説明

シリコンインゴットの電磁鋳造装置および電磁鋳造方法

【課題】断面形状が正方形のアフターヒーターを具備する電磁鋳造装置で断面形状が長方形のインゴットを製造する場合、インゴットの切断時に発生するクラックやササクレを防止できるシリコンインゴットの電磁鋳造装置および電磁鋳造方法を提供する。
【解決手段】(1)無底冷却モールド2と、誘導コイル1と、インゴット5を徐冷するアフターヒーター4を有し、アフターヒーターの出力制御を、対面する2面のヒーター(例えば、ヒーター14−1と14−3)を1対として2対以上のヒーターについて個別に実施できるように構成されている電磁鋳造装置。(2)前記の電磁鋳造装置を用い、アフターヒーターの出力を、2対以上のヒーターについて個別に制御する電磁鋳造方法。アフターヒーターの出力を、インゴットの面内温度のばらつきが10℃以下になるように制御することとすれば、クラックやササクレの防止に極めて有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導による連続鋳造技術を適用して多結晶シリコンを製造するシリコンインゴットの電磁鋳造装置および電磁鋳造方法に関し、より詳しくは、インゴットの断面形状と異なる断面形状を有するアフターヒーターを具備する装置で製造するインゴットにおいて、その切断時に発生するクラック(ひび割れ)やササクレ(切断面の荒れ)を防止し、高い歩留まりで、効率よく多結晶シリコンを製造することができるシリコンインゴットの電磁鋳造装置および電磁鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘導による連続鋳造法(以下、「電磁鋳造方法」という)によれば、溶解された物質(ここでは、溶融シリコン)とモールドとはほとんど接触しないので、不純物汚染のない鋳塊(インゴット)を製造することができる。モールドからの汚染がないので、モールドの材質として高純度材料を使用する必要がないという利点もあり、また、連続して鋳造することができるので、製造コストの大幅な低減が可能である。したがって、電磁鋳造方法は、従来から太陽電池の基板材として用いられる多結晶シリコンの製造に適用されてきた。
【0003】
この電磁鋳造方法では、高周波誘導コイルの内側に、周方向に相互に電気的に絶縁され、かつ内部が水冷された、電気伝導性と熱伝導性のよい物質(通常は銅)を短冊状に並べた無底の冷却モールド(またはルツボ)を用いる。コイルの形状および無底モールドとして機能する短冊状の物体で囲まれた部分の形状は、円筒状、角筒状のいずれでもよい。また、無底モールドの下部には下方に移動可能な支持台を設ける。
【0004】
溶解容器として構成された銅製のモールドにシリコン原料を装入し、高周波誘導コイルに交流電流を通じると、モールドを構成する短冊状の各素片は互いに電気的に分割されているので、各素片内で電流がループを作り、モールドの内壁側の電流がモールド内に磁界を形成して、モールド内のシリコンを加熱溶解することができる。モールド内の溶融シリコンは、モールド内壁の電流がつくる磁界と溶融シリコン表皮の電流の相互作用によって溶融シリコン表面の内側法線方向の力を受け、モールドと非接触の状態で溶解される。
【0005】
このようにモールド内のシリコンを溶解させながら、溶融シリコンを下部で保持する支持台を下方へ移動させると、高周波誘導コイルの下端から遠ざかるにつれて誘導磁界が小さくなるために、発生電流が低下して発熱量が減少し、溶融シリコンの底部で上方に向けて一方向凝固が進行する。加熱用誘導コイルの下側には、凝固した鋳塊(シリコンインゴット)を加熱して急激な冷却を防ぐ(すなわち、徐冷する)ためのアフターヒーターが設置されている。
【0006】
支持台の下方への移動に合わせて、モールドの上方から原料を連続的に投入し、溶解および凝固を継続することにより、一方向に凝固させながら多結晶シリコンインゴットを連続して鋳造することができる。
【0007】
アフターヒーターとしては、インゴット全体が包み込まれた状態に配置された加熱手段(電熱式ヒーター)が取り付けられた装置を多段配置したものが一般に使用されている。インゴットは、本来、断面形状が正方形のものを処理する必要があることから、通常、その断面形状は正方形とされる。そのため、アフターヒーターの断面形状もそれに合わせて正方形とする場合が多く、アフターヒーターの出力は、通常、4面のヒーターが同一出力になるように制御される。しかし、実際には、歩留り向上等の観点から断面形状が長方形のインゴットが用いられることもある。
【0008】
