説明

シリコンウェーハの製造方法

【課題】無欠陥領域[P]が全域に分布する無欠陥のシリコンウェーハであっても、IG効果が有効に得られるシリコンウェーハの製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン単結晶インゴットから切り出した無欠陥のシリコンウェーハに、NH3を含むガス雰囲気中でRTA処理を施して、ウェーハ内部に新たに空孔を形成させ、その後に、窒素、酸素またはこれらの混合ガス雰囲気中で、700℃から900℃までを3℃/分以下の速度で昇温し、900〜1100℃で1〜8時間保持する熱処理を施して、ウェーハ内部にBMDを形成させる。さらに、エピタキシャル処理を施して、ウェーハ表面にエピタキシャル層を成長させる。これにより、IG効果を有するとともに一層表面品質に優れた無欠陥のシリコンウェーハを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの製造方法に関し、特に、シリコン単結晶インゴットから切り出された無欠陥ウェーハであっても、デバイス製造プロセス(以下、「デバイス製造プロセス」という)でイントリンシックゲッタリング(以下、「IG」という)効果が有効に得られるシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハは、DRAMやフラッシュメモリなどの半導体デバイスの基板として用いられ、CZ法(チョクラルスキー法)によって育成したシリコン単結晶のインゴットを素材とする。CZ法では、減圧下の不活性ガス雰囲気に維持されたチャンバ内において、石英ルツボに貯溜されたシリコン融液に種結晶を浸漬し、浸漬した種結晶を徐々に引き上げることにより、種結晶の下方にシリコン単結晶が育成される。シリコンウェーハはそのシリコン単結晶インゴットから切り出される。
【0003】
シリコン単結晶を育成する際、デバイス製造プロセスで歩留まりを低下させる原因として、インゴット内にOSF(Oxidation Induced Stacking Fault:酸化誘起積層欠陥)や、COP(Crystal Originated Particle)などの赤外線散乱体欠陥や、LD(Interstitial-type Large Dislocation)とも呼ばれる転位クラスタといった各種の欠陥が導入されることが知られている。
【0004】
図1は、ボロンコフ理論に基づいて各種の欠陥が発生する状況を説明する模式図である。同図に示すように、ボロンコフ理論では、引き上げ速度をV(mm/分)とし、ルツボ内のシリコン融液とインゴットとの界面近傍における引き上げ軸方向の温度勾配をG(℃/mm)とする場合、それらの比であるV/G(mm2/分・℃)を横軸にとり、空孔型点欠陥の濃度と格子間シリコン型点欠陥の濃度を同一の縦軸にとって、V/Gと点欠陥濃度との関係を模式的に表現し、空孔領域と格子間シリコン領域の境界がV/Gによって決定されることを説明している。
【0005】
空孔型点欠陥は、結晶格子を構成すべきシリコン原子が欠けた空孔によるものであり、この空孔型点欠陥の凝集体の代表格がCOPである。格子間シリコン型点欠陥は、結晶格子間にシリコン原子が入り込んだ格子間シリコンによるものであり、この格子間シリコン型点欠陥の凝集体の代表格がLDである。
【0006】
図1に示すように、V/Gが「臨界点」を上回る場合、空孔型点欠陥濃度が優勢なインゴットが形成される反面、V/Gが「臨界点」を下回る場合は、格子間シリコン型点欠陥濃度が優勢なインゴットが形成される。このため、V/Gが「臨界点」より小さい(V/G)1を下回る範囲では、インゴット内で格子間シリコン型点欠陥が支配的であって、格子間シリコン点欠陥の凝集体が存在する領域[I]が出現し、LDが発生する。V/Gが「臨界点」より大きい(V/G)2を上回る範囲では、インゴット内で空孔型点欠陥が支配的であって、空孔型点欠陥の凝集体が存在する領域[V]が出現し、COPが発生する。V/Gが(V/G)1〜(V/G)2の範囲では、インゴット内で空孔型点欠陥および格子間シリコン型点欠陥のいずれも凝集体としては存在しない無欠陥領域[P]が出現し、OSFを含めCOPおよびLDのいずれの欠陥も発生しない。無欠陥領域[P]に隣接する領域[V](V/Gが(V/G)2〜(V/G)3の範囲)には、OSF核を形成するOSF領域が存在する。
