置したマウスの生存の時間経過を示すデータを提供する。Mab166およびFabフラグメントを、気管内経路を介して1.5×106のバクテリアと一緒に共注入した(1群当たり5マウス、Mab166 Fab群に対して4マウス)。対照は、PcrVまたは任意のP. エルギノーサタンパク質への結合を伴わない非特異的Fabである。マウスを以下の抗体用量で処置した:A) 10μg、B) 5μg、C) 2.5μg、D) 1.25μg、*Fab 1A8対Mab166Fabに対してP=0.01、E) 0.625μg *1A8対Mab166 Fabに対してP=0.002、F) 0.3125μg、G) 0.1μg、H) 0.08μg。処置群間の差異に対するP値はMantel-Coxログランク検定により決定した。
【図6】抗PcrV抗体で処置したマウスの体温解析を示すデータを提供する。直腸の温度を48時間または死亡まで示す。抗体用量:A) 10μg、B) 5μg、C) 2.5μg、D) 1.25μg E) 0.625μg F) 0.3125μg、G) 0.16μg、H) 0.08μg。
【図7】抗PcrV抗体により感染させたマウスの肺からのP. エルギノーサのクリアランスを示すデータを提供する。Mab 166 IgG、Mab 166 FabまたはヒトFab 1A8と一緒に共注入した1.5×106 cfu PA 103を用いて(μgで)示した用量で、マウスを感染させた。グラフは、48 hで生き残っている個々のマウスから単離された肺のcfu/肺を示す。この時点で死んでいるマウスの数を図の上部に示す。各群における生き残っているマウスの中央値cfu/肺をバーを用いて示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の詳細な説明
本明細書において用いる「抗体」は、結合タンパク質として機能的に定義され、かつ抗体を産生する動物の免疫グロブリンをコードする遺伝子のフレームワーク領域に由来するとして当業者に認識されるアミノ酸配列含むと構造的に定義される、タンパク質を指す。抗体は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子のフラグメントにより実質的にコードされる1つまたは複数のポリペプチドからなることができる。認識される免疫グロブリン遺伝子は、κ、λ、α、γ、δ、εおよびμの定常領域遺伝子、ならびに種々の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖は、κまたはλのいずれかに分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεに分類され、かつ順番にそれぞれ免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを定義する。
【0037】
典型的な免疫グロブリン(抗体)構造ユニットは、四量体を含むことが公知である。四量体はそれぞれ、同一の2組のポリペプチド鎖で構成され、各組とも1つの「軽」鎖(約25 kD)および1つの「重」鎖(約50-70 kD)を有する。各鎖のN末端は、主に抗原認識に関与する約100から110またはそれより多いアミノ酸の可変領域を定義する。用語、可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)はそれぞれ、これらの軽鎖および重鎖を指す。
【0038】
本明細書において用いられる用語「抗体」は、結合特異性を保持する抗体フラグメントを含む。例えば、多数の十分に特徴付けられた抗体フラグメントがある。したがって、例えばペプシンは、ヒンジ領域内のジスルフィド結合の下部で抗体を消化し、F(ab)'2、それ自体がジスルフィド結合によりVH-CHl(Fd)に連結されている軽鎖であるFabの二量体を生じる。F(ab)'2は、ヒンジ領域内のジスルフィド結合を切断し、その結果、(Fab')2二量体をFab'一量体に変換する穏やかな条件下で、減少する場合がある。Fab'一量体は本質的には、ヒンジ領域の全体または一部を伴うFabである(他の抗体フラグメントのより詳細な記載についてはFundamental Immunology, W.E. Paul, ed., Raven Press, N.Y. (1993)参照)。様々な抗体フラグメントが、完全な抗体の消化の面から定義される一方で、当業者は、フラグメントが化学的にまたは組換えDNA方法論の使用のいずれかによりデノボ合成されうることを理解すると考えられる。したがって、本明細書において用いられる用語抗体はまた、全抗体の修飾または組換えDNA方法論を用いた合成いずれかにより生じる抗体フラグメントを含む。
【0039】
本発明の抗体は、可変重鎖領域および可変軽鎖領域が互いに連結され(直接にまたはペプチドリンカーを介して連続したポリペプチドを形成する、一本鎖Fv抗体(sFvまたはscFv)などの一本鎖抗体(一本鎖ポリペプチドとして存在する抗体)を含む、VH-VL二量体、VH二量体、またはVL二量体などの二量体を含む。一本鎖Fv抗体は、共有結合されたVH-VLヘテロ二量体であり、直接的にまたはペプチドコードリンカーいずれかで結合されるVH-コード配列およびVL-コード配列を含む核酸から発現させてもよい(例えば、Huston, et al. Proc. Nat. Acad. Sci USA, 85:5879-5883, 1988)。VHおよびVLは一本鎖ポリペプチドとしてお互いに連結される一方で、VHドメインおよびVLドメインは非共有結合的に結合する。あるいは、抗体は、ジスルフィド安定化Fv(dsFv)などの別のフラグメントであることができる。組換え技術を用いてなど、他のフラグメントもまた作成されることができる。抗体V領域に由来する天然には凝集するが化学的に分離される軽鎖ポリペプチドおよび重鎖ポリペプチドを抗原結合部位の構造に実質的に類似する3次元構造に折り畳んだ分子に変換する、scFv抗体および多数の他の構造体は、当業者に公知である(例えば、米国特許第5,091,513号、同第5,132,405号、および同第4,956,778号参照)。いくつかの態様において、抗体は、ファージ上に示される抗体、または鎖を可溶性タンパク質、例えばscFv、Fv、Fab、(Fab')2として分泌するベクターを用いる組換え技術により産生される抗体、または鎖を可溶性タンパク質として分泌するベクターを用いる組換え技術により産生される抗体を含む。本発明で使用するための抗体はまた、ジ抗体(diantibody)およびミニ抗体も含みうる。
【0040】
本発明の抗体はまた、ラクダ科の動物に由来する抗体などの重鎖二量体を含む。ラクダ科の動物における重鎖二量体IgGのVH領域は、軽鎖による疎水性相互作用を作る必要がないため、通常は軽鎖と接触する重鎖内の領域が、ラクダ科の動物では親水性アミノ酸残基に変更される。重鎖二量体IgGのVHドメインはVHHドメインと呼ばれる。本発明の抗体は、単一ドメイン抗体(dAb)およびナノボディを含む(例えば、Cortez-Retamozo, et al., Cancer Res. 64:2853-2857, 2004参照)。
【0041】
本明細書において用いる「V領域」は、CDR3およびフレームワーク4含む、フレームワーク1、CDRl、フレームワーク2、CDR2、ならびにフレームワーク3のセグメントを含む抗体可変領域ドメインを指し、それらのセグメントは、B細胞分化の過程で重鎖V領域遺伝子および軽鎖V領域遺伝子の再構成の結果としてVセグメントに加えられる。本明細書において用いる「Vセグメント」は、V遺伝子によりコードされるV領域(重鎖または軽鎖)の領域を指す。重鎖可変領域のVセグメントは、FR1-CDR1-FR2-CDR2およびFR3をコードする。本発明の目的のために、軽鎖可変領域のVセグメントは、FR3経てCDR3まで及ぶと定義される。
【0042】
本明細書において用いる用語「Jセグメント」は、CDR3およびFR4のC末端部分を含みコードされる可変領域のサブ配列を指す。内在性のJセグメントは、免疫グロブリンJ遺伝子によりコードされる。
【0043】
本明細書において用いる「相補性決定領域(CDR)」は、軽鎖可変領域および重鎖可変領域により確立される、4つの「フレームワーク」領域の間に割って入る各鎖における3つの超可変領域を指す。CDRは主に、抗原のエピトープへの結合に関与する。各鎖のCDRは典型的には、N末端から順に番号を付けられたCDRl、CDR2、およびCDR3を指し、さらに典型的には個々のCDRが位置している鎖により同定される。したがって、例えばVHCDR3は、見出される抗体の重鎖の可変ドメイン中に位置するのに対し、VLCDRlは、見出される抗体の軽鎖の可変ドメインのCDRlである。
【0044】
種々の軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内で比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域は、構成軽鎖および構成重鎖のフレームワーク領域の組合せであり、三次元空間においてCDRの位置を特定し整列させるのに役立つ。
【0045】
CDRおよびフレームワーク領域のアミノ酸配列は、当技術分野において周知の様々な定義、例えば、Kabat, Chothia, international ImMunoGeneTicsデータベース(IMGT)、およびAbMを用いて決定されうる (例えば、上記Johnson et al.,; ChothiaおよびLesk, 1987, Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins. J. MoI. Biol. 196, 901-917; Chothia C. et al., 1989, Conformations of immunoglobulin hypervariable regions. Nature 342, 877-883; Chothia C. et al., 1992, structural repertoire of the human VH segments J. MoI. Biol. 227, 799-817; Al-Lazikani et al., J.Mol.Biol 1997, 273(4)参照)。抗原結合部位の定義はまた、以下にも記載される:Ruiz et al., IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res., 28, 219-221 (2000); およびLefranc,M.-P. IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res. Jan l;29(l):207-9 (2001); MacCallum et al, Antibody-antigen interactions: Contact analysis and binding site topography, J. MoI. Biol., 262 (5), 732-745 (1996); およびMartin et al, Proc. Natl Acad. Sci USA, 86, 9268-9272 (1989); Martin, et al, Methods Enzymol., 203, 121-153, (1991); Pedersen et al, Immimomethods, 1, 126, (1992); およびRees et al, In Sternberg M.J.E. (ed.), Protein Structure Prediction. Oxford University Press, Oxford, 141-172 1996)。
【0046】
「エピトープ」または「抗原決定基」は、抗体が結合する抗原の部位を指す。エピトープは、連続的なアミノ酸と、またはタンパク質の三次折りたたみ(tertiary folding)により近接して並ぶ非連続的なアミノ酸との両方から形成されうる。連続的なアミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒への曝露に対して保持されるのに対し、三次折りたたみにより形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒による処理によって失われる。エピトープは、特有の空間立体構造内に典型的には少なくとも3アミノ酸、およびより通常は少なくとも5または8〜10アミノ酸を含む。エピトープの空間立体構造を決定する方法は、例えばX線結晶学および二次元核磁気共鳴を含む。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed (1996) 参照。
【0047】
本発明の文脈で用いられる用語「結合特異性決定基」または「BSD」は、抗体の結合特異性を決定するために必要な、CDR領域内で最小の連続的なアミノ酸配列または非連続的なアミノ酸配列を指す。本発明において、最小の結合特異性決定基は、抗体の重鎖および軽鎖のCDR3配列の一部分または全長内に存在する。
【0048】
本明細書において用いる用語「PcrV拮抗性抗体」または「抗PcrV抗体はシュードモナス・エルギノーサIII型分泌システムのアンタゴニストである」は、互換的に用いられ、PcrVに結合しかつIII型分泌システムを阻害する抗体を指す。阻害は、III型分泌システムを通じた分泌が、抗体アンタゴニストに曝露しなかった場合の分泌と較べて、少なくとも約10%減少、例えば少なくとも約25%、50%、75%減少、または完全に阻害された場合に起こる。用語「抗PcrV抗体」および「PcrV抗体」は、特に指定がない限り、同意語として用いられる。
【0049】
用語「平衡解離定数(KD)」は、結合速度定数(ka、時間-1、M-1)で割った解離速度定数(kd、時間-1)を指す。平衡解離定数は、当技術分野において公知の任意の方法を用いて測定されうる。本発明の抗体は、高親和性抗体である。そのような抗体は、500 nMより優れた親和性を有し、多くの場合50 nMまたは10 nMより優れた親和性を有する。したがって、いくつかの態様において本発明の抗体は、500 nMから100 pMの範囲で、または50もしくは25 nMから100 pMの範囲で、または50もしくは25 nMから50 pMの範囲で、または50 nMもしくは25 nMから1 pM範囲で親和性を有する。
【0050】
本明細書において用いる「ヒト化抗体」は、ドナー抗体由来のCDRがヒトフレームワーク配列に移植されている免疫グロブリン分子を指す。ヒト化抗体はまた、フレームワーク配列内にドナー起源の残基を含んでもよい。ヒト化抗体はまた、ヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部分を含むこともできる。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体内または移入されるCDR配列もしくはフレームワーク配列内のいずれにおいても見出されない残基を含んでもよい。ヒト化は、当技術分野において公知の方法を用いて行うことができ(例えば、Jones et al., Nature 321:522-525; 1986; Riechmann et al., Nature 332:323-327, 1988; Verhoeyen et al, Science 239:1534-1536, 1988); Presta, Curr. Op. Struct. Biol 2:593-596, 1992; 米国特許第4,816,567号)、「超ヒト化(superhumanizing)」抗体(Tan et al., J. Immunol 169: 1119, 2002)および「表面再構成(resurfacing)」(例えば、Staelens et al., Mol. Immunol 43: 1243, 2006; およびRoguska et al., Proc. Natl Acad. Sci USA 91: 969, 1994)などの技術を含む。
