説明

シリコン半導体デバイス基板と製造方法

【課題】デバイス後工程で薄型化され、且つ、裏面研削あるいは研磨される半導体デバイス用として好適なシリコン基板および製造方法を提供する。
【解決手段】 デバイス作製されたシリコン基板に対し、デバイス後工程で薄型化させたシリコン基板の裏面側を非溶融条件で加熱させることにより裏面側の残留応力を低減させチップ強度の低下を抑制できるため歩留が向上でき、同時にデバイス活性層側への重金属の拡散を防止できるためデバイス特性を維持させることが可能なシリコン基板および製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコン基板に関し、特にマルチチップパッケージ(MCP)やシステムインパッケージ(SiP)などに搭載される半導体デバイス用として好適な薄型化されたシリコン基板および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最終チップ厚みは年々薄型化しており、特にMCP搭載されるチップは50μm以下に薄型化されることが多く、製品によっては25μm以下まで薄型化され、将来的には10μm以下とも予測されている。チップの抗折強度に関しては、チップ厚の二乗に反比例するために薄型化の進展はワレやカケ問題を顕在化させることになる。更に裏面研削でのスクラッチ、クラックや非晶質層は裏面近傍に非常に大きな残留応力を生じさせるために薄型化されたシリコン基板の反りを増大させるばかりでなくワレやカケを助長することになる。従って、研削痕を除去させるために研磨工程を新たに追加して残留応力を低減(ストレスリリーフ)させる方法が採用されるようになった。
【0003】
上記シリコン基板裏面の研削により生じたスクラッチ、クラック、非晶質などを含む研削痕は強力なゲッタリング作用していたが、ストレスリリーフによる研削痕の除去はゲッタリング源を失う事になり、更に薄型化されたシリコン基板はイントリンシック・ゲッタリング(IG)層の厚みも薄いことからゲッタリング効果が期待できなくなる。すなわち、チップ抗折強度とゲッタリング効率はトレードオフの関係になっている。
【0004】
従って、薄型半導体デバイスにおいては、裏面研削の後に研削痕を完全に除去しないような研磨を施して僅かにスクラッチやクラックなどを残す方法や完全研磨後にサイズの小さな砥石にて新たに弱い研削痕を付与させる方法が取られている。しかし、いずれの手法を適用してもゲッタリング効果は弱く、物理的な加工ダメージが裏面に残留しているためチップのワレやカケ問題を解決するには至っていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、デバイス後工程で薄型化されたシリコン基板に対して裏面研削で生じた残留応力を大幅に低下させる事を可能としワレやカケ防止させると共にゲッタリング効果も付与させるシリコン基板および製造方法を提供することにある。
【0006】
発明者は、特願2011−98729および特願2011−129602でシリコン基板の裏面研削工程または研磨工程後にレーザー光を照射させシリコン裏面および近傍を溶融させた後に再結晶化させることで残留応力を飛躍的に低下させ、更にシリコン裏面の溶融中に重金属を捕獲できる物質を故意にドープさせることで強力なゲッタリング効果を発揮できることを見出した。しかし、ゲッタリング物質をレーザー溶融時に導入させる設備を必要とすること、ゲッタリングに必要な高濃度ドープ剤を安定的にシリコン溶融液中に導入させるプロセス管理が難しいこと、シリコンを溶融させるために高出力のレーザー装置が必要であり装置コストアップになること、及び高出力のレーザー光照射によるデバイス作製面側の温度上昇がデバイス特性の熱劣化を引き起こすなどの課題が見つかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、デバイス作製後に裏面研削もしくは裏面研磨により薄型化されたシリコン基板に対して前記加工起因による非晶質やキズなどを含むシリコン基板裏面全面、チップ化されるシリコン基板裏面全面あるいは個別チップ化されたシリコン基板裏面全面を非溶融加熱することで該裏面全面を再結晶化させたシリコン基板および製造方法である。