説明

シリカ粒子の精製方法と精製装置および精製シリカ粒子

【解決課題】シリカ粒子中のイオン性の高い不純物を短時間に除去することができる精製効果に優れた処理方法と装置および精製シリカ粒子を提供する。
【手段】シリカ粒子を流動状態にし、高温下で流動状態のシリカ粒子に精製ガスを接触させてシリカ粒子の不純物成分を除去する精製方法において、流動状態のシリカ粒子を磁場領域内に位置させて、シリカ粒子の移動により生じる電場によってシリカ粒子に電圧を印加した状態にして精製ガスと接触させることを特徴とするシリカ粒子の精製方法であり、好ましくは、流動状態のシリカ粒子を、10ガウス以上の磁場領域内に位置させて、1000℃以上の温度下で精製ガスと接触させるシリカ粒子の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカガラスの原料粉であるシリカ粒子の精製方法と精製装置、および精製シリカ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ粒子は、IC、LSI等のプラスチックパッケイジ用フィラーの原料として用いられ、あるいは半導体材料のシリコン単結晶を引き上げる石英ガラスルツボの原料粉末等として用いられている。これらのシリカ粒子に不純物が含まれていると半導体製品に悪影響を及ぼすので、不純物の少ない精製シリカ粒子が必要とされる。
【0003】
シリカ粒子の精製方法としては、例えば、シリカ粒子に1000〜1500℃の温度下で、塩素または塩素化合物を含有するガスを導入してシリカ粒子を流動化した状態で脱水する方法が知られている(特許文献1)。また、ロータリーキルンに石英粉を連続的に供給すると共にキルン内部に塩化水素と塩素の混合ガス等を導入して石英粉と接触させ、石英粉に含まれているアルカリ金属等を塩化物にして揮発除去する方法が知られている(特許文献2)。さらに、シリカ粒子を塩素性処理ガスによって流動化することによって金属不純物を除去する方法が知られている(特許文献3)。
【0004】
一方、固体の石英ガラスに直流高電圧を印加することによって、ガラス内部のアルカリ金属等を陰極側に移動させて石英ガラスを純化する電解精製方法が知られている(特許文献4)。また、電解精製を石英ガラスルツボに適用した例(特許文献5)も知られており、石英粉に高電圧を加えて吸着されている不純物粒子を帯電させ、これを静電選別する石英粉の精製方法も知られている(特許文献6)。
【0005】
シリカ粒子を精製ガスによって流動化状態にして不純物を除去する従来の上記方法において、精製ガスとして塩素系ガスを用いるものが多く、水素を添加したガスを用いる例も知られている。しかし、水素ガスを用いるものは短時間で精製できる利点はあるが、爆発的な反応をする危険性があるためガス濃度のコントロールが厳しく、その取り扱いが難しいと云う問題がある。また、反応速度を高めるためには処理温度も1300℃程度以上の高温が必要であった。
【0006】
一方、精製ガスとして、塩素ガスや塩化水素ガスを用いる方法も、不純物の除去効果は高いものの、その精製には長時間を要し、実用的な時間で精製するには、精製温度を1250℃以上の高温にしなければ高い精製効率を得ることは出来ず、生産性に問題があった。また、従来の電解精製方法も処理時間がかかる。
【特許文献1】特開平06−40713号公報
【特許文献2】特開平08−290911号公報
【特許文献3】特表2002−544102号公報
【特許文献4】特公平07−14822号公報
【特許文献5】特開2004−307222号公報
【特許文献6】特開2003−119018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シリカ粒子について従来の精製方法における上記問題を解決したものであり、シリカ粒子中のイオン性の高い不純物を短時間に除去することができる精製効果に優れた処理方法と精製装置および精製シリカ粒子を提供する。
【0008】
本発明は、以下の構成からなるシリカ粒子の精製方法と精製装置および精製シリカ粒子に関する。
(1)シリカ粒子を流動状態にし、高温下で流動状態のシリカ粒子に精製ガスを接触させてシリカ粒子の不純物成分を除去する精製方法において、流動状態のシリカ粒子を磁場領域内に位置させて、シリカ粒子の移動により生じる電場によってシリカ粒子に電圧を印加した状態にして精製ガスと接触させることを特徴とするシリカ粒子の精製方法。
