シリコン用梱包体及び梱包方法
【課題】多結晶シリコンのシミの発生を抑制するとともに、これを原料とする単結晶シリコンの汚染発生を防止する。
【解決手段】複数の梱包袋を用いた多重構造のシリコン用梱包体であって、複数の梱包袋は、シリコンを収容する樹脂製内側梱包袋1aと、シリコンを収容した内側梱包袋1aをさらに収容する外側梱包袋1bとを備え、外側梱包袋1bは、水蒸気バリア層15の両面に樹脂製表面層16を配置してなる積層フィルムによって形成されている。
【解決手段】複数の梱包袋を用いた多重構造のシリコン用梱包体であって、複数の梱包袋は、シリコンを収容する樹脂製内側梱包袋1aと、シリコンを収容した内側梱包袋1aをさらに収容する外側梱包袋1bとを備え、外側梱包袋1bは、水蒸気バリア層15の両面に樹脂製表面層16を配置してなる積層フィルムによって形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶シリコンを製造する際に溶融原料として用いる多結晶シリコンを主な梱包対象とするシリコン用梱包体及び梱包方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶シリコンを製造する方法の一つとしてチョクラルスキー法(以下、CZ法と称する)が知られている。このCZ法は、無転移あるいは格子欠陥が極めて少ない状態で大口径、高純度のシリコン単結晶が容易に得られるといった利点を有している。
【0003】
CZ法では、超高純度の多結晶シリコンを石英ルツボ内に入れて加熱炉で溶解し、このシリコン溶融液にワイヤで吊り下げた種結晶(シリコン単結晶)を接触させ、回転させつつ徐々に引き上げてシリコン単結晶を成長させる。この際に、石英ルツボ内の容積効率を上げてシリコン単結晶の生産性を向上させるために、棒状の多結晶シリコンを切断、破砕した塊状多結晶シリコン(チャンクと称される)が高密度に装入される。
【0004】
この塊状多結晶シリコンは、棒状の多結晶シリコンを切断、破砕した後、洗浄され、乾燥後にポリエチレン樹脂袋等の梱包袋に梱包されて輸送されるが、乾燥が不十分であったり、保管時の周辺雰囲気等の影響を受けるなどにより、シミが発生する場合があり、その後の単結晶シリコンの品質を低下させるおそれがある。このシミは、洗浄時に使用される酸が多結晶シリコンの表面に残留し、その後の雰囲気中の水分によって酸化してできた酸化膜と想定される。このシミの発生を防止するには、梱包袋内の雰囲気を低湿度に維持することが重要であり、このため、梱包袋を水分に対するバリア性が高いフィルムで形成することが考えられる。
従来、このような水分に対するバリア性の高いフィルムを使った梱包袋として、特許文献1には、電子部品等の半導体防湿包装用袋として、基材フィルム、バリア層、ヒートシール層を積層して構成したラミネートフィルムからなるものが提案されており、そのバリア層として、アルミニウム、ニッケル、チタン、マグネシウム等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−274594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、塊状多結晶シリコンは、脆性材料であるため、切断面の縁及び破砕面の縁が鋭利であることが多い。このため、輸送時の振動等によって梱包袋の表面と擦れ合って、梱包袋に傷等が発生し易い。
したがって、特許文献1に記載のラミネートフィルムを塊状多結晶シリコンの梱包袋として用いる場合には、その振動によって梱包袋が擦れて、バリア層の金属が露出するおそれがあり、その金属分が多結晶シリコンに混入すると、単結晶シリコンの汚染の問題が生じる。
【0007】
この発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、多結晶シリコンのシミの発生を抑制するとともに、これを原料とする単結晶シリコンの汚染発生を防止することができるシリコン用梱包体及び梱包方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係るシリコン用梱包体は、複数の梱包袋を用いた多重構造のシリコン用梱包体であって、前記複数の梱包袋は、シリコンを収容する樹脂製内側梱包袋と、該シリコンを収容した内側梱包袋をさらに収容する外側梱包袋とを備え、該外側梱包袋は、水蒸気バリア層の両面に樹脂製表面層を配置してなる積層フィルムによって形成されていることを特徴とする。
【0009】
このシリコン用梱包体は、梱包袋を多重構造とし、その内側梱包袋にシリコンを収容して、外側梱包袋の水蒸気バリア層によって水蒸気の透過を遮断するようにしている。内側梱包袋としては従来から実績のあるポリエチレン等の樹脂を使用することができ、水蒸気バリア層は、内部のシリコンが直接接触しない外側梱包袋に用いられているので、その水蒸気バリア層として金属を用いたとしても、輸送時の振動等によってシリコンと内側梱包袋とが擦れ合うだけでは水蒸気バリア層の金属分がシリコンに混入することはなく、単結晶シリコンへの汚染発生を抑制することができる。
【0010】
本発明のシリコン梱包体において、前記水蒸気バリア層は、金属薄膜によって形成されているとよい。
金属薄膜によって確実に水蒸気を遮断することができ、梱包体内の雰囲気を梱包時のまま長期間保持することができ、外部環境による影響を受けにくいので、保管状況に左右されずに高純度を維持することができる。
水蒸気バリア層に用いられる金属としてはアルミニウムが好適である。
【0011】
また、本発明のシリコン梱包方法は、樹脂製内側梱包袋と、水蒸気バリア層の両面に樹脂製表面層を配置してなる積層フィルムによって形成された外側梱包袋とを用意しておき、少なくともこれら袋内の雰囲気の水蒸気量を17g/m3以下とした状態でシリコンを前記内側梱包袋内に収容するとともに、該シリコンを収容した内側梱包袋をさらに前記外側梱包袋により収容することを特徴とする。
梱包時の雰囲気中の水蒸気量を制限することにより、梱包初期の梱包袋内の水蒸気量を少なくするとともに、水蒸気バリア層を有する外側梱包袋によって、内部雰囲気の水蒸気量の増加を長期間抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシリコン用梱包体及び梱包方法によれば、シリコンを内側梱包袋に収容し、さらにこれを外側梱包袋に収容した多重の梱包構造とし、しかも、その外側梱包袋に水蒸気バリア層を設けたことにより、内部雰囲気を梱包時のまま長期間保持することができる。したがって、梱包袋内の水蒸気量の増加を抑制して、多結晶シリコンのシミの発生を防止することができ、単結晶シリコンの品質の低下を確実に回避することができる。また、水蒸気バリア層を外側梱包袋に用いて、シリコンと直接接触しないようにしているから、振動等が生じてシリコンが梱包袋と擦れ合ったとしても、水蒸気バリア層が露出することはなく、その後の単結晶シリコンを汚染することはない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態である内側梱包袋と外側梱包袋とからなる二重構造の梱包体の斜視図である。
