説明

シリコン精製方法およびシリコン精製装置

【課題】中空回転冷却体を用いるシリコン精製方法であって、大気雰囲気中で連続的にシリコン精製を行なうことを可能とするシリコンの精製方法を提供する。
【解決手段】原料シリコンを加熱して溶融シリコンとする溶融工程と、前記溶融シリコンを添加剤と接触させて、溶融状態において前記溶融シリコンよりも小さな比重を持つスラグを形成させる第1精製工程と、前記溶融シリコンの溶湯面の少なくとも一部が前記スラグにより覆われた被覆状態において、前記溶融シリコンに中空回転冷却体を浸漬する浸漬工程と、前記中空回転冷却体を回転させた状態において、前記中空回転冷却体の中空部に冷却流体を流すことにより前記中空回転冷却体の外周面に固体シリコンを晶出させる第2精製工程とを含むシリコン精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンの精製方法およびシリコン精製装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
世界的な環境保護意識の高まりにより、再生可能エネルギー源としての太陽電池が注目されている。しかし、太陽電池の需要が急増するにつれて半導体産業のシリコンスクラップを原料とするのみでは需要を賄いきれず、太陽電池用原料シリコンの不足が顕在化している。
【0003】
太陽電池のセルとなりうる太陽電池用原料シリコン(Solar Grade Silicon:以下、SOG−Siという。)は、一般に純度99.9999%(6N)以上で、比抵抗0.5Ωcm以上の純度のものが求められている。また、太陽電池のさらなる普及拡大には、太陽電池の製造コスト低減が不可欠であり、安価な太陽電池用原料シリコンの製造技術が求められている。
【0004】
このような背景の下、純度99%程度(低純度)の安価な金属級シリコン(Metallurgical Grade Silicon:以下、MG−Siという)から不純物を除去するシリコン精製方法が各種提案されている。
【0005】
たとえば特許文献1には酸化カルシウムと二酸化シリコンの混合物などを添加剤とすることにより、溶融シリコンからボロンを除去できることが従来例として開示されている(以下、従来方法1とする)。
【0006】
また、たとえば特許文献2には二酸化ケイ素を主成分とする固体とアルカリ金属の炭酸塩又は炭酸塩の水和物の一方又は両方を主成分とする固体を添加剤とすることでスラグを形成すると共に、溶融シリコン中のボロンを除去する方法(以下、従来方法2とする)が開示されている。
【0007】
また、たとえば特許文献3には溶融シリコンを不活性ガス雰囲気中で保持し、ここに中空回転冷却体を浸漬し、中空回転冷却体内部に冷却流体を送り込みながら中空回転冷却体を回転させて、その周面に固体シリコンを晶出させるシリコン精製方法が開示されている(以下、従来方法3とする)。なお、特許文献3における溶融シリコンからの除去対象は鉄やアルミニウムなどの、シリコンと共晶反応を呈する共晶不純物である。
【0008】
また、たとえば特許文献4には原料シリコンとケイ酸カルシウムを溶融混合し、シリコン中のボロンをケイ酸カルシウムスラグ中に移行させるボロン除去工程と、溶融シリコンとケイ酸カルシウムスラグの混合溶融物を不活性ガス雰囲気中で静置し、下層のケイ酸カルシウムスラグ層と上層の溶融シリコン層とに分離した後、溶融物の温度を原料シリコンの融点からケイ酸カルシウムの融点として、ケイ酸カルシウムスラグを凝固させると共に、シリコンを溶融状態で保持する分離工程と、不活性ガス雰囲気中で上記溶融シリコン中に冷却体を浸漬し、冷却体周面に高純度シリコンを晶出付着させた後、この冷却体を溶融シリコン中から引き上げ、晶出した高純度シリコン塊を冷却体から取外す工程と、得られた高純度シリコンを再び溶融した後、真空処理して高純度シリコン中のリンを蒸発除去するリン除去工程とからなるシリコン精製方法(以下、従来方法4Aとする)および、上記分離工程の後に、得られた溶融シリコンを真空処理槽に移し、真空処理して溶融シリコン中のリンを蒸発除去するリン除去工程と、不活性ガス雰囲気中で溶融シリコン中に冷却体を浸漬し、冷却体周面に高純度シリコンを晶出付着させた後、この冷却体を溶融シリコン中から引き上げ、晶出した高純度シリコン塊を冷却体から取外すシリコン晶出工程とからなるシリコン精製方法(以下、従来方法4Bとする)が開示されている。
【0009】
従来、中空回転冷却体を用いるシリコン精製方法(従来方法3など)は不活性ガス雰囲気中で行われてきた。これは特許文献3に「溶融シリコンが酸化すると表面に酸化被膜が生成し、かつ成長するので精製作業が妨害されると共に原料シリコンの損失につながる」と述べられており、これを回避するためである。
【0010】
そのため、添加剤を用いるシリコン精製方法(従来方法1,2など)においては不活性ガス雰囲気中での精製が必須ではない(たとえば特許文献2には「不活性(ガス)雰囲気中でも、大気雰囲気中でもどちらでもよい」と述べられている)ものの、両精製方法を連続して行なうシリコン精製方法(従来方法4A,4B)は不活性ガス雰囲気中で行われてきた。
【0011】
すなわち、上記のような従来型の精製方法(添加剤を用いるシリコン精製と中空回転冷却体を用いるシリコン精製を連続して不活性ガス雰囲気中で行なうことであり、連続精製、連続精製方法などと記すことがある)は、ボロンなどの除去と鉄などの除去を連続して行なえるという長所はあるものの、添加剤を用いるシリコン精製を大気雰囲気中で行なうことにより生じる、比較的簡便な装置および方法であるという利点(たとえば特許文献2、[0067]には、従来方法2の利点として「簡便な大気炉を使用することが可能であり、溶融シリコン溶湯面への二酸化ケイ素とアルカリ金属の炭酸塩等の添加剤を投入するだけと、非常に簡便に実施することができる」と述べられている)を利用できず、シリコン精製装置の複雑化やシリコン精製コストの増加を招くものであった。
