説明

シリコン微細粒子の製造方法及びそれを用いたSiインク、太陽電池並びに半導体装置

【課題】
シリコン基材から、表面安定性の高い、粒径が少なくとも数百nm以下のシリコン(Si)微細粒子を形成し、それを用いて太陽電池を創製する。
【解決手段】
シリコン基材から粉砕後、ビーズミル法で粉砕して得た,少なくとも粒径数百nm以下のSi微細粒子を、フッ化水素酸水溶液(HF)のみに分散させて処理することで、処理直後のSi粒子表面のSiO層がほぼゼロ、また、大気中で1ヶ月放置しても、そのSiO層厚は高々0.6nm程度と、自然酸化膜成長の小さい、表面安定性の高いSi微細粒子が実現でき、それを用いて太陽電池を創製した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェハ材料から、プリンタブル電子材料としても利用し得て、薄膜の太陽電池やシリコン半導体装置に好適に利用可能なSi微細粒子として、粒径が数百ナノメートル(nm)以下のシリコン(Si)極微細粒子を得る場合に、不純物の少ない、かつ表面安定的な微細粒子を低コストで実現するSi微細粒子の製造方法及びそれを用いたSiインク、太陽電池並びに半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のSi微細粒子を得る場合に、例えば、粒径50〜1000μmのSi微細粒子を,例えばシリコンをフッ化水素酸と硝酸を同時に用いて酸エッチングすることによって、高純度Si微細粒子を製造すること、そして、その酸エッチング工程にフッ化水素酸と硝酸を同時に用いることを必須とするエッチング工程であるが、この酸エッチング工程では、Si表面を溶解してポーラスシリコンを得るのであり、粒径数百nm以下の微細粒子を安定的に得ることが極めて困難である。
【0003】
一方、Siの微細粒子は、有機材料の性能限界を突破し得るプリンタブル電子材料としても注目されるが、薄膜電子材料として利用され得るSi微細粒子となると、粒径数百nm以下の極微細粒子が望ましく、そのような極微細サイズの粒子を製造するのは主としてレーザーアブレーション法、CVD法あるいは高周波スパッター法により行われているが、いずれも製造するには、製造設備が高コストであり、量産性に欠ける、などの難点がある。
【0004】
また、粒径数百nm以下のSi極微細粒子になると、粒径に対する表面積比率が著しく大で、上述のフッ化水素酸と硝酸を同時に用いるような従来の酸エッチング工程では、表面溶出率が高いことから、表面からの溶出損が大きくて粒子径制御が難しく、工業的利用には現実的でない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、有機材料の性能限界を突破し得るプリンタブル電子材料として注目されるようなSi極微細粒子の実現にあり、少なくとも粒径数百nm以下という,一層の粒径微細化を実現する技術と共に、表面処理技術によって表面安定性の向上を図ること、さらには、表面からの溶出損の小さい、より低コストの製造方法およびそのSi極微細粒子を用いた低コストのSiインク並びに太陽電池や半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも粒径数百nm以下のSi微細粒子を、フッ化水素(HF)の水溶液(以下、フッ化水素酸水溶液という)中に分散させて処理することのみで、処理直後の表面の酸化膜がほとんどゼロとなる,Si微細粒子の製造方法を提供し、本発明によるSi微細粒子では大気中に1ヶ月以上の長時間放置しても酸化膜の膜厚がせいぜい0.6nm程度になるだけで、いわゆる自然酸化のよるSiO膜の成長が極めて少ない、表面安定性の高い、工業的利用にも適用性の高いSi微細粒子を実現することができた。
【0007】
本発明は、少なくとも粒径数百nm以下のSi微細粒子を、フッ化水素酸水溶液中に分散させて、室温程度の低温で、数分程度の短時間に処理する処理方法を提供する。
【0008】
本発明は、少なくとも粒径数百nm以下のSi微細粒子を、フッ化水素酸水溶液中に分散させて処理する工程を含むSi微細粒子の製造方法およびそれにより得られたSi極微細粒子を用いるSiインク並びに太陽電池や半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、例えばビーズミル法を用いて得られた,平均粒径数百nm程度のSi極微細粒子を、フッ化水素酸水溶液中に分散させて処理するという独自の条件の処理により、サイズが均一で、処理直後の表面の酸化被膜がほとんどゼロあるいは極薄という良好な表面状態のSi微細粒子を得ることが可能となり、さらに、その微細粒子を用いたSiインク並びに太陽電池や半導体装置を実現することができる。