【図2】内側梱包袋を外側梱包袋に収納する際の説明図である。
【図3】外側梱包袋を構成しているフィルムの断面拡大図である。
【図4】梱包袋の斜視図である。
【図5】梱包袋の底面図である。
【図6】図5における底面部のA―A断面図である。
【図7】塊状多結晶シリコンを内側梱包袋に収納する際の手順を説明する図である。
【図8】内側梱包袋と外側梱包袋とからなる二重構造の梱包体の底面部の平面図である。
【図9】輸送ケースを示す図である。
【図10】樹脂製梱包袋を用いてシリコンを梱包し所定温度、湿度の雰囲気中に保管した際のシミ発生状況を示すグラフである。
【図11】梱包袋の水分透過試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態であるシリコン用梱包体及び梱包方法について図面を参照して説明する。
本実施形態の梱包体10は、図1及び図2に示すように、内側梱包袋1a及び外側梱包袋1bから構成される。内側梱包袋1aは、例えばポリエチレン樹脂等の透明な樹脂の単一層からなるフィルムによって形成され、外側梱包袋1bは、図3に示すように、水蒸気バリア層15の両面に樹脂製表面層16を配置してなる積層フィルムによって形成されている。
内側梱包袋1aに用いられる樹脂は、具体的には、ポリエチレンフィルムが好適であるが、ポリエチレンやポリプロピレンなどからなるポリオレフィン系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルムなどを用いることができる。未延伸フィルム、あるいは一軸方向又は二軸方向に延伸した延伸フィルム等のいずれも使用可能である。その肉厚としては、200μm〜300μmとされる。
【0015】
外側梱包袋1bについては、その表裏両面に配置される樹脂製表面層16は、内側梱包袋1aに用いられる樹脂と同じ樹脂を用いることができる。
また、両表面層16の間に介在される水蒸気バリア層15は、金属薄膜によって構成され、その金属としてはアルミニウム、ニッケル、チタン、マグネシウム、銅、錫等を用いることができる。その膜厚としては、3μm〜20μmの範囲内に設定される。水蒸気バリア性を発揮するためには、最低3μm以上、より好ましくは5μm以上の膜厚が必要であり、厚いほどピンホール等の欠陥も生じにくいが、コスト、重量等を抑えるため及び袋としての取り扱い性(柔軟性)を考慮して20μm以内とするのが好ましく、15μm以内がより好ましい。
【0016】
この水蒸気バリア層15は箔又は蒸着膜等によって形成され、水蒸気バリア層15となる金属箔の両面に表面層16となる樹脂フィルムをラミネートする、又は、金属箔の両面に樹脂をコーティングして表面層16とする、あるいは、表面層16となる樹脂フィルムの片面に水蒸気バリア層15となる金属を蒸着して、その上から他の表面層16となる樹脂フィルムを積層する、などの方法により形成される。
なお、樹脂製表面層16の肉厚は、梱包作業などの取り扱い中又は輸送中の振動等によって塊状多結晶シリコン等の鋭利な角部に接触したとしても水蒸気バリア層15を露出させないように保護する目的で、80μm〜140μmとされる。
【0017】
これら内側梱包袋1a及び外側梱包袋1bは、前述したように材料は異なるが、その袋としての形状は同じである。以下では、両袋の各部について、同じ名称、同じ符号を用いて説明する。また、以下の説明及び関連する図面において、両梱包袋を特に区別しないで説明する場合には、符号を1として統一する。
すなわち、これら梱包袋1は、4つの側面部2,2,3,3と底面部4とを備えた断面略正方形の角底袋状の形状を有しており、4つの側面部2,2,3,3のうち、対向する一対の両側面部2,2は平面状とされるが、他の対向する一対の両側面部3,3には、該梱包袋1を小さく折り畳むことができるようにするため内側に向かって谷折り可能な折り目が長手方向に沿って設けられている。未使用時においては、該梱包袋1はこの折り目に沿って畳まれてコンパクトなものとされており、使用時に広げることによって袋状になるようにされている。
【0018】
この梱包袋1においては、底面部4は以下のようにして形成される。先ず筒状体のフィルムにおいて折り目が設けられた両側面部3,3が谷折りされ、その一端において、一対の側面部2,2から連続する部分Pの端部の内側面同士が合掌するように接近させることにより、この端部間に他の折り目のついた両側面部3,3から連続する部分Qの端部を谷折り状態に介在させて、これらをシール装置によって熱シールすることによって、底シール部5が形成される。そして、折り目の付いた両側面部3,3を平面状に広げて、他の一対の側面部2,2とによって筒状にすることにより、底シール部5の上方に、折り目の付いた両側面部3,3から連続する部分Qが内側に折り込まれてなる一対の折り込み部6が形成される。このようにして、折り込み部6は、図5に示すように平面視にて、底面部4と折り目のついた側面部3,3とのそれぞれの稜線を一辺とするとともに、底面部4の略中心で頂点を形成するような二等辺三角形状となる。
【0019】
この折り込み部6は、図6に示すように、底シール部5が設けられた底面部4の底表面に位置する層L1(両側面部2,2から連続する部分Pによって形成される層)と、折り目のついた側面部3,3から連続する部分Qが内側に山折りにされて形成された層L2と、さらにこの層L2が折り込み部6の内部で折り返されるように谷折りにされて形成された層L3との三枚の層が積層されることによって構成されている。即ち、底面部6においては、図2における二等辺三角形状の折り込み部6がフィルムの三枚構造とされており、その他の部分はフィルムが一枚のみの単層部7とされている。
【0020】
また、本実施形態においては、単結晶シリコンの原料となる塊状多結晶シリコンWを主な梱包対象としている。この塊状多結晶シリコンWは、単結晶シリコンを製造する方法の一つであるCZ法において原料として用いられるものであり、棒状の多結晶シリコンを切断、破砕することによって得られる。CZ法では、この塊状多結晶シリコンWを石英ルツボ内に入れて加熱炉で溶解し、このシリコン溶融にワイヤで吊り下げた種結晶(シリコン単結晶)を接触させ、回転させつつ徐々に引き上げてシリコン単結晶を成長させて、単結晶シリコンを製造する。
【0021】
次に、シリコンの梱包方法の具体的手順について説明する。
