説明

シリコン含有ペレットの製造方法

【課題】シリコン塩化物の製造に用いられ、塩化物が含まれるシリコン含有粉末を、腐食性ガスを発生させることなく、処理することができるシリコン含有ペレットの製造方法を提供する。
【解決手段】金属シリコン粉末を、塩化水素を含有するガスまたは水素と塩化珪素を含有するガスと流動層内で反応させて目的のシリコン塩化物を得て、流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離工程で分離してシリコン塩化物を製造する際に、分離されたシリコン含有粉末の少なくとも一部を系外へ取り出し、成型工程で取り出されたシリコン含有粉末と非含水性バインダーを混合した後に圧縮成型することを特徴とするシリコン含有ペレットの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン塩化物の製造に使用され、塩化物が含まれるシリコン含有粉末を圧縮成型してシリコン含有ペレットを製造する方法に関し、さらに詳しくは、腐食性ガスを発生させることなく、シリコン含有粉末を処理できるシリコン含有ペレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属シリコン粉末と、塩化水素を含有するガスまたは水素と塩化珪素を含有するガスとを反応させることにより、トリクロロシランが四塩化珪素などの副生物(これらの反応生成物を、ここでは「シリコン塩化物」と記す)とともに生成する。その後、蒸留工程を経て得られる超高純度のトリクロロシランは、多結晶シリコンの原料として用いられ、得られる多結晶シリコンは、例えば、半導体デバイスの基板として用いられるシリコン単結晶の原料として、あるいは太陽電池の基板などとして広く使用される。
【0003】
前記の金属シリコン粉末と、塩化水素を含有するガスまたは水素と塩化珪素を含有するガスとの反応は、一般的に、金属シリコンの微粒子に反応ガスを吹き込んで微粒子を流動化させた流動層内で行われる。塩化水素を含有するガスまたは水素と塩化珪素を含有するガスを、ここでは「反応ガス」とも記す。流動層内では、金属シリコンの微粒子と反応ガスの接触頻度が著しく高まることから、反応の効率化を図ることができる。
【0004】
流動層で生成されたシリコン塩化物含有ガスは、流動層炉が備える排出口から排出される。このシリコン塩化物含有ガスの排出に伴い、微量の金属シリコンの粒子が排出されるので、排出されたシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離工程で分離する。
【0005】
金属シリコン粉末と反応ガスを流動層内で反応させてシリコン塩化物を製造する方法に関し、従来から種々の提案がなされており、例えば、特許文献1および2がある。特許文献1に記載のシリコン塩化物の製造方法では、流動層で金属シリコン粉末と反応ガスを反応させて目的のシリコン塩化物を得て、流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離し、分離されたシリコン含有粉末を流動層に戻す。
【0006】
特許文献1では、従来は廃棄されていたシリコン含有粉末を流動層に戻して反応に再度使用することにより、短い接触時間で、高い反応率を得ることができるとしている。また、特許文献1では、流動層に戻すシリコン含有粉末の量は、分離されたシリコン含有粉末を100重量部とした場合、5〜95重量部とするのが好ましいとしている。
【0007】
また、特許文献2は、分離されたシリコン含有粉末を戻し配管で流動層に戻す際、戻し配管の閉塞を少なくし、安定した操業を可能とすることを目的としている。特許文献2に記載のシリコン塩化物の製造方法では、戻し配管の開口部(粉末排出口)の形状、面積等を適切に定めるとともに、戻し配管の先端近傍に送気ノズルを設けることにより、流動が不十分な部位で粉末が焼結等により徐々に固化され、戻し配管が閉塞するのを少なくできるとしている。また、特許文献2に記載された方法では、流動層炉内に配置されたサイクロンにより、シリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離し、分離されたシリコン含有粉末の全量が流動層に戻されている。
【0008】
このようにシリコン塩化物含有ガスから分離されたシリコン含有粉末は、系外に排出されて廃棄される場合や、全量または一部が流動層に戻されて再度使用される場合がある。
【0009】
