説明

シリコンマイクロ粒子及びその合成方法

【課題】粒径がマイクロメートルサイズであり長期間の蛍光特性を有するシリコン粒子、およびこれを調製する方法を提供する。
【解決手段】ハロゲン化ケイ素を原料として高温で亜鉛蒸気と気相反応させることで、数十マイクロメートル程度の多結晶シリコンマイクロ粒子が得られ、得られた粒子をエッチングすることで、粒子の内側から放射状に伸びた多数の突起を有するイガグリ状又は花弁状の形状とし、安定な蛍光特性と超撥水性の発現を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて安定な蛍光特性と超撥水性を示す、イガグリ形状又は花弁形状を有する多結晶シリコンマイクロ粒子に関わる。また、本発明は、当該シリコンマイクロ粒子を調製する方法、当該方法に用いる多結晶シリコンマイクロ粒子及びその製造方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
従来、高効率で発光する蛍光材料として、有機色素材料が使われているが、消光するのが早く長期間使用するには難点があった。また、色素の代替物質として注目される半導体ナノ粒子は、粒子サイズが約5nm以下にならなければ蛍光特性を示さず、材料としての粒子サイズを制御することは困難である。また、小さいが故に粒子の観察が難しく、電子顕微鏡など高度な観察装置が必要であること、並びにマイクロメーター以下の微小物体においては粒子表面の影響が支配的となるため粒子の凝集が容易に起こり蛍光特性に悪影響を及ぼしかねないこと、など取扱いの上で課題がある。従って、有機色素材料の代替の一つとして、ナノ粒子よりも大きなサイズの材料で、長期間にわたって安定した蛍光特性を示す材料の開発が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
長時間にわたる蛍光発光を行うには、光の照射や空気・水への暴露によって蛍光材料そのものの構造が変化しないことが求められる。また、取り扱いを容易にするためにはマイクロメートル以上の大きさである必要がある。しかるところ、本発明は、粒径がマイクロメートル以上であり長期間の蛍光特性を有するシリコン粒子、およびこれを調製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、かかる課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ハロゲン化ケイ素を原料として高温で亜鉛蒸気と気相反応させることで、数十マイクロメートル程度の多結晶シリコンマイクロ粒子が得られ、得られた粒子をエッチングすることで、従来の知見では全く予想できなかったエッチングによる劇的な粒子表面形状の変化が起こるのみならず、蛍光特性と超撥水性を発現することを見出し、本発明を完成した。
【0005】
即ち、本発明は、
(1)粒径がマイクロメートルサイズであってイガグリ状又は花弁状の形状を有するシリコンマイクロ粒子、
(2)粒子の内側から放射状に伸びた多数の突起を有する(1)に記載のシリコンマイクロ粒子、
(3)突起がサブミクロンの大きさである(2)に記載のシリコンマイクロ粒子、
(4)多結晶から構成される(1)〜(3)のいずれか1に記載のシリコンマイクロ粒子、
(5)ハロゲン化ケイ素を原料として亜鉛還元反応を用いることにより、マイクロメートルサイズのシリコン粒子を製造する方法、
(6)ハロゲン化ケイ素ガス及び亜鉛蒸気を別々に反応器に導入し、反応器内でハロゲン化ケイ素ガスを高温で亜鉛蒸気と気相反応させる、(5)に記載の方法、
(7)ハロゲン化ケイ素ガス及び亜鉛蒸気をそれぞれ搬送ガスと共に反応器に導入する(6)に記載の方法、
(8)反応器内の温度を800〜1100℃に設定して気相反応を行う、(6)又は(7)に記載の方法、
(9)反応器内のハロゲン化ケイ素ガスの分圧が0.01〜0.5atmである(6)〜(8)のいずれか1に記載の方法、
(10)反応器内の亜鉛蒸気の分圧が0.02〜0.6atmである(6)〜(9)のいずれか1に記載の方法、
(11)(5)〜(10)のいずれか1に記載の方法により得られるシリコンマイクロ粒子、
(12)(11)に記載のシリコンマイクロ粒子をフッ化水素と硝酸の混酸でエッチングする方法、及び
(13)(12)に記載の方法で得られるイガグリ状又は花弁状の形状を有するシリコンマイクロ粒子、
