説明

シリカ中空粒子の製造方法

【課題】 製造装置及び周辺装置類がコンパクト化でき、使用済みの有機溶媒を排出することのない環境への負荷を低減できるシリカ殻からなる高分散性の中空粒子の製造方法の提供。
【解決手段】 その製造方法は、水系媒質中にてコロイド状炭酸カルシウム、シリコンアルコキシド及び塩基触媒を混合し、コロイド状炭酸カルシウム表面にシリコンアルコキシドの加水分解反応により生成するシリカを析出させた後、酸処理により炭酸カルシウムを溶解させることを特徴とする。
得られた中空粒子は透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が30〜300nm、動的光散乱法による粒子径が30〜800nm、水銀圧入法により測定される細孔分布において2〜20nmの細孔が検出されない緻密なシリカ殻からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカの殻からなる中空粒子の製造方法に関する。
より詳しくは、本発明は、水系媒質中にて、シリコンアルコキシドを用いて炭酸カルシウム表面にシリカ膜を被覆した後、内部の炭酸カルシウムを溶解させることによりシリカ中空粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、粒子の形態制御による機能性材料の研究開発が盛んに行われており、そのひとつに中空状粒子の開発が挙げられる。
中空状粒子は、医薬や化粧品の分野では、その内部に有効成分を内包した徐放性医薬や徐放性化粧品のほか、外環境との接触により分解あるいは劣化してしまう成分の保護、ドラッグデリバリーシステムのための担体などへ適用すべく、種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、シリコンアルコキシドなどの有機ケイ素化合物と発泡剤とを混合噴霧した後に加水分解することにより中空シリカ粉末が得られることが記載されている。
さらに、特許文献2においては、シリコンアルコキシドに、アルコール、水及び酸触媒を加えて部分加水分解を行った後、フタル酸ジメチルを添加し、この溶液を界面活性剤を含んだアンモニア水溶液中で混合撹拌、乳化し、重縮合反応させることにより球状多孔質シリカ粒子を製造する方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献3においては、特定条件下でケイ酸アルカリから、シリカ以外の支持体上に活性シリカを沈殿させた後、該支持体を除去することによって、緻密シリカシェルからなる中空シリカ粒子を製造する方法も提案されている。
上記の通り、シリカの殻からなる中空状粒子については幾つかの検討がなされてきているものの、特許文献1及び2のような界面反応を利用した方法では、ミクロンオーダー以上の粒子径のものしか得られない。
【0005】
さらに、その特許文献3においては、20nm以上の中空シリカ粒子が製造できるとの記述はあるものの、本発明者らの実験によれば、ナノオーダーになると凝集が激しくなり、結果的にはミクロンオーダー以上の凝集粒子となってしまうことが確認されている。
しかも、この方法では、中空粒子を構成するシリカ殻は、シリカの微粒子が集合して形成されており、その結果、微細ではあるもののシリカ殻に細孔が存在することも、本発明者らは確認している。
【0006】
そして、近年においては、ナノテクノロジーに代表される超微細化技術の流れに対応すべく、シリカを使った中空状粒子についてもナノサイズのものが嘱望されている。
さらには、ナノサイズの特色をより効果的に発現させるためには、分散性がよいものが望まれているほか、中空状粒子を構成するシリカ殻の性状、特に分子サイズでの細孔の制御が必要となってくる。
【0007】
このような状況に鑑み、本発明者らは、シリカの中空状粒子の製造について検討を進めた結果、上記要望を満たすシリカの中空粒子の製造方法を既に見出し特許出願を行っている(特願2004−77450)。
この方法は、炭酸カルシウムを調製する第1工程、炭酸カルシウムにシリカをコーティングする第2工程、及び炭酸カルシウムを溶解させる第3工程により、シリカの殻からなる中空粒子を製造する方法である。
【0008】
