説明

ショットピーニング装置

【課題】微細デインプルを形成するため、極微小粒子を安定して広範囲に分散させて投射することが可能なショットピーニング装置を提供する。
【解決手段】投射粒子Pを収容する粒子収容タンク2と、粒子収容タンクと連通し、投射粒子を被加工物14に投射するためのノズル12とを備え、投射粒子の粒径より大きい粒径を有する混入粒子Mが、粒子収容タンクに収容され、混入粒子を通さないようフィルター5を経由して投射粒子を投射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の表面改質を行うショットピーニング加工に使用されるショットピーニング装置に関する。詳細には、所定の粒子収容タンクと二重管ノズルとを備えるショットピーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、表面改質技術の一つであるショットピーニング加工は、被加工物の表面に被加工物よりも硬い鋼やガラス・セラミックスなどの球状粒子を遠心力や圧縮空気を利用して高速で投射することによって疲労強度の向上を目的として航空機部品をはじめとして自動車部品やバネなどに適用されている。
【0003】
近年では、そのショットピーニング加工を疲労強度向上の目的だけではなく、摩擦が発生する摺動部材の摺動面の接触面積を減少させ摩擦抵抗を減少させることや、潤滑剤となる油の貯蔵部、摩擦によって発生した焼付きの原因となる磨耗粉の収納部としての働きのあるディンプルの形成、いわゆるテクスチャリングを目的として広く利用されつつある。その際使用される球状粒子は、従来のショットピーニング加工に使用される0.8mm程度の粒子ではなく、150μm以下の極微小粒子である。これによって、微細なディンプルを形成し、ショットピーニング加工によって表面近傍に得られる高い圧縮残留応力は損なわず、ショットピーニング加工によって生成される疲労破壊の原因となる初期亀裂の生成を抑制している。
他方、研削や研掃を目的とした比較的大きな粒径の角状粒子を投射するためのエア式ショットブラストでは、二重管構造を有する二重管ノズルに係る発明がなされている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11―77545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、初期亀裂を更に抑制する場合や摩擦抵抗を低減するための制御された表面形状を形成する場合、従来のエア噴射式ショットピーニング装置では10μm以下の極微小粒子を投射するとき、その極微小粒子に凝集が起こることにより凝集二次粒子が生成される。この凝集二次粒子の影響により、被加工物の表面に局所集中した変形痕や深い凹凸が形成されるだけでなく、粒子収容タンクからノズルまでの搬送を妨げて脈動による不安定な流量でのショットピーニング加工を引き起こしてしまう。
【0006】
また、特許文献1に記載された発明では、前述したように大きな粒径の角状粒子を低速度で投射することや、ノズルの磨耗の低減を目的としており、テクスチャリングに必要な微細なディンプルの形成を可能とする極微小粒子を投射するには適していないのが現状である。
【0007】
そこで、本発明では微細ディンプルを形成するために必要となる個々に離散した極微小粒子の状態を生成・維持したまま搬送する機構をもつ粒子収容タンクと、その個々に離散した極微小粒子を微量で安定した流量で、かつ広範囲に分散させて投射することが可能となる構造を有する二重管ノズルによってショットピーニング加工を可能としたショットピーニング装置を提供することを目的とする。
[課題を解決するための手段及び発明の効果]
上記課題を解決するための本発明に係るショットピーニング装置は、投射粒子を収容する粒子収容タンクと、前記粒子収容タンクと連通し前記投射粒子を被加工物に投射するためのノズルとを備え、前記投射粒子の粒径より大きい粒径を有する混入粒子が前記粒子収容タンクに収容され、前記混入粒子を通さないようフィルターを経由して前記投射粒子が投射される。
【0008】
好ましくは、前記投射粒子の粒径が150μm以下である。