梱包される塊状多結晶シリコンは、前述したように棒状の多結晶シリコンを切断、破砕した後、洗浄、乾燥することにより得られる。このときの洗浄は、塊状多結晶シリコンを籠の中に収容しておき、酸液を満たした複数の洗浄槽に多結晶シリコンを籠ごと順次浸漬した後、最後に純水を満たした水槽に浸漬して、表面の酸液を除去することにより行われる。この洗浄作業の後、水槽から引き上げた塊状多結晶シリコンを籠のまま乾燥器内に収容し、所定時間乾燥した後に取り出して梱包される。
【0022】
この梱包作業は、クリーンルーム内で温度、単位体積当たりの水蒸気量を調整した雰囲気下で行われる。具体的には、温度が20℃〜40℃、単位体積当たりの水蒸気量が17g/m3以下、より好ましくは13g/m3以下(例えば9g/m3)に調整される。そして、上記の構成の梱包袋のうち、図7(a)に示すように、まず内側梱包袋1aの内部に塊状多結晶シリコンWを収容する。次に、図7(b)に示すように、内側梱包袋1aの上端の開口部において、折り目のついていない一対の側面部2a,2aの内側面同士を合掌するように接近させ、この両側面部2a,2aの端部間に他の折り目のついた両側面部3a,3aの端部を谷折り状態に介在させて、これらを重ね合わせて余長部8aを形成する。この余長部8aの一部をシールして内部を密封する。そして、図7(c)に示すように、この余長部8aを複数回折り畳むことにより帯状の折り畳み部9aを形成し、塊状多結晶シリコンWの内側梱包袋1aへの収納手順が終了する。
【0023】
そして、図2に示すように、内部に塊状多結晶シリコンWを封入した内側梱包袋1aを外側袋1bに収納する。なお、外側梱包袋1bも内側梱包袋1aと同様に梱包袋1と同一形状とされているが、その外径寸法は内側梱包袋1aの外径寸法よりも僅かに大きなものとされている。
【0024】
内側梱包袋1aを外側梱包袋1bに収納する際には、断面形状である正方形の辺を揃えるようにして収納する。このとき、それぞれの折り込み部6a,6bが重ならないように90°ずらして、即ち、内側梱包袋1aの折り目のついてない側面部2a,2aと外側梱包袋1bの折り目のついた側面部3b,3bとが重なるように、また、内側梱包袋の折り目のついた側面部3a,3aと外側梱包袋1bの折り目のついていない側面部2b,2bとが重なるように、内側梱包袋1aの底面部4aと外側梱包袋1bの底面部4bを積層させる。これによって、それぞれの底面部4a,4bにおける折り込み部6a,6bと単層部7a,7bとが互いにペアとなるように重なり合い、図8に示すように、内側梱包袋1aと外側梱包袋1bとからなる二重構造の梱包体10の底面部11においては、三枚構造の折り込み部6a,6bと一枚構造の単層部7a,7bとによって、底面部11全域において透明フィルムによる四枚構造が形成される。
【0025】
このようにして内側梱包袋1aを内部に収納した外側梱包袋1bは、内側梱包袋1aと同様に、外側梱包袋1b上端の開口部において折り目のついていない一対の側面部2b,2bの内側面同士を合掌するように接近させ、この両側面部2b,2bの端部間に他の折り目のついた両側面部3b,3bの端部を谷折り状態に介在させて、これらを重ね合わせて余長部8bを形成し、この余長部8bの一部をシールして内部を密封する。さらにこれを複数回折り畳むことにより帯状の折り畳み部9bを形成して、内側梱包袋1aを内部に封入する。このような手順で梱包された塊状多結晶シリコンWを内部に収納した二重構造の梱包体10は、図9に示すような多数の収納スペースを有しさらにそれが内部で複数段重ねられた輸送ケース20に詰められて、単結晶シリコンの製造工場に出荷され、単結晶シリコン製造工場では、受け入れ後に速やかに又は所定期間保管された後、単結晶シリコンの製造原料として使用される。
【0026】
本実施形態に係るシリコン梱包体においては、その梱包袋が内側梱包袋1aと外側梱包袋1bとの二重構造とされ、外側梱包袋1bには、水蒸気バリア層15を有しているから、その内部雰囲気の湿度(水蒸気量)を梱包時の状態のまま長期間維持することができる。
前述したように、多結晶シリコンにシミが発生するのは、洗浄時に残留した酸が高湿度雰囲気で酸化することによるものと考えられるが、本実施形態においては、まず梱包作業時の雰囲気を温度が20℃〜40℃、単位体積当たりの水蒸気量が17g/m3以下に調整して、梱包袋内に封入される水蒸気量を制限している。そして、梱包袋のうち外側梱包袋1bを水蒸気バリア層の積層構造として、内部雰囲気を外部環境から遮断しており、単結晶シリコン製造工場において長期に保管されたとしても、内側梱包袋1a内の水蒸気量の増加を確実に防止することができる。したがって、内側梱包袋1aの内部雰囲気を塊状多結晶シリコンに酸化膜が生じにくい状態に梱包時から長期間維持することができ、これを原料とする単結晶シリコンを高純度に製造することができる。
【0027】
次に、このような本実施形態の梱包体の効果確認のために行った試験結果について説明する。
まず、本実施形態では外側梱包袋としたポリエチレン樹脂製の梱包袋を二重(内側袋と外側袋)にして塊状多結晶シリコンを収容したものを用いて、恒温・恒湿装置内において、所定条件の温度、湿度雰囲気で1か月放置した後のシミの発生状況を調査した。1個の梱包体には、最大部分の長さが45mm〜90mmの塊状多結晶シリコンを5kg収容し、これを6個作成した。その雰囲気としては、温度が20℃〜40℃、湿度が30%〜90%の範囲で図にa〜hで示した複数種類の条件とした。
その結果、図10に○で囲った条件のもの(a,b,c,e,f,g)にシミが発生した。このうち、c点における水蒸気量は30.1g/m3、g点では18.5g/m3となる。また、シミが発生しなかった条件のうち、d点は水蒸気量が15.3g/m3、h点は15.6g/m3である。この結果から、多結晶シリコンのシミの発生を防止するには、水蒸気量が17g/m3以下の雰囲気に保管される必要がある。
【0028】
次に、外側梱包袋に水蒸気バリア層としてアルミニウム薄膜を有する袋を用いた実施例の梱包体と、ポリエチレン樹脂製の梱包袋を二重にした比較例の梱包体とを同じ雰囲気で保管した際のシミの発生状況を調査した。この場合、温度が15℃で湿度が50%(水蒸気量が11.6g/m3)以下のクリーンルーム内で梱包作業を実施し、保管条件としては、40℃で湿度90%の雰囲気下に30日間放置した。いずれも、塊状多結晶シリコン(チャンク)としては最大部分の長さが30mm〜90mmのものとした。この塊状多結晶シリコンを梱包したもの6袋を用い、これら梱包体中の塊状多結晶シリコンの総重量及び総個数のうち、シミが発生した塊状多結晶シリコンの重量及び個数を調べた。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
この表1から明らかな通り、実施例の梱包体ではシミが発生したものはなく、高い水蒸気バリア性を有していることがわかる。