その方法の第1工程においては、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が20〜200nmの炭酸カルシウムを水系にて調製し、静的光散乱法による粒子径が20〜700nmになるように熟成させた後、脱水して含水ケーキの状態とし、第2工程においては、第1工程の含水ケーキをアルコール中に分散させ、アンモニア水、水、シリコンアルコキシドを、シリコンアルコキシド/アルコールの体積比を0.002〜0.1、アンモニア水に含有されるNH3を、シリコンアルコキシド1モルに対して、4〜15モル、水をシリコンアルコキシド1モルに対して、25〜200モルとなるように添加することにより、シリカでコーティングされた炭酸カルシウムを調製した後、アルコール及び水による洗浄を行い、再び含水ケーキとし、第3工程においては、第2工程の含水ケーキを水に分散させ、酸を添加して、液の酸濃度を0.1〜3モル/Lとすることにより炭酸カルシウムを溶解させることを特徴とする。
【0009】
そして、この方法では、緻密なシリカ殻からなる高分散の中空粒子であって、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が30〜300nm、静的光散乱法による粒子径が30〜800nm、水銀圧入法により測定される細孔分布において2〜20nmの細孔が検出されない高分散シリカナノ中空粒子を製造することができる。
しかしながら、この方法においては、炭酸カルシウム粒子表面にシリカを被覆させる際、アルコールを主体とする溶媒を使用する必要があり、その結果安全性を配慮する必要があるという弱点がある。
【0010】
そこで、粒子表面へのシリカ被覆に関する従来技術をみるに、それにはシリコンアルコキシドの加水分解により粒子表面にシリカを沈殿させる方法や、ケイ酸アルカリの中和反応により粒子表面にシリカを沈殿させる方法が知られている。
前者のアルコキシドを用いる方法としては、例えば、特許文献4に記載の親水性有機溶剤中でシリコンアルコキシドの加水分解によりアルミニウム顔料表面にシリカを被覆する方法がる。
【0011】
さらに、その方法には、特許文献5に記載のシリコンアルコキシドを含む溶液にシラノール含有樹脂粒子を浸漬することによるシリカ被覆樹脂粒子の製造方法、特許文献6に記載の水及び触媒用の塩酸等を含むテトラエトキシシランのアルコール溶液等に酸化被膜を形成させたアルミニウム粉体を浸漬することによりシリカ被膜を形成させる方法、また特許文献7に記載の硫化亜鉛蛍光体の粒子表面をシリコンアルコキシドで処理した後加水分解してシリカを被覆させる方法などが挙げられる。
【0012】
後者のケイ酸アルカリを用いる方法としては、例えば、特許文献8に記載の二酸化チタン粒子が分散された特定温度及び特定pHの水性スラリー中にケイ酸塩を添加することにより二酸化チタン粒子表面にシリカの被覆層を形成する方法、特許文献9に記載のカーボンブラック粒子を懸濁させた水性媒質中にケイ酸ナトリウム水溶液を添加してカーボンブラック粒子表面をシリカにより被覆処理する方法、また特許文献10に記載の水中にて高分子樹脂膜を有する酸化鉄粒子表面にケイ酸ナトリウムの加水分解によりシリカを被覆させる方法などが挙げられる。
【0013】
[先行技術文献]
【特許文献1】特開平6−91194号公報
【特許文献2】特許第2590428号公報
【特許文献3】特許第3419787号公報
【特許文献4】特開2002−88274号公報
【特許文献5】特開平10−330488号公報
【特許文献6】特開平7−62262号公報
【特許文献7】特開平1−284583号公報
【特許文献8】特開平10−130527号公報
【特許文献9】特許第2013985号公報
【特許文献10】特開平58−77505号公報
【0014】
上述の通り、粒子表面へのシリカ被覆については、アルコールなどの有機溶媒を主体とする液相中でシリコンアルコキシドを用いる方法と、水溶媒中でケイ酸ナトリウムなどの無機化合物を用いた方法とに限定される。
そのシリコンアルコキシドを原料とした被覆においては、粒子表面に平滑かつ不純分の少ない被膜を形成させることができる。
ただし、シリコンアルコキシドは、水を主体とする溶媒中では急激な加水分解反応が起こり、その結果シリカが粒子表面で膜を形成せず、ゲルを形成したり、シリカの単独粒子として析出したりするとされている。
【0015】
このことから、シリコンアルコキシドを用いる場合には、アルコール等の有機溶媒を主体とする液相中で被覆操作を行うことになる。
しかしながら、有機溶媒を使用するには、その製造装置に防爆構造が要求され、装置が大規模かつ高価なものになるほか、使用済みの有機溶媒を排出することは、近年深刻化している環境保全の問題にとっても、工業的に最適な方法であるとは言い難いのが現状である。
【0016】
他方、ケイ酸ナトリウム等の無機化合物を用いたシリカ被覆の場合には、水を主体とする溶媒の使用が可能となる。