また好ましくは、前記投射粒子を加圧して前記被加工物に投射するための圧縮ガスが、前記粒子収容タンクに収容された前記投射粒子の下部において同タンク内へ導入される。
【0009】
また好ましくは、前記粒子収容タンクの底部の内面形状が半球面である。
また好ましくは、垂直方向軸に沿って所定の長さを有し上方端が閉じられた粒子導入管が前記粒子収容タンクと連通接続し、前記投射粒子が、前記粒子導入管の上方端の近傍に連通接続されたパイプを通り前記ノズルを経由して投射される。
【0010】
また好ましくは、前記ノズルが内側ノズルと外側ノズルとを有する二重管ノズルであり、前記内側ノズルの遠位端が、外側ノズルの遠位端に対して所定距離だけ突出する。
また好ましくは、前記所定距離が10mm以下である。
【0011】
また好ましくは、前記外側ノズルの遠位端近傍の貫通孔の内径が絞られる。
本発明に係るショットピーニング装置によれば、凝集二次粒子が解砕することにより異常痕の発生を抑制するという有利な効果を奏することができる。また、投射粒子の射角を大きくして広範囲にわたって投射粒子を投射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るショットピーニング装置の一実施例の断面正面図である。
【図2】図1中、本発明に係る二重管ノズルの一実施例の断面正面図である。
【図3】被加工物に形成された異常痕を示すための図である。
【図4】異常痕が形成されていない被加工物の表面を示す図である。
【図5】図1中、本発明に係る粒子収容タンクの一実施例の一部断面正面図である。
【図6】従来例である直圧式ショットピーニング装置の斜視図である。
【図7】回転する被加工物を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0013】
図1中、本発明の一実施例であるショットピーニング装置1は大略、粒子収容タンク2と二重管ノズル10とを備える。粒子収容タンク2はタンク部3を有する。タンク部3は、筒状部3aと、筒状部3aの上方の一端を閉じる蓋部3bと、筒状部3aの下方の他端を閉じる底部3cとを備える。第1の開口部3eは、蓋部3bの略中央に設けられる。第2の開口部3fは、第1の開口部3eから所定距離離間して蓋部3bに設けられる。底部3cの内面の形状は、同図中、実線で表されるように、半球面3dである。なお、同図中、一点鎖線で表されるように、筒状部3aの内面と略直交する平面3d’でもよい。底部3cの内面形状が平面3d’の場合、平面3d’と筒状部3aの内面とは角部Rを形成する。
タンク部3内には、被加工物14に対して投射される投射粒子としての極微小粒子Pと、極微小粒子Pの粒径より大きい粒径を有する混入粒子Mが収容される。フィルター5(例えば、金網)は第1の開口部3e内に嵌設される。フィルター5の目は、極微小粒子Pを通すことができるが、混入粒子Mを通さないように形成される。
粒子導入管6は、長手方向(垂直方向)軸に沿って所定長さを有する筒部6aを備え、筒部6aの上方端6bが閉じられるとともに、下方端6cは開口している。粒子導入管6は、下方端6cにおいて、第1の開口部3eを経由してタンク部3に対して気密的に連通するように蓋部3bに取り付けられる。粒子導入管6は、上方端6bの近傍において筒部6aに連通する管状の分岐部6bを有する。分岐部6bの開放端には、粒子導入管6と二重管ノズル10とを接続するパイプ7が気密的に繋がれる。なお、同図の一点鎖線で示すように、粒子導入管6が粒子収容タンク2に設けられるのではなく、パイプ7’がタンク部3に対して直接的に連通してもよい。
ガス導入管4は、第2の開口部3f内に嵌挿されてタンク部3に対して気密的に連通する。圧縮ガス(例えば、圧縮空気)は、ガス導入管4の上方端4aからタンク部3内へ導入される。ガス導入管4の下方端4bは、極微小粒子P内に埋設される。
図2中、二重管ノズル10は、長手方向軸に沿って延びる貫通孔11aを有する外側ノズル11と、長手方向軸に沿って延びる貫通孔12aを有する内側ノズル12とを備える。貫通孔11dを有する蓋部11cは、外側ノズル11の近位端11bに設けられる。内側ノズル12は、貫通孔11d内に嵌挿されて、内側ノズル12の外周面12cと外側ノズル11の貫通孔11aの内周面とが所定間隔離間するよう外側ノズル11に対して同心的に配設される。内側ノズル12は、近位端12bにおいて導入パイプ7と接続して連通する。