また、実施例の梱包体と比較例の梱包体とにそれぞれ温湿度計を収容し、恒温・恒湿装置内に放置して、梱包体内の温度と湿度とを測定した。図11(a)は、恒温・恒湿装置内を温度が40℃、湿度が90%の条件としたもの、図11(b)は温度が40℃で湿度が60%の条件としたものを示す。
この図11から明らかなように、比較例の梱包体においては、梱包当初の湿度は低いものの、その後、外部雰囲気の湿度付近にまで上昇しているが、実施例の梱包体においては、梱包時からの湿度変化が極めて少ない。したがって、本実施形態の梱包体は、梱包時の内部雰囲気を外部雰囲気に影響されることなく長期間維持することができる。
【0031】
なお、上述のように、内側梱包袋1aと外側梱包袋1bのそれぞれの折り込み部6a,6bが重ならないように90°ずらして底面部4a,4bを積層することによって、内側梱包袋1aと外側梱包袋1bとからなる二重構造の梱包体10の底面部11全域に、三枚構造の折り込み部6a,6bと一枚構造の単層部7a,7bとによる透明フィルムの四枚構造を形成することができる。
これによって、底面部11全域を緩衝性が高いものとすることができるため、内部に収納された塊状多結晶シリコンWに伝わる衝撃や振動を均等に分散、吸収することができ、塊状多結晶シリコンWと内側袋1aとの擦れを抑制することができる。従って、塊状多結晶シリコンW及び内側袋1aからの微粉末の発生を一層低減することができ、塊状多結晶シリコンWの品質の低下を防ぐことが可能となる。
【0032】
さらに、内側梱包袋1a内で塊状多結晶シリコンW及び内側梱包袋1aの微粉末が発生した場合であっても、内側梱包袋1aから塊状多結晶シリコンWを取り出す際に、微粉末を折り込み部6aの折り畳み箇所にトラップして該微粉末を内側梱包袋1a内に留めることによって、効率的に微粉末を除去することができるため、CZ法を行う石英ルツボ内に微粉末が混入することを抑制することができ、生成される単結晶シリコンの品質を維持することが可能となる。
【0033】
また、本実施形態においては、塊状多結晶シリコンWを内側梱包袋1aと外側梱包袋1bとからなる二重構造の梱包体10で梱包した際には、図1に示すように、両梱包袋1a,1bの上端部のそれぞれの折り畳み部9a,9bが90°向きを変えて交差することになるため、上端部における緩衝性も高いものとすることができ、上側からの振動や衝撃も適確に吸収することが可能となる。
【0034】
この梱包体の輸送試験を行って微粉末の発生状況を確認した。この試験では、長さ5〜60mmからなる塊状多結晶シリコンを5kgずつ梱包するにあたり、内側梱包袋と外側梱包袋の折り込み部が重なるようにしたものと、90°ずらして交差するようにしたもの(本実施例)とをそれぞれ500袋ずつダンボール箱に梱包した。このダンボール箱をトラックに積載し、輸送時の振動を再現するために500km走行を行った。その後ダンボール箱の中身を確認したところ、内側梱包袋と外側梱包袋の折り込み部が重なるようにしたものは底部に微粉末の付着が確認されたのに対し、内側梱包袋と外側梱包袋の折り込み部を交差するように包装したものは底部の汚れが確認されなかった。
【0035】
以上、本発明の実施の形態であるシリコンの梱包方法及び梱包体について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、水蒸気バリア層として金属薄膜を用いたが、必ずしも金属に限定されるものではなく、内側梱包袋の材料として用いられているポリエチレン樹脂よりもバリア性の高い、例えばポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)等を用いてもよい。
また本実施形態においては、内側梱包袋1a及び外側梱包袋1bのそれぞれにおいて、折り目のついてない側面部2a,2bを重ね合わせるようにして余長部8a,8bを形成し、これを複数回折り畳むことによって折り畳み部9a,9bを形成したが、折り目のついた側面部3a,3bを重ね合わせるようにして余長部を形成し、これによって折り畳み部を形成してもよい。
【0036】
また、外側梱包袋1bの内面を構成する樹脂製表面層にスリップ剤を含有しておいてもよい。これによって内側梱包袋1aを外側梱包袋1b内に滑らかに押し入れることができ、二重梱包の際の作業を容易にすることができる。また、外部からの振動が外側袋に伝わった際には、内側梱包袋1aの表面と外側梱包袋1bの内面とがスリップすることによって、外側梱包袋1bが振動してもこれが内側梱包袋1aに伝わることを低減することが可能となる。これによって、塊状多結晶シリコンWに伝わる振動をさらに低減することができ、微粉末の発生を一層効果的に抑制することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、塊状多結晶シリコンWを二重構造で梱包する場合を説明したが、これに限定されることはなく、三重構造やそれ以上のものであってもよい。また、梱包袋1は、折り込み部が形成されている限り、本実施の形態の形状のものに限定されることはない。即ち、いかなる形状の梱包袋であろうとも、各梱包袋の底面部をずらして積層させ、梱包体の底面部の全域に折り込み部を配置させることが本発明の趣旨であり、これを満たす限りいかなる実施形態をも包含する。
【0038】
さらに、本実施形態では、梱包対象として塊状多結晶シリコンWを挙げたが、これに限定されることはなく、例えば、棒状の多結晶シリコンを切断したカッドロッド等や単結晶シリコンを梱包する場合にも、本シリコンの梱包方法及び梱包体を適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 梱包袋
1a 内側梱包袋
1b 外側梱包袋
3,3a,3b 側面部
4,4a,4b 底面部
5 底シール部
6,6a,6b 折り込み部
8a,8b 余長部
9a,9b 折り畳み部
10 二重構造の梱包体
15 水蒸気バリア層
16 樹脂製表面層
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶シリコンを製造する際に溶融原料として用いる多結晶シリコンを主な梱包対象とするシリコン用梱包体及び梱包方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶シリコンを製造する方法の一つとしてチョクラルスキー法(以下、CZ法と称する)が知られている。このCZ法は、無転移あるいは格子欠陥が極めて少ない状態で大口径、高純度のシリコン単結晶が容易に得られるといった利点を有している。
【0003】
CZ法では、超高純度の多結晶シリコンを石英ルツボ内に入れて加熱炉で溶解し、このシリコン溶融液にワイヤで吊り下げた種結晶(シリコン単結晶)を接触させ、回転させつつ徐々に引き上げてシリコン単結晶を成長させる。この際に、石英ルツボ内の容積効率を上げてシリコン単結晶の生産性を向上させるために、棒状の多結晶シリコンを切断、破砕した塊状多結晶シリコン(チャンクと称される)が高密度に装入される。
