シリカナノチューブ会合体の製造方法
【課題】 外径が小さく且つ単分散性に優れたシリカナノチューブが高度に集積化されたシリカナノチューブ会合体を短時間で簡便に製造する方法を提供すること。
【解決手段】 (I)ポリオキサゾリンを酸性条件下で加水分解し、ポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を得る(II)工程(I)で得た塩酸塩粉末を水中に溶解し水溶液を得る(III)工程(II)で得た水溶液に塩基性化合物を加え、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を得る(IV)工程(III)で得た会合体を単離する(V)工程(IV)で単離した会合体を水性媒体中に分散し、シリカソースを加え、ポリエチレンイミンの芯とこれを被覆するシリカとからなる複合ナノファイバーの会合体を得る(VI)工程(V)で得た会合体を加熱焼成してポリエチレンイミンの芯を除去し、中空構造を発現させる工程を有するシリカナノチューブ会合体の製造方法
【解決手段】 (I)ポリオキサゾリンを酸性条件下で加水分解し、ポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を得る(II)工程(I)で得た塩酸塩粉末を水中に溶解し水溶液を得る(III)工程(II)で得た水溶液に塩基性化合物を加え、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を得る(IV)工程(III)で得た会合体を単離する(V)工程(IV)で単離した会合体を水性媒体中に分散し、シリカソースを加え、ポリエチレンイミンの芯とこれを被覆するシリカとからなる複合ナノファイバーの会合体を得る(VI)工程(V)で得た会合体を加熱焼成してポリエチレンイミンの芯を除去し、中空構造を発現させる工程を有するシリカナノチューブ会合体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空のシリカナノチューブ会合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカナノチューブはナノサイズ特有の物質特性を有することから、将来の新産業創世に向けて多くの期待が寄せられており、他の無機のナノチューブと同様、電子、光学、触媒、あるいは、エネルギー変換などの各種分野において潜在価値の高い材料である。このようなシリカナノチューブを各種応用展開に用いるためには、シリカナノチューブの内外径の10nm前後の制御、シリカナノチューブの構造組成制御、シリカナノチューブの高効率及び安定製造など、解決すべき課題が依然多い。
【0003】
シリカナノチューブを製造する方法としては、酒石酸の会合体の存在下でアルコキシシランをゾルゲル反応させることにより、マイクロの太さのファイバー中に、数十ナノメートルオーダーの内径を有するシリカチューブを与える方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。また、アミノ基を有する界面活性剤からなるシリンダー状の会合体や、有機低分子のヒドロゲルをテンプレートとしてゾルゲル反応させることにより、数十ナノメートルの太さのファイバー中に数ナノメートルオーダーの内径を有するシリカナノチューブが得られることが開示されている(例えば、特許文献1及び非特許文献2参照)。さらに、カーボンナノチューブを用いることで、数ナノメートルのシリカ被膜に数ナノメートルの内径を有するシリカナノチューブの製造も可能である(例えば、非特許文献3参照)。又、ポリエチレンイミンの結晶性会合体表面にてゾルゲル反応させることによる中空シリカナノチューブ会合体を得ることも開示している(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、これらのシリカナノチューブの外径は15nm以上と太くなっており、また外径の分布幅も大きく、単分散性のナノチューブが得られていないという問題点があった。
【0004】
単分散性のナノチューブが比較的得られやすい方法としては、例えば化学修飾されたセルロースをテンプレートとして用い、その上にシリカシェルを形成させ、後に当該テンプレート(セルロース)を焼成する方法(例えば、非特許文献4参照。)や、アミノ残基を有するポリペプジトの末端構造に脂肪族長鎖を結合させた化合物をナノファイバーに自己組織化させ、その表面のアミノ残基によるシリカ析出によりポリマー芯/シリカシェルの複合体を得た後、ポリマー芯を焼成除去する方法(例えば、非特許文献5参照)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、既知の多くの製造方法では、ナノチューブ製造に必要なすべての初期原料から最終ナノチューブ完成するまでのプロセスの体系が構築出来ず、シリカ析出前までの工程での煩雑さ、または、焼結工程前のシリカ複合体の製造工程が数日以上の長い時間が必要であったりするため、工業的な生産性を考えた場合、より短時間で、より簡便に製造する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−203826号公報
【特許文献2】特開2006−199523号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nakamura et al.,J.Am.Chem.Soc. 1995年、117巻、2651頁
【非特許文献2】Adachi et al.,Langmuir,1999年、15巻、7097頁
【非特許文献3】Satishkumar et al.,J.Mater.Res. 1997年、12巻、604頁
【非特許文献4】Zollfrank et al.,Adv.Mater.2007年、19巻、984頁
【非特許文献5】Virany et al.,Langmuir,2007年,23巻,5033頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、外径が小さく且つ単分散性に優れたシリカナノチューブが高度に集積化されたシリカナノチューブ会合体を短時間で簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの調整工程を室温下で行なうことによって、当該結晶性フィラメントのサイズの均一性制御が可能であること、且つこの様にして得られた均一性に優れた結晶性フィラメントをテンプレートとして用いるシリカソースのゾルゲル反応と引き続き行なう中空発現操作により、外径が小さく且つ均一性に優れたシリカナノチューブが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、(I)ポリオキサゾリンを酸性条件下で加水分解し、ポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を得る工程、
(II)工程(I)で得たポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を水中に溶解し、ポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液を得る工程、
(III)工程(II)で得た水溶液に塩基性化合物を加え、pHを8.5〜9.8の範囲に調整して、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を得る工程、
(IV)工程(III)で得たポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を単離する工程、
(V)工程(IV)で単離したポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を水性媒体中に分散し、その分散液にシリカソースを加えることにより、結晶性フィラメントの会合体表面にてシリカを析出し、ポリエチレンイミンの芯とこれを被覆するシリカとからなる複合ナノファイバーの会合体を得る工程、
(VI)工程(V)で得た複合ナノファイバーの会合体を加熱焼成して内部のポリエチレンイミンの芯を熱分解により除去し、内部に中空構造を発現させる工程、
を有することを特徴とするシリカを主成分とするシリカナノチューブ会合体の製造方法を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、(I)ポリオキサゾリンを酸性条件下で加水分解し、ポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を得る工程、
(II)工程(I)で得たポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を水中に溶解し、ポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液を得る工程、
(III)工程(II)で得た水溶液に塩基性化合物を加え、pHを8.5〜9.8の範囲に調整して、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を得る工程、
(IV)工程(III)で得たポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を単離する工程、
(V)工程(IV)で単離したポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を水性媒体中に分散し、その分散液にシリカソースを加えることにより、結晶性フィラメントの会合体表面にてシリカを析出し、ポリエチレンイミンの芯とこれを被覆するシリカとからなる複合ナノファイバーの会合体を得る工程、
