説明

シリコンカーバイド上に担持されたゼオライトに基づいた触媒を用いたメタノールのジメチルエーテルへの脱水

本発明は、メタノールの触媒的脱水によるジメチルエーテルの調製のための方法に関し、この方法では、シリコンカーバイド担体上に固定化されたゼオライト、例えばシリコンカーバイド押出成形物上またはシリコンカーバイド細胞状フォーム上に担持された型ZSM−5のゼオライトに基づいた触媒を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールのジメチルエーテルへの転換の分野に関する。より正確には、本発明は、メタノールをジメチルエーテルへと転換するための改良された、特に効率的な方法に関し、この方法はジメチルエーテルの大規模生産にとりわけ適していると考えられる。
【背景技術】
【0002】
式CH3−O−CH3を有するジメチルエーテルは、その工業合成が多くの用途に適用される化合物である。
【0003】
ジメチルエーテルは、とりわけ、様々な目的化合物(低分子量オレフィン、酢酸メチルまたは硫酸ジメチルなど)の合成のための前駆体として用いることができる。ジメチルエーテルは、例えば噴射剤などとしても用いることができる。
【0004】
より詳しくは、ジメチルエーテルは、有利には石油派生物を置き換えるための代替燃料として提案されている。ジメチルエーテルは、ディーゼルエンジンのものと同程度のセタン指数を有する、容易に液化するガスである(その沸点は−25℃である)。加えて、ジメチルエーテルには、とりわけ酸化硫黄、酸化窒素およびすす排出に関して、石油派生物よりも汚染がずっと少ないという利点があり、このことにより排ガスに関する法律の最近の発展により適合する。ジメチルエーテルを代替燃料として用いるという利点に関するさらなる詳細については、とりわけ、Journal of Power Resources Vol. 152(1), pp. 87-89 (2005)におけるSemelsberger et al.による論文を参照できる。
【0005】
現在、ジメチルエーテルはすでに、石油から得られる液化ガス(ブタンおよびプロパン)を置き換えるために家庭用燃料分野において用いられており、とりわけインドでは電力の大規模生産用の燃料と考えられており、インドではやがてジメチルエーテルによって2010年に生産される電力の半分が供給されるであろう。
【0006】
従来の生産技術とはCOとH2の混合物(いわゆる「合成ガス」混合物)からジメチルエーテルを合成することであり、この混合物を、例えばT. Ogawa et al.によってJournal of Natural Gas Chemistry Vol. 12, pp. 219-227 (2003)にあるいは文献GB 1 398 696、US4,177,167、GB 2 099327またはGB 2 093 365に記載されている方法に従って、好適な触媒(一般に金属酸化物に基づいている)と反応させる。
【0007】
ジメチルエーテルを合成するための別の技術も最近開発されており、この技術とは、次の反応:
2CH3OH→CH3−O−CH3+H2
に従って酸性触媒でメタノールを脱水することにより該化合物を調製することである。
【0008】
この反応は、とりわけK. W. Jun et al.によってBulletin Korean Chemical Society Vol. 24, p. 106 (2003)に記載されている。
【0009】
上述のメタノール脱水反応では、通常、例えば、文献US 4,560,807、EP 270 852またはGB 403 402に、記載されているタイプの、γ型アルミニウムまたは修飾γ型アルミニウムに基づいている固体触媒を使用する。かかる触媒には欠点、すなわち、触媒の親水性を考えると、触媒は水の存在下で失活し、そのことによって、面倒でコストのかかるメタノール前処理工程を行わなければ、とりわけバイオマスから得られるメタノールの転換のための、それらの使用が妨げられるということがある。
【0010】
γ型アルミニウム型の触媒に見られる欠点を改善するために、より特異性の高い触媒系が提案された。
【0011】
WO 04/74228では、親水性酸性触媒を利用し、疎水性酸性触媒と一緒に、メタノールをジメチルエーテルへと転換することができ、必ずメタノールが脱水状態で維持されるようにする二元触媒系が記載されている。この系は良好な合成収率を示すが、実行に移すことはかなり困難であると考えられる。
【0012】
前記メタノール脱水反応を触媒させるために、ゼオライト、とりわけMFI型ゼオライト、例えばゼオライトZSM−5の使用も考えられた。このようなゼオライトは水の存在下で比較的安定しており、とりわけそれらにナトリウム塩溶液を含浸することによってそれらの酸度を変更することができ、比較的良好な収率を得ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、これらの様々な利点に関連して、ゼオライトZSM−5型のゼオライトの使用は、実際には、特に前記脱水反応を大規模に用いることが望ましい場合には十分に満足のいくものではないと考えられる。
【0014】
実際に、かかる触媒には大きな欠点、すなわちそれらの触媒は経時的に安定でないということがあることを強調すべきである。より正確には、メタノールのジメチルエーテルへの転換反応を行うためにZSM−5型ゼオライトからなる触媒を用いる場合には、その触媒の極めて迅速な活性喪失が一般に認められ、これは具体的には経時的な極めて著しいメタノール転換減少に現われ、この活性喪失は一般に最大限でも数時間程度の極めて短い反応時間の後に、一般に2〜6時間の反応後に認められるということは見出されている。
【0015】
ゼオライト(ZSM−5など)からなる触媒を用いる場合に認められる触媒活性の喪失は、いわゆるコークス化現象、すなわちゼオライト構造内部での炭素の漸進的析出によって少なくとも一部は説明することができるように思われる。また、メタノールのジメチルエーテルへの転換反応中に生成した水蒸気によるゼオライト構造の可能性ある変化、ならびに空気中での触媒構造の再生の潜在的影響も考慮に入れられる。さらに、前記転換反応は発熱反応であり、そのため触媒上にホットスポットを形成しやすく、これらのホットスポットが上述の現象を促し得る。
【0016】
