説明

シリカ濃度測定方法

【課題】自動化に適用可能な、七モリブデン酸六アンモニウムを用いた検査水のシリカ濃度の測定方法を実現する。
【解決手段】検査水へ七モリブデン酸六アンモニウムと無機酸とを含む試薬水溶液を添加して反応させた後、検査水について410〜450nmの吸光度を測定し、測定した吸光度から検量線により検査水のシリカ濃度を判定する。ここで用いられる試薬水溶液は、七モリブデン酸六アンモニウムに対する水素イオンのモル比が少なくとも44.5になるよう七モリブデン酸六アンモニウムと無機酸との混合割合が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ濃度測定方法、特に、検査水のシリカ濃度を測定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラ給水、冷却塔の補給水および電気式脱塩装置(EDI)による脱塩処理により純水化される被処理水等として用いられる水道水、工業用水および地下水等の原水は、微量のシリカを含んでいる。ボイラや冷却塔において、原水に含まれるシリカは、スケールの発生原因となるが、同時にボイラや冷却塔の各所の腐食を抑制する作用も有するため、その適切な濃度管理が要求される。また、EDIにおいて、原水に含まれるシリカは、イオン交換樹脂に吸着し、再生工程においても脱着しにくいことから徐々に蓄積してイオン交換能を低下させるため、予め前処理工程で除去されている。したがって、EDI用の被処理水は、シリカ濃度を測定することで、シリカの除去状態の確認が要求される。
【0003】
ボイラ給水、冷却塔の補給水およびEDIの被処理水等におけるシリカ濃度は、通常、非特許文献1において規定されたモリブデン黄吸光光度法により測定される。このモリブデン黄吸光光度法では、ボイラ給水等から採取した検査水に対して所定濃度の七モリブデン酸六アンモニウム溶液と所定濃度の塩酸とを加えて放置した後、検査水における410〜450nmの吸光度を測定する。ここで、検査水にシリカ(イオン状シリカ)が含まれる場合、このシリカが七モリブデン酸六アンモニウムとの反応により黄色のヘテロポリ化合物を生成し、検査水はこのヘテロポリ化合物の生成量に応じて検査水を黄色に変色させる。このため、検査水のシリカ濃度は、黄色の吸光度である410〜450nmの吸光度に基づいて判定することができる。なお、この測定方法において用いられる所定濃度の七モリブデン酸六アンモニウム溶液は、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物の所定量を水に溶かして所定量の水溶液としたものである。
【0004】
【非特許文献1】1998年発行の日本工業規格 JIS K 0101 「工業用水試験方法」 191−192頁
【0005】
ところで、この測定方法において用いられる七モリブデン酸六アンモニウム溶液は、保存安定性を欠き、調製後の早い段階からモリブデン酸の結晶の析出が進行する。特に、この結晶の析出は、高温になるほど進行が速い。結晶の析出した七モリブデン酸六アンモニウム溶液は、検査水に含まれるイオン状シリカとの反応性が低下するため、シリカ濃度の測定結果の信頼性を損ねることになる。このため、七モリブデン酸六アンモニウム溶液は、シリカ濃度を測定する度に調製するのが望ましい。
【0006】
また、ボイラ装置等は、各部の制御の自動化が進められており、自動制御のために必要な水質データを含む各種のデータも自動測定により得ているため、原水等のシリカ濃度の測定もモリブデン黄吸光光度法による自動化の要請がある。この場合、七モリブデン酸六アンモニウム溶液は、予め調製したものを試薬タンクに保存しておいて適宜使用する必要があるが、上述のような結晶の析出が進行するため、このような目的での保存が困難である。特に、七モリブデン酸六アンモニウム溶液は、結晶の析出が進むと、測定結果の信頼性を損うだけではなく、シリカ濃度の自動測定装置において試薬供給経路などを閉塞させ、自動測定装置の動作不良を引き起こす可能性もある。したがって、これまでのモリブデン黄吸光光度法は、シリカ濃度の自動測定への適用が困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、自動化に適用可能な、七モリブデン酸六アンモニウムを用いた検査水のシリカ濃度の測定方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシリカ濃度測定方法は、検査水のシリカ濃度を測定するための方法であり、七モリブデン酸六アンモニウムと無機酸とを含む試薬水溶液を検査水へ添加する工程と、試薬水溶液が添加された検査水について、410〜450nmの吸光度を測定する工程と、測定した吸光度に基づいて、検査水に含まれるシリカ濃度を判定する工程とを含んでいる。ここで用いられる試薬水溶液は、七モリブデン酸六アンモニウムに対する水素イオンのモル比が少なくとも44.5になるよう七モリブデン酸六アンモニウムと無機酸との混合割合が設定されている。