また、流動層での反応に使用または繰り返し使用されたシリコン含有粉末は、高濃度の塩化物を含有するので、大気中の水分と反応して腐食性の塩化水素ガスを発生させる。シリコン塩化物含有ガスから分離されシリコン含有粉末は、流動層に滞留する粉末に比べて粒径が小さく、比表面積が大きいことから、塩化物濃度も特に高くなる。このような塩化物を含有するシリコン含有粉末を廃棄する際は、中和処理設備が必要となる。
【0010】
中和処理設備でシリコン含有粉末に中和処理を施すと、塩化物濃度が高いシリコン含有粉末は、塩化物と水分が反応して塩化水素ガスが発生するので、中和処理設備には酸性廃液処理設備のみならず酸化性ガス回収設備も必要となる。
【0011】
したがって、シリコン塩化物含有ガスから分離されたシリコン含有粉末の廃棄処理では、中和処理設備が煩雑となることから処理に費用を要するとともに、有害ガスが発生することから、危険度が高く問題となる。
【0012】
一方、高炉や電気炉では、製鉄または製鋼時に鉄鋼の成分を調整するために鉄鋼添加剤が用いられる。鉄鋼に添加される成分の中でシリコンは比較的高い含有率で添加されることから、シリコンを添加する鉄鋼添加剤は、金属不純物やSiO2の含有率が低く、金属シリコンの含有率が正確に把握できることが要求される。近年、鉄鋼材に対して高い組成精度が求められるのに伴い、金属不純物やSiO2の含有率のさらなる低下と、金属シリコンの含有率の高精度化が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭59−45919
【特許文献2】特開2008−133147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、金属シリコン粉末と反応ガスを流動層内で反応させてシリコン塩化物を製造する際、シリコン塩化物含有ガスから分離されたシリコン含有粉末は、高濃度の塩化物が含まれることから、廃棄処理において、費用を要するとともに、危険度が高く問題となる。
【0015】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、腐食性ガスを発生させることなく、塩化物が含まれるシリコン含有粉末を処理することができる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記問題を解決するため、本発明者らは、金属シリコン粉末を、塩化水素を含有するガスまたは水素と塩化珪素を含有するガスと流動層内で反応させて目的のシリコン塩化物を得て、流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離してシリコン塩化物を製造する際に、分離されたシリコン含有粉末の一部を系外に取り出し、取り出されたシリコン含有粉末を圧縮成型してシリコン含有ペレットとし、鉄鋼添加剤として再利用する方法について検討した。この場合、シリコン含有粉末とバインダーを混合する際に、バインダーに含まれる水分とシリコン含有粉末に含まれる塩化物が反応し、塩化水素ガスが発生する。
【0017】
腐食性ガスを発生させることなく圧縮成型する方法について、種々の試験を行い、鋭意検討を重ねた結果、バインダーに非含水性バインダーを用いることにより、腐食性ガスを発生させることなく、塩化物が含まれるシリコン含有粉末を圧縮成型できるとともに、得られるシリコン含有ペレットを保管や輸送、使用する時に塩化物と水分が反応して腐食性ガスが発生するのを防止できることを知見した。
【0018】
さらに、本発明者らは、分離されたシリコン含有粉末を、流動層に戻すシリコン含有粉末と、系外に取り出すシリコン含有粉末とに分ける方法について検討した。シリコン塩化物を製造する際、流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離し、分離されたシリコン含有粉末の全量または一部を流動層に戻すと、流動層内で粒径が小さいシリコン微粉末の比率が高くなる場合がある。この場合、シリコン微粉末により流動の安定性が低下し、流動層炉の炉床から投入された反応ガスが、金属シリコン粉末と十分に接触することなく、大きなバブルのまま流動層を通過してしまう、いわゆる「吹き上がり」が多発する。
【0019】
また、分離されたシリコン含有粉末の全量を流動層に戻す方法を採用して長期間操業を継続すると、流動層でシリコン微粉末が高比率となり易い。シリコン微粉末は反応ガスの吹き込みにより飛ばされてシリコン塩化物含有ガスとともに排出される場合が多いことから、流動層に滞留する時間が短く、流動層からの排出と流動層へ戻す操作が繰り返される傾向にある。その結果、流動層でシリコン微粉末が高比率となると、流動層で金属シリコン粉末と反応ガスの反応率が低下することが、本発明者らの調査で判明した。
