説明

シリコン鋳造炉の温度測定機構及びこれを備えたシリコン鋳造炉

【課題】放射温度計を用いてシリコンの温度を高精度に安定して測定でき、シリコンの相状態を精度よく判別でき、高品位な製品を製造でき、かつ、操業時間やランニングコストの無駄をなくして生産性を高めることができるシリコン鋳造炉の温度測定機構及びこれを備えたシリコン鋳造炉を提供すること。
【解決手段】シリコンを貯留する坩堝と、前記坩堝を収容する炉と、前記炉内に不活性ガスを供給する供給管4と、を有するシリコン鋳造炉に設けられ、シリコンの温度を測定するシリコン鋳造炉の温度測定機構1であって、シリコンの温度を測定する放射温度計5が、前記供給管4内に配設されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造中のシリコン温度を高精度に安定して測定可能なシリコン鋳造炉の温度測定機構、及び、これを備えたシリコン鋳造炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池等に用いられる多結晶シリコン(柱状晶シリコン)を、坩堝内で一方向に凝固させて鋳造するシリコン鋳造炉が知られている。この種のシリコン鋳造炉では、例えばシリコンを加熱するヒータ近傍の温度を測定し、その出力を制御している。
【0003】
一方、下記特許文献1に示されるシリコン鋳造炉では、坩堝に貯留されたシリコンの温度を、放射温度計で間接的に測定するようにしている。このようにシリコンの温度を測定することによって、塊状のシリコン固形原料が溶融してシリコン溶湯となり、再び凝固して製品である多結晶シリコンインゴットになったことがわかるとともに、シリコンの相状態に合わせてヒータ出力等を制御でき、操業が効率よく行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−177851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のシリコン鋳造炉では、下記の課題があった。
すなわち、シリコン鋳造炉の炉内には、坩堝内のシリコンから生じたSiO(一酸化ケイ素)が存在しており、該SiOが放射温度計のレンズに付着して該レンズがくもり、シリコン温度を精度よく安定して測定することができなかった。また、鋳造終了毎に放射温度計のレンズを清掃する手間が生じていた。
【0006】
また、鋳造中において放射温度計のレンズにSiOが付着した場合、シリコンの相状態が溶融状態(液体)であるか凝固状態(固体)であるかを精度よく判別することができず、所望の相状態に確実に相転移させるには操業時間を長くとるか、作業者の感覚に頼らざるを得ず、操業時間やランニングコストに無駄が生じたり、製品の品位が安定しなかった。
【0007】
一方、坩堝内のシリコンに直接熱電対等のセンサを入れて温度を測定することも考えられるが、この場合、製品のコンタミネーションという別の問題が生じる。また、さや管等にセンサを収めて間接的にシリコン温度を測定したとしてもコンタミネーションの問題はあり、測定のタイムラグが生じることになる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、放射温度計を用いてシリコンの温度を高精度に安定して測定でき、シリコンの相状態を精度よく判別でき、高品位な製品を製造でき、かつ、操業時間やランニングコストの無駄をなくして生産性を高めることができるシリコン鋳造炉の温度測定機構及びこれを備えたシリコン鋳造炉を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、シリコンを貯留する坩堝と、前記坩堝を収容する炉と、前記炉内に不活性ガスを供給する供給管と、を有するシリコン鋳造炉に設けられ、シリコンの温度を測定するシリコン鋳造炉の温度測定機構であって、シリコンの温度を測定する放射温度計が、前記供給管内に配設されていることを特徴とする。
また、本発明のシリコン鋳造炉は、前述のシリコン鋳造炉の温度測定機構を備えたことを特徴としている。
【0010】
本発明に係るシリコン鋳造炉の温度測定機構及びこれを備えたシリコン鋳造炉によれば、シリコンの温度を測定する放射温度計を備えているので、下記の効果を奏する。
すなわち、放射温度計による温度の測定(検出)は、シリコンの実際の温度変化に対する追従性に優れており、高精度かつ迅速にシリコンの温度を検出できる。また、放射温度計と製品(シリコン)との接触はないから、製品へのコンタミネーションの問題は生じず、よって製品を高品位に製造できる。