(VI’)工程(V)で得た複合ナノファイバーの会合体を水またはアルコール類で処理し、複合ナノファイバーの芯であるポリエチレンイミンの結晶性をなくしてシリカ内壁に吸着させることで、内部に中空構造を発現させる工程、
を有することを特徴とするポリエチレンイミンと複合化しているシリカナノチューブ会合体の製造方法をも提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法で得られるシリカナノチューブ会合体は、形状及び細い外径と内径のサイズが制御されることから、バイオフィルタや濾過フィルタなどのナノフィルタを始めとして、フォトニックス材料、触媒、生物高分子キャリアー、防菌剤、殺菌剤、抗ウイルス、化粧品など多くの領域への利用が可能である。
【0013】
また、本発明の製造方法によれば、シリカナノチューブ会合体を得る工程を室温下にさせることができ、シリカナノチューブ作製過程で生体活性物質(酵素、ウイルス、菌など)の構造と機能に損傷を与えずに混合することができるので、シリカナノチューブにこれらの生体活性物質を固定することにつながる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1におけるシリカナノチューブ集合体の走査型電子顕微鏡での観察写真である。
【図2】実施例1における窒素ガス吸着(下)−脱着(上)の等温線である。
【図3】実施例1におけるポア体積分布曲線である。
【図4】実施例1におけるシリカナノチューブ会合体の透過型電子顕微鏡での観察写真である。
【図5】実施例2における窒素ガス吸着(下)−脱着(上)の等温線である。
【図6】実施例2におけるポア体積分布曲線である。
【図7】実施例2におけるシリカナノチューブ会合体の透過型電子顕微鏡での観察写真である。
【図8】実施例3におけるシリカナノチューブ会合体の走査型電子顕微鏡での観察写真である。
【図9】実施例3における窒素ガス吸着(下)−脱着(上)の等温線である。
【図10】実施例3におけるポア体積分布曲線である。
【図11】実施例3におけるシリカナノチューブ会合体の透過型電子顕微鏡での観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
シリカナノチューブ会合体を得るには、まず、その外形を有するシリカ被覆層とポリマー芯とからなる複合ナノファイバーの会合体が要求される。このような前駆体を得るには、複合ナノファイバーの会合体形状を誘導する芯となるポリマーテンプレートが必要となる。ここで言うポリマーテンプレートは、結晶性のナノファイバー形状を有し、しかも、その表面がシリカソースのゾルゲル反応を引き起こす触媒機能を有することが必要である。
【0016】
本発明者らは、すでに直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを使用することで、結晶性フィラメントを得る方法を考案し、そのフィラメント表面でのゾルゲル反応を経由するシリカナノチューブの製造方法を前記特許文献2にて提案している。
【0017】
しかしながら、前記特許文献2等で示している直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性フィラメントを得る工程では、該ポリマーを80℃以上の熱水中に溶解し、その溶液を室温まで冷却することを必須とするものであり、この冷却工程による結晶化によってフィラメントを誘導した。この加熱と冷却を必要とするプロセスでは、当該ポリマーのフィラメントのサイズを小さくしたり、均一性を高めたりする制御ができず、ファイバー形状の選択的誘導が不可能であった。
【0018】
本発明では、まず加熱工程をなくすことで、直鎖状ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントのサイズとその触媒機能の成長工程を高度に制御することを検討した。更に、ポリマーテンプレートのサイズ制御のための、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントを誘導する工程の選定を検討した。サイズ制御のためには、直鎖状ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントを形成させる際に、イミン残基の一部をプロトン化することで、フィラメント表面のフリーのアミノ基とプロトン化アミノ基とを共存させることになり、この結果表面でのゾルゲル反応が促進され、該結晶性フィラメントを芯とする安定した複合ナノナノファイバーを得ることが可能である。
【0019】
このことを満たす工程として、直鎖状ポリエチレンイミン(LPEI)を合成する際、それの前駆体であるポリオキサゾリンを塩酸水溶液で加水分解することで、塩酸塩状態のLPEI・HCl粉末を得てから、それを室温にて水中に溶解し、その酸性水溶液に塩基性化合物を加え、中和を起こし、中性付近での直鎖状ポリエチレンイミンの結晶化を誘導する。これで形成する結晶は表面にフリーの−NH−とプロトン化の−HNH+−が共存するフィラメントになる。後は、これで得たフィラメントとシリカソースとを水中にて混合することだけで、目的とする複合ナノファイバーを得ることができる。それを焼成または芯のポリマー成分を溶解させる工程を経て、目的のシリカナノチューブを得ることができる。以下、この製造工程について詳細に述べる。
【0020】
[ポリオキサゾリンの酸性条件下での加水分解]
直鎖状ポリエチレンイミンを得るには、必ずポリオキサゾリンの加水分解を経ることになる。従って、前駆体となるポリオキサゾリンを用いなければならない。
【0021】
加水分解に用いるポリオキサゾリンとしては、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリフェニルオキサゾリンなどが好ましい。これらポリオキサゾリンの重合度は、20〜10,000の範囲であれば好適に用いることができるが、結晶性及びその後のゾルゲル反応における有効性(触媒効果)を考えた場合、重合度は50〜5,000の範囲であることがより好ましい。
【0022】
ポリオキサゾリンとして、市販のポリエチルオキサゾリン、ポリメチルオキサゾリンなどを用いることができる。また、オキサゾリン類のモノマーを使用して、カチオン型の重合法により合成されたポリオキサゾリンを用いることもできる。
【0023】
直鎖状ポリエチレンイミンの前駆体ポリマーであるポリオキサゾリンの加水分解は、一般に酸性条件下でもアルカリ条件下でも行なうことができるが、本発明では、塩酸水溶液を用いる加水分解が必須である。
【0024】
前記加水分解の具体的方法としては、例えば、塩酸水溶液中でポリオキサゾリンを加熱下で攪拌する方法が挙げられ、この結果、ポリエチレンイミンの塩酸塩を得ることができる。用いる塩酸水溶液は、濃塩酸でも、1mol/L程度の水溶液でもよいが、加水分解を効率的に行うには、3〜8mol/Lの塩酸水溶液を用いることが好ましく、5mol/Lの塩酸水溶液を用いることが最も好ましい。また、反応温度は60〜90℃の範囲で行うことができるが、より好ましくは75〜85℃の範囲である。
【0025】
酸性条件下での加水分解における酸の使用量としては、ポリマー中のオキサゾリンモノマー単位に対し、1〜10モル当量でよく、反応効率の向上と後処理の簡便化のためには、2〜5モル当量の範囲とすることが好ましい。
【0026】
上記反応条件下、加水分解が進むにつれて直鎖状ポリエチレンイミンは過剰の塩酸の存在により塩酸塩状態となり、それは反応液中から沈殿する。その沈殿物をろ過し、極性有機溶剤、例えば、アセトン、エタノール、メタノールにて洗浄後、ポリエチレンイミンの塩酸塩粉末として回収できる。
【0027】
[ポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液]
上記で得られるポリエチレンイミン塩酸塩粉末は室温下、例えは15〜30℃の水中に容易に溶解する。従って、任意の濃度範囲でポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液を調製することができるが、本発明では、引き続き行なう中和過程での結晶性フィラメントの成長過程の制御のために、塩酸塩状態での水溶液濃度を1〜50wt%の範囲にすることが好ましい。
【0028】
[ポリエチレンイミン塩酸塩水溶液の中和]
上記で調製したポリエチレンイミン塩酸塩水溶液は、基本的にpH値が4以下である。その水溶液に塩基性化合物を加え、pH値を8〜9の間に調整することで結晶化が進行し、その結晶体の分散液を得ることができる。本発明では、このpH値を8.5〜9.8の範囲に調整することにより、より均一性に優れた結晶性フィラメントを得る。
【0029】
pH値の調整に用いる塩基性化合物としては特に限定されるものではなく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア水や、トリエチルアミン、テトラメチルジアミノエタンなどの有機アミン化合物を用いることができる。
【0030】
無機の塩基性化合物を用いる場合はその水溶液を用いることが好ましく、その濃度は特に限定されるものではないが、1〜5mol/Lの範囲であればpH調整が容易である点から好適に用いることができる。
【0031】
塩基性化合物をポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液に加える際には、その水溶液を調整してからこれを攪拌条件下で滴下することが好ましい。滴下終了後、混合液を室温にて1〜5時間静置させることで、結晶体が析出し、溶液状態から結晶体分散状態になる。