【特許文献1】特開平8−73209号公報
【特許文献2】特開2005−255417号公報
【特許文献3】特開昭63−45112号公報
【特許文献4】特開平7−206420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、少なくともボロン、および鉄やアルミニウムなどの共晶不純物を溶融シリコンから連続して除去でき、また、添加剤を用いるシリコン精製を大気雰囲気中で行なうことにより生じる利点を利用できるシリコン精製方法を提供することを目的としている。また、本発明は上記のシリコン精製方法に適したシリコン精製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、溶融状態において溶融シリコンよりも小さな比重を持つスラグを形成する添加剤をボロンなどの除去のために用い、さらにこのスラグが溶融シリコンの溶湯面の少なくとも一部を覆った被覆状態において中空回転冷却体を用いるシリコン精製を行なうことにより、上記のように、添加剤を用いるシリコン精製を大気雰囲気中で行なうことにより生じる利点を利用でき、かつ、少なくともボロン、および鉄や、アルミニウムなどの共晶不純物を溶融シリコンから連続して除去できること、および溶融状態において溶融シリコンよりも小さな比重を持つスラグが溶融シリコンの溶湯面の少なくとも一部を覆った被覆状態を実現し、この被覆状態が中空回転冷却体の外周径と回転数で規定される周速によって制御できることを見出し、本発明に想到した。
【0014】
すなわち、本発明のシリコン精製方法は、原料シリコンを加熱して溶融シリコンとする溶融工程と、上記溶融シリコンを添加剤と接触させて、溶融状態において上記溶融シリコンよりも小さな比重を持つスラグを形成させる第1精製工程と、上記溶融シリコンの溶湯面の少なくとも一部が上記スラグにより覆われた被覆状態において上記溶融シリコンに中空回転冷却体を浸漬する浸漬工程と、上記中空回転冷却体を回転させた状態において、上記中空回転冷却体の中空部に冷却流体を流すことにより上記中空回転冷却体の外周面に固体シリコンを晶出させる第2精製工程とを含むシリコン精製方法である。
【0015】
また、本発明のシリコン精製装置は、溶融シリコンを保持する坩堝と、鉛直方向の回転軸を持つ中空回転冷却体と、中空回転冷却体の一部を所定の空隙を空けて覆う断熱部材を具備し、溶融シリコン中に中空回転冷却体の一部を浸漬し、中空回転冷却体を回転させると共に、中空回転冷却体の中空部に冷却流体を流しながら、中空回転冷却体の外周面に固体シリコンを晶出させるシリコン精製装置であって、固体シリコンの晶出時における中空回転冷却体と断熱部材との溶融シリコンに対する接触領域が、中空回転冷却体の回転軸を軸心とする同心円状に配置可能に構成されるシリコン精製装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、添加剤を用いるシリコン精製と中空回転冷却体を用いるシリコン精製を、連続して大気雰囲気中で行なうことができ、これにより、従来以上に簡便な精製方法および精製装置からなるシリコンの連続精製が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。
【0018】
<シリコン精製方法>
本発明のシリコン精製方法は、原料シリコンを加熱して溶融シリコンとする溶融工程と、上記溶融シリコンを添加剤と接触させて、溶融状態において上記溶融シリコンよりも小さな比重を持つスラグを形成させる第1精製工程と、上記溶融シリコンの溶湯面の少なくとも一部が上記スラグにより覆われた被覆状態において上記溶融シリコンに中空回転冷却体を浸漬する浸漬工程と、上記中空回転冷却体を回転させた状態において、上記中空回転冷却体の中空部に冷却流体を流すことにより上記中空回転冷却体の外周面に固体シリコンを晶出させる第2精製工程とを含む。
【0019】
また、本発明のシリコン精製方法は、上記各工程のうち、少なくとも第1精製工程と浸漬工程と第2精製工程とを大気雰囲気中で行なうことができる。
【0020】
<大気雰囲気>
本発明において「大気雰囲気中」とは、精製対象である溶融シリコンが閉鎖系にないことを指し、溶融シリコンの少なくとも一部が大気に接した状態であることをいう。その特徴として後述する「溶融シリコンと接する気体の成分をまったく制御できないか、あるいは定性的にしか制御できない状態であること」を挙げることができる。ここで「閉鎖系」とは、たとえばゲートバルブ(開閉バルブ)を備えたチャンバなどであり、その内部の気体と外部の気体とを完全に切り離すことができる系をいう。
【0021】
すなわち「大気雰囲気中」の代表例は図1に示すように坩堝1中の溶融シリコン2が大気と直接接している状態であり、この場合に溶融シリコン2と接する気体の成分は大気そのものであって、雰囲気を制御されていない状態にある。
【0022】
また、添加剤による溶融シリコンからのボロン除去効率の向上などを目的として、溶融シリコン2の内部または溶湯面に処理ガス21(アルゴン、窒素等の不活性ガス、あるいは不活性ガスに、水蒸気や、酸素ガスや、二酸化炭素などの酸化性ガス、または水素ガス、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスを混合した混合ガス)を吹き込んだり、吹き付けたりする場合がある(図2参照)。これも「大気雰囲気中」の一例である。
【0023】