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、薄型化のために裏面研削もしくは裏面研磨時に導入された非晶質やキズなどを非溶融加熱させることにより非晶質領域を再結晶化させ、物理的加工ダメージも低減できるために残留応力が低減できる。同時に再結晶化領域は双晶や多結晶シリコンに変化するためゲッタリング効果も備えることになる。また、非溶融法による加熱は、溶融法に比較するとレーザー光出力を小さくすることが可能なためデバイス作製面側の温度上昇を抑制できる。更に非晶質は単結晶シリコンに比較して光吸収係数が非常に高いため低エネルギーのレーザー光で容易に再結晶化できる事も有利に作用する。
【0009】
従い、重金属をゲッタリングするために必要な高濃度のドープ剤を安定的に導入させる装置を必要とせずプロセスマージンが広がる。高出力レーザー装置も不必要となるために先行技術と比較してデバイス品質が安定し装置コストも抑制できる。
【0010】
本発明に適用するレーザーに関しては、100nmから2μmの波長範囲で単一波長に限定するものでなく複数のレーザー装置を用いた多波長光を同時に使用することも出来る。レーザー光照射は、連続照射レーザーやパルス照射レーザーもしくは双方適用しても良い。また、複数のファイバーを用いたレーザー光を同時にシリコン裏面側に照射して生産性を向上させる事も可能である。
【0011】
レーザー光照射時のデバイス作製面側の温度上昇を抑制するためには、レーザー光パルス幅を1ショットに対して数百ナノ秒以下からフェムト秒オーダーでの短時間にて高い繰返し照射、好ましくは100KHz以上のレーザー照射が好ましい。短波長側のレーザー光を使用する場合には、シリコンに対する吸収係数が大きいため最表面での再結晶化の効率が高くなりレーザー光の侵入深さも短くできるため紫外光から可視光の波長を用いパルス幅も短くすることが好ましい。更に好ましい波長範囲は100nmから600nmの波長でパルス幅が数十ナノ秒からフェムト秒である。
【0012】
シリコンに対する吸収がない長波長光での非溶融加熱の際には、レーザー光を集光して裏面側を照射する時に焦点がシリコン基板内部にならないように裏面上部に集光させるようにすることが好ましい。シリコン基板内部に侵入したレーザー光は、裏面側でエネルギー密度が高いため効率良く加熱できデバイス作製面側ではレーザー光が広がりを持つため温度上昇が抑制される。
【0013】
請求項2に記載の発明は、デバイス作製面側に保護テープや保護板などが貼り付けられた状態で裏面研削もしくは裏面研磨されたシリコン基板、または研削研磨後のシリコン基板裏面側にダイシングテープやダイ・アタッチ・フイルム(DAF)が貼り付けられた状態のシリコン基板を非溶融加熱して再結晶化させる請求項1記載のシリコン基板および製造方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、デバイス作製面側に保護テープや保護板などが貼り付けられた状態で薄型化されたシリコン基板の裏面加熱を行うため、以降のプロセスは従来通りに進める事が可能である。あるいは裏面研削研磨により薄型化されたシリコン基板の裏面側にダイシングテープやDAFが貼り付けられた状態で該シリコン基板の裏面加熱を行うため、本手法も以降のプロセスは従来通りに進める事が可能である。すなわち、量産ラインで複雑な追加工程がないため大幅な製造コスト上昇を招かない。
【0015】
本発明の一例を説明すると、先ずデバイス作製面にバックグラインド用保護テープなどが貼り付けられ、場合により先ダイシングと呼ばれる加工が先に施された状態で、該シリコン基板の裏面研削または研磨が施され最終的に裏面側の洗浄を施す。次に本発明の製造方法にて該シリコン基板裏面側からレーザー光を照射させてシリコン裏面を非溶融加熱して極表層領域を再結晶化させるものである。本手法であれば溶融加熱に比較してレーザー光のエネルギー密度を低減できるためデバイス作製面側の温度を抑制が簡単となる。