【0009】
この測定方法では、例えば、試薬水溶液が添加された検査水を少なくとも25℃に設定して放置した後に吸光度を測定する。また、この測定方法では、例えば、試薬水溶液が添加された検査水のpHを1.1〜1.6に調節して放置した後に吸光度を測定する。
【0010】
本発明に係る検査水のシリカ濃度測定用試薬は、七モリブデン酸六アンモニウムと無機酸とを含む水溶液からなり、七モリブデン酸六アンモニウムに対する水素イオンのモル比が少なくとも44.5になるよう七モリブデン酸六アンモニウムと無機酸との混合割合が設定されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシリカ濃度測定用試薬は、七モリブデン酸六アンモニウムと無機酸との混合割合を上記のように設定していることから結晶の析出が抑制されるので、調製後に保存することができ、また、長期間安定に使用することができる。したがって、この試薬を用いる本発明に係るシリカ濃度の測定方法は、自動化に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の測定方法は、検査水におけるシリカ濃度を測定するための方法である。
この測定方法を適用可能な検査水は、水中のシリカ濃度の測定が必要な水であれば種類が限定されるものではなく、例えば、水道水、工業用水および地下水等に由来のボイラ給水、ボイラ水、冷却塔補給水、冷却塔循環水、逆浸透膜装置での被処理水および濃縮水並びにEDI用の被処理水などである。また、この測定方法により測定可能なシリカは、イオン状シリカである。したがって、検査水がイオン状シリカとは異なる他のシリカ、すなわち、溶存シリカおよびコロイド状シリカを含む場合は、検査水に炭酸水素ナトリウムを加えて煮沸し、これらのシリカ成分をイオン状シリカに変換してから本発明の測定方法を適用する必要がある。
【0013】
本発明の測定方法においては、通常、所定の試薬水溶液を予め調製し、この試薬水溶液を保存する。ここで調製する試薬水溶液は、七モリブデン酸六アンモニウムと無機酸とを含むものであり、シリカを含まない水(例えば、JIS K 0557に規定されたA3の水)に七モリブデン酸六アンモニウムおよび無機酸を添加して溶解したものである。
【0014】
ここで用いられる七モリブデン酸六アンモニウムは、通常、四水和物である。また、無機酸としては、通常、塩酸、硝酸または硫酸が用いられる。試薬水溶液における七モリブデン酸六アンモニウムの濃度(結晶水を除いた七モリブデン酸六アンモニウム自体の濃度)は特に限定されないが、検査水に含まれるものと通常予想されるシリカの濃度との関係および試薬水溶液の添加量節約の観点から、30〜120g/リットルに設定するのが好ましく、50〜100g/リットルに設定するのがより好ましい。
【0015】
また、試薬水溶液を調製する際に用いる七モリブデン酸六アンモニウム若しくはその四水和物と無機酸との混合割合は、七モリブデン酸六アンモニウムに対する、無機酸に由来の水素イオンのモル比が少なくとも44.5、好ましくは46以上になるよう設定する。試薬水溶液は、このモル比を少なくとも44.5に設定することで、検査水のシリカ濃度の測定時の一般的な温度環境、具体的には−5〜50℃の温度環境において、結晶が析出しにくくなり、長期間保存することができるようになる。
【0016】
また、上記モル比は、後述するように、試薬水溶液を添加した検査水のpHが1.1未満まで低下してしまうと反応速度が大きく低下することから、50以下に設定するのが好ましい。
【0017】
検査水のシリカ濃度は、上述の試薬水溶液を用いて次の工程により測定することができる。
(工程1)
シリカ濃度の測定が必要な水から所定量の検査水を量り取る。試料水は、ろ紙5種C若しくはろ紙6種または孔径0.45〜1μmのろ過材を用いて予めろ過しておくのが好ましい。また、試料水は、シリカ濃度が高いものと予想されるときは、希釈するのが好ましい。