【0007】
また、無欠陥領域[P]は、OSF領域に隣接する領域[PV]と、領域[I]に隣接する領域[PI]とに区分される。すなわち、無欠陥領域[P]のうち、V/Gが「臨界点」〜(V/G)2の範囲では、凝集体にならない空孔型点欠陥が優勢に存在する領域[PV]が出現し、V/Gが(V/G)1〜「臨界点」の範囲では、凝集体にならない格子間シリコン点欠陥が優勢に存在する領域[PI]が出現する。
【0008】
図2は、単結晶育成時の引き上げ速度と欠陥分布との関係を示す模式図である。同図に示す欠陥分布は、引き上げ速度Vを徐々に低下させながらシリコン単結晶を育成し、育成したインゴットを中心軸(引き上げ軸)に沿って切断して板状試片とし、その表面にCuを付着させ、熱処理を施した後、その板状試片の内部をX線トポグラフ法により観察した結果を示している。
【0009】
図2に示すように、引き上げ速度を高速にして育成を行った場合、インゴットの径方向全域にわたり、空孔型点欠陥の凝集体(COP)が存在する領域[V]が発生する。引き上げ速度を低下させていくと、インゴットの外周部からOSF領域がリング状に出現する。このOSF領域は、引き上げ速度の低下に伴ってその径が次第に縮小し、引き上げ速度がV1になると消滅する。これに伴い、OSF領域に代わって無欠陥領域[P](領域[PV])が出現し、インゴットの径方向全域が無欠陥領域[P]で占められる。そして、引き上げ速度がV2までに低下すると、格子間シリコン型点欠陥の凝集体(LD)が存在する領域[I]が出現し、ついには無欠陥領域[P](領域[PI])に代わってインゴットの径方向全域が領域[I]で占められる。
【0010】
近年、半導体デバイスの高集積化の発展により、シリコンウェーハは、要求される品質がますます高まっている。このため、デバイス製造プロセスでは、OSFやCOPやLDなどの各種の欠陥を排除し、全域にわたって無欠陥領域[P]が分布するシリコンウェーハが求められている。
【0011】
この要求に応えるには、径方向全域にわたって無欠陥領域[P]からなるインゴットを育成する必要がある。そのようなインゴットは、ホットゾーン内のシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる際、前記図1および図2に示すように、温度勾配Gに対する引き上げ速度Vの比(V/G)が、径方向全域にわたり、格子間シリコン型点欠陥の凝集体が発生しない第1臨界点((V/G)1)以上であって、空孔型点欠陥の凝集体が発生しない第2臨界点((V/G)2)以下に確保されるように、引き上げ速度のプロファイルをV1〜V2の範囲内に設定することにより、育成することができる。引き上げ速度のプロファイルは、上述したボロンコフ理論に基づき、実験的に育成したインゴットの欠陥分布を確認することと、シミュレーションとを繰り返すことにより、適正範囲が決定される。
【0012】
なお、COPやLDなどの点欠陥の凝集体は、検出方法によって検出感度、検出下限値が異なる値を示すことがある。このため、無欠陥領域[P]で「点欠陥の凝集体が存在しない」の意味は、鏡面加工されたシリコン単結晶に無攪拌セコエッチングを施した後に、光学顕微鏡により観察した際に、フローパターン(空孔型欠陥)および転位クラスタ(格子間シリコン型点欠陥)の各凝集体が1×10-2(cm2)の検査面積に対して1個検出された場合を検出下限値(1×102(個/cm2))とするとき、点欠陥の凝集体の数がその検出下限値以下であることをいう。
【0013】
このような無欠陥領域[P]からなるインゴットから切り出したシリコンウェーハは、OSF、COPおよびLDを有しない高品質の無欠陥ウェーハであるが、酸素析出核の因子である空孔が領域[PI]では存在することなく、領域[PV]でも極めて少ないことから、デバイス製造プロセスの熱処理において、必ずしもウェーハ内部で酸素析出が起こるとは限らず、IG効果が得られないおそれがある。この問題の解消を図る従来の技術は、下記のものがある。