しかしながら、この際には、被覆される膜は微粒子膜となる傾向にあり、アルコキシドを用いた場合よりも平滑性に欠け、また不純分が混在したものとなってしまう。
例えば、ケイ酸ナトリウムから形成させたシリカ膜の場合、シリカ膜中にナトリウムが混在してしまう。
【0017】
また、好適に被覆を行うためにpHを調節する必要があることから、pH調節剤を添加したり、粒子の凝集を防止するために界面活性剤を添加したりすることから、これらの物質もシリカ膜中に残存することが多々ある。
これらのことからケイ酸ナトリウムなどの無機化合物を使用する方法は、シリカ膜の純度が要求される用途に適用することができていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
シリカ殻からなる中空粒子については、前述したとおり本発明者らが既に特許出願した方法により、ナノサイズで、分散性に優れ、かつシリカ殻が緻密であるものが製造できるが、その製造方法では、炭酸カルシウム粒子表面へのシリカ被覆の際に溶媒としてアルコールを用いる必要があった。
また、粒子表面へのシリカ被覆に関する従来技術によっても、前記したとおりシリコンアルコキシドをシリカ源として用いる場合にはアルコールなどの有機溶媒を使用しなければならない。
【0019】
このように溶媒としてアルコールなどの有機溶媒を使用した場合、その製造装置には防爆構造が要求され、装置が大規模かつ高価なものとなるほか、使用済みの有機溶媒を排出することは近年深刻化している環境保全の問題にとっても、工業的に最適な方法であるとは言い難い。
他方、シリカ源としてケイ酸ナトリウムなどを用いれば、水系での被膜が可能となるが、シリカ殻中に不純分が少なからず含有され、また緻密な殻とならないという問題があった。
【0020】
このような状況の中、シリカ中空粒子を製造する方法について、シリコンアルコキシドを用いた方法とケイ酸ナトリウムなどの無機化合物を用いた方法との各々の短所を解消することができるような方法が嘱望されており、本発明はそれを提供するものである。
すなわち、本発明は、シリコンアルコキシドをシリカ膜形成用原料として用いてシリカ中空粒子を製造する際に有機溶媒を使用しない環境負荷の少ない方法で、高品質のシリカ中空粒子を製造する方法を提供することを発明の解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、前記課題を解決するためのものであり、水系媒質中にて、コロイド状炭酸カルシウム、シリコンアルコキシド及び塩基触媒を混合し、コロイド状炭酸カルシウム表面に、シリコンアルコキシドの加水分解反応により生成するシリカを析出させた後、酸処理により炭酸カルシウムを溶解させることを特徴とするものである。
この方法では、水系媒質が、75容量%以上の水からなるのがよく、また塩基触媒としてアンモニア水を使用するのがよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の製造方法は、水系媒質中にて、コロイド状炭酸カルシウム粒子表面にシリカを被覆し、その後酸処理により炭酸カルシウムを溶解除去してシリカ中空粒子を得るものである。
そのため有機溶媒を使用する必要がないことから、製造装置及び周辺装置類がコンパクト化でき、使用済みの有機溶媒を排出することがないので環境への負荷を低減できる。
【0023】
そして、この方法では、緻密なシリカ殻からなる高分散性の中空粒子であって、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が30〜300nm、動的光散乱法による粒子径が30〜800nm、水銀圧入法により測定される細孔分布において2〜20nmの細孔が検出されないシリカ中空粒子を製造することができる。
さらに、本発明の方法により形成されるシリカ殻は、アルコールなどの有機溶媒系で形成させたものと変わらないことから、膜の平滑性や純度が要求される用途で使用できるほか、従来の有機溶媒系よりも製造コストが低く抑えられることから、より安価で同等性能を有するシリカ中空粒子を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、発明を実施するための最良の形態を含む本発明の実施の態様について詳細に説明するが、本発明はそれによって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。