さらに、ゼオライト(ZSM−5など)製の触媒には別の欠点もある:ゼオライト製の触媒は多くの場合粉末形態であり、それらは用いるのが比較的難しく、とりわけ反応器内で相当量の喪失が起こる可能性があり、工業規模でのそれらの使用を妨げている。その問題を回避するために、とりわけ、酸化ケイ素または酸化アルミニウムタイプの無機結合剤の存在下での押出によってゼオライト粉末を巨視的固体にすることが提案された。しかしながら、かかる解決策は、とりわけ用いる結合剤によってゼオライトの一部が利用できなくなり、加えて、それらの結合剤が望ましくない二次反応を誘導しやすい場合には十分でないと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的は、メタノールの脱水によりジメチルエーテルを合成するための新規方法を提供することであり、この方法は、ジメチルエーテルの大規模生産に好適であり、とりわけ前記触媒の不安定性に関しての上述の問題を克服している。
【0018】
このために、本発明の目的は、メタノールの触媒的脱水によるジメチルエーテルの調製のための方法を提供することであり、この方法において、触媒として用いるものはシリコンカーバイド(SiC)担体上に固定化されたゼオライトであり、該シリコンカーバイド担体は、好ましくは、2m2/gより大きい、より好ましくは5m2/g以上の比表面積を有している。
【0019】
本発明の範囲内において触媒として用いられるゼオライトは、メタノールのジメチルエーテルへの転換反応を触媒させるのに適した任意のゼオライトから選択してよい。
【0020】
「ゼオライト」とは、本明細書において、アルミノシリケートタイプのゼオライトの特異的三次元構造を有する材料であって、その骨格が一連の四面体TO4(この場合、Tはケイ素原子またはアルミニウム原子を表す)からなる材料として理解される。最も頻繁には、本発明に従って用いられるゼオライトはアルミノシリケートであるが、本記載の意味においては、「ゼオライト」は、ケイ素原子およびアルミニウム原子の全てまたはいくつかが他の元素に置換されているアルミノシリケートも含む。例えば、ケイ素は他の四価元素、例えばスズ、ゲルマニウムおよび/またはリンに置換されていることがあり、アルミニウムは他の三価元素、例えばホウ素、チタン、ガリウムおよび/またはインジウムに置換されていることがある。よって、本明細書において用いられるという意味において、表現「ゼオライト」には、とりわけ、メタロシリケート(例えばガロシリケート、クロモシリケート(the chromosilicates)、ボロシリケート、フェリシリケートおよびチタノシリケート)、メタロアルミノホスフェート(MeAPO)、アルミノホスフェート(ALPO)ならびにメタロホスフェートから選択されるゼオライトが含まれる。
【0021】
本発明に従って用いられるゼオライトには、W. M. Meier and D. H. OlsonによるAtlas Of Zeolite Structure Types, Butterworth-Heinemann, 3rd edition, 1992に記載されているように、構造型MFI、AEL、BEA、CHA、CLO、ERI、EUO、FAU、FER、HEU、LTA、LTL、MAZ、MEI、MEL、MOR、MTT、MTW、MWW、OFF、PHI、SODおよび/またはTONのゼオライトが含まれ得る。
【0022】
有利には、本発明の範囲内で用いられるゼオライトはMFI型ゼオライトである。「MFI型ゼオライト」とは、本明細書において、前段落に記述したAtlas Of Zeolite Structure Typesに記載されているMFI構造を示すゼオライトであると理解され、そのゼオライトは好ましくは実質的にMFI構造であるゼオライトである。
【0023】
加えて、用いられるゼオライトは、有利には、モル比Si/Alが有利には20〜100、好ましくは40〜80であるアルミノシリケートに基づいているシリカであってよい。
【0024】
特に好ましくは、本発明に従って用いられるゼオライトはZSM−5ゼオライトである。
【0025】
本発明の範囲内において、用いられるゼオライトは、好ましくは少なくとも2m2/g、より好ましくは5m2/g以上、例えば10m2/gより大きい比表面積を有する特定のシリコンカーバイド担体上に担持された状態で使用される。
【0026】
本記載の範囲内において、「シリコンカーバイド担体」とは、SiCを主成分として含んでなり、その表面上にゼオライトの層を固定化することができる固相支持体であると理解される。
【0027】
本発明の触媒中に存在するシリコンカーバイド担体は、一般に、SiCから準実質的に(あるいは排他的に)なる。しかしながら、SiC以外の種、とりわけ避けられない不純物の存在は排除されていない。しかしながら、その場合、一般には、SiCがシリコンカーバイド担体中に少なくとも80質量%、より好ましくは少なくとも85質量%、より有利には少なくとも90質量%の量で存在することが好ましい。本発明の特に好適な実施形態によれば、シリコンカーバイド担体は少なくとも95質量%、好ましくは少なくとも98質量%、より有利には少なくとも99質量%のSiCを含んでなる。
【0028】
用いられるシリコンカーバイド担体は、最も頻繁には、一般に1mmより大きい寸法を有する巨視的固体物体の形態である。よって、それらの巨視的固体物体は粒状物、押出成形物、ロッド、モノリス、チューブ、三葉またはリング、あるいはフォーム、とりわけ硬質細胞状フォームであり得る。
【0029】
本発明を導いた研究の範囲において、本発明者らは、特定のシリコンカーバイド担体上へゼオライトを固定化することによって、全く予想外の効果、すなわちメタノールのジメチルエーテルへの転換反応での触媒の極めて著しい安定化が、より特には、シリコンカーバイド担体が高比表面積、例えば5m2/g以上を有する場合に、もたらされることを明らかにした。
【0030】
より正確には、非担持ゼオライトの活性は経時的に急速に低下するが、シリコンカーバイド担体上に被着されたゼオライトを本発明に従って用いることによって、むしろ、かなり長い時間にわたって、一般に少なくとも20時間あるいはずっと長い時間の間実質的に一定した触媒活性の維持をもたらすことが見出されている。
【0031】
本発明の範囲内において得られる安定化は、とりわけ、用いるシリコンカーバイド担体の極めて良好な熱伝導率によって説明されるようである。この良好な熱伝導率によって、メタノールのジメチルエーテルへの転換反応中に生成した熱は極めて迅速に放散させることができ、そのため、触媒床内でのホットスポットの形成が回避され、それによりとりわけコークス化による触媒の中毒の危険性が減少する。
【0032】