断面が正方形のアフターヒーターを具備する装置で断面が正方形のインゴットを製造する場合は、4面のヒーターの出力が同一であっても問題はない。しかし、この装置で断面が長方形のインゴットを製造する場合、4面のヒーターの出力が同一であると、インゴットの長辺と短辺で温度差が発生し、その状態で冷却(徐冷)が進むと、インゴットの内部に応力が発生する。この応力に起因して、後段の工程でインゴットを切断する際にクラックやササクレが発生し、インゴットの歩留まりが低下する。クラックは主として縦方向に生じるひび割れであり、ササクレは切断面に現れる深さ2mm以下の荒れであって、いずれも、インゴット内に残った応力が切断時に解放されて発生するものが多い。
【0009】
この場合、アフターヒーターの構造を断面形状が長方形から正方形になるように変更できればよいが、アフターヒーターは高さが4m以上、段数が十数段にもなり、段取り変更を行うことは容易ではなく、長時間を要する。また、アフターヒーターを、ヒーターの各面ごとに出力を変更できるような装置にすることが望ましいが、ヒーターやヒーター電源、制御用熱伝対等の増設が必要で、コスト増となり、設置スペースの問題もあって、きわめて難しい。
【0010】
断面が正方形のアフターヒーターを具備する装置で断面が長方形のインゴットを製造する場合におけるアフターヒーターの構成について、公にされた文献は見当たらない。例えば、特許文献1には、インゴットの断面形状を従来の正方形から矩形にする鋳造方法が開示されており、従来と同等の鋳造速度を保持しつつ、断面積を増加させたインゴットを製造できることから、生産効率を大幅に向上させ得るとしている。しかし、インゴットの断面形状を矩形にしたことに伴うアフターヒーターの構造、使用方法等の変更については何も記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−156166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、断面形状が正方形のアフターヒーターを具備する電磁鋳造装置で断面形状が長方形のインゴットを製造する場合、後工程におけるインゴットの切断時に発生するクラック(ひび割れ)やササクレ(切断面の荒れ)を防止し、高い歩留まりで、効率よくシリコンインゴットを製造することができるシリコンインゴットの電磁鋳造装置および電磁鋳造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明者はインゴット面内(つまり、インゴットの断面内各部)における温度のばらつきがどの程度であればクラックやササクレが発生するかを調査した。具体的には、実機で得られたインゴットを鋳造方向に垂直に切断した2個のシリコンブロックを1対として使用し、これらブロックの間の各部に熱電対を取り付け、均熱ヒーターで加熱したときの熱電対取り付け面内における温度のばらつきとクラックやササクレ発生率の関係を調査した。なお、この2個のシリコンブロックは鋳造中のインゴットを模擬したものであるから、以下においては、「インゴット」と記し、前記熱電対取り付け面内(つまり、インゴット面内)における温度のばらつきを「インゴットの面内温度のばらつき」という。
【0014】
図2は、インゴット面内における温度のばらつきの調査方法の説明図で、(a)はインゴットへの熱電対設置位置を示す図であり、(b)は熱電対を取り付けたインゴットを均熱ヒーター内に配置した図で、熱電対設置位置を含む面での横断面図である。図2(a)に示すように、2個のシリコンインゴット5−1、5−2をその鋳造方向が垂直になるように積み重ね、インゴット5−1、5−2の境界面の符号A〜Fを付した部分に熱電対の先端が位置するように熱電対を取り付けた。その後、このインゴット5−1、5−2を、図2(b)に示すように、均熱ヒーター16(実機のアフターヒーターに相当する)の中心に配置した。均熱ヒーター16の内側側面には、ヒーター14−1、14−2、14−3および14−4と熱電対15−1、15−2、15−3および15−4が取り付けられている。
【0015】
熱電対15−1を制御用熱電対とし、ヒーター14−1、14−2、14−3および14−4の出力が同一になるように制御しながら、熱電対15−1が基準温度に達するまで昇温した。続いて、その時点におけるインゴット面内の温度差(ここでは、符号A〜Fを付した部分における最高温度と最低温度の差)、つまりインゴット面内温度のばらつきが50℃以上、30℃以上または10℃以内であったそれぞれの場合について、インゴット5を、基準温度から30℃/h、または、それよりも低い20℃/hまたは15℃/hの冷却速度で所定温度まで冷却した。冷却速度30℃/hは、実機のアフタークーラーにおける通常の冷却速度を模擬した基準冷却速度である。