内側ノズル12の遠位端12dは、外側ノズル11の遠位端11fに対して距離Lだけ突出する。11gは貫通孔11aの内径を示す。同図において2点鎖線で示すように、外側ノズル11の遠位端11f近傍においてテーパーが設けられてもよい。11g’は、上記テーパーが設けられた場合の外側ノズル11の遠位端11fにおける貫通孔11aの内径を示す。
分岐管13は外側ノズル11に気密的に連通し、粒子加速用圧縮ガス(例えば、圧縮空気)を外側ノズル11内に送り込むために使用される。
上述したように、極微小粒子を用いたショットピーニング加工は一般的に、極微小粒子の凝集が起こりやすい。凝集二次粒子が解砕されずに被加工物に投射されると、図3に示すように、被加工物14の加工表面14aに局所集中した変形痕や深い凹凸14b(以下、「異常痕(14b)」という。)が形成される。異常痕14bは、痕中央部に複数の微細なディンプルが集中形成される。加えて、異常痕14bの外周部において、凝集していた極微小粒子が被加工物との衝撃によって解砕され、投射によって発生したエネルギーが方向を変えることによって、異常痕14bは、球痕ではなく楕円痕を呈することを特徴とする。なお、凝集二次粒子が十分に解砕されて被加工物に投射されると、図4に示すように、被加工物14の加工表面14aに異常痕14bはみられない。
[実験の概要]
本発明に係るショットピーニング装置1の粒子収容タンク2、二重管ノズル10を用いてショットピーニング加工することにより、異常痕14bの形成を減じ且つディンプル形成範囲を狭小から広範囲に制御することが可能となる。このことを検証すべく以下の実験を実施した。
実験では、段階的に条件を変化させて個々の効果を確認した。被加工物に形成された投射痕の評価は、各条件下の被加工物の投射痕からおおよそ500個の視野(40μm×60μmの範囲)を無作為に抽出し、市販のマイクロスコープを用いて観察することにより実施した。
[実験1]
本発明に係る粒子収容タンク2の効果を確認するために行った実験1の結果を表1に示す。実験1は、混入粒子Mの材質、ガス導入菅4の下方端4b(出口)の極微小粒子Pに対する垂直方向(縦方向)位置(表1において、「ガス導入菅の位置」という。)、タンク部3の底部3cの内面形状を変更して実施した。
極微小粒子Pに対する垂直方向(縦方向)位置(ガス導入菅の位置)について説明する。ガス導入菅4の下方端4bはタンク部3に収容された極微小粒子P内に埋設される。図5において実線で示すように、ガス導入菅4の下方端4bは、極微小粒子Pの上部(すなわち、極微小粒子Pの上面近傍)に配設された状態で実験に供された(表1において、「ガス導入菅の位置」が「上部」とあらわす。)。また、一点鎖線で示すように、ガス導入菅4の下方端4b’は、極微小粒子Pの垂直方向略中央部に配設された状態で実験に供された(同「中央部」とあらわす。)。更に、二点鎖線で示すように、ガス導入菅4の下方端4b’’は、極微小粒子Pの垂直方向略下部に配設された状態で実験に供された(同「下部」とあらわす。)。なお、上記「下部」の場合、ガス導入菅4の下方端4bは粒子収容タンク3の底面には触れないが、同底面に近接する。タンク部3の底部3cの内面の形状は、半球面3dの場合と平面3d’の場合について実験した(図1参照)。
表1に示した条件以外の条件は、実験1を通じて全て同一である。すなわち、図1の一点鎖線で示すように、パイプ7’は、粒子導入管6を介することなく、タンク部3に対して直接的に連通する。図5に示すように、ガス導入菅4の下方端4bの水平位置は、粒子収容タンク2の垂直方向中心軸Cからずれて配置される。粒子収容タンク3には、ガス導入菅4を経由して0.3MPaの圧力の圧縮空気が導入される。二重管ノズル10の分岐管13から送り込まれる粒子加速用の圧縮空気の圧力は0.5MPaである。二重管ノズル10の外側ノズル11の貫通孔11aの形状及び内側ノズル12の貫通孔12aの形状はいずれもテーパーが付けられていないストレート構造である。内側ノズル12の遠位端12dの突出距離Lは0mmである。また、極微小粒子Pとして、平均中心粒径10μmのガラスビーズを使用する。混入粒子Mの平均中心粒径は、極微小粒子Pの平均中心粒径より大きい5mmである。