さらに、本発明に従って用いられるSiC担持ゼオライトはメタノールのジメチルエーテルへの転換反応において特に高い触媒活性を有し、その触媒活性は、多くの場合、従来の市販の触媒のものと少なくとも同程度であることが分かっている。よって、安定性に関して得られる利益は、一般に触媒の有効性を犠牲にしたものではない。言い換えれば、本発明の範囲内でもたらされる改善は、触媒特性の総合的改善に有効に貢献する。
【0033】
加えて、シリコンカーバイド担体上に担持された形態のゼオライトを用いると微量の喪失が起こる可能性があるが、いずれの場合においてもこの喪失は非担持ゼオライトを用いた場合よりもずっと少ない。
【0034】
本発明に従って用いられる触媒の別の利点は、シリコンカーバイド担体上へゼオライトを固定化することによって、メタノールのジメチルエーテルへの転換反応を行う反応器内での質量および熱伝達の改善がもたらされるということである。
【0035】
さらに、本発明に従って用いられるSiC担体は硬質担体であり、そのため、触媒に良好な機械的安定性を与えるということにも注目すべきである。さらに、SiCは化学的に不活性な材料であり、そのため、メタノールのジメチルエーテルへの転換反応中に寄生反応を引き起こしにくい。
【0036】
これらの様々な利点によって、とりわけ本発明の担持触媒を用いることによって、高水含量の(例えば20〜40容量%の水を含んでなる)粗メタノール(バイオマスから得られるメタノールなど)の使用がさらに可能になるため、本発明の方法は、現在分かっているメタノールをジメチルエーテルへと転換する方法の非常に興味深い代替法となる。この粗メタノールは代替燃料としてのジメチルエーテルの大規模生産のための原材料として現在検討中である。
【0037】
本発明の範囲内において用いることができるゼオライト系触媒として、特許出願WO 03/59509に記載されている芳香族化合物のアルキル化およびアシル化のための触媒をとりわけ使用することができる。
【0038】
より一般には、本発明に従って用いられる触媒は、とりわけ、それ自体公知の、とりわけ上述の出願WO 03/59509に記載されているタイプの技術に従う熱水法によりSiC担体上へのゼオライト析出を行うことによって合成することができる。
【0039】
有利な調製方法によれば、本発明に従って用いられる触媒は、次のステップを行うことによって合成される触媒である:
(A)SiC担体の熱処理(「焼成処理」)(この処理は、一般に、800〜1000℃の温度で(一般には900℃程度の温度で)数時間(最も頻繁には2〜6時間程度)行われ、この結果としてSiC担体の表面に表面シリカ層が形成される)。
【0040】
実際、そのようにして行われる熱処理は、表面のシリコンカーバイド種およびシリコンオキシカーバイド種をシリカ形態へと転換する担体前処理ステップである。結果として得られるシリカ層は、その担体上でのその後のゼオライト析出のための固着ポイントとなる。
【0041】
とりわけ、担体と析出するゼオライトとの効果的な固着を確実に行うためには、焼成後に担体表面上に得られるシリカ層が少なくとも1nm、より好ましくは少なくとも2nmの厚さを有することが好ましい。しかしながら、形成されたシリカ層の厚さが十分に小さいままであることが好ましい:シリカ層が厚すぎた場合には、ゼオライトが後に析出したときにシリカ層が溶解する傾向がある。加えて、十分に薄いゼオライト層を析出させることによって、反応場でのメタノールの利用可能性と生成するジメチルエーテルの除去について最適化することができる。一般に、形成された層が10nm以下の厚さを有していることは興味深い。有利には、形成されたシリカ層は1.5〜5nmの厚さを有する。形成されたシリカ層の厚さは、とりわけXPS(「X線光電子分光法」)によって決定することができる。
【0042】
(B)前述のステップにおいて得られた修飾担体のゼオライト合成媒質への組み込み
(それによってゼオライトはその形成中に徐々に担体と固着する)。
【0043】
この関連において、ステップ(A)において得られた修飾担体を、前記熱水法によるゼオライトの調製で得られるようなゲル化媒質(ゲル)に導入することが好ましい。その場合、ゼオライト合成媒質への担体の添加は、好ましくは、その合成媒質の完成直前、その間またはその直後に行われる。一般に、ステップ(A)において得られた修飾担体は、完成前またはその間にゲルに添加され、完成後に得られた混合物は、前記熱水法による合成に適した容器に、例えばテフロン(登録商標)製内筒入りオートクレーブに移される。この関連において、Applied Catalysis A210, p. 103 (2001)のB. Louis et al.による論文に記載されている方法を有利には用いることができる。
【0044】
ステップ(B)は、所望により、複数のゼオライト層の連続析出を行うために繰り返すことができ、とりわけ、実施する析出の回数によって析出させる層の厚さを調整することができることは強調すべきである。
【0045】
本発明に従って用いられる触媒を調製する方法が何であれ、それを形成するために用いられるSiC担体は、好ましくは、とりわけ、ゼオライトができる限り効果的にSiC担体に固着されることを確実にするようにできる限り高い比表面積を有する。この関連において、好ましくは2m2/gより大きい、より好ましくは少なくとも5m2/g、より有利には少なくとも10m2/g、あるいは少なくとも20m2/gの比表面積を有するシリコンカーバイド担体が用いられ、この比表面積は、一般には、600m2/gより小さく、多くの場合400m2/gより小さく、一般には200m2/gより小さく、あるいは100m2/gより小さく維持される。本発明の特に好適な実施形態によれば、前記シリコンカーバイド担体の比表面積は2〜40m2/g、一般には5〜25m2/gである。本記載のこの関連において、「比表面積」とは、The journal of the American Chemical Society, Volume 60, page 309 (1938)に記載されている、国際標準規格ISO 5794/1(annex D)に相当する公知のBRUNAUER−EMMET−TELLERといわれる方法に従って、窒素吸着によって測定された比BET表面積を指す。
【0046】