一方、例えば従来の温度測定機構として熱電対を用い、該熱電対を坩堝内のシリコンに直接的に、又はさや管等に収め間接的に入れて測定する場合、コンタミネーションの問題が懸念され、また測定にタイムラグが生じる可能性があるから、製造される製品の品質を確保できないおそれがある。
【0011】
また本発明では、放射温度計を用いることにより、坩堝に貯留された塊状のシリコン固形原料が溶融してシリコン溶湯となり、再び凝固して製品であるシリコンインゴットになったことが、高精度に判別可能である。具体的に、シリコンの放射率は固体と液体とで異なり、固体のシリコン固形原料が溶融して液体のシリコン溶湯になった際には、シリコンの温度が低下する。また、液体のシリコン溶湯が凝固して固体のシリコンインゴットになった際には、シリコンの温度が上昇する。本発明によれば、このようなシリコンの相転移を精度よく迅速に検出できるから、それぞれのシリコンの相状態に適したヒータ出力等の制御が可能である。
【0012】
そして、このような放射温度計が供給管内に配設されているので、下記の格別顕著な効果を奏する。
すなわち、供給管からは、炉内に向けてArガス等の不活性ガスが吹き出しており、炉内のSiOが当該供給管内に流入することが抑制されている。これにより、供給管内の放射温度計とSiOとの接触が防止されるから、当該放射温度計のレンズにSiOが付着することが防止されている。従って、この放射温度計は、シリコンの温度を精度よく測定できるのみならず、安定して測定できるのである。
また本発明によれば、放射温度計のレンズがSiOにより汚れることはないから、従来のように鋳造終了毎にレンズを清掃する手間も生じない。
【0013】
また、シリコンの温度を正確に把握できるから、適切な操業管理手法の開発が可能である。また、製造効率を向上させるための鋳造レシピ(鋳造工程の構築)や、炉設計の最適化が可能となる。また、鋳造工程(溶解、凝固)の自動化が可能となる。すなわち、本発明を適用することによって、高品位な製品を安定して製造できるとともに、操業時間やランニングコストのロスが大きく低減される。
【0014】
また通常、炉内に供給される不活性ガスの温度は、炉内雰囲気温度に比べ低温であるから、この供給管が、炉内に向けて例えば坩堝内のシリコン近傍まで達するように突設されていたとしても、当該供給管内における放射温度計の周囲温度の上昇が抑制される。つまり、放射温度計は、その回りを不活性ガスが流通することにより、常に冷却されつつ低い温度に維持されている。従って、供給管が、例えば炉内のヒータ近傍を通って延びていたとしても、放射温度計が高温に晒されるようなことが防止されて、高温に起因する誤検出や故障等が防止される。またこれにより、放射温度計の部品寿命の延長が期待できる。
【0015】
さらに、放射温度計を配設する供給管については、従来のシリコン鋳造炉においても、炉内を不活性ガス雰囲気に置換、維持するため用いられていたものであるから、既存の設備を大幅に変更することなく、簡単な部品交換等により本発明を適用することが可能である。また、この放射温度計を配設する供給管は、シリコン融液表面に上方から不活性ガスを吹き付ける供給管とすることが好ましい。
【0016】
このように、本発明によれば、放射温度計を用いてシリコンの温度を高精度に安定して測定でき、シリコンの相状態を精度よく判別でき、高品位な製品を製造でき、かつ、操業時間やランニングコストの無駄をなくして生産性を高めることができるのである。
【0017】
また、本発明に係るシリコン鋳造炉の温度測定機構において、前記供給管は、先端から不活性ガスを吹き出すノズル筒と、前記ノズル筒をその基端側で支持する支持筒と、前記ノズル筒と前記支持筒とを内部連通状態で連結する連結部と、を有し、前記放射温度計は、前記連結部に配設されていることとしてもよい。
【0018】
この場合、供給管が、ノズル筒と支持筒とを連結部で連結した構成とされており、放射温度計は該連結部に配設されているので、放射温度計を供給管内に簡便に、かつ安定した状態(姿勢)で設置できる。具体的に、放射温度計を供給管に設置する際には、まず放射温度計を連結部に装着し、次いでノズル筒と支持筒とを連結すればよい。これにより、放射温度計は供給管内の所定の位置に精度よく安定して配置されるから、シリコンの温度を高精度に安定して測定可能である。
【0019】
また、本発明に係るシリコン鋳造炉の温度測定機構において、前記連結部は、前記供給管の軸方向に貫通して形成され、前記放射温度計が装着される取付孔と、前記取付孔の周囲に配置され、前記供給管の軸方向に貫通して形成された複数の流通孔と、を有することとしてもよい。
【0020】