【0004】
この塊状多結晶シリコンは、棒状の多結晶シリコンを切断、破砕した後、洗浄され、乾燥後にポリエチレン樹脂袋等の梱包袋に梱包されて輸送されるが、乾燥が不十分であったり、保管時の周辺雰囲気等の影響を受けるなどにより、シミが発生する場合があり、その後の単結晶シリコンの品質を低下させるおそれがある。このシミは、洗浄時に使用される酸が多結晶シリコンの表面に残留し、その後の雰囲気中の水分によって酸化してできた酸化膜と想定される。このシミの発生を防止するには、梱包袋内の雰囲気を低湿度に維持することが重要であり、このため、梱包袋を水分に対するバリア性が高いフィルムで形成することが考えられる。
従来、このような水分に対するバリア性の高いフィルムを使った梱包袋として、特許文献1には、電子部品等の半導体防湿包装用袋として、基材フィルム、バリア層、ヒートシール層を積層して構成したラミネートフィルムからなるものが提案されており、そのバリア層として、アルミニウム、ニッケル、チタン、マグネシウム等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−274594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、塊状多結晶シリコンは、脆性材料であるため、切断面の縁及び破砕面の縁が鋭利であることが多い。このため、輸送時の振動等によって梱包袋の表面と擦れ合って、梱包袋に傷等が発生し易い。
したがって、特許文献1に記載のラミネートフィルムを塊状多結晶シリコンの梱包袋として用いる場合には、その振動によって梱包袋が擦れて、バリア層の金属が露出するおそれがあり、その金属分が多結晶シリコンに混入すると、単結晶シリコンの汚染の問題が生じる。
【0007】
この発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、多結晶シリコンのシミの発生を抑制するとともに、これを原料とする単結晶シリコンの汚染発生を防止することができるシリコン用梱包体及び梱包方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係るシリコン用梱包体は、複数の梱包袋を用いた多重構造のシリコン用梱包体であって、前記複数の梱包袋は、シリコンを収容する樹脂製内側梱包袋と、該シリコンを収容した内側梱包袋をさらに収容する外側梱包袋とを備え、該外側梱包袋は、水蒸気バリア層の両面に樹脂製表面層を配置してなる積層フィルムによって形成されていることを特徴とする。
【0009】
このシリコン用梱包体は、梱包袋を多重構造とし、その内側梱包袋にシリコンを収容して、外側梱包袋の水蒸気バリア層によって水蒸気の透過を遮断するようにしている。内側梱包袋としては従来から実績のあるポリエチレン等の樹脂を使用することができ、水蒸気バリア層は、内部のシリコンが直接接触しない外側梱包袋に用いられているので、その水蒸気バリア層として金属を用いたとしても、輸送時の振動等によってシリコンと内側梱包袋とが擦れ合うだけでは水蒸気バリア層の金属分がシリコンに混入することはなく、単結晶シリコンへの汚染発生を抑制することができる。
【0010】
本発明のシリコン梱包体において、前記水蒸気バリア層は、金属薄膜によって形成されているとよい。
金属薄膜によって確実に水蒸気を遮断することができ、梱包体内の雰囲気を梱包時のまま長期間保持することができ、外部環境による影響を受けにくいので、保管状況に左右されずに高純度を維持することができる。
水蒸気バリア層に用いられる金属としてはアルミニウムが好適である。
【0011】
また、本発明のシリコン梱包方法は、樹脂製内側梱包袋と、水蒸気バリア層の両面に樹脂製表面層を配置してなる積層フィルムによって形成された外側梱包袋とを用意しておき、少なくともこれら袋内の雰囲気の水蒸気量を17g/m3以下とした状態でシリコンを前記内側梱包袋内に収容するとともに、該シリコンを収容した内側梱包袋をさらに前記外側梱包袋により収容することを特徴とする。
梱包時の雰囲気中の水蒸気量を制限することにより、梱包初期の梱包袋内の水蒸気量を少なくするとともに、水蒸気バリア層を有する外側梱包袋によって、内部雰囲気の水蒸気量の増加を長期間抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシリコン用梱包体及び梱包方法によれば、シリコンを内側梱包袋に収容し、さらにこれを外側梱包袋に収容した多重の梱包構造とし、しかも、その外側梱包袋に水蒸気バリア層を設けたことにより、内部雰囲気を梱包時のまま長期間保持することができる。したがって、梱包袋内の水蒸気量の増加を抑制して、多結晶シリコンのシミの発生を防止することができ、単結晶シリコンの品質の低下を確実に回避することができる。また、水蒸気バリア層を外側梱包袋に用いて、シリコンと直接接触しないようにしているから、振動等が生じてシリコンが梱包袋と擦れ合ったとしても、水蒸気バリア層が露出することはなく、その後の単結晶シリコンを汚染することはない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態である内側梱包袋と外側梱包袋とからなる二重構造の梱包体の斜視図である。
【図2】内側梱包袋を外側梱包袋に収納する際の説明図である。
【図3】外側梱包袋を構成しているフィルムの断面拡大図である。
【図4】梱包袋の斜視図である。
【図5】梱包袋の底面図である。
【図6】図5における底面部のA―A断面図である。
【図7】塊状多結晶シリコンを内側梱包袋に収納する際の手順を説明する図である。
【図8】内側梱包袋と外側梱包袋とからなる二重構造の梱包体の底面部の平面図である。
【図9】輸送ケースを示す図である。
【図10】樹脂製梱包袋を用いてシリコンを梱包し所定温度、湿度の雰囲気中に保管した際のシミ発生状況を示すグラフである。
【図11】梱包袋の水分透過試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態であるシリコン用梱包体及び梱包方法について図面を参照して説明する。
本実施形態の梱包体10は、図1及び図2に示すように、内側梱包袋1a及び外側梱包袋1bから構成される。内側梱包袋1aは、例えばポリエチレン樹脂等の透明な樹脂の単一層からなるフィルムによって形成され、外側梱包袋1bは、図3に示すように、水蒸気バリア層15の両面に樹脂製表面層16を配置してなる積層フィルムによって形成されている。
内側梱包袋1aに用いられる樹脂は、具体的には、ポリエチレンフィルムが好適であるが、ポリエチレンやポリプロピレンなどからなるポリオレフィン系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルムなどを用いることができる。未延伸フィルム、あるいは一軸方向又は二軸方向に延伸した延伸フィルム等のいずれも使用可能である。その肉厚としては、200μm〜300μmとされる。