興味深い実施形態によれば、本発明に従って用いられる担体のシリコンカーバイドは、β構造のシリコンカーバイド(「β−SiC」と呼ばれる)からなるか、あるいはβ構造のシリコンカーバイドを、該担体の総質量に基づいて少なくとも80質量%、あるいは少なくとも90質量%の量で少なくとも含んでなる。その他の利点として、型β−SiCのシリコンカーバイドには、マクロ細孔およびメソ細孔を実質的に含んでなる特定の多孔性を有するという利点があり、孔径は一般に4〜100nmの範囲である。加えて、その多孔性では、試薬および反応生成物の拡散問題を起こしやすいと思われるミクロ細孔は実質的に含まれない。本記載のこの関連において、「ミクロ細孔」は、2nm未満のサイズを有する細孔であると理解され、「マクロ細孔」は50nmより大きいサイズを有する細孔を意味し、「メソ細孔」は2〜50nmの範囲の中間サイズの細孔を意味する。型β−SiCのシリコンカーバイドの特定の多孔性は、触媒部位でのメタノールの極めて良好な利用可能性だけでなく、生じた生成物の優れた除去特性ももたらす。触媒と外部媒質とのこれらの最適交流は、とりわけ、メタノールのジメチルエーテルへの転換反応の収率増加に現われる。加えて、これらの最適交流によって、コークス化による触媒の中毒現象(二次反応による触媒上での炭素析出現象)が防がれるということも考えられるようである。上述のタイプの型β−SiCシリコンカーバイド担体は、とりわけ、SiOガスと固体炭素との気体/固体反応によって得ることができる。この関連において、前記反応は、一般に、反応器内でまたは前駆固体のマトリックスにおいてin situで生成されたSiO蒸気を用いて行われる。β−SiC系担体の利点は、それらの担体の合成によって、一般には、さらなる形成ステップを必要とすることなく、直接、巨視的材料が得られるということである。よって、本発明の範囲内において、担体合成直後に得られるようなβ−SiC系担体は、その担体上でゼオライト析出を行うために用いることができる。別の実施形態によれば、前記β−SiC系担体は、その合成後、必要に応じて好ましくは少なくとも1時間、一般には900℃の温度での熱前処理に供される。
【0047】
考えられる実施形態によれば、本発明に従って用いられる担体のシリコンカーバイドは、α構造のシリコンカーバイド(「α−SiC」と呼ばれる)を含んでなり得、このことは、とりわけ、触媒の機械的強度特性に関して有益であると考えられている。その場合、前記担体は、有利には、α構造のケイ素(α−SiC)を、β構造のシリコンカーバイド(β−SiC)と混合して含んでなり、これによって、両方のタイプのシリコンカーバイドの利点を用いることができる。この関連において、一般には、質量比α−SiC/β−SiCが1:99〜50:50、例えば5:95〜20:80であるSiC担体を用いることが好ましい。一般に、α構造のシリコンカーバイドを含んでなる本発明に従う担体は、α−SiCの粒子と1以上の結合剤を含んでなる粉末を圧縮成形することによって得られる。
【0048】
本発明に従って用いられる触媒のSiC担体は、様々な形で使用することができる。
【0049】
よって、考えられる実施形態によれば、前記SiC担体は、一般には2〜50m2/g、多くの場合5〜30m2/gの比表面積を有する、粒型、押出成形型、ロッド型、モノリス型またはチューブ型の巨視的物体の形態であり得る。この関連において、例えば、様々なサイズおよび形態の材料を得ることができる、文献EP 0 313 480、EP 0 440 569、US 5,217,930、EP 0511 929またはEP 0 543 751に記載されている方法に従って得られるタイプのSiC担体を用いることができる。
【0050】
本発明の別の特に有利な実施形態によれば、用いられるSiC担体は開放的な巨視的構造を有する。この関連において、SiC担体は、好ましくは、硬質細胞状フォーム構造を有し、そして、SiC担体は好ましくは2〜400m2/gの比表面積を有し、この比表面積は多くの場合5〜50m2/gであり、有利には10m2/gより大きく、好ましくは20m2/gより大きく、より有利には30m2/gより大きい。本発明に従って用いられる硬質細胞状フォーム形態のSiC担体は、好ましくは、その触媒の総質量に基づいて少なくとも80質量%のβ−SiC、あるいは少なくとも90質量%のβ−SiCを含んでなる。本発明の興味深い実施形態によれば、β−SiCから実質的になる(最も頻繁には、β−SiCを、前記担体の総質量に基づいて少なくとも95質量%、あるいは99質量%以上の量で含んでなる)硬質細胞状フォームである担体が用いられる。
【0051】
本発明に従って用いられる硬質細胞状フォームなどの開放的な巨視的構造のSiC担体の比表面積は、一般には2〜100m2/g、最も頻繁には5〜50m2/gである。そのタイプのSiC細胞状フォームは、とりわけ、文献EP 543 752、US 5,449,654またはUS 6,251,819に記載されている方法によって得ることができる。本発明に従って特に好適なβ−SiCの硬質細胞状フォームは、好ましくは300〜5000μm、有利には1000〜4000μm、とりわけ2000〜3500μmの孔径を有する。硬質細胞状フォームの開放多孔性(マクロ多孔性)は、その材料の総容量に基づいて30〜90容量%、好ましくは35〜80容量%、とりわけ40〜70容量%と様々であり得る。
【0052】
より緻密な担体の代わりに硬質細胞状フォーム構造を有するSiC担体を用いることによって、触媒の安定性のさらに著しい改善がもたらされるだけでなく、メタノールのジメチルエーテルへの転換反応のための触媒の活性の顕著な改善ももたらされる。
【0053】
さらに、本発明者らによる研究では、上述のタイプの細胞状フォーム型担体(alveoloar foam type supports)を用いることで、より緻密な材料の場合よりもずっと限定された喪失がもたらされる可能性があることも証明された。
【0054】
特に、硬質細胞状SiCフォームの極めて開放的な多孔質構造によって、触媒床による喪失可能性の問題がかなり軽減され得る。より正確には、この細胞状構造によって、触媒床による潜在的な過剰喪失を経験することなく、ずっと速い空間速度の(ガス形態の)試薬を用いることが可能になる。
【0055】
また、硬質細胞状フォームタイプの担体を用いることによって、転換プロセスの最適生産性を達成するのに一般に必要な高試薬流速を用いたとしても、活性触媒部位(触媒の表面にまたは一部は触媒の細孔内部に見られる)へのメタノールの良好な拡散および触媒ゾーン以外の場所で生成したジメチルエーテルの除去が可能であることにも注目すべきである。これらの効果は、本発明の方法において行われる逐次反応の場合において特に興味深い。この現象は、とりわけ、硬質フォームの硬い壁の厚さは、粒状物または押出成形物のものと比較すると比較的薄く、特にゼオライトが十分に薄い層の形態で担体上に被着されている場合には、その小さな厚さが様々な種のよりよい拡散を可能にするという事実によって説明される。