に関わる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のイガグリ状又は花弁状の形状を有するシリコンマイクロ粒子は、蛍光、超撥水性ともに長期間にわたる安定性を示し、空気中で半年以上保存しても蛍光特性と超撥水性が維持され、かつ、窒素雰囲気下、250℃で7時間保持した後も超撥水性に大きな変化が見られないことから熱に対しても優れた耐性がある。また、色素分子に見られる光照射下での著しい蛍光消光現象は観察されず、長期間安定に蛍光を示す点で、長期間に亘り消光しない蛍光材料として上記の課題解決に寄与できる。
【0007】
更に、イガグリ状又は花弁状の形状を有するシリコンマイクロ粒子自体が超撥水性を有するため、水との接触面積が極めて小さくすむ。水との接触は、通常、材料表面の汚れや酸化など蛍光特性に悪影響を及ぼすが、超撥水性のためこれらの悪影響は極めて少なくすむ。
また、マイクロ粒子自体の大きさは、従来の粉体工学が扱う粒子サイズであることから、取扱が非常に容易である。このように本発明の蛍光シリコンマイクロ粒子は、熱や水など周辺環境に対する優れた耐性を示すため、蛍光色素分子での課題であった、長時間にわたる蛍光特性を示す材料として使用可能であり、また、半導体ナノ粒子の課題であった容易な取り扱いを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】シリコンマイクロ粒子の製造装置の概略図
【図2】シリコンマイクロ粒子のエッチング前(a,b)及びエッチング後(c、d)のSEM像
【図3】シリコンマイクロ粒子のエッチング前及びエッチング後のX線回折測定結果
【図4】実施例1で得られたシリコンマイクロ粒子の断面のTEM像
【図5】イガグリ状シリコンマイクロ粒子の突起のTEM像及び電子回折像
【図6−1】イガグリ状シリコンマイクロ粒子のN吸着−脱離等温線
【図6−2】イガグリ状シリコンマイクロ粒子のBJH細孔径分布
【図7】エッチング時間を変えて調製したシリコンマイクロ粒子のSEM像
【図8】イガグリ状シリコンマイクロ粒子の光学特性
【図9】イガグリ状シリコンマイクロ粒子等の水滴接触角及び粒子膜の断面SEM像
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)イガグリ状又は花弁状の形状を有するシリコンマイクロ粒子
本発明の主題であるシリコンマイクロ粒子は、粒子の大きさがマイクロメートルサイズであってイガグリ状又は花弁状の形状を有するシリコン粒子であり(以下、「イガグリ状又は花弁状シリコンマイクロ粒子」ともいう。)、これ自体新規であり、極めて特異的な特性を示すことから有用なものである。本発明のイガグリ状又は花弁状シリコンマイクロ粒子の非限定的例については実施例において詳しく説明するが、その一例についての走査型電子顕微鏡(SEM)像が図2の(c)、(d)に示されている。本発明のイガグリ状又は花弁状シリコンマイクロ粒子は、粒子の内側から放射状に伸びた多数の突起を有している。この突起は、典型的には、サブミクロン程度の長さであり、イガ状(棘状)又は花弁状の形状を有する。本発明のイガグリ状又は花弁状シリコンマイクロ粒子の粒径(直径)は、通常1〜50μm程度であるが、これに限定されるものではない。
【0010】
本発明のイガグリ状又は花弁状シリコンマイクロ粒子は典型的には多結晶で構成されている。また、本発明のイガグリ状又は花弁状シリコンマイクロ粒子の突起表面に、複数の大きさの細孔が構成されていてもよい。
【0011】
本発明のイガグリ状又は花弁状シリコンマイクロ粒子は、蛍光特性と超撥水性を発現する。また、本発明のイガグリ状又は花弁状シリコンマイクロ粒子は、好適には、空気中で半年以上等の時間保存した後においても、蛍光特性と超撥水性を示すという特性を有する。
【0012】
(2)イガグリ状又は花弁状シリコンマイクロ粒子の製造方法
本発明のイガグリ状又は花弁状シリコンマイクロ粒子の代表的な製造方法を以下に説明するがこれに限定されるものではない。
【0013】
本発明のイガグリ状又は花弁状シリコンマイクロ粒子は、ハロゲン化ケイ素を亜鉛蒸気により還元して得たシリコンマイクロ粒子、好ましくは多結晶シリコンマイクロ粒子をエッチングすることにより調製することができる。
【0014】
(2−1)シリコンマイクロ粒子の調製方法
本発明者は、ハロゲン化ケイ素を原料とした亜鉛還元反応を用いることで、数十マイクロ程度の多結晶シリコンマイクロ粒子を得て、これをエッチングすることにより、上記したイガグリ状又は花弁状シリコンマイクロ粒子を効率的に得ることができることを見出した。かかる多結晶シリコンマイクロ粒子の調製方法及びこの方法により得られる多結晶シリコンマイクロ粒子自体も本発明の範囲内である。