【0051】
本発明の文脈において「ヒューマニア化(humaneered)」抗体は、参照抗体の結合特異性を有する、改変ヒト抗体を指す。本発明における使用のための「ヒューマニア化」抗体は、ドナー免疫グロブリンに由来する最小配列を含む免疫グロブリン分子を有する。典型的には、抗体は、参照抗体の重鎖のCDR3領域由来の結合特異性決定基(BSD)をコードするDNA配列にヒトVHセグメント配列を連結し、参照抗体由来の軽鎖CDR3 BSDにヒトVLセグメント配列を連結することにより「ヒューマニア化」する。「BSD」は、CDR3-FR4領域、または結合特異性を媒介するこの領域の一部分を指す。したがって結合特異性決定基は、CDR3-FR4、CDR3、CDR3の最小必須の結合特異性決定基(抗体のV領域中に存在する場合に結合特異性を付与するCDR3より小さな任意の領域を指す)、Dセグメント(重鎖に関して)、または参照抗体の結合特異性を付与するCDR3-FR4の他の領域であることができる。ヒューマニア化のための方法は、米国特許出願公開第20050255552号および米国特許出願公開第20060134098号で提供される。
【0052】
用語「ハイブリッド」は、核酸またはタンパク質の部分に関連して用いられる場合、核酸またはタンパク質が本来は互いに同様の関連性において普通は見られない2つまたはそれ以上のサブ配列を含むことを意味する。例えば、核酸は典型的には、組換えで作製され、例えば新しい機能的な核酸を作るよう並べられた無関係の遺伝子に由来する、2つまたはそれ以上の配列を有する。同様に、ハイブリッドタンパク質は、本来は互いに同様の関連性において普通は見られない2つまたはそれ以上のサブ配列を指す。
【0053】
用語「組換え」は、例えば細胞、または核酸、タンパク質、もしくはベクターに関連して用いられる場合、細胞、核酸、タンパク質またはベクターが異種の核酸もしくはタンパク質の導入、または天然の核酸またはタンパク質の変更により修飾されていること、または細胞がそのように修飾されている細胞に由来することを意味する。したがって、例えば組換え細胞は、発現下でまたは全く発現しない条件下で、細胞の天然の(非組換えの)形態の範囲内では見られない遺伝子を発現するか、または普通なら異常に発現される天然の遺伝子を発現する。本明細書における用語「組換え核酸」は、一般には、例えばポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いる核酸の操作により、元々はインビトロで形成された、本来普通は見出されない形の核酸を意味する。このようにして、種々の配列の機能的な連結が達成される。したがって、直線形態の単離された核酸と、または普通は連結しないDNA分子を連結させることによりインビトロで形成される発現ベクターとの両方とも本発明の目的の組換え体であると考えられる。組換え核酸が作製され、宿主細胞または宿主生物内に再導入された後は、組換え核酸は非組換えにより、すなわちインビトロ操作よりはむしろ宿主細胞のインビボ細胞機構を用いて複製される。しかしながらそのような核酸は、組換えで産生された後に続いて非組換えで複製されるが、依然として本発明の目的のための組換え体であると考えられることが理解される。同様に、「組換えタンパク質」は、組換え技術を用いて、すなわち上記に示すような組換え核酸の発現を通じて作製されるタンパク質である。
【0054】
抗体に「特異的に(または選択的に)結合する」または「特異的に(または選択的に)免疫反応性を示す」という語句は、タンパク質またはペプチドを指す場合、抗体が対象のタンパク質に結合する結合反応を指す。本発明の文脈において、抗体は典型的には、500 nMまたはそれ以下の親和性でPcrVに結合し、他の抗原に対しては5000 nMまたはそれ以上の親和性を有する。
【0055】
用語「同一の」またはパーセント「同一性」は、2つまたはそれ以上のポリペプチド(または核酸)配列の文脈において、下記のデフォルトパラメーターによるBLASTまたはBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを用いて、または手動整列化および目視による検査により測定された場合に(例えば、NCBIウェブサイト参照)、同一であるか、または同一であるアミノ酸残基の特定のパーセンテージのアミノ酸配列(もしくはヌクレオチド) (すなわち、比較ウィンドウ(comparison window)または指定された領域に対して最大限一致するよう比較し整列させた場合、特定の領域に対して約60%の同一性、好ましくは70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはより高い同一性)を有する、2つまたはそれ以上の配列またはサブ配列を指す。次いで、そのような配列を、「実質的に同一である」と言う。「実質的に同一である」配列はまた、欠失および/または付加を有する配列、ならびに置換を有する配列、ならびに天然に存在する変異体、例えば多型変異体または対立遺伝子変異体およびヒトが作製した変異体も含む。下記のように、好ましいアルゴリズムはギャップなど明らかにすることができる。好ましくは、タンパク質配列同一性は、少なくとも約25アミノ酸長の領域に対して、またはより好ましくは50-100アミノ酸長の領域に対して、またはその長さのタンパク質に対して存在する。
【0056】
本明細書において用いる「比較ウィンドウ」は、典型的には20から600、一般的には約50から約200、より一般的には約100から約150からなる群より選択される数の連続した位置の1つのセグメントに対する参照を含み、ここで配列は、2つの配列を最適に整列させた後に、同一数の連続した位置の参照配列と比較されてもよい。比較のための配列の整列の方法は、当技術分野において周知である。比較のための配列の最適な整列は、例えばSmithおよびWaterman, Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)の局所的相同性アルゴリズムにより、NeedlemanおよびWunsch, J. MoI. Biol 48:443 (1970)の相同性整列化アルゴリズムにより、PearsonおよびLipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)の類似度の検索法により、これらのアルゴリズムのコンピュータ処理による実行により(the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIにおけるGAP, BESTFIT, FASTA, およびTFASTA)、または手動整列化および目視による検査(例えばCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds. 1995 supplement)参照)により、実行されうる。
【0057】
パーセント配列同一性および配列類似性を決定するのに適しているアルゴリズムの好ましい例は、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムを含み、それらはAltschul et al., Nuc. Acids Res. 25:3389-3402 (1977) およびAltschul et al., J. MoI. Biol. 215:403-410 (1990) に記載されている。BLASTおよびBLAST 2.0は、本明細書において記載されるパラメーターと共に用いられ、本発明の核酸およびタンパク質のパーセント配列同一性を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列のための)は、デフォルトとして、11の文字の長さ(W)、10の期待値(E)、M=5、N=-4および両鎖の比較を用いる。アミノ酸配列に関し、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、3の文字の長さ、および10の期待値(E)を用い、BLOSUM62スコアリングマトリックス(HenikoffおよびHenikoff, Proc. Natl Acad. Sci. USA 89:10915 (1989)) は、50のアライメント(B)、10の期待値、M=5、N=-4および両鎖の比較を用いる。
【0058】
用語「単離される」、「精製される」または「生物学的に純粋」は、その天然の状態で見られる、通常は伴う構成要素を実質的にまたは本質的に含んでいない物質を指す。純度および均一性は典型的には、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーなどの化学的分析技術用いて決定される。調製物中に存在する優勢種であるタンパク質は、実質的に精製されている。用語「精製」はいくつかの態様において、タンパク質が電気泳動ゲル中で本質的に1つのバンドを生じることを意味する。好ましくは、タンパク質が少なくとも85%純粋、より好ましくは少なくとも95%純粋、および最も好ましくは少なくとも99%であることを意味する。
【0059】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本明細書において互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学模倣体であるアミノ酸ポリマー、ならびに修飾された残基を含む天然に存在するアミノ酸ポリマー、および非天然のアミノ酸ポリマーに当てはまる。
【0060】
用語「アミノ酸」は、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝暗号によりコードされるアミノ酸、ならびに後に修飾されるそれらのアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然に存在するアミノ酸と同様の基本化学構造、例えば、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスフホニウムなどのR基に結合するα炭素を有する化合物を指す。そのような類似体は、修飾R基(例えばノルロイシン)または修飾ペプチド骨格を有してもよいが、天然に存在するアミノ酸と同様の基本化学構造を保持する。アミノ酸模倣体は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様に機能する化合物を指す。
【0061】
アミノ酸は本明細書において、一般に知られる3文字記号、またはIUPAC-IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)が推奨する1文字記号のいずれかにより称されてもよい。同様にヌクレオチドは、それらの一般に認められた1文字コードにより称されてもよい。
【0062】
「保存的に修飾された変異体」は、アミノ酸配列と核酸配列との両方に適用する。特定の核酸配列に関して、保存的に修飾された変異体は、核酸が、本質的に同一のまたは関連する、例えば天然に連続した配列と同一のもしくは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする、または核酸がアミノ酸配列をコードしない、変異体を指す。遺伝暗号の縮重のため、多くのタンパク質は数多くの機能的に同一の核酸によりコードされる。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全て、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、コドンによりアラニンが特定される全ての位置で、コドンは、コードされるポリペプチドを変更することなく記述される別の対応するコドンに変更されうる。そのような核酸の変異は、「サイレント変異」であり、保存的に修飾された変異体の一種である。本明細書において、ポリペプチドをコードする全ての核酸配列はまた、核酸のサイレント変異も表す。当業者は、ある文脈において核酸中の各コドン(通常メチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)が機能的に同一である分子を生じるよう修飾されうることを認識している。したがって、ポリペプチドをコードする核酸のサイレント変異は多くの場合、実際のプローブ配列ではなく、発現産物について表す配列に潜在的に含まれる。
【0063】
アミノ酸配列に関して、当業者は、コードされる配列内の単一アミノ酸またはわずかな比率のアミノ酸を置換、付加または欠失する、核酸配列、ペプチド配列、ポリペプチド配列またはタンパク質に対する置換体、欠失体または付加体のそれぞれが、変更が化学的に類似のアミノ酸によるアミノ酸の置換をもたらす、「保存的に修飾された変異体」であることを認識している。保存的な置換の表および機能的に類似のアミノ酸を提供するBLOSUMなどの置換マトリックスは、当技術分野において周知である。そのような保存的に修飾された変異体は、多型の変異体、種間相同体、および本発明のアレルを排除するものではなく、追加するものである。典型的な相互に保存的な置換は以下を含む:1)アラニン(A)、グリシン(G); 2) アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E); 3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q); 4)アルギニン(R)、リシン(K); 5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V); 6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W); 7)セリン(S)、スレオニン(T);および8)システイン(C)、メチオニン(M) (例えば、Creighton, Proteins (1984)参照)。
【0064】
I. 序論
本発明は、シュードモナス・エルギノーサ由来のPcrV抗原に高い親和性で結合し、典型的にはIII型分泌システムの機能的なアンタゴニストである抗体に関する。抗体は、ヒト生殖系列のVH配列およびVL配列に対して高度の相同性を有する可変領域を含む。重鎖および軽鎖のCDR3配列は、抗 PcrVモノクローナル抗体 Mab166(Frank et al.、J. Infectious Dis. 186: 64-73、2002; および米国特許第6,827,935号)由来の1組の結合特異性決定基(BSD)を含み、本発明の抗体は、PcrVタンパク質上の中和エピトープへの結合についてMab166と競合する(例えば、米国特許第6,827,935号参照)。
【0065】
CDRH3内のBSD配列は、アミノ酸配列NRGDIYYDFTYを有する。いくつかの態様において、本発明の抗体は、重鎖CDR3配列

