説明

ショウガ加工食品組成物及びその製造方法

【課題】ショウガを原料としてなり、健康機能を兼ね備えた風味の優れたショウガ加工食品組成物、および該ショウガ加工食品組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】ショウガ由来の辛味成分であるジンゲロール(gingerol)とショウガオール(shogaol)を10:1〜1:10の重量濃度比で、合計0.001重量%以上含有し、香気成分であるar−クルクメンの含有量が15mg/kg以下であり、糖質の濃度が40〜90重量%であるショウガ加工食品組成物。該組成物は、ショウガ粉砕物、ショウガ絞り汁およびショウガ抽出エキスからなる群より選ばれる少なくとも1種を主原料とし、加熱工程を経た後に、50重量%〜90重量%のエタノール濃度に調製することで生じた沈殿物を除去し、ろ過物を得、該ろ過物中のエタノールを除去した後に、更に加糖することで製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショウガ加工食品組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ショウガ(Zingber officinale)は、世界各地で薬用、食用共に用いられている。ヨーロッパでは、1世紀頃から薬用として利用され、13、14世紀頃からは、香辛料としての利用が一般化した。日本では、平安時代には既に栽培されており、現在に至るまで、薬用、食用共に繁用されている。日本におけるショウガの薬用の利用法は、生薬として漢方薬に配合されることが殆どであるが、民間療法では、生姜湯として風邪の治療に用いられることも一般化している。一方、食品としての利用法は、卸したり刻んだりして薬味、吸口などに広く用いられる。また、甘酢や梅酢に漬けて、寿司に添えられるガリや紅ショウガとして用いられる。さらに魚や肉の煮物に加え、匂い消しや香辛料としても用いられる。また、生姜飴、生姜糖、ショウガシロップ、冷やし飴、ジンジャーエールなど甘味と併せて嗜好品にも用いられている(非特許文献1参照。)。
【0003】
ショウガは、生薬では、生のまま乾燥させたものは生姜(ショウキョウ)、灰をかけ蒸してから乾燥させたものは乾姜(カンキョウ)と呼ばれており、芳香性健胃薬、食欲増進、新陳代謝機能促進、鎮吐、悪寒発熱などに用いられたり、他の生薬(例えば半夏など)の副作用緩和などを目的に数多くの処方に用いられたりしている。また、中薬(漢方薬)では、生姜は「表面の熱を取り去る」といわれており、暑気払いなどに用いられ(非特許文献2参照。)、乾姜は「中を温める」といわれ、中から体を温めるのに用いられている(非特許文献3参照)。
【0004】
ショウガの成分としては、辛味成分や精油成分を中心に研究が行われており、辛味成分では、gingerol(ジンゲロール)類、ジンゲロールの加熱により産生するshogaol(ショウガオール)類などが知られている(非特許文献4参照。)。また、生ショウガ、生姜と乾姜のジンゲロール、ショウガオールの含有量に関して、生ショウガでは殆どがジンゲロールで、ショウガオールは微量しか含まれないのに対して、生姜、乾姜、と修治が進むに従ってショウガオールの量が増え、ジンゲロールの量が減ることもあきらかになっている(非特許文献5参照。)。さらに、ショウガの抗胃潰瘍作用(非特許文献6)、鎮吐作用(非特許文献7)、抗炎症作用(非特許文献8)などは、ジンゲロール、ショウガオールに活性があることが報告されている。特に、ショウガの、体を温める作用については、ジンゲロール、ショウガオール共に活性があるが、ショウガオールの方が強い活性を有することも報告されている(非特許文献9参照。)。両成分の構造は、様々な薬理作用が報告されている唐辛子の辛味成分であるcapsicin(カプサイシン)と非常に類似しており、カプサイシン受容体に結合することも知られている。これらのジンゲロール、ショウガオール、特にショウガオールは、体感できる薬理作用のみならず、食した際の刺激性も感じやすく、ショウガの嗜好面からの特徴に重要である。
【0005】
市販されているショウガシロップの多くは、生のショウガの粉砕物や絞り汁又は生ショウガ抽出エキスとシロップをまぜることで作られている。ここでいうシロップとは、主成分を糖とする糖水溶液のことである。しかし、生のショウガや生ショウガ抽出エキスでは、ジンゲロールは含まれていてもショウガオールは殆ど含まれていないことから、健康機能性で生姜、乾姜などより劣る。