【0018】
(工程2)
工程1の検査水に対して試薬水溶液を添加し、これを振り混ぜて放置する。これにより、検査水にイオン状シリカが含まれる場合、このイオン状シリカは、七モリブデン酸六アンモニウムと反応して黄色のヘテロポリ化合物を生成し、検査水を黄色に着色する。
【0019】
試薬水溶液の添加量は、通常、検査水における七モリブデン酸六アンモニウムの濃度が検査水に含まれると予想されるシリカの濃度に対してモル比で2倍当量以上になるよう設定するのが好ましい。また、試薬水溶液を添加した検査水の放置時間は、検査水に含まれるイオン状シリカの全量と七モリブデン酸六アンモニウムとの反応が完結するよう設定するのが好ましい。特に、シリカ濃度が高い検査水を測定する場合、試薬水溶液の添加量が相対的に増加することから、試薬水溶液を添加した検査水のpHが1.1未満まで低下してしまい、この反応速度が大きく低下するため、これを考慮して十分な放置時間を確保する必要がある。
【0020】
イオン状シリカとモリブデン酸六アンモニウムとの反応は、検査水を加熱することで加速することができる。この場合、検査水は少なくとも25℃以上になるよう設定するのが好ましい。また、イオン状シリカとモリブデン酸六アンモニウムとの反応は、検査水のpHを1.1〜1.6に調節することで加速することもできる。検査水のpHは、検査水に対してアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化カルシウムの水溶液を添加することで上記範囲に調節することができる。検査水の加熱とpH調節とは併用することもできる。検査水の加熱またはpH調節により上述の反応を加速すると、試薬水溶液を添加した検査水の放置時間は大幅に短縮することができるため、シリカ濃度の測定に要する時間を効果的に短縮することができる。
【0021】
(工程3)
工程2において放置した検査水について、410〜450nmの波長の吸光度を分光光度計または光電光度計により測定し、その吸光度に基づいて検査水のシリカ濃度を判定する。ここでは、例えば、上記吸光度とシリカ濃度との関係を調べて検量線を作成しておき、この検量線に基づいて検査水中のシリカ濃度(mgSiO/リットル)を判定する。
【0022】
上述の測定方法において、検査水がリン酸イオンを含む場合は、工程2の後、検査水に対してシュウ酸水溶液を添加する。これにより、リン酸イオンがシリカ濃度の測定結果に影響するのを抑制することができる。ここで用いられるシュウ酸水溶液は、シュウ酸二水和物を水に溶かしてシュウ酸換算の濃度が71.4g/リットルになるよう調製したものである。シュウ酸水溶液の添加量は、検査水100容量部に対して3容量部に設定するのが好ましい。また、シュウ酸水溶液を添加した検査水は、1分間放置した後、直ちに工程3において吸光度を測定する。この放置時間が1分を超えると、イオン状シリカと七モリブデン酸六アンモニウムとの反応により生成したヘテロポリ化合物による黄色の着色が徐々に退色し、検査水のシリカ濃度と上記吸光度との関係が変動する可能性がある。
【0023】
なお、上述の測定方法は、非特許文献1に記載されたモリブデン黄吸光光度法を参照して実施することができる。特に、工程2を除く各工程での操作および各工程で用いる試薬等は、モリブデン黄吸光光度法での規定に基づいて実行または調製することができる。
【0024】
上述の測定方法は、予め調製して保存しておいた試薬水溶液を用いることができるため、簡便かつ迅速に実行することができ、また、試薬水溶液の保存安定性が求められる自動化に適している。
【実施例】
【0025】
実験例1
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物をJIS K 0557に規定されたA3の水に溶解し、七モリブデン酸六アンモニウムの濃度がそれぞれ0.040mol/リットル、0.061mol/リットルおよび0.081mol/リットルの3種類の水溶液を調製した。そして、各水溶液に対し、水素イオンのモル濃度が表1に示すようになるよう硫酸と塩酸を加え、試薬水溶液を調製した。この試薬水溶液を50℃の温度環境下に4ヶ月間放置し、モリブデン酸の結晶の析出状況を目視により観察した。結果を表1に示す。表1によると、試薬水溶液において、七モリブデン酸六アンモニウムに対する水素イオンのモル比が44.5以上の場合は、調整後に4ヶ月経過しても結晶の析出が見られず、保存に適していることがわかる。