【0016】
または、バックグラインドテープが貼り付けられた状態の薄厚化シリコン基板に対してUV照射など行い該テープを剥離した後にレーザー光照射を行っても良い。この場合、バックグラインドテープがないためデバイス作製面側の温度上昇による該テープの熱劣化を考慮しなくてよいためレーザー光照射のプロセスマージンが更に広がる。
【0017】
更に、薄型化されたシリコン基板裏面側にダイシングテープなどが貼り付けられた状態で本手法を採用することもできる。この場合、該テープを透過させるレーザー光を選択し裏面加熱時に熱劣化を起こさないようにレーザー光照射する事が重要である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるシリコン基板及びその製造方法によれば、最終チップ厚みが100μm以下となるデバイス作製されたシリコン基板に対して裏面残留応力を大幅に低減できるので反りの低減は勿論、チップのワレやカケの抑制ができる。更にシリコン裏面表層部にはゲッタリング源を有しているためにデバイス後工程での重金属汚染に対するデバイス特性の劣化も抑制できるため大幅に歩留を改善できる。
【実施例】
【0019】
[比較例1]
直径200mm、厚み675μm、初期酸素濃度が1.0×1018atoms/cm、比抵抗が10Ω・cmから20Ω・cmに調整されたボロンドープのCZ基板を準備した。
全てのサンプルに対して表面にバックグラインドテープを貼り付け裏面側から#2000の砥石にて厚み100μmまで研削を行い純水スクラブ洗浄を施した。(サンプル1)
更に裏面側からドライポリッシュ法にて深さ3μmの研磨を施した。(サンプル2)
【実施例1】
【0020】
比較例1のサンプル1を用いてエキシマーレーザー装置にて波長308nm、パルス幅20ナノ秒、エネルギー密度1J/cmの条件にて裏面全面にレーザー光を照射させた。(サンプル3)
【0021】
[評価1]
サンプル1、サンプル2およびサンプル3を各1枚抜き出して電子顕微鏡にて裏面側の断面観察を行った。サンプル1は、研削面の近傍には深さ0.2μm程度に非晶質層が観察された。サンプル2に関しては、極表層部に弱い研削痕が観察された。サンプル3に関しては、非晶質領域が再結晶化されており双晶などが観察された。これらサンプルを用いて裏面側から表面側に向かってラマン分光による残留応力評価を行った。全てのサンプルに関して最大残留応力は表面近傍である事を確認、その値は、サンプル1で約100MPa、サンプル2で約10MPa、本発明のサンプル3では残留応力は約5MPa前後であり通常研磨品と同等レベルであることがわかった。
【0022】
[評価2]
各サンプルから1枚抜き取り、銅汚染濃度が5×1011atoms/cmになるようにシリコン基板裏面側にスピンコートさせた。得られたサンプルは、ホットプレートにて300℃となるようにサンプル裏面側から30分間加熱してシリコン基板表面まで拡散した銅を全反射蛍光X線にて評価した。サンプル1と本実施例のサンプル3では、1.5×1010atoms/cm以下の銅濃度でありゲッタリング効果を確認できたが、サンプル2は初期汚染量と殆ど同等の銅濃度が検出されゲッタリング効果がないことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイス後工程にて薄型化のために裏面研削もしくは裏面研磨されたシリコン基板裏面全面、チップ領域となる基板裏面全面あるいは個別チップ化されたシリコン基板裏面全面に対して前記裏面加工により生じた非晶質やキズを含む領域を非溶融加熱することで再結晶化させるシリコン基板および製造方法である。
【請求項2】
前記シリコン基板は、デバイス作製面に保護テープまたは支持板などが貼られた状態、または、薄型化されたシリコン基板裏面側にダイシングテープやダイアタッチフイルムが貼り付けられた状態であることを特徴とする請求項1記載のシリコン基板および製造方法である。