説明

シリコーンゴム成型物の耐スチーム性向上方法

【課題】シリコーンゴム組成物を調製するときのロール加工性の低下を抑制しつつ、シリコーンゴム成型物の耐スチーム性を向上させる方法を提供する。
【解決手段】(1)熱硬化型シリコーンゴム組成物を加熱硬化させてなるシリコーンゴム成型物の表面を処理剤で処理する工程と、(2)工程(1)の後、該シリコーンゴム成型物の表面から過剰な処理剤を取り除く工程と、を含んでなるシリコーンゴム成型物の耐スチーム性向上方法;上記の工程(1)と(2)とを含んでなる耐スチーム性シリコーンゴム成型物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴムコンパウンドのロール加工性を低下させることなく、シリコーンゴム成型物の耐スチーム性を向上させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、優れた耐候性、電気特性、低圧縮永久歪性、耐熱性、耐寒性等の特性を有しているため、建築用材料として、また、電気及び電子用部品、自動車用部品ならびに食品容器、炊飯器、ポットなどの家庭用品において広く使用されている。
【0003】
シリコーンゴムに対しては、より多くの特性を有すること、特に、より厳しい環境条件下であっても十分に使用できることが望まれている。例えば、上記の環境条件に耐え得るだけの耐スチーム性を有するシリコーンゴムを与える組成物が提案されている(特許文献1〜3)。しかし、これらの組成物は、可塑戻りが大きいため、ロール加工性が悪い。また、得られる硬化物は、より高温下における耐スチーム特性を満足するものではない。
【0004】
シリコーンゴムの重要な特性としてロール等に対する粘着性が挙げられる。この粘着性が高いと、2本ロールミルでの作業性、即ち、ロール加工性が悪化する問題、カレンダー成型が困難になる問題等が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−91558号公報
【特許文献2】特開平2−189362号公報
【特許文献3】特開平4−300966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の方法では、ロールミル等による混練作業でシリコーンゴム組成物を調製するときのロール加工性の低下を抑制しつつ、シリコーンゴム成型物の耐スチーム性を向上させることは困難である。本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、シリコーンゴム組成物を調製するときのロール加工性の低下を抑制しつつ、シリコーンゴム成型物の耐スチーム性を向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成する手段として、第一に、
(1)熱硬化型シリコーンゴム組成物を加熱硬化させてなるシリコーンゴム成型物の表面を処理剤で処理する工程と、
(2)工程(1)の後、該シリコーンゴム成型物の表面から過剰な処理剤を取り除く工程と
を含んでなるシリコーンゴム成型物の耐スチーム性向上方法を提供する。
【0008】
本発明は第二に、
(1)熱硬化型シリコーンゴム組成物を加熱硬化させてなるシリコーンゴム成型物の表面を処理剤で処理する工程と、
(2)工程(1)の後、該シリコーンゴム成型物の表面から過剰な処理剤を取り除く工程と
を含んでなる耐スチーム性シリコーンゴム成型物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐スチーム性向上方法により、シリコーンゴム組成物を調製するときのロール加工性の低下を抑制しつつ、シリコーンゴム成型物の耐スチーム性を向上させることができる。本発明の製造方法により、従来のものと比較して耐スチーム性が顕著に向上した耐スチーム性シリコーンゴム成型物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明について更に詳しく説明する。
【0011】
[熱硬化型シリコーンゴム組成物]
本発明で用いる熱硬化型シリコーンゴム組成物は、加熱により硬化するシリコーンゴム組成物であれば特に制限されない。ロール加工性の低下をより効果的に抑制することができることから、熱硬化型シリコーンゴム組成物は、上記工程(1)で用いられる処理剤で未処理のものであることが好ましい。熱硬化型シリコーンゴム組成物の硬化タイプ(反応機構)としては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンをベースポリマー(主剤)とする配合物を、オルガノハイドロジェンポリシロキサン等のケイ素原子結合水素原子(即ち、ヒドロシリル基。以下、SiH基という)含有化合物(架橋剤)と白金族金属系触媒(硬化触媒)との組合せを用いてヒドロシリル化付加反応により硬化させる付加反応硬化型と、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンをベースポリマー(主剤)とする配合物を、有機過酸化物(硬化剤)を用いて硬化(加硫)させる有機過酸化物硬化型とが一般的である。