【0006】
また、一部のショウガシロップは、ショウガの粉砕物等にシロップを混ぜ、加熱することでも得られているが、加熱によるar−クルクメン濃度の増加により漢方臭いウコン臭のみが強くなり、高温で加熱しない限りショウガオールの増加は期待できない。
【0007】
ショウガオールの高い含有量を期待して、乾姜をシロップで抽出又は、乾姜抽出物とシロップを混ぜることでショウガオールを含んだ機能性に富んだショウガシロップを得ることは出来るが、この場合も、乾姜の修治過程でar−クルクメンが多くなり、ウコン臭が強く、苦味も強いものとなる。
【非特許文献1】堀田満、他、世界有用植物辞典、平凡社、p1121
【非特許文献2】中薬大辞典、小学館、p1207−1210
【非特許文献3】中薬大辞典、小学館、p341−342
【非特許文献4】Yoshikawa M.et al, Yakugaku zasshi(1993);113、p307−315
【非特許文献5】Connell D.W.et al, Food. Technol. Aust(1969);21、p570−575
【非特許文献6】Yamahara J.et al, J of Ethnopharmacology(1998);23、p299−304
【非特許文献7】Kawai T.et al, Planta Medica(1994);60、p17−20
【非特許文献8】Kiuchi F.et al, Chem. Pharm. Bull.(1992);40、p387−391
【非特許文献9】Qiruong H.et al, Yakugaku zasshi(1990);110、p936−942
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、健康素材であるショウガを用い、健康機能性があり、なおかつ特有の苦味や漢方くさいウコン臭を軽減させた、これまでにないショウガ加工食品組成物を作成しようと考えた。つまり、本発明の課題は、ショウガを原料としてなり、健康機能を兼ね備えた風味の優れたショウガ加工食品組成物、および該ショウガ加工食品組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ショウガを原料としてなり、健康機能を兼ね備えた風味の優れたショウガ加工食品組成物の製造方法をについて研究を重ねた結果、生ショウガや生ショウガ抽出物を高温で加熱することで、健康機能性の優れたショウガオールの含有量を増大させ、その後、エタノールを用いた沈殿除去、エタノール除去を行うことにより、特有の香気成分が低減され、風味とショウガの辛味成分が見事に調和することで呈味性に優れた健康機能性と優れた風味を兼ね備えたショウガ加工食品組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)ショウガ由来の辛味成分であるジンゲロール(gingerol)とショウガオール(shogaol)を10:1〜1:10の重量濃度比で、合計0.001重量%以上含有し、香気成分であるar−クルクメンの含有量が15mg/kg以下であり、糖質の濃度が40〜90重量%であるショウガ加工食品組成物、
(2)前記糖質が、スクロース、グルコース、フルクトース、マルトース、ラクトース、トレハロース、乳果オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、酵素分解シロップ、デキストリンシロップからなる群より選ばれる少なくとも1種である上記(1)のショウガ加工食品組成物、
(3)前記(1)または(2)のショウガ加工食品組成物を含んでなる飲食品、
(4)ショウガ粉砕物、ショウガ絞り汁およびショウガ抽出エキスからなる群より選ばれる少なくとも1種を主原料とし、加熱工程を経た後に、50重量%〜90重量%のエタノール濃度に調製することで生じた沈殿物を除去し、ろ過物を得、該ろ過物中のエタノールを除去した後に、更に加糖することを特徴とする上記(1)または(2)のショウガ加工食品組成物を製造する方法、