【0014】
特許文献1には、領域[PV]と領域[PI]とが混合した無欠陥領域[P]からなり、かつ酸素濃度が0.8×1018〜1.4×1018(atoms/cm3(旧ASTM))のシリコン単結晶インゴットからウェーハを切り出し、この無欠陥ウェーハを、窒素、アルゴン、水素、酸素またはこれらの混合ガス雰囲気下、600〜850℃で30〜90分保持するか、または600〜850℃で120〜250分保持するシリコンウェーハの熱処理方法が開示されている。特許文献1では、インゴットから切り出した無欠陥ウェーハを上記条件で熱処理すると、領域[PI]に酸素析出核が発現し、同時に領域[PV]ではその酸素析出核の密度が高まることから、このような熱処理を行ったウェーハは、デバイス製造プロセスで熱処理が施されることにより、上記の酸素析出核が酸素析出物(Bulk Micro Defect、以下「BMD」という)に成長し、ウェーハ全域にわたってBMDによるIG効果が得られるとしている。
【0015】
また、特許文献2には、前記特許文献1で対象とするシリコンウェーハと同様の無欠陥ウェーハを、窒素、酸素またはこれらの混合ガス雰囲気下、600〜700℃で5〜10時間保持した後、900〜1000℃で16時間保持するシリコンウェーハの熱処理方法が開示されている。特許文献2では、インゴットから切り出した無欠陥ウェーハを上記の2段階で熱処理すると、まず第1段目の熱処理で、領域[PI]に酸素析出核が発現し、同時に領域[PV]ではその酸素析出核の密度が高まり、次いで第2段目の熱処理で、それらの酸素析出核がBMDに成長することから、このような熱処理を行ったウェーハは、デバイス製造プロセスでウェーハ全域にわたってBMDによるIG効果が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2001−156074号公報
【特許文献2】特開2002−134517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、無欠陥領域[P]が全域に分布するシリコンウェーハは、上述の通り、OSF、COPおよびLDを有しない高品質の無欠陥ウェーハであり、領域[PI]では空孔が存在することなく、領域[PV]でも空孔が極めて少ないことから、前記特許文献1に開示された熱処理、または前記特許文献2に開示された第1段目の熱処理を施しても、実際には酸素析出核が十分に発生しない。このため、前記特許文献2に開示された第2段目の熱処理を施した場合であっても、十分な密度のBMDが形成されない。
【0018】
従来は、デバイス製造プロセスにおいて、低温長時間の熱処理および高温の熱処理が行われていたため、これらの熱処理により酸素析出核およびBMDの十分な形成が補われ、IG効果が有効にもたらされていた。しかし、近年のデバイス製造プロセスでは、半導体デバイスの高集積化・微細化に伴い、熱処理プロセスが枚葉化され低温短時間化されているため、酸素析出核およびBMDの十分な形成が期待できない状況にある。
【0019】
これらのことから、デバイス製造プロセスに至る前に、無欠陥ウェーハの内部に十分な密度のBMDを作り込んでおくことが強く望まれている。
【0020】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、パーフェクト領域[P]が全域に分布する無欠陥のシリコンウェーハであっても、デバイス製造プロセスでIG効果が有効に得られるシリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、上記目的を達成するため、デバイス製造プロセスに至る前に、無欠陥領域[P]が全域に分布する無欠陥ウェーハに十分な密度のBMDを作り込む手法について、種々の試験を行い鋭意検討を重ねた。その結果、無欠陥ウェーハの内部に十分な密度のBMDを形成するには、単結晶インゴットから切り出したシリコンウェーハに、下記(1)、(2)の熱処理を順に施すのが有効であることを知見した。