【0012】
熱硬化型シリコーンゴム組成物はミラブル型でも液状でもよい。ミラブル型の熱硬化型シリコーンゴム組成物とは、高重合度(通常、1,500以上、特に2,000以上の重量平均重合度をいう)のオルガノポリシロキサン生ゴムをベースポリマーとし、室温(25℃、特に断らない限り以下同様)で自己流動性のない固体状ないし半固体状の組成物をいう。また、液状の熱硬化型シリコーンゴム組成物とは、通常、重量平均重合度が100〜1,200程度の液状オルガノポリシロキサンをベースポリマーとする室温で自己流動性を有する液状の組成物をいう。本発明の耐スチーム性向上方法は、シリコーンゴムコンパウンド(即ち、シリコーンゴム組成物において硬化剤が未添加の配合物)と硬化剤とをロールミル等の手段で混練して組成物を調製するときに該シリコーンゴムコンパウンドの表面粘着性の増大によるロール加工性の低下を抑制しつつ、シリコーンゴム成型物の耐スチーム性を向上させることができる方法であるため、特に、ミラブル型の熱硬化型シリコーンゴム組成物の成型物に対して、より有効である。なお、本明細書において、重量平均重合度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ (GPC) 分析により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量から算出される平均重合度をいう。GPC分析における移動相としては例えばトルエン等の溶媒が挙げられる。
【0013】
かかるシリコーンゴム組成物としては、例えば、ベースポリマーとして(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、必要により充填剤として(B)補強性シリカ、および(C)硬化剤を含有するシリコーンゴム組成物が挙げられる。
【0014】
((A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン)
(A)成分は1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンである。(A)成分としては、例えば、下記平均組成式(1):
1nSiO(4-n)/2 (1)
(式中、R1は互いに同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素原子数1〜10の1価炭化水素基であり、nは1.8〜2.3の正数であり、ただし、R1の少なくとも2個は炭素原子数2〜10のアルケニル基である。)
で表されるオルガノポリシロキサンを用いることができる。
【0015】
1は互いに同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素原子数1〜10、好ましくは1〜8の1価炭化水素基である。R1の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10のアルキル基;シクロヘキシル基等の炭素原子数3〜10のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素原子数6〜10のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基等の炭素原子数2〜10、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜6のアルケニル基;シクロヘキセニル基等の炭素原子数3〜10のシクロアルケニル基;これらの炭化水素基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子、臭素原子、塩素原子等のハロゲン原子、シアノ基等で置換した基、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基、ビニル基、フェニル基、トリフロロプロピル基が好ましい。好ましくは全R1の50モル%以上が、より好ましくは全R1の80モル%以上が、更により好ましくはアルケニル基以外の全てのR1がメチル基である。
【0016】
アルケニル基の含有量は、全R1中0.0001〜20モル%であることが好ましく、特に0.001〜10モル%であることが好ましい。アルケニル基は、分子鎖末端のケイ素原子に結合していても、分子鎖途中(即ち、分子鎖非末端部分)のケイ素原子に結合していても、両者に結合していてもよい。
【0017】
nは1.8〜2.3、好ましくは1.9〜2.1、より好ましくは1.95〜2.05の正数である。