(5)前記加熱工程として、100℃以上に加熱する工程を少なくとも1回行う上記(4)の方法、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ショウガの健康機能を備え、しかも苦味やくさみが低減された、風味の優れたョウガ加工食品組成物を得ることができる。本発明に係るショウガ加工食品組成物においては、ショウガ中の健康維持および呈味面で有用な成分であるショウガオールは、加熱により増加しており、且つ、苦味や臭みの原因である、ショウガを加熱することで変化する精油成分、例えばジンギベレン、ar−クルクメンが製造工程で低減され、ショウガ加工食品組成物では、ショウガ風味は残ったままで、ar−クルクメンなどは苦味や臭みを感じない程度にまで減少させることができる。さらに、加糖することにより、甘みと調和した呈味性のすぐれたショウガ加工食品組成物となり、沈澱が発生せず、微生物汚染を抑制あるいは阻止する安定性、保存性に優れたショウガ加工食品組成物となっている。従って、風味の優れた本発明に係るショウガ加工食品組成物を摂取することにより、健康の維持、増進が期待できる。
【0012】
また、本発明に係るショウガ加工食品組成物は、前記のように良好な風味に改善されていることから、従来のショウガの用途より幅広い各種加工食品や飲料の原料として使用可能となる。例えば、シロップとしてそのまま使用することはもちろんのこと、健康飲料、ゼリー、スナック菓子、飴、グミ、アイスクリーム、シャーベットなど幅広く適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るショウガ加工食品組成物は、生ショウガや生ショウガ抽出物などを主原料とし、高温での加熱、その後のエタノールを用いた沈澱除去、ろ過物のエタノールの除去、さらに加糖することで得られる。
【0014】
主原料とするショウガ成分は、ショウガが主原料であれば特に形態は制限されるものではなく、根ショウガをそのまま潰し繊維質を残したショウガ粉砕物、圧搾し絞り汁だけ回収したものショウガ絞り汁、あるいは生ショウガを水またはエタノールなどの有機溶媒で抽出したショウガ抽出物などでも良い。加熱やエタノールの添加、除去等の製法を使うため、原料としてはショウガ絞り汁を用いた場合が最も効率的に目的とするショウガ加工食品組成物を製造できると考えるが、ショウガの産地や品種は特に制限されない。
【0015】
本発明では、ショウガを加熱する際の温度は、ショウガオールの生成が起こっていれば何度、何時間でも良いが、費用の面や風味の面からも、100℃以上であればよく、100〜150℃、0.5〜5時間、特には120℃、2時間程度が望ましい。
温度が高ければ、ジンゲロールからショウガオールへの変化量が多くなり、時間が短くてすむ。また、加熱時には加圧を行ってもよい。
【0016】
本発明でショウガ加工食品組成物に使用する糖質としては、スクロース、グルコース、フルクトース、マルトース、ラクトース、トレハロース、乳果オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、酵素分解シロップ、デキストリンシロップなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよく、食品に使用できるものであれば特に限定されるものではない。また、濃度は、40重量%から90重量%であればよいが、呈味性、安定性、保存性の観点から70〜80重量%がより好ましく、さらには75重量%程度が望ましい。前記糖質は加糖工程で使用するものである。
【0017】
本発明で使用するエタノールは、食品で使用できるものであれば特に制限は無く、一般的には醸造アルコールや発酵エタノールがあげられる。加えるアルコール量は、でんぷんの沈澱が起これば制限が無いが、濃度は50重量%から90重量%が望ましく、風味の点から60〜80重量%、さらには70重量%がより望ましい。ただし、最終製品に0.5重量%以上のエタノールが残留しないように除去する。
【0018】
以上のようにして得られる本発明のショウガ加工食品組成物は、ショウガ由来の辛味成分であるジンゲロール(gingerol)とショウガオール(shogaol)を10:1〜1:10の重量濃度比で、合計0.001重量%以上含有し、香気成分であるar−クルクメンの含有量が15mg/kg以下であり、糖質の濃度が40〜90重量%である。
【0019】
前記ジンゲロールとショウガオールの合計量は、ショウガ加工食品組成物中において、辛味を感じやすくなる観点から、0.005重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、また辛味を適度に保つ観点から、1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下に調整することが望ましい。