本発明のシリカ中空粒子の製造方法は、水系媒質中にて、コロイド状炭酸カルシウム、シリコンアルコキシド及び塩基触媒を混合し、シリコンアルコキシドの加水分解反応により生成するシリカを、コロイド状炭酸カルシウム表面に析出させた後、酸処理して炭酸カルシウムを溶解させることを特徴とする。
本発明では、シリカ殻の原料としてシリコンアルコキシドを使用するにも拘わらず、水系媒質を使用することが大きな特長である。
【0025】
本発明でいう水系媒質は、水以外に他の液体が含有されていても何等問題がないが、75容量%以上の水からなるものがよい。
水の含有量が75容量%未満の場合、例えば水50容量%とアルコール50容量%の混合溶媒を用いた場合、製造装置の面では防爆構造が不必要であることは本発明の課題を達成できるが、廃液の処理や環境面への配慮の意味では、支障をきたすことがある。
したがって、本発明で使用する水系媒質は、75容量%以上、望ましくは85容量%以上、より望ましくは95容量%以上の水からなる媒質がよい。
さらに、最も望ましくは水のみからなる媒質がよく、有機溶媒等の他の液体を含有しないことから、排水処理が簡易あるいは不要で、製造コストを低く抑えることができ、かつ環境負荷を低減できる。
【0026】
また、本発明で使用するコロイド状炭酸カルシウムは、透過型電子顕微鏡観察により測定される一次粒子径が20〜200nmの立方体状あるいは菱面体状といった形状の炭酸カルシウムであり、水酸化カルシウムの水スラリーに炭酸ガスを導入することにより炭酸カルシウムを沈殿させる方法などにより調製することができる。
この際、目的とするコロイド状炭酸カルシウムを得るためには、比較的低温下で、沈殿反応の速度が比較的速い条件であることが望ましい。
【0027】
このコロイド状炭酸カルシウムは、調製直後(炭酸化反応の終了直後)は、20〜200nmの一次粒子が凝集し、数μmの凝集粒子を形成していることが多い。
したがって、調製直後のコロイド状炭酸カルシウムの水スラリーを室温下で静置したり、加熱下で撹拌するなどにより、動的光散乱法による平均粒子径が20〜700nmとなるまで熟成させることが望ましい。
この粒子径まで熟成、分散させることにより、最終的にナノサイズで分散性に優れたシリカ中空粒子を得ることができる。
【0028】
また、水系媒質中に混合するにあたっては、調製及び熟成を行ったコロイド状炭酸カルシウムの水スラリーをそのまま、又は適宜濃度調整を行ったものを混合することがよい。 つまり、熟成により充分分散させたコロイド状炭酸カルシウム粒子を、そのままの状態で、シリカ被覆の工程に供することで、ナノサイズでかつより分散性に優れたシリカ中空粒子を製造することが可能となる。
【0029】
本発明者らが既に別途出願している特願2004−77450号の方法においては、アルコールを主体とした溶媒を使用する必要があったため、調製した炭酸カルシウムの水スラリーを一旦ろ過して水分量を低減させ、含水ケーキの状態にしなければならないが、本発明においては、水系媒質を使用するため、調製及び熟成後の水スラリーをそのままの状態で使用できる。
このことにより、製造操作が簡易になるばかりでなく、より分散性に優れたシリカ中空粒子を製造することが可能となる。
【0030】
本発明においてシリカ殻の原料として用いるシリコンアルコキシドについては、その加水分解によりシリカを生成するものであれば特段の制約はなく、例えば、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリプロポキシシランなどを用いることができる。
また、塩基触媒としては、アンモニア水やアミン類などを用いることができる。
本発明においては、前記したコロイド状炭酸カルシウム及びシリコンアルコキシドに加えて塩基触媒であるアンモニア水などを、水系媒質中にて混合して、まずシリカにより被覆された炭酸カルシウムを調製する。
【0031】
これらを混合する際の態様としては、予めコロイド状炭酸カルシウムを分散させた水系媒質中にシリコンアルコキシド及び塩基触媒を添加あるいは滴下する方法、水系媒質とシリコンアルコキシドの混合液中にコロイド状炭酸カルシウム及び塩基触媒を添加する方法、コロイド状炭酸カルシウムを分散させたシリコンアルコキシドを塩基触媒を含有する水系媒質中に添加あるいは滴下する方法などがあり、それについては、水系媒質、コロイド状炭酸カルシウム、シリコンアルコキシド及び塩基触媒とを充分に混合できる方法であればよい。
その他にも、必要に応じて、シリカ中空粒子の分散性をさらに向上させるための分散剤や界面活性剤など適宜添加してもよい。
【0032】