【0018】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは基本的には直鎖状であるが、得られる硬化物のゴム弾性を損なわない範囲において部分的には分岐していてもよい。好ましくは、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンである。
【0019】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの分子量は特に限定されず、(A)成分としては、例えば、低い粘度(例えば、25℃において、100〜500,000mPa・s、特に500〜100,000mPa・s程度)を有する液状のオルガノポリシロキサンから高い粘度(例えば、25℃において、1,000,000mPa・s以上、特に10,000,000mPa・s以上)を有する生ゴム状のオルガノポリシロキサンまで使用できる。なお、本発明において、粘度は回転粘度計等により測定することができる。
【0020】
得られる組成物が硬化してゴム状弾性体になるためには、更に、(A)成分のオルガノポリシロキサンの重合度(通常、重量平均重合度)が100〜100,000であることが好ましく、特に150〜20,000であることが好ましい。より具体的には、ミラブル型の組成物を調製する場合、(A)成分の重合度は、好ましくは1,500以上、特に好ましくは2,000以上である。この場合、(A)成分は室温で生ゴム状の高重合度オルガノポリシロキサンであり、(A)成分の重合度の上限は約100,000、特に20,000程度でよい。一方、液状の組成物を調製する場合、(A)成分の重合度は、好ましくは100〜1,200程度、より好ましくは200〜800程度である。この場合、(A)成分は液状オルガノポリシロキサンである。
【0021】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは1種単独で使用しても分子構造、重合度またはこれらの両方の異なる2種以上を併用してもよい。
【0022】
((B)補強性シリカ)
本発明で用いる熱硬化型シリコーンゴム組成物には、その硬化物に機械的強度等を付与するために補強性シリカを配合することが好ましい。補強性シリカとしては、例えば、ヒュームド(煙霧質)シリカ、沈降(湿式)シリカが挙げられる。(B)成分の補強性シリカは、BET法による比表面積が50m2/g以上であることが好ましく、特に100〜400m2/gであることが好ましい。(B)成分は1種単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0023】
(B)成分の補強性シリカとしては、必要に応じて、オルガノポリシロキサン、シラザン、クロロシラン、アルコキシシラン等の表面処理剤で表面処理されたシリカを用いてもよい。これらの表面処理剤は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。表面処理剤による表面処理は、例えば、(A)成分のオルガノポリシロキサンと(B)成分の補強性シリカとの混合と同時に又は該混合とは異なるタイミングで、未処理の補強性シリカを表面処理剤と接触させることにより行うことができる。
【0024】
(B)成分の配合量は特に限定されないが、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0〜100質量部が好ましく、より好ましくは1〜80質量部、特に好ましくは5〜50質量部である。該配合量がこの範囲内にあると、(B)成分と他の成分との配合が容易であり、得られる硬化物はゴム強度などのゴム物性が十分となりやすい。更に、生ゴムを原料とするミラブルゴムの場合、加工性を維持しやすい。
【0025】
((C)硬化剤)
(C)成分の硬化剤は、本発明で用いる熱硬化型シリコーンゴム組成物を硬化させ得るものであれば特に限定されない。(C)成分は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。(C)成分としては、例えば、(C−1)付加反応型硬化剤、(C−2)有機過酸化物硬化剤、および(C−1)成分と(C−2)成分との組み合わせが挙げられる。
【0026】
・(C−1)付加反応型硬化剤
(C−1)成分としては、(C−1a)オルガノハイドロジェンポリシロキサンと(C−1b)ヒドロシリル化触媒との組み合わせが用いられる。
【0027】
・・(C−1a)オルガノハイドロジェンポリシロキサン
(C−1a)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に2個以上、好ましくは3個以上のSiH基を含有するものであれば、直鎖状、環状、分岐状および三次元網状構造のいずれであってもよい。(C−1a)成分としては、付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の架橋剤として公知のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いることができ、例えば、下記平均組成式(2):