【0015】
外側梱包袋1bについては、その表裏両面に配置される樹脂製表面層16は、内側梱包袋1aに用いられる樹脂と同じ樹脂を用いることができる。
また、両表面層16の間に介在される水蒸気バリア層15は、金属薄膜によって構成され、その金属としてはアルミニウム、ニッケル、チタン、マグネシウム、銅、錫等を用いることができる。その膜厚としては、3μm〜20μmの範囲内に設定される。水蒸気バリア性を発揮するためには、最低3μm以上、より好ましくは5μm以上の膜厚が必要であり、厚いほどピンホール等の欠陥も生じにくいが、コスト、重量等を抑えるため及び袋としての取り扱い性(柔軟性)を考慮して20μm以内とするのが好ましく、15μm以内がより好ましい。
【0016】
この水蒸気バリア層15は箔又は蒸着膜等によって形成され、水蒸気バリア層15となる金属箔の両面に表面層16となる樹脂フィルムをラミネートする、又は、金属箔の両面に樹脂をコーティングして表面層16とする、あるいは、表面層16となる樹脂フィルムの片面に水蒸気バリア層15となる金属を蒸着して、その上から他の表面層16となる樹脂フィルムを積層する、などの方法により形成される。
なお、樹脂製表面層16の肉厚は、梱包作業などの取り扱い中又は輸送中の振動等によって塊状多結晶シリコン等の鋭利な角部に接触したとしても水蒸気バリア層15を露出させないように保護する目的で、80μm〜140μmとされる。
【0017】
これら内側梱包袋1a及び外側梱包袋1bは、前述したように材料は異なるが、その袋としての形状は同じである。以下では、両袋の各部について、同じ名称、同じ符号を用いて説明する。また、以下の説明及び関連する図面において、両梱包袋を特に区別しないで説明する場合には、符号を1として統一する。
すなわち、これら梱包袋1は、4つの側面部2,2,3,3と底面部4とを備えた断面略正方形の角底袋状の形状を有しており、4つの側面部2,2,3,3のうち、対向する一対の両側面部2,2は平面状とされるが、他の対向する一対の両側面部3,3には、該梱包袋1を小さく折り畳むことができるようにするため内側に向かって谷折り可能な折り目が長手方向に沿って設けられている。未使用時においては、該梱包袋1はこの折り目に沿って畳まれてコンパクトなものとされており、使用時に広げることによって袋状になるようにされている。
【0018】
この梱包袋1においては、底面部4は以下のようにして形成される。先ず筒状体のフィルムにおいて折り目が設けられた両側面部3,3が谷折りされ、その一端において、一対の側面部2,2から連続する部分Pの端部の内側面同士が合掌するように接近させることにより、この端部間に他の折り目のついた両側面部3,3から連続する部分Qの端部を谷折り状態に介在させて、これらをシール装置によって熱シールすることによって、底シール部5が形成される。そして、折り目の付いた両側面部3,3を平面状に広げて、他の一対の側面部2,2とによって筒状にすることにより、底シール部5の上方に、折り目の付いた両側面部3,3から連続する部分Qが内側に折り込まれてなる一対の折り込み部6が形成される。このようにして、折り込み部6は、図5に示すように平面視にて、底面部4と折り目のついた側面部3,3とのそれぞれの稜線を一辺とするとともに、底面部4の略中心で頂点を形成するような二等辺三角形状となる。
【0019】
この折り込み部6は、図6に示すように、底シール部5が設けられた底面部4の底表面に位置する層L1(両側面部2,2から連続する部分Pによって形成される層)と、折り目のついた側面部3,3から連続する部分Qが内側に山折りにされて形成された層L2と、さらにこの層L2が折り込み部6の内部で折り返されるように谷折りにされて形成された層L3との三枚の層が積層されることによって構成されている。即ち、底面部6においては、図2における二等辺三角形状の折り込み部6がフィルムの三枚構造とされており、その他の部分はフィルムが一枚のみの単層部7とされている。
【0020】
また、本実施形態においては、単結晶シリコンの原料となる塊状多結晶シリコンWを主な梱包対象としている。この塊状多結晶シリコンWは、単結晶シリコンを製造する方法の一つであるCZ法において原料として用いられるものであり、棒状の多結晶シリコンを切断、破砕することによって得られる。CZ法では、この塊状多結晶シリコンWを石英ルツボ内に入れて加熱炉で溶解し、このシリコン溶融にワイヤで吊り下げた種結晶(シリコン単結晶)を接触させ、回転させつつ徐々に引き上げてシリコン単結晶を成長させて、単結晶シリコンを製造する。
【0021】
次に、シリコンの梱包方法の具体的手順について説明する。
梱包される塊状多結晶シリコンは、前述したように棒状の多結晶シリコンを切断、破砕した後、洗浄、乾燥することにより得られる。このときの洗浄は、塊状多結晶シリコンを籠の中に収容しておき、酸液を満たした複数の洗浄槽に多結晶シリコンを籠ごと順次浸漬した後、最後に純水を満たした水槽に浸漬して、表面の酸液を除去することにより行われる。この洗浄作業の後、水槽から引き上げた塊状多結晶シリコンを籠のまま乾燥器内に収容し、所定時間乾燥した後に取り出して梱包される。
【0022】
この梱包作業は、クリーンルーム内で温度、単位体積当たりの水蒸気量を調整した雰囲気下で行われる。具体的には、温度が20℃〜40℃、単位体積当たりの水蒸気量が17g/m3以下、より好ましくは13g/m3以下(例えば9g/m3)に調整される。そして、上記の構成の梱包袋のうち、図7(a)に示すように、まず内側梱包袋1aの内部に塊状多結晶シリコンWを収容する。次に、図7(b)に示すように、内側梱包袋1aの上端の開口部において、折り目のついていない一対の側面部2a,2aの内側面同士を合掌するように接近させ、この両側面部2a,2aの端部間に他の折り目のついた両側面部3a,3aの端部を谷折り状態に介在させて、これらを重ね合わせて余長部8aを形成する。この余長部8aの一部をシールして内部を密封する。そして、図7(c)に示すように、この余長部8aを複数回折り畳むことにより帯状の折り畳み部9aを形成し、塊状多結晶シリコンWの内側梱包袋1aへの収納手順が終了する。
【0023】
そして、図2に示すように、内部に塊状多結晶シリコンWを封入した内側梱包袋1aを外側袋1bに収納する。なお、外側梱包袋1bも内側梱包袋1aと同様に梱包袋1と同一形状とされているが、その外径寸法は内側梱包袋1aの外径寸法よりも僅かに大きなものとされている。
【0024】