【0056】
加えて、硬質細胞状フォームタイプの開放多孔性を有する担体は連結構造を示し、この連結構造は、粒状物形態の担体のようなより緻密な担体の使用と比較すると改善されている良好な熱伝導特性をそれらの担体に与え、これらの粒状物は、反応器内で、さほど有効でない粒状物間接触により粒状物同士が積み重なった状態で用いられる。硬質細胞状フォーム構造を有するSiC担体を用いる場合、熱伝達は2種類である、すなわち:
(i)触媒部位(前記担体上に被着されたゼオライト)からSiC担体への、局所熱伝達、および
(ii)連結剛性ブリッジによって相互結合されたフォーム全体にわたる、熱通過。
【0057】
用いる開放多孔性担体の構造に関連した熱通過の存在は、特に生産性を高めるために高試薬速度を用いている場合に、特に、触媒する反応によって放出される強い反応熱の放散を可能にするために見出されている。
【0058】
硬質細胞状フォームタイプの開放多孔性を有する担体では、それらの特異的構造から、特にゼオライトが小さな厚さ、有利には10nm未満、より好ましくは5nm未満の層の形態で担体上に被着されている場合には、現在公知の触媒で認められる触媒失活現象を大幅に減少させることができる。
【0059】
加えて、硬質細胞状フォームタイプの開放多孔性を有する担体は、かなりの機械的強度を有し、粒状物または押出成形物形態の触媒の場合に使用されるものとは異なる方法で反応器に装填することができる。特に、触媒の内容積に合う大きな寸法の巨視的材料の形態で、一般には円筒型反応器の内径に等しい(またはその内径よりも少し小さい)寸法を有する円筒形態の、あるいは大型反応器の内容積を満たすために積み重ねるかまたは並列することができる材料形態のフォーム形態で担体を用いることができる。
【0060】
本発明に従って用いられるSiC担体の正確な性質が何であれ、担体上に固定化する(一般には析出させる)ゼオライトは、好ましくは実質的にその触媒活性型である。よって、型ZSM−5のゼオライトの場合には、SiC担体上に被着されるゼオライトのかなりの部分がその酸性(プロトン化)型:H−ZSM−5であることが好ましい。このために、必要に応じて、反応前に、公知の方法によって、例えばゼオライトをアンモニウム塩(例えば塩化アンモニウム)で処理した後に、得られたゼオライトを熱処理に供してアンモニア含有種を除去することによって、触媒を活性化することができる。
【0061】
加えて、とりわけ触媒の領域において試薬と生成物の拡散を促進するために、そして活性触媒部位とSiC担体との局所熱交換を促進するためにも、最も頻繁には、SiC担体上に固定化されたゼオライトが比較的小さな厚さの析出層の形態であることが好ましく、その層は好ましくは50μm未満、より好ましくは20μm未満、さらに有利には10μm未満の平均厚さを有する。しかしながら、十分な触媒活性を保有させるためには、平均厚さが少なくとも1μm、より好ましくは少なくとも3μmであることが好ましい。本発明に従って非常に好適な平均厚さは、例えば、5〜10μm程度の厚さである。本明細書において言及するゼオライト層の平均厚さは、試料基底部において走査型電子顕微鏡法により決定することができる。
【0062】
本発明の触媒を具体的に用いることによって、メタノールのジメチルエーテルへの触媒的脱水反応を広い温度範囲内で触媒の活性喪失を受けずに行うことが可能であり、これは本発明に従って用いられる触媒のさらに別の利点となる。最も頻繁には、触媒的脱水反応を200〜500℃の温度で、好ましくは400℃より低い温度、例えば220〜350℃、とりわけ250〜300℃で行うことが好ましい。
【0063】
加えて、本発明に従って用いられる担持触媒に関しては、メタノールのジメチルエーテルへの触媒的脱水反応を圧力下で行う必要はない。よって、この触媒的脱水反応は大気圧下で行うことができ、このことが本方法の使いやすさとコストの低下に反映される。より一般には、メタノールのジメチルエーテルへの触媒的脱水反応は、大気圧以上の圧力下で、特にメタノール生産ユニットにおいて一般に用いられる平均圧力でまたは反応後の必要性に応じて、さらに本方法の生産性と関連した理由で行うことができる。よって、本方法は1〜50バールの範囲の圧力で、例えば2〜40バール、特に5〜30バールの圧力で行うことができる。
【0064】
本発明の範囲内において、メタノールの触媒的脱水反応は、一般に、1時間当たりの空間速度1〜20時間-1、例えば1〜5時間-1、NTPを用いて行うことができる。
【0065】
本発明の方法では、メタノールをジメチルエーテルへと転換するための反応を、一般に高くかつとりわけ経時的に安定した状態を保つ転換率で、極めて容易に行うことができる。
【0066】
加えて、本発明の方法において、触媒的脱水反応に用いるメタノールは精製する必要はない。よって、そのメタノールはある一定数の不純物またはさらなる化合物(例えば水など)を含み得るが、当然、それらの不純物が触媒の安定性に影響を及ぼしまたは意図された用途の範囲内において望ましくない二次反応をもたらすなどの性質を有していないという条件付きである。
【0067】
よって、比較的純粋なジメチルエーテルの合成に適した本発明の実施形態によれば、前記脱水反応において不純物を実質的に含まないメタノールを使用することができる。
【0068】
本発明の実施に適した別の実施形態によれば、前記脱水反応において粗メタノール(例えばバイオマスから得られる粗メタノール)、あるいは、より一般には、メタノールを、他の化合物および/または不純物と混合して含んでなる媒質を用いることもでき、そのような粗メタノールまたはメタノール系媒質は最も頻繁には10〜90質量%のメタノールを含んでなる。この関連において、最も頻繁には、メタノール含量が少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30質量%であることが有利であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
本発明の方法の様々な態様および利点は、添付の図面を参照して示す以下の実施例からより明確に明らかになる。
【図1】図1は実施例3の条件下でのメタノールのジメチルエーテルへの転換反応の展開を示す。
【図2】図2は実施例4の条件下でのメタノールのジメチルエーテルへの転換反応の展開を示す。
【図3】図3は実施例5の条件下でのメタノールのジメチルエーテルへの転換反応の展開を示す。