この場合、簡単な構成によって、前述した効果を容易に、かつ確実に得ることができる。また、取付孔に装着された放射温度計の周囲には、複数の流通孔が配置されているから、該放射温度計が効率よく均一に冷却される。
【0021】
また、本発明に係るシリコン鋳造炉の温度測定機構において、前記連結部は、前記ノズル筒の基端部に一体に形成されていることとしてもよい。
【0022】
この場合、ノズル筒に対して、放射温度計を高精度に位置決めすることが可能であるから、例えば、ノズル筒の軸(供給管の軸)と放射温度計の軸とを、高精度に同軸に配置できる。従って、たとえノズル筒の全長が長い場合であっても、放射温度計がシリコンの温度を精度よく検出できるとともに、該ノズル筒の内周面の温度を誤検出するようなことが防止される。
【0023】
また、本発明に係るシリコン鋳造炉の温度測定機構において、前記供給管は、炉内と外部との連通を遮断するように構成された気密構造を有していることとしてもよい。
【0024】
この場合、供給管内に放射温度計を配設しつつも、炉内を減圧して不活性ガスに置換する際などに、装置の外部から該供給管を通して炉内に外気が流入してしまうようなことが防止される。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るシリコン鋳造炉の温度測定機構及びこれを備えたシリコン鋳造炉によれば、放射温度計を用いてシリコンの温度を高精度に安定して測定でき、シリコンの相状態を精度よく判別でき、高品位な製品を製造でき、かつ、操業時間やランニングコストの無駄をなくして生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係るシリコン鋳造炉の概略構成を説明する断面図である。
【図2】図1のシリコン鋳造炉の温度測定機構である供給管及び放射温度計を示す部分縦断面図である。
【図3】図1のシリコン鋳造炉の温度測定機構である供給管及び放射温度計を、縦断面を用いて説明する斜視図である。
【図4】図3のB部を拡大して示す図である。
【図5】図2のA部を拡大して示す図である。
【図6】(a)図5のノズル筒の基端部(上端部)及び連結部を示す縦断面図、(b)ノズル筒を先端側(下側)から見た横断面図である。
【図7】図5の支持筒の先端部(下端部)を示す縦断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るシリコン鋳造炉の温度測定機構を用いて測定したシリコン温度の推移と、従来の温度測定機構を用いて測定したシリコン温度の推移とを、鋳造前期において対比するグラフである。
【図9】本発明の一実施形態に係るシリコン鋳造炉の温度測定機構を用いて測定したシリコン温度の推移と、従来の温度測定機構を用いて測定したシリコン温度の推移とを、鋳造後期において対比するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係るシリコン鋳造炉の温度測定機構1及びこれを備えたシリコン鋳造炉10について、図1〜図9を参照して説明する。
本実施形態のシリコン鋳造炉10は、例えば太陽電池の発電素子、半導体装置部品などに用いられる多結晶シリコン(柱状晶シリコン)のシリコンインゴットを製造する装置であり、坩堝2内に貯留されたシリコン溶湯Sを下方から上方に向けて一方向に凝固させ鋳造するものである。
【0028】
図1に示されるように、このシリコン鋳造炉10は、シリコンSを貯留する坩堝2と、坩堝2を収容する炉3と、炉3内に不活性ガスを供給する供給管4と、供給管4内に配設されてシリコンSの温度を測定する放射温度計5と、を備えている。尚、放射温度計5は、対象物(シリコンS)から放射される可視光線(又は赤外線)の強度を検出(検知)するためのレンズを有する検出部と、該検出部、及び、炉3外に設けられ前記検出した値に基づいて温度を算出する(或いは算出し表示する)制御部を繋ぐ光ファイバケーブル等からなる配線部と、を備える。ここで、本実施形態において単に「放射温度計5」と言う場合は、原則として前記検出部を差すものとする。また具体的に、本実施形態の放射温度計5は、高温測定用のパイロメータである。
また、シリコン鋳造炉の温度測定機構1は、前記供給管4と、前記放射温度計5と、を有している。
【0029】
シリコン鋳造炉10は、炉3内に所定の容積の空間を画成するように直方体状に形成され、坩堝2が収容される断熱容器6と、坩堝2の下側部分を囲うように形成され、該坩堝2を載置する桶7と、坩堝2の外周のうち少なくともシリコンSの貯留領域を覆うように形成された断熱筒8と、坩堝2の底部を冷却可能に該坩堝2及び桶7を載置する冷却部材9と、断熱容器6内における坩堝2上方に配置される上部ヒータ11と、断熱構造体6内の坩堝2下方に配置される下部ヒータ12と、を備えている。