内側梱包袋1aを外側梱包袋1bに収納する際には、断面形状である正方形の辺を揃えるようにして収納する。このとき、それぞれの折り込み部6a,6bが重ならないように90°ずらして、即ち、内側梱包袋1aの折り目のついてない側面部2a,2aと外側梱包袋1bの折り目のついた側面部3b,3bとが重なるように、また、内側梱包袋の折り目のついた側面部3a,3aと外側梱包袋1bの折り目のついていない側面部2b,2bとが重なるように、内側梱包袋1aの底面部4aと外側梱包袋1bの底面部4bを積層させる。これによって、それぞれの底面部4a,4bにおける折り込み部6a,6bと単層部7a,7bとが互いにペアとなるように重なり合い、図8に示すように、内側梱包袋1aと外側梱包袋1bとからなる二重構造の梱包体10の底面部11においては、三枚構造の折り込み部6a,6bと一枚構造の単層部7a,7bとによって、底面部11全域において透明フィルムによる四枚構造が形成される。
【0025】
このようにして内側梱包袋1aを内部に収納した外側梱包袋1bは、内側梱包袋1aと同様に、外側梱包袋1b上端の開口部において折り目のついていない一対の側面部2b,2bの内側面同士を合掌するように接近させ、この両側面部2b,2bの端部間に他の折り目のついた両側面部3b,3bの端部を谷折り状態に介在させて、これらを重ね合わせて余長部8bを形成し、この余長部8bの一部をシールして内部を密封する。さらにこれを複数回折り畳むことにより帯状の折り畳み部9bを形成して、内側梱包袋1aを内部に封入する。このような手順で梱包された塊状多結晶シリコンWを内部に収納した二重構造の梱包体10は、図9に示すような多数の収納スペースを有しさらにそれが内部で複数段重ねられた輸送ケース20に詰められて、単結晶シリコンの製造工場に出荷され、単結晶シリコン製造工場では、受け入れ後に速やかに又は所定期間保管された後、単結晶シリコンの製造原料として使用される。
【0026】
本実施形態に係るシリコン梱包体においては、その梱包袋が内側梱包袋1aと外側梱包袋1bとの二重構造とされ、外側梱包袋1bには、水蒸気バリア層15を有しているから、その内部雰囲気の湿度(水蒸気量)を梱包時の状態のまま長期間維持することができる。
前述したように、多結晶シリコンにシミが発生するのは、洗浄時に残留した酸が高湿度雰囲気で酸化することによるものと考えられるが、本実施形態においては、まず梱包作業時の雰囲気を温度が20℃〜40℃、単位体積当たりの水蒸気量が17g/m3以下に調整して、梱包袋内に封入される水蒸気量を制限している。そして、梱包袋のうち外側梱包袋1bを水蒸気バリア層の積層構造として、内部雰囲気を外部環境から遮断しており、単結晶シリコン製造工場において長期に保管されたとしても、内側梱包袋1a内の水蒸気量の増加を確実に防止することができる。したがって、内側梱包袋1aの内部雰囲気を塊状多結晶シリコンに酸化膜が生じにくい状態に梱包時から長期間維持することができ、これを原料とする単結晶シリコンを高純度に製造することができる。
【0027】
次に、このような本実施形態の梱包体の効果確認のために行った試験結果について説明する。
まず、本実施形態では外側梱包袋としたポリエチレン樹脂製の梱包袋を二重(内側袋と外側袋)にして塊状多結晶シリコンを収容したものを用いて、恒温・恒湿装置内において、所定条件の温度、湿度雰囲気で1か月放置した後のシミの発生状況を調査した。1個の梱包体には、最大部分の長さが45mm〜90mmの塊状多結晶シリコンを5kg収容し、これを6個作成した。その雰囲気としては、温度が20℃〜40℃、湿度が30%〜90%の範囲で図にa〜hで示した複数種類の条件とした。
その結果、図10に○で囲った条件のもの(a,b,c,e,f,g)にシミが発生した。このうち、c点における水蒸気量は30.1g/m3、g点では18.5g/m3となる。また、シミが発生しなかった条件のうち、d点は水蒸気量が15.3g/m3、h点は15.6g/m3である。この結果から、多結晶シリコンのシミの発生を防止するには、水蒸気量が17g/m3以下の雰囲気に保管される必要がある。
【0028】
次に、外側梱包袋に水蒸気バリア層としてアルミニウム薄膜を有する袋を用いた実施例の梱包体と、ポリエチレン樹脂製の梱包袋を二重にした比較例の梱包体とを同じ雰囲気で保管した際のシミの発生状況を調査した。この場合、温度が15℃で湿度が50%(水蒸気量が11.6g/m3)以下のクリーンルーム内で梱包作業を実施し、保管条件としては、40℃で湿度90%の雰囲気下に30日間放置した。いずれも、塊状多結晶シリコン(チャンク)としては最大部分の長さが30mm〜90mmのものとした。この塊状多結晶シリコンを梱包したもの6袋を用い、これら梱包体中の塊状多結晶シリコンの総重量及び総個数のうち、シミが発生した塊状多結晶シリコンの重量及び個数を調べた。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
この表1から明らかな通り、実施例の梱包体ではシミが発生したものはなく、高い水蒸気バリア性を有していることがわかる。
また、実施例の梱包体と比較例の梱包体とにそれぞれ温湿度計を収容し、恒温・恒湿装置内に放置して、梱包体内の温度と湿度とを測定した。図11(a)は、恒温・恒湿装置内を温度が40℃、湿度が90%の条件としたもの、図11(b)は温度が40℃で湿度が60%の条件としたものを示す。
この図11から明らかなように、比較例の梱包体においては、梱包当初の湿度は低いものの、その後、外部雰囲気の湿度付近にまで上昇しているが、実施例の梱包体においては、梱包時からの湿度変化が極めて少ない。したがって、本実施形態の梱包体は、梱包時の内部雰囲気を外部雰囲気に影響されることなく長期間維持することができる。
【0031】
なお、上述のように、内側梱包袋1aと外側梱包袋1bのそれぞれの折り込み部6a,6bが重ならないように90°ずらして底面部4a,4bを積層することによって、内側梱包袋1aと外側梱包袋1bとからなる二重構造の梱包体10の底面部11全域に、三枚構造の折り込み部6a,6bと一枚構造の単層部7a,7bとによる透明フィルムの四枚構造を形成することができる。
これによって、底面部11全域を緩衝性が高いものとすることができるため、内部に収納された塊状多結晶シリコンWに伝わる衝撃や振動を均等に分散、吸収することができ、塊状多結晶シリコンWと内側袋1aとの擦れを抑制することができる。従って、塊状多結晶シリコンW及び内側袋1aからの微粉末の発生を一層低減することができ、塊状多結晶シリコンWの品質の低下を防ぐことが可能となる。
【0032】
さらに、内側梱包袋1a内で塊状多結晶シリコンW及び内側梱包袋1aの微粉末が発生した場合であっても、内側梱包袋1aから塊状多結晶シリコンWを取り出す際に、微粉末を折り込み部6aの折り畳み箇所にトラップして該微粉末を内側梱包袋1a内に留めることによって、効率的に微粉末を除去することができるため、CZ法を行う石英ルツボ内に微粉末が混入することを抑制することができ、生成される単結晶シリコンの品質を維持することが可能となる。