また、水系媒質、コロイド状炭酸カルシウム、シリコンアルコキシド、塩基触媒の混合比についても、所望するシリカ殻の厚や性状を勘案して、適宜調節することが望ましい。 例えば、シリカ殻厚を厚くしたい場合には、シリコンアルコキシド/コロイド状炭酸カルシウムの比を大きくすればよく、また、反応時間を短縮したい場合には、塩基触媒/シリコンアルコキシドの比を大きくすればよい。
そして、より好適に高品質のシリカ中空粒子を効率よく製造するためには、次のような条件とすることが望ましい。
【0033】
まず、水系媒質に混合されるコロイド状炭酸カルシウムの量については、その固形分濃度が1〜20重量%とすることがよい。
その際1重量%未満であると、製造効率が低下し現実的でないほか、場合によってはシリカが殻を形成せずに遊離粒子となってしまうこともある。
逆に20重量%を超えると、粘度が上昇して均一なシリカ殻形成ができなくなることがある。
【0034】
さらに、シリコンアルコキシドとコロイド状炭酸カルシウムとの比については、シリコンアルコキシド1モルに対してコロイド状炭酸カルシウムを15g以上とするのがよい。 このようにすることにより、より平滑でかつ高純度のシリカ殻を比較的短時間で形成させることが可能となる。
逆に、15g未満の場合、シリカが遊離粒子として生成してしまうことがある。
【0035】
また、塩基触媒としてはアンモニア水が最も好適であり、それとシリコンアルコキシドの比については、シリコンアルコキシド1モルに対して、NH3が2〜40モル、望ましくは2〜10モルとすることがよい。
2モル未満であると反応に要する時間が極端に長くなり製造効率が悪化する。
逆に、40モルを超えると、シリカ殻の平滑性が低下したり、シリカが殻を形成せず遊離粒子となってしまう場合がある。
【0036】
さらに、コロイド状炭酸カルシウムへのシリカ殻の被覆の際の温度については、特段の制約はないが、60℃以下、より望ましくは45℃以下であることがよい。
被覆反応時の温度が高すぎると、シリカ殻の平滑性が低下したり、シリカの遊離粒子が生成することがあり、得られるシリカ中空粒子の性状を悪化させる場合がある。
上記したような条件とすることにより、平滑かつ高純度のシリカ殻をより効率よく形成させることができる。
【0037】
そのシリカ殻の形成につづいて、シリカ殻が被覆されたコロイド状炭酸カルシウムを酸処理して、炭酸カルシウムを溶解させ、シリカ殻のみを残存させることで中空粒子とする。
なお、酸処理に際しては、シリカ殻被覆後の液を水で置換したり、脱水洗浄などを行うことにより、未反応のシリコンアルコキシドを除去することが望ましい。
未反応のシリコンアルコキシドが大量に残留している場合、酸処理によりゲルが生成して、シリカ中空粒子の性状を悪化させることがある。
【0038】
酸処理に使用する酸としては、塩酸、酢酸、硝酸など、炭酸カルシウムを溶解させることができる酸であれば特段の制約はない。
その酸処理する際の液の酸濃度は0.1〜3モル/Lとすることがよい。
0.1モル/L未満であると、酸処理に要する時間が長くなってしまうほか、場合によっては炭酸カルシウムを完全に溶解させることができなくなることがある。
逆に、3モル/Lを超えると、炭酸カルシウムの酸分解反応が急激に起こり、特にシリカ殻が薄い場合には、シリカ殻が破壊されてしまうことがある。
【0039】
このように、炭酸カルシウムを酸処理により溶解させることによって、炭酸カルシウムが存在していた部分が中空になり、シリカ殻のみが残存することにより、シリカ中空粒子が得られる。
その酸処理後の液には、炭酸カルシウムの酸処理による溶解に伴い、カルシウム塩が混入するかたちとなる。
このカルシウム塩が用途によっては悪影響を及ぼすこともあるので、必要に応じて、液の水による置換や、脱水洗浄等により、カルシウム塩を除去することがよい。
また、用途に応じては、乾燥させて、乾燥粉の状態としても何等問題ない。
さらに、熱処理を行うことにより、殻中に残留する水分の除去を行ってもよい。
【0040】
このようにして得られるシリカ粒子は、緻密なシリカ殻からなる高分散の中空粒子であって、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が30〜300nm、動的光散乱法による粒子径が30〜800nm、水銀圧入法により測定される細孔分布において2〜20nmの細孔が検出されないものとなる。
さらに、得られるシリカ中空粒子は、そのシリカ殻が平滑かつ不純分の少ない高純度のものとなる。
【0041】