このことは、図2における溶融シリコン2が閉鎖系にないことと共に、溶融シリコン2の溶湯面(溶融シリコン2内部における気泡界面ではない)と接する気体の成分が、定性的には制御できる(たとえば、吹き込むガス量を増やせば溶湯面と接する気体中の大気成分の比率は減少する)ものの、定量的には制御できないことからも分かる。なお、図2においては各種ガスを溶融シリコン2中に吹き込むための導入管を符号22で示す。
【0024】
また、溶融シリコンと接している雰囲気気体と、さらにその周囲の大気とが、ある程度切り離されている場合においても「大気雰囲気中」と考えられる場合がある。たとえば図3は大気中の埃や溶融シリコンから生じる粉塵(たとえば未反応の添加剤や溶融シリコンと添加剤との反応生成物などからなる)を取り除くことなどを目的として、溶融シリコン2を保持した坩堝1をチャンバ31の内部に配置し、外気(大気)をフィルタ32を通してチャンバ31内部に取り入れ、チャンバ31内部の気体をポンプ33などを用いてチャンバ31外へ排出する装置構成を示す。このような場合においても(フィルタ32の構造や大きさ、またはポンプ33の性能などにより、チャンバ31内部の多少の圧力低下が考えられる場合などはあるものの)、溶融シリコン2と接する気体の成分は大気の成分そのものであると見なされるからである。
【0025】
ただし、図3に示すような装置構成において外気(大気)取り入れ口を完全に閉じることができるバルブなどで構成した場合には「大気雰囲気中」でなくなることは言うまでもない。
【0026】
なお、言うまでも無く、上記定義は本発明のシリコン精製方法およびシリコン精製装置に関してのみ有効であって、従来例(特許文献2など)に記された『大気雰囲気中』がどのような状態を指しているかについて言及するものではない。
【0027】
<溶融工程>
上記溶融工程においては、原料シリコンを加熱して溶融シリコンとする。原料シリコンとしては特に限定されず、純度の優劣にかかわらず本発明の精製方法に適用することができる。
【0028】
原料シリコンの加熱は、坩堝を用いて行なうことができる。この溶融シリコンを保持する坩堝を構成する材料としては、一般に1450℃〜1600℃程度とされる溶融シリコンの温度において使用可能なものであれば、いかなるものであってもよいが、具体的にはシリカ製坩堝(シリカが90wt%以上)やムライト製坩堝(アルミナ69〜70wt%とシリカ30wt%の混合物からなる)、アルミナ製坩堝(アルミナが90wt%以上、好ましくは96wt%以上)などが好ましく用いられる。また、黒鉛製坩堝や黒鉛に炭化ケイ素を30〜50wt%含んだ炭化ケイ素製坩堝、または黒鉛に窒化ケイ素を20〜30wt%含んだ窒化ケイ素製坩堝であっても構わない。
【0029】
坩堝の形状や容量には特に制限は無いが、後述する傾動機構を備えていることが好ましい。
【0030】
また、加熱手段としては、たとえば図4の加熱装置3に示すように配設して坩堝内の原料シリコンを加熱溶融し、また溶融シリコンを所定の温度に保持する加熱装置を用いることができ、具体的には、市販の抵抗加熱装置、アーク炉、高周波誘導炉などを上げることができる。これらの加熱装置は単独で用いてもよいし、所望の温度条件を達成するために組み合わせて用いてもよい。
【0031】
<第1精製工程>
本発明の第1精製工程においては、上記溶融工程により溶融したシリコンを添加剤と接触させて、溶融状態において上記溶融シリコンよりも小さな比重を持つスラグを形成させる。本発明において、第1精製工程は上記の大気雰囲気中において行なうことができる。
【0032】
(添加剤)
上記添加剤は、溶融シリコンと接触させることで溶融シリコン中の不純物(主にボロン、アルミニウムなど)を除去する能力を持つ化合物およびこのような不純物を除去する能力を持つ化合物を含む混合物のうち、溶融状態において溶融シリコンよりも小さな比重を持つスラグを形成する化合物および該化合物を含む混合物のことである。このような化合物および混合物としては、たとえば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩あるいは珪酸塩などから適宜選択することができる。具体的には、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどを例示することができ、これらは単独で用いることができる。また、これら各々の化合物と二酸化ケイ素との混合物が好ましく用いられる。なお、混合物における各化合物の混合比は特に限定されるものではなく、精製精度などにより適宜選択することができる。スラグの融点または粘度を低減するために、酸化リチウム、酸化マグネシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物、またはフッ化カルシウムなどを適宜添加してもよい。
【0033】
溶融したシリコンと添加剤とを接触させる方法は特に限定されるものではなく、図5に示されるように、溶融シリコン2の溶湯面に添加剤4aを投入する方法や、図6に示されるように、添加剤4aを処理ガスと共に溶融シリコン2中に吹き込む方法や、原料シリコンと添加剤4aを固体状態で混合したものを加熱溶融する方法(図示せず)などを挙げることができる。なお、図6において添加剤4aを処理ガスと共に溶融シリコン2中に吹き込むための導入管を符号61で示す。
【0034】
本発明において使用する添加剤により生成するスラグは、溶融シリコンよりも小さな比重を持つので、図5、図6に示すようにスラグ4bは溶融シリコン2の溶湯面上に形成される。
【0035】
また、第1精製工程においては、シリコンの溶融状態を保持するように上記加熱装置により適宜加熱をすることができる。
【0036】