【0032】
[結晶体の単離]
上記で得る結晶体分散液を遠心機にて沈ませ、それに蒸留水等を加えて洗浄することができる。この洗浄では、中和に用いた塩基性化合物の残留を除去することができる。
【0033】
洗浄状態を確認する目安としては、洗浄液のpH値を用いることができ、その値が5.5〜7.8の範囲であることが好ましく、特に6〜7.5の範囲であると、洗浄が好適に行なわれたことが判断できる。好適なpHの範囲にある結晶性フィラメントは次の工程での複合ナノファイバーのサイズ制御に有利である。
【0034】
洗浄液としては蒸留水を使うこと以外、場合により、水溶性有機溶剤、例えば、エタノール、アセトン等を混合して用いることもできる。その際、有機溶剤の混合量は50wt%以下が望ましい。
【0035】
洗浄後の結晶体はそのまま次の工程に用いることができるし、また、濡れたまま、あるいは、室温にて乾燥した後、密閉状態で保存して使うことも出来る。
【0036】
[ポリエチレンイミンの芯とシリカ被覆層とからなる複合ナノファイバーの合成]
上記で得られた結晶性フィラメントを水中に分散し、一定濃度に調整した後、その分散液に、攪拌しながら、シリカソースを加えて、その混合物を室温にて5分から10時間攪拌することで、ポリエチレンイミンの芯とシリカ被覆層とからなる複合ナノファイバーが形成される。
【0037】
結晶体フィラメント分散液の固形分濃度としては0.5〜10wt%に設定することができる。得られる複合ナノファイバーのランダムな会合を防ぐことから、その濃度範囲を5wt%以下に調製することはもっと好適である。
【0038】
シリカソースとしては、アルコキシシラン類であれば好適に用いることができる。アルコキシシランの濃度は、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの濃度と比例的に調整し、当該濃度が低い場合にはアルコキシシラン類の濃度も低くし、濃度が高い場合には、アルコキシシラン類の濃度を高めることが望ましい。概ね、アルコキシシラン類の濃度は結晶性フィラメントの質量に対し、4〜100倍等量であれば好適である。
【0039】
アルコキシシラン類化合物として、テトラアルコキシシラン類、アルキルトリアルコキシシラン類などが挙げられる。
【0040】
テトラアルコキシシラン類としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシランなどが挙げられる。
【0041】
アルキルトリアルコキシシラン類としては、例えば、メチルトリメトキシラン、メチルトリエトキシラン、エチルトリメトキシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシラン、n−プロピルトリエトキシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシトキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシトキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシラン、3−メルカプトプロピルトメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシアンなどが挙げられる。
【0042】
これらの中でも、特にテトラメトキシシランの4〜5量体である縮合物(コルコート株式会社製の商品名MS−51等)、テトラエトキシシランの4〜5量体である縮合物(コルコート株式会社製の商品名ES−51等)などを好適に用いることができる。
【0043】
[シリカ被覆層からなるナノチューブ]
前記工程で経て得られた複合ナノファイバーの構造において、被覆層は三次元構造のゲルであるシリカが主であり、コア(芯)は直鎖状ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントである。このコアは、ポリエチレンイミンのエチレンイミン[−CH2CH2NH−]一つのユニットに二つの水分子が結合してからなる結晶である。
【0044】
この結晶性フィラメントはメタノール、エタノール、水などの溶剤を用いて溶解させることができる。この結晶は一旦溶解すると、塩基性ポリエチレンイミンの分子状態として、酸性のシリカ被覆層の内壁と強く相互し、シリカ被覆層内壁に吸着され、再び結晶に戻ることができなくなる。その結果、結晶性の芯は消失し、内部は中空構造となる。
【0045】
従って、本発明では、シリカと直鎖状ポリエチレンイミンが複合されたままのナノチューブを得ることができる。この際、結晶性のコアを溶解させるには、複合ナノファイバーを溶液中で室温浸漬または加熱状態で浸漬することで十分である。溶剤がメタノールまたはエタノールの場合、特に加熱する必要もなく、これらの溶剤で複合ナノファイバーを洗浄することでも、芯の結晶性フィラメントを溶解させ、それをシリカ被覆層の内壁に吸着させ、内部を中空状態にすることができる。また、水を溶剤として用いる場合は、70℃程度にまで加熱することによって、同様に中空構造を発現させることができる。
【0046】
これで得られるナノチューブはシリカとポリエチレンイミンとで構成されており、ポリエチレンイミンの含有量は全体の5〜35wt%を占めることができる。また、ナノチューブの内径は、2〜5nmの範囲であり、その外径は15nm以下であることに特徴を有する。又ナノチューブの長さとしては0.1μm〜1mmの範囲であり、特に0.1〜10μmの範囲のものが好適に得られる。
【0047】
本発明で得られるシリカナノチューブは、一本一本分離したナノチューブではなく、ナノチューブが集合してからなるバンドル(会合体)であり、特に、そのバンドルが円盤状形状に近いことに特徴がある。円盤状バンドルのサイズは、直径が0.5〜20μm、特には3〜20μmの範囲であり、その厚みは20〜200nmの範囲である。
【0048】
本発明では、さらに、複合ナノファイバーをそのまま、または上記の操作によりポリエチレンイミンが吸着されてなるナノチューブを加熱焼成し、ポリマー成分を除去することにより、シリカを主成分とするシリカナノチューブを得ることができる。主成分とするとは、焼成条件によっては、ポリエチレンイミン由来の炭化成分等がナノチューブ内に残ることがあったとしても、意図的に第三成分を介在させない限り、シリカから構成されることを意味するものである。
【0049】
焼成温度は、ポリエチレンイミンが分解する温度以上であればよく、その範囲を250℃から1000℃に設定することができる。シリカ成分純度を高めるには、焼成温度を500℃以上に設定することが望ましい。
【0050】
焼成時間は温度により設定することができるが、高い温度ほど焼成時間を短くすることができる。一般として、500℃以上の焼成温度では、2〜3時間焼成で十分である。
【0051】
焼成により得られるシリカナノチューブの外径は15nm以下であり、その内径は2〜5nmの範囲である。
【0052】
上記で得られるシリカとポリエチレンイミンとが複合しているナノチューブ、またはシリカナノチューブの内径は、ガス吸着によるポア分布測定から見積もることができるし、また、透過型電子顕微鏡(TEM)観察から同定できる。TEM観察は局所の写真イメージであるに対し、ポア分布では、ナノチューブ全体の平均値を取ることができる。この二つの測定によるナノチューブ同定結果が一致することが、本発明での大きな特徴である。即ち、本発明でのナノチューブは個別または局所現象ではなく、物質全体に広がる共通の構造である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および参考例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0054】
[X線回折法による分析]
単離乾燥した試料を測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−Ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲4〜40°の条件で測定を行った。
【0055】
[示差熱走査熱量法による分析]
単離乾燥した試料を測定パッチにより秤量し、それをPerkin Elmer製熱分析装置「DSC−7」にセットし、昇温速度を10℃/分として、20℃から90℃の温度範囲にて測定を行った。
【0056】
[走査電子顕微鏡による形状分析]
単離乾燥した試料をガラススライドに乗せ、それをキーエンス製表面観察装置VE−7800にて観察した。
【0057】
[透過電子顕微鏡による観察]
単離乾燥した試料を炭素蒸着された銅グリッドに乗せ、それを(株)トプコン、ノーランインスツルメント社製EM−002B、VOYAGER M3055高分解能電子顕微鏡にて観察した。
【0058】
[焼成法]
焼成は、(株)アサヒ理化製作所製セラミック電気管状炉ARF−100K型にAMF−2P型温度コントローラ付きの焼成炉装置にて行った。
【0059】
[比表面積測定]
比表面積はマイクロメリティクス社製Tris star 3000型装置にて、窒素ガス吸着/脱着法で測定し、全比表面積はBET面積と00面積の合計値で見積もった。また、ポアサイズ分布はポア体積分率対ポアサイズのプロットから見積もった。
【0060】
[pH測定]
ポリエチレンイミン塩酸塩を塩基性化合物で中和する際、及び結晶の洗浄の際のpH値は、Mettler−Toledo社(スイス)製のSevenGo pH SG2にて測定した。
【0061】
実施例1[シリカのナノチューブ会合体の合成]