【図4】図4は実施例において用いた触媒C2の透過型電子顕微鏡写真である。
【実施例】
【0070】
実施例1:
SiC押出成形物上に担持されたZSM−5ゼオライトの調製(触媒C1)
本実施例では、前記熱水法によって前駆体ゲルからβ−SiC担体上にゼオライト層を析出させることによって触媒C1を調製した。より正確には、次のステップを行った:
【0071】
1.1 SiC担体の前処理
本実施例では、担体として長さ5mm、直径2mmの円筒型β−SiC押出成形物を用いた。このβ−SiC押出成形物の比BET表面積は5m2/gである。
そのβ−SiC押出成形物を空気中で900℃で5時間焼成して、β−SiC押出成形物の表面上に厚さ5〜10nmのシリカ層を形成した。
【0072】
1.2 ゼオライト前駆体ゲルの調製
200mlの蒸留水を、周囲温度(25℃)で、500mlビーカーに注ぎ、その後、これに2.23gの塩化ナトリウムを加えた。
激しく攪拌しながら、0.123gの無水アルミン酸ナトリウム(NaAlO2)を、続いて24mlの水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAOH、式+N(C374.OH-、有機構造化剤(organic structuring agent)として働く)を導入した。
攪拌を続けながら、14mlのテトラエトキシシラン(TEOS、式Si(OC254)を導入した。この添加では各2mlで7回の添加に分割し、TEOSが必ず完全に溶解するように各添加ごとにその混合物を数分間攪拌した。
【0073】
このようにして、次のモル組成:
TPAOH:TEOS:NaCl:NaAlOH:H2O=2.16:5.62:3.43:0.13:1000
を有する水性ゲルを得た。
【0074】
1.3 SiCの添加および媒質の完成
ステップ1.1後に得られた熱処理済β−SiCを、ステップ1.2において得られたゲル中に導入した。
【0075】
そのようにして得られた媒質を、周囲温度(25℃)で4時間攪拌することによって完成させた。
【0076】
1.4 β−SiC担体でのゼオライトの形成
完成後、前記媒質をテフロン(登録商標)製内筒入りオートクレーブへ移し、このオートクレーブをオーブン内に170℃で48時間置いた。
【0077】
結果のゼオライトの合成は自発条件下で行った。
【0078】
熱処理の48時間後、オートクレーブを冷却し、媒質中に存在する固体を回収した。次いで、この固体を濾過によって洗い落とした後、多量の蒸留水で洗浄し、続いて音波処理を30分間行い、最後にオーブン内で乾燥を行った。
【0079】
その後、得られた固体を500℃で5時間の熱処理に供して、有機構造化剤を除去した。
【0080】
1.5 第2のゼオライト層の析出
ステップ1.4後に得られた材料を、ステップ1.2において得られたゲル中に導入し、これを攪拌した。
そのようにして得られた媒質を、周囲温度(25℃)で4時間攪拌することによって完成させた。
【0081】
完成後、その媒質をテフロン(登録商標)製内筒入りオートクレーブへ移し、このオートクレーブをオーブン内に170℃で60時間置いた(自発条件)。
合成の60時間後、オートクレーブを冷却し、媒質中に存在する固体を回収した。次いで、この固体を濾過により洗い落とした後、多量の蒸留水で洗浄し、最後にオーブン内で乾燥を行った。その後、得られた固体を500℃で5時間処理して、有機構造化剤を除去した。
【0082】
1.6 触媒の最終形態の形成(「活性化」)
ステップ1.5後に得られた固体材料を、1M NH4Cl溶液と合わせた溶液中に導入し、この混合物を16時間還流した。
【0083】
このようにして、アンモニウム型のゼオライトを得た。
前記処理後、媒質中に存在する固体を濾別し、多量の蒸留水で洗浄した後、乾燥させ、最後に550℃で5時間焼成した。後の熱処理によってアンモニアを除去し、これによって酸性型のゼオライトを得た。
【0084】
このようにして、触媒C1(この触媒中のゼオライトはそのH−ZSM−5型である)を得た。
X線回折によって、得られた触媒C1がH−ZSM−5ゼオライトに特有の回折バンド、すなわちMFI結晶構造に特有のバンドを示すことが確認された。このピークの指標付けはJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)データベースに従って行った。これらのバンドはステップ1.4後に得られた固体でも認められたが、強度は比較的低く、これはステップ1.5によって担体上に被着されたゼオライトの量が効果的に増加したことが示される。
加えて、電子顕微鏡写真では、4μmより大きいサイズを有する実質的に六方晶であるゼオライトZSM−5の結晶でSiC担体の表面全体が均一に覆われていることが分かる。この均一な担体被覆は担体の初期形態には影響を及ぼさない。
【0085】
得られた触媒C1についての窒素吸着によって決定された比表面積は55m2/gであり、つまり押出成形物単独のものよりも11倍大きい表面積である。
【0086】
実施例2:
SiCフォーム上に担持されたZSM−5ゼオライトの調製(触媒C2)
本実施例では、実施例1のステップ1.2〜1.5の場合と同じ条件下で、前記熱水法によって前駆体ゲルからβ−SiC担体上にゼオライトを析出させることによって触媒C2を調製したが、実施例1において用いた押出成形物を19m2/gの比BET表面積を有し、かつ次の特徴を有するβ−SiC細胞状フォームに置き換えた:FR2860992に記載されている方法によって得られる、孔径1750μm、直径25mm、長さ4cmの細胞状フォーム。
【0087】
実施例1の押出成形物と同様に、本実施例2において用いるβ−SiCフォームを事前に空気中で900℃で5時間焼成して、β−SiCフォームの表面上にシリカ層を形成した。
【0088】
次いで、実施例1のステップ1.2の条件下で前駆体ゲルを調製し、このゲルに前処理したβ−SiCフォームを加えた後、その媒質を完成させた。その後、実施例1のステップ1.4の条件下で担体上にゼオライトを形成し、さらに、第2のゼオライト層を析出させ、続いて、これらの2つの層をそれぞれ実施例1のステップ1.5および1.6の条件下でその酸性型にした。
【0089】
これらの様々なステップ後に、触媒C2を得た。
【0090】
この場合においても、電子顕微鏡による解析により、サイズが4μm未満の実質的に六方晶であるゼオライトZSM−5の結晶でβ−SiC担体の表面全体が均一に覆われていることが分かる。添付の図4に示されるように、この均一な担体被覆は担体の初期形態には影響を及ぼさない。