を有し、ここでXはI、S、またはQである。
【0066】
CDRL3内のBSDは、FWXTPである(ここでXはSまたはGいずれかであってもよい)。BSDがCDR3の一部を形成し、付加配列がCDR3を完成しかつFR4配列を付加するよう用いられる、完全なV領域が作製される。典型的には、CDR3のBSDを除く部分および完全なFR4は、ヒト生殖系列配列で構成される。好ましい態様において、BSDを除くCDR3-FR4配列は、ヒト生殖系列配列と各鎖について2アミノ酸以下だけ異なる。
【0067】
ヒト生殖系列Vセグメントレパートリーは、51の重鎖Vセグメント、40のκ軽鎖Vセグメント、および31のλ軽鎖Vセグメントからなり、合計3,621組の生殖系列V領域を産生する。加えて、これらのVセグメントの多くに安定な対立遺伝子変異体が存在するが、生殖系列レパートリーの構造的多様性へのこれらの変異体の寄与は限られている。全てのヒト生殖系列Vセグメント遺伝子の配列は、公知であり、the MRC Centre for Protein Engineering, Cambridge, United Kingdomにより提供されるV-ベースデータベース(ワールドワイドウェブ上、vbase.mrc-cpe.cam.ac.ukで)(Chothia et al., 1992, J MoI Biol 227:776-798; Tomlinson et al., 1995, EMBO J 14:4628-4638; Cook et al. (1995) Immunol. Today 16: 237-242; およびWilliams et al., 1996, J MoI Biol 264:220-232参照); またはthe international ImMunoGeneTics database(IMGT)中でアクセスされうる。これらの配列は、本発明の抗体のヒト生殖系列セグメントの参照源として用いられうる。
【0068】
本明細書において記載の抗体または抗体フラグメントを、原核生物のまたは真核生物の微生物システム内で、または哺乳類の細胞などの高等真核生物の細胞内で発現させることができる。
【0069】
本発明で用いられる抗体は、任意の形式で存在することができる。例えば、いくつかの態様において、抗体は、定常領域、例えばヒト定常領域を含む完全抗体であることができるか、または完全抗体のフラグメントまたは誘導体、例えばFab、Fab'、F(ab')2、scFv、Fv、またはナノボディもしくはラクダ類の抗体などの単一ドメイン抗体であることができる。
【0070】
II. 重鎖
本発明の抗PcrV抗体の重鎖は、以下の要素を含む重鎖V領域を含む。
1) FRl-CDRl-FR2-CDR2-FR3を含むヒト重鎖Vセグメント配列、
2) アミノ酸配列NRGDIYYDFTYを含むCDRH3領域、
3) ヒト生殖系列J-遺伝子セグメントが寄与するFR4。
相補的なVL領域と共に上記のCDR3-FR4セグメントと組み合わせてPcrVへの結合を支持するVセグメント配列の例を図1に示す。Vセグメントは、ヒトのVHlサブクラスまたはVH3サブクラスに由来であることができる。いくつかの態様において、Vセグメントは、生殖系列セグメントVH3-30.3と高度のアミノ酸配列同一性を有するヒトVH3サブクラスセグメントである。例えば、Vセグメントは、15残基以下だけVH3-30.3と異なり、好ましくは7残基以下である。
【0071】
本発明の抗体のFR4配列は、ヒトJセグメントにより提供される。1から6まで番号付けられた6つの重鎖JH領域が存在する。したがって、FR4配列は、JHl、JH2、JH3、JH4、JH5またはJH6遺伝子セグメントにより提供されうる。典型的には、本発明の抗体のFR4領域は、FR4を提供するヒト生殖系列JセグメントのFR4領域に対して少なくとも90%、多くの場合少なくとも91%、92%、93%、94%、95% 96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有する。
【0072】
いくつかの態様において、FR4配列は、ヒト生殖系列JH3セグメントにより提供され、配列WGQGTMVTVSSを有する。他の態様において、FR4は、ヒト生殖系列JH6セグメントにより提供され、配列WGQGTTVTVSSを有する。
【0073】
CDRH3はまた、ヒトJセグメントに由来する配列も含む。典型的には、BSDを除くCDRH3-FR4配列は、2アミノ酸以下だけヒト生殖系列Jセグメントと異なる。典型的な態様において、CDRH3中のJセグメント配列は、FR4配列に用いられるJセグメントと同じJセグメントに由来する。したがって、いくつかの態様において、CDRH3-FR4領域は、BSDおよび完全なヒトJH3生殖系列遺伝子セグメントを含む。CDRH3配列およびFR4配列の例示的な組合せを下記に示す、ここでBSDを太字で、ヒト生殖系列Jセグメント残基を下線で示す。