<直鎖状ポリエチレンイミン塩酸塩(LPEI・HCl)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量50,000、平均重合度500、Aldrich社製)240gを、5Mの塩酸水溶液1500mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を得た。室温(20〜25℃)乾燥後の収量は178gであった。得られた粉末を1H−NMR(JEOL JNM−LA300型核磁気共鳴吸収スペクトル測定装置:重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH3)と2.3ppm(CH2)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0062】
<ポリエチレンイミン塩酸塩(LPEI・HCl)水溶液の調製、結晶化、複合ナノフィアバーの合成>
上記で得られたポリエチレンイミン塩酸塩5gを60mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液10mLを滴下した。この混合液のpHは9.0であった。その混合液を4時間攪拌後、析出した結晶体を遠心分離にて3回洗浄した。洗浄後の結晶粉末を500mLの蒸留水中に分散した。この時点での分散液のpH値は6.5であった。その分散液中に、5.5mLのメチルシリケート(MS51)を加え、室温下(20〜25℃)1時間攪拌した。反応液を遠心分離にて処理し、析出した固形物を水で洗浄後、室温にて乾燥し、ポリエチレンイミンの芯とシリカ被覆層とからなる複合ナノファイバーの会合体を得た。収量:10.8g。図1には、得られた複合ナノファイバーの会合体のSEM写真を示した。ファイバーが円盤状に集合した構造であることが確認できる。XRDから直鎖状ポリエチレンイミンの結晶体由来のピークが観測された。
【0063】
<シリカ/ポリエチレンイミン複合のナノチューブ>
上記で得た複合ナノファイバーの会合体0.5gを10mLのメタノール中1時間浸漬後、ろ過し、固形分を室温にて乾燥させた。これにより得られたナノチューブを表面分析測定に用いた。BET表面積は286m2/gであった。それの等温線及びポア分布は、それぞれ図2と図3に示した。ポアサイズ分布の結果から、ポアサイズの3.5nmのところに、シャープなピークが現れた。このピーク値はちょうどチューブ内径サイズを反映する。ポアサイズは2nmから増大し、4nm以下でピーク値を経て、低下する。これは、このファイバー状のシリカ中には、規則的中空構造、即ちチューブを形成していることを強く示唆する。規則的中空構造を持たない場合、このようなピークは現れることがない。また、TEM観察から、太さが12nm以下の真っすぐ伸びたファイバーが密に重なり、それがシートを形成し、かつ、ファイバーの中心部が透明に映ることが確認された(図4)。即ち、中心部は空洞で、その内径は3〜4nmである。このナノチューブの熱分析から、重量損失は25.3wt%であった。
【0064】
実施例2[複合ナノフィアバーの焼成によるシリカナノチューブ]
実施例1の工程経由で得られた複合ナノファイバーの会合体0.5gをアルミナ坩堝に加え、それを電気炉内にて焼成した。炉内温度は、1時間かけて800℃まで上げ、その温度にて2時間保持した。これを自然冷却し、ポリマー成分を除去したシリカナノチューブを得た。
【0065】
これで得た粉末の比表面積は418.5m2/gであった。この粉末の等温線及びポアサイズ分布は、それぞれ図5と図6に示した。ポアサイズは2nmから低下するが、3nm当たりから増大し、ピーク値後再び低下する。これはちょうどチューブ内径サイズを反映する。また、図7にはTEM観察のイメージ写真を示した。ナノファイバーから重なり構造は800℃焼成後でも変化しなかった。ポアサイズ分布での中空のサイズ(4.2nm)とTEM観察での内径(4nm)はほぼ一致した。
【0066】
実施例3[シリカのナノチューブ会合体の合成]
実施例1と同様に、ポリエチレンイミンの塩酸塩を作製し、その粉末5gを60mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液10mLを滴下し、pHを9.1に調整した。その混合液を4時間攪拌後、析出した結晶体を遠心分離にて3回洗浄した。これらの結晶体を150mLの蒸留水中に分散した。この時点での分散液のpH値は6.7であった。その分散液中に、5.5mLのメチルシリケート(MS−51)を加え、室温下1時間攪拌した。反応液を遠心分離にて処理し、析出した固形物を水で洗浄後、室温にて乾燥し、ポリエチレンイミンの芯とシリカ被覆層とからなる複合ナノファイバー会合体の粉末を得た。収量:11.4g。
【0067】
得られた複合ナノファイバー会合体のSEM観察から、一枚の円盤状構造が確認された(図8)。この粉末を実施例2の同様な方法で焼成した。焼成後のBET比表面積は320m2/gであった。それの等温線及びポア分布は、それぞれ図9と図10に示した。ポアサイズの4.2nmのところに、シャープなピークが現れた。これは、このファイバー状のシリカ中には、規則的中空構造が形成していることを強く示唆する。また、TEM観察から、太さが10nm以下のファイバーが密に重なり、それがシートを形成し、かつ、ファイバーの中心部が透明に映ることが確認された(図11)。即ち、ファイバー中心部は空洞で、その内径は3〜4nm範囲である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空のシリカナノチューブ会合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカナノチューブはナノサイズ特有の物質特性を有することから、将来の新産業創世に向けて多くの期待が寄せられており、他の無機のナノチューブと同様、電子、光学、触媒、あるいは、エネルギー変換などの各種分野において潜在価値の高い材料である。このようなシリカナノチューブを各種応用展開に用いるためには、シリカナノチューブの内外径の10nm前後の制御、シリカナノチューブの構造組成制御、シリカナノチューブの高効率及び安定製造など、解決すべき課題が依然多い。
【0003】
シリカナノチューブを製造する方法としては、酒石酸の会合体の存在下でアルコキシシランをゾルゲル反応させることにより、マイクロの太さのファイバー中に、数十ナノメートルオーダーの内径を有するシリカチューブを与える方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。また、アミノ基を有する界面活性剤からなるシリンダー状の会合体や、有機低分子のヒドロゲルをテンプレートとしてゾルゲル反応させることにより、数十ナノメートルの太さのファイバー中に数ナノメートルオーダーの内径を有するシリカナノチューブが得られることが開示されている(例えば、特許文献1及び非特許文献2参照)。さらに、カーボンナノチューブを用いることで、数ナノメートルのシリカ被膜に数ナノメートルの内径を有するシリカナノチューブの製造も可能である(例えば、非特許文献3参照)。又、ポリエチレンイミンの結晶性会合体表面にてゾルゲル反応させることによる中空シリカナノチューブ会合体を得ることも開示している(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、これらのシリカナノチューブの外径は15nm以上と太くなっており、また外径の分布幅も大きく、単分散性のナノチューブが得られていないという問題点があった。
【0004】
単分散性のナノチューブが比較的得られやすい方法としては、例えば化学修飾されたセルロースをテンプレートとして用い、その上にシリカシェルを形成させ、後に当該テンプレート(セルロース)を焼成する方法(例えば、非特許文献4参照。)や、アミノ残基を有するポリペプジトの末端構造に脂肪族長鎖を結合させた化合物をナノファイバーに自己組織化させ、その表面のアミノ残基によるシリカ析出によりポリマー芯/シリカシェルの複合体を得た後、ポリマー芯を焼成除去する方法(例えば、非特許文献5参照)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、既知の多くの製造方法では、ナノチューブ製造に必要なすべての初期原料から最終ナノチューブ完成するまでのプロセスの体系が構築出来ず、シリカ析出前までの工程での煩雑さ、または、焼結工程前のシリカ複合体の製造工程が数日以上の長い時間が必要であったりするため、工業的な生産性を考えた場合、より短時間で、より簡便に製造する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−203826号公報
【特許文献2】特開2006−199523号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nakamura et al.,J.Am.Chem.Soc. 1995年、117巻、2651頁
【非特許文献2】Adachi et al.,Langmuir,1999年、15巻、7097頁
【非特許文献3】Satishkumar et al.,J.Mater.Res. 1997年、12巻、604頁
【非特許文献4】Zollfrank et al.,Adv.Mater.2007年、19巻、984頁