(2)流動状態のシリカ粒子を、10ガウス以上の磁場領域内に位置させて、1000℃以上の温度下で精製ガスと接触させる上記(1)の精製方法。
(3)精製ガスが、ハロゲンガスおよびハロゲン化水素ガスの何れか又は両方を含む上記(1)または(2)に記載するシリカ粒子の精製方法。
(4)精製温度が1000℃以上〜1300℃以下である上記(1)〜(3)の何れかに記載するシリカ粒子の精製方法。
(5)シリカ粒子を流動化する流動槽、あるいは流動化したシリカ粒子を受け入れる反応容器、流動槽ないし反応容器に精製ガスを導入する手段、流動槽内あるいは反応容器内を1000℃〜1300℃に加熱する手段、流動槽内あるいは反応容器内に10ガウス以上の磁場を形成する手段を有することを特徴とするシリカ粒子の精製装置。
(6)流動槽が反応容器を兼用しており、縦型筒状の流動槽の下部は多数の通気孔を有する床板によって仕切られ、該床板上側にシリカ粒子が充填され、床板下側には精製ガスの導入口が設けられており、該流動槽の上部にはガスの排気口が設けられており、一方、流動槽の外周にはヒータが設けられており、さらに該ヒータの外側に磁場形成手段が設けられており、流動槽下部から導入した精製ガスによって槽内のシリカ粒子を流動状態にし、さらに上記ヒータによって流動槽内を1000℃以上〜1300℃以下に加熱し、上記磁場形成手段によって10ガウス以上の磁場を形成する上記(5)のシリカ粒子の精製装置。
(7)上記(1)〜(4)の何れかに記載する精製方法によって不純物成分を除去したことを特徴とする精製シリカ粒子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の精製方法は、流動状態のシリカ粒子を1000℃以上の温度下で10ガウス以上の磁場領域内に位置させることによって、シリカ粒子の移動により生じる電場によってシリカ粒子に電圧を印加した状態にして精製ガスと接触させるので、シリカ粒子に含まれるイオン性不純物成分が電場によって誘引されて粒子表面に拡散し、精製ガスと反応しやすくなるので、短時間に高い精製効果を得ることができる。この不純物成分は精製ガスと反応して気体状の化合物ガスとして系外に除去される。
【0010】
本発明の処理方法は、従来のガス精製方法の平均処理温度よりも低い1000℃〜1300℃の温度下で高い精製効果を得ることができるので、エネルギーコストが低いと云う利点がある。また、精製ガスとしてハロゲンガスを用いれば、爆発の危険性がなく、安全に操業することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施例と共に具体的に説明する。
本発明の精製方法は、シリカ粒子を流動状態にし、高温下で流動状態のシリカ粒子に精製ガスを接触させてシリカ粒子の不純物成分を除去する精製方法において、流動状態のシリカ粒子を磁場領域内に位置させて、シリカ粒子の移動により生じる電場によってシリカ粒子に電圧を印加した状態にして精製ガスと接触させることを特徴とするシリカ粒子の精製方法である。
【0012】
本発明の精製方法は、好ましくは、シリカ粒子を流動状態にし、高温下で流動状態のシリカ粒子に精製ガスを接触させてシリカ粒子の不純物成分を除去する精製方法において、流動状態のシリカ粒子を、10ガウス以上の磁場領域内に位置させて、1000℃以上の温度下で精製ガスと接触させるシリカ粒子の精製方法である。
【0013】
本発明の精製方法は、流動状態のシリカ粒子を磁場領域内に位置させる。磁場領域に位置する流動状態のシリカ粒子は、粒子が移動することによって、フレミングの法則に従って電場が生じ、シリカ粒子に電圧を印加した状態になり、シリカ粒子内部のイオン性不純物成分が電場によって誘引され、粒子表面に拡散してくる。このため精製ガスと反応しやすくなり、短時間に高い精製効果を得ることができる。
【0014】
磁場領域内でシリカ粒子が自由に移動できるように、磁場領域内のシリカ粒子を流動状態に保つ。なお、流動状態とは、対流を生じるようなものに限らず、シリカ粒子が自由に移動できればよいので、本発明では浮遊状態などを含めて流動状態と云う。
【0015】
上記磁場の強さは10ガウス以上が適当である。磁場の強さがこれより低いと不純物成分の拡散を促す効果が低く、精製効果が十分に向上しない。好ましくは、磁場の強さは10ガウス以上〜150ガウス以下が適当である。この範囲で良好な精製効果を得ることができる。