【0020】
また、本発明のショウガ加工食品組成物は、香気成分であるar−クルクメンの量が15gm/kg以下である点に大きな特徴があり、ar−クルクメンの量が顕著に低減されていることで、従来のショウガ加工品が有していた漢方薬のような臭い(ウコン臭)が抑えられたものとなる。
【0021】
本発明に係るショウガ加工食品組成物は、ショウガ加工食品組成物としてそのまま食したり、希釈して飲用したりしてもよいが、二次加工することにより用途は飛躍的に拡大する。つまり本ショウガ加工食品組成物の特徴を有した各種の飲食品として応用できる。他のビタミンCなどの健康素材と組み合わせた健康飲料、デザート用のゼリー、嗜好性のスナック菓子、飴、グミ、アイスクリーム、シャーベットなど幅広く適用できる。ソフトカプセルなどに含有させたサプリメントの製造も可能であり、適用範囲は極めて広い。
【0022】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これにより本発明はなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
実施例1(ショウガ加工食品組成物の製造)
生ショウガ(市販の高知県産土ショウガ)を搾汁し生ショウガ汁を得た。生ショウガ汁500gを、115℃で2時間攪拌しながら加熱した。圧縮ろ過後、エタノールを濃度が70%になるように加え、一晩静置した。一晩静置したものを圧縮ろ過後、ろ液の加熱濃縮を行い、エタノールを除去し、果糖ブドウ糖液糖を添加、糖濃度を75重量%にし、ショウガ加工食品組成物を得た。得られたショウガ加工食品組成物を官能評価したこところ、ジンゲロールやショウガオールの辛味があり、ショウガ由来の香りはするものの、加熱したショウガ特有のウコン臭や苦味の少ないクリアーな風味を有するものであった。
【0024】
実施例2(辛味成分の定量)
ショウガ加工食品組成物の辛味成分の定量と、ジンゲロールとショウガオールの比を検討するために、生ショウガ汁、実施例1で得られたショウガ加工食品組成物のジンゲロールおよびショウガオールを次のように定量した。生ショウガ汁およびショウガ加工食品組成物中1gにエタノール(和光純薬製)0.5ml加え、撹拌した後、0.45μmのフィルターにてろ過し被験試料とした。定量にはHPLC(Waters製アライアンス)を用いた。カラムはC18(資生堂カプセルパックUG−120、4.6mm×250mm)、溶媒の条件は、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)含有アセトニトリルと0.1%TFA含有水の混合割合を、0.1%TFA含有アセトニトリル30%から100%まで、1%/分の条件でグラジェント分析を行った。検出はUV−vis検出器(Waters製)により実施した。その結果、生ショウガ汁1g中のジンゲロール(0.155mg)、ショウガオール(0.001mg)であり、ショウガ加工食品組成物1g中ジンゲロール(0.114mg)、ショウガオール(0.053mg)であった。
ジンゲロールとショウガオールの比は、生ショウガ汁がジンゲロール:ショウガオール=155:1であるのに対し、ショウガ加工食品組成物ではジンゲロール:ショウガオール=2.15:1となり、ショウガオールの割合が増えているのが確認できた。
【0025】
比較例1(乾姜との比較)
多くの健康機能性を有し、ショウガオールの含有量が多くなっている乾姜についても、辛味成分の定量と比を検討した。乾姜を70%エタノールで抽出し、濃縮、加糖した加糖組成物についても実施例2と同様の方法で、ジンゲロール、ショウガオールについて定量を行った。すなわち、乾姜10gを粉砕し70%エタノール100mlを加え、3時間加熱還留し、ろ過後エタノールを減圧留去し、加糖し全量が30gになるように調整した。乾姜加糖組成物1gにエタノール0.5gを加え、ろ過後、被験試料とした。その結果、乾姜加糖組成物1gにジンゲロール(0.112mg)、ショウガオール(0.076mg)であった。ジンゲロールとショウガオールの比は、ジンゲロール:ショウガオール=1.47:1であった。
実施例2と比較例1の結果から、実施例1で得られたショウガ加工食品組成物は、乾姜から作成した加糖組成物に近い量と比でジンゲロール、ショウガオールを含有しており、同様の健康機能性が期待できる。