【0016】
その後、インゴット5を均熱ヒーター16から取り出して多数の小ブロックに切断し、クラック発生率およびササクレ発生率を調査した。なお、「クラック発生率」、「ササクレ発生率」とは、切断後の総ブロック数に対するクラック発生ブロック数、またはササクレ発生ブロック数の比(百分率)である。
【0017】
調査結果を表1にまとめて示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1から明らかなように、基準温度におけるインゴット面内の温度差が小さい(すなわち、インゴットの面内温度のばらつきが小さい)方がクラックおよびササクレの発生率が低下する。さらに、インゴット面内の温度差が同じでも、冷却速度が低い方がクラックおよびササクレの発生率が小さくなる。
【0020】
例えば、基準温度におけるインゴット面内の温度差が50℃以上あった場合には、30℃/hの基準冷却速度では、クラック発生率が46%、ササクレ発生率が100%であった。クラックの発生を抑え、ササクレの発生を軽微なものとするためには(すなわち、インゴット内に応力を残留させないためには)、冷却速度を低く、例えば15℃/hとすることが必要である。一方、インゴット面内の温度差が10℃以内であった場合には、30℃/hの基準冷却速度でもクラックは発生せず、ササクレの発生は軽微であった。
【0021】
すなわち、基準温度におけるインゴット面内の温度差を10℃以内とすることができれば、通常の基準冷却速度を維持しつつ、インゴットの切断時に発生するクラックやササクレを防止できることが判明した。
【0022】
そこで、本発明者は、断面が正方形のアフターヒーターを具備する装置で断面が長方形のインゴットを製造するに際し、インゴット面内の温度差を10℃以内とする方策について検討を重ねた。その結果、アフターヒーターの4面の出力を対面する2面ごとに制御して2面間に温度差を設けることにより達成が可能であることを確認した。
【0023】
本発明はこのような検討結果に基づきなされたもので、下記(1)のシリコンの電磁鋳造装置、および(2)のシリコンインゴットの電磁鋳造方法を要旨とする。
【0024】
(1)軸方向の一部が周方向で複数に分割された導電性の無底冷却モールドと、このモールドを取り囲む誘導コイルと、前記モールドの下方に配置され、凝固したシリコンのインゴットを徐冷するアフターヒーターを有し、前記誘導コイルによる電磁誘導加熱により溶融したシリコンを下方に引き下げ凝固させるシリコンインゴットの電磁鋳造装置であって、前記アフターヒーターの断面形状が正方形であり、断面形状が長方形のインゴットを徐冷する場合には、当該インゴットの4面に対向配置されたアフターヒーターの出力制御を、対面する2面のヒーターを1対として2対以上のヒーターについて個別に実施できるように構成されていることを特徴とするシリコンインゴットの電磁鋳造装置。
ここで、「インゴットの4面に対向配置されたアフターヒーター」とは、アフターヒーターの4面がインゴットの4面にそれぞれ相対し、かつインゴットの長辺、短辺別にそれぞれインゴットの当該相対する面から等距離に配置されていることをいう。また、「対面する2面のヒーター」とは、相対する2面のそれぞれに取り付けられたヒーターである。
【0025】
(2)前記(1)に記載のシリコンインゴットの電磁鋳造装置を用い、シリコン原料をモールドに装入し、電磁誘導加熱により溶融し、当該溶融したシリコンを下方に引き下げることにより凝固したシリコンのインゴットをアフターヒーターにより徐冷するシリコンインゴットの電磁鋳造方法であって、断面形状が長方形のインゴットを徐冷する場合、当該インゴットの4面に対向配置されたアフターヒーターの出力を、対面する2面のヒーターを1対として2対以上のヒーターについて個別に制御して前記2対以上のヒーターに温度差を設け、インゴットの面内温度のばらつきを低減させることを特徴とするシリコンインゴットの電磁鋳造方法。
ここで、「インゴットの面内温度のばらつき」とは、前述のように、インゴットの鋳造方向に垂直な断面内各部における温度のばらつきをいう。