【0010】
また、例えば、ビーズミル法で粉砕して得たSi微細粒子を、フィルターで透過して粒径数百nm以下のSi極微細粒子を得て、さらにHF所定濃度のフッ化水素酸水溶液中で分散処理することで、表面のSiO膜が処理直後の表面の酸化膜がほとんどゼロ,大気中に1ヶ月以上の長時間放置しても酸化膜の膜厚が高だか0.6nm程度になるだけの、表面のSiO膜の成長度合いの著しく小さいSi微細粒子を得ることができる。
【0011】
本発明によると、少なくとも粒径数百nm以下のSi微細粒子を、所定HF濃度のフッ化水素酸水溶液中に分散させて処理する処理方法を実現することで、例えばプリンタブル電子材料として高性能が期待される低コストの機能材料のSi微細粒子を形成できる。
【0012】
また、本発明によると、少なくとも粒径数百nm以下のSi微細粒子を、所定HF濃度のフッ化水素酸水溶液中に分散させて処理する工程を含むSi微細粒子の製造方法により、例えば太陽電池用の薄膜形成プリンタブル材料として、光電変換層の厚みが1〜10μmの極めて薄層に成し得て、変換効率の高い,Si微細粒子による太陽電池を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1a】本発明の実施例で得られたSi微細粒子の走査電子顕微鏡(SEM)による観察図である。
【図1b】透過電子顕微鏡(TEM)による観察図である。
【図2】本発明の実施で得られたSi粒子のフッ酸処理前後のSi 2pエネルギー領域のX線光電子分光スペクトル(XPS)観察図である。
【図3a】本発明の実施例のビーズミル法での処理前のSi粒子分布図である。
【図3b】本発明の実施例のビーズミル法での処理後のSi粒子分布図である。
【図4a】本発明で得られた他例による処理前のSi粒子分布図である。
【図4b】本発明で得られた他例による処理後のSi粒子分布図である。
【図5a】実施例装置の電流電圧特性図である。
【図5b】実施例装置の光電変換特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明を、実施の形態である実施例装置により、図面を参照して詳細に述べる。
【0015】
<第1実施形態>
本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に述べる。
【0016】
p型の単結晶Siウェハを粉砕して細粒子化し、さらに、ビーズミル法で処理したのち、水中に分散し、次いで、テフロン(登録商標)製のフィルター(孔径0.1μm)を用いて吸引ろ過により分級(篩い分け)した。そして、この水中ろ過分散したSi粒子をHF濃度60%のフッ化水素酸中に徐々に滴下した。徐々の滴下は、室温でのフッ化水素酸水溶液の温度を、50℃以下、好ましくは室温に近い状態が維持できるようにするためであり、その滴下量は経験的に定めた。このときのフッ化水素酸水溶液中のHF濃度には、60%に限らず、25%および5%でも経験しており、作用上の制限はないが、工業的にHF濃度5%以上、好ましくはHF濃度30%超〜99%のフッ化水素酸水溶液が選択して利用でき、とりわけ、HF濃度50%超〜99%のフッ化水素酸水溶液を用いると短時間の処理に適当である。なお、ここで利用される単結晶Siウェハは、p型に限らず、n型でもよく、導電度も任意に選択することが可能である。
【0017】
ビーズミル法での処理は、Si粒体を適度なビーズ球とともに容器内で揺動再粉砕するもので、ビーズ球の寸径及び揺動時間を適宜選定して、所望の微細粒子に加工することが可能である。
【0018】
また、Siの粒子化に当たっては、単結晶や多結晶Siウェハから粉砕して細粒子化したものに限らず、単結晶または多結晶のSi基材(インゴット)から薄板の基板(ウェハ)を形成する際の,ワイヤーソーを用いて切り出すときに生じる,いわゆる切粉と称されるSi粒子を素材として、これをボールミル法、ビーズミル法、衝撃波法あるいはジェットミル法で再微細化処理したものも、実用できる。この場合生じる切粉は、廃棄対象であり、そのままの粒体としては現在利用されていないので、素材コストとしては全く発生しないため、極めて低コストのSi微細粒子を製造できる。
【0019】