【0026】
試験例1(香気成分の比較)
ショウガ加工食品組成物の製造工程での香り成分量の変化を検討する為、生ショウガ汁の加熱物(サンプルE)、エタノール添加・濃縮後のショウガ汁(サンプルF)、乾姜(サンプルG)のガスクロマトグラフィー−質量分析計(GC−MS)分析を行った。使用機器は、Inter−cap WAX(0.25mmid×30m、膜厚0.25μm、GLサイエンス社製)、GC−MSは、JMS−Q1000GC K9(日本電子社製)を用いた。試料注入方法は、ヘッドスペース(HS)法を用い、条件は、前加熱(80℃、30分)、注入口温度(250℃)、注入量(2ml)で行った。また、GCの条件は、温度条件(40℃で5分→230℃まで5℃/分→230℃で5分)、スプリット(比:5.6)、キャリアガス(ヘリウム)で行った。サンプルFは、サンプルEの一部(3g)にエタノールを70重量%になるように加え、一晩放置後ろ過し、エタノールを減圧除去し、水を加えて3gに調整した。乾姜(サンプルG)は、10gを粉砕し70%エタノール100mlを加え、3時間加熱還留し、ろ過後エタノールを減圧除去し、水を加えて全量が30gになるように調整した。各サンプル1gを試料として測定をおこなった。
なお、サンプルE、Fの加熱処理、エタノール添加処理、濃縮処理は実施例1に準じて行った。
各サンプルの精油成分のジンギベレン、ar−クルクメンのGC−MSによる分析クロマトグラムを図1に、クロマトグラム上の面積値を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
サンプルE、Gは、精油成分であるジンギベレン、ar―クルクメンなどが大量に含まれている。しかし、Fは含まれているものの20分の1以下に減少している。また、ウコン臭は官能的にもG>E>Fで弱くなっており、ar−クルクメンがウコン臭の一因であることが示唆された。
【0029】
試験例2(ar−クルクメンの定量)
揮発する風味として顕著な差が確認されたことから、液中の成分定量を行った。定量にはHPLCを用いた。試料は、各サンプルを1gずつに、メタノールを加え5mlずつにし、撹拌後0.45μmのフィルターにてろ過し作成した。カラムはC18、溶媒の条件は、0.1%TFA含有アセトニトリルと0.1%TFA含有水の混合割合を、0.1%TFA含有アセトニトリル75%で10分間流し、75%から100%まで、1%/分の条件でグラジェント分析を行った。検出はフォトダイオアレイ検出器により215nmで検出した。各サンプル1g中のar−クルクメンの含有量は、サンプルE(145.3μg)、F(29.8μg)、G(256.9μg)となった。
【0030】
さらに、サンプルFに、実施例1に準じて果糖ブドウ糖液糖を加えて糖質75重量%となるように調整し、ショウガ加工食品組成物を完成させた。この組成物中のar−クルクメン含有量を、同様に測定したところ、1g中に7.5μgとなった。
これらの結果から、原料である生ショウガや生ショウガ抽出物のar−クルクメンの含有量、及び製造工程での誤差等も考えられる為、ショウガ加工食品組成物1g中のar−クルクメンの含有量が、15μg以下であれば、苦味や薬臭いウコン臭を感じることが少なく、ウコン臭さや苦味を軽減できていると考えられる。
【0031】
試験例3(苦味、ウコン臭の低減の工程確認)
サンプルEとFでは、精油量が20分の1以下に減少しており、その間の製造工程はエタノール添加、ろ過、濃縮である。精油の減少理由を探す為、ろ過後の残渣(H)、濃縮時の廃液(I)について実施例3と同条件で測定を行った。サンプルHは、エタノールで洗浄、乾燥し、0.5gに対し水0.5gを加えて試料とした。Iは、そのまま3g分を試料とした。各サンプルの精油成分のジンギベレン、ar−クルクメンのGC−MSによる分析を試験例1と同様に行ったところ、サンプルH、IともにサンプルE、Fに比べて濃度が薄いが、精油成分が含まれていた。
【0032】
サンプルHの味ついては苦味があり、一般的に精油成分、特にar−クルクメンが分類されているテルペンには、弱いながら苦味があることが知られている。このことと、試験例1〜3の結果から、本発明の製造工程の特徴でもあるエタノール添加、ろ過、濃縮の工程で苦味やウコン臭のもとである精油成分が減少することが明らかになった。
【0033】
試験例4 (官能評価)