【0016】
流動化したシリカ粒子が精製ガスと接触する反応温度は1000℃以上〜1300℃が好ましい。反応温度が1000℃より低いと、シリカ粒子に含まれる不純物成分がイオン性挙動を示さず、粒子表面への拡散速度を高めるのが難しい。反応温度が1300℃より高いと高温化のためにコスト高になる。本発明の精製方法は1200℃前後の温度下で優れた精製効果を得ることができる。
【0017】
シリカ粒子に含まれる不純物成分を粒子表面に拡散移動させるには、シリカ粒子を流動化状態にして磁場内に位置させることが必要である。シリカ粒子を流動化して磁場内に位置させるには、例えば、磁場形成手段を備えた流動槽にシリカ粒子を充填し、槽内に空気または不活性ガスなどを吹き込んでシリカ粒子を流動化して流動槽内に磁場を形成すればよい。または、磁場形成手段を備えたサイクロン状の容器を用い、空気または不活性ガスなどと共にシリカ粒子を容器内に吹き込んで流動状態にして磁場を形成すればよい。なお、シリカ粒子を流動化するために精製ガスを用いても良い。
【0018】
精製ガスとしては、粒子表面の不純物成分と反応してガス化するものが用いられる。具体的には、例えば、塩素ガス等のハロゲンガス、または塩化水素ガス等のハロゲン化水素ガスを用いることができる。磁場内の流動化したシリカ粒子に精製ガスを導入し、または磁場内でシリカ粒子を精製ガスによって流動化することによって、シリカ粒子に含まれる不純物成分の拡散が促されて粒子表面に移動し、不純物成分が粒子表面で精製ガスと接触して反応し、塩化物ガス等になって除去される。
【0019】
本発明の精製方法によって、短時間の精製で不純物成分が大幅に少ない精製シリカ粒子を得ることができる。不純物成分の中でも、アルカリ性不純物成分は高温でイオン性挙動を示す度合いが強く、最も精製効果が高い。特にイオン性の高いLi等の除去には優れた効果を示す。
【0020】
本発明の精製方法を実施するには、例えば、シリカ粒子を流動化する流動槽、あるいは流動化したシリカ粒子を受け入れる反応容器、流動槽ないし反応容器に精製ガスを導入する手段、流動槽内あるいは反応容器内を1000℃〜1300℃に加熱する手段、流動槽内あるいは反応容器内に10ガウス以上の磁場を形成する手段を有する精製装置を用いると良い。
【0021】
本発明の実施装置は流動槽が反応容器を兼用するものでも良い。例えば、縦型筒状の流動槽を用い、その下部を多数の通気孔を有する床板によって仕切り、該床板上側にシリカ粒子を充填し、床板下側には精製ガスの導入口を設け、該流動槽の上部にはガスの排気口を設ける。一方、流動槽の外周にはヒータを設け、さらに該ヒータの外側に磁場形成手段を設ける。流動槽下部から導入した精製ガスによって槽内のシリカ粒子を流動状態にし、さらに上記ヒータによって流動槽内を1000℃以上〜1300℃以下に加熱し、上記磁場形成手段によって槽内を含む領域に10ガウス以上の磁場を形成し、精製ガスとシリカ粒子の不純物成分と反応させ、不純物成分を気化させる。反応によって生成したガスは未反応の精製ガスと共に流動槽から抜き出す。
【0022】
なお、精製ガスの導入に先立ち、精製ガス導入口を通じて予め流動槽内に空気と共にシリカ粒子を導入してシリカ粒子を流動化し、その後、空気に代えて精製ガスを槽内に導入し、あるいは空気と共に精製ガスを槽内に導入しても良い。
【0023】
処理条件は、例えば、1000℃〜1300℃の温度下で、精製ガス濃度1%〜15%で、60分〜90分精製ガスとシリカ粒子を接触させれば良い。
上記流動槽に代えてサイクロン状の容器を用い、容器内の温度を1000℃〜1300℃にすると共に容器内を含む領域に10ガウス以上の磁場を形成し、この容器内に空気と共にシリカ粉を導入してシリカ粒子を流動状態にし、ここに精製ガスを吹き込んでシリカ粒子の不純物成分と反応させる。反応によって生成したガスは未反応の精製ガスと共に反応容器から抜き出す。
【0024】
本発明の精製方法を実施する装置例を図1に示す。図示するように、精製装置10は、縦型筒状の流動槽11と、該流動槽11を取り囲むヒータ12を有し、該ヒータ12の外側に流動槽およびヒータを囲むように一対の磁石13が設けられている。該流動槽11は石英管によって形成されており、底部に精製ガスの導入口と、上部に排気口が設けられている。さらに、流動槽11の内部には床板14が設けられており、該床板14には多数の通気孔が設けられている。
【0025】