【0015】
本発明の方法においては、亜鉛蒸気とハロゲン化ケイ素ガスを別々のラインにより反応装置に導入して、反応装置内においてハロゲン化ケイ素を亜鉛により還元してシリコンマイクロ粒子を生成させる。
【0016】
本発明の方法において使用する反応装置としては、電気炉内に反応器を設置したものが一般に使用され、高純度シリコンを得る目的から、反応器の内側に金属を使用しないものが好ましい。特に、本発明では、反応装置として、電気炉内に石英反応器を設置したものを好適に用いることができる。また、反応器の内側表面が触媒作用を示さなければ、石英以外の材質の反応器も使用することができる。本発明の反応装置の外部には、未反応の亜鉛蒸気と、反応により発生するハロゲン化亜鉛をトラップするための設備を設けてこれらを反応系外に排気するのが好ましい。
【0017】
本発明の方法においては、ハロゲン化ケイ素として、例えば、三塩化水素化ケイ素(SiHCl)、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四ヨウ化ケイ素を使用することができる。
【0018】
本発明の方法において、ハロゲン化ケイ素として三塩化水素化ケイ素を使用する場合は、当該化合物は常温で気体であるため、搬送ガスと共にまたは単独で反応装置に導入することができる。また、本発明の方法において、ハロゲン化ケイ素として四塩化ケイ素、四臭化ケイ素を使用する場合は、これら化合物は常温で液体であるため、液体を予めガス化させて搬送ガスと共に反応装置に導入してもよいし、液体に搬送ガスを通してバブリングして、搬送ガスと共に反応装置に導入してもよいが、後者の方が簡便に行うことができる。更に、本発明の方法において、ケイ素化合物として四ヨウ化ケイ素を使用する場合は、常温で固体であるため、加熱して予めガス化させて搬送ガスと共に反応装置に導入するか、加熱して液体にして搬送ガスを通してバブリングして、搬送ガスと共に反応装置に導入することができる。本発明の方法において使用することができる搬送ガスは、アルゴンガスがある。
【0019】
本発明の方法において亜鉛蒸気を発生させるには、例えば、石英加熱器中で亜鉛粉末を800〜907℃に加熱して液化させ、液体亜鉛の表面に形成される蒸気を、搬送ガスを用いて反応装置に導入する。
【0020】
本発明の方法においては、反応器内の温度は、一般に800〜1100℃、好ましくは870〜1050℃、更に好ましくは900〜1020℃に設定される。反応器内の温度は800℃より低いと、著しく反応速度が低下するため不適切であり、1100℃より高いと反応平衡収率が下がり不適切である。
【0021】
本発明の方法においては、反応器内のハロゲン化ケイ素ガスの分圧は、一般に 0.01〜0.5atmであり、好ましくは0.06〜0.1atmである。また、反応器内の亜鉛蒸気の分圧は、一般に0.02〜0.6atmであり、好ましくは0.1〜0.4atmである。
また、本発明の方法において、ハロゲン化ケイ素ガス、亜鉛蒸気及びアルゴンガスの総流量は、一般に250〜2300sccm、好ましくは500〜1500sccmである。この範囲より総流量が小さいと生産性が下がるので好ましくない。
【0022】
本発明の方法においては、反応器内に石英板を設置して、その板状に生成したシリコン粒子を回収する。反応の条件により多少の変化はあるが、ガスの出口付近にはシリコンナノワイヤーが形成される傾向にあり、シリコンマイクロ粒子は石英板の中央付近に形成される傾向がある。
【0023】
本発明の方法により得られるシリコンマイクロ粒子は、粒径が通常1〜50μm程度であるが、これに限定されるものではない。また、本発明の方法により得られるシリコンマイクロ粒子は、好適には多結晶粒子である。
【0024】
また、本発明の方法により得られるシリコンマイクロ粒子は、その断面において放射状の粒子境界を有していてもよい。
【0025】
(2−2)シリコンマイクロ粒子のエッチング方法
本発明の方法おいては、(2−1)で得られるシリコンマイクロ粒子を塩酸等の酸を用いて5〜20分程度超音波で洗浄する。添加する量としては、得られた粒子が全て亜鉛で構成されていると仮定した場合における化学量論量の3〜10倍の酸を加える。酸で洗浄後、シリコンマイクロ粒子をPTFEフィルター等の上で回収して、脱イオン水等で数回洗浄するのが好ましい。
【0026】