【0020】
これらから、流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離工程で分離してシリコン塩化物を製造する際に、シリコン含有粉末の粗粉末を流動層に戻し、シリコン含有粉末の微粉末を系外に取り出すことにより、シリコン塩化物の製造歩留りを向上できることを知見した。
【0021】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、下記(1)〜(3)のシリコン含有ペレットの製造方法を要旨としている。
【0022】
(1)金属シリコン粉末を、塩化水素を含有するガスまたは水素と塩化珪素を含有するガスと流動層内で反応させて目的のシリコン塩化物を得て、流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離工程で分離してシリコン塩化物を製造する際に、分離されたシリコン含有粉末の少なくとも一部を系外へ取り出し、成型工程で取り出されたシリコン含有粉末と非含水性バインダーを混合した後に圧縮成型することを特徴とするシリコン含有ペレットの製造方法。
【0023】
(2)前記分離工程を第1分離工程と第2分離工程とで構成し、前記第1分離工程で、前記流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粗粉末を分離し、前記第2分離工程で、第1分離工程を経たシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有微粉末を分離し、前記シリコン含有粉末の少なくとも一部を系外へ取り出すに際し、前記第2分離工程で分離されたシリコン含有微粉末を系外へ取り出し、前記第1分離工程で分離したシリコン含有粗粉末を流動層に戻すことを特徴とする上記(1)に記載のシリコン含有ペレットの製造方法。
【0024】
(3)製造されるシリコン含有ペレットが鉄鋼添加剤用であることを特徴とする上記(1)または(2)のいずれかに記載のシリコン含有ペレットの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明のシリコン含有ペレットの製造方法は、非含水性バインダーを用いることにより、腐食性ガスを発生させることなく、塩化物を含むシリコン含有粉末を圧縮成型してペレットとすることができ、処理費用を要するとともに、危険度が高い中和処理をなくすことができる。また、得られたシリコン含有ペレットは塩化物を含むシリコン含有粉末の表面が非含水性バインダーで覆われており、保管や輸送、使用時に塩化物と水分が反応して腐食性ガスを発生させることがない。
【0026】
さらに、流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離する分離工程を、第1分離工程と第2分離工程とから構成し、系外に取り出して成型工程に用いるシリコン含有粉末を第2分離工程のシリコン含有微粉末とし、第1分離工程のシリコン含有粗粉末を流動層に戻すことにより、シリコン塩化物の製造歩留りを向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明のシリコン含有ペレットの製造方法について説明する。
【0028】
本発明のシリコン含有ペレットの製造方法は、金属シリコン粉末を、塩化水素を含有するガスまたは水素と塩化珪素を含有するガスと流動層内で反応させて目的のシリコン塩化物を得て、流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離工程で分離してシリコン塩化物を製造する際に、分離されたシリコン含有粉末の少なくとも一部を系外へ取り出し、成型工程で取り出されたシリコン含有粉末と非含水性バインダーを混合した後に圧縮成型することを特徴とする。
【0029】
系外へ取り出されたシリコン含有粉末と非含水性バインダーを混合すると、シリコン含有粉末の表面に非含水性バインダーが付着し、あるいはシリコン含有粉末の表面が非含水性バインダーで覆われる。この混合物を圧縮成型したシリコン含有ペレットでは、シリコン含有粉末の表面は、非含水性バインダーが付着し、あるいは非含水性バインダーで覆われていることから、水分とシリコン含有粉末に含まれる塩化物とが接触することがない。したがって、保管や輸送、使用時にシリコン含有ペレットと水分の接触を管理する必要がなく、安全にシリコン含有ペレットを保管や輸送、使用することができる。