【0091】
今回も、細胞状フォーム担体上でゼオライトを析出させることによって、高比表面積、すなわち120m2/g、つまりフォーム単独でのものよりも6倍大きい表面積を得ることができた。
【0092】
実施例3:
触媒C1およびC2を用いたジメチルエーテルの合成
実施例1および2において調製した触媒C1およびC2のそれぞれを用いて、メタノールのジメチルエーテルへの転換反応を触媒した。
【0093】
前記転換反応は、総ての場合において、大気圧下で400℃の温度で行った。
【0094】
メタノールは、HPLCポンプを用いて、流速0.5ml/分で、アルゴン流(Air Liquide社が販売しているArgon 4.5)に導入した。アルゴン流中でメタノールは気化され、触媒の入った反応器に誘導される。アルゴン流の流速は80cc/分である。
【0095】
用いる反応器は、4gの対象触媒が被着したフリットを備えた内径1インチ(25.4mm)の石英管からなる。この反応器は、400℃まで加熱したオーブン内に置かれる。
【0096】
温度は2つの熱電対を用いて制御し、一方の熱電対はオーブンの温度を調節するために反応器外部のオーブン内に置き、もう一方の熱電対は触媒床内部に置いた。加えて、反応生成物の縮合を回避するために、反応器下流の総てのラインを、電熱線を用いて加熱し、ラインを100℃に維持した。
【0097】
生成した生成物は、DB−1キャピラリーカラム(長さ:30m−内径:0.53mm)およびFID検出器(炎イオン化検出器)を装備したVarian社製CP 3800クロマトグラフを用いて、ガス状生成物の場合には気相クロマトグラフィーによって、液体生成物の場合には液相クロマトグラフィーによって分析した。データの収集は、温度プログラムを制御することができ、検出器から送られたシグナルを処理(ピークの積分)することができる、Varian社によって提供されたソフトウェアを用いて自動化して行った。
【0098】
比較のために、前記反応を2つの他の対照触媒、すなわち:
T1:実施例1のステップ1.4の条件下で調製した、β−SiC担体の事前添加を行わない、非担持ZSM−5ゼオライト、
T2:市販の触媒Zeolyst(CBV 8014)(Si/Al比40を特徴とする型MFIゼオライト)
を用いて同じ条件下で行った。
【0099】
添付の図1は、試験した4つの触媒に関する経時的なジメチルエーテルの収率の展開を示している。
本発明に従う触媒C1およびC2に関しては、収率は急速に安定し、17時間の反応が終わるまで実質的に一定のままである。
【0100】
触媒C1では、一度収率が安定したら、反応中はずっと50%を割っていない。
【0101】
触媒C2では、DMEの転換および収率は、安定化後、反応中はずっと80〜90%間で安定しているというさらに興味深い結果も得られている。触媒C1に認められる改善は少なくとも部分的には細胞状フォーム構造の反応熱放散能力の増加によって説明されるであろう。
【0102】
対照T1およびT2に関しては、逆に、早ければ反応の最初の数時間で大きな活性喪失が認められる。
【0103】
選択性に関して得られた結果は、触媒の失活による飽和炭化水素の形成が起こっていないことを示しており、このことにより本発明に従う触媒の著しい安定性、特に触媒C2の著しい安定性が確認され、そしてこのことが反応器に導入されたメタノールの84%の転換を可能にし、その95%がジメチルエーテルへと転換される。
【0104】
実施例4:
触媒C2を用いたジメチルエーテルの合成
実施例2において調製した触媒C2を用いて、実施例3のものと比較的類似した条件下で、すなわち大気圧下であるが今回は270℃の温度でメタノールのジメチルエーテルへの転換反応を触媒した。
【0105】
メタノールは、HPLCポンプを用いて、2種類の流速0.6ml/分および1.4ml/分を用いて、アルゴン流(Air Liquide社が販売しているArgon 4.5)に導入した。アルゴン流中でメタノールは気化され、触媒の入った反応器に誘導される。試験中に2種類のアルゴン流値をとった:80ml/分および160ml/分。
【0106】
用いる反応器は、4gの対象触媒が被着したフリットを備えた内径1インチ(25.4mm)の石英管からなる。この反応器は、270℃まで加熱したオーブン内に置かれる。
【0107】
温度は2つの熱電対を用いて制御し、一方の熱電対はオーブンの温度を調節するために反応器外部のオーブン内に置き、もう一方の熱電対は触媒床内部に置いた。加えて、反応生成物の縮合を回避するために、反応器下流の総てのラインを、電熱線を用いて加熱し、ラインを100℃に維持した。
【0108】
生成した生成物は、DB−1キャピラリーカラム(長さ:30m−内径:0.53mm)およびFID検出器(炎イオン化検出器)を装備したVarian社製CP 3800クロマトグラフを用いて、ガス状生成物の場合には気相クロマトグラフィーによって、液体生成物の場合には液相クロマトグラフィーによって分析した。データの収集は、温度プログラムを制御することができ、検出器から送られたシグナルを処理(ピークの積分)することができる、Varian社によって提供されたソフトウェアを用いて自動化して行った。
【0109】
添付の図2は、時間および反応条件の関数としてDMEの収率の展開を示している。
【0110】
メタノールの量の増加によって触媒の挙動は変わらず、DMEの収率はおよそ0.8で安定している。
【0111】
実施例5:
触媒C2を用いたジメチルエーテルの合成
実施例2において調製した触媒C2を用いて、実施例3のものと比較的類似した条件下で、すなわち大気圧下であるが今回は270℃の温度でメタノールのジメチルエーテルへの転換反応を触媒した。
【0112】
メタノールは、HPLCポンプを用いて、1種類の流速0.6ml/分を用いて、アルゴン流(Air Liquide社が販売しているArgon 4.5)に導入した。アルゴン流中でメタノールは気化され、触媒の入った反応器に誘導される。試験中に1種類のアルゴン流値をとった:80ml/分。
【0113】
用いる反応器は、4gの対象触媒が被着したフリットを備えた内径1インチ(25.4mm)の石英管からなる。この反応器は、270℃まで加熱したオーブン内に置かれる。
【0114】
温度は2つの熱電対を用いて制御し、一方の熱電対はオーブンの温度を調節するために反応器外部のオーブン内に置き、もう一方の熱電対は触媒床内部に置いた。加えて、反応生成物の縮合を回避するために、反応器下流の総てのラインを、電熱線を用いて加熱し、ラインを100℃に維持した。