本発明の方法において、エッチングは、フッ化水素と硝酸の混酸や、フッ化水素、硝酸及び酢酸の混酸などを用いて行うことができる。フッ化水素と硝酸の混酸におけるフッ化水素と硝酸のモル比としては、40:3〜80:3であるのが好ましい。エッチングは、本発明のシリコンマイクロ粒子をエタノール等のアルコール類やトルエン等の有機溶媒に分散させ、この分散溶液にフッ化水素等を直接添加することにより行うことができる。添加するフッ化水素と硝酸の混酸等の量として、シリコンマイクロ粒子(存在する粉末全てがSiからなると仮定した場合)に対する化学量論量の混酸の少なくとも約600倍、好ましくは少なくとも約300倍添加する。エッチングは、一般に1〜60分、好ましくは5〜30分行う。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
[測定方法]
(1)走査型電子顕微鏡(SEM):6kVの加速電圧を用いる日立S−900を用いて粒子を直接観察した。
透過型電子顕微鏡(TEM):200kVの加速電圧を用いるJEOL2010−HCを用いて粒子を直接観察した。
粒子の粒径分布ヒストグラム:200以上の粒子の粒径を観察することによりSEM像から得た。
粒子のX線回折観測:Cu Kα線を用いるリガクATX−Gを用いて粒子の粉末X線回折パターンを得た。
焼結した試料の窒素吸着−脱離等温線:Autosorb−1(Quantachrome Instruments)を用いて77Kで測定した。BET表面積は、0.05〜0.25の範囲の相対圧力(P/P)における吸着分岐から計算した。BET測定の試料は、試料の質量を決定する前に石英セルに入れ、250℃で7時間脱気した。
細孔径分布:BJH法(シリカ上77KでN、円筒状細孔)を用いて評価した。
エッチングした粒子のPLスペクトル:携帯式UV照明器と多重チャンネルの分光器(浜松ホトニクスPMA−11)を用いて記録した。高エネルギーUV光を取り除くためにカットフィルターを用いた。
(2)水滴接触角
ガラススライドに粘着させたカーボンテープ上に粒子を満遍なく広げてテープの最表面が粒子で完全に覆われるように付着させる。比較のため、フッ酸でエッチングしたp−型シリコンウェハーも準備した。水の水滴接触角を測定する前に、エッチングした粒子とフッ酸で処理したウェハーを空気に3時間曝し自然酸化させる。サンプル表面に4μLの脱イオン水を滴下し、CCDカメラを用いて像を記録した。
【0029】
[実施例1]
シリコンマイクロ粒子の製造
シリコンマイクロ粒子の製造装置の概略図を図1に示す。反応装置系として電気炉内に設置した水平石英反応器を用いた。反応器の長さと直径は、夫々、500mm及び50mmであった。アルゴンガス(研究グレード99.995%)を搬送ガスに用いて、2本の異なるラインのアルゴンガスが、夫々、四塩化ケイ素(99.9999%;(株)トリケミカル研究所)と亜鉛蒸気を反応器に搬送した。亜鉛蒸気を調製するため、亜鉛(99.995%;三井金属)を石英加熱器中で885℃まで加熱して液化させ、液体亜鉛の表面に形成される蒸気を、搬送ガスを用いて反応装置系に導入する。全流速は、四塩化ケイ素、亜鉛及びアルゴンの流量の合計であり、1106sccm(標準立法センチメートル/分)に設定した。石英板を反応器中に設置し、約400mg/時の生成速度でシリコン粒子を回収した。反応器に導入した四塩化ケイ素ガスの濃度はガスクロマトグラフィー(島津GC−8A)で測定した。反応器に導入した亜鉛蒸気の量は、反応前後での亜鉛固体の質量変化を勘案して測定した。導入したガスの比は、四塩化ケイ素:亜鉛:アルゴン=1:5:9であった。反応温度は920℃に設定した。全反応圧力は1atmであった。
【0030】
[実施例2]
シリコンマイクロ粒子のエッチング処理
実施例1で得られたシリコンマイクロ粒子20mgを5mLの塩酸溶液(1M)中に超音波をかけて15分間浸した。添加した塩酸の量は、存在する粒子が全て亜鉛で構成されていると仮定した場合における化学量論量の少なくとも6倍として算出した。この工程により試料表面上の亜鉛残渣を完全に取り除くことができる。次に、真空濾過によりPTFEフィルター(100nmの細孔径)上にシリコン粒子を回収し、脱イオン水で3回洗浄して残渣の酸を除去した。エッチングを行うため、洗浄した粒子をエタノール中に再懸濁させた。フッ酸と硝酸溶液を混合してエッチング液を調製し、そのモル比はフッ酸/硝酸=80/3であった。エッチング時間は5〜30分であった。エッチングした粒子をPTFEフィルター(100nmの細孔径)に移して、それから脱イオン水で少なくとも4回洗浄した。特性評価を行う前に、シリコン粒子を真空チャンバー中室温で乾燥させた。
【0031】
[シリコンマイクロ粒子の特性評価]
(1)シリコンマイクロ粒子の表面観察