【0026】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法において、前記アフターヒーターの出力を、インゴットの面内温度のばらつきが10℃以下になるように制御することとすれば、インゴットの切断時に発生するクラックやササクレを確実に防止ないしは著しく軽微に抑えることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造装置は、断面形状が正方形のアフターヒーターを具備し、インゴットの4面に対向配置されたアフターヒーターの出力制御を2対以上のヒーターについて個別に実施できるように構成された装置である。この電磁鋳造装置を使用する本発明の電磁鋳造方法によれば、断面形状が長方形のインゴットを徐冷する場合、インゴットの切断時に発生するクラックやササクレを防止し、高い歩留まりで、効率よくシリコンインゴットを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造装置の概略構成例を模式的に示す図で、(a)は主要部全体の縦断面図、(b)は(a)のA−A矢視拡大図で、アフターヒーターの断面形状を示す図である。
【図2】インゴット面内における温度のばらつきの調査方法の説明図で、(a)はインゴットへの熱電対設置位置を示す図であり、(b)は熱電対を取り付けたインゴットを均熱ヒーター内に配置した図で、熱電対設置位置を含む面での横断面図である。
【図3】実施例で使用した装置の説明図で、熱電対を取り付けたインゴットを均熱ヒーター内に配置した状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造装置は、軸方向の一部が周方向で複数に分割された導電性の無底冷却モールドと、このモールドを取り囲む誘導コイルと、前記モールドの下方に配置され、凝固したシリコンのインゴットを徐冷するアフターヒーターを有する電磁鋳造装置であることを前提としている。
【0030】
このような電磁鋳造装置を前提とするのは、太陽電池の基板材として用いられる多結晶シリコンを製造するに際し、モールド内で、溶融シリコンとモールドとをほとんど接触させずに鋳造を行い、モールドからの金属汚染がなく、太陽電池の基板材として好適な多結晶シリコンを製造することができるからである。
【0031】
前記のアフターヒーターは、誘導コイルから下方へ離れたシリコンインゴットが急速に冷却され、温度差による収縮の相違から過大な熱応力が発生してインゴットに割れが生じるのを防止するためにインゴットを徐冷する(すなわち、適度に加熱して、急激な冷却を防ぐ)機能を備えている。
【0032】
本発明の電磁鋳造装置は、さらに、加熱源として、プラズマトーチを有するものであってもよい。電磁誘導加熱とプラズマアーク加熱の併用により、電磁誘導加熱の負担を軽減し、原料溶解の効率化を図ることができるので望ましい。
【0033】
本発明の電磁鋳造装置は、アフターヒーターの断面形状が正方形であり、断面形状が長方形のインゴットを徐冷する場合には、当該インゴットの4面に対向配置されたアフターヒーターの出力制御を、対面する2面のヒーターを1対として2対以上のヒーターについて個別に実施できるように構成されていることを特徴としている。
【0034】
図1は、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造装置の概略構成例を模式的に示す図で、(a)は主要部全体の縦断面図、(b)は(a)のA−A矢視拡大図で、アフターヒーターの断面形状を示す図である。図1(a)に示すように、加熱用誘導コイル1の内側に、内部を水冷できる縦方向に長い銅製の板状片が、誘導コイル1の巻き軸方向と平行に、かつ誘導コイル1内では相互に絶縁された状態で配列されており、この板状片によって囲まれた空間がモールド(すなわち、側壁部が水冷されている無底の冷却モールド)2を構成する。冷却モールド2には、通常、板状片を銅片とした水冷銅モールドが用いられる。
【0035】
加熱用誘導コイル1の下端位置(すなわち、冷却モールド2の底部に相当する位置)には下方に移動できる支持台3が設置されている。また、加熱用誘導コイル1の下側には、アフターヒーター4が設置されている。シリコンインゴット5は引抜き装置(図示せず)により下方に引き抜かれる。
【0036】
冷却モールド2の上方には、溶解中にシリコン原料6をモールド2内に投入できる原料投入機7が設置されている。さらに、この例では、モールド2の上方に、シリコン原料6を加熱するためのプラズマトーチ8が取り付けられている。
【0037】
これらの諸装置は、溶融シリコン9および高温のシリコンインゴット5が大気と直接触れることがないように、密閉容器(チャンバー10)内に設置されている。チャンバー10の上部にはガス導入口11が取り付けられ、下部には排気口12が設けられ、通常は、チャンバー10内を不活性ガスで置換して、若干の加圧状態で連続鋳造が行えるように構成されている。
【0038】