【0115】
生成した生成物は、DB−1キャピラリーカラム(長さ:30m−内径:0.53mm)およびFID検出器(炎イオン化検出器)を装備したVarian社製CP 3800クロマトグラフを用いて、ガス状生成物の場合には気相クロマトグラフィーによって、液体生成物の場合には液相クロマトグラフィーによって分析した。データの収集は、温度プログラムを制御することができ、検出器から送られたシグナルを処理(ピークの積分)することができる、Varian社によって提供されたソフトウェアを用いて自動化して行った。
【0116】
触媒C2は、純メタノールと、比較用の、粗メタノール、すなわち混合物CH3OH/H2O=80/20容量%を用いて試験した。
【0117】
添付の図3は、経時的なジメチルエーテルの収率の展開を示している。
【0118】
純メタノールを用いた反応では、本合成物は最初に約0.8というより良好な収率を示す。粗メタノールを用いた反応では、本合成物についての転換はより低いが選択性はより良好であり、18時間後これらの2つの反応での収率は同じである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールの触媒的脱水によるジメチルエーテルの調製のための方法であって、
触媒として用いるものはシリコンカーバイド(SiC)担体上に固定化されたゼオライトである、方法。
【請求項2】
前記シリコンカーバイド担体が2m2/gより大きい、より好ましくは、5m2/gより大きい比表面積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒のゼオライトがMFI型ゼオライトである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒のゼオライトが、モル比Si/Alが20〜100であるアルミノシリケートに基づいている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒のゼオライトがZSM−5ゼオライトである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒のSiC担体が、β−SiCと呼ばれるβ構造のシリコンカーバイドを、SiC担体の総質量に基づいて少なくとも80質量%の量で含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記触媒のSiC担体が、α−SiCと呼ばれるα構造のケイ素の混合物を、β−SiCと呼ばれるβ構造のシリコンカーバイドと混合して含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記質量比α−SiC/β−SiCが1:99〜50:50である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記触媒のシリコンカーバイド担体が、1mmより大きい寸法を有する、粒型、押出成形型、ロッド型、モノリス型、チューブ型、三葉型またはリング型の巨視的物体の形態である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記触媒のシリコンカーバイド担体が硬質細胞状フォームである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記硬質細胞状フォームが300〜5000μmの孔径を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記担体が、β−SiCから実質的になる硬質細胞状フォームである、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
細胞状フォーム構造を有する前記シリコンカーバイド担体が5〜50m2/gの比表面積を有する、請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記SiC担体上に固定化されたゼオライトが、1〜50μm、好ましくは3〜20μmの平均厚さを有する層の形態である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
メタノールのジメチルエーテルへの前記触媒的脱水反応が200〜500℃、好ましくは400℃未満の温度で行われる、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
メタノールのジメチルエーテルへの前記触媒的脱水反応が220〜350℃の温度で行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
メタノールのジメチルエーテルへの前記触媒的脱水反応が、1〜50バールの範囲の圧力下で、例えば2〜40バール圧力で行われる、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
メタノールのジメチルエーテルへの前記触媒的脱水反応が大気圧下で行われる、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
メタノールの触媒的脱水反応が1時間当たりの空間速度1〜20時間-1NTPを用いて行われる、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記脱水反応において用いるメタノールが不純物を実質的に含まない、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記脱水反応において、メタノールを他の化合物および/または不純物と混合して含んでなる媒質、例えば粗メタノールを用いる、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−511680(P2010−511680A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539783(P2009−539783)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【国際出願番号】PCT/FR2007/002017
【国際公開番号】WO2008/090268
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【出願人】(504193310)ユニベルシテ ルイ パストゥール (2)
【Fターム(参考)】