比較のために、従来のショットピーニング装置としての吸引式ショットピーニング装置及び直圧式ショットピーニング装置を夫々使用した実験結果を表1中に比較1及び比較2として示す。ここで、吸引式ショットピーニング装置(図示せず)は、霧吹きの原理と同様に、極微小粒子(研磨材)を直接加圧するのではなく、粒子収容タンクに収容された極微小粒子をノズルに送られる空気の流れによって引き寄せ、投射する。
直圧式ショットピーニング装置は、図6に示すように、極微小粒子(投射粒子)が収容された粒子収容タンク21にガス導入管22を経由して圧縮空気を送り込むことによりタンク21を加圧する。同図中、参照番号24は、両端に一対の開口を有する主管部24aと主管部24aに対して一端において気密的に連通する枝管部24bとを備える一般的なT型分岐管を示す。タンク21は枝管部24bの他端に対して気密的に連通するように接続される。粒子加速用管23は主管部24aの一端の開口に対して、二重管ノズル(図示せず)に連通するパイプ25は主管部24aの他端の開口に対して、気密的に連通するよう夫々接続される。粒子加速用圧縮ガス(例えば、圧縮空気)が粒子加速用管23を経由して同図中A方向に送り込まれることにより、極微小粒子が二重管ノズルを経由して被加工物(図示せず)に対して投射される。
【0014】
【表1】

【0015】
この実験によって得られた凝集痕が観察された視野(40μm×60μmの範囲)の数(凝集痕視野数)と、凝集痕の総数(凝集痕総数)と、観察した視野の数(観察視野数)とを表2に示す。凝集痕が観察された視野の数(凝集痕視野数)と凝集痕の総数(凝集痕総数)との関係について説明すると、1つの視野に凝集痕が複数観察される場合があるが、その観察される凝集痕の総数を「凝集痕の総数」という。例えば、1つの視野に凝集痕が2つ見られる場合は、凝集痕の総数は2つである。
実験1の結果より、混入粒子Mの材料として、ゴムのような反発係数が大きい弾性材料だけでなく、スチールやセラミックなどのような弾性材料以外の材料を使用した場合であっても、凝集痕を減少できることがわかる。したがって、混入粒子の材質の相違によって凝集痕総数に大きな差は生じないと考えられる。すなわち、スチールやセラミックなどのような弾性材料以外の材料を本発明に使用可能できることが明らかとなった。
【0016】
また、ガス導入菅4の下方端4bの位置(圧縮空気導入位置)を下部に設定し、タンク底面3cの内面形状を半球面3dとすることにより、凝集痕を効果的に減少できることがわかる。この場合、ガス導入菅4の下方端4bの位置は、タンク部3の底部3cの内面の半球面3dの湾曲側面の上方近傍にあることが好ましい。その理由は、圧縮空気により加圧された極微小粒子Pが底部3cの半球面3dの上記湾曲側面に沿うよう下方から上方へ向って(図1中、矢印Fで示す。)流れることによって、凝集二次粒子が効果的に解砕されるからであると考えられる。
【0017】
【表2】

【0018】
[実験2]
実験1の結果をさらに検証するために、実験2を実施した。実験1の結果を踏まえ、実験2は、ガス導入管4の下方端4bの位置を極微小粒子Pの下部とし、タンク部3の底部3cの内面形状を半球面3dとし、混入粒子Mの材質のみを変更して行われた。なお、粒子混合用及び粒子加速用の圧縮空気の圧力、外側ノズル11の形状及び内側ノズル12の形状、極微小粒子P、混入粒子M、並びに突出距離Lは、実験1と同様である。
【0019】
実験2の結果を表3に示す。この実験結果によれば、混入粒子Mの材質にかかわらず、凝集痕総数及び観察視野数はともに0になった。すなわち、投射する極微小粒子Pよりも大きい粒子Mを混入し、粒子混合用圧縮空気を極微小粒子の下部より導入し、かつタンク底部の内面の形状を半球面とすることによって、凝集の起こりやすい極微小粒子を個々に離散した状態で投射することが可能であることがわかる。
【0020】
【表3】

【0021】
