説明

ショートアーク型高圧水銀ランプ

【課題】一対の電極が対向配置された発光管を備え、点灯始動時に直流電流が供給され、その後に交流電流にて定常点灯されるショートアーク型高圧水銀ランプにおいて、始動時に陰極動作する電極から電極材料が蒸発して、これが発光管内壁に付着して黒化を招いてしまうことを防止した構造を提供することにある。
【解決手段】前記点灯始動時の直流電流供給時において陰極動作する電極のヘッド部と前記発光管との最短距離(D1)が、陽極動作する電極のヘッド部と前記発光管との最短距離(D2)よりも大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プロジェクター装置や露光装置用などのショートアーク型高圧水銀ランプに関するものであり、特に、点灯始動時に直流電流が供給され、その後に交流電流にて定常点灯されるショートアーク型高圧水銀ランプに係わるものである。
【背景技術】
【0002】
プロジェクター装置用や露光装置用の光源として用いられているショートアーク型高圧水銀ランプにおいては、始動性を改善するために、点灯始動時に直流電流が供給され、その後に交流電流にて定常点灯される点灯方式を採用することが行われている。例えば、特開2010−067472号公報(特許文献1)がそれである。
ところで、この文献1のように、点灯始動時に直流電流が供給されると、陰極動作する電極側の発光管の管壁に黒化が生じるという問題があった。
【0003】
図5および図6を用いてその不具合を説明する。
図5は従来の交流点灯式のショートアーク型高圧水銀ランプの全体構成図であり、図6はその発光管部の拡大図である。
ショートアーク型高圧水銀ランプ10は、発光管11と、その両端の封止管12とを有し、発光管11内には一対の電極13、14が対向配置されている。
電極13、14は先端のヘッド部13a、14aと軸部13b、14bとからなり、軸部13b、14bが封止管12において金属箔16を介して外部リード17に接続される。
当該ショートアーク型高圧水銀ランプ10は定常点灯時には交流点灯されることから、前記両電極13、14は同一形状とされ、発光管11との配置関係も同一にされている。
【0004】
ところで、この交流点灯式のショートアーク型高圧水銀ランプ10では、始動性改善のために始動時に直流電流が供給されるが、このとき、当然のこととして一方の電極が陰極動作し、他方の電極が陽極動作することになる。
この陰極動作する電極13は、直流電流供給により加熱されて熱電子放出が生じ、その熱電子は陽極動作する電極14に向かうことでグロー放電が開始される。このように、陰極動作する電極13は加熱されて熱電子放出する際に、当該電極の材料が蒸発してしまって、発光管11の内壁に付着し、黒化19が生じるという不具合を生じる。
特に、電極13のヘッド部13aにコイル18を具備する構造の場合、該ヘッド部13aにおいてコイル18部分が最も熱容量が小さいことから、前記陰極動作する電極13のコイル18が蒸発しやすく、前記した発光管11の黒化が生じやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−067472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、点灯始動時に直流電流を供給し、定常点灯時には交流電流が供給されるショートアーク型高圧水銀ランプにおいて、始動時に陰極動作する電極の電極材料が蒸発して発光管内壁に黒化が生じてしまうことのないようにした構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明に係るショートアーク型高圧水銀ランプは、前記直流電流供給時において陰極動作する電極のヘッド部と前記発光管との最短距離(D1)が、陽極動作する電極のヘッド部と前記発光管との最短距離(D2)よりも大きいことを特徴とする。
また、前記陰極動作する電極のヘッド部の電極軸方向の長さ(L1)が、前記陽極動作する電極のヘッド部の電極軸方向の長さ(L2)よりも小さいことを特徴とする。
また、前記陰極動作する電極のヘッド部の外径(R1)が、前記陽極極動作する電極のヘッド部の外径(R2)よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、始動点灯時に、直流電流が供給され、陰極動作する電極が加熱されて熱電子放出をし、その熱電子が陽極に向かいグロー放電が開始されとき、陰極は熱電子放出する際に、陰極動作する電極の材料が蒸発するが、陰極と発光管の内壁との最短距離D1を、陽極と発光管の内壁との最短距離D2よりも大きくしたので、前記陰極から蒸発した材料が発光管の内壁に付着することを抑制できるという効果を奏する。