【0030】
坩堝2は、石英からなり、有底筒状に形成されている。
炉3は、鋼材等からなり、耐圧気密に構成されているとともに、少なくとも一部が開閉可能な容器状に形成されている。また、炉3には、図示しない真空ポンプ(減圧手段)が接続されており、炉3内を真空雰囲気(減圧雰囲気)にできるように構成されている。
【0031】
断熱容器6及び断熱筒8は、多孔質状のカーボン又はカーボン繊維等からなる。
桶7は、カーボン等からなり、有底筒状に形成されているとともに、坩堝2が貯留するシリコンSの体積以上の容積を有する。
【0032】
冷却部材9は、カーボン等からなり、内部空間を有する平板状に形成されているとともに、その内部空間には、冷却水又は不活性ガス等の冷却流体が流通するようになっている。
上部ヒータ11及び下部ヒータ12は、例えば、棒状をなす複数のカーボンヒータであり、坩堝2内のシリコンSを効率よく均一に加熱するように配列されている。
【0033】
図1及び図2に示されるように、供給管4は、筒状又は管状をなし、その軸Oが上下方向(図1及び図2における上下方向)に延びていて、炉3を気密に貫通している。また、供給管4は、断熱容器6を貫通し、隣り合う上部ヒータ11間を通って延びており、その先端4a(図1における下端)が、坩堝2内のシリコンSに所定の間隔をあけて接近配置されるようになっている。供給管4は、炉3外に設けられた図示しない駆動モータ等によって上下駆動され、これにより、先端4aが上下に移動可能である。
尚、以下の説明では、供給管4の軸O方向(上下方向)に沿う下側を先端側と言い、上側を基端側と言うことがある。また、供給管4の軸Oに垂直な方向を径方向と言い、軸Oを中心に周回する方向を周方向と言うことがある。
【0034】
鋳造の初期段階において、坩堝2内には、塊状(チップ状)のシリコン固形原料Sが収容されるが、この際シリコンSの見かけ上の体積が大きくなり(図1に示される2点鎖線部分)、供給管4の先端4aがシリコンSに接触する可能性がある。そこで、供給管4が上方に向けて駆動された際には、その先端4aが、シリコン固形原料Sに接触せず、かつ、シリコン固形原料Sを坩堝2に投入する作業の妨げにならない程度の位置に配置されることが好ましい。また、シリコン固形原料Sが溶融してシリコン溶湯Sとなった際には、供給管4は下方に向けて駆動され、その先端4aが湯面に対して所定の間隔をあけるように配置される。
尚、供給管4内の放射温度計5は、該供給管4が下方に駆動された状態において、断熱容器6の天壁部よりも上方(すなわち断熱容器6外)に配置されることが好ましい。
【0035】
図2及び図3に示されるように、供給管4は、先端4a(図2及び図3においては不図示)から不活性ガスを吹き出すノズル筒13と、ノズル筒13をその基端側で支持する支持筒14と、ノズル筒13と支持筒14とを内部連通状態で連結する連結部15と、を有している。本実施形態では、連結部15が、ノズル筒13の基端部(図2及び図3における上端部)に一体に形成されている。そして、放射温度計5は、この連結部15に配設されている。
また、供給管4は、支持筒14に接続され、該支持筒14に不活性ガスを送入するガス接続部31と、支持筒14に接続され、該支持筒14内を通る放射温度計5の配線部を気密に貫通させるとともに、炉3内と外部(炉3外)との連通を遮断するように構成された気密構造32と、を有している。
【0036】
ノズル筒13は、該ノズル筒13の基端側部分(上側部分)をなし、支持筒14に同軸に連結されるノズル基端筒16と、該ノズル筒13の先端側部分(下側部分)をなし、ノズル基端筒16に同軸に支持されるノズル先端筒17と、を備えている。すなわち、前述した供給管4の先端4aとは、ノズル先端筒17の先端4aである。
【0037】
ノズル基端筒16は、鋼材等からなり、ノズル先端筒17は、カーボン等からなる。ノズル基端筒16とノズル先端筒17とは、互いのネジ部18を介して連結されており、当該連結部分は、図1における上部ヒータ11の上方に配置されている。ノズル筒13は、断熱容器6の天壁部を貫通している。ノズル筒13の径寸法としては、例えば、該ノズル筒13を小型のシリコン鋳造炉10に用いる場合は、外径φ30mm、内径φ14mm程度とされ、中型のシリコン鋳造炉10に用いる場合は、外径φ30mm、内径φ14mm程度とされる。
【0038】