【非特許文献5】Virany et al.,Langmuir,2007年,23巻,5033頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、外径が小さく且つ単分散性に優れたシリカナノチューブが高度に集積化されたシリカナノチューブ会合体を短時間で簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの調整工程を室温下で行なうことによって、当該結晶性フィラメントのサイズの均一性制御が可能であること、且つこの様にして得られた均一性に優れた結晶性フィラメントをテンプレートとして用いるシリカソースのゾルゲル反応と引き続き行なう中空発現操作により、外径が小さく且つ均一性に優れたシリカナノチューブが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、(I)ポリオキサゾリンを酸性条件下で加水分解し、ポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を得る工程、
(II)工程(I)で得たポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を水中に溶解し、ポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液を得る工程、
(III)工程(II)で得た水溶液に塩基性化合物を加え、pHを8.5〜9.8の範囲に調整して、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を得る工程、
(IV)工程(III)で得たポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を単離する工程、
(V)工程(IV)で単離したポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を水性媒体中に分散し、その分散液にシリカソースを加えることにより、結晶性フィラメントの会合体表面にてシリカを析出し、ポリエチレンイミンの芯とこれを被覆するシリカとからなる複合ナノファイバーの会合体を得る工程、
(VI)工程(V)で得た複合ナノファイバーの会合体を加熱焼成して内部のポリエチレンイミンの芯を熱分解により除去し、内部に中空構造を発現させる工程、
を有することを特徴とするシリカを主成分とするシリカナノチューブ会合体の製造方法を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、(I)ポリオキサゾリンを酸性条件下で加水分解し、ポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を得る工程、
(II)工程(I)で得たポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を水中に溶解し、ポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液を得る工程、
(III)工程(II)で得た水溶液に塩基性化合物を加え、pHを8.5〜9.8の範囲に調整して、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を得る工程、
(IV)工程(III)で得たポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を単離する工程、
(V)工程(IV)で単離したポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を水性媒体中に分散し、その分散液にシリカソースを加えることにより、結晶性フィラメントの会合体表面にてシリカを析出し、ポリエチレンイミンの芯とこれを被覆するシリカとからなる複合ナノファイバーの会合体を得る工程、
(VI’)工程(V)で得た複合ナノファイバーの会合体を水またはアルコール類で処理し、複合ナノファイバーの芯であるポリエチレンイミンの結晶性をなくしてシリカ内壁に吸着させることで、内部に中空構造を発現させる工程、
を有することを特徴とするポリエチレンイミンと複合化しているシリカナノチューブ会合体の製造方法をも提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法で得られるシリカナノチューブ会合体は、形状及び細い外径と内径のサイズが制御されることから、バイオフィルタや濾過フィルタなどのナノフィルタを始めとして、フォトニックス材料、触媒、生物高分子キャリアー、防菌剤、殺菌剤、抗ウイルス、化粧品など多くの領域への利用が可能である。
【0013】
また、本発明の製造方法によれば、シリカナノチューブ会合体を得る工程を室温下にさせることができ、シリカナノチューブ作製過程で生体活性物質(酵素、ウイルス、菌など)の構造と機能に損傷を与えずに混合することができるので、シリカナノチューブにこれらの生体活性物質を固定することにつながる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1におけるシリカナノチューブ集合体の走査型電子顕微鏡での観察写真である。
【図2】実施例1における窒素ガス吸着(下)−脱着(上)の等温線である。
【図3】実施例1におけるポア体積分布曲線である。
【図4】実施例1におけるシリカナノチューブ会合体の透過型電子顕微鏡での観察写真である。
【図5】実施例2における窒素ガス吸着(下)−脱着(上)の等温線である。
【図6】実施例2におけるポア体積分布曲線である。
【図7】実施例2におけるシリカナノチューブ会合体の透過型電子顕微鏡での観察写真である。
【図8】実施例3におけるシリカナノチューブ会合体の走査型電子顕微鏡での観察写真である。
【図9】実施例3における窒素ガス吸着(下)−脱着(上)の等温線である。
【図10】実施例3におけるポア体積分布曲線である。
【図11】実施例3におけるシリカナノチューブ会合体の透過型電子顕微鏡での観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
シリカナノチューブ会合体を得るには、まず、その外形を有するシリカ被覆層とポリマー芯とからなる複合ナノファイバーの会合体が要求される。このような前駆体を得るには、複合ナノファイバーの会合体形状を誘導する芯となるポリマーテンプレートが必要となる。ここで言うポリマーテンプレートは、結晶性のナノファイバー形状を有し、しかも、その表面がシリカソースのゾルゲル反応を引き起こす触媒機能を有することが必要である。
【0016】
本発明者らは、すでに直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを使用することで、結晶性フィラメントを得る方法を考案し、そのフィラメント表面でのゾルゲル反応を経由するシリカナノチューブの製造方法を前記特許文献2にて提案している。
【0017】
しかしながら、前記特許文献2等で示している直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性フィラメントを得る工程では、該ポリマーを80℃以上の熱水中に溶解し、その溶液を室温まで冷却することを必須とするものであり、この冷却工程による結晶化によってフィラメントを誘導した。この加熱と冷却を必要とするプロセスでは、当該ポリマーのフィラメントのサイズを小さくしたり、均一性を高めたりする制御ができず、ファイバー形状の選択的誘導が不可能であった。
【0018】
本発明では、まず加熱工程をなくすことで、直鎖状ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントのサイズとその触媒機能の成長工程を高度に制御することを検討した。更に、ポリマーテンプレートのサイズ制御のための、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントを誘導する工程の選定を検討した。サイズ制御のためには、直鎖状ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントを形成させる際に、イミン残基の一部をプロトン化することで、フィラメント表面のフリーのアミノ基とプロトン化アミノ基とを共存させることになり、この結果表面でのゾルゲル反応が促進され、該結晶性フィラメントを芯とする安定した複合ナノナノファイバーを得ることが可能である。
【0019】
このことを満たす工程として、直鎖状ポリエチレンイミン(LPEI)を合成する際、それの前駆体であるポリオキサゾリンを塩酸水溶液で加水分解することで、塩酸塩状態のLPEI・HCl粉末を得てから、それを室温にて水中に溶解し、その酸性水溶液に塩基性化合物を加え、中和を起こし、中性付近での直鎖状ポリエチレンイミンの結晶化を誘導する。これで形成する結晶は表面にフリーの−NH−とプロトン化の−HNH+−が共存するフィラメントになる。後は、これで得たフィラメントとシリカソースとを水中にて混合することだけで、目的とする複合ナノファイバーを得ることができる。それを焼成または芯のポリマー成分を溶解させる工程を経て、目的のシリカナノチューブを得ることができる。以下、この製造工程について詳細に述べる。
【0020】
[ポリオキサゾリンの酸性条件下での加水分解]
直鎖状ポリエチレンイミンを得るには、必ずポリオキサゾリンの加水分解を経ることになる。従って、前駆体となるポリオキサゾリンを用いなければならない。
【0021】
加水分解に用いるポリオキサゾリンとしては、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリフェニルオキサゾリンなどが好ましい。これらポリオキサゾリンの重合度は、20〜10,000の範囲であれば好適に用いることができるが、結晶性及びその後のゾルゲル反応における有効性(触媒効果)を考えた場合、重合度は50〜5,000の範囲であることがより好ましい。