また、グロー放電が開始されると、陽極の方が陰極よりも高温になるが、陽極のヘッド部の長さL2が、陰極のヘッド部の長さL1よりも長いので、該陽極の熱容量が陰極の熱容量よりも大きく、陽極がグロー放電により高温になったとしても、高温による変形を抑制することができる。
更には、電極先端間の中心を発光管の中心に一致させて位置した状態が維持されるので、グロー放電からアーク放電へ移行した後に、交流電流にて定常点灯されるとき、電極間のアーク放電を発光管の中心に維持できて、安定した光を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るショートアーク型高圧水銀ランプの発光管部の断面図。
【図2】本発明の他の実施例の断面図。
【図3】本発明の他の電極形状の説明図。
【図4】本発明の効果を示す実験結果を表すグラフ。
【図5】従来のショートアーク型高圧水銀ランプの全体断面図。
【図6】図5の発光管部分の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明のショートアーク型高圧水銀ランプの発光管1部分の断面図であって、発光管2内の電極3、4のうち、点灯始動時に陰極動作する電極(以下、単に陰極ということもある)3は、そのヘッド部3aの長さL1が、陽極動作する電極(以下、単に陽極ということもある)4のヘッド部4aの長さL2よりも小さく形成されている。この場合、両電極3、4の外径は同一とされている。
こうすることによって、陰極3のヘッド部3aの後端と発光管2の内壁との最短距離D1を、陽極4のヘッド部4aの後端と発光管2内壁との最短距離D2よりも長くすることができる。
【0011】
図2に他の実施例が示されていて、この実施例では、両電極3、4の長さL1、L2は同一である。そして、ヘッド部3a、4aの外径R1、R2が異なる。
すなわち、始動時に陰極動作する電極3のヘッド部3aの後端の外径R1が、始動時に陽極動作する電極4のヘッド部4aの後端の外径R2よりも小さく形成されている。
この実施例では、ヘッド部3aにコイル5が設けられているので、コイル5が多重に巻回されている場合、その後端側で重ね巻き部分を減らすことでその外径R1を小さくすることができる。
こうすることによって、陰極3のヘッド部3aの後端と発光管2の内壁との最短距離D1を、陽極4のヘッド部4aの後端と発光管2内壁との最短距離D2よりも長くすることができることは、上記実施例と同様である。
【0012】
このように、上記いずれの実施例においても、両電極3、4先端間の中心を発光管2の中心に一致させて位置した状態を維持したままで、陰極動作電極3のヘッド部3aの後端と発光管2の内壁との最短距離D1を、陽極動作する電極4のヘッド部4aの後端と発光管2内壁との最短距離D2よりも長くすることができる。
上記構成とすることで、点灯始動時に陰極動作する電極3から電極材料が蒸発しても、発光管2内壁との距離が大きいことから、当該内壁に蒸発物質が付着することが防止できて黒化を抑制することができる。
また、いずれの実施例でも、陰極3より陽極4の熱容量が大きくなるので、点灯始動時にグロー放電によって陽極4により多くの熱付加がかかっても、該陽極4の温度上昇が抑制され、その熱変形が防止される。
しかも、両電極3、4先端間の中心を発光管2の中心に一致させて位置した状態が維持されるので、交流電流による定常点灯時のアーク放電が、発光管中心に安定して得られる。
【0013】
なお、電極形状については上記のヘッド部にコイルを有する形状のものに限られず、図3に示すような、切削加工されたヘッド部を有するものであってもよい。なお、電極のヘッド部とは、軸部よりも外径が大きくなった部分のことをいうものである。
更には、陰極3のヘッド部3aの後端と発光管2の内壁との最短距離D1を大きくするためには、陰極側の長さと外径の両方を陽極側よりも小さくするように構成してもよい。
【0014】
図1に示すランプの数値例を示すと以下の通りである。
・発光管の中心外径:10mm
・発光管の中心内径:4.5mm
・電極間距離:1mm
・陰極動作する電極のヘッド部の電極軸方向の長さL1:2.5mm
・陽極動作する電極のヘッド部の電極軸方向の長さL2:3mm
・陰極動作する電極のヘッド部と発光部内壁との最短距離D1:0.5mm
・陽極動作する電極のヘッド部と発光管内壁との最短距離D2:0.3mm
・電極のヘッド部の外径R:1.6mm