実施例1で得られたシリコンマイクロ粒子のSEM像を図2a、bに示す。これらの粒子は多面体の形状をしており、図2bで示されるように粒子表面が小平面から構成されていることから多結晶であることが示される。また、実施例2で得られたエッチング後のシリコンマイクロ粒子(エッチング時間:10分)のSEM像を図2c、dに示す。この図から、粒子の表面モルフォジーがエッチングにより劇的に変化して「イガグリ状」になっていることが示される。エッチング後に粒子のモルフォロジーが顕著に変化したにもかかわらず、平均粒径がほとんど変化していないことが分かる。以下においては、実施例2で得られたシリコンマイクロ粒子を「イガグリ状シリコンマイクロ粒子」ともいう。
【0032】
エッチング前後のX線回折パターンを図3に示す。エッチング前後で回折パターンに大きな変化は見られない。回折パターンピークはシリコン結晶の粉末X線回折パターンに一致している。
【0033】
また、実施例1で得られたシリコンマイクロ粒子の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)を図4aに、その拡大図を図4bに示す。図4b中の白点線は結晶境界を表している。
【0034】
(2)イガグリ状シリコンマイクロ粒子の構造観察
次に、上記SEM観察を行った実施例2で得られたイガグリ状シリコンマイクロ粒子の詳細な構造をTEMにより観察した結果を図5に示す。図5a、bは、イガグリ状シリコンマイクロ粒子の突起の暗視野及び明視野TEM像を示す。図5a中、明るい部分は突起中の結晶を示す。また、図5bにおいて点線で囲まれた部分の電子回折像を図5cに示す。鮮やかな回折スポットは突起が単結晶であり、成長方向が<110>であることを示している。また、突起の先端部の高解像度の像を図5dに示す。この図から、結晶表面上に細孔があることが示され、ナノメートルサイズの細孔が化学エッチングの間に形成されていると考えられる。
【0035】
更に、Brunauer−Emmett−Teller(BET)N吸着−脱離等温線を用いて実施例2で得られたイガグリ状シリコンマイクロ粒子(エッチング時間:10分)の表面特性を調べた。測定した窒素吸着−脱離等温線を図6−1に示す。エッチングした試料の吸着曲線において、P/P=0.3、0.6及び0.9で急激な増加が見られ、このことから、異なる大きさの3種類の細孔が形成されていることが示される。また、Barrett−Joyner−Halenda(BJH)法を用いて、イガグリ状シリコンマイクロ粒子の細孔径分布を計算し、その結果を図6−2に示す。図6−2から、エッチングの間に直径が3、5.5及び20nmの3種類の大きさの細孔が粒子中に形成されていることが示される。
【0036】
(3)エッチング時間を変えて調製したシリコンマイクロ粒子
エッチング時間を変えて調製したシリコンマイクロ粒子のSEM像を取った。図7aは、エッチング前のシリコンマイクロ粒子のSEM像であり、図7b及び図7cは、夫々、5分間及び25分間エッチングした後のシリコンマイクロ粒子のSEM像である。最初に、エッチングは粒子の深さ方向(中心方向)に進み狭い溝が形成され、イガグリ状シリコンマイクロ粒子が得られる(図7b)。更に、エッチングによりくぼみが深く広くなり、大きなくぼみが形成され、花弁状シリコンマイクロ粒子が得られる(図7c)。このように、シリコンマイクロ粒子のエッチングは、粒子の中に向かって優先的に起こることが確認された。
【0037】
(4)イガグリ状シリコンマイクロ粒子の光学特性
エッチングしたシリコンマイクロ粒子にUV照射してフォトルミネッセンス(PL)を観察した。エッチングしている間の周囲光下でのシリコンマイクロ粒子のデジタル写真を図8aに示すが、粒子は灰色(シリコン色)である。エッチングを数分間した後、シリコンマイクロ粒子はUV光下で黄色PLを示した(図8b)。この黄色PLは安定ではなく、エッチングした粒子を濾過するとPL色は黄色から赤に変化した。PTFE上で濾過して回収したエッチングしたシリコンマイクロ粒子を水で数回洗浄し、その後、回収した粒子について可視PLとそのスペクトルを測定した。その結果を図8c、dに示す。302nmで励起した場合は700nmにPL最大値があり、365nmで励起した場合にはピークは若干赤側にシフトした。
【0038】
(5)イガグリ状シリコンマイクロ粒子の超撥水性