【0022】
ポリオキサゾリンとして、市販のポリエチルオキサゾリン、ポリメチルオキサゾリンなどを用いることができる。また、オキサゾリン類のモノマーを使用して、カチオン型の重合法により合成されたポリオキサゾリンを用いることもできる。
【0023】
直鎖状ポリエチレンイミンの前駆体ポリマーであるポリオキサゾリンの加水分解は、一般に酸性条件下でもアルカリ条件下でも行なうことができるが、本発明では、塩酸水溶液を用いる加水分解が必須である。
【0024】
前記加水分解の具体的方法としては、例えば、塩酸水溶液中でポリオキサゾリンを加熱下で攪拌する方法が挙げられ、この結果、ポリエチレンイミンの塩酸塩を得ることができる。用いる塩酸水溶液は、濃塩酸でも、1mol/L程度の水溶液でもよいが、加水分解を効率的に行うには、3〜8mol/Lの塩酸水溶液を用いることが好ましく、5mol/Lの塩酸水溶液を用いることが最も好ましい。また、反応温度は60〜90℃の範囲で行うことができるが、より好ましくは75〜85℃の範囲である。
【0025】
酸性条件下での加水分解における酸の使用量としては、ポリマー中のオキサゾリンモノマー単位に対し、1〜10モル当量でよく、反応効率の向上と後処理の簡便化のためには、2〜5モル当量の範囲とすることが好ましい。
【0026】
上記反応条件下、加水分解が進むにつれて直鎖状ポリエチレンイミンは過剰の塩酸の存在により塩酸塩状態となり、それは反応液中から沈殿する。その沈殿物をろ過し、極性有機溶剤、例えば、アセトン、エタノール、メタノールにて洗浄後、ポリエチレンイミンの塩酸塩粉末として回収できる。
【0027】
[ポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液]
上記で得られるポリエチレンイミン塩酸塩粉末は室温下、例えは15〜30℃の水中に容易に溶解する。従って、任意の濃度範囲でポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液を調製することができるが、本発明では、引き続き行なう中和過程での結晶性フィラメントの成長過程の制御のために、塩酸塩状態での水溶液濃度を1〜50wt%の範囲にすることが好ましい。
【0028】
[ポリエチレンイミン塩酸塩水溶液の中和]
上記で調製したポリエチレンイミン塩酸塩水溶液は、基本的にpH値が4以下である。その水溶液に塩基性化合物を加え、pH値を8〜9の間に調整することで結晶化が進行し、その結晶体の分散液を得ることができる。本発明では、このpH値を8.5〜9.8の範囲に調整することにより、より均一性に優れた結晶性フィラメントを得る。
【0029】
pH値の調整に用いる塩基性化合物としては特に限定されるものではなく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア水や、トリエチルアミン、テトラメチルジアミノエタンなどの有機アミン化合物を用いることができる。
【0030】
無機の塩基性化合物を用いる場合はその水溶液を用いることが好ましく、その濃度は特に限定されるものではないが、1〜5mol/Lの範囲であればpH調整が容易である点から好適に用いることができる。
【0031】
塩基性化合物をポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液に加える際には、その水溶液を調整してからこれを攪拌条件下で滴下することが好ましい。滴下終了後、混合液を室温にて1〜5時間静置させることで、結晶体が析出し、溶液状態から結晶体分散状態になる。
【0032】
[結晶体の単離]
上記で得る結晶体分散液を遠心機にて沈ませ、それに蒸留水等を加えて洗浄することができる。この洗浄では、中和に用いた塩基性化合物の残留を除去することができる。
【0033】
洗浄状態を確認する目安としては、洗浄液のpH値を用いることができ、その値が5.5〜7.8の範囲であることが好ましく、特に6〜7.5の範囲であると、洗浄が好適に行なわれたことが判断できる。好適なpHの範囲にある結晶性フィラメントは次の工程での複合ナノファイバーのサイズ制御に有利である。
【0034】
洗浄液としては蒸留水を使うこと以外、場合により、水溶性有機溶剤、例えば、エタノール、アセトン等を混合して用いることもできる。その際、有機溶剤の混合量は50wt%以下が望ましい。
【0035】
洗浄後の結晶体はそのまま次の工程に用いることができるし、また、濡れたまま、あるいは、室温にて乾燥した後、密閉状態で保存して使うことも出来る。
【0036】
[ポリエチレンイミンの芯とシリカ被覆層とからなる複合ナノファイバーの合成]
上記で得られた結晶性フィラメントを水中に分散し、一定濃度に調整した後、その分散液に、攪拌しながら、シリカソースを加えて、その混合物を室温にて5分から10時間攪拌することで、ポリエチレンイミンの芯とシリカ被覆層とからなる複合ナノファイバーが形成される。
【0037】
結晶体フィラメント分散液の固形分濃度としては0.5〜10wt%に設定することができる。得られる複合ナノファイバーのランダムな会合を防ぐことから、その濃度範囲を5wt%以下に調製することはもっと好適である。
【0038】
シリカソースとしては、アルコキシシラン類であれば好適に用いることができる。アルコキシシランの濃度は、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの濃度と比例的に調整し、当該濃度が低い場合にはアルコキシシラン類の濃度も低くし、濃度が高い場合には、アルコキシシラン類の濃度を高めることが望ましい。概ね、アルコキシシラン類の濃度は結晶性フィラメントの質量に対し、4〜100倍等量であれば好適である。
【0039】
アルコキシシラン類化合物として、テトラアルコキシシラン類、アルキルトリアルコキシシラン類などが挙げられる。
【0040】
テトラアルコキシシラン類としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシランなどが挙げられる。
【0041】
アルキルトリアルコキシシラン類としては、例えば、メチルトリメトキシラン、メチルトリエトキシラン、エチルトリメトキシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシラン、n−プロピルトリエトキシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシトキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシトキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシラン、3−メルカプトプロピルトメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシアンなどが挙げられる。
【0042】
これらの中でも、特にテトラメトキシシランの4〜5量体である縮合物(コルコート株式会社製の商品名MS−51等)、テトラエトキシシランの4〜5量体である縮合物(コルコート株式会社製の商品名ES−51等)などを好適に用いることができる。
【0043】
[シリカ被覆層からなるナノチューブ]
前記工程で経て得られた複合ナノファイバーの構造において、被覆層は三次元構造のゲルであるシリカが主であり、コア(芯)は直鎖状ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントである。このコアは、ポリエチレンイミンのエチレンイミン[−CH2CH2NH−]一つのユニットに二つの水分子が結合してからなる結晶である。
【0044】
この結晶性フィラメントはメタノール、エタノール、水などの溶剤を用いて溶解させることができる。この結晶は一旦溶解すると、塩基性ポリエチレンイミンの分子状態として、酸性のシリカ被覆層の内壁と強く相互し、シリカ被覆層内壁に吸着され、再び結晶に戻ることができなくなる。その結果、結晶性の芯は消失し、内部は中空構造となる。
【0045】
従って、本発明では、シリカと直鎖状ポリエチレンイミンが複合されたままのナノチューブを得ることができる。この際、結晶性のコアを溶解させるには、複合ナノファイバーを溶液中で室温浸漬または加熱状態で浸漬することで十分である。溶剤がメタノールまたはエタノールの場合、特に加熱する必要もなく、これらの溶剤で複合ナノファイバーを洗浄することでも、芯の結晶性フィラメントを溶解させ、それをシリカ被覆層の内壁に吸着させ、内部を中空状態にすることができる。また、水を溶剤として用いる場合は、70℃程度にまで加熱することによって、同様に中空構造を発現させることができる。
【0046】
これで得られるナノチューブはシリカとポリエチレンイミンとで構成されており、ポリエチレンイミンの含有量は全体の5〜35wt%を占めることができる。また、ナノチューブの内径は、2〜5nmの範囲であり、その外径は15nm以下であることに特徴を有する。又ナノチューブの長さとしては0.1μm〜1mmの範囲であり、特に0.1〜10μmの範囲のものが好適に得られる。
【0047】
本発明で得られるシリカナノチューブは、一本一本分離したナノチューブではなく、ナノチューブが集合してからなるバンドル(会合体)であり、特に、そのバンドルが円盤状形状に近いことに特徴がある。円盤状バンドルのサイズは、直径が0.5〜20μm、特には3〜20μmの範囲であり、その厚みは20〜200nmの範囲である。
【0048】