上記第1精製工程における具体的な反応を、添加剤として炭酸ナトリウムを用いた場合について説明する。炭酸ナトリウムを溶融シリコンに接触させると、炭酸ナトリウムは熱分解されて二酸化炭素を生成する。この二酸化炭素や処理ガス中の酸化性ガスにより溶融シリコン中のボロンが酸化されてボロン酸化物が生成する。このボロン酸化物はスラグ(炭酸ナトリウムの分解生成物であるナトリウム酸化物や二酸化ケイ素、およびそれらの反応生成物などを含む)中に取り込まれる。さらに、たとえばNaBOが形成され、スラグから気化蒸発することが考えられる。酸化性ガスとして水蒸気を用いた場合には、たとえばHBOが形成され、スラグまたは溶融シリコンから気化除去することが考えられる。これら一連の反応により、溶融シリコン中のボロンが除去される。よって、これら「添加剤を溶融シリコン2と接触させる」工程を上記のように第1精製工程と称する。
【0037】
なお、溶融シリコン中のボロン濃度を効率よく下げる方法としては、添加剤の添加によるボロン除去を複数回繰り返す方法が挙げられる。この場合には生成したスラグを坩堝外に排出する必要があり、この排出のための好ましい手法としては、図7に示すような坩堝1の傾動によるスラグ4bの排出を挙げることができる。なお、図7において傾動角度をφとして示す。このようなスラグの坩堝外への排出工程は本発明において必須の工程ではないが、ボロン除去効率の点からは行なうことが好ましく、工程としては、上記第1精製工程の一部と見なすことができる。
【0038】
<浸漬工程>
本発明において、上記浸漬工程とは、上記第1精製工程により溶融シリコンの溶湯面の少なくとも一部がスラグにより覆われた被覆状態において、図8のように、溶融シリコンに中空回転冷却体を浸漬する工程をいう。この浸漬工程は、後述の第2精製工程におけるシリコン晶出の準備段階であって、シリコンの晶出をさせる工程ではない。また、本発明において、浸漬工程は上記の大気雰囲気中において行なうことができる。
【0039】
(被覆状態)
浸漬工程における上記被覆状態としては、スラグが溶融シリコンの溶湯面の全面を覆う状態が好ましいが、後述のように乖離状態によって生じる溶融シリコンの溶湯面の面積とスラグによる被覆面積の差などを考慮すると、必ずしもスラグが溶融シリコンの溶湯面の全面を覆っていなくてもよく、少なくとも溶融シリコンの溶湯面の一部を被覆した状態であればよい。
【0040】
溶融シリコンの溶湯面を被覆するスラグは、上記ボロン除去を目的として第1精製工程において添加した添加剤によって生成したスラグ全量であってもよく、第1精製工程において生じたスラグの一部を上述の傾動機構などにより坩堝から排出し、任意量を残したスラグであってもよい。また、ボロン除去を目的として添加した添加剤によって生成したスラグを(実質的に)全量排出した後、改めて被覆状態を実現するために添加した添加剤によって生成したスラグであってもよい。ここで、ボロン除去を目的として添加する添加剤と、上記改めて被覆状態を実現するために添加する添加剤とは、同一であってもよく、互いに異なるものでもよい。これらのなかでも、精製工程の簡略化および使用材料の削減の点から見て、第1精製工程においてボロン除去を目的として添加した添加剤によって生成した上記スラグの一部を坩堝から排出し、任意量残したスラグにより被覆した状態であることが好ましい。
【0041】
このような被覆状態を実現することにより、大気雰囲気中の反応であっても、溶融シリコンの溶湯面が大気に接触することによる酸化を抑制することができ、後述の中空回転冷却体を用いたシリコン精製工程における酸化被膜による精製妨害やシリコンの損失を抑えることができる。
【0042】
すなわち本発明者らの検討により、溶融シリコンが大気と接触して酸化物を形成しても、溶湯面上のスラグが酸化物を取り込み、酸化物の融点を下げ、酸化の進行による溶湯面の凝固を防ぐことが分かった。
【0043】
(中空回転冷却体)
中空回転冷却体は、一端が閉じた中空構造体であり、内部に冷却流体を流すための中空部と鉛直方向の回転軸を持つ回転機構を備える。
【0044】
上記中空回転冷却体の材料としては一般に、黒鉛または窒化ケイ素などが用いられるが、黒鉛材料からなる構造体表面の少なくとも一部をアルミナなどのセラミック材料で覆ったものであってもよい。
【0045】
(浸漬)
この浸漬工程は上記中空回転冷却体を回転させた状態でも、回転させずに行なってもよい。また、この浸漬の際には、中空回転冷却体の中空部に冷却流体(図示せず)を流した状態でも、流さない状態でも行なうことができる。ここで、浸漬工程において冷却流体を流した状態での冷却流体の流量を第1流量とする。
【0046】
本発明においては上記のように中空回転冷却体の中空部に冷却流体を流さない状態か、または、たとえば100〜2000l/min程度の比較的少ない第1流量で冷却流体を流した状態において浸漬することが好ましい。なぜならば被覆状態において、中空回転冷却体を溶融シリコン中に浸漬すると、溶湯面を被覆したスラグの一部が中空回転冷却体に接触し、その外周面の一部に付着する場合が多く、この際に冷却流体の流量が必要以上に多いと、付着したスラグが冷却されて固化してしまうからである。このように中空回転冷却体にスラグが固化した状態で後述の固体シリコンの晶出を行なうと、得られた固体シリコン中にスラグが混入し、汚染されるため、シリコン精製効率を著しく下げることになる。
【0047】
すなわち、中空回転冷却体に冷却流体を流さずに浸漬するか、または上記比較的少ない第1流量で冷却流体を流しつつ浸漬することにより、中空回転冷却体の外周面の温度を高温(溶融シリコンの温度に近い温度)とし、よって中空回転冷却体の一部に付着したスラグを再度溶融シリコン中に分散させることができる。なお、この再分散を効率的に行なうためには、中空回転冷却体を、冷却流体を流さずに浸漬するか、または第1流量で冷却流体を流した状態で浸漬し、この浸漬状態を任意の期間維持する再分散期間を設けることが好ましい。