流動槽11の底部から導入された精製ガスは、床板14の通気孔を通じて流動槽11の上部に向かって流れ、床板14の上側に堆積したシリカ粒子15を流動状態にし、流動槽上部の排気口から外部に排出される。一方、ヒータ12によって流動槽内は1200℃前後に加熱され、さらに、磁石13によって槽内に10ガウス以上の磁場が形成される。
【0026】
精製ガスによって流動状態に維持されたシリカ粒子は、10ガウス以上の磁場をシリカ粒子が移動することによって電場を生じ、シリカ粒子に電圧を印加した状態となり、シリカ粒子内部のイオン性不純物成分、例えばリチウムイオンなどがこの電場によって粒子表面に誘引され、1200℃前後の高温下で精製ガスに接触して反応し、塩化物を形成してガス化し、シリカ粒子から除去される。
【実施例】
【0027】
平均粒径220μmのシリカ粒子20kgを、内径φ250mmの石英反応容器に入れ、キャリアガスとして空気を用いて流動層を形成すると共に流動領域に磁場を形成し、高温下で精製ガスを導入してシリカ粒子を精製処理した(実施例)。なお、流動領域に磁場を形成せずに精製ガスを導入して処理した(比較例)。これらの処理効果を表1に対比して示した。本発明の実施例では、1時間の処理時間内で、アルカリ金属含有量が何れも0.15ppm以下であり、部分的には0.05ppm以下である。特にLiは大幅に除去されている。一方、比較例のアルカリ金属含有量は何れも0.3ppm以上であり、特にLiは殆ど除去されていない。
【0028】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の精製装置を示す概念図
【符号の説明】
【0030】
10−精製装置、11−流動槽、12−ヒータ、13−磁石、14−床板、15−シリカ粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子を流動状態にし、高温下で流動状態のシリカ粒子に精製ガスを接触させてシリカ粒子の不純物成分を除去する精製方法において、流動状態のシリカ粒子を磁場領域内に位置させて、シリカ粒子の移動により生じる電場によってシリカ粒子に電圧を印加した状態にして精製ガスと接触させることを特徴とするシリカ粒子の精製方法。
【請求項2】
流動状態のシリカ粒子を、10ガウス以上の磁場領域内に位置させて、1000℃以上の温度下で精製ガスと接触させる請求項1の精製方法。
【請求項3】
精製ガスが、ハロゲンガスおよびハロゲン化水素ガスの何れか又は両方を含む請求項1または2に記載するシリカ粒子の精製方法。
【請求項4】
精製温度が1000℃以上〜1300℃以下である請求項1〜3の何れかに記載するシリカ粒子の精製方法。
【請求項5】
シリカ粒子を流動化する流動槽、あるいは流動化したシリカ粒子を受け入れる反応容器、流動槽ないし反応容器に精製ガスを導入する手段、流動槽内あるいは反応容器内を1000℃〜1300℃に加熱する手段、流動槽内あるいは反応容器内に10ガウス以上の磁場を形成する手段を有することを特徴とするシリカ粒子の精製装置。
【請求項6】
流動槽が反応容器を兼用しており、縦型筒状の流動槽の下部は多数の通気孔を有する床板によって仕切られ、該床板上側にシリカ粒子が充填され、床板下側には精製ガスの導入口が設けられており、該流動槽の上部にはガスの排気口が設けられており、一方、流動槽の外周にはヒータが設けられており、さらに該ヒータの外側に磁場形成手段が設けられており、流動槽下部から導入した精製ガスによって槽内のシリカ粒子を流動状態にし、さらに上記ヒータによって流動槽内を1000℃以上〜1300℃以下に加熱し、上記磁場形成手段によって10ガウス以上の磁場を形成する請求項5のシリカ粒子の精製装置。
【請求項7】
請求項1〜4の何れかに記載する精製方法によって不純物成分を除去したことを特徴とする精製シリカ粒子。

【図1】
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【公開番号】特開2007−145698(P2007−145698A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290419(P2006−290419)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(592176044)ジャパンスーパークォーツ株式会社 (90)
【Fターム(参考)】