説明

シリコンウェーハへのゲッタリング層付与方法

【課題】シリコンウェーハにゲッタリング層を付与し且つ抗折強度の低下も防止できるようにする。
【解決手段】シリコンに対して不活性な気体のクラスターまたは窒素ガスのクラスターに電子を浴びせてクラスターイオン10を生成させ、加速電圧によって加速して、シリコンウェーハWの複数のデバイスが形成される表面W1と反対の裏面W2にクラスターイオン10を照射することにより、シリコンウェーハWの裏面W2に薄層のゲッタリング層を付与することで、シリコンウェーハWの表面W1側に金属原子が遊動して表面W1側のデバイスに悪影響を与えるのを防止するとともに、デバイスの抗折強度の低下を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの非デバイス形成面にゲッタリング層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の半導体デバイスが複数形成された半導体ウェーハは、裏面が研削されて所定の厚さに形成された後に、個々のデバイスに分割され、各種電子機器に利用されている。しかし、半導体ウェーハの裏面を研削すると、その裏面にマイクロクラックからなる厚さ1μm前後の歪み層が形成され、この歪み層が半導体デバイスの抗折強度を低下させる要因となる。半導体ウェーハが極めて薄く形成される場合は、この歪み層が半導体ウェーハの割れや欠けを引き起こす要因にもなる。そこで、半導体ウェーハの裏面を研削した後に、裏面にポリッシング、ウェットエッチング、ドライエッチング等を施すことにより歪み層を除去し、抗折強度の低下を防止することも行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−173987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、DRAMやフラッシュメモリーのようにメモリー機能を有する半導体デバイスが複数形成された半導体ウェーハにおいては、裏面研削の後にポリッシング、ウェットエッチング、ドライエッチング等によって歪み層を除去すると、メモリー機能が低下し、半導体デバイスとしての機能に悪影響を与えるという問題があることが確認された。
【0005】
この問題は、半導体デバイスの製造工程において内部に含有した銅等の金属原子が、裏面の歪み層除去前にはゲッタリング効果により裏面側に偏っていたが、裏面のポリッシング等により歪み層を除去すると、ゲッタリング効果がなくなり、半導体デバイスが形成された表面側に金属原子が遊動することで電流リークが発生することが原因と考えられる。このように、ゲッタリング効果を付与すると抗折強度が低下し、抗折強度を上昇させるために歪み層を除去するとゲッタリング効果が無くなってしまうという、相反する問題が生じている。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記半導体デバイスを形成するシリコンウェーハにゲッタリング層を付与し且つ抗折強度の低下も防止できるシリコンウェーハへのゲッタリング層付与方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の発明は、シリコンに対して不活性な気体状の物質の塊状原子集団であるクラスターを形成し、これに電子を浴びせてクラスターイオンを生成させ、加速電圧によって加速して、シリコンウェーハの複数のデバイスが形成される表面と反対の裏面にシリコンに対して不活性な気体状物質のクラスターイオンを照射し、シリコンウェーハの裏面へゲッタリング層を付与するシリコンウェーハへのゲッタリング層付与方法である。
【0008】
第二の発明は、窒素ガスの塊状原子集団であるクラスターを形成し、これに電子を浴びせてクラスターイオンを生成させ、加速電圧によって加速して、シリコンウェーハの複数のデバイスが形成される表面と反対の裏面に窒素ガスクラスターイオンを照射し、シリコンウェーハの裏面へゲッタリング層を付与するシリコンウェーハへのゲッタリング層付与方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の発明者は、シリコンウェーハの裏面にクラスターイオンを照射することで、当該裏面にアモルファス層又はSiNx層からなるゲッタリング層を形成することができ、かかるゲッタリング層の形成により、シリコンウェーハの表面側に金属原子が遊動して表面側のデバイスに悪影響を与えるのを防止できることを見出した。また、ゲッタリング層の厚さは10nm程度と極めて薄いため、抗折強度の低下を防止できることも見出した。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】クラスターイオン照射装置の構造の一例を説明図である。
【図2】シリコンウェーハの裏面にクラスターイオンが照射されっる状態を示す説明図である。
【図3】裏面にアモルファス層が形成されたシリコンウェーハを示す断面図である。
【図4】裏面にSiNx層が形成されたシリコンウェーハを示す断面図である。
【図5】デバイスの抗折強度試験の様子を示す斜視図である。
【図6】デバイスの抗折強度試験の様子を示す断面図である。
【図7】Cu強制汚染を行ったウェーハに関する抗折強度試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すクラスターイオン照射装置1は、ソースガスから原子の塊状の集団であるクラスターを生成する生成室2と、生成されたクラスターに対してイオン化などの処理を行う処理室3と、イオン化されたクラスターを対象物に対して照射する照射室4とを備えている。生成室2、処理室3及び照射室4は、いずれも真空に保たれている。