【0048】
<第2精製工程>
上記第2精製工程は、中空回転冷却体を回転させた状態において、中空回転冷却体の中空部に冷却流体を流すことにより上記中空回転冷却体の外周面に固体シリコンを晶出させる工程である。本発明において、第2精製工程は上記の大気雰囲気中において行なうことができる。
【0049】
上記固体シリコンは、中空回転冷却体を回転させた状態において、上記中空回転冷却体の中空部(内部)に冷却流体(窒素などの不活性ガスが好ましく用いられる)を流して中空回転冷却体を冷却することにより、中空回転冷却体の(少なくとも一部の)温度をシリコンの融点(1412℃)よりも低いものとし、溶融シリコン中に浸漬した中空回転冷却体の外周面に固体シリコンを晶出させることができる。そして、この固体シリコンは偏析効果によって原料シリコンよりも共晶不純物濃度が低くなったシリコンである。
【0050】
(実施形態1)
第2精製工程の本発明の実施形態1について説明する。まず、中空回転冷却体を鉛直方向の回転軸に対して所定の回転数(第1回転数)、たとえば40〜600rpmで回転させる(図9参照)。この第1回転数は中空回転冷却体の外周面に固体シリコンを晶出する際の回転数であると同時に、溶融シリコンの溶湯面を覆うスラグを中空回転冷却体の外周面から坩堝内壁面方向へ押しやる(乖離状態の実現)ために必要な回転数でもある。該第1回転数は特に限定されるものではなく、中空回転冷却体の容積、直径や流量などの各条件にあわせて適宜選択すればよい。
【0051】
上述のように溶融シリコン中に浸漬した中空回転冷却体を回転させることにより、溶融シリコン溶湯面に渦状の流れが生じ、これにより溶融シリコン溶湯面上のスラグに遠心力が働くために、スラグが坩堝内壁面方向へ押しやられ、中空回転冷却体とスラグが乖離した(接触しない)状態が実現できると考えられる。この乖離状態で中空回転冷却体の冷却を行なえば、中空回転冷却体の外周面にスラグが付着、固化することは無い。
【0052】
よって、中空回転冷却体の第1回転数での回転開始と同時に、または第1回転数での回転による中空回転冷却体とスラグとの乖離状態の確認後に、冷却流体を第2流量で流すことにより、中空回転冷却体の外周面にスラグの混入が無い状態の固体シリコンを晶出することができる。ここで、第2流量とは、第2精製工程における中空回転冷却体の中空部の冷却液体の流量をいい、上記第1流量よりも大きければよいものである。
【0053】
なお、中空回転冷却体の第1回転数での回転開始と同時に冷却流体を第2流量で流し始めても構わないのは、より詳細には、冷却流体の供給と中空回転冷却体の外周面の冷却の間にはある程度のタイムラグがあり、このタイムラグの間に中空回転冷却体とスラグとの乖離状態が実現できればよいからである。
【0054】
また、中空回転冷却体とスラグとの乖離状態において、溶融シリコンの溶湯面が大気に触れる領域(たとえば図9に示す中空回転冷却体5とスラグ4bとが乖離した乖離領域91)がわずかながら生じ、ここから溶融シリコンの酸化が起こりうる。しかしながら、ここで生成する酸化被膜はそもそも微量である上に、中空回転冷却体の渦流により坩堝内壁面方向へ押しやられてスラグに取り込まれ大きく成長しないので、シリコン精製に対する有意な悪影響を与えない程度となる。
【0055】
このように、中空回転冷却体の回転と冷却流体を流すことによる冷却により固体シリコンを晶出させる工程を第2精製工程という。
【0056】
本発明においては、上記中空回転冷却体を溶融シリコンから引き上げる工程により、上記晶出した固体シリコンを取り出すことができる。晶出した固体シリコンを溶湯から引き上げるためには、坩堝と中空回転冷却体の相対位置を変える駆動系(図示せず)を坩堝および中空回転冷却体の少なくとも一方に具備することが一般的である。
【0057】
この取り出しの際に、中空回転冷却体の外周面に晶出した固体シリコンの大きさによっては、溶融シリコンからの引き上げ工程時に固体シリコンとスラグが接して、固体シリコンを汚染する場合が考えられる。この汚染を回避するためには、固体シリコンの引き上げ前に中空回転冷却体を上記第1回転数より大きな回転数(第2回転数)、たとえば100〜800rpmで回転すればよい。より大きな第2回転数によりスラグにより大きな遠心力を与えることができ、中空回転冷却体とスラグとの乖離領域を大きくすることができ、この大きな乖離領域から固体シリコンをスラグと接しないように引き上げることができるからである。なお、第2回転数は、晶出させた固体シリコンの大きさにより適宜調節すればよく、第2回転数で中空回転冷却体を回転させる工程を高速回転工程と称する。
【0058】
ここで、上記乖離状態の発生の有無および乖離領域の大小は、厳密には中空回転冷却体と溶融シリコンの溶湯面との接触領域における周速度によって規定されるが、同一形状の中空回転冷却体を同様の浸漬状態で用いる限り、回転数のみによって規定されると見なされる。この点から言うと、中空回転冷却体の外周面に固体シリコンが晶出した場合には、中空回転冷却体の見かけの円周径が大きくなるので、同じ回転数でも周速度は大きくなる。従って、同じ回転数(第1回転数)であっても乖離領域は大きくなると考えられるが、より確実に乖離領域を広げるためには回転数を大きく(第2回転数)することが好ましい。