また、本発明の製造方法は、アルコール等の有機溶剤を使用する必要がなく、製造装置に防爆構造が要求されないばかりでなく、廃液処理が簡易でかつ環境負荷の少ない方法でシリカ中空粒子を製造することができる。
したがって、本発明の製造方法によれば、先行技術である有機溶媒と金属アルコキシドを利用した方法と同性能のシリカ中空粒子を、水系媒質中という安全で、排水処理が簡易で、かつ環境負荷が少ない方法で提供することが可能となる。
【0042】
本発明により製造されるシリカ中空粒子は、化学的に安定で人体に無害であるシリカから構成されていることから、医薬品、化粧料、食品関連や香料として利用することができ、特に中空構造の内部に有効成分を内包することにより、中空粒子の特長を生かすことができる。
その内部に内包させる物質及びその応用としては、以下のようなものが例示できる。
医薬類に関しては種々の成分を内包させることができ、該内包により、各種医薬成分は徐放性、放出制御性、保護性、マスキング性等の機能性を有する医薬品とすることができる。
【0043】
そして、各種医薬成分が内包されたシリカ中空粒子は、経口薬、エアゾール薬、軟膏剤、坐薬、パップ剤などの形態とすることによって、上記した徐放性、放出制御性、保護性、マスキング性等の機能を有する医薬製剤とすることができる。
その経口薬としては、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤といった固形製剤のほか、シロップ剤、懸濁剤、乳剤といった液体製剤にも適用できる。
固形製剤の場合、シリカ中空粒子に医薬成分を内包した粒子を含有する粉末を造粒して、錠剤、顆粒剤、丸剤等とするか、粉末状態のまま散剤として使用することもできる。
液体製剤の場合には、有効成分を内包したシリカ中空粒子を液に分散させればよい。
【0044】
エアゾール薬では、医薬成分を内包したシリカ中空粒子を粉末状態のまま使用した粉末吸引剤や、液に分散させて霧状あるいはペースト状の吸入剤としてもよい。
また、軟膏剤あるいは坐薬では、医薬成分を内包したシリカ中空粒子を、油脂、乳剤などの基剤と混練してペースト状又はクリーム状等にすればよい。
パップ剤でも同様に医薬成分を内包したシリカ中空粒子を樹脂などと混練し、シート状に成形して湿布などに使用することができる。
【0045】
医薬成分を内包したシリカ中空粒子の具体的用途については、内包させる医薬成分の種類によって異なるが、内包させる医薬成分としては、下記に示すような種々のものが適用できる。
例えば、神経系医薬としては、抗てんかん剤、解熱剤、鎮痛剤、総合感冒剤などの中枢神経系用剤や、自律神経剤、鎮けい剤などの末梢神経系用剤等がある。
生体防御機構に作用する医薬としては、免疫抑制剤、免疫促進剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤、抗リウマチ剤、インターフェロン様剤などがある。
【0046】
循環器官用医薬としては、不整脈用剤、血管拡張剤、血管収縮剤、血圧降下剤、血圧上昇剤、抗動脈硬化症剤、高脂血症用剤、利尿剤などがある。
呼吸器官用医薬としては、気管支拡張剤、鎮咳剤、去たん剤、鎮咳去たん剤、含嗽剤などがある。
消化器官用医薬としては、抗消化性かいよう剤、制酸剤、健胃消化剤、抗肥満症剤、鎮吐剤、催吐剤、止しゃ剤、下剤、整腸剤、複合胃腸剤などがある。
外皮用医薬としては、外皮用殺菌消毒剤、創傷保護剤、化膿性疾患用剤、鎮痛・鎮痒・収れん・消炎剤、浴剤などがある。
【0047】
代謝系用医薬としては、ビタミンA様剤、ビタミンD様剤、ビタミンB1様剤、ビタミンB2様剤、ビタミンC様剤、ビタミンP様剤、ビタミンE様剤、ビタミンK様剤、混合ビタミン様剤などのビタミン様剤のほか、カルシウム剤、無機質製剤、糖類剤、有機酸製剤、タンパクアミノ酸製剤などの滋養強壮薬や、肝臓疾患用剤、解毒剤、習慣性中毒用剤、痛風治療剤、酵素製剤、糖尿病用剤、総合代謝性製剤、尿酸代謝用剤、脂質代謝用剤、糖質代謝用剤などがある。
【0048】
本発明により製造されるシリカ中空粒子は、上記した医薬成分を内包することによって、内包した医薬成分が徐々に放出され長期にわたりその薬効を継続することができるばかりでなく、副作用の低減にも効果的である。
また、空気との接触、光、熱などによって分解あるいは変質し易い成分であっても、シリカ中空粒子に内包することによって、該成分の分解あるいは変質を抑制することができる。
【0049】
化粧料に関しては、下記に示す各種の保湿剤、植物抽出エキス、化粧料用薬剤、着色料、香料等を内包することができる。