【0030】
セメントといった含水性バインダーを用いると、シリコン含有粉末と含水性バインダーを混合する際に、シリコン含有粉末の塩化物と含水性バインダーの水分が接触して反応し、腐食性ガスが発生し、作業環境や安全面で大きな問題となる。この場合、バインダーと混合する前にシリコン含有粉末に中和処理を施すことにより、腐食性ガスの発生を防止できるが、前述の通り、中和処理は費用を要するとともに、危険度が高い。非含水性バインダーを用いることにより、シリコン含有粉末とバインダーを混合する際に腐食性ガスが発生することがなく、中和処理も不要となる。
【0031】
また、含水性バインダーとシリコン含有粉末とを混合すると、含水性バインダーの水分とシリコン含有粉末に含まれる金属シリコンが接触して反応し、金属シリコンの一部がSiO2となる。この反応により生成されるSiO2の量は、同じ条件で含水性バインダーとシリコン含有粉末を混合しても、その都度、大きく変動する。その結果、得られるシリコン含有ペレットは、SiO2の含有率が上昇するとともに、金属シリコン含有率のバラツキが大きくなる。このため、鉄鋼添加剤として要求される金属シリコンの含有率の高精度化を、含水性バインダーを用いた場合は実現できない。
【0032】
本発明のシリコン含有ペレットの製造方法は、非含水性バインダーを用い、金属シリコンと水分が反応してSiO2となるのを抑制することから、鉄鋼添加剤として要求される金属シリコン含有率の高精度化を実現できる。
【0033】
非含水性バインダーは、水分を含有しないものであって、加熱等により水分を発生させないものを用いることができ、後述する実施例で示すように、タールやポリエチレンを用いることができる。タールやポリエチレンを用いる場合、加熱により液状としたタールやポリエチレンと、シリコン含有粉末を混合して圧縮成型することができる。また、非含水性バインダーは、原油を減圧蒸留した際の減圧残油を用いることもできる。
【0034】
成型工程で用いるシリコン含有粉末を系外に取り出す方法として、例えば、流動層の炉床付近から抜き出す方法が考えられるが、この場合、シリコン塩化物含有ガスから分離されたシリコン含有粉末に比べて遙かに大きい粒子が含まれることから、破砕工程が必要となる。破砕が必要な大きい粒径の粒子はシリコン塩化物含有ガスに伴って流動層から排出されないので、シリコン塩化物含有ガスから分離されたシリコン含有粉末を成型工程に用いることにより、破砕工程が不要となる。また、前述の通り、分離されたシリコン含有粉末の全量を流動層に戻すと、流動層内でシリコン微粉末が高比率となり易く、吹き上がりや反応率の低下が問題となる。
【0035】
したがって、本発明のシリコン含有ペレットの製造方法では、分離工程でシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離し、分離されたシリコン含有粉末の少なくとも一部を系外へ取り出す。この場合、分離工程を第1分離工程と第2分離工程とで構成し、第1分離工程で流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粗粉末を分離し、第2分離工程で第1分離工程を経たシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有微粉末を分離し、シリコン含有粉末の少なくとも一部を系外へ取り出すに際し、第2分離工程で分離されたシリコン含有微粉末を系外へ取り出し、第1分離工程で分離したシリコン含有粗粉末を流動層に戻すのが好ましい。
【0036】
第1分離工程で粒径の大きいシリコン含有粗粉末を分離し、第2分離工程で粒径の小さいシリコン含有微粉末を分離することにより、シリコン含有粗粉末と、流動層で吹き上がりや反応率低下の原因となるシリコン含有微粉末を分けることができる。シリコン含有粗粉末を流動層に戻し、シリコン含有微粉末を系外へ取り出して非含水性バインダーと混合し、圧縮成型してシリコン含有ペレットとすることにより、シリコン塩化物の製造歩留りを向上できる。
【0037】
本発明のシリコン含有ペレットの製造方法では、例えば、第1分離工程でメディアン径D50(積算粒度分布が50質量%となる粒子径)が20〜200μmであるシリコン含有粗粉末を分離し、第2分離工程でメディアン径D50が1〜50μmであるシリコン含有微粉末を分離することができる。
【0038】
