説明

シリカヒドロゾル中での金属塩結晶の成長方法

【課題】立方的な形状をもつ結晶(単結晶)を得ることができる金属塩結晶の成長方法、及びその金属塩結晶の成長方法により得られる金属塩結晶を提供すること。
【解決手段】シリカヒドロゾルと金属塩溶液とを混合し、前記シリカヒドロゾルをゲル化することにより、前記金属塩の結晶を成長させる金属塩結晶の成長方法。前記金属塩としては、硫酸銅又は硫酸ニッケルが挙げられる。前記シリカヒドロゾルをゲル化するときの温度は、金属塩が硫酸ニッケルの場合、20℃以下とすることが好ましい。また、金属塩が硫酸銅の場合、20℃以上とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカヒドロゾル中での金属塩結晶の成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸銅の五水和物は青色の三斜晶系結晶であり、その水溶液は、青色で酸性を示し、長く放置すると塩基性塩を生じる。硫酸銅の水に対する溶解度は温度によって大きく変化するので、飽和水溶液の冷却による再結晶が容易である。なお、本発明に関する先行技術は特に発見できなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、再結晶で得られる硫酸銅の結晶は粉末状であるため、立方的な形状を持つ結晶(単結晶)を得ることは困難であった。本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、立方的な形状をもつ結晶(単結晶)を得ることができる金属塩結晶の成長方法、及びその金属塩結晶の成長方法により得られる金属塩結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、シリカヒドロゾルと金属塩溶液とを混合し、前記シリカヒドロゾルをゲル化することにより、前記金属塩の結晶を成長させる金属塩結晶の成長方法を要旨とする。
本発明によれば、金属塩の立方的な形状をもつ結晶(単結晶)を容易に成長させることができる。得られた金属塩結晶は、例えば、消臭剤等として使用することができる。
【0005】
また、本発明によれば、廃液(例えば、メッキ廃液や工業廃液)の中に含まれる金属塩を選択的に結晶として成長させ、除去・回収することができる。すなわち、シリカヒドロゾルと、金属塩を含む廃液とを混合し、シリカヒドロゾルをゲル化することにより、廃液中の金属塩の結晶を成長させ、その金属塩結晶を取り除くことができる。
【0006】
前記金属塩としては、例えば、硫酸銅、硫酸ニッケル等が挙げられる。
前記シリカヒドロゾルをゲル化するときの温度は、金属塩が硫酸ニッケルの場合、20℃以下とすることが好ましい。また、金属塩が硫酸銅の場合、20℃以上(より好ましくは25℃以上)とすることが好ましい。こうすることにより、金属塩の結晶が成長し易くなる。
【0007】
本発明において、シリカヒドロゾルや金属塩溶液の条件を調整することにより、金属塩結晶の成長を促進することができる。その条件としては、例えば、シリカヒドロゾルを、シランアルコキシド、アルコール、及び酸性に調製した水から製造する場合、その組成(特に、酸性に調製した水の、他の成分に対するモル比)が挙げられる。また、前記条件としては、シリカヒドロゾルの粘度、シリカヒドロゾルをゲル化するときの温度等が挙げられる。これらの条件について、後述する実施例を参考にしながら、いくつか試験することにより、過度の試験を要することなく、金属結晶の成長に適した条件を容易に見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】金属結晶の成長方法を表すフローチャートである。
【図2】金属結晶の成長に関する実験結果を表す写真である。
【図3】金属結晶の成長に関する実験結果を表す写真である。
【図4】金属結晶の成長に関する実験結果を表す写真である。
【図5】金属結晶の成長に関する実験結果を表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0010】
TEOS(テトラエトキシシラン)、エタノール、及び塩酸でpH2に調製した水を、モル比が1:2:xとなり、全量180mLになるように量りとり、20℃±0.5℃の下で加水分解し、シリカヒドロゾルを調製した。ここで、上記xは、4、5、7、8、9、10、15、20のうちのいずれかであり、実験はxが各値の場合それぞれについて行った。シリカヒドロゾルの粘度は、5〜7mPaとなるようにした。なお、粘度は、B型粘度計(トキメック(株)製)を使用し、ローター(BL型)、回転数(6〜60rpm、3分間)の条件で測定した。
【0011】
このシリカヒドロゾル20gに対し、イオン交換水10gを入れて攪拌した。これを希釈シリカゾルとした。