また、図1(b)に示すように、アフターヒーター4の断面形状は正方形であり、断熱材13で構成された枠の内側4面に加熱手段(電熱式のヒーター14−1、14−2、14−3および14−4)が配設され、さらに、制御用または測温用の熱電対15−1、15−2、15−3および15−4が取り付けられている。このように構成された個々の装置が多段配置され、前記図1(a)に示したアフターヒーター4が構成されている。アフターヒーター4は、断面形状が長方形のシリコンインゴット5の4面に対向配置されている。
【0039】
前記の対面する2面のヒーターとは、図1(b)に例示したアフターヒーターでいえば、ヒーター14−1とヒーター14−3、ならびにヒーター14−2とヒーター14−4である。この例では、対面する2面のヒーターを一対として2対のヒーターが取り付けられている。
【0040】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造装置において、アフターヒーターの断面形状が正方形であり、断面形状が長方形のインゴットを徐冷する場合には、当該インゴットの4面に対向配置されたアフターヒーターの出力制御を、対面する2面のヒーターを1対として2対以上のヒーターについて個別に実施できるように構成されていることとするのは、後に詳述するように、鋳造されたインゴットの切断時に発生するクラックやササクレを防止するためである。
【0041】
ここで、個別に出力制御できるヒーターを2対以上としているのは、アフターヒーターの4面に合わせて3対以上のヒーターが設置される場合もあり得るからである。すなわち、図1に示した電磁鋳造装置は、同図(b)に示すように、アフターヒーターの各面にヒーターが1台ずつ配置され、2対のヒーターが設置されている例であるが、例えばアフターヒーターの相対する面のそれぞれでヒーターが2分割または3分割されている場合も考えられ、その場合は、対面するヒーターは3対または4対となる。本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造装置においては、このような場合、アフターヒーターの出力制御を2対のヒーターに限定せず、3対以上のヒーターについて個別に実施できることとする。
【0042】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法は、前記本発明の電磁鋳造装置(つまり、断面形状が正方形のアフターヒーターを具備する装置)を用いて、シリコン原料をモールドに装入し、電磁誘導加熱により溶融し、当該溶融したシリコンを下方に引き下げることにより凝固したシリコンのインゴットをアフターヒーターにより徐冷するシリコンインゴットの電磁鋳造方法であることを前提としている。この前提をおいた理由は前述のとおりである。
【0043】
本発明の電磁鋳造方法は、この前提の下に、断面形状が長方形のインゴットを徐冷する場合、当該インゴットの4面に対向配置されたアフターヒーターの出力を、対面する2面のヒーターを1対として2対以上のヒーターについて個別に制御して前記2対以上のヒーターに温度差を設け、インゴットの面内温度のばらつきを低減させることを特徴とする方法である。
【0044】
前記図1(b)に示したアフターヒーターを例として説明すると、このアフターヒーターは、対面する2面のヒーターを1対として、2対のヒーター(ヒーター14−1とヒーター14−3、ならびにヒーター14−2とヒーター14−4)を有しており、この場合は、これら2対のヒーター出力を個別に制御することになる。
【0045】
アフターヒーターの出力の制御を、2対のヒーターについて個別に行うこととするのは、例えば、一般的な制御手段として考えられるアフターヒーターの4面の出力を個別に制御する場合に比べて、設備および制御方法を簡素化でき、しかも、インゴットの面内温度のばらつきを十分に低下させ得るからである。すなわち、本発明の電磁鋳造方法では、対面する2面のヒーターを対として制御するので、制御用の熱電対、ヒーターおよびその電源等の設備を個々のヒーター毎に設ける必要がない。また、アフターヒーターの出力の制御を前述のように個別に行って2対のヒーターに温度差を設けるという簡素な制御方法を採用することができる。
【0046】
アフターヒーターの出力制御を個別に行って2対のヒーターに温度差を設けるのは、後述する実施例に示すように、温度差を設けることによりインゴットの面内温度のばらつきを低減させ得るからである。
【0047】
詳細は後述する実施例に示すとおりであるが、ヒーター14−1とヒーター14−2のそれぞれに制御用熱電対を取り付け、ヒーター14−1が基準温度に達するまで加熱したときのヒーター14−1に対するヒーター14−2の温度差が+15℃になるように2対のヒーター出力を個別に制御する。これによって、インゴットの面内温度のばらつきを10℃以下に低減させることが可能になる。