分離工程では、例えばサイクロンや、フィルタを用いた粉末捕集器により、シリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離することができる。工業的にシリコン塩化物を製造する場合は、長期間連続して使用することができるサイクロンを用いるのが好ましい。
【0039】
また、第1分離工程および第2分離工程はそれぞれ一つの粉末捕集器を用いて処理することも、複数の粉末捕集器を用いて処理することもできる。本発明のシリコン含有ペレットの製造方法では、分離されたシリコン含有粉末を流動層に戻す粉末捕集器を第1分離工程とし、第1分離工程の後段に配置され、分離されたシリコン含有粉末を系外に取り出す粉末捕集器を第2分離工程とする。
【0040】
シリコン含有粉末を流動層に戻す際には、前記特許文献1に記載されているように反応ガスとともに圧送することも、前記特許文献2に記載されているように戻し配管を用いることもできる。
【0041】
このように本発明のシリコン含有ペレットの製造方法により、腐食性ガスを発生させることなく、塩化物を含むシリコン含有粉末をペレットに圧縮成型することができるとともに、保管や輸送、使用時にペレットに含有される塩化物と水分が反応して腐食性ガスが発生するのを防止できる。得られるペレットの金属シリコン成分は、シリコン単結晶の原料となる超高純度のシリコン塩化物の製造に使用された金属シリコン粉末からなる。シリコン塩化物の製造に使用される金属シリコン粉末は、後述する実施例に示すように純度が99質量%以上の高純度ものが多用されることから、金属不純物やSiO2の含有率は極めて低い。
【0042】
このため、分離されたシリコン含有粉末の質量を金属シリコンの質量として、得られたペレットの金属シリコン含有率を算出することにより、高炉や電気炉の操業で要求される精度を満たす金属シリコン含有率を算出できる。したがって、得られるシリコン含有ペレットは金属不純物やSiO2の含有率は極めて低く、金属シリコン含有率を高精度で算出することができることから、鉄鋼添加剤に好適である。また、廃棄処分されていたシリコン含有粉末を資源として有効に活用することができる
【実施例】
【0043】
本発明のシリコン含有ペレットの製造方法の効果を確認するため、下記の試験を行った。
【0044】
1.試験条件
純度99質量%以上の金属シリコン粉末を、水素および四塩化珪素を含有するガスと流動層内で反応させて目的のトリクロロシランを得て、流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離工程で分離し、分離されたシリコン含有粉末の一部を系外へ取り出し、残部を流動層に戻した。取り出されたシリコン含有粉末(キャリーオーバー粉)とバインダーを混合した後に圧縮成型してシリコン含有ペレットとした。シリコン含有ペレットの質量は、10〜20g/個となるように調整した。
【0045】
本発明例1および本発明例2では、分離工程でサイクロンによりシリコン含有ガスからシリコン含有粉末を分離し、分離されたシリコン含有粉末の50質量%を系外へ取り出しキャリーオーバー粉とした。本発明例3では、分離工程を第1分離工程と第2分離工程で構成し、第1分離工程でサイクロンにより分離したシリコン含有粗粉末を流動層に戻し、第2分離工程でサイクロンにより分離したシリコン含有微粉末を系外へ取り出しキャリーオーバー粉とした。
【0046】
比較例1では、分離工程でサイクロンによりシリコン含有ガスからシリコン含有粉末を分離し、分離されたシリコン含有粉末の全量を流動層に戻した。比較例1では、流動層炉の操業を停止した後、炉床上のシリコン含有残渣を抜き取り、シリコン含有残渣とバインダーを混合し、その後、圧縮成型してペレットとした。
【0047】
本発明例および比較例ともに、シリコン含有粉末とバインダーを混合して圧縮成型する際の塩化水素ガスの発生有無を確認するとともに、金属シリコン粉末に対するトリクロロシランの製造歩留りを算出した。金属シリコン粉末に対するトリクロロシランの製造歩留りは、流動層炉から排出されたトリクロロシラン含有ガスを蒸留して得られたトリクロロシラン量(kg)を、流動層に投入した金属シリコン粉末量(kg)で除したものである。
【0048】
表1に、各実施例で用いたシリコン含有粉末、バインダー、混合して圧縮成型した際の塩化水素ガスの発生状況、および金属シリコン粉末に対するトリクロロシランの製造歩留りをそれぞれ示す。
【0049】
【表1】

【0050】
2.試験結果