【0012】
生成室2は、クラスター生成のもととなる高圧のソースガスを導入するガス導入部20と、ソースガスを真空中に噴出してガスクラスターを生成するノズル21と、生成されたガスクラスターから分子数の多いクラスター分子を選別して処理室3に送り込むスキマー22とを備えている。
【0013】
処理室3は、生成室2から送られてきたガスクラスターをイオン化してガスクラスターイオンを生成するイオン化部30と、イオン化されたガスクラスターイオンを加速してガスクラスターイオンビームを生成する加速部31と、ガスクラスターイオンビームからモノマービームを排除してフィルタリングするフィルタ部32とを備えている。イオン化部30は、例えばフィラメントに電流を流すことにより熱電子放出によって電子をガスクラスターに衝突させてガスクラスターから電子をはじき飛ばして正イオン化する。加速部31は、ガスクラスターイオンを電極に通すことで加速する。生成室2では、すべての原子・分子がクラスターになるわけではなく、モノマーも存在するため、フィルタ部32は、ガスクラスターイオンビームの進行方向に対して交差する横方向に強力な磁界を与えることによりモノマービームを排除してフィルタリングする。
【0014】
照射室4は、ガスクラスターイオンビーム照射の対象となる対象物を保持する保持部40と、ガスクラスターイオンビームを対象物に導く細孔部41と、ガスクラスターイオンビームの照射ドーズ量をモニタリングするファラデーカップ42とを備えている。
【0015】
このように構成されるクラスターイオン照射装置1を用いて、保持部40に保持されたシリコンウェーハWの裏面W2にクラスターイオンを照射する。なお、シリコンウェーハWは、表面W1にデバイスが形成される前のベアウェーハ、または、表面W1にデバイスが形成され裏面を研削・研磨等により薄化したウェーハのどちらでもよい。デバイス形成面である表面W1の裏側の面が裏面W2である。
【0016】
照射室40内においては、シリコンウェーハWの表面W1側が保持部40によって保持され、裏面W2が処理室3側に向いて露出した状態となっている。この裏面W2に対してガスクラスターイオンビームを照射することにより、裏面W2にゲッタリング層を形成する。
【0017】
まず、ガス導入部20から高圧のソースガスを導入する。ソースガスとしては、例えばシリコンに対して不活性な希ガスを使用する。このソースガスは加圧された状態で生成室2に導入される。導入されたソースガスは、ノズル21を通って真空中に噴出される。そして、スキマー22によってクラスター数の多いクラスター分子が選別されて処理室3に進入していく。
【0018】
処理室3では、まず、イオン化部30においてガスクラスターに対して電子を浴びせることによりガスクラスターイオンを生成する。そして、そのガスクラスターイオンは、加速部31を通ることにより加圧電圧によって加速されアルゴンクラスターイオンビームとなる。このアルゴンクラスターイオンビームは、フィルタ部32においてモノマーが除去され、照射室40に進入していく。
【0019】
図2に示すように、照射室4に進入したアルゴンクラスターイオン10は、シリコンウェーハWの裏面W2に打ちつけられる。個々のアルゴンクラスターイオン10は、直径Dが数nm程度の不定形な形状となっている。
【0020】
アルゴンクラスターイオンをはじめとする希ガスのガスクラスターイオンは、シリコンウェーハに対して不活性であるため、裏面W2において化学反応は起こさずに、シリコン層W3の裏面W2の表層部分はアモルファスに変質する。図1に示した保持部40をアルゴンクラスターイオンの照射方向と交差する方向に動かしながら照射を行うと、図3に示すように、均一な厚さT1を有する膜状のシリコンアモルファス層100が形成される。シリコンアモルファス層100の厚さT1は、数nm〜十数nm程度である。このシリコンアモルファス層100は、シリコンウェーハWの内部の金属原子を捕捉するゲッタリング層となる。かかるゲッタリング層は極めて薄く形成されるため、ゲッタリング層として機能しつつ、シリコンウェーハの抗折強度を低下させるのを防止することができる。
【0021】
ガス導入部20から導入するソースガスとしては、窒素ガスを使用することもできる。窒素ガスを使用した場合も、ガスクラスターイオンビームが照射されるまでのプロセスは同様であるが、希ガスの場合とは異なり、窒素ガスクラスターイオンがシリコンウェーハWの裏面W2に照射されると、窒素クラスターイオンがシリコンと化学反応を起こし、図4に示すように、裏面W2の表層部分に均一な厚さT2を有するSiNx層200が形成される。このSiNx層200も、シリコンウェーハWの内部の金属原子を捕捉するゲッタリング層となる。SiNx層200からなるゲッタリング層も、厚さT2が数nm〜十数nm程度と極めて薄く形成されるため、ゲッタリング層として機能しつつ、シリコンウェーハの抗折強度を低下させるのを防止することができる。
【実施例1】
【0022】
(1)実験1
以下の4種類の加工を裏面に施したシリコンウェーハのそれぞれについて、Cu強制汚染拡散テストを行い、ゲッタリング効果を確認した。いずれのウェーハも、直径8インチ、厚さ700μmのものを使用した。
ウェーハA:CMP後のシリコンウェーハ
ウェーハB:ポリグラインド後のシリコンウェーハ
ウェーハC:ドライポリッシュ後のシリコンウェーハ
ウェーハD:CMP及びアルゴンクラスターイオン照射後のシリコンウェーハ
【0023】
(加工条件)
上記ウェーハA〜Dの加工条件は以下の表1〜表4に示すとおりである。なお、チャックテーブルとは、シリコンウェーハを保持する保持テーブルを意味し、スピンドルとは、研磨工具が装着される回転軸を意味する。
【0024】
表1:ウェーハAのCMP加工条件