【0022】
(1)NH3を含むガス雰囲気中で急速加熱および急速冷却の熱処理(Rapid Thermal Annealing、以下「RTA処理」という)を施す。これにより、ウェーハ表面が窒化され、これに伴ってウェーハ内部に空孔が注入されるため、酸素析出核の因子である空孔をウェーハ内部に新たに形成させることができる。
【0023】
(2)上記(1)のRTA処理の後、窒素、酸素またはこれらの混合ガス雰囲気中で、700℃から900℃までを3℃/分以下の速度で昇温し、900〜1100℃で1〜8時間保持する熱処理を施す。これにより、前段の低速昇温過程でウェーハ内部の空孔に酸素析出核が生成し、その酸素析出核が後段の高温保持過程で高密度のBMDに成長するため、デバイス製造プロセスでIG効果をもたらすことが可能な十分な密度のBMDをウェーハ内部に形成させることができる。
【0024】
本発明は、上記の知見に基づいて完成させたものであり、下記のシリコンウェーハの製造方法を要旨としている。すなわち、シリコン単結晶インゴットから切り出したシリコンウェーハに、NH3を含むガス雰囲気中でRTA処理を施して、ウェーハ内部に新たに空孔を形成させる空孔形成工程と、この空孔形成工程を経た後のシリコンウェーハに、窒素、酸素またはこれらの混合ガス雰囲気中で、700℃から900℃までを3℃/分以下の速度で昇温し、900〜1100℃で1〜8時間保持する熱処理を施して、ウェーハ内部にBMDを形成させるBMD形成工程と、を含むことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法である。
【0025】
この製造方法は、シリコン単結晶インゴット内で格子間シリコン型点欠陥が支配的に存在する領域を[I]とし、空孔型点欠陥が支配的に存在する領域を[V]とし、格子間シリコン型点欠陥の凝集体および空孔型点欠陥の凝集体が存在しない無欠陥領域を[P]とする場合に、前記シリコンウェーハとして、無欠陥領域[P]からなるシリコン単結晶インゴットから切り出されたものを用いることができる。
【0026】
上記の製造方法では、前記BMD形成工程を経た後のウェーハは内部のBMD密度が1×107(/cm2)以上であることが好ましい。
【0027】
また、上記の製造方法において、前記BMD形成工程を経たシリコンウェーハに、エピタキシャル層を成長させるエピタキシャル処理を施すことが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のシリコンウェーハの製造方法によれば、無欠陥領域[P]が全域に分布する無欠陥ウェーハであっても、NH3を含むガス雰囲気中でRTA処理することにより、酸素析出核の因子である空孔をウェーハ内部に新たに形成させることができ、その後の熱処理において、700℃から900℃までを3℃/分以下の速度で昇温することにより、ウェーハ内部の空孔に酸素析出核が生成し、これに続いて900〜1100℃で1〜8時間保持することにより、ウェーハ内部の酸素析出核を高密度のBMDに成長させることができるため、デバイス製造プロセスでIG効果が有効に得られるシリコンウェーハを製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ボロンコフ理論に基づいて各種の欠陥が発生する状況を説明する模式図である。
【図2】単結晶育成時の引き上げ速度と欠陥分布との関係を示す模式図である。
【図3】本発明例の製造方法を採用してDRAM用ウェーハを製造した場合におけるBMD形成工程での昇温速度とBMD密度との関係を示す図である。
【図4】本発明例の製造方法を採用してフラッシュメモリ用ウェーハを製造した場合におけるBMD形成工程での昇温速度とBMD密度との関係を示す図である。
【図5】比較例の製造方法を採用してDRAM用ウェーハを製造した場合におけるBMD形成工程での昇温速度とBMD密度との関係を示す図である。