本発明では、さらに、複合ナノファイバーをそのまま、または上記の操作によりポリエチレンイミンが吸着されてなるナノチューブを加熱焼成し、ポリマー成分を除去することにより、シリカを主成分とするシリカナノチューブを得ることができる。主成分とするとは、焼成条件によっては、ポリエチレンイミン由来の炭化成分等がナノチューブ内に残ることがあったとしても、意図的に第三成分を介在させない限り、シリカから構成されることを意味するものである。
【0049】
焼成温度は、ポリエチレンイミンが分解する温度以上であればよく、その範囲を250℃から1000℃に設定することができる。シリカ成分純度を高めるには、焼成温度を500℃以上に設定することが望ましい。
【0050】
焼成時間は温度により設定することができるが、高い温度ほど焼成時間を短くすることができる。一般として、500℃以上の焼成温度では、2〜3時間焼成で十分である。
【0051】
焼成により得られるシリカナノチューブの外径は15nm以下であり、その内径は2〜5nmの範囲である。
【0052】
上記で得られるシリカとポリエチレンイミンとが複合しているナノチューブ、またはシリカナノチューブの内径は、ガス吸着によるポア分布測定から見積もることができるし、また、透過型電子顕微鏡(TEM)観察から同定できる。TEM観察は局所の写真イメージであるに対し、ポア分布では、ナノチューブ全体の平均値を取ることができる。この二つの測定によるナノチューブ同定結果が一致することが、本発明での大きな特徴である。即ち、本発明でのナノチューブは個別または局所現象ではなく、物質全体に広がる共通の構造である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および参考例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0054】
[X線回折法による分析]
単離乾燥した試料を測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−Ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲4〜40°の条件で測定を行った。
【0055】
[示差熱走査熱量法による分析]
単離乾燥した試料を測定パッチにより秤量し、それをPerkin Elmer製熱分析装置「DSC−7」にセットし、昇温速度を10℃/分として、20℃から90℃の温度範囲にて測定を行った。
【0056】
[走査電子顕微鏡による形状分析]
単離乾燥した試料をガラススライドに乗せ、それをキーエンス製表面観察装置VE−7800にて観察した。
【0057】
[透過電子顕微鏡による観察]
単離乾燥した試料を炭素蒸着された銅グリッドに乗せ、それを(株)トプコン、ノーランインスツルメント社製EM−002B、VOYAGER M3055高分解能電子顕微鏡にて観察した。
【0058】
[焼成法]
焼成は、(株)アサヒ理化製作所製セラミック電気管状炉ARF−100K型にAMF−2P型温度コントローラ付きの焼成炉装置にて行った。
【0059】
[比表面積測定]
比表面積はマイクロメリティクス社製Tris star 3000型装置にて、窒素ガス吸着/脱着法で測定し、全比表面積はBET面積と00面積の合計値で見積もった。また、ポアサイズ分布はポア体積分率対ポアサイズのプロットから見積もった。
【0060】
[pH測定]
ポリエチレンイミン塩酸塩を塩基性化合物で中和する際、及び結晶の洗浄の際のpH値は、Mettler−Toledo社(スイス)製のSevenGo pH SG2にて測定した。
【0061】
実施例1[シリカのナノチューブ会合体の合成]
<直鎖状ポリエチレンイミン塩酸塩(LPEI・HCl)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量50,000、平均重合度500、Aldrich社製)240gを、5Mの塩酸水溶液1500mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を得た。室温(20〜25℃)乾燥後の収量は178gであった。得られた粉末を1H−NMR(JEOL JNM−LA300型核磁気共鳴吸収スペクトル測定装置:重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH3)と2.3ppm(CH2)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0062】
<ポリエチレンイミン塩酸塩(LPEI・HCl)水溶液の調製、結晶化、複合ナノフィアバーの合成>
上記で得られたポリエチレンイミン塩酸塩5gを60mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液10mLを滴下した。この混合液のpHは9.0であった。その混合液を4時間攪拌後、析出した結晶体を遠心分離にて3回洗浄した。洗浄後の結晶粉末を500mLの蒸留水中に分散した。この時点での分散液のpH値は6.5であった。その分散液中に、5.5mLのメチルシリケート(MS51)を加え、室温下(20〜25℃)1時間攪拌した。反応液を遠心分離にて処理し、析出した固形物を水で洗浄後、室温にて乾燥し、ポリエチレンイミンの芯とシリカ被覆層とからなる複合ナノファイバーの会合体を得た。収量:10.8g。図1には、得られた複合ナノファイバーの会合体のSEM写真を示した。ファイバーが円盤状に集合した構造であることが確認できる。XRDから直鎖状ポリエチレンイミンの結晶体由来のピークが観測された。
【0063】
<シリカ/ポリエチレンイミン複合のナノチューブ>
上記で得た複合ナノファイバーの会合体0.5gを10mLのメタノール中1時間浸漬後、ろ過し、固形分を室温にて乾燥させた。これにより得られたナノチューブを表面分析測定に用いた。BET表面積は286m2/gであった。それの等温線及びポア分布は、それぞれ図2と図3に示した。ポアサイズ分布の結果から、ポアサイズの3.5nmのところに、シャープなピークが現れた。このピーク値はちょうどチューブ内径サイズを反映する。ポアサイズは2nmから増大し、4nm以下でピーク値を経て、低下する。これは、このファイバー状のシリカ中には、規則的中空構造、即ちチューブを形成していることを強く示唆する。規則的中空構造を持たない場合、このようなピークは現れることがない。また、TEM観察から、太さが12nm以下の真っすぐ伸びたファイバーが密に重なり、それがシートを形成し、かつ、ファイバーの中心部が透明に映ることが確認された(図4)。即ち、中心部は空洞で、その内径は3〜4nmである。このナノチューブの熱分析から、重量損失は25.3wt%であった。
【0064】
実施例2[複合ナノフィアバーの焼成によるシリカナノチューブ]
実施例1の工程経由で得られた複合ナノファイバーの会合体0.5gをアルミナ坩堝に加え、それを電気炉内にて焼成した。炉内温度は、1時間かけて800℃まで上げ、その温度にて2時間保持した。これを自然冷却し、ポリマー成分を除去したシリカナノチューブを得た。
【0065】
これで得た粉末の比表面積は418.5m2/gであった。この粉末の等温線及びポアサイズ分布は、それぞれ図5と図6に示した。ポアサイズは2nmから低下するが、3nm当たりから増大し、ピーク値後再び低下する。これはちょうどチューブ内径サイズを反映する。また、図7にはTEM観察のイメージ写真を示した。ナノファイバーから重なり構造は800℃焼成後でも変化しなかった。ポアサイズ分布での中空のサイズ(4.2nm)とTEM観察での内径(4nm)はほぼ一致した。
【0066】
実施例3[シリカのナノチューブ会合体の合成]
実施例1と同様に、ポリエチレンイミンの塩酸塩を作製し、その粉末5gを60mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液10mLを滴下し、pHを9.1に調整した。その混合液を4時間攪拌後、析出した結晶体を遠心分離にて3回洗浄した。これらの結晶体を150mLの蒸留水中に分散した。この時点での分散液のpH値は6.7であった。その分散液中に、5.5mLのメチルシリケート(MS−51)を加え、室温下1時間攪拌した。反応液を遠心分離にて処理し、析出した固形物を水で洗浄後、室温にて乾燥し、ポリエチレンイミンの芯とシリカ被覆層とからなる複合ナノファイバー会合体の粉末を得た。収量:11.4g。
【0067】
得られた複合ナノファイバー会合体のSEM観察から、一枚の円盤状構造が確認された(図8)。この粉末を実施例2の同様な方法で焼成した。焼成後のBET比表面積は320m2/gであった。それの等温線及びポア分布は、それぞれ図9と図10に示した。ポアサイズの4.2nmのところに、シャープなピークが現れた。これは、このファイバー状のシリカ中には、規則的中空構造が形成していることを強く示唆する。また、TEM観察から、太さが10nm以下のファイバーが密に重なり、それがシートを形成し、かつ、ファイバーの中心部が透明に映ることが確認された(図11)。即ち、ファイバー中心部は空洞で、その内径は3〜4nm範囲である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)ポリオキサゾリンを酸性条件下で加水分解し、ポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を得る工程、
(II)工程(I)で得たポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を水中に溶解し、ポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液を得る工程、