【0059】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2として、上記第1回転数が、中空回転冷却体外周面に固体シリコンを晶出させる回転数であるが、上記のような乖離領域を生じない回転数である場合について説明する。この場合は、上記第2精製工程における乖離領域を生じないことにより、上記実施形態1におけるような微量の酸化被膜の生成をも防止することを可能とする実施形態である。
【0060】
本実施形態2において、晶出する固体シリコンがスラグによって汚染されないようにするためには、晶出した固体シリコンが溶融シリコンの溶湯面において晶出しないこと、および中空回転冷却体と接触したスラグが固化しないことの2つの条件が必要となる。なぜならば、固体シリコンが溶融シリコンの溶湯面において晶出すると、固体シリコンがスラグと接触して汚染されるおそれがあるからであり、また、中空回転冷却体と接触したスラグが固化すると、上記第2回転数によっても、引き上げ時に固体シリコンとスラグが接しない大きさの乖離領域が形成できないおそれがあるからである。
【0061】
このような2つの条件を満たすための構成として、第2精製工程において中空回転冷却体の溶融シリコンの溶湯面と接する領域が断熱材料からなるシリコン精製装置を挙げることができる(たとえば、図10に示すような断熱材料からなる部材101を具備する中空回転冷却体5を例示することができる)。中空回転冷却体の外周面の溶融シリコンの溶湯面と接する領域を断熱材料で覆うことにより、中空回転冷却体の内部(中空部)を流れる冷却流体により、中空回転冷却体の外周面と溶融シリコンの溶湯面と接する領域が冷却されにくくなり、その領域の中空回転冷却体の周面温度を高温(溶融シリコンの温度と近い温度)に保つことができる。そのため、この領域では固体シリコンの晶出やスラグの固化が起きにくくなるからである。
【0062】
ここで上記「断熱材料」とは、その熱伝導率が、中空回転冷却体を構成する材料のうち最も熱伝導率が高い材料よりも低い熱伝導率であり、溶融シリコン中で使用可能な材料であれば、いかなるものであってもよいが、カーボン製のフェルト材や、耐熱性が高く安価なセラミックとしてアルミナなどが好ましく使用される。
【0063】
なお、実施形態2に対応する図10においては、断熱材料からなる部材101の形状を中空回転冷却体5のテーパ開始(下方に向けて小さくなる)位置の形状と同形であるように示してあるが、この位置および形状に限定されるものではない。すなわち固体シリコン6の晶出に好ましく用いられる回転数(第1回転数)において、乖離領域を形成しない周速を持つように適宜部材101の形状(周径)を調整すればよい。
【0064】
(実施形態3)
次に、本発明の実施形態3として、上記一旦形成した乖離領域を強制的に維持することのできるシリコン精製装置および、これを用いたシリコン精製方法について説明する。
【0065】
本実施形態3においては、たとえば図11に示すように、溶融シリコン2を保持する坩堝1と、冷却流体を流すための中空部と鉛直方向の回転軸を持つ中空回転冷却体5と、中空回転冷却体5の一部を所定の空隙を空けて覆う断熱部材7を具備したシリコン精製装置を用いる。
【0066】
上記断熱部材7の形状は、中空回転冷却体5の回転軸を軸心とする円筒形であることが一般的である。断熱部材7は、上記実施形態2における断熱材料と同様な材料から構成することができる。このような断熱部材7は、たとえば、図17に示されるように、接続領域7a(断熱部材と一体形成されてはいるが、円筒形から逸脱した形状を持つ領域)と円筒領域7bとから構成されており、その接続領域7aにより中空回転冷却体5の一部に接続して固定されるか、図18に示されるように、ネジなどの接続部材8(断熱部材とは別途配設され、固定される部材)によって中空回転冷却体5の一部に接続して固定されるか、あるいは断熱部材7は中空回転冷却体5の回転軸方向に平行移動可能(いわゆる「スライド」可能)に配置される。図11は平行移動可能な場合の例を示すものである。なお、断熱部材7が中空回転冷却体5の回転軸方向に平行移動可能に配置された場合には、断熱部材7と中空回転冷却体5とは独立した回転機構を持つことが好ましい。
【0067】
上記のように断熱部材7を、中空回転冷却体5の一部を所定の空隙を空けて覆うように配置することにより、断熱部材7と中空回転冷却体5を相対的に移動(平行移動)させることが出来る、それぞれ異なる回転数で回転できる、空隙中に不活性ガスを導入することで装置の長寿命化を図れるなどの利点が生じる。ここで、所定の空隙とは、上述のようにそれぞれが異なる回転数で独立に回転できる間隔であることが好ましい。
【0068】
図11に示すようなシリコン精製装置を用いたシリコン精製方法の一例を以下に示す。
まず、実施形態1に準じた第1精製工程を行ない、図12に示すように、スラグ4bが溶融シリコン2の溶湯面の少なくとも一部を覆った被覆状態とする。
【0069】
引き続き、中空回転冷却体5を溶融シリコン2中に浸漬する(浸漬工程)。この浸漬工程も実施形態1同様に、中空回転冷却体5を回転させつつ浸漬してもよいし、回転させずに浸漬させてもよい。また、中空回転冷却体5内部に冷却流体を流しながら行なってもよいし、流さない状態で行なってもよい。
【0070】
また、この浸漬工程においては、図13に示すように、断熱部材7は溶融シリコン2中に浸漬されてはいない。この「中空回転冷却体5だけが溶融シリコン2中に浸漬されており、断熱部材7は浸漬されていない状態」は、あらかじめ定められた中空回転冷却体5と断熱部材7との位置関係によっても実現できるが、好ましくは断熱部材7の中空回転冷却体5に対する平行移動によって実現でき、本実施形態3においては平行移動による例を示すものとする。
【0071】