図4〜図6に示されるように、ノズル基端筒16の外周面のうち基端部(上端部)には、該基端部以外の部分よりも小径の雄ネジ部19が形成されている。図4に示される例では、雄ネジ部19の先端側(下側)には、該雄ネジ部19よりも小径とされ、周方向に沿って延びる環状の溝20が形成されている。また、溝20には、シール手段としてのOリング21が配設されている。尚、図5及び図6(a)に示される例では、雄ネジ部19と溝20とが略同一径とされており、これらの間には、雄ネジ部19及び溝20よりも大径とされ、周方向に沿って延びる環状のフランジ22が形成されている。
【0039】
また、ノズル基端筒16の基端部には、連結部15が形成されている。連結部15は、筒状をなしており、ノズル基端筒16における基端部以外の部分よりも厚肉に形成されている。連結部15は、供給管4の軸O方向に貫通して形成され、放射温度計5が装着される取付孔23と、取付孔23の周囲に配置され、供給管4の軸O方向に貫通して形成された複数の流通孔24と、を有している。
【0040】
ここで、図4及び図5において、放射温度計5は、軸O方向に沿って延びる多段軸状をなしており、該放射温度計5の外周面における上端部には、雄ネジ部25が形成されている。また、放射温度計5における雄ネジ部25の先端側部分(下側部分)は、該雄ネジ部25よりも小径に形成されている。尚、図5に示される例では、放射温度計5における雄ネジ部25の基端側部分(上側部分)には、該雄ネジ部25よりも僅かに大径とされたフランジ27が形成されており、このフランジ27と取付孔23の基端側を向く開口周縁部とが当接することにより、放射温度計5のねじ込み量が所定量に規制されている。
【0041】
取付孔23は、軸Oに同軸に形成されている。取付孔23の内周面には、放射温度計5の雄ネジ部25に螺合可能な雌ネジ部26が形成されている。放射温度計5の雄ネジ部25と取付孔23の雌ネジ部26とが螺合することにより、該放射温度計5が連結部15に支持されるとともに、軸Oに同軸に配置される。図4に示される例では、雌ネジ部26は、取付孔23の内周面に軸O方向の全長に亘り形成されている。また、図5及び図6に示される例では、雌ネジ部26は、取付孔23の内周面のうち基端部(上端部)に形成されており、取付孔23における雌ネジ部26の先端側部分(下側部分)は、該雌ネジ部26よりも大径に形成されている。
【0042】
流通孔24は、取付孔23を中心として周方向に互いに間隔をあけて配列されている。図6(b)に示されるように、本実施形態では、流通孔24が軸O回りに周方向均等に8つ配置されている。また、流通孔24の基端側部分(上側部分)は、支持筒14の内部に開口し、流通孔24の先端側部分(下側部分)は、ノズル基端筒16の内部に開口している。これら流通孔24の開口面積(断面積)の和は、鋳造時に炉3内に送入される不活性ガスの流量(例えば、65〜80L/min)を許容可能な所定値以上となるように設定される。
【0043】
図1において、支持筒14は、鋼材等からなり、炉3の周壁における天壁部を気密に貫通している。図3及び図4に示される例では、支持筒14は、その外径がノズル基端筒16の連結部15以外の部分における外径と略同一に形成されている一方、内径については、ノズル基端筒16の連結部15以外の部分における内径よりも大径に形成されている。また、図5に示される例では、支持筒14は、その外径及び内径が、ノズル基端筒16の連結部15以外の部分における外径及び内径と略同一に形成されている。
【0044】
また、図4において、支持筒14の内周面における先端部(下端部)には、Oリング21に径方向外方から当接する当接部28と、当接部28の基端側(上側)に配置され、ノズル基端筒16の雄ネジ部19に螺合する雌ネジ部29と、が形成されている。図4に示される例では、当接部28の内径と雌ネジ部29の内径とが、略同一に形成されている。図5及び図7に示される例では、当接部28の内径は、フランジ22を収容可能なように、該フランジ22の外径より僅かに大きく形成されている。また、雌ネジ部29の内径は、当接部28よりも小径となっている。
【0045】
また、図2において、支持筒14の基端部(上端部)には、該支持筒14を駆動モータに連結するためのフランジ30が設けられている。フランジ30は、炉3外に配設されている。また、特に図示しないが、支持筒14内には、放射温度計5の配線部が挿通されている。
【0046】
また、ガス接続部31は、支持筒14の基端側(上側)に配設されているとともに、不図示の不活性ガス供給手段に接続されていて、該支持筒14内に不活性ガスを送入可能とされている。本実施形態では、前記不活性ガスとしてArガスを用いており、鋳造時において炉3内に供給されるArガスの流量は、例えば65〜80L/minである。本実施形態においては、ガス接続部31は、複数の配管部材を連結し構成されている。尚、図2に符号33で示すものは、ガス接続部31に設けられ、放射温度計5(検出部)近傍の温度を測る熱電対の配線を気密に挿通するための継手部である。