【図6】比較例の製造方法を採用してフラッシュメモリ用ウェーハを製造した場合におけるBMD形成工程での昇温速度とBMD密度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明のシリコンウェーハの製造方法について、その実施形態を詳述する。
【0031】
1.処理対象のシリコンウェーハ
本発明の製造方法で用いるシリコンウェーハは、無欠陥領域[P]からなるシリコン単結晶インゴットから切り出したものであり、無欠陥領域[P]が全域に分布し、OSF、COPおよびLDを有しない無欠陥ウェーハである。前記図1および図2に示すように、無欠陥領域[P]からなるインゴットは、ホットゾーン内での引き上げに際し、径方向全域にわたり、V/Gが、格子間シリコン型点欠陥の凝集体が発生しない第1臨界点((V/G)1)と、空孔型点欠陥の凝集体が発生しない第2臨界点((V/G)2)との間に確保されるように、引き上げ速度VのプロファイルをV1〜V2の範囲内に設定することにより、育成することができる。
【0032】
さらに、前記図2に示すように、引き上げ速度のプロファイルをV1〜V3の範囲内に限定することにより、無欠陥領域[P]のうちの領域[PV]のみからなるシリコン単結晶を育成することが可能であり、このインゴットからウェーハを切り出せば、領域[PV]が全域に分布する無欠陥ウェーハが得られる。また、引き上げ速度のプロファイルをV4〜V2の範囲内に限定することにより、領域[PI]のみからなるシリコン単結晶を育成することが可能であり、このインゴットからウェーハを切り出せば、領域[PI]が全域に分布する無欠陥ウェーハが得られる。本発明の製造方法では、このような領域[PV]、または領域[PI]が全域に分布する無欠陥ウェーハを用いることもできる。
【0033】
ただし、本発明の製造方法で用いる無欠陥ウェーハは、後述する熱処理によりウェーハ内部に十分な密度のBMDを発生させるため、ウェーハ中の酸素濃度が7×1017〜14×1017(atoms/cm3(NEW ASTM))であることが必要である。
【0034】
2.空孔形成工程
本発明の製造方法では、上記の無欠陥ウェーハに、NH3を含むガス雰囲気中でRTA処理を施す。NH3を含むガス雰囲気は、NH3を主体としたガス雰囲気であり、NH3単体のガスで構成してもよいし、NH3と、Ar(アルゴン)、N2(窒素)、O2(酸素)、H2(水素)などの混合ガスで構成してもよい。
【0035】
RTA処理は、枚葉式の反応炉内に無欠陥ウェーハを収納し、この反応炉内にNH3を主体とするガスを導入しながら、加熱ランプでウェーハを加熱することにより行うことができる。このとき、熱処理温度は900〜1200℃で、その熱処理時間は60秒以下の短時間とし、その前後で急速加熱は40℃/秒以上とし、急速冷却は70℃/秒以上とする。
【0036】
このようなRTA処理により、無欠陥ウェーハは表面が窒化され、この窒化に伴って表面から数百μmの内部にわたり空孔が注入される。その結果、無欠陥ウェーハの内部に、酸素析出核の因子である空孔を新たに形成させることができる。
【0037】
3.BMD形成工程
本発明の製造方法では、上記のRTA処理を経て内部に空孔が形成された無欠陥ウェーハに、窒素、酸素またはこれらの混合ガス雰囲気中で、700℃から900℃までを3℃/分以下の速度で昇温し、900〜1100℃で1〜8時間保持する熱処理を施す。
【0038】
この熱処理工程のうち、前段の低速昇温過程、すなわち700℃から900℃までを3℃/分以下の速度で昇温する過程では、ウェーハ内部の空孔に酸素析出核が生成する。空孔への酸素析出核の生成は700℃から900℃までの温度範囲で有効に起こり、この温度範囲を3℃/分以下の速度でゆっくりと昇温させることにより、酸素析出核の生成が促進するからである。昇温速度の下限は特に規定しないが、低くし過ぎると生産性が低下するため、0.5℃/分以上とするのが好ましい。
【0039】