これら化粧料成分を内包することによって、徐放性、放出制御性、保護性、マスキング性等の機能性を有する化粧料とすることができる。
植物抽出エキスとしては、収れん・清涼成分、抗炎症・抗アレルギー成分、殺菌・静菌成分、紫外線防止成分、皮膚賦活成分、保湿成分等がある。
【0050】
化粧料用薬剤としては、美白用薬剤、ビタミン剤、ホルモン剤、止痒剤、鎮痒剤、抗炎症剤、発毛促進剤、角質軟化剥離剤、収れん剤、酸化防止剤、抗菌剤のほか、ベンゾフェノン系、安息香酸系、ケイ皮酸系、サリチル酸系などの紫外線遮蔽剤等がある。
着色剤としては、有機合成色素、天然色素、無機系着色料等が、香料としては、天然香料、合成香料、調合香料等がある。
【0051】
上記した化粧料成分を内包することによって、該化粧料成分が徐々に放出され長期にわたりその効能を継続することができるばかりでなく、空気との接触、光、熱などによって分解あるいは変質し易い成分であっても、該成分の分解あるいは変質を抑制することができる。
具体例を挙げて説明すると、ビタミンなどの化粧料用薬剤を内包することにより、ビタミン類の効能である抗酸化作用が長期にわたり発現するほか、空気との接触によるビタミン類の分解や変質を抑制することができる。
【0052】
また、油性成分で構成されている化粧料に関して、水を含んだ抽出物を有効量配合することは種々問題が多く困難であり、例え配合できたとしても有効量に満たなかったり、無理に配合すると白濁してしまい好ましい外観が得られず実用には耐えがたい。
このような場合に、一方の成分をシリカ中空粒子内部に内包することにより、両成分の配合を比較的容易に行うことができる。
そのようなことを狙いとして本発明の製造方法で得たシリカ中空粒子が使用できる化粧料には、石鹸、化粧水、乳液、クリーム、パックなどのスキンケアに用いる基礎化粧品がある。
【0053】
さらに、同様の狙いで該シリカ中空粒子が使用できる化粧料には、ファンデーション、口紅、頬紅、白粉、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、眉墨、マニキュア等の肌を変えたり陰影をつけ立体感を出し、仕上げに用いるメーキャップ化粧品、香水、オーデコロン類、ボディーローション、ボディパウダー、石鹸等の芳香用化粧品(フラグランス)、シャンプー、リンス、ヘアコンディショナー、ヘアクリーム、非油性整髪料のヘアリキッド、ヘアスプレー、養毛のためのクリーム、ヘアトニック、ふけ取り用シャンプー、パーマネントウェーブ剤、カラークリーム、カラースプレー、洗毛剤、脱毛剤等の毛髪用化粧品がある。
【0054】
また、汗防臭剤、天瓜剤、育毛・養毛剤、洗毛剤、脱毛剤、薬用石鹸、薬用歯磨剤、浴用剤、防虫剤、日焼け止めクリーム等の薬用化粧品(医薬部外品)にも同様の狙いで使用できる。
さらに、同様の狙いで男性用化粧品にも使用でき、それには、顔用のシェービングクリーム、アフターローション、スキンミルク、頭髪用のシャンプー、リンス、ヘアリキッド、ヘアクリーム、ポマード、ヘアスプレー、フラグランスのオーデコロン、オードトワレ等がある。
【0055】
本発明の製造方法で製造したシリカ中空粒子は、上記したこれらの化粧料に単独で、あるいは部分または一部として使用できる。
このように本発明により製造したシリカ中空粒子は、医薬品、化粧料としての利用価値が高く、シリカ中空粒子を含有する医薬品および化粧料は、徐放性、放出制御性、保護性、マスキング性等の機能性に優れた製品といえる。
【実施例1】
【0056】
以下において、本発明の実施例及び比較例を示して更に具体的に説明するが、本発明は、該実施例によって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。
まず、透過型電子顕微鏡観察により測定される粒子径が50〜150nmであるコロイド状炭酸カルシウム及びテトラエトキシシランを用いて、水系媒質中におけるシリカ被覆操作を経て、シリカ中空粒子の製造を行った。
【0057】
そのコロイド状炭酸カルシウム30gをイオン交換水500g中に分散させた後、29%アンモニア水87g、テトラエトキシシラン32gを添加し、24時間撹拌した。
その後、イオン交換水により洗浄してから、1M塩酸500mL中に投入し30分間撹拌して、炭酸カルシウムを溶解させた。
続いて、イオン交換水により洗浄してから、105℃にて乾燥させて、シリカ中空粒子を得た。
【0058】
得られた生成物を透過型電子顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にて観察したところ、緻密なシリカ殻(殻厚約10nm)からなる60〜150nmの中空状粒子であった。