表1に示す結果より、比較例1では、含水性バインダーである水硬セメントとボール繊維を用い、シリコン含有粉末とバインダーを混合する際に塩化水素ガスが発生した。一方、本発明例1〜3では、非含水性バインダーであるタールまたはポリエチレンを用い、シリコン含有粉末とバインダーを混合して圧縮成型する際に塩化水素ガスが発生することはなかった。このことから、本発明のシリコン含有ペレットの製造方法により、バインダーと混合して圧縮成型する際に塩化水素ガスが発生するのを防止できることが明らかになった。
【0051】
また、分離したシリコン含有粉末の全量を流動層に戻した比較例1の製造歩留りは14.0〜14.5であり、分離したシリコン含有粉末の一部を流動層に戻した本発明例1および本発明例2の製造歩留りはいずれも16.0〜16.5であり、分離したシリコン含有粗粉末を流動層に戻した本発明例3の製造歩留りは17.0〜17.5であった。これらから、分離したシリコン含有粉末の一部を流動層に戻すのに比べ、分離したシリコン含有粉末の全量を流動層に戻すことにより製造歩留りが低下し、分離したシリコン含有微粉末を流動層に戻すことなく、シリコン含有粗粉末を流動層に戻すことにより、製造歩留りが向上することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のシリコン含有ペレットの製造方法は、非含水性バインダーを用いることにより、腐食性ガスを発生させることなく、塩化物を含むシリコン含有粉末を圧縮成型してペレットとすることができ、処理費用を要するとともに、危険度が高い中和処理をなくすことができる。また、得られたシリコン含有ペレットは塩化物を含むシリコン含有粉末の表面が非含水性バインダーで覆われており、保管や輸送、使用時に塩化物と水分が反応して腐食性ガスを発生させることがない。
【0053】
さらに、流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離する分離工程を、第1分離工程と第2分離工程とから構成し、系外に取り出して成型工程に用いるシリコン含有粉末を第2分離工程のシリコン含有微粉末とし、第1分離工程のシリコン含有粗粉末を流動層に戻すことにより、シリコン塩化物の製造歩留りを向上させることができる。
【0054】
本発明により製造されたシリコン含有ペレットは、金属不純物やSiO2の含有率は極めて低く、金属シリコン含有率を高精度で算出されることから、高炉や電気炉での製鉄または製鋼時に鉄鋼添加剤として用いれば、鉄鋼材の組成精度の向上に寄与することができるとともに、シリコン塩化物の製造に使用されたシリコン含有粉末を資源として有効に活用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シリコン粉末を、塩化水素を含有するガスまたは水素と塩化珪素を含有するガスと流動層内で反応させて目的のシリコン塩化物を得て、流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粉末を分離工程で分離してシリコン塩化物を製造する際に、
分離されたシリコン含有粉末の少なくとも一部を系外へ取り出し、
成型工程で取り出されたシリコン含有粉末と非含水性バインダーを混合した後に圧縮成型することを特徴とするシリコン含有ペレットの製造方法。
【請求項2】
前記分離工程を第1分離工程と第2分離工程とで構成し、
前記第1分離工程で、前記流動層から排出されるシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有粗粉末を分離し、
前記第2分離工程で、第1分離工程を経たシリコン塩化物含有ガスからシリコン含有微粉末を分離し、
前記シリコン含有粉末の少なくとも一部を系外へ取り出すに際し、前記第2分離工程で分離されたシリコン含有微粉末を系外へ取り出し、
前記第1分離工程で分離したシリコン含有粗粉末を流動層に戻すことを特徴とする請求項1に記載のシリコン含有ペレットの製造方法。
【請求項3】
製造されるシリコン含有ペレットが鉄鋼添加剤用であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のシリコン含有ペレットの製造方法。

【公開番号】特開2012−17247(P2012−17247A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51039(P2011−51039)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)
【Fターム(参考)】