【0047】
また、気密構造32は、ガス接続部31の基端側(上側)に配設されている。本実施形態では、気密構造32は、放射温度計5の配線部を挿通する筒状のボディと、ボディ内に収容され、前記配線部を挿通する筒状のフォロア及びシーラントと、ボディに螺合されることにより、ボディ内に収容されたシーラントを弾性変形させて該ボディ及び配線部に密着させるキャップと、を備えている。このような気密構造32として、例えば、Conax社のシーリンググランドを用いることができる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態に係るシリコン鋳造炉の温度測定機構1及びこれを備えたシリコン鋳造炉10によれば、シリコンSの温度を測定する放射温度計5を備えているので、下記の効果を奏する。
すなわち、放射温度計5による温度の測定(検出)は、シリコンSの実際の温度変化に対する追従性に優れており、高精度かつ迅速にシリコンSの温度を検出できる。また、放射温度計5と製品(シリコンS)との接触はないから、製品へのコンタミネーションの問題は生じず、よって製品を高品位に製造できる。
一方、例えば従来の温度測定機構として熱電対を用い、該熱電対を坩堝2内のシリコンSに直接的に、又はさや管等に収め間接的に入れて測定する場合、コンタミネーションの問題が懸念され、また測定にタイムラグが生じる可能性があるから、製造される製品の品質を確保できないおそれがある。
【0049】
また本実施形態では、放射温度計5を用いることにより、坩堝2に貯留された塊状のシリコン固形原料Sが溶融してシリコン溶湯Sとなり、再び凝固して製品であるシリコンインゴットSになったことが、高精度に判別可能である。具体的に、シリコンSの放射率は固体と液体とで異なり、固体のシリコン固形原料Sが溶融して液体のシリコン溶湯Sになった際には、シリコンSの温度が低下する。また、液体のシリコン溶湯Sが凝固して固体のシリコンインゴットSになった際には、シリコンSの温度が上昇する。尚、一般の文献値では、固体の放射率は0.49、液体の放射率は0.21である。本実施形態によれば、このようなシリコンSの相転移を精度よく迅速に検出できるから、それぞれのシリコンSの相状態に適したヒータ出力等の制御が可能である。
【0050】
ここで、図8及び図9の各グラフを用いて、本実施形態のシリコン鋳造炉の温度測定機構1を用いたシリコンSの温度測定結果について、具体的に説明する。
図8及び図9において、前述したシリコン鋳造炉の温度測定機構1を用いたシリコンSの温度測定結果を、「放射温度計」のグラフとして示す。また、従来の温度測定機構を用いたシリコンSの温度測定結果として、1穴保護管で保護されたタングステンレニウム熱電対を、坩堝2内に配設したアルミナ又はサイアロン管からなるさや管に挿入してシリコンSの温度を測定したものを、「単管」のグラフとして示す。また、従来の温度測定機構を用いたシリコンSの温度測定結果として、2穴保護管で保護されたタングステンレニウム熱電対を、坩堝2内に配設したアルミナ又はサイアロン管からなるさや管に挿入してシリコンSの温度を測定したものを、「二重管」のグラフとして示す。
【0051】
図8に示される「放射温度計」のグラフでは、加熱初期であるグラフの左端部において、シリコン固形原料Sの温度上昇に対する測定温度の追従性がよい。すなわち、「単管」のグラフ及び「二重管」のグラフに対して、「放射温度計」のグラフは左側(横軸方向のうち、時刻の早い方向)へシフトしているから、より迅速に温度を検出していることがわかる。詳しくは、放射温度計のグラフは、熱電対を用いた他のグラフより、30分程度も早くシリコンS温度を検知している。
【0052】
また、「放射温度計」のグラフは、固体のシリコン固形原料Sが溶融して液体のシリコン溶湯Sに相転移しつつある段階のうち早い時期に、該シリコンSの温度変化(放射率の低減)に追従して、矢印で示されるように測定温度が急激に下降している。このようなグラフの変化により、シリコンSが、固体から液体へと相転移しつつあることが容易に確認できる。そして、図8に符号S−Lで示される領域(シリコンSが固体と液体の混合状態であり、測定温度が比較的狭い範囲内で上昇・下降を繰り返している領域)を経た後、シリコンS全体が液体となった際には、測定温度が前記比較的狭い範囲より狭い所定の範囲内に安定して維持される。