フッ化水素酸水溶液中への徐々の滴下後、30分間静止した後、遠心分離機で分離、さらに静止して上澄み液を除去し、次いでエタノール中で超音波をかけながら分散させた。そして、この懸濁の湿潤分散中から、室温で乾燥窒素(N)ブローにより風乾して、Si微細粒子を取出した。図1は処理直後におけるSi粒子の顕微鏡観察写真図であり、図1(a)はSEMによる見かけ観察写真図、図1(b)はTEMによる単粒子の実態観察写真図である。これから推察すると、図1(a)では,微細なSi粒子が一部凝集してやや大きな微粒子を形成しているが,個別のSi粒子径が例えば図1(b)のような約5nm(短径)の極微細な単粒子(図中の中央部の丸囲いで示す短径約5nm、長径約10nmの粒子物)であり、実態はかかる微細粒子が粒子径数nm〜数百nmで分布する,いわゆるSiナノ粒子物と称してよいものであることが分かった。
【0020】
また、図2は、この実施で得られたSi粒子をHF処理した前後のSi 2pエネルギー領域のXPSスペクトル特性であり、図中の特性は下から上へ順に、処理前(>〜10nm), 処理直後(〜0nm), 一週間後(0.24nm)及び一ヶ月後(0.58nm)の各測定を示す。なお、上記括弧内の各数値はSiOの厚さ推定値である。これによると結晶性Siのピークに対してSiOの検出量は極めて小さいことが明らかで、とりわけ、処理直後にはSi粒子表面の酸化膜が殆ど完全に除去されていた。大気中に1ヶ月間の放置でも、全SiO層厚は高々0.6nm程度(図2から確認したところでは全SiO層厚0.58nm)であることから、自然酸化によるSiO層の成長は著しく遅く、十分に安定であることが分かった。これは本フッ化水素酸水溶液処理により、Si微細粒子表面に水素による終端結合が生じ、酸化膜形成を有効に阻害しているからと考えられる。
【0021】
さらに、図3は、切粉によるSi粒子の粒子分布図であり、図3(a)はビーズミル法での処理前、図3(b)はビーズミル法での処理後の各分布である。これによると、ビーズミル法での処理で粒子分布は、5〜500nmに分布していることが確認された。
【0022】
図4(a),(b)は、Si粒子の再粉砕による微細化を行うに当たり、ボールミル法のみ、およびボールミル法と衝撃波粉砕法とを組合せて行った場合に得られる粒子分布図であり、図中の各特性曲線は、図4(a)で30分(min)のボールミル法のみを特性1.、30分(min)のボールミル法と衝撃波粉砕法とを組み合わせて、図4(b)で衝撃波粉砕1 pass 2.、衝撃波粉砕3 pass 3.及び衝撃波粉砕6 pass 4.の場合の各粉砕事例を表している。この場合でも、Si粒子の再粉砕による微細化を行って、粒子分布を5〜500nmに特定することが十分に可能であることを示す。
【0023】
本実施の形態で得られるSi粒子表面のSiOがほぼゼロあるいは極薄で安定であるため、近接の相互Si粒子間での電荷の挙動は、接触粒子間の直接移動、あるいは表面に極薄酸化被膜のある場合にはトンネル効果で移動が可能であり、太陽電池等での光電効果で生じたキャリア(電荷)の移動には殆ど支障がない。したがって、この種Si微細粒子(Siナノ粒子)により、例えばプリント技術等で薄膜半導体層を形成して、太陽電池やLSIなどの半導体デバイス用素材に利用することが可能である。
【0024】
本実施の形態によると、少なくとも数百nm以下の粒径に得られたSi微細粒子がHF濃度20%以上のフッ酸中に分散させて処理する工程を含むSi微細粒子の処理方法または製造方法により、表面安定性極めて高く実現でき、低コストにSi微細粒子を創製することが可能で、工業的利用上の意義は真に大である。また本Si微細粒子に適宜なバインダー材料や分散材を調合して、さらに有効なSiインク材料を製造することが可能である。
<第2実施形態>
シリコンインゴットを固定式砥粒法で切断してp型の単結晶シリコンウェハを切断する際生成する切粉を、ビーズミルと衝撃波で粉砕した。粉砕した切粉を25%のフッ化水素酸水溶液でエッチングして表面に存在する酸化膜を除去した。得られたシリコン微細粒子に吸着している水とフッ化水素を除去するために、シリコン微細粒子をエタノールに分散し遠心分離する操作を三回反復した。このようにして得られたシリコン微細粒子を、エタノールに分散した。次に、このシリコン微細粒子を分散したエタノール溶液と、エチルセルロースとαティフェネオールをエタノールに分散した溶液とを混合した。この混合液中のエタノールはロータリーエバポレーターを用いて除去し、塗布用シリコンインク(シリコンペースト)とした。このシリコンインク中には、シリコン、エチルセルロース、αティフェネオールが15:5:80(重量)の割合で含まれている。このシリコンペーストをn型単結晶シリコンウェハに塗布し、窒素中450℃で30分加熱してバインダー(セルロースとαティフェネオール)を除去した。その後、窒素中30分かけて900℃まで昇温し900℃で1分間保持することによって、Si粒子層を作製した。その後、表面と裏面にアルミニウム電極を作製した。