健康機能性が期待できる本ショウガ加工食品組成物(実施例1で得られたもの)と乾姜加糖組成物について、10名の被験者に官能評価試験を行った。被験者は、ショウガ加工食品組成物→乾姜加糖組成物の順で摂取し、「辛味」、「苦味」、「ウコン臭(漢方臭)」、「効果感」について表2に示す5段階で評価した。なお、ショウガ加工食品組成物と乾姜加糖組成物は、水で10倍希釈したものを使用した。また、官能検査時に際し試料の試飲間には、ぬるま湯等でのうがいと3時間の間隔をあけるようにし、特に効果感について前サンプルの持込がないようにした。
得点の平均点をグラフ化したものを図2〜5に示した。
【0034】
【表2】

【0035】
図2〜5の結果から、ショウガ加工食品組成物と乾姜加糖組成物において、辛味、効果感などのプラスの評価は、共に十分感じられる結果となった。また、苦味やウコン臭(漢方臭)などの、マイナスの評価は、ショウガ加工食品組成物において、乾姜加糖組成物より下がっており、苦味やウコン臭が軽減したことを示している。
【0036】
以上の結果から、本発明品であるショウガ加工食品組成物は、ジンゲロール、ショウガオールなどに由来するショウガの健康機能性が期待でき、さらに苦味や漢方臭いウコン臭の低減されていることが明らかになった。また、このことは、官能評価試験の結果からも支持される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明により、ショウガの健康機能を兼ね備え苦味や臭みが低減された風味の優れたショウガ加工食品組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、生ショウガ汁の加熱物(サンプルE)、エタノール添加・濃縮後のショウガ汁(サンプルF)、乾姜(サンプルG)のGC−MSクロマトグラムを示している。EとGの感度は、1.6×108、Fは1.6×107で表示している。
【図2】図2には、試験例4で得られたショウガ加工食品組成物と乾姜加糖組成物との辛味の評価結果を示している。
【図3】図3には、試験例4で得られたショウガ加工食品組成物と乾姜加糖組成物との苦味の評価結果を示している。
【図4】図4には、試験例4で得られたショウガ加工食品組成物と乾姜加糖組成物とのウコン臭の評価結果を示している。
【図5】図5には、試験例4で得られたショウガ加工食品組成物と乾姜加糖組成物との効果感の評価結果を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショウガ由来の辛味成分であるジンゲロール(gingerol)とショウガオール(shogaol)を10:1〜1:10の重量濃度比で、合計0.001重量%以上含有し、香気成分であるar−クルクメンの含有量が15mg/kg以下であり、糖質の濃度が40〜90重量%であるショウガ加工食品組成物。
【請求項2】
前記糖質が、スクロース、グルコース、フルクトース、マルトース、ラクトース、トレハロース、乳果オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、酵素分解シロップ、デキストリンシロップからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のショウガ加工食品組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のショウガ加工食品組成物を含んでなる飲食品。
【請求項4】
ショウガ粉砕物、ショウガ絞り汁およびショウガ抽出エキスからなる群より選ばれる少なくとも1種を主原料とし、加熱工程を経た後に、50重量%〜90重量%のエタノール濃度に調製することで生じた沈殿物を除去し、ろ過物を得、該ろ過物中のエタノールを除去した後に、更に加糖することを特徴とする請求項1または請求項2記載のショウガ加工食品組成物を製造する方法。
【請求項5】
前記加熱工程として、100℃以上に加熱する工程を少なくとも1回行う請求項4記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−124786(P2010−124786A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304666(P2008−304666)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】