実施例1で得られたシリコンマイクロ粒子、フッ酸で処理したシリコンウェハー、実施例2で得られたイガグリ状シリコンマイクロ粒子(エッチング時間:12分)の試料上における水滴接触角測定の電荷結合素子(CCD)イメージを図9に示す。ここで、実施例1で得られたシリコンマイクロ粒子及び実施例2で得られたイガグリ状シリコンマイクロ粒子とも、水滴接触角を測定する前に、酸化物層を形成させるため3時間空気に曝した。実施例1のシリコンマイクロ粒子及びフッ酸でエッチングしたp−型シリコンウェハー上での水滴接触角(夫々、図9a、図9b)はほぼ同じであったが、実施例2のイガグリ状シリコンマイクロ粒子については非常に高い水滴接触角(158°)が観察された(図9c)。また、実施例2のイガグリ状シリコンマイクロ粒子の上では水滴が飛び跳ねることも観察された。
水滴接触角の測定で使用した試料フィルム(カーボンテープ上に粒子を満遍なく広げた試料フィルム)の断面のSEM像を図9d及び図9eに示す。両方のフィルムは、この長さスケールでほぼ同じ粗さを有していた。しかしながら、図9f及び図9g(夫々は図9d及び図9eの拡大した図)に示すように、各々の粒子の表面粗さは異なることが分かる。
また、実施例2のイガグリ状シリコンマイクロ粒子は、6月間空気中で保存した後に水滴接触角を測定しても、図9cで示した値とほぼ同じ値を示した。このことから、試料が十分に酸化されて親水性の酸化膜が形成された場合であっても、超撥水性を維持することが示され、これにより、サブマイクロメートルのオーダーの突起の形成が超撥水性の発現に大きく寄与していると考えられる。










【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径がマイクロメートルサイズであってイガグリ状又は花弁状の形状を有するシリコンマイクロ粒子。
【請求項2】
粒子の内側から放射状に伸びた多数の突起を有する請求項1に記載のシリコンマイクロ粒子。
【請求項3】
突起がサブミクロンの大きさである請求項2に記載のシリコンマイクロ粒子。
【請求項4】
多結晶から構成される請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコンマイクロ粒子。
【請求項5】
ハロゲン化ケイ素を原料として亜鉛還元反応を用いることにより、マイクロメートルサイズのシリコン粒子を製造する方法。
【請求項6】
ハロゲン化ケイ素ガス及び亜鉛蒸気を別々に反応器に導入し、反応器内でハロゲン化ケイ素ガスを高温で亜鉛蒸気と気相反応させる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ハロゲン化ケイ素ガス及び亜鉛蒸気をそれぞれ搬送ガスと共に反応器に導入する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
反応器内の温度を800〜1100℃に設定して気相反応を行う、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
反応器内のハロゲン化ケイ素ガスの分圧が0.01〜0.5atmである請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
反応器内の亜鉛蒸気の分圧が0.02〜0.6atmである請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項5〜10のいずれか1項に記載の方法により得られるシリコンマイクロ粒子。
【請求項12】
請求項11に記載のシリコンマイクロ粒子をフッ化水素と硝酸の混酸でエッチングする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法で得られるイガグリ状又は花弁状の形状を有するシリコンマイクロ粒子。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−116729(P2012−116729A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270076(P2010−270076)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)発行者名:American Chemical Society 刊行物名:Langmuir 2010 巻数:26 号数:16 発行年月日:2010年7月20日 (2)発行者名:社団法人化学工学会(SCEJ) 刊行物名:化学工学会第42回秋季大会 講演要旨集(CD−ROM) 発行年月日:2010年8月6日
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】