一方、「単管」のグラフ及び「二重管」のグラフにおいては、シリコンSの相転移にともなう測定温度の特徴的な変化は見受けられない。
【0053】
また、図9に示される「放射温度計」のグラフでは、液体のシリコン溶湯Sが凝固して固体のシリコンインゴットSに相転移する際に、該シリコンSの温度変化(放射率の増加)に追従して、矢印で示されるように測定温度が急激に上昇している。このようなグラフの変化により、シリコンSが、液体から固体へと相転移したことが容易に確認できる。
一方、「単管」のグラフ及び「二重管」のグラフにおいては、シリコンSの相転移にともなう測定温度の特徴的な変化は見受けられない。
このように、本実施形態で説明した放射温度計5によれば、鋳造工程全体に亘って、シリコンSの相転移を精度よく迅速に検出できるのである。
【0054】
そして、前述した放射温度計5が、供給管4内に配設されているので、下記の格別顕著な効果を奏することになる。
すなわち、供給管4からは、炉3内に向けてArガス等の不活性ガスが吹き出しており、炉3内のSiOが当該供給管4内に流入することが抑制されている。これにより、供給管4内の放射温度計5とSiOとの接触が防止されるから、当該放射温度計5のレンズにSiOが付着することが防止されている。従って、この放射温度計5は、シリコンSの温度を精度よく測定できるのみならず、安定して測定できるのである。
また本実施形態によれば、放射温度計5のレンズがSiOにより汚れることはないから、従来のように鋳造終了毎にレンズを清掃する手間も生じない。
【0055】
また、シリコンSの温度を正確に把握できるから、適切な操業管理手法の開発が可能である。また、製造効率を向上させるための鋳造レシピ(鋳造工程の構築)や、炉設計の最適化が可能となる。また、鋳造工程(溶解、凝固)の自動化が可能となる。すなわち、本実施形態を適用することによって、高品位な製品を安定して製造できるとともに、操業時間やランニングコストのロスが大きく低減される。
【0056】
また、炉3内に供給される不活性ガスの温度は、炉3内の雰囲気温度に比べ低温であるから、この供給管4が、炉3内に向けて本実施形態のように坩堝2内のシリコンS近傍まで達するように突設されていたとしても、当該供給管4内における放射温度計5の周囲温度の上昇が抑制される。つまり、放射温度計5は、その回りを不活性ガスが流通することにより、常に冷却されつつ低い温度に維持されている。従って、供給管4が、本実施形態のように炉3内の上部ヒータ11近傍を通って延びていても、放射温度計5が高温に晒されるようなことが防止されて、高温に起因する誤検出や故障等が防止される。またこれにより、放射温度計5の部品寿命の延長が期待できる。具体的に、本実施形態では、炉3内における上部ヒータ11近傍の雰囲気温度が1400℃程度にまで達するにも係わらず、該上部ヒータ11近傍を通る供給管4内における放射温度計5周囲の雰囲気温度は、50℃程度に抑えられている。
【0057】
さらに、放射温度計5を配設する供給管4については、従来のシリコン鋳造炉においても、炉内を不活性ガス雰囲気に置換、維持するため用いられていたものであるから、既存の設備を大幅に変更することなく、簡単な部品交換等により本実施形態を適用することが可能である。
【0058】
このように、本実施形態によれば、放射温度計5を用いてシリコンSの温度を高精度に安定して測定でき、シリコンSの相状態を精度よく判別でき、高品位な製品を製造でき、かつ、操業時間やランニングコストの無駄をなくして生産性を高めることができるのである。
【0059】
また、供給管4が、ノズル筒13と支持筒14とを連結部15で連結した構成とされており、放射温度計5は該連結部15に配設されているので、放射温度計5を供給管4内に簡便に、かつ安定した状態(姿勢)で設置できる。具体的に、放射温度計5を供給管4に設置する際には、まず放射温度計5を連結部15に装着し、次いでノズル筒13と支持筒14とを連結すればよい。これにより、放射温度計5は供給管4内の所定の位置に精度よく安定して配置されるから、シリコンSの温度を高精度に安定して測定可能である。
【0060】
また、連結部15は、供給管4の軸O方向に貫通して放射温度計5が装着される取付孔23と、軸O方向に貫通して不活性ガスが流通する流通孔24と、を有している。このような簡単な構成によって、前述した効果を容易に、かつ確実に得ることができる。また、取付孔23に装着された放射温度計5の周囲には、複数の流通孔24が配置されているから、該放射温度計5が効率よく均一に冷却される。
【0061】