【0074】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、生殖系列セグメントVH3 30.3もしくは生殖系列 VHl-18セグメントに対して、またはSEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35のVセグメント部分などの図1に示すVH領域のVセグメントの1つに対して、少なくとも90%の同一性、または少なくとも91%、92% 93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%の同一性を有するVセグメントを含む。
【0075】
いくつかの態様において、VH領域のVセグメントは、図1に示すCDRlおよび/またはCDR2を有する。例えば、本発明の抗体は、配列TAGMH、SYGIH、SYGMH、SYPLH、またはNYPMHを有するCDRl; または配列

を有するCDR2を有してもよい。いくつかの態様において、VH領域のCDR2は、半ば辺り、例えばCDR2の8位または9位に位置する負に帯電したアミノ酸を有する。
【0076】
特定の態様において、抗体は、図1に示すVH領域Vセグメントの1つに由来するCDRlとCDR2との両方、および

を含むCDR3を有する。したがって、本発明の抗PcrV抗体は、例えば配列

を有するCDR3-FR4を有してもよい。他の態様において、抗体は、配列

を有するCDR3を含んでもよい。
【0077】
III. 軽鎖
本発明の抗PcrV抗体の軽鎖は、以下の要素を含む軽鎖V領域を含む。
1) FRl-CDRl-FR2-CDR2-FR3を含むヒト軽鎖Vセグメント配列、
2) 配列FWXTP(ここでXはSまたはGであってもよい)を含むCDRL3領域、
3) ヒト生殖系列J遺伝子セグメントが寄与するFR4。
VL領域は、VλVセグメントまたはVκVセグメントのいすれかを含む。相補的なVH領域と組み合わせて結合を支持するVλ配列およびVκ配列の例を、図2に提供する。Vκセグメントはヒトの生殖系列JK2セグメントの上流にクローニングされ、Vλセグメントは生殖系列 JL2セグメントの上流にクローニングされる。
【0078】
CDRL3配列は、配列に由来するVセグメントおよびJセグメントを含む。典型的な態様において、CDRL3中のJセグメント配列は、FR4に用いられるJセグメントと同じJセグメント由来である。したがって、2アミノ酸以下だけヒトκ生殖系列のVセグメントおよびJセグメント配列と異なってもよい。いくつかの態様において、CDRL3-FR4領域は、BSDおよび完全なヒトJK2生殖系列遺伝子セグメントを含む。例示的なκ鎖のCDRL3-FR4の組合せを下記に示す、ここでBSDを太字で、JK2配列を下線で示す。

【0079】
λ鎖の好ましいCDR3-FR4を下記に示し、ここでBSDを太字で、JL2配列を下線で示す。

【0080】
本発明の抗体のFR4配列は、ヒトJセグメントにより提供される。1から5まで名称を付けられた5つのヒトJκ領域セグメント、および1、2、3 および7と名称を付けられた4つのJλ領域セグメントが存在する。したがって、FR4配列は、任意のこれらの生殖系配列により提供されうる。典型的には、本発明の抗体のFR4領域は、FR4を提供するヒト生殖系列JセグメントのFR4領域に対し、少なくとも90%、多くの場合少なくとも91%、92%、93%、94%、95% 96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有する。
【0081】
Vκセグメントは典型的には、VKIサブクラスまたはVKIIIサブクラスのVκセグメントである。いくつかの態様において、セグメントは、ヒト生殖系列のVKIサブクラスまたはVKIIIサブクラスに対して少なくとも80%配列の同一性、例えばヒト生殖系列のVKIII L12配列またはVKIIIA11配列に対して少なくとも80%の同一性を有する。例えば、Vκセグメントは、VKI L12と18残基以下だけ、またはVKIII A11もしくはVKIII L2を12残基以下だけ異なってもよい。他の態様において、本発明の抗体のVL領域 Vセグメントは、ヒト生殖系列VKI L12に対して、またはヒト生殖系列VkIII L2配列に対して、またはヒト生殖系列VKIII All配列に対して、または図2に示すVL領域のκVセグメント配列、例えばSEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、もしくは37のVセグメント配列に対して、少なくとも85%の同一性、または少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有する。
【0082】
いくつかの態様において、VLのVセグメントはヒト生殖系列Vλセグメントに対応する。したがって、いくつかの態様において、Vセグメントは、SEQ ID NO: 28、30、32、または34のVセグメント配列などの図2のVL領域のVλVセグメントに対して、少なくとも85%の同一性、または少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%の同一性を有する。
【0083】
いくつかの態様において、VL領域のVセグメントは、図2に示すCDRlおよび/またはCDR2を有する。例えば、本発明の抗体は、

のCDRl配列、またはCDR2配列AASSLQS、DASSLKS、AASSLQS、DASALQSもしくはDASTLQSを有してもよい。他の態様において、抗体は、QGDSLRSYYA、TGTSSDVGAYNYVS、もしくはTGTSSDYVのCDRl配列、またはCDR2配列GKNNRPS、EVTKRPSもしくはDVTNRPSを有してもよい。
【0084】
特定の態様において、本発明の抗PcrV抗体は、図2に示されているVL領域のVセグメントの1つに示される、CDRlおよびCDR2の組合せ、ならびにFWXTPを含むCDR3配列を有してもよく、ここでXがSまたはGであり、例えばCDR3はQQFWSTPYT、QHFWGTPYT、またはQHFWSTPYTであってもよい。いくつかの態様において、そのような抗PcrV抗体は、FGQGTKLEIKまたはFGGGTKLTVLであるFR4領域を含んでもよい。したがって、本発明の抗PcrV抗体は、例えば図2に示すVL領域の1つに由来するCDRlとCDR2との両方、および

であるCDR3-FR4領域を、含みうる。
【0085】
IV. PcrV抗体の調製
本発明の抗体は、SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、または35の任意のVH領域を、SEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36または37の任意のVL領域と組み合わせて含んでもよい。
【0086】
抗体は、III型分泌システムに拮抗する活性を抗体が保持することを確認するために試験されてもよい。アンタゴニスト活性は、細胞毒性試験を含む多くのエンドポイントを用いて決定されうる。例示的なアッセイは、例えば米国特許第6,827,935号に記載される。P. エルギノーサ感染を治療するために投与される抗体は、Mab166のIII型分泌経路アンタゴニスト活性の少なくとも75%、好ましくは80%、90%、95%、または100%を好ましくは保持する (米国特許第6,827,935号)。
【0087】
高親和性抗体は、結合活性および親和性を決定するための周知のアッセイを用いて同定されてもよい。そのような技術は、ELISA法、ならびに表面プラズモン共鳴またはインターフェロメトリを用いる結合決定を含む。例えば、親和性は、ForteBio(Mountain View, CA)Octetバイオセンサーも用いるバイオレイヤー(biolayer)インターフェロメトリにより決定されうる。
【0088】
典型的には本発明の抗体は、Mab166とPcrVへの結合について競合する。Mab166が結合するPcrVの領域は、同定されている(米国特許第6,827,935号)。Mab166に結合するPcrVまたはそのフラグメントは、競合的結合アッセイで使用されうる。本明細書において記載されるPcrVへの結合について抗体がMab166を阻止するかまたはMab166と競合する能力は、抗体がMab166と同じエピトープに結合するか、またはMab166が結合するエピトープに近接するエピトープ、例えば重複するエピトープに結合することを意味する。他の態様において、本明細書において記載される抗体、例えば表1に示すVH領域およびVL領域の組合せを含む抗体は、別の抗体がPcrVへの結合において競合するか否かを評価するための参照抗体として用いられうる。試験抗体の存在下で参照抗体の抗原への結合を、少なくとも30%まで、通常少なくとも約40%、50%、60%または75%まで、大抵は少なくとも約90%まで減少させた場合、試験抗体は、参照抗体の結合を競合的に阻害するとみなされる。ELISAならびにイムノブロットなどの他のアッセイを含む多くのアッセイが、結合を評価するために使用されうる。
【0089】
いくつかの態様において、抗PcrV抗体は、III型分泌配列を拮抗する必要はない。例えば、PcrVに結合する本発明の抗体は、免疫系の複数の細胞型をリクルートし、マクロファージによる食作用、マクロファージまたはNK細胞による抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体カスケードの活性化、および/または好中球による酸化的バーストの発生を刺激し、その結果、細菌、すなわちP. エルギノーサの死を引き起こすことができる。さらに、全ての抗体可変領域は、活性化された好中球により与えられる一重項酸素の酸化還元反応を触媒することができ、オゾン、炎症反応をも刺激する強力な抗菌物質(例えば、Babior et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 100:3031-3034, 2003参照)を含む、細菌に直接的に有害である様々な極めて強力な酸化剤の発生をもたらすことができる(例えば、Wentworth et al., Proc. Natl Acad. Sci USA 97:10930-10935, 2000参照)。実際、補体活性化およびオゾン発生により誘導される炎症は、免疫系のさらなる要素をリクルートし、さらに免疫性を高める可能性を有する。そのような抗体は典型的には、50 nMまたはそれ以下、通常約10 nMより低い親和性を有する。
【0090】
抗生物質と組み合わせて用いられる非中和抗PcrV抗体および中和抗PcrV抗体は、強力な治療効果を提供する。
【0091】
ヒト生殖系列配列に近いV領域配列を有する抗体の単離のための方法は、以前に記載されている(米国特許出願第20050255552号および同第20060134098号)。抗体ライブラリーを、哺乳類の細胞、酵母細胞または原核細胞を含む、適した宿主細胞中で発現させてもよい。いくつかの細胞システムにおける発現について、シグナルペプチドは、細胞外培地への直接分泌のためにN末端に導入されうる。抗体は、シグナルペプチドの有無にかかわらず、大腸菌(E. coli)などの細菌細胞から分泌されてもよい。大腸菌から抗体フラグメントをシグナルなしで分泌するための方法は、米国特許出願第20070020685号に記載されている。
【0092】
PcrV結合抗体を作製するために、本発明のVH領域の1つを本発明のVL領域の1つと組み合わせ、適切な発現システム内で多くの形式で発現させる。したがって、抗体を、scFv、Fab、Fab'(免疫グロブリンヒンジ配列を含む)、F(ab')2(2個のFab'分子のヒンジ配列間のジスルフィド結合形成により形成される)、全免疫グロブリンもしくは切断型免疫グロブリンとして、または融合タンパク質として、原核宿主細胞または真核宿主細胞において宿主細胞内または分泌いずれかにより発現させてもよい。メチオニン残基は、例えばシグナルなしの発現システムで産生されるポリペプチドにおいて、N末端に任意で存在してもよい。本明細書において記載のVH領域はそれぞれ、各VL領域と対になり、抗PcrV抗体を生じることができる。例えば、VH3 1080-2Fは、2つの異なるλ軽鎖(1080-2Fおよび1080-11E)と対を形成するライブラリーから同定された。κ鎖1069-3Fは、VF3 1069-3FとおよびVH3 1100-3と対になり同定された。重鎖および軽鎖の例示的な組合せを表1に示す。
【0093】
(表1)例示的な抗体軽鎖および重鎖の組合せ