硫酸銅五水和物とイオン交換水とを3:7の重量比で混合し、硫酸銅水溶液を得た。この硫酸銅水溶液を60℃に加温後、硫酸銅水溶液20gを希釈シリカゾル30gに添加攪拌し、その後インキュベーター内で静置熟成させ、ゲル化するまで観察した。静置熟成のときの温度は室温(20℃)とした。なお、上記の工程を図1に示す。
【0012】
シリカヒドロゾルにおける水のモル比(x)が8の場合は、硫酸銅水溶液を添加してから96時間後に、容器の底部に3本の針状結晶(立方的な形状をもつ結晶(単結晶))が析出した。この状態を図2の(5)に示す。また、シリカヒドロゾルにおける水のモル比(x)が9の場合は、硫酸銅水溶液を添加して24時間後には、容器の底付近の側面に針状結晶(立方的な形状をもつ結晶(単結晶))が析出し、その後徐々に結晶が成長し、96時間後にゲル化した。
【0013】
針状結晶については、XRD測定を行い、試薬硫酸銅と対比して、硫酸銅の結晶であることを確認した。
一方、シリカヒドロゾルにおける水のモル比(x)が4、5、7、10、15、20の場合は、硫酸銅水溶液を混合したときに沈殿が生じ、結晶が析出しないままゲル化した。シリカヒドロゾルにおける水のモル比(x)が4、20の場合の状態を図2の(4)、(6)に示す。
【実施例2】
【0014】
TEOS(テトラエトキシシラン)、エタノール、及び塩酸でpH2に調製した水を、モル比が1:2:8となり、全量180mLになるように量りとり、20℃±0.5℃の下で加水分解し、シリカヒドロゾルを調製した。シリカヒドロゾルの粘度は、5〜7mPa、10〜15mPa、20〜30mPaのうちのいずれかとなるようにした。実験は、粘度が上記3種の場合それぞれについて行った。なお、粘度の調整は、粘度を上昇させたい場合は、シリカヒドロゾルを静置する時間を長くし、粘度を低下させたい場合は、シリカヒドロゾルを静置する時間を短くすることにより行った。
【0015】
このシリカヒドロゾル20gに対し、イオン交換水10gを入れて攪拌した。これを希釈シリカゾルとした。
硫酸銅五水和物とイオン交換水とを3:7の重量比で混合し、硫酸銅水溶液を得た。この硫酸銅水溶液を60℃に加温後、硫酸銅水溶液20gを希釈シリカゾル30gに添加攪拌し、その後インキュベーター内で静置熟成させ、ゲル化するまで観察した。静置熟成のときの温度は室温(20℃)とした。なお、上記の工程を図1に示す。
【0016】
シリカゾルの粘度が5〜7mPa・sの場合は、前記実施例1において水のモル比(x)が8の場合である。このときの状態を図3の(4)に示す。
シリカゾルの粘度が10〜15mPa・sの場合は、硫酸銅水溶液を添加したときに沈殿が生じ、容器の側面に小さな結晶(立方的な形状をもつ結晶(単結晶))が析出し、ゲル化した。このときの状態を図3の(5)に示す。この結晶については、XRD測定を行い、試薬硫酸銅と対比して、硫酸銅の結晶であることを確認した。
【0017】
粘度が20〜30mPa・sの場合は、硫酸銅水溶液を添加したときに容器の底部から15mm程度の沈澱が生じ、その後ゲル化した。他の沈殿物とは異なり、ゾル/沈殿物界面で凹凸が見られた。このときの状態を図3の(6)に示す。
(比較例1)
TEOS(テトラエトキシシラン)、エタノール、及び塩酸でpH2に調製した水を、モル比が1:2:8となり、全量180mLになるように量りとり、20℃±0.5℃の下で加水分解し、シリカヒドロゾルを調製した。シリカヒドロゾルの粘度は、5.38mPaとなるようにした。なお、粘度は、B型粘度計(トキメック(株)製)を使用し、ローター(BL型)、回転数(6〜60rpm、3分間)の条件で測定した。
【0018】
このシリカヒドロゾル20gに対し、イオン交換水10gを入れて攪拌した。これを希釈シリカゾルとした。
硫酸銅五水和物とイオン交換水とを3:7の重量比で混合し、硫酸銅水溶液を得た。この硫酸銅水溶液を60℃に加温後、硫酸銅水溶液20gを希釈シリカゾル30gに添加攪拌し、その後インキュベーター内で静置熟成させ、ゲル化するまで観察した。静置熟成のときの温度は、10℃、20℃のうちのいずれかとした。実験は温度が10℃の場合と、20℃の場合とで、それぞれ行った。なお、上記の工程を図1に示す。
【0019】
静置熟成のときの温度が10℃の場合と、20℃の場合とのいずれにおいても、504時間経過した時点でも、硫酸銅の結晶は得られなかった。静置熟成のときの温度が10℃の場合の状態を図4の(1)〜(3)に示す。また、静置熟成のときの温度が20℃の場合の状態を図5の(1)〜(3)に示す。
【実施例3】
【0020】
TEOS(テトラエトキシシラン)、エタノール、及び塩酸でpH2に調製した水を、モル比が1:2:8となり、全量180mLになるように量りとり、温度20℃±0.5℃の下で加水分解し、シリカヒドロゾルを調製した。シリカヒドロゾルの粘度は、5.38mPaとなるようにした。
【0021】
このシリカヒドロゾル20gに対し、イオン交換水10gを入れて攪拌した。これを希釈シリカゾルとした。