2pqSiO(4-p-q)/2 (2)
(式中、R2は互いに同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素原子数1〜12の1価炭化水素基であり、pおよびqは0≦p<3、0<q≦3および0<p+q≦3を満たす正数である。)
で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。(C−1a)成分は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記平均組成式(2)中、R2は互いに同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素原子数1〜12、特に好ましくは1〜8の1価炭化水素基であり、脂肪族不飽和基以外のものであることが好ましい。R2の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基等のアラルキル基;及びこれらの炭化水素基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子等のハロゲン原子等で置換した基、例えば3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0029】
pおよびqは、好ましくは0.7≦p≦2.4、0.002≦q≦1および0.8≦p+q≦2.7を満たす正数であり、より好ましくは1≦p≦2.2、0.01≦q≦1および1.002≦p+q≦2.5を満たす正数である。
【0030】
(C−1a)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、SiH基を1分子中に2個以上(例えば2〜300個)、好ましくは3個以上(例えば3〜200個)、より好ましくは4〜100個程度有する。(C−1a)成分においてSiH基は分子鎖末端にあっても、分子鎖の途中(即ち、分子鎖非末端部分)にあっても、その両方にあってもよい。また、(C−1a)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子数(又は重合度)は、好ましくは2〜300個、より好ましくは3〜200個、更により好ましくは4〜100個程度である。更に、(C−1a)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの25℃における粘度は、好ましくは0.5〜10,000mPa・s、より好ましくは0.5〜1,000mPa・s、特に好ましくは1〜300mPa・sである。
【0031】
(C−1a)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、および(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C653SiO1/2単位とからなる共重合体;これらの例示化合物においてメチル基の一部又は全部をプロピル基、ブチル基等のメチル基以外のアルキル基もしくはフェニル基又はこれらの組み合わせ等で置換した化合物;下記構造式で表わされる化合物などが挙げられる。
【0032】
【化1】


(上記式中、kは2〜10の整数であり、s及びtは0〜10の整数である。)
【0033】
(C−1a)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜40質量部が好ましい。更に、(A)成分中の脂肪族不飽和基(例えば、ケイ素原子に結合したアルケニル基及びジエン基等)1個に対し、(C−1a)成分中のSiH基の個数が好ましくは0.5〜10個、より好ましくは0.7〜5個となる量である。該配合量が上記範囲内だと、得られる組成物の硬化時に架橋が十分に形成されやすく、硬化後は、機械的強度が十分となりやすく、また、他の物理特性、特に耐熱性と低圧縮永久歪特性が良好となりやすい。
【0034】
・・(C−1b)ヒドロシリル化触媒
(C−1b)成分のヒドロシリル化触媒は、(A)成分中のアルケニル基と(C−1a)成分中のSiH基とを付加反応させる触媒である。(C−1b)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。(C−1b)成分としては、例えば、白金族金属系触媒が挙げられ、具体的には、例えば、白金族の金属単体とその化合物が挙げられる。白金族金属系触媒としては、付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の触媒として従来公知のものが使用できる。白金族金属系触媒としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカゲルのような担体に吸着させた微粒子状白金金属、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸6水和物のアルコール溶液、パラジウム触媒、ロジウム触媒等が挙げられるが、白金又は白金化合物が好ましい。