【0094】
多くの態様において、本発明の抗体は、P. エルギノーサ III型分泌システムに拮抗し、典型的にはPcrVへの高親和性結合を示す。抗体と抗原との間の高親和性結合は、抗体の親和性が500または100 nMより低い、例えば50 nM より低い、または25 nMより低い、または10 nMより低い、または1 nMより低い、例えば約100 pMより低い場合に存在する。本発明の抗体は、例えばELISA、表面プラズモン共鳴アッセイまたはインターフェロメトリを用いてFabとしてアッセイする場合、典型的には50 nMまたはそれ以下、多くの場合10 nMまたはそれ以下の親和性を有する。表1はそのような抗体の例を提供する。
【0095】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、細胞毒性試験においてMab166より強力である。
【0096】
抗体は、原核生物発現システムと真核生物発現システムとの両方を含む、多くの発現システムを用いて産生されてもよい。多くのそのようなシステムは、商業的供給者から広く入手可能である。抗体がVH領域とVL領域との両方を含む態様において、VH領域およびVL領域を、単一のベクターを用いて、例えばジシストロニックな発現ユニット内でまたは異なるプロモーターの制御下で、発現させてもよい。他の態様において、VH領域およびVL領域は、異なるベクターを用いて発現させてもよい。本発明の抗体は、N末端のメチオニンの有無にかかわらず発現させてもよい。したがって、本明細書において記載のVH 領域またはVL領域は任意で、N末端にメチオニンを含んでもよい。
【0097】
本発明の抗体は、Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、またはdABを含む、多くの形式で産生されてもよい。本発明の抗体はまた、ヒト定常領域を含むことができる。軽鎖の定常領域は、ヒトのκ定常領域またはλ定常領域であってもよい。重鎖定常領域は、多くの場合γ鎖定常領域、例えばγ-1、γ-2、γ-3、またはγ-4定常領域である。他の態様において、抗体はIgAであってもよい。
【0098】
いくつかの態様において、抗体は、ヒトに投与される場合、「非免疫原性」である。本明細書で用いられる用語「非免疫原性」は、ヒトに投与される場合、抗PcrV抗体に対して抗体産生を誘発しない本発明のPcrV抗体を指す。抗体は、公知のアッセイ、例えば実施例5に記載の電気化学発光イムノアッセイ用いて免疫原性について評価されうる。そのようなアッセイは、患者に投与された抗PcrV抗体と反応し、患者、例えば患者由来の血清試料中に存在する抗体のレベルを検出する。アッセイは、例えば抗体を投与されていない個体由来の対照試料と比較して、抗PcrV抗体に対する検出可能な抗体が試料中に存在しない場合、抗体が非免疫原性であることを示すと考えられる。
【0099】
V. 抗体のペグ化
いくつかの態様において、例えば抗体がフラグメントである場合、抗体は、別の分子、例えばポリエチレングリコール(ペグ化)または血清アルブミンに結合され、インビボでの半減期を延長することができる。抗体フラグメントのペグ化の例は、Knight et al. Platelets 15:409, 2004 (abciximabについて); Pedley et al., Br. J. Cancer 70:1126, 1994 (抗CEA抗体について); Chapman et al., Nature Biotech. 17:780, 1999; およびHumphreys, et al., Protein Eng. Des. 20: 227,2007)で提供される。
【0100】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、Fab'フラグメントの形である。全長軽鎖は、VL領域のヒトκ定常領域またはヒトλ定常領域への融合により産生される。いずれの定常領域も任意の軽鎖に対して用いることができるが、典型的な態様において、κ定常領域がVκ可変領域と組み合わせて用いられ、λ定常領域がλ可変領域と共に用いられる。
【0101】
Fab'の重鎖は、ヒト重鎖定常領域配列、第1定常(CHl)ドメインおよびヒンジ領域に対する、本発明のVH領域の融合により産生されるFd'フラグメントである。重鎖定常領域配列は、任意の免疫グロブリンクラス由来でありうるが、IgG由来である場合が多く、かつIgGl、IgG2、IgG3またはIgG4由来であることができる。本発明のFab'抗体はまた、ハイブリッド配列であってもよく、例えばヒンジ配列が1つの免疫グロブリンサブクラス由来で、CHlドメインが異なるサブクラス由来であってもよい。好ましい態様において、CHlドメインおよびヒンジ配列を含む重鎖定常領域は、ヒトIgGl由来である。
【0102】
Fab'分子は、公知の方法を用いてペグ化されうる。重鎖のヒンジ領域は、ポリエチレングリコール誘導体への結合に適したシステイン残基を含む。ヒンジ配列は、免疫グロブリン重鎖の完全な天然のヒンジ領域であってもよいか、または1つまたは複数のアミノ酸により切断されてもよい。いくつかの態様において、ヒンジ領域は、修飾された配列または合成の配列であってもよい。さらなる態様において、ヒンジは、天然の免疫グロブリンヒンジ配列であり、2個のシステイン残基を含む。
【0103】
いくつかの態様において、Fab'分子は、部位特異的結合によりメトキシポリエチレングリコールのマレイミド誘導体(mPEG-mal)に結合されうる。mPEG-malは、例えば10から40 kDの間の平均分子量を有しうる。PEGは、分岐PEGまたは直鎖PEGであってもよい。いくつかの態様において、mPEG-malは、直鎖分子であり、約30 kDの分子量を有する。1つまたは複数のmPEG-malの分子は、各Fab'分子に結合する。mPEG分子は、チオエーテル結合を介してmPEG-malのマレイミド部分とFab'重鎖のヒンジ領域内の1つまたは複数のシステイン残基との間で結合し、ペグ化Fab'分子を形成する。mPEG-malは、タンパク質上のチオール基へのマレイミド誘導体の結合について当技術分野において公知の方法を用いるチオエーテル形成に適切なバッファー中かつ適切な条件下で結合されうる。
【0104】
Fab'は、ヒンジシステイン基が酸化型である形で発現システムから産生されてもよい。この場合、Fab'は結合の前に還元工程に供される場合がある。遊離のヒンジチオールの産生に適した還元剤およびヒンジシステインの選択的還元のための方法は、当技術分野において公知であり、ジチオスレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール、β-メルカプトエチルアミン(MEA)およびトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンなどの非チオール還元剤の使用を含む。いくつかの態様において、還元は、ヒンジシステインが選択的に還元され、ペグ化がヒンジで優先的に起こるような条件下で行われる。典型的には、ペグ化されたFab'は、ヒンジ内の両システイン残基のペグ化のため、2分子のmPEGを含む。いくつかの態様において、ヒンジ領域内に変異を導入し、システイン残基の1つを別のアミノ酸に置換してもよい。mPEG-malを用いたそのような変異の誘導体化は、モノペグ化Fab'の産生をもたらす。
【0105】
ヒンジの適した配列の例は以下である。
ジペグ化に対して天然のヒトγ-1ヒンジ THTCPPCPA
モノペグ化に対して変異体ヒンジ(Hinge)-1 THTAPPCPA
モノペグ化に対して変異体ヒンジ-2 THTCPPAPA
【0106】
例えばPEGがヒンジで導入されない、ペグ化の他の方法もまた、公知である。例えば、上記Humphreys et al.は、Fabの重鎖と軽鎖の間の鎖間のジスルフィド結合の破壊によるヒンジ領域外のシステイン残基のペグ化のための方法を記載する。
【0107】
未反応のmPEG-マレイミドおよび多数のPEG部分を含むFab'分子からペグ化Fab'を精製するための方法、および所望のモノ-またはジペグ化Fab'分子を分離するのための方法は、当技術分野において公知である。そのような方法は、例えばサイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーを含む。
【0108】
VI. P. エルギノーサ感染の治療のためのPcrV抗体の投与
本発明はまた、P. エルギノーサ感染を有するかまたはP. エルギノーサ感染を有する危険性がある患者を本発明の抗体を投与する工程により治療する方法を提供する。いくつかの態様において、そのような患者は、嚢胞性線維症、人工呼吸器関連肺炎(VAP)、癌関連好中球減少症、または熱傷を有する。本発明の方法は、疾患の治療に適した投与計画を用いて薬学的組成物としてPcrV抗体をP. エルギノーサに感染した患者に治療的有効量で投与する工程を含む。組成物は、種々の薬物送達システムで使用するために製剤化されうる。1つまたは複数の生理的に許容される賦形剤または担体もまた、適正な製剤化のために組成物中に含まれうる。本発明での使用に適した製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Philadelphia, PA, 17th ed. (1985)で見出される。薬物送達のための方法の概説については、Langer, Science 249: 1527-1533 (1990)を参照。
【0109】
PcrV抗体は、注射用無菌等張水溶液などの患者への注入に適した溶液の状態で提供される。抗体は、許容される担体中で適切な濃度で溶解または懸濁される。いくつかの態様において、担体は、水溶性、例えば水、生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水などである。組成物は、pHの調節剤および緩衝剤ならびに浸透圧調節剤などの近似生理的条件に必要とされる薬学的補助物質を含んでもよい。
【0110】
本発明の薬学的組成物は、患者、例えばP. エルギノーサ感染を有する嚢胞性線維症患者に、疾患または疾患およびその合併症の症状を治癒するのにまたは少なくとも部分的に抑えるのに十分な量で投与される。このことを成し遂げるのに適切な量は、「治療的有効量」として定義される。治療的有効量は、治療に対する患者の反応をモニターする工程により決定される。治療的有効量を示す典型的なベンチマークは、患者における感染の症状の寛解、または患者におけるP. エルギノーサのレベルの低下を含む。この使用ための有効量は、疾患の重症度、および年齢、体重、性別、投与経路などの他の要因を含む一般的な患者の健康状態に依存すると考えられる。抗体の単回投与または複数回投与は、患者が必要としかつ耐えられるような用量および頻度に応じて投与されてもよい。任意の事象において、方法は、患者を有効に治療するために十分な量のPcrV抗体を提供する。
【0111】
抗体は、単独で、またはP. エルギノーサ感染を治療するための他の治療と組み合わせて、投与されてもよい。
【0112】
抗体は、静脈内経路、皮下経路、筋肉内経路または腹腔内経路を含むがこれに限定されない任意の適切な経路を通じて、注射または注入により投与されうる。いくつかの態様において、抗体は吸入法により投与されてもよい。例示的な態様において、抗体は、注射用滅菌等張水性生理食塩水中に10 mg/mlで4℃で保存されてもよく、患者への投与の前に100 mlまたは200 mlいずれかの注射用0.9%塩化ナトリウム中で希釈される。 抗体は、0.2 から10 mg/kgの間の用量で1時間にわたって静脈内注入により投与される。他の態様において、抗体は、15分から2時間の間の期間にわたって静脈内注入により投与される。さらに他の態様において、投与手法は、皮下ボーラス注射を介する。
【0113】
抗体の用量は、患者に対して有効な治療を提供するために選択され、0.1 mg/kg体重より少ない量から25 mg/kg体重までの範囲、または患者当たり1 mg〜2 gの範囲である。好ましくは、用量は、1〜10 mg/kgまたは約50 mg〜1000 mg/患者の範囲である。用量は、抗体の薬物動態(例えば循環血中の抗体の半減期)および薬力学反応(例えば抗体の治療効果の持続期間)に応じて、適当な頻度で繰り返されてもよく、一日当たり1回から3ヶ月毎に1回までの範囲であってもよい。いくつかの態様において、約7日から約25日の間のインビボ半減期で、抗体投薬は、1週間当たり1回から3ヶ月毎に1回の間で繰り返される。他の態様において、抗体は約1ヶ月に1回投与される。
【0114】
さらなる態様において、抗体はペグ化される。例えば、本発明の抗体は、例えば本明細書において記載の方法を用いてペグ化され、P. エルギノーサに感染した患者に投与されてもよい。
【0115】
本発明のVH領域および/またはVL領域はまた、診断の目的でも用いられてもよい。例えば、VH 領域またはVL領域は、P. エルギノーサ感染を有するかまたはP. エルギノーサ感染を有する疑いがある患者由来の試料におけるP. エルギノーサの検出など、臨床解析のために用いられてもよい。本発明のVH領域またはVL領域はまた、例えば抗Id抗体を産生するために用いられてもよい。
【実施例】
【0116】
実施例
実施例1. 改変ヒト抗PcrV Fab分子の同定
エピトープに焦点をおいた改変ヒト抗体Fabライブラリーを、米国特許出願第20050255552号に記載されているように作製した。ヒト免疫グロブリン配列のレパートリーに由来するVセグメント配列を、重鎖および軽鎖のそれぞれについて選択したCDR3-FR4配列の上流にクローニングした。
【0117】
重鎖レパートリーに関して、CDRH3は、以前に同定された抗PcrVモノクローナル抗体(Mab 166; Frank et al 2002 J. Infectious Dis. 186: 64-73)に由来する、結合特異性決定基を構成するDセグメント由来配列(NRGDIYYDFTY)を含む。重鎖レパートリーの完全なCDRH3-FR4配列の配列を下記に示す。
VHlライブラリー1015に関して、用いられるCDR3-FR4の組合せは以下であった。