【0048】
前記の2対のヒーターに設ける温度差については、特に限定しない。ヒーター14−1とヒーター14−2の温度差は、対面する2面のヒーター間の距離や、インゴットのサイズにより異なるので、インゴットの面内温度のばらつきを10℃以下にするために必要なヒーター14−1とヒーター14−2の温度差をあらかじめ求めておく。このような事前の調査を行い、操業データとして蓄積しておくことにより、前記ヒーター間の距離やインゴットのサイズ変更された場合でも、ヒーター14−1とヒーター14−2の温度差を所定温度に設定するという簡素な手段により、インゴットの切断時に発生するクラックやササクレの防止が可能になる。
【0049】
本発明の電磁鋳造方法では、このように、アフターヒーターの出力の制御を2対のヒーターについて個別に行い、2対のヒーターに温度差を設け、インゴットの面内温度のばらつきを低減させる。
【0050】
インゴットの面内温度のばらつきの低減の程度についても、特に限定はない。前記の表1から明らかなように、インゴットの面内温度差が小さいほど、クラックやササクレの発生率が低下するので、インゴットの面内温度のばらつきを僅かでも減少できれば、それに見合う効果(クラックやササクレの発生率の低下)が見込まれる。
【0051】
以上、アフターヒーターの4面に2対のヒーターが設置されている場合について説明したが、アフターヒーターの4面に3対以上のヒーターが設置される場合は、制御の対象ヒーターが増える分複雑にはなるが、制御用熱電対を取り付けたヒーターの温度差を管理するという同じ考え方を適用することができ、ヒーター出力を個々に制御する場合に比べると、設備および制御方法の簡素化が十分可能である。
【0052】
アフターヒーターの縦(高さ)方向の任意の平面での温度の均一性については、アフターヒーター内の保温性を高めることにより維持することが可能であるが、ヒーターの段毎に制御することが望ましい。
【0053】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法において、前記アフターヒーターの出力を、インゴットの面内温度のばらつきが10℃以下になるように制御する実施の形態を採用することが望ましい。
【0054】
前記の表1に示したように、インゴットの面内温度のばらつきが10℃を超える場合は、冷却速度(つまり、アフターヒーターでの徐例の速度)を低下させなければクラックやササクレを防止できず、鋳造速度を低下させざるを得ない。しかし、インゴットの面内温度のばらつきが10℃以下の場合は、アフターヒーターでの徐例を通常の冷却速度で行った場合でも、インゴットの切断時に発生するクラックやササクレを確実に防止ないしは著しく軽微に抑えることができるので、効率よく鋳造を行うことができる。
【0055】
以上述べたように、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造装置を使用し、本発明の電磁鋳造方法を適用すれば、断面形状が正方形のアフターヒーターを具備する電磁鋳造装置で断面形状が長方形のインゴットを製造する場合、後工程におけるインゴットの切断時に発生するクラックやササクレを防止し、高い歩留まりで、効率よくシリコンインゴットを製造することができる。
【実施例】
【0056】
実機で鋳造したシリコンインゴットを鋳造方向に垂直に切断し、得られた2個のブロック状のインゴットを使用して、前記の図2に示したように、インゴット面内に熱電対を取り付け、そのインゴットを均熱ヒーター内に配置した。
【0057】
図3は、熱電対を取り付けたインゴットを均熱ヒーター内に配置した状態を模式的に示す図である。図3において、熱電対15−1、15−2は制御用熱電対であり、熱電対15−3、15−4は計測のみの熱電対である。均熱ヒーター16は、熱電対15−1による計測温度でヒーター14−1およびヒーター14−3の出力を制御し、熱電対15−2による計測温度でヒーター14−2およびヒーター14−4の出力を制御できるように構成されている。
【0058】
均熱ヒーター16の昇温に際しては、事前の検討結果に基づき、インゴットの面内温度のばらつきが低減するように、制御用熱電対15−1による計測温度でヒーター14−1およびヒーター14−3の出力を制御し、制御用熱電対15−2による計測温度でヒーター14−2およびヒーター14−4の出力を制御しながら、熱電対15−1が基準温度に達するまで昇温した時点で、他の熱電対15−2、15−3および15−4が示す温度、ならびにインゴット面内に取り付けた熱電対A〜Fが示す温度を測定した。すなわち、ヒーター14−1およびヒーター14−3と、ヒーター14−2およびヒーター14−4の2対のヒーターの出力を個別に制御した。