さらに、エネルギー分散型X線検出器により化学分析を行ったところ、シリコン及び酸素のみが検出され、高純度のシリカ中空粒子であることが確認された。
また、動的光散乱法による平均粒子径は250nmであり、かつ水銀圧入法による細孔分布測定では2〜20nmの細孔が検出されなかったことから、緻密なシリカ殻からなり、かつ分散性がよいことも確認できた。
【0059】
[比較例1]
実施例1と同じコロイド状炭酸カルシウム及びケイ酸ナトリウムを用いて、水系媒質中でのシリカ被覆操作を経て、シリカ中空粒子の製造を行った。
コロイド状炭酸カルシウム30gをホウ酸ナトリウム−ホウ酸緩衝水溶液500gに分散させた後、SiO2含有量が3重量%のケイ酸ナトリウム水溶液300gを、5g/分の速度で滴下して、コロイド状炭酸カルシウム表面にシリカを被覆した。
その後実施例1と同様の酸処理、洗浄、乾燥操作を行い、シリカ中空粒子を得た。
【0060】
得られた生成物を透過型電子顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にて観察したところ、比較的疎なシリカ殻(殻厚約10nm)からなる60〜150nmの中空状粒子であった。
さらに、エネルギー分散型X線検出器により化学分析を行ったところ、シリコン、酸素、ナトリウム、ホウ素が検出され、シリカ以外に、ナトリウムやホウ素といった不純分が含有されることが確認された。
また、動的光散乱法による平均粒子径は1100nmであり、かつ水銀圧入法による細孔分布測定では2〜20nmの細孔が検出されたことから、比較的疎なシリカ殻からなり、分散性が低いことも確認できた。
【0061】
[比較例2]
実施例1と同じコロイド状炭酸カルシウム、及びテトラエトキシシランを用いて、有機溶媒中でのシリカ被覆操作を経て、シリカ中空粒子の製造を行った。
コロイド状炭酸カルシウム30gをエチルアルコール500g中に分散させた後、29%アンモニア水87g、テトラエトキシシラン32gを添加し、24時間撹拌した。
その後、イオン交換水により洗浄してから、1M塩酸500mL中に投入し30分間撹拌して、炭酸カルシウムを溶解させた。
続いて、イオン交換水により洗浄してから、105℃にて乾燥させて、シリカ中空粒子を得た。
【0062】
得られた生成物を透過型電子顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にて観察したところ、緻密なシリカ殻(殻厚約10nm)からなる60〜150nmの中空粒子であった。
さらに、エネルギー分散型X線検出器により化学分析を行ったところ、シリコン及び酸素のみが検出され、高純度のシリカ中空粒子であることが確認された。
また、動的光散乱法による平均粒子径は450nmであり、かつ水銀圧入法による細孔分布測定では2〜20nmの細孔が検出されなかったことから、緻密なシリカ殻からなり、比較的分散性がよいことも確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系媒質中にて、コロイド状炭酸カルシウム、シリコンアルコキシド及び塩基触媒を混合し、コロイド状炭酸カルシウム表面に、シリコンアルコキシドの加水分解反応により生成するシリカを析出させた後、酸処理により炭酸カルシウムを溶解させることを特徴とするシリカ中空粒子の製造方法。
【請求項2】
水系媒質が、75容量%以上の水からなることを特徴とする請求項1に記載のシリカ中空粒子の製造方法。
【請求項3】
塩基触媒としてアンモニア水を使用し、かつシリコンアルコキシド1モルに対して、NH3を2〜40モルとすることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリカ中空粒子の製造方法。

【公開番号】特開2006−256921(P2006−256921A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78417(P2005−78417)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省委託研究、中部経済産業局、平成16年度地域新生コンソーシアム研究開発事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(505100931)
【出願人】(594086233)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【Fターム(参考)】