VH3ライブラリーに関して、用いられるCDR3-FR4の組合せは、CDRH3中のアミノ酸が1つ異なっていた。

【0118】
軽鎖レパートリーに関して、FRl-CDRL1-FR2-CDRL2-FR3を含むヒトVκ配列またはヒトVλ配列を選択されたCDRL3-FR4配列の上流に挿入した。CDRL3は、配列FWXTP(ここでXはSまたはGであることができる)を有するMab 166軽鎖由来の結合特異性決定基を含む。Vκライブラリーに関して、CDRL3およびFR4のC末端残基は、ヒト生殖系列JK2配列YTFGQGTKLEIK(CDRL3内のJK2残基に下線を引く)によってもたらされた。Vλライブラリーに関して、FR4領域は、JL2生殖系列配列FGGGTKLTVLによってもたらされた。JL2生殖系列配列は、JL3配列と同一である。
【0119】
いくつかの場合、カセットライブラリーを米国特許出願第20060134098号に記載されているように構築した(ライブラリー1070)。ライブラリー1080に関して、全長λ鎖を、VHカセットライブラリーと組み合わせてスクリーニングした。
【0120】
重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドを成熟したタンパク質として、すなわちシグナルペプチドなしで発現させ、米国特許出願第20070020685号に記載されているように、変異SecY遺伝子を発現させた大腸菌細胞中に分泌させた。従って、N末端メチオニンを伴うペプチドを発現させた。組換えFabのPcrVへの結合を、米国特許出願第20050255552号に記載されているようにGST-PcrV融合タンパク質でコーティングしたニトロセルロースフィルターを用いるフィルター結合アッセイにより同定した。結合活性をGST-PcrVでコーティングしたプレートを用いる抗原ELISAにより確認し、親和性をForteBio Octetバイオセンサーを用いるバイオレイヤーインターフェロメトリにより決定した。
【0121】
例示的な高親和性抗PcrV抗体のV領域の配列を図1および図2に示す。
【0122】
Fabはそれぞれ、PcrVに対して高い親和性を有する。複数のFabが、ForteBio(Mountain View、CA)Octetバイオセンサーを用いるバイオレイヤーインターフェロメトリにより決定されたMab166 Fabと少なくとも同程度の親和性(約1.4 nM)によって、同定された。
【0123】
記載のように同定されたVH領域およびVL領域は、種々の組合せで用いられうる。例えば、Vk軽鎖 SEQ ID NO: 12は、SEQ ID NO: 11を含むVHまたはSEQ ID NO: 3を含むVHのいずれかと組み合わせて、PcrVへの高親和性結合を支持する。
【0124】
1070-9E抗体は、米国特許出願公開第20060134098号に記載の方法を用いるV領域カセット交換により得られる高親和性抗体の一例である。この抗体を単離するために、以下の4つのV領域置換カセットを構築した。
1) 重鎖前部カセット(ヒトVH3 FR1-CDR1-FR2配列からなる)
2) 重鎖中央部カセット(ヒトVH3 FR2-CDR2-FR3配列からなる)
1) 軽鎖前部カセット(ヒトVKl FRl-CDRl-FR2配列からなる)
2) 軽鎖中央部カセット(ヒトVKl FR2-CDR2-FR3配列からなる)
各カセットを、Mab 166由来の付加V領域配列および選択されたCDR3-FR4領域と共に組み立て、かつシグナルなしのFabの分泌を可能にするために、変異SecY遺伝子を過剰発現するプラスミドで形質転換された大腸菌 TOP10細胞中でFabフラグメントとして発現させる。次いで、カセットFabライブラリーを、GST-PcrVをコーティングしたフィルター上でスクリーニングし、PcrVバインダーを同定した。次いで、PcrV結合を支持するFab由来の選択配列を組換え、かつ再スクリーニングし、PcrVへの高親和性結合を支持する完全なヒトVセグメントを同定するために再スクリーニングした。
【0125】
カセット組換えにより単離されたFab 1070-9Eは、1.48 nMの組換えPcrVに対する親和性を有し、バイオレイヤーインターフェロメトリにより決定される。
【0126】
高親和性抗PcrV Fabはまた、P. エルギノーサ III型分泌システムの強力なアンタゴニストであり、細胞に基づく細胞毒性試験においてP. エルギノーサ株PAl03によるP3-X63 Ag8骨髄腫細胞のP. エルギノーサ外毒素媒介殺傷を阻害する。
【0127】
実施例2. ペグ化Fab'
本実施例において、κ鎖のC末端システインと重鎖のシステイン残基C277(成熟タンパク質のN末端から順番に番号付けする)とを含む鎖間ジスルフィド結合により連結されるIgGlサブクラスのヒトFd'重鎖およびヒトκ軽鎖からなるFab'を、ペグ化した。組換えFd'重鎖は、IgGl CHlドメインと、還元後にマレイミド基への結合に使用可能である2個のシステイン残基を含むIgGlヒンジ領域とを含む。したがって、発現させた抗体タンパク質は、Fd'重鎖とκ軽鎖とのジスルフィドで連結されたヘテロ二量体であり、合計で452アミノ酸を含む。例示的なFd'の定常領域の配列を図3に示す。
【0128】
インビボ クリアランスの速度が低下した免疫複合体を作製し、薬物動態プロファイルを改善するために、Fab'をポリエチレングリコール(PEG)に結合させる。ジペグ化Fab'において、ヒンジシステイン残基上の2つの使用可能な反応性チオールおよびマレイミド誘導体化PEG、メトキシポリエチレングリコールマレイミド(mPEG-mal)を利用する、ヒンジ領域での部位特異的付着により、Fab'の各分子を2つの長鎖PEG分子に結合する。mPEG-mal分子をマレイミド部分とヒンジシステイン残基間のチオエーテル連結を介して結合する。
【0129】
ジペグ化Fab'を作製するために、30 kDの平均分子量を有するmPEG-malをNOF Corporationより入手した。大腸菌で発現しかつ分泌されるFab'を、2 mM EDTAを含むクエン酸ナトリウムバッファーpH 6.5中で4 mg/mlの高度で調製した。還元剤(pH 6.5で10 mM MEA)を30分間室温で添加し、反応混合物を10 mMグリシン(pH 3)および2 mM EDTAで事前に平衡化したZeba Desaltカラム(Pierce)を用いて直ちに脱塩した。mPEG-malを1時間室温で添加し、ジペグ化Fab'を、他のペグ化種および未反応Fab'からGE HealthcareのAkta精製システムでHiTrapセファロースカラムを用いて分離した。
【0130】
ジペグ化Fab'の構造を図4に概略的に示す。本実施例でペグ化される例示的なジペグ化Fab'は、PcrVに高親和性で結合する(表面プラズモン共鳴解析により決定される0.6 nMの親和性)、P. エルギノーサ III型分泌システムの強力なアンタゴニストである。
【0131】
モノペグ化Fab'は、ヒンジシステインを1つだけ含むFab'の変異誘導体を用いて作製されうる。変異ヒンジの配列は以下の通りである。
野生型ヒトγ-1ヒンジ THTCPPCPA
変異体ヒンジ-1 THTAPPCPA
変異体ヒンジ-2 THTCPPAPA
【0132】
実施例3 - P. エルギノーサ III型分泌システムに対して強力な中和活性を有する抗体およびFabフラグメントの検出のための細胞毒性試験
標的としてP3-X63-Ag8(X63)マウス骨髄腫細胞(ATCC)を用いる、TTSS依存性細胞毒性試験を確立した。細胞を、10%FBS(Hyclone)を含むRPMI 1640(Media Tech)中で培養した。約105個の細胞を、Fabの存在下で0.1 ml培地量の96穴プレートのウェル中で感染多重度(MOI)10でP. エルギノーサ株PA103に感染させた。Fabおよび哺乳類細胞の添加の前に、PAl03をMinS培地(Hauser AR et al. (1998) Infect Immun. 66:1413-1420)中で増殖させ、TTSSの発現を誘導した。種々の濃度の抗PcrV Fabと共に3時間37℃で5%CO2でのインキュベーションの後、細胞を12×75 mmフローサイトメトリーチューブに移し、製造者の使用説明書に従ってヨウ化プロピジウム(Sigma)で染色した。透過性細胞の比率をFACS Caliberフローサイトメーターを用いてフローサイトメトリーにより定量化した。データをPrism4ソフトウエア(Graphpad)を用いて解析した。(細胞毒性は未処理試料中の死細胞に基準化された)。異なるFabの力価の比較のために、50%阻害に必要とされる平均濃度(IC50)を少なくとも3つの独立したアッセイから得た。いくつかの例示的なFabの結果を下記の表2に示す。
【0133】
(表2)細胞毒性試験におけるFabの力価