【0026】
【表1】

【0027】
実験例2
シリカ濃度(イオン状シリカ濃度)が100mgSiO/リットルに設定された検査水試料を調製した。また、JIS K 0557に規定されたA3の水に七モリブデン酸六アンモニウム四水和物を溶解した後、硫酸と塩酸を混合し、七モリブデン酸六アンモニウムの濃度が0.081mol/リットルでありかつ水素イオンの濃度が3.6mol/リットルである試薬水溶液(七モリブデン酸六アンモニウムに対する水素イオンのモル比が44.5)を調製した。そして、検査水試料10ミリリットルに対して試薬水溶液0.6ミリリットルを添加して振り混ぜ、その温度を4℃、8℃、12℃、16℃、20℃または25℃に維持した状態で410〜450nmの吸光度の経時的な変化を調べた。結果を図1に示す。図1によると、温度が25℃未満の場合は吸光度が最大値に到達するまでの時間(すなわち、検査水試料に含まれるイオン状シリカの全量と七モリブデン酸六アンモニウムとの反応完結に要する時間)が1200秒(20分)以上であるのに対し、温度が25℃の場合の同時間は約600秒(約10分)に短縮されることがわかる。
【0028】
実験例3
シリカ濃度(イオン状シリカ濃度)が200mgSiO/リットルに設定された検査水試料を調製した。また、JIS K 0557に規定されたA3の水に七モリブデン酸六アンモニウム四水和物を溶解した後、硫酸と塩酸を混合し、七モリブデン酸六アンモニウムの濃度が0.081mol/リットルでありかつ水素イオンの濃度が3.6mol/リットルである試薬水溶液(七モリブデン酸六アンモニウムに対する水素イオンのモル比が44.5)を調製した。そして、検査水試料10ミリリットルに対して試薬水溶液0.9ミリリットルを添加して振り混ぜた後、さらに水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを1.1〜1.6に調節し、温度を5℃または25℃に維持した状態で410〜450nmの吸光度の経時的な変化を調べた。結果を図2に示す。図2によると、吸光度が最大値に到達するまでの時間(すなわち、検査水試料に含まれるイオン状シリカの全量と七モリブデン酸六アンモニウムとの反応完結に要する時間)は、25℃の場合が約300秒(約5分)、5℃の場合は約600秒(約10分)であり、実験例2と対比すると、5℃の低温の場合でも短縮されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実験例2の結果を示すグラフ。
【図2】実験例3の結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査水のシリカ濃度を測定するための方法であって、
七モリブデン酸六アンモニウムと無機酸とを含む試薬水溶液を前記検査水へ添加する工程と、
前記試薬水溶液が添加された前記検査水について、410〜450nmの吸光度を測定する工程と、
測定した前記吸光度に基づいて、前記検査水に含まれるシリカ濃度を判定する工程とを含み、
前記試薬水溶液は、前記七モリブデン酸六アンモニウムに対する水素イオンのモル比が少なくとも44.5になるよう前記七モリブデン酸六アンモニウムと前記無機酸との混合割合が設定されている、
シリカ濃度測定方法。
【請求項2】
前記試薬水溶液が添加された前記検査水を少なくとも25℃に設定して放置した後に前記吸光度を測定する、請求項1に記載のシリカ濃度測定方法。
【請求項3】
前記試薬水溶液が添加された前記検査水のpHを1.1〜1.6に調節して放置した後に前記吸光度を測定する、請求項1または2に記載のシリカ濃度測定方法。
【請求項4】
七モリブデン酸六アンモニウムと無機酸とを含む水溶液からなり、
前記七モリブデン酸六アンモニウムに対する水素イオンのモル比が少なくとも44.5になるよう前記七モリブデン酸六アンモニウムと前記無機酸との混合割合が設定されている、
検査水のシリカ濃度測定用試薬。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−151714(P2010−151714A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331942(P2008−331942)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】