硫酸ニッケル六水和物とイオン交換水とを3:7の重量比で混合し、硫酸ニッケル水溶液を得た。この硫酸ニッケル水溶液を60℃に加温後、硫酸ニッケル水溶液20gを希釈シリカゾル30gに添加攪拌し、その後インキュベーター内で静置熟成させ、ゲル化するまで観察した。静置熟成のときの温度は、10℃、20℃のいずれかであり、10℃の場合と、20℃の場合とで、それぞれ実験を行った。なお、上記の工程を図1に示す。
【0022】
温度が10℃の場合、及び20℃の場合のいずれにおいても、硫酸ニッケル水溶液を添加してから144時間後に容器の底部に針状結晶(立方的な形状をもつ結晶(単結晶))が析出した。その後徐々に結晶が成長し、504時間後にゲル化した。その状態を図4の(4)〜(6)(10℃の場合)と、図5の(4)〜(6)(20℃の場合)に示す。針状結晶については、XRD測定を行い、試薬硫酸ニッケルと対比して、硫酸ニッケルの結晶であることを確認した。
(比較例2)
TEOS(テトラエトキシシラン)、エタノール、及び塩酸でpH2に調製した水を、モル比が1:2:xとなり、全量180mLになるように量りとり、20℃±0.5℃の下で加水分解し、シリカヒドロゾルを調製した。ここで、上記xは、4、5、7、8、9、10、15、20のうちのいずれかであり、実験はxが各値の場合それぞれについて行った。シリカヒドロゾルの粘度は、5〜7mPaとなるようにした。
【0023】
このシリカヒドロゾル20gに対し、イオン交換水10gを入れて攪拌した。これを希釈シリカゾルとした。
硫酸ニッケル六水和物とイオン交換水とを3:7の重量比で混合し、硫酸ニッケル水溶液を得た。この硫酸ニッケル水溶液を60℃に加温後、硫酸ニッケル水溶液20gを希釈シリカゾル30gに添加攪拌し、その後インキュベーター内で静置熟成させ、ゲル化するまで観察した。静置熟成のときの温度は室温(20℃)とした。なお、上記の工程を図1に示す。
【0024】
シリカヒドロゾルにおける水のモル比(x)がいずれの場合でも、硫酸ニッケル水溶液を混合したときに沈殿が生じ、結晶が析出しないままゲル化した。シリカヒドロゾルにおける水のモル比(x)が4、8、20の場合の状態を図2の(1)〜(3)に示す。
(比較例3)
TEOS(テトラエトキシシラン)、エタノール、及び塩酸でpH2に調製した水を、モル比が1:2:8となり、全量180mLになるように量りとり、20℃±0.5℃の下で加水分解し、シリカヒドロゾルを調製した。シリカヒドロゾルの粘度は、5〜7mPa、10〜15mPa、20〜30mPaのうちのいずれかとなるようにした。実験は、粘度が上記3種の場合それぞれについて行った。なお、粘度の調整は、粘度を上昇させたい場合は、シリカヒドロゾルを静置する時間を長くし、粘度を低下させたい場合は、シリカヒドロゾルを静置する時間を短くすることにより行った。
【0025】
このシリカヒドロゾル20gに対し、イオン交換水10gを入れて攪拌した。これを希釈シリカゾルとした。
硫酸ニッケル六水和物とイオン交換水とを3:7の重量比で混合し、硫酸ニッケル水溶液を得た。この硫酸ニッケル水溶液を60℃に加温後、硫酸ニッケル水溶液20gを希釈シリカゾル30gに添加攪拌し、その後インキュベーター内で静置熟成させ、ゲル化するまで観察した。静置熟成のときの温度は室温(20℃)とした。なお、上記の工程を図1に示す。
【0026】
シリカゾルの粘度が5〜7mPa・s、10〜15mPa・s、20〜30mPa・sのいずれの場合でも、硫酸ニッケル水溶液を混合したときに沈殿が生じ、結晶が析出しないままゲル化した。その状態を図3の(1)〜(3)に示す。
【0027】
尚、本発明は前記実施の形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、TEOSの代わりにケイ酸ソーダ等のケイ酸塩を用いても、金属塩結晶を成長させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカヒドロゾルと金属塩溶液とを混合し、前記シリカヒドロゾルをゲル化することにより、前記金属塩の結晶を成長させる金属塩結晶の成長方法。
【請求項2】
前記金属塩は、硫酸銅又は硫酸ニッケルであることを特徴とする請求項1記載の金属塩結晶の成長方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属塩結晶の成長方法により得られる金属塩結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−6269(P2011−6269A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148669(P2009−148669)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000237112)富士シリシア化学株式会社 (38)
【Fターム(参考)】