【0134】
試験したFabはそれぞれ、強力なTTSSの中和、および細胞毒性からの哺乳類細胞の保護を示す。
【0135】
いくつかのFabは、このアッセイにおいてMab 166 Fabより強力である。したがって、本発明の抗PcrV抗体は典型的には、Mab 166 Fabと比べて増強された力価を示す。
【0136】
実施例4. 肺炎のマウスモデルを用いたインビボでの本発明の抗体の効果
肺炎のマウスモデルでの抗体の効果を評価するために、ヒューマニア化Fabを用いてインビボで実験を行った。Fab 1A8は、ヒトIgGlの第1の定常ドメインを含むヒトVH3サブクラス重鎖、およびヒトVKIサブクラス κ軽鎖を有する。Biacoreにより決定されたFab 1A8の親和性は、0.6 nMである。Fab 1A8は、Mab 166 Fabより約2倍高い親和性でPcrVに結合する。
【0137】
シュードモナス(Pseudomonas)肺炎の急性致死モデルを用いて、Fab 1A8のインビボ有効性をMab 166と比較して評価した。P. エルギノーサ株PA103を1.5×106 cfu/マウスの用量で気管内投与によりマウスの肺に直接滴下注入した接種原は、以前に動物の100%死亡率をもたらすのに十分であることを示した(3×LD90)(Sawa et al., Nat Med. 5:392-8, 1999)。生存および体温を48時間モニターし、この時点で生存しているマウスを肺内の細菌数の判定のために屠殺した。生存データ(図5)は、ヒトFab 1A8とマウスFabとの両方が、高い細胞毒性を有するPA103株によりもたらされる死亡を抑制できることを示した。PA103に感染させ、意味のない対照Fabで処置した対照マウスは、接種の24時間以内に全て死んだ。10 μgのMab 166またはFab 1A8によるマウスの処置は、48時間で100%のマウスの生存をもたらした。Fab 1A8は、抗体Fc領域を欠いていることから、抗体エフェクター機能は致死の防止に必要ではない。Fab 1A8は、致死の防止でMab166 Fabより有意に強力であった。Fab 1A8は、1.25 μg/マウスおよび0.625 μg/マウスの用量で致死を有意に予防し、Mab166 Fabで処置されたマウスはこの用量で100%の死亡率を示した(2.5 μg、1.25 μgおよび0.625 μg用量でFab 1A8とMab 166 Fabの差はP<0.05)。Fab 1A8の活性は、致死の防止においてMab 166 IgGの活性に匹敵する。
【0138】
Fab 1A8はまた、敗血症からの防御を示す体温の回復を誘導するのにも有効である(図6)。PA103に感染した未処置のマウスは、感染の最初の数時間内に体温の急速な低下を示す。抗体で処置した群における12〜24時間以内の体温の回復は、その後の生存と相関する。投与量1.25 μg/マウスのFab 1A8またはMab 166は、体温の急速な回復をもたらし、少なくとも80%のマウスで致死を防止した。しかしながら、この用量のマウスMab 166 Fabフラグメントは、体温回復させるには不十分であり、この群のマウスは全て、感染後48時間で死に至った。
【0139】
攻撃誘発後48時間で生存しているマウスについてさらに、肺内の残留シュードモナスの存在を解析した。驚くことには、解析したMab 166フラグメントおよびFab 1A8フラグメントは両方とも、細菌の有意なクリアランスを刺激した(図7)。48時間後、細菌数は、10 μgのFab 1A8で処置した全マウスで1.5 x 106 cfu/マウスの感染用量より少なくとも1000分の1倍に減少した。この用量のFab 1A8で処置したマウスの80%は、48時間後に肺内に検出可能なシュードモナスを示さなかった。より高い残留細菌数は、マウスMab 166 Fabで処置したマウスで検出された。ヒトFab 1A8は、この解析において全IgG Mab 166に匹敵する力価を有し、このことはFc-エフェクター機能が抗体の細菌クリアランス刺激能に有意に寄与しないことを示す。
【0140】
Mab 166最小必須結合特異性決定基を有する第2のヒューマニア化Fabについても肺炎のマウスモデルを用いてインビボで評価した。雌のBalb/cマウス(体重約20 g; Charles River)に1×106個のP. エルギノーサ株PAl03を気管内投与により接種した。インキュベーション前に、PA103細菌をYPTブロス中で37℃で一晩増殖させ、新鮮な培地で1:5に希釈し、対数期に到達するまで2時間37℃で増殖させた。培養物を室温で10分間2000×gで遠心分離し、ペレットを約8 mLリン酸緩衝整理食塩水(PBS)で再懸濁した。細菌を600 nmでの吸光度により定量し、細菌コロニー形成単位をトリプシンソイ(TS)寒天プレート(Teknova、Half Moon Bay、CA)上のコロニー増殖により検証した。気管内滴下の直前に、抗体Fab 2フラグメントを細菌と予め混合した。感染させたマウスを体温(直腸温度)および生存について48時間モニターした。
【0141】
食塩溶液だけで処置した対照マウスは、細菌の接種の24時間以内に100%死亡率を示した。10 μgのFab 2で処置したマウスは、致死を完全に防止し、Fabで処置したマウスの100%が48時間で生存した。
【0142】
したがって、本実施例は、本発明のヒューマニア化抗体がP. エルギノーサに対して強力なインビボ活性を示すことを示す。Fabは、インビボで親のM166 Fabより強力である。
【0143】
実施例5. ヒューマニア化Fabのヒトでの免疫原性についての評価
ヒューマニア化抗体ペグ化Fab'フラグメントを安全性、免疫原性および血漿/血清半減期についてヒト被験体で評価した。被験体は、静脈内(i.v.)注射により1、3、または10mg/kgで単回投与を受けた。
【0144】
ヒューマニア化抗体は全ての用量レベルで良好な耐容性を示した。血漿中の薬剤の濃度をマイクロタイタープレート上に固定化したPcrV抗原を用いるELISAにより測定した。GST-PcrVをマイクロタイタープレート上に一晩 4℃で固定化した。プレートを洗い、全ての非吸収部位をブロック/希釈バッファーの添加により少なくとも60分間ブロックした。プレートを洗った後、分析物を事前にコーティングしたマイクロタイタープレート上に分注し、少なくとも60分間インキュベートした。プレートを洗い、ヒューマニア化Fabに特的なビオチン化抗体を含む溶液を45分間添加した。プレートを洗い、HRP結合溶液を30分間添加した。最終洗浄工程の後、テトラメチルベンジジン(TMB)ペルオキシダーゼ基質溶液を添加し、約6分間インキュベートした。反応をリン酸溶液で停止した。呈色は存在するペグ化Fabの量に比例して展開する。プレートを2枚のフィルター(検出用に450 nm、バックグラウンド用に620 nm)を用いてプレートリーダーで読み取った。濃度を光学密度(OD)対濃度のプロットにより得られた標準曲線に基づいて決定した。較正曲線を4つのパラメーターのロジスティック適合を用いて作成した。ヒト血清におけるこの方法の範囲は、1%血清中で0.200から12.8 ng/mL(100%血清中で20.0 ng/mLから1280 ng/mL)である。
【0145】
ヒト被験体におけるヒューマニア化抗体の薬物動態プロファイル