【0035】
(C−1b)成分の添加量は、上記付加反応を促進できる量であればよく、白金族金属質量に換算して(A)成分のオルガノポリシロキサンに対して、好ましくは1ppm〜1質量%(10,000ppm)、より好ましくは2〜1,000ppm、特に好ましくは10〜500ppmである。該添加量がこの範囲だと、付加反応が十分に促進されやすく、硬化が十分になりやすく、経済的に有利となりやすい。
【0036】
また、上記の触媒のほかに硬化速度を調整する目的で、付加架橋制御剤を使用してもよい。その具体例としてはエチニルシクロヘキサノール等のアセチレンアルコール系制御剤、テトラシクロメチルビニルポリシロキサンが挙げられる。付加架橋制御剤は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
・(C−2)有機過酸化物硬化剤
(C−2)成分としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p−メチルベンゾイルパーオキサイド、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−ビス(2,5−t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−t−ブチルパーオキシカーボネート等が挙げられる。(C−2)成分は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0038】
(C−2)成分の添加量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、特に0.2〜5質量部が好ましい。
【0039】
(その他の成分)
本発明で用いる熱硬化型シリコーンゴム組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、上記成分に加え、必要に応じて、その他の成分として、粉砕石英、結晶性シリカ、珪藻土、炭酸カルシウム等の充填剤、着色剤、引き裂き強度向上剤、酸化鉄や酸化セリウム等の耐熱性向上剤、酸化チタン、白金化合物等の難燃性向上剤、受酸剤、アルミナや窒化硼素等の熱伝導率向上剤、離型剤、充填剤用分散剤として各種アルコキシシラン、特にフェニル基含有アルコキシシラン及びその加水分解物、ジフェニルシランジオール、カーボンファンクショナルシラン、シラノール基含有低分子シロキサン等の、熱硬化型シリコーンゴム組成物における公知の充填剤および添加剤を添加してもよい。その他の成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0040】
(組成物の調製方法)
本発明で用いる熱硬化型シリコーンゴム組成物は、該組成物を構成する成分をニーダー、バンバリーミキサー、2本ロール等の公知の混練機で混合することにより得ることができる。該シリコーンゴム組成物として上記(A)〜(C)成分を含有する組成物を用いる場合、(A)成分のオルガノポリシロキサンと(B)成分の補強性シリカとを混合して混合物を得た後、該混合物に(C)成分の硬化剤を添加することが好ましい。上記(A)〜(C)成分を含有する組成物が更にその他の成分を含む場合には、(A)成分のオルガノポリシロキサンと(B)成分の補強性シリカとその他の成分とを混合して混合物を得た後、該混合物に(C)成分の硬化剤を添加することが好ましい。
【0041】
[シリコーンゴム成型物]
成形方法としては、目的とする成形品の形状および大きさにあわせて公知の成形方法を選択すればよい。例えば、注入成形、圧縮成形、射出成形、カレンダー成形、押出成形などの方法が挙げられる。
【0042】
硬化条件は、用いる成形方法における公知の条件でよく、一般的に60℃〜450℃の温度で数秒〜1日程度である。また、得られる硬化物の圧縮永久歪の低下、得られるシリコーンゴム中に残存している低分子シロキサン成分の低減、該シリコーンゴム中の有機過酸化物の分解物の除去等の目的で、200℃以上、好ましくは200℃〜250℃のオーブン内等で1時間以上、好ましくは1時間〜70時間程度、より好ましくは1時間〜10時間のポストキュア(2次キュア)を行ってもよい。
【0043】
[工程(1):シリコーンゴム成型物の表面を処理剤で処理する工程]