[実験3]
実験1,2では極微小粒子Pとして平均粒径10μmのガラスビーズを使用したが、摺動部品へのテクスチャリングや軟質材料への圧縮残留応力付与を行う場合、約150μmの中心粒径を有するスチールやガラスなどの粒子を使用することがある。したがって、約150μmの中心粒径を有するスチール、ガラスの粒子を使用して、実験3を実施した。なお、混合粒子Mの材質をゴムとした。投射に用いた極微小粒子Pの条件以外は、実験1,2と同様である。
実験3の結果を表4に示す。この実験結果によれば、ガラス、スチールともに、粒径が大きくなると、凝集痕視野数及び凝集痕総数の数値が増加した。すなわち、投射される極微小粒子Pの粒径が大きくなると、粒子混合用圧縮空気を極微小粒子の下部より導入し、かつタンク底部の内面の形状を半球面とするだけでは、凝集二次粒子の発生を完全に排除することができないことがわかる。
【0022】
【表4】

【0023】
[実験4]
実験4では、実験1−3とは異なり、図1の実線で示すように、パイプ7は、粒子導入管6の分岐部6bに接続されて、粒子導入管6を介してタンク部3に対して連通している。粒子導入管6の目的は、凝集によって発生した凝集二次粒子と個々に離散した極微小粒子Pとの質量差を利用して、凝集二次粒子の選別することである。実験4は、上述した凝集二次粒子を選別する効果を検証すべく、粒子導入管6の筒部6aの長手方向(垂直方向)軸に沿う長さを変えて実験した。その他の条件は上述した実験と同様である。
実験4の結果を表5に示す。投射される極微小粒子の中心粒径が大きい場合(例えば、ガラスの中心粒径が150μm、スチールの中心粒径が100μm又は150μm)であっても、所定長の粒子導入管6を有する粒子収容タンク2を使用したときは、凝集痕視野数及び凝集痕総数の数値が減少し、凝集二次粒子の発生を排除することができる。すなわち、極微小粒子Pの中心粒径が小さい場合では特に必要とされないが、極微小粒子Pの中心粒径が大きい場合や材質が多種にわたった場合、長手方向軸に沿う所定長さを持つ粒子導入管6を粒子収容タンク2に設けることにより、凝集二次粒子を確実に選別して、凝集二次粒子がノズルから投射されることを防止することが可能となる。
【0024】
【表5】

【0025】
[実験5]
続いて、極微小粒子Pを噴射する投射ノズルの最適形状を検討するために実験5を行った。
【0026】
投射ノズルは圧縮残留応力の付与だけを目的とした場合がほとんどであり、摩耗しにくいアルミナの単管ノズルが主流である。また、一部にはウォーターブラストに使用する二重管ノズルや、摩耗を考慮した二重管ノズル(特許文献1参照)は存在する。
しかし、上述した従来技術のノズルは、極微小粒子を用いたショットピーニング加工において安定した投射を行うには不適であり、かつ摺動部品の摺動面にテクスチャリングを施すような広範囲に単一のディンプルを形成するショットピーニング加工において全く使用できない。他方、二重管ノズルは、外側及び内側ノズルへ導入される圧縮ガス(例えば、圧縮空気)の圧力を容易に調整することが可能であり、摩耗した場合に交換が容易であるという利点を有する。
したがって、実験5において、摺動部品へのテクスチャリングを行うのに適した二重管ノズル構造を有する噴射ノズルを検討する。
二重管ノズル12は、極微小粒子Pを広範囲に、さらには重なりが起きないように投射することを目的とする。したがって、これまでの実験的知見から、極微小粒子Pが障害なく搬送されるように内側ノズル12の貫通孔12aの内径12eを1mmとした(図2参照)。
外側ノズル11の貫通孔11aの内径11gを10mmとした。外側ノズル11の遠位端11f近傍においてテーパーが設けられる(同図中の2点鎖線参照)。上記テーパーの角度を変えて、表6に示すように、遠位端11fにおける貫通孔11aの内径11g’を変更して実験を行った。それ以外のノズルに関する条件を表6に、投射実験を行う際の条件の組み合わせを表7に示す。本実験では、上述した粒子導入管6を有する粒子収容タンク2を使用するとともに、極微小粒子Pとして平均中心粒径10μmのガラスビーズを使用した。また、図7に示すように、二重管ノズル10を通った極微小粒子Pを投射された被加工物14(被投射物)は、重なり投射が起きないように、軸Dを中心に回転する。図7中、14aは極微小粒子Pが投射された被加工物14の投射面を示し、14bは極微小粒子Pが投射されて投射面14a上にディンプルが形成された半径方向の幅を示す。