【0146】
ヒューマニア化抗体は、約14日の末梢血漿半減期を有した。
【0147】
抗薬剤抗体、すなわちヒューマニア化抗体に対して産生される抗体の存在を、注入前、注入後8日目、15日目、29日目および70日目に試験した。抗薬剤抗体を電気化学発光アッセイ(ECLA)を用いて測定した。陽性対照および陰性対照血清を希釈バッファーで1:25に希釈した。対照を同量の0.8%酢酸の添加により1:2にさらに希釈し(結果として2×溶液)、次いで、周囲温度で約15分間インキュベートした。次いで、試料をラベルマスターミックス(Label Master Mix)(0.5 μg/mLの最終作用濃度の抗体-ビオチンおよび抗体-SulfoTag)でさらに1:2に希釈し、結果として最終的に1:100希釈となった。次いで、全ての対照を1時間室温で穏やかに攪拌しインキュベートした。ストレプトアビジンでコーティングした標準的なMA2400 96穴マイクロタイタープレートを希釈バッファーを添加することにより60分間ブロックした。希釈バッファーをプレートウェルから吸引により除去し、対照をプレートに加え、60分間インキュベートした。プレートを吸引し、洗浄し、かつ界面活性剤を含む1×MesoScaleDiscovery(登録商標)(MSD)Read Buffer Tを加えた。プレートを MSD電気化学発光検出器で1分間で読み取った。生じる発光量(RLU)の強度は、存在する抗薬剤抗体の量に比例する。
【0148】
いずれの時点でも抗薬剤抗体は検出されなかった。したがって、本実施例は、ヒトではヒューマニア化抗体の検出可能な免疫原性がないことを実証する。
【0149】
以下に本発明の抗PcrV抗体V領域の例示的なリストを提供する。
例示的な抗PcrV V領域



λ軽鎖を有する例示的な抗体のV領域

付加的なVL領域

【0150】
前述の本発明は、理解を明確にするために例示と実施例によって多少詳しく記載されているが、当業者は本発明の教示を踏まえ、ある一定の変更および修正が添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなく行われてもよいことを容易に理解すると思われる。
【0151】
本明細書において引用される刊行物、アクセッション番号、特許および特許出願は全て、それぞれが参照により組み込まれると具体的かつ個別に示されているように、参照により本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FWGTPを含むCDR3を含むVL領域を含み、
PcrVに選択的に結合する、
抗PcrV抗体。
【請求項2】
配列NRGDIYYDFTYを含むCDR3を有する、VH領域
を含む、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
VL領域セグメントが、ヒト生殖系列Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を有する、請求項1記載の抗体。
【請求項4】
VL領域が、ヒト生殖系列のJκlセグメント、Jκ2セグメント、Jκ3セグメント、Jκ4セグメント、もしくはJκ5セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性、またはヒト生殖系列のJλ1セグメント、Jλ2セグメント、Jλ3セグメント、もしくはJλ7セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を有するFR4を含む、請求項1記載の抗体。
【請求項5】
VL領域が、
ヒトJK2生殖系列遺伝子セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性、またはJL2生殖系列配列に対して少なくとも90%の同一性を有する、FR4;および
ヒト生殖系列のVκI配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列Vλ配列に対して少なくとも80%の同一性を有する、Vセグメント
を含む、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項6】
VL領域CDR3が配列Q(Q/H)FWGTPYTを有する、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項7】
FR4が、ヒトJH3セグメントまたはヒトJH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつVセグメントが、ヒトVHl-18サブクラスVセグメントまたはヒトVH3-30.3Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、配列NRGDIYYDFTYを有するCDR3、FR4およびVセグメントを含むVH領域
をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項8】
VH領域が、X1がI、Q、Y、またはSである配列

を有するCDR3を含む、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項9】
PcrVに結合する抗PcrV抗体であって、
X1がI、Q、Y、またはSである配列

を有する、CDR3;
X1がYである場合にFR4領域がWGQGTSVTVSSではない条件で、FR4が、ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつVセグメントが、ヒト生殖系列VHl-18サブクラスVセグメントまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、FR4およびVセグメント
を含むVH領域を含む、抗体。
【請求項10】
PcrVに結合する抗PcrV抗体であって、
X1がI、Q、Y、またはSである配列

を有する、CDR3、
X1がYである場合にFR4領域がWGQGTSVTVSSではない条件で、FR4が、ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつVセグメントが、ヒト生殖系列VHl-18サブクラスVセグメントまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、FR4およびVセグメント
を含む、VH領域;
FW(S/G)TPを含む、CDR3、
FR4が、ヒト生殖系列JK2遺伝子セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JL2セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつVセグメントがヒト生殖系列VKI Ll2配列に対して少なくとも80%の同一性、またはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列のVλ2 2cセグメントもしくはVλ3 31セグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、FR4およびVセグメント
を含む、VL領域
を含む、抗体。
【請求項11】
VH領域のFR4が、X2がTまたはMである配列WGQGTX2VTVSSを有する、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項12】
軽鎖CDR3が、配列Q(H/Q)FW(G/S)TPYTを有する、請求項9〜11のいずれか一項記載の抗体。
【請求項13】
VL領域のFR4が配列FGQGTKLEIKまたはFGGGTKLTVLを有する、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項14】
VH領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VH3-30.3セグメントに対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ
重鎖領域CDRlが、
X3がS、T、またはNであり、X4がYまたはAであり、X5がA、G、またはPであり、かつX6がM、I、またはLである配列X3X4X5X6H
を含み;かつ
重鎖領域CDR2が、
X7がV、F、またはNであり、X8がSまたはWであり、X9がDまたはNであり、X10がS、K、RまたはYであり、X11がN、S、DまたはEであり、X12がK、IまたはEであり、X13がY、S、DまたはWであり、かつX14がDまたはSである配列

を含む、
前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項15】
VH領域 Vセグメントが、VH3-30.3Vセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項14記載の抗体。
【請求項16】
CDRlが、TAGMH、SYGIH、SYGMH、SYPLH、またはNYPMHであるか;あるいは
CDR2が

である、
請求項14または15記載の抗体。
【請求項17】
CDR1がTAGMH、SYGIH、SYGMH、SYPLH、またはNYPMHであり;かつ
CDR2が

である、
請求項14または15記載の抗体。
【請求項18】
VH領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VHl-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ
CDRlが配列DHAISを有し、かつ
CDR2が配列

を有する、
請求項1〜13のいずれか一項記載の抗体。
【請求項19】
VH領域 Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項18記載の抗体。
【請求項20】
PcrVに結合する抗PcrV抗体であって、
CDR3配列

、CDRl配列DHAIS、およびCDR2配列

を有するVH領域を含む、抗体。
【請求項21】
VH領域のVセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、請求項20記載の抗体。
【請求項22】
VH領域が、SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列のVセグメント領域を含む、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項23】
VH領域が、SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項22記載の抗体。
【請求項24】
VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列のVκI L12配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも90%の同一性、またはヒト生殖系列のVλ3 31配列もしくはVλ2 2c配列に対して少なくとも90%の同一性を含む、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項25】
VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKI L12セグメントに対して少なくとも80%アミノ酸配列同一性を有し、かつ
CDRlが、
X15がQまたはEであり、X16がSまたはGであり、X17がIまたはVであり、X18がSまたはDであり、X19がS、R、またはTであり、X20がWまたはYであり、かつX21がLまたはVである配列

を有し;かつ
CDR2が、
X21がDまたはAであり、X22がS、A、またはTであり、かつX23がE、Q、またはKである配列X21ASX22LX23S
を有する、
前記請求項1〜20のいずれか一項記載の抗体。
【請求項26】
VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列 VKI L12セグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項25記載の抗体。
【請求項27】
CDRlが、配列

を有するか;あるいは
CDR2が、配列AASSLQS、DASSLKS、AASSLQS、DASALQS、またはDASTLQSを有する、
請求項25または26記載の抗体。
【請求項28】
CDRlが、配列

を有し;かつ
CDR2が配列AASSLQS、DASSLKS、AASSLQS、DASALQS、またはDASTLQSを有する、
請求項25、26または27のいずれか一項記載の抗体。
【請求項29】
VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列 VKIII L2配列に対して少なくとも80%アミノ酸配列同一性を有し、かつ
CDRlが配列RASNSVGAYNLAまたはRASQSVSSNLAを有し、かつ
CDR2が配列(A/G)AS(T/R)RA(T/P)を有する、
前記請求項1〜23のいずれか一項記載の抗体。
【請求項30】
VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列 VKIII L2セグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項29記載の抗体。
【請求項31】
VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列Vλ3 31セグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ
CDRlが配列QGDSLRS(Y/L)YASを有し、かつ
CDR2が配列(G/S)KN(N/S)RPSを有する、
前記請求項1〜23のいずれか一項記載の抗体。
【請求項32】
VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列Vλ3 31セグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項31記載の抗体。
【請求項33】
VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列Vλ2 2cセグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ
CDRlが配列

を有し、かつ
CDR2が配列(E/D)VT(K/N)RPSを有する、
前記請求項1〜23のいずれか一項記載の抗体。
【請求項34】
VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列Vλ2 2cセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項33記載の抗体。
【請求項35】
VL領域が、SEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列のVセグメントを含む、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項36】
VL領域が、SEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項35記載の抗体。
【請求項37】
シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)III型分泌システムのアンタゴニストである、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項38】
Fab'フラグメントである、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項39】
IgGである、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項40】
ペグ化されている、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項41】
ジペグ化されている、請求項40記載の抗体。
【請求項42】
VH領域アミノ酸配列もしくはVL領域アミノ酸配列、またはVH領域アミノ酸配列とVL領域アミノ酸配列との両方が、N末端にメチオニンを含む、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項43】
III型分泌システムのアンタゴニストである抗PcrV抗体であって、
SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、VH領域;ならびに
SEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、VL領域
を含む、抗体。
【請求項44】
VH領域もしくは VL領域、またはVH領域とVL領域との両方が、N末端に存在するメチオニンを有する、請求項43記載の抗体。
【請求項45】
ジペグ化Fab'である、請求項43記載の抗体。
【請求項46】
前記請求項のいずれか一項に記載の抗体を投与する工程を含む、P. エルギノーサ(P. aeruginosa)に感染した患者を治療する方法。
【請求項47】
抗体が、ヒトで免疫原性を有さない、請求項46記載の方法。
【請求項48】
抗体が、静脈内投与されるか、皮下投与されるかまたは吸入により投与される、請求項46記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−505381(P2011−505381A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536228(P2010−536228)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/085196
【国際公開番号】WO2009/073631
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(506249211)カロバイオス ファーマシューティカルズ インコーポレイティッド (12)
【Fターム(参考)】