後段の高温保持過程、すなわち900〜1100℃で1〜8時間保持する過程では、前段の低速昇温過程を経てウェーハ内部に生成した酸素析出核が成長し、高密度のBMDとなる。保持温度が900℃未満、または保持時間が1時間未満の場合には、酸素析出核の成長が有効に起こらず、BMD密度が低下する。保持温度が1100℃を超える場合は、熱処理によるスリップの発生懸念や成長したBMDから二次欠陥(Bulk SF)の発生が起こり、表層品質の悪化が懸念される。8時間を超える保持時間では生産性が低下する。
【0040】
高温保持過程後のBMD密度は1×107(/cm2)以上となる。ここでいうBMD密度は、BMD形成のための熱処理を終えたウェーハに対して、さらに1000℃×16時間の熱処理を行った後、ウェーハを劈開して、その断面を2μmエッチングするライトエッチングを行い、その後に、その断面におけるBMDの個数を光学顕微鏡でカウントした結果による。
【0041】
以上の工程を経た無欠陥ウェーハは、内部に高密度のBMDが形成されているため、デバイス製造プロセスで、IG効果が有効にもたらされる。
【0042】
4.その他の工程
本発明の製造方法で用いるシリコンウェーハは、OSF、COPおよびLDを有しない無欠陥ウェーハであるが、近年の検査技術の進歩に伴って、SiO2に起因する微小な表面欠陥が検出されるようになってきた。この微小表面欠陥は、上述した空孔形成工程、さらにBMD形成工程を経た場合であっても、消滅することはなく、むしろ拡大する傾向にあることが判明した。
【0043】
このため、本発明の製造方法では、上述した空孔形成工程およびBMD形成工程を経た後の無欠陥ウェーハに、エピタキシャル処理を施す構成を採用することができる。エピタキシャル処理は、枚葉式の反応炉内にウェーハを収納して1000℃以上に加熱し、Siを含有する原料ガス(例えば、四塩化珪素(SiCl4)、トリクロロシラン(SiHCl3))とともにキャリアガス(例えば、水素(H2))を炉内に導入することにより行える。これにより、BMDが形成された無欠陥ウェーハの表面に単結晶シリコン膜であるエピタキシャル層を気相成長させ、上記の微小表面欠陥を消滅させることができ、IG効果を有するとともに一層表面品質に優れた無欠陥ウェーハを得ることができる。
【実施例】
【0044】
本発明のシリコンウェーハの製造方法による効果を確認するため、下記の試験を実施した。DRAM用およびフラッシュメモリ用として、それぞれ、無欠陥領域[P]からなるシリコン単結晶を育成し、これらのインゴットからウェーハを切り出し、領域[PV]と領域[PI]が混在するとともに酸素濃度が11.27×1017(atoms/cm3)である供試ウェーハを複数作製した。
【0045】
各供試ウェーハに空孔形成工程でRTA処理を施し、その後に、BMD形成工程で700℃から900℃までの昇温速度を種々変更して昇温するとともに、900℃で57分または37分保持し、続いて1000℃で1時間保持した後、3℃/分の速度で降温する熱処理を施した。その際、RTA処理は、NH3とArの混合ガス雰囲気中で、熱処理温度を1175℃、その熱処理時間を30秒とし、その前後で昇温速度を50℃/秒、降温速度を75℃/秒として行った。BMD形成工程の熱処理は、700℃から900℃までの昇温過程を酸素雰囲気中で行い、以降の過程を窒素雰囲気中で行った。
【0046】
また、比較のために、BMD形成工程において、900℃で57分または37分保持した後、1000℃で1時間保持することなく、直ちに、3℃/分の速度で降温する熱処理を施した。
【0047】
以上の条件で熱処理を施した各供試ウェーハについて、BMD密度を測定し評価した。BMD密度の測定は、上述の通り、各供試ウェーハに、さらに1000℃×16時間の熱処理を施した後、劈開およびライトエッチングした断面を顕微鏡観察することにより行った。ここで、ウェーハを劈開する前に、1000℃×16時間の熱処理を付加する理由は、顕微鏡観察のためにBMDを顕在化させ、BMDの検出性を高めるためである。なお、参考として、その付加熱処理を施さない場合でも、BMD密度を測定した。測定結果を下記の図3〜図6に示す。
【0048】