【0025】
表2:ウェーハBのポリグラインド加工条件

【0026】
表3:ウェーハCのドライポリッシュ加工条件

【0027】
表4:ウェーハDのクラスタイオン照射条件

【0028】
(Cu強制汚染拡散テストの内容)
上記各ウェーハに対して行うCu強制汚染テストの内容は以下の通りである。
ア Cu標準液液的塗布
シリコンウェーハの裏面(加工面)に、1.0×1013[atoms/cm2]の割合でCu標準液を面内9箇所に分けて塗布して強制汚染させる。
イ 自然乾燥
Cu標準液液的塗布後、12時間自然乾燥を行う。
ウ 加熱
自然乾燥後、クリーンオーブン上でCu強制汚染面を加熱する。加熱温度は350℃、加熱時間は3時間とする。
エ TXRF分析
加熱後、Cu強制汚染面と逆側の面(表面)においてTXRF(Total Reflection X-Ray Fluorescence:全反射蛍光X線)分析を行う。TXRF分析により表面におけるCu検出量が限界値未満であれば、ゲッタリング効果ありと判断する。Cuの検出限界値は0.5×1010[atoms/cm2]である。
【0029】
(実験結果)
上記4種類のシリコンウェーハA〜DについてのTXRF分析の結果は以下の表5に示すとおりである。なお、Cu検出量の単位は[atoms/cm2]である。
表5:実験1の結果