また、連結部15が、ノズル筒13の基端部に一体に形成されている。これにより、ノズル筒13に対して、放射温度計5を高精度に位置決めすることが可能であるから、ノズル筒13の軸(供給管の軸O)と放射温度計5の軸とを、高精度に同軸に配置できる。従って、たとえノズル筒13の全長が長い場合であっても、放射温度計5がシリコンSの温度を精度よく検出できるとともに、該ノズル筒13の内周面の温度を誤検出するようなことが防止される。
尚、放射温度計5は、測定距離と測定径に関係があり、前述したように芯ずれが生じない設置構造とすることが好ましいが、実際に放射温度計5がシリコンSの温度を測定しているかどうかを確認する目的で、放射温度計5からシリコンSの表面(湯面)に向けてレーザ光等を照射可能な構成とし、該放射温度計5の測定位置を目視で確認できるようにすることが望ましい。
【0062】
また、供給管4は、炉3内と外部との連通を遮断するように構成された気密構造32を有しているので、供給管4内に放射温度計5及びその配線部を配設しつつも、真空ポンプにより炉3内を減圧して不活性ガスに置換する際などに、装置の外部から該供給管4を通して炉3内に外気が流入してしまうようなことが防止される。
【0063】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
【0064】
例えば、前述した実施形態では、連結部15が筒状に形成されているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、連結部15は、ノズル筒13と支持筒14とを内部連通状態で連結すればよいことから、前述した筒状以外の、例えば円環板状等であっても構わない。また、連結部15は、供給管4の径方向中央に位置して放射温度計5を支持するリング体と、該リング体と供給管4の内周面とを連結する複数の腕部と、を有し、前記リング体の内周面が取付孔23とされ、周方向に隣り合う前記腕部同士の隙間が流通孔24とされていてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 シリコン鋳造炉の温度測定機構
2 坩堝
3 炉
4 供給管
4a 先端
5 放射温度計
10 シリコン鋳造炉
13 ノズル筒
14 支持筒
15 連結部
23 取付孔
24 流通孔
32 気密構造
O 供給管の軸
S シリコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを貯留する坩堝と、前記坩堝を収容する炉と、前記炉内に不活性ガスを供給する供給管と、を有するシリコン鋳造炉に設けられ、シリコンの温度を測定するシリコン鋳造炉の温度測定機構であって、
シリコンの温度を測定する放射温度計が、前記供給管内に配設されていることを特徴とするシリコン鋳造炉の温度測定機構。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン鋳造炉の温度測定機構であって、
前記供給管は、
先端から不活性ガスを吹き出すノズル筒と、
前記ノズル筒をその基端側で支持する支持筒と、
前記ノズル筒と前記支持筒とを内部連通状態で連結する連結部と、を有し、
前記放射温度計は、前記連結部に配設されていることを特徴とするシリコン鋳造炉の温度測定機構。
【請求項3】
請求項2に記載のシリコン鋳造炉の温度測定機構であって、
前記連結部は、
前記供給管の軸方向に貫通して形成され、前記放射温度計が装着される取付孔と、
前記取付孔の周囲に配置され、前記供給管の軸方向に貫通して形成された複数の流通孔と、を有することを特徴とするシリコン鋳造炉の温度測定機構。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のシリコン鋳造炉の温度測定機構であって、
前記連結部は、前記ノズル筒の基端部に一体に形成されていることを特徴とするシリコン鋳造炉の温度測定機構。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のシリコン鋳造炉の温度測定機構であって、
前記供給管は、炉内と外部との連通を遮断するように構成された気密構造を有していることを特徴とするシリコン鋳造炉の温度測定機構。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のシリコン鋳造炉の温度測定機構を備えたことを特徴とするシリコン鋳造炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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