・コイル径:0.3mm
【0015】
本発明の効果を実証するための実験を行った。
実験では、本発明に係るランプとして、図1に示す構成のランプを100本と、従来例のランプとして、図6に示す構成のランプを100本と、を用いた。
なお、本発明のランプの各部の数値は、前述の数値例に示したものと同一であり、その他の数値例について下記する。
<従来のランプの各部の数値>
・陰極動作する電極のヘッド部の電極軸方向の長さL:3mm
・陽極動作する電極のヘッド部の電極軸方向の長さL:3mm
・陰極動作する電極のヘッド部と発光部内壁との最短距離D:0.3mm
・陽極動作する電極のヘッド部と発光部内壁との最短距離D:0.3mm
<封入物>
・水銀量:0.15mg/mm
・ハロゲンガス:5×10−4μmol/mm
・アルゴンガス:13kPa
<ランプの構成材料>
・発光管:石英ガラス
・電極:タングステン
<実験条件>
各ランプは、始動時に直流電流として、1A(I1)を3秒(T1)と、3A(I2)を3秒(T2)供給され、その後360Hzの交流電流が供給されて230Wの電力で点灯される。
各ランプは、上記のランプ点灯を2時間行い、その後に0.5時間消灯して、このランプ点灯と消灯を2000時間繰り返した。
そして、各ランプは、200時間毎に、発光管を観察し、黒化の発生を確認した。
【0016】
この実験結果が図4に示されている。
縦軸は、ランプ100本中、黒化が生じたランプの数の比率を求めたものである。
また、この図では、200時間毎の黒化の発生率から、その近似曲線を引いたものを図示している。
実験結果に示すように、従来のランプでは、ランプの始動回数が増える毎に、黒化発生率が高くなっている。
この黒化が生じたランプにおいて、黒化が生じた部分を観察したところ、始動時に陰極動作する側の発光管の内壁に黒化が生じていた。このため、この黒化は、始動時に陰極動作する電極は加熱され、熱電子放出する際に、陰極動作する電極の材料が蒸発してしまって、発光管の内壁に付着したためと推測される。
一方、本発明のランプでは、黒化が生じなかった。これは、前記直流電流供給時における陰極動作する電極のヘッド部と前記発光管との最短距離(D1)を、陽極動作する電極のヘッド部と前記発光管との最短距離(D2)よりも大きくしたことにより、陰極動作する電極から蒸発した材料が、発光管内壁に付着することを防止できたためと推測される。
【0017】
以上のように、本発明のショートアーク型高圧水銀ランプでは、点灯始動時に陰極動作する電極と発光管との距離を、陽極動作する電極のそれよりも小さくしたことにより、前記陰極と発光管との距離を大きくできて、始動時に直流電流が供給されて陰極から電極材料が蒸発しても、これが発光管内壁に付着して黒化を招くようなことがない。
【符号の説明】
【0018】
1 ショートアーク型高圧水銀ランプ
2 発光管
3 (始動時に陰極動作する)電極
3a ヘッド部
3b 軸部
4 (始動時に陽極動作する)電極
4a ヘッド部
4b 軸部
L1 陰極の長さ
L2 陽極の長さ
R1 陰極の外径
R2 陽極の外径
D1 陰極ヘッド部と発光管との最短距離
D2 陽極ヘッド部と発光管との最短距離




【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極が対向配置された発光管を備え、点灯始動時に直流電流が供給され、その後に交流電流にて定常点灯されるショートアーク型高圧水銀ランプにおいて、
前記直流電流供給時において陰極動作する電極のヘッド部と前記発光管との最短距離(D1)が、陽極動作する電極のヘッド部と前記発光管との最短距離(D2)よりも大きいことを特徴とするショートアーク型高圧水銀ランプ。
【請求項2】
前記陰極動作する電極のヘッド部の電極軸方向の長さ(L1)が、前記陽極動作する電極のヘッド部の電極軸方向の長さ(L2)よりも小さいことを特徴とする請求項1のショートアーク型高圧水銀ランプ。
【請求項3】
前記陰極動作する電極のヘッド部の外径(R1)が、前記陽極極動作する電極のヘッド部の外径(R2)よりも小さいことを特徴とする請求項1のショートアーク型高圧水銀ランプ。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−195179(P2012−195179A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58709(P2011−58709)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】