(III)工程(II)で得た水溶液に塩基性化合物を加え、pHを8.5〜9.8の範囲に調整して、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を得る工程、
(IV)工程(III)で得たポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を単離する工程、
(V)工程(IV)で単離したポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を水性媒体中に分散し、その分散液にシリカソースを加えることにより、結晶性フィラメントの会合体表面にてシリカを析出し、ポリエチレンイミンの芯とこれを被覆するシリカとからなる複合ナノファイバーの会合体を得る工程、
(VI)工程(V)で得た複合ナノファイバーの会合体を加熱焼成して内部のポリエチレンイミンの芯を熱分解により除去し、内部に中空構造を発現させる工程、
を有することを特徴とするシリカを主成分とするシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【請求項2】
(I)ポリオキサゾリンを酸性条件下で加水分解し、ポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を得る工程、
(II)工程(I)で得たポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を水中に溶解し、ポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液を得る工程、
(III)工程(II)で得た水溶液に塩基性化合物を加え、pHを8.5〜9.8の範囲に調整して、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を得る工程、
(IV)工程(III)で得たポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を単離する工程、
(V)工程(IV)で単離したポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を水性媒体中に分散し、その分散液にシリカソースを加えることにより、結晶性フィラメントの会合体表面にてシリカを析出し、ポリエチレンイミンの芯とこれを被覆するシリカとからなる複合ナノファイバーの会合体を得る工程、
(VI’)工程(V)で得た複合ナノファイバーの会合体を水またはアルコール類で処理し、複合ナノファイバーの芯であるポリエチレンイミンの結晶性をなくしてシリカ内壁に吸着させることで、内部に中空構造を発現させる工程、
を有することを特徴とするポリエチレンイミンと複合化しているシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【請求項3】
前記シリカナノチューブの外径が15nm以下であり、且つ内径が2〜5nmの範囲ある請求項1又は2記載のシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【請求項4】
前記シリカナノチューブの長さが0.1〜10μmの範囲にある請求項1〜3の何れか1項記載のシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【請求項5】
前記シリカナノチューブ会合体が、直径が0.5〜20μmの範囲にある円盤状の会合体である請求項1〜4の何れか1項記載のシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【請求項6】
前記円盤状に会合しているシリカナノチューブ会合体の厚みが20〜200nmの範囲にある請求項5記載のシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【請求項7】
前記工程(V)で用いるシリカソースが、テトラアルコキシシラン類およびトリアルコキシアルキルシラン類からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜6の何れか1項記載のシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【請求項1】
(I)ポリオキサゾリンを酸性条件下で加水分解し、ポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を得る工程、
(II)工程(I)で得たポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を水中に溶解し、ポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液を得る工程、
(III)工程(II)で得た水溶液に塩基性化合物を加え、pHを8.5〜9.8の範囲に調整して、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を得る工程、
(IV)工程(III)で得たポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を単離する工程、
(V)工程(IV)で単離したポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を水性媒体中に分散し、その分散液にシリカソースを加えることにより、結晶性フィラメントの会合体表面にてシリカを析出し、ポリエチレンイミンの芯とこれを被覆するシリカとからなる複合ナノファイバーの会合体を得る工程、
(VI)工程(V)で得た複合ナノファイバーの会合体を加熱焼成して内部のポリエチレンイミンの芯を熱分解により除去し、内部に中空構造を発現させる工程、
を有することを特徴とするシリカを主成分とするシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【請求項2】
(I)ポリオキサゾリンを酸性条件下で加水分解し、ポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を得る工程、
(II)工程(I)で得たポリエチレンイミンの塩酸塩粉末を水中に溶解し、ポリエチレンイミン塩酸塩の水溶液を得る工程、
(III)工程(II)で得た水溶液に塩基性化合物を加え、pHを8.5〜9.8の範囲に調整して、ポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を得る工程、
(IV)工程(III)で得たポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を単離する工程、
(V)工程(IV)で単離したポリエチレンイミンの結晶性フィラメントの会合体を水性媒体中に分散し、その分散液にシリカソースを加えることにより、結晶性フィラメントの会合体表面にてシリカを析出し、ポリエチレンイミンの芯とこれを被覆するシリカとからなる複合ナノファイバーの会合体を得る工程、
(VI’)工程(V)で得た複合ナノファイバーの会合体を水またはアルコール類で処理し、複合ナノファイバーの芯であるポリエチレンイミンの結晶性をなくしてシリカ内壁に吸着させることで、内部に中空構造を発現させる工程、
を有することを特徴とするポリエチレンイミンと複合化しているシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【請求項3】
前記シリカナノチューブの外径が15nm以下であり、且つ内径が2〜5nmの範囲ある請求項1又は2記載のシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【請求項4】
前記シリカナノチューブの長さが0.1〜10μmの範囲にある請求項1〜3の何れか1項記載のシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【請求項5】
前記シリカナノチューブ会合体が、直径が0.5〜20μmの範囲にある円盤状の会合体である請求項1〜4の何れか1項記載のシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【請求項6】
前記円盤状に会合しているシリカナノチューブ会合体の厚みが20〜200nmの範囲にある請求項5記載のシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【請求項7】
前記工程(V)で用いるシリカソースが、テトラアルコキシシラン類およびトリアルコキシアルキルシラン類からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜6の何れか1項記載のシリカナノチューブ会合体の製造方法。
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図1】
【図4】
【図7】
【図8】
【図11】
【図3】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図1】
【図4】
【図7】
【図8】
【図11】
【公開番号】特開2012−17233(P2012−17233A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156693(P2010−156693)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】
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