図3〜図6は、いずれも、BMD形成工程での昇温速度とBMD密度との関係を示す図であり、図3は本発明例の製造方法を採用してDRAM用ウェーハを製造した場合、図4は本発明例の製造方法を採用してフラッシュメモリ用ウェーハを製造した場合、図5は比較例の製造方法を採用してDRAM用ウェーハを製造した場合、図6は比較例の製造方法を採用してフラッシュメモリ用ウェーハを製造した場合をそれぞれ示す。これらの図では、評価対象として、BMD形成工程後に上記の付加熱処理(1000℃×16時間の熱処理)を施してBMD密度を測定した場合を黒塗り四角印(■)で表示し、参考として、BMD形成工程後に上記の付加熱処理を施すことなくBMD密度を測定した場合を白抜き菱形印(◇)で表示している。
【0049】
図3および図4の黒塗り四角印(■)で示すように、本発明例では、BMD形成工程における700℃から900℃までの昇温速度を3℃/分以下とすることにより、ウェーハ内部のBMD密度が1×107(/cm2)以上の高密度となり、無欠陥ウェーハであってもIG効果が有効に得られることが明らかになった。
【0050】
一方、図5および図6に示すように、比較例では、BMD形成工程における昇温過程後の高温保持が不足していることから、酸素析出核の成長が不十分となり、本発明例と比較してBMD密度が顕著に低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のシリコンウェーハの製造方法によれば、無欠陥ウェーハであっても、空孔形成工程とBMD形成工程を経ることにより、ウェーハ内部にBMDを高密度に形成することができるため、デバイス製造プロセスでIG効果が有効に得られるシリコンウェーハを製造することが可能になる。さらに、エピタキシャル処理を施すことにより、IG効果を有するとともに一層品質に優れた無欠陥のシリコンウェーハを製造することができる。本発明のシリコンウェーハの製造方法は、特に、酸素析出核の因子である空孔が基本的に存在しない領域[PI]が全域に分布する無欠陥ウェーハに有用であり、さらに、領域[PV]と領域[PI]が混在する無欠陥ウェーハにも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶インゴットから切り出したシリコンウェーハに、NH3を含むガス雰囲気中で急速加熱および急速冷却の熱処理を施して、ウェーハ内部に新たに空孔を形成させる空孔形成工程と、
この空孔形成工程を経た後のシリコンウェーハに、窒素、酸素またはこれらの混合ガス雰囲気中で、700℃から900℃までを3℃/分以下の速度で昇温し、900〜1100℃で1〜8時間保持する熱処理を施して、ウェーハ内部に酸素析出物を形成させる酸素析出物形成工程と、を含むことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
シリコン単結晶インゴット内で格子間シリコン型点欠陥が支配的に存在する領域を[I]とし、空孔型点欠陥が支配的に存在する領域を[V]とし、格子間シリコン型点欠陥の凝集体および空孔型点欠陥の凝集体が存在しない無欠陥領域を[P]とする場合に、
前記シリコンウェーハとして、無欠陥領域[P]からなるシリコン単結晶インゴットから切り出されたものを用いることを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記酸素析出物形成工程を経た後のウェーハは内部の酸素析出物密度が1×107(/cm2)以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記酸素析出物形成工程を経たシリコンウェーハに、エピタキシャル層を成長させるエピタキシャル処理を施すことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリコンウェーハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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