【0059】
一方、比較例として、制御用熱電対15−1による計測温度でヒーター14−1、14−2、14−3および14−4の出力が同一になるように制御しながら、熱電対15−1が基準温度に達するまで昇温した時点で、同様に、熱電対15−2、15−3および15−4が示す温度、ならびに熱電対A〜Fが示す温度を測定した。
【0060】
表2に測定結果を示す。測定結果は、制御用熱電対15−1による計測温度を基準(0℃)として、それに対する差で表示した。表2において、表示値に「−」の符号が付されている場合は、基準より低かったことを、符号なしの場合は基準より高かったことを表す。また、「熱電対A〜Fの温度差」は、最高値と最低値の差である。
【0061】
【表2】

【0062】
表2において、本発明例では、熱電対A〜Fの差は6℃で、前記表1に示した結果を参照すると、インゴット面内温度差が「10℃以内」に該当する。一方、熱電対15−1の計測温度に対する熱電対15−2の計測温度の差は+15℃であった。
【0063】
すなわち、本実施例で使用した断面形状およびサイズのインゴットならびにアフターヒーターにおいては、制御用熱電対として使用した、熱電対15−1の計測温度に対する熱電対15−2の計測温度の差が+15℃となるようにヒーター14−1および14−3、ならびにヒーター14−2および14−4の出力を制御することにより、インゴットの面内温度のばらつきを10℃以内に抑え得ることが判明した。これにより、インゴット内に応力を残留させず、インゴットの切断時に発生するクラックやササクレを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造装置および電磁鋳造方法によれば、断面形状が正方形のアフターヒーターを具備する装置により断面形状が長方形のインゴットを製造するに際し、インゴットの切断時に発生するクラックやササクレを防止して、高い歩留まりで、効率よくシリコンインゴットを製造することができる。したがって、本発明は、太陽電池の製造分野において有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1:誘導コイル、 2:モールド、 3:支持台、
4:アフターヒーター、 5、5−1、5−2:シリコンインゴット、
6:シリコン原料、 7:原料投入機、
8:プラズマトーチ、 9:溶融シリコン、 10:チャンバー、
11:ガス導入口、 12:排気口、 13:断熱材、
14−1、14−2、14−3,14−4:ヒーター、
15−1、15−2、15−3、15−4:熱電対
16:均熱ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一部が周方向で複数に分割された導電性の無底冷却モールドと、このモールドを取り囲む誘導コイルと、前記モールドの下方に配置され、凝固したシリコンのインゴットを徐冷するアフターヒーターを有し、前記誘導コイルによる電磁誘導加熱により溶融したシリコンを下方に引き下げ凝固させるシリコンインゴットの電磁鋳造装置であって、
前記アフターヒーターの断面形状が正方形であり、
断面形状が長方形のインゴットを徐冷する場合には、当該インゴットの4面に対向配置されたアフターヒーターの出力制御を、対面する2面のヒーターを1対として2対以上のヒーターについて個別に実施できるように構成されていることを特徴とするシリコンインゴットの電磁鋳造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコンインゴットの電磁鋳造装置を用い、シリコン原料をモールドに装入し、電磁誘導加熱により溶融し、当該溶融したシリコンを下方に引き下げることにより凝固したシリコンのインゴットをアフターヒーターにより徐冷するシリコンインゴットの電磁鋳造方法であって、
断面形状が長方形のインゴットを徐冷する場合、
当該インゴットの4面に対向配置されたアフターヒーターの出力を、対面する2面のヒーターを1対として2対以上のヒーターについて個別に制御して前記2対以上のヒーターに温度差を設け、インゴットの面内温度のばらつきを低減させることを特徴とするシリコンインゴットの電磁鋳造方法。
【請求項3】
前記アフターヒーターの出力を、インゴットの面内温度のばらつきが10℃以下になるように制御することを特徴とする請求項2に記載のシリコンインゴットの電磁鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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