図5(a)は、作製した試料の電流-電圧特性である。上部電極に正電圧を印加した際のみ電流が流れる整流性を示している。整流性を示すことは、太陽電池や半導体デバイスに応用する場合の必須条件であり、開発したシリコンペーストがこれらの半導体製品に利用できる可能性を示している。
図5(b)は、作製した試料に光を照射した際に観測された電流-電圧曲線、すなわち光起電力と光電流との関係である。光起電力と光起電力を発生しており、開発したシリコンペーストが太陽電池に応用可能なことを示している。
【0025】
また、本実施の形態によると、太陽電池用の薄膜を塗布形成するプリンタブル材料として用いて、光電変換層の厚みが1〜10μmの極めて薄層で、変換効率にも優れた高性能の機能素子、とりわけ、結晶性Si、多結晶Siまたは非結晶性Siや本Si微細粒子による第一の光電変換層に重ねてSi微細粒子による塗布形成の第二の薄膜光電変換層を設けた多層構造の太陽電池に適用して、光電変換効率をさらに向上させた高性能太陽電池を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、Si微細粒子、少なくとも粒径数百nm以下のSi微細粒子を低コストで得られ、また、その表面安定性においても、高い信頼性があり、薄膜形成プリンタブル材料としての利用性が高く、このSi粒子を用いて作製したシリコンペーストは太陽電池の外にも、半導体デバイスや液晶TFT等に適する薄膜形成の素材として利用でき、したがって、本発明はSi微細粒子を利用した太陽電池や半導体装置に適用ができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si微細粒子を、フッ化水素酸水溶液のみに分散させて処理する工程をそなえたSi微細粒子の製造方法。
【請求項2】
粉砕して得た,少なくとも粒径数百nm以下のSi微細粒子を、フッ化水素酸水溶液中に分散させる工程をそなえたSi微細粒子の製造方法。
【請求項3】
シリコンの粉砕法として、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル、衝撃波粉砕法のいずれかまたはそれらの組み合わせ工程によって形成する請求項1〜2のいずれか1つに記載のSi微細粒子の製造方法。
【請求項4】
切粉のSi粒子を素材として、粉砕して得られた,少なくとも粒径数百nm以下のSi微細粒子を、フッ化水素酸水溶液中に分散させる工程をそなえたSi微細粒子の製造方法。
【請求項5】
フッ化水素酸水溶液の温度を、工程中50℃以下の常温に維持する請求項1〜4のいずれか1つに記載のSi微細粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のSi微細粒子の製造方法で得られた,Si微細粒子を含有するSiインク。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のSi微細粒子の製造方法で得られた,Si微細粒子を光電変換層にそなえた太陽電池。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のSi微細粒子の製造方法で得られた,Si微細粒子をそなえた半導体装置。

【図2】
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【図5a】
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【図5b】
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【図1a】
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【図1b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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