シリコーンゴム成型物の表面を処理剤で処理することができる限り、工程(1)を行う方法は特に限定されないが、工程(1)を気相で行うこと、即ち、シリコーンゴム成型物の表面を気体状の処理剤に曝すことが好ましい。シリコーンゴム成型物の表面を気体状の処理剤に曝す方法としては、例えば、液状の処理剤を入れた密閉容器中の気相部分にシリコーンゴム成型物を入れて、該気相部分へと気化した処理剤に該シリコーンゴム成型物の表面を暴露する方法、シリコーンゴム成型物の表面に気化させた処理剤を吹き付ける方法などが挙げられる。処理剤としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン等のオルガノジシラザンが挙げられる。密閉容器中の気相部分へと気化した処理剤による処理は、室温(25±10℃)でも加熱下(例えば、40〜130℃、好ましくは50〜120℃)でも行うことができる。処理時間は特に限定されず、室温(25±10℃)では1〜10日間、加熱下では1時間〜5日間でよい。
【0044】
[工程(2):シリコーンゴム成型物の表面から過剰な処理剤を取り除く工程]
シリコーンゴム成型物の表面から過剰な処理剤を取り除くことができる限り、工程(2)を行う方法は特に限定されないが、例えば、工程(1)で処理剤により処理されたシリコーンゴム成型物を室温(25±10℃)に放置するかまたは加熱オーブン等で加熱することにより、過剰の処理剤を気化および飛散させて除去する方法などが挙げられる。加熱温度は例えば100〜200℃である。室温(25±10℃)での放置時間は特に限定されず、1〜72時間でよく、また、加熱時間も特に限定されず、1〜24時間でよい。
【0045】
[耐スチーム性シリコーンゴム成型物の製造方法]
本発明の製造方法は、上記の工程(1)と(2)とを含んでなる耐スチーム性シリコーンゴム成型物の製造方法である。本発明の製造方法により得られた耐スチーム性シリコーンゴム成型物は、従来のものと比較して耐スチーム性が顕著に向上しているため、建築用材料として、また、電気及び電子用部品、自動車用部品ならびに食品容器、炊飯器、ポットなどの家庭用品において好適に使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例と比較例を示して本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。なお、下記例中、平均重合度はトルエンを溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ (GPC) 分析により測定したポリスチレン換算の重量平均重合度を意味する。
【0047】
[試験方法]
以下の試験方法に従って、ロール加工性を評価し、硬さ、引張り強さおよび切断時伸びを測定した。
【0048】
(ロール加工性)
下記の実施例または比較例で得られたベースコンパウンドを2本ロールミルで練る時の粘着性および作業性を検証し、ロール加工性を下記の評価基準で評価した。結果を表1に示す。
○(良好):ベースコンパウンドとロールとの間に粘着性がなく作業性がよい
×(不良):ベースコンパウンドとロールとの間に粘着性があり作業性が悪い
【0049】
(硬さ、引張り強さおよび切断時伸び)
下記の実施例または比較例で得られた試験シートからJIS K 6249に準拠して作製した試験片を用いて、JIS K 6249に準じた方法で、硬さ、引張り強さおよび切断時伸びを測定した。更に、180℃(1.00MPa)の水蒸気中に3日放置した同様の試験片(スチーム処理した試験片)を用いて、JIS K 6249に準じた方法で、硬さ、引張り強さおよび切断時伸びを測定した。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例1]
ジオルガノシロキサン単位の繰返しからなる主鎖がジメチルシロキサン単位99.825モル%とメチルビニルシロキサン単位0.15モル%とジメチルビニルシロキシ単位0.025モル%とからなり、平均重合度が約6,000であるオルガノポリシロキサン生ゴム100質量部、BET法比表面積が200m2/gのヒュームドシリカ(商品名:アエロジル200、日本アエロジル(株)製)40質量部、及び、分散剤として平均重合度が15、25℃における動粘度が30mm2/sである両末端シラノール基含有ジメチルポリシロキサン10質量部をニーダーにて混練りし、170℃にて2時間加熱処理してミラブル型のベースコンパウンド(1)を調製した。
【0051】
このベースコンパウンド(1)100質量部に対し、硬化剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.4質量部を添加し、2本ロールミルにて均一に混合してミラブル型のシリコーンゴム組成物(1)を調製した。このシリコーンゴム組成物(1)を165℃、70kgf/cm2の条件で10分間プレスキュアし、次いで200℃のオーブンで4時間ポストキュアを実施して2mm厚のシート状成型物を作製した。
【0052】
作製したシート状成型物を、ヘキサメチルジシラザン(液状物)を底に張ったデシケータ中の気相部分に静置して、該デシケータ中で気化するヘキサメチルジシラザンを含む雰囲気に暴露することによって、室温(25℃)で5日間処理を行った。その後、過剰なヘキサメチルジシラザンを取り除くために、シート状成型物を150℃のオーブン中で4時間熱処理して試験シートを得た。