【0033】
また、本実施形態においては、塊状多結晶シリコンWを内側梱包袋1aと外側梱包袋1bとからなる二重構造の梱包体10で梱包した際には、図1に示すように、両梱包袋1a,1bの上端部のそれぞれの折り畳み部9a,9bが90°向きを変えて交差することになるため、上端部における緩衝性も高いものとすることができ、上側からの振動や衝撃も適確に吸収することが可能となる。
【0034】
この梱包体の輸送試験を行って微粉末の発生状況を確認した。この試験では、長さ5〜60mmからなる塊状多結晶シリコンを5kgずつ梱包するにあたり、内側梱包袋と外側梱包袋の折り込み部が重なるようにしたものと、90°ずらして交差するようにしたもの(本実施例)とをそれぞれ500袋ずつダンボール箱に梱包した。このダンボール箱をトラックに積載し、輸送時の振動を再現するために500km走行を行った。その後ダンボール箱の中身を確認したところ、内側梱包袋と外側梱包袋の折り込み部が重なるようにしたものは底部に微粉末の付着が確認されたのに対し、内側梱包袋と外側梱包袋の折り込み部を交差するように包装したものは底部の汚れが確認されなかった。
【0035】
以上、本発明の実施の形態であるシリコンの梱包方法及び梱包体について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、水蒸気バリア層として金属薄膜を用いたが、必ずしも金属に限定されるものではなく、内側梱包袋の材料として用いられているポリエチレン樹脂よりもバリア性の高い、例えばポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)等を用いてもよい。
また本実施形態においては、内側梱包袋1a及び外側梱包袋1bのそれぞれにおいて、折り目のついてない側面部2a,2bを重ね合わせるようにして余長部8a,8bを形成し、これを複数回折り畳むことによって折り畳み部9a,9bを形成したが、折り目のついた側面部3a,3bを重ね合わせるようにして余長部を形成し、これによって折り畳み部を形成してもよい。
【0036】
また、外側梱包袋1bの内面を構成する樹脂製表面層にスリップ剤を含有しておいてもよい。これによって内側梱包袋1aを外側梱包袋1b内に滑らかに押し入れることができ、二重梱包の際の作業を容易にすることができる。また、外部からの振動が外側袋に伝わった際には、内側梱包袋1aの表面と外側梱包袋1bの内面とがスリップすることによって、外側梱包袋1bが振動してもこれが内側梱包袋1aに伝わることを低減することが可能となる。これによって、塊状多結晶シリコンWに伝わる振動をさらに低減することができ、微粉末の発生を一層効果的に抑制することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、塊状多結晶シリコンWを二重構造で梱包する場合を説明したが、これに限定されることはなく、三重構造やそれ以上のものであってもよい。また、梱包袋1は、折り込み部が形成されている限り、本実施の形態の形状のものに限定されることはない。即ち、いかなる形状の梱包袋であろうとも、各梱包袋の底面部をずらして積層させ、梱包体の底面部の全域に折り込み部を配置させることが本発明の趣旨であり、これを満たす限りいかなる実施形態をも包含する。
【0038】
さらに、本実施形態では、梱包対象として塊状多結晶シリコンWを挙げたが、これに限定されることはなく、例えば、棒状の多結晶シリコンを切断したカッドロッド等や単結晶シリコンを梱包する場合にも、本シリコンの梱包方法及び梱包体を適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 梱包袋
1a 内側梱包袋
1b 外側梱包袋
3,3a,3b 側面部
4,4a,4b 底面部
5 底シール部
6,6a,6b 折り込み部
8a,8b 余長部
9a,9b 折り畳み部
10 二重構造の梱包体
15 水蒸気バリア層
16 樹脂製表面層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の梱包袋を用いた多重構造のシリコン用梱包体であって、
前記複数の梱包袋は、シリコンを収容する樹脂製内側梱包袋と、該シリコンを収容した内側梱包袋をさらに収容する外側梱包袋とを備え、該外側梱包袋は、水蒸気バリア層の両面に樹脂製表面層を配置してなる積層フィルムによって形成されていることを特徴とするシリコン用梱包体。
【請求項2】
前記水蒸気バリア層は、金属薄膜によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコン用梱包体。
【請求項3】
複数の梱包袋を用いた多重構造の梱包体でシリコンを梱包する方法であって、
樹脂製内側梱包袋と、水蒸気バリア層の両面に樹脂製表面層を配置してなる積層フィルムによって形成された外側梱包袋とを用意しておき、少なくともこれら梱包袋内の雰囲気の水蒸気量を17g/m3以下とした状態でシリコンを前記内側梱包袋内に収容するとともに、該シリコンを収容した内側梱包袋をさらに前記外側梱包袋により収容することを特徴とするシリコン用梱包方法。
【請求項1】
複数の梱包袋を用いた多重構造のシリコン用梱包体であって、
前記複数の梱包袋は、シリコンを収容する樹脂製内側梱包袋と、該シリコンを収容した内側梱包袋をさらに収容する外側梱包袋とを備え、該外側梱包袋は、水蒸気バリア層の両面に樹脂製表面層を配置してなる積層フィルムによって形成されていることを特徴とするシリコン用梱包体。
【請求項2】
前記水蒸気バリア層は、金属薄膜によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコン用梱包体。
【請求項3】
複数の梱包袋を用いた多重構造の梱包体でシリコンを梱包する方法であって、
樹脂製内側梱包袋と、水蒸気バリア層の両面に樹脂製表面層を配置してなる積層フィルムによって形成された外側梱包袋とを用意しておき、少なくともこれら梱包袋内の雰囲気の水蒸気量を17g/m3以下とした状態でシリコンを前記内側梱包袋内に収容するとともに、該シリコンを収容した内側梱包袋をさらに前記外側梱包袋により収容することを特徴とするシリコン用梱包方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−195425(P2010−195425A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42907(P2009−42907)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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