【0030】
上記表5におけるウェーハA及びウェーハCの実験結果から、CMP加工後のウェーハ及びドライポリッシュ加工後のウェーハでは、表面側において多くの銅が検出されることが確認された。一方、ウェーハB及びウェーハDの実験結果から、ポリグラインド加工後のウェーハ及びアルゴンクラスターイオン照射後のウェーハでは、表面側において、少なくとも検出限界値以上の銅は検出されないことが確認された。ウェーハDに関して表面側において銅が検出されないことは、裏面側にアモルファス層が形成されることによって十分なゲッタリング効果が生じていることを意味している。
【0031】
(2)実験2
実験1においてCu強制汚染の対象としたウェーハA,B,C,Dの厚み200umのウェーハを用意しそれぞれについて、抗折強度を評価した。抗折強度は、図5及び図6に示すように、直径7mmの円形の穴50aが中心部に形成された支持板50の上に、各ウェーハをダイシングすることにより得られた20mm角のチップCを載置し、半径R=3mmの硬球51を穴50aの位置に向けてW=20[μm/sec]の速度で降下させ、チップCが破断した時点の荷重を測定値とした。チップCは、加工面(裏面)を下側にして支持板50に載置し、複数箇所の抗折強度を求めた。かかる実験の結果を図7に示す。
【0032】
図7の実験結果が示すように、アルゴンクラスターイオン照射後のウェーハDをダイシングして取り出したチップは、チップの測定個所によってバラツキはあるものの、抗折強度の最大値は、ウェーハA〜Cよりもはるかに高いことが確認された。また、抗折強度の最小値についても、ウェーハB,Dより高い値を示している。なお、ウェーハAについては最小値がウェーハDよりも高い値を示しているが、実験1の結果が示すように、CMPによりゲッタリング効果はなくなっているか、極めて効果が低くなっている。したがって、ゲッタリング効果と抗折強度の高さとの両立を実現しているのは、ウェーハDであることが確認された。
【0033】
(実験3)
CMP加工後のシリコンウェーハに対し、加速電圧及びドーズ量を変化させてアルゴンガスクラスターを照射した後に上記と同様のCu強制汚染拡散テストを行い、ゲッタリング効果を確認することで、ゲッタリング効果を得るための加速電圧及びドーズ量の条件を求めた。なお、アルゴンガスクラスター照射前のCMPの条件は、上記ウェーハAと同様である。
【0034】
加速電圧及びドーズ量は以下の値とした。
加速電圧:10[kV],20[kV]
ドーズ量:5.00×1013[ions/cm2],1.00×1013[ions/cm2
【0035】
実験結果は、以下の表6に示す通りである。なお、Cu検出量の単位は[atoms/cm2]である。
表6:実験3の結果

【0036】
上記表6における実験結果より、加速電圧が10kV,20kVのいずれの場合であっても、ドーズ量5.00×1013[ions/cm2]より多くのクラスターイオンをシリコンウェーハの裏面に照射すれば、銅の透過は問題ないレベルにあり、十分なゲッタリング効果を有するゲッタリング層が形成されることが確認された。
【0037】
(実験4)
ソースガスとして窒素ガス(N)を使用し、窒素ガスクラスターイオンをCMP加工後のシリコンウェーハの裏面に照射した後に、Cu強制汚染拡散テストを行い、ゲッタリング効果を確認した。
【0038】
加速電圧及びドーズ量は以下の値とした。
加速電圧:20[kV],30[kV]
ドーズ量:1×1015[atoms/cm2],5×1013[atoms/cm2
【0039】
実験結果は、以下の表7に示す通りである。なお、Cu検出量の単位は[atoms/cm2]である。
表7:実験4の結果

【0040】
上記表7からわかるように、ドーズ量が1.0×1015[ions/cm2]と多い場合でも、加速電圧が20kVであると表面側から銅が検出され、ドーズ量が5.0×1013[ions/cm2]と少ない場合でも、加速電圧が30kVであると銅の透過は問題ないレベルにあることが確認された。以上のことから、ソースガスとして窒素ガスを使用した場合には、加速電圧を30kV以上として加速し、ドーズ量を5.0×1013[ions/cm2]以上とすることで、十分なゲッタリング効果を有するゲッタリング層を得られることが確認された。
【符号の説明】
【0041】
1:クラスターイオン照射装置
2:生成室
20:ガス導入部 21:ノズル 22:スキマー
3:処理室
30:イオン化部 31:加速部 32:フィルタ部
4:照射室
40:保持部 41:細孔部 42:ファラデーカップ
W:シリコンウェーハ W1:表面 W2:裏面 W3:シリコン層
100:シリコンアモルファス層 200:SiNx層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンに対して不活性な気体状の物質の塊状原子集団であるクラスターを形成し、これに電子を浴びせてクラスターイオンを生成させ、加速電圧によって加速して、シリコンウェーハの複数のデバイスが形成される表面と反対の裏面に該シリコンに対して不活性な気体状物質のクラスターイオンを照射し、該シリコンウェーハの裏面へゲッタリング層を付与するシリコンウェーハへのゲッタリング層付与方法。
【請求項2】
窒素ガスの塊状原子集団であるクラスターを形成し、これに電子を浴びせてクラスターイオンを生成させ、加速電圧によって加速して、シリコンウェーハの複数のデバイスが形成される表面と反対の裏面に窒素ガスクラスターイオンを照射し、該シリコンウェーハの裏面へゲッタリング層を付与するシリコンウェーハへのゲッタリング層付与方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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