ここで、断熱部材7が侵入するのに十分な大きさを持つ乖離領域141を発生する回転数(第3回転数)にて中空回転冷却体5を回転し(図14参照)、速やかに断熱部材7を平行移動して溶融シリコン2中に浸漬する(図15参照)。すなわち、中空回転冷却体5の第3回転数による回転によって発生した、大きな乖離領域を、断熱部材7によって強制的に維持したことになる。
【0072】
本実施形態3の第2精製工程において、中空回転冷却体5と断熱部材7との溶融シリコン2に対する接触領域が、中空回転冷却体の回転軸を軸心とする同心円状に配置されていることが好ましい。
【0073】
また、本実施形態3においては、中空回転冷却体5と断熱材7との間の上記所定の空隙に、不活性ガスを充填することが好ましい。これにより、従来のようにシリコン精製装置全体を不活性ガス雰囲気中に置く場合に比べて、不活性ガスの消費量を著しく抑制しつつ、中空回転冷却体5と接触する溶融シリコン2の溶湯面での酸化物生成を防止できるからである。なお、このように中空回転冷却体5と断熱材7との間の空隙に不活性ガスを充填することで、高温(溶融シリコン温度)にて起こりうる中空回転冷却体5の材料劣化をも抑制することができるので、より長寿命なシリコン精製装置とすることができる。
【0074】
引き続き、中空回転冷却体5を第1回転数で回転させつつ、その内部へ冷却流体を第2流量にて流すことにより固体シリコン6の晶出を行なう(第2精製工程)。晶出した固体シリコン6の溶融シリコン2からの引き上げ(引き上げ工程)の際には、まず断熱部材7の回転により新たな乖離領域を発生して、この乖離領域を通して引き上げてもよいし、断熱部材7をまず(平行移動により)引き上げた後、中空回転冷却体5をたとえば第3回転数(第1回転数より大きな回転数)にて回転させることで発生する乖離領域を通して引き上げてもよい。さらに、固体シリコン6に対して断熱部材7の内径が十分な大きさがある場合には、断熱部材7を浸漬したまま、断熱部材7の中空部を通して引き上げてもよい。
【0075】
なお、本実施形態3における断熱部材7の、中空回転冷却体5に対する配置方法は特に限定されるものではないが、たとえば図16に示すように、中空回転冷却体5を回転可能に保持する保持アーム1601と、この保持アーム1601に対して断熱部材7を移動可能に吊り下げる吊り下げ治具1602とを用いる例を挙げることができる。ここで保持アーム1601が、中空回転冷却体5と断熱部材7とを独立して回転させる回転機構を具備することが好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
<実施例1>
本実施例1では、添加剤としてNa2CO3(炭酸ナトリウム)とSiO2(二酸化ケイ素)を用いて行なった。
【0078】
なお、本実施例1においては、Na2CO3は昇温中に熱分解(Na2CO3→Na2O+CO2)してCO2が気化するため、溶融後にNa2O:SiO2=1:1の質量比となるよう調合して、内径120mmのムライト製坩堝に入れた。次に、不純物としてボロン8ppmw、鉄2000ppmw及びアルミニウム1600ppmwを含有する原料シリコン(MG−Si)1.9kgを上記坩堝に入れ、これらを大気雰囲気中にて1500℃まで昇温して溶融した。なお、ここで全量は2kgである。
【0079】
シリコン溶融時、溶湯面はほぼ全面がスラグで覆われていた。
溶融完了後30分間は溶湯面からの煙が多かったため、煙が少なくなるまで放置した。その後、直径66mmの中空回転冷却体を回転数100rpmで浸漬した。この時、溶湯面上のスラグは中空回転冷却体に接しながら、中空回転冷却体周面を旋回しているのが観察された。
【0080】
所定位置(本実施例1においては坩堝底面からおよそ20mm上の位置)まで中空回転冷却体を溶融シリコンへ浸漬させた後、中空回転冷却体へ冷却流体として窒素(N2)ガスを900l/分で導入し、回転数を400rpmとした。溶湯面上のスラグは中空回転冷却体から坩堝内壁面へ押しやられ、坩堝内周面に沿って旋回する様子が観察された。
【0081】
冷却ガス導入開始4分後、中空回転冷却体周面にシリコンが晶出し、坩堝内壁面近くまで成長したため、中空回転冷却体を溶融シリコンから引上げた。中空回転冷却体に晶出したシリコンの最大径は96mmであり、晶出したシリコンは400gであった。
【0082】
晶出したシリコンをICP発光分析法により不純物濃度分析したところ、ボロン1.8ppmw、鉄0.3ppmw、アルミニウム0.1ppmwであった。
【0083】
また、晶出したシリコン表面へのスラグの付着は目視では確認されなかった。スラグ成分であるナトリウムの混入について、ICP発光分析法により分析したところ、0.02ppmw未満であり、スラグのシリコンへの混入はないことを確認できた。
【0084】
<実施例2>
実施例1と同様の不純物濃度を持つ原料シリコン(MG−Si)60kgと添加剤(Na2CO3とSiO2の質量比1:1混合物)10kgをアルミナ製坩堝に入れ、大気雰囲気中にて1500℃まで昇温して溶融し、さらに原料シリコンを40kg追加し、溶融シリコン量を100kgとした。
【0085】
この溶融シリコンに処理ガス(アルゴンガス)と共に添加剤(Na2CO3とSiO2の重量比1:1混合物)8kgを0.8kg/分で吹き込んだ。
【0086】
処理ガス停止後、溶融シリコン溶湯面に浮かんだスラグを、坩堝を傾けて排出した。
上記、処理ガスによる添加剤の吹き込みとスラグ排出を20回繰り返した。ただし、最後のスラグ排出時には、スラグ排出量を調整して溶融シリコン溶湯面にスラグを残した状態とした。
【0087】
引き続き、実施例1同様に直径66mmの中空回転冷却体を回転数100rpmで浸漬した。ここで中空回転冷却体へ冷却流体として窒素ガスを900l/分で導入し、回転数を400rpmとした。
【0088】