【0053】
[実施例2]
実施例1において、室温(25℃)で5日間処理を行う代わりに、50℃で3日間処理を行った以外は、実施例1と同様にして、ベースコンパウンド(1)およびシリコーンゴム組成物(1)を調製し、試験シートを作製した。
【0054】
[実施例3]
実施例1において、硬化剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.4質量部を用いてミラブル型のシリコーンゴム組成物(1)を調製する代わりに、付加架橋硬化剤としてC-25A(白金族金属を0.10質量%含有するペースト状白金触媒)およびC-25B(分子中にSiH基を2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを43質量%含有するペースト状の架橋剤)(共に信越化学工業(株)製)をそれぞれ0.5質量部および2.0質量部を用いてミラブル型のシリコーンゴム組成物(2)を調製し、プレスキュアの条件を165℃、70kgf/cm2から120℃、70kgf/cm2に変更した以外は、実施例1と同様にして、ベースコンパウンド(1)を調製し、試験シートを作製した。
【0055】
[比較例1]
実施例1において、ヘキサメチルジシラザンを含む雰囲気への暴露を行わず、作製したシート状成型物をそのまま試験シートとして用いた以外は、実施例1と同様にして、ベースコンパウンド(1)およびシリコーンゴム組成物(1)を調製し、試験シートを作製した。
【0056】
[比較例2]
実施例1で調製したミラブル型のベースコンパウンド(1)を、ヘキサメチルジシラザン(液状物)を底に張ったデシケータ中の気相部分に静置して、該デシケータ中で気化するヘキサメチルジシラザンを含む雰囲気に暴露することによって、室温(25℃)で5日間処理を行い、ベースコンパウンド(2)を調製した。このベースコンパウンド(2)を150℃のオーブン中で4時間熱処理することにより過剰なヘキサメチルジシラザンを除去して、ミラブル型のベースコンパウンド(3)を調製した。このベースコンパウンド(3)100質量部に対し、硬化剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.4質量部を添加し、2本ロールミルにて均一に混合してミラブル型のシリコーンゴム組成物(3)を調製した。このシリコーンゴム組成物(3)を165℃、70kgf/cm2の条件で10分間プレスキュアし、次いで200℃のオーブンで4時間ポストキュアを実施して2mm厚のシート状成型物を作製した。このシート状成型物を試験シートとして用いた。なお、ロール加工性はベースコンパウンド(3)について評価した。
【0057】
[比較例3]
実施例3において、ヘキサメチルジシラザンを含む雰囲気への暴露を行わず、作製したシート状成型物をそのまま試験シートとして用いた以外は、実施例3と同様にして、ベースコンパウンド(1)およびシリコーンゴム組成物(1)を調製し、試験シートを作製した。
【0058】
【表1】

【0059】
[評価]
実施例1、2および3では、本発明の条件に合う方法でシリコーンゴム成型物表面の処理および過剰な処理剤の除去を行ったところ、硬化前のロール加工性が良好であり、スチーム処理後の物性低下が小さかった。これに対し、比較例1と3では、スチーム処理後の物性低下が大きかった。また、比較例2では、スチーム処理後の物性低下は小さかったが、硬化前のロール加工性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)熱硬化型シリコーンゴム組成物を加熱硬化させてなるシリコーンゴム成型物の表面を処理剤で処理する工程と、
(2)工程(1)の後、該シリコーンゴム成型物の表面から過剰な処理剤を取り除く工程と
を含んでなるシリコーンゴム成型物の耐スチーム性向上方法。
【請求項2】
熱硬化型シリコーンゴム組成物が有機過酸化物硬化型である請求項1に係る耐スチーム性向上方法。
【請求項3】
熱硬化型シリコーンゴム組成物が付加反応硬化型である請求項1に係る耐スチーム性向上方法。
【請求項4】
熱硬化型シリコーンゴム組成物がミラブル型である請求項1〜3のいずれか1項に係る耐スチーム性向上方法。
【請求項5】
工程(1)を気相で行う請求項1〜4のいずれか1項に係る耐スチーム性向上方法。
【請求項6】
処理剤がオルガノジシラザンである請求項1〜5のいずれか1項に係る耐スチーム性向上方法。
【請求項7】
オルガノジシラザンがへキサメチルジシラザンである請求項6に係る耐スチーム性向上方法。
【請求項8】
(1)熱硬化型シリコーンゴム組成物を加熱硬化させてなるシリコーンゴム成型物の表面を処理剤で処理する工程と、
(2)工程(1)の後、該シリコーンゴム成型物の表面から過剰な処理剤を取り除く工程と
を含んでなる耐スチーム性シリコーンゴム成型物の製造方法。