【0027】
【表6】

【0028】
【表7】

【0029】
実験5の結果を表8に示す。表8に記載した投射範囲とは、図7中の投射面14a上の幅14bの値を外側ノズル11の遠位端11fにおける内径11g’の値で除して比であらわしたものである。
【0030】
【表8】

【0031】
実験7の結果より、投射範囲については外側ノズル11の遠位端11fにおける内径11g’と内側ノズル12の突出距離Lについてそれぞれ有意差が認められた。また、重なり痕の発生状況については内側ノズルに導入される圧縮空気の圧力と外側ノズルに導入される圧縮空気の圧力についてそれぞれ有意差が認められた。
【0032】
すなわち、外側ノズル11の遠位端11fにおける内径11g’が小さいほど広範囲にわたって投射を行うことができ(すなわち、射角が大きくなり)る。例えば、内側ノズル12の内径12eを1mmに設定した場合、外側ノズル11の遠位端11fにおける内径11g’を約2mmに設定すると、好ましい結果が得られた。
また、内側ノズル12の突出距離Lの値が大きいほど広範囲にわたって極微小粒子Pの投射を行うことができる。突出距離Lが0mmの場合であっても外側ノズルの内径よりも広範囲に投射される。突出距離Lを大きくした場合、10mmまでは広範囲に投射されるが、10mmを超えると投射範囲が狭小になることがわかる。
【0033】
さらに、重なり痕の発生状況について、外側ノズル11及び内側ノズル12に導入される圧縮空気の圧力が大きく影響していることがわかる。特に内側ノズル12の圧力が外側ノズル11の圧力よりも小さい場合、重なり痕の発生を効果的に抑制できることがわかる。
【符号の説明】
【0034】
1 ショットピーニング装置
2 粒子収容タンク
3 タンク部
4 ガス導入管
5 フィルター
10 二重管ノズル
11 外側ノズル
12 内側ノズル
14 被加工物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投射粒子を収容する粒子収容タンクと、前記粒子収容タンクと連通し前記投射粒子を被加工物に投射するためのノズルとを備えるショットピーニング装置において、
前記投射粒子の粒径より大きい粒径を有する混入粒子が前記粒子収容タンクに収容され、
前記混入粒子を通さないようフィルターを経由して前記投射粒子が投射される、ショットピーニング装置。
【請求項2】
前記投射粒子の粒径が150μm以下である、請求項1に記載のショットピーニング装置。
【請求項3】
前記投射粒子を加圧して前記被加工物に投射するための圧縮ガスが、前記粒子収容タンクに収容された前記投射粒子の下部において同タンク内へ導入される、請求項1又は2に記載のショットピーニング装置。
【請求項4】
前記粒子収容タンクの底部の内面形状が半球面である、請求項1乃至3の何れか1項に記載のショットピーニング装置。
【請求項5】
垂直方向軸に沿って所定の長さを有し上方端が閉じられた粒子導入管が前記粒子収容タンクと連通接続し、前記投射粒子が、前記粒子導入管の上方端の近傍に連通接続されたパイプを通り前記ノズルを経由して投射される、請求項1乃至4の何れか1項に記載のショットピーニング装置。
【請求項6】
前記ノズルが内側ノズルと外側ノズルとを有する二重管ノズルであり、前記内側ノズルの遠位端が、外側ノズルの遠位端に対して所定距離だけ突出する、請求項1乃至5の何れか1項に記載のショットピーニング装置。
【請求項7】
前記所定距離が10mm以下である、請求項6に記載のショットピーニング装置。
【請求項8】
前記外側ノズルの遠位端近傍の貫通孔の内径が絞られる、請求項6又は7に記載のショットピーニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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