冷却ガス導入開始4分後、中空回転冷却体の外周面にシリコンが晶出し、坩堝内壁面近くまで成長したため、中空回転冷却体を溶融シリコンから引き上げた。
【0089】
引き上げたシリコンの不純物濃度をICP分析した結果、ボロン0.3ppmw、鉄0.3ppmw、アルミ0.1ppmw未満であった。
【0090】
さらにこの後、一方向凝固による金属除去を行なうことにより、太陽電池に使用可能な純度(ここではボロン0.3ppmw、鉄とアルミは0.1ppmw未満)のシリコンを得ることができた。
【0091】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0092】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】大気雰囲気中に置かれた溶融シリコンの一例を示す概略図である。
【図2】処理ガスを吹込んだ状態における大気雰囲気中に置かれた溶融シリコンの一例を示す概略図である。
【図3】チャンバを介して大気雰囲気中に置かれた溶融シリコンの一例を示す概略図である。
【図4】加熱装置を備えた溶融シリコンの一例を示す概略図である。
【図5】大気雰囲気中における第1精製工程の一例を示す概略図である。
【図6】処理ガスを吹込んだ状態における大気雰囲気中における第1精製工程の一例を示す概略図である。
【図7】第1精製工程におけるスラグの排出工程の一例を示す概略図である。
【図8】大気雰囲気中における浸漬工程の一例を示す概略図である。
【図9】実施形態1における第2精製工程における乖離状態の一例を示す概略図である。
【図10】実施形態2における第2精製工程における晶出状態の一例を示す概略図である。
【図11】実施形態3におけるシリコン精製装置の一例を示す概略図である。
【図12】実施形態3における第1精製工程後の状態の一例を示す概略図である。
【図13】実施形態3における浸漬工程の一例を示す概略図である。
【図14】実施形態3における第2精製工程における乖離状態の一例を示す概略図である。
【図15】実施形態3における第2精製工程における乖離状態を維持した状態の一例を示す概略図である。
【図16】実施形態3における中空回転冷却体と断熱部材の配置関係の一例を示す概略図である。
【図17】中空回転冷却体に断熱部材が接続領域により固定された形態の一例を示す概略図である。
【図18】中空回転冷却体に断熱部材が接続部材により固定された形態の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0094】
1 坩堝、2 溶融シリコン、3 加熱装置、4a 添加剤、4b スラグ、5 中空回転冷却体、6 固体シリコン、7 断熱部材、7a 接続領域、7b 円筒領域、8 接続部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料シリコンを加熱して溶融シリコンとする溶融工程と、
前記溶融シリコンを添加剤と接触させて、溶融状態において前記溶融シリコンよりも小さな比重を持つスラグを形成させる第1精製工程と、
前記溶融シリコンの溶湯面の少なくとも一部が前記スラグにより覆われた被覆状態において、前記溶融シリコンに中空回転冷却体を浸漬する浸漬工程と、
前記中空回転冷却体を回転させた状態において、前記中空回転冷却体の中空部に冷却流体を流すことにより前記中空回転冷却体の外周面に固体シリコンを晶出させる第2精製工程とを含むシリコン精製方法。
【請求項2】
前記第1精製工程と前記浸漬工程と前記第2精製工程とが大気雰囲気中で行なれる請求項1に記載のシリコン精製方法。
【請求項3】
前記浸漬工程は、前記中空回転冷却体の中空部に冷却流体を流さない状態または流した状態で行ない、前記中空回転冷却体の中空部に冷却流体を流した状態の冷却流体の流量を第1流量とし、前記第2精製工程における前記中空回転冷却体の中空部の冷却体の第2流量とする場合、第2流量が第1流量より大きい条件とする請求項1または2に記載のシリコン精製方法。
【請求項4】
前記第2精製工程は、前記固体シリコンの晶出時における前記中空回転冷却体の第1回転数よりも大きな第2回転数で前記中空回転冷却体を回転させる高速回転工程と、それに続く前記中空回転冷却体の前記溶融シリコンからの引き上げ工程を含む請求項1〜3のいずれかに記載のシリコン精製方法。
【請求項5】
前記第2精製工程において前記溶融シリコンの溶湯面と接する領域が断熱材料からなる中空回転冷却体を用いた請求項1〜4のいずれかに記載のシリコン精製方法。
【請求項6】
溶融シリコンを保持する坩堝と、
鉛直方向の回転軸を持つ中空回転冷却体と、
前記中空回転冷却体の一部を所定の空隙を空けて覆う断熱部材を具備し、
前記溶融シリコン中に前記中空回転冷却体の一部を浸漬し、前記中空回転冷却体を回転させると共に、前記中空回転冷却体の中空部に冷却流体を流しながら、前記中空回転冷却体の外周面に固体シリコンを晶出させるシリコン精製装置であって、
前記固体シリコンの晶出時における前記中空回転冷却体と前記断熱部材との前記溶融シリコンに対する接触領域が、前記中空回転冷却体の回転軸を軸心とする同心円状に配置可能に構成されることを特徴とするシリコン精製装置。
【請求項7】
請求項6に記載のシリコン精製装置を用いて行なう、請求項1〜5のいずれかに記載のシリコン精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−96644(P2009−96644A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266736(P2007−266736)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】