説明

シリンジ内への充填装置

【課題】構造簡単で取扱い容易なシリンジ内への充填装置を提供する。
【解決手段】収納容器と供給流路と流路開放閉塞手段と真空形成手段と加圧供給手段とを具備し、解放状態の流路開放閉塞手段40を通して真空引きすることにより供給流路25内、シリンジ10(先端部14)内および収納容器50内を真空状態とし、供給流路内が設定真空値以下の値に低下したことを条件として流路開放閉塞手段(内外差圧作動要素41)が閉塞状態に切換わった後に、収納容器内の流動体5を加圧しつつ先端部14側から供給することでシリンジ(外筒)内に流動体を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収納容器内の流動体を加圧しつつシリンジ内に充填させるためのシリンジ内への充填装置に関する。
【背景の技術】
【0002】
図10において、シリンジ10は、細長形状の外筒11とプランジャー16とからなる。外筒11の基端部12は大口径で、先端部14は小口径のノズル形状である。プランジャー16は、押圧部17とロッド部18とピストン部19とを有し、ピストン部19の外周壁面には、ピストン部19を挟む基端部12と先端部14とを密封状態に隔離するシール部材(Oリング)が装着されている。図10は、プランジャー16を一番押し込んだ状態である。
【0003】
かかる構造のシリンジ10は、図10に示す状態のまま製品として販売される場合と、図11に示す如く流動体5を充填した状態の製品として販売される場合とがある。前者の場合は、購入者が流動体5を充填することになる。
【0004】
ここに、本願明細書中でいう流動体5とは、例えばペースト状の半田,歯科用印象材料、歯科用セメント(穴埋め剤等)、接着剤、粘性の強い液状の薬剤等が含まれる。つまり、シリンジ10(11)内に充填可能でかつプランジャー16の押込み量に比例して先端部14から吐出可能な性質(流動性)の組成や物質の総称であるものとする。
【0005】
流動体5が充填されたシリンジ10の使用方法としては、対象物に先端部14を位置決めし、プランジャー16(17)に外力を付加しつつ流動体5を対象物に向けて吐出(供給)して使用する場合が圧倒的に多い(特許文献1を参照)。
【0006】
また、流動体5の定量吐出を実現するには、シリンジ10をディスペンサにセットし、プランジャー16(19)の押込み量を調整(制御)することによる。ねじ機構や空気圧機構を利用した機械的調整手段や、一段の精度を要求される場合の圧電素子等の伸縮動作を利用した電気的調整手段による。
【0007】
ところで、シリンジ10(外筒11)内に流動体5を充填する方法としては、プランジャー16を引き抜いた状態で外筒11の基端部12側から流動体5を充填しかつその後にプランジャー16を挿着する方法(先込め式)と、プランジャー16を引上げつつ先端部14側から吸引しつつ流動体5を充填する方法(同時込め式)とがある。前者は粘性の高い流動体の場合に、後者は粘性の低い流動体の場合に採られることが一般的である。
【特許文献1】特開2005−13841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、いずれの充填方法でも、図11に示すように、外筒11内に空気が入ってしまう場合がある。侵入空気は、空気玉(空気粒)7となり外筒11内乃至充填流動体内に残存する。液状流動体の場合は気泡(7)と言われる。同図(A)はピストン部19の下方(基端部12内)に残存し、同図(B)は中央部に残存し、同図(C)は先端部14内に残像した状態を示す。なお、低粘度液状の流動体5の場合は気泡(7)と称される。また、同じ部位に複数の空気玉7が集中して残存する場合や、複数の部位に空気粒や気泡が散らかって残存する場合もある。比較的に、粘性の高い流動体5の場合に大きな空気玉7が残存し易い。シリンジ構造の特殊性(密封性)からして、後から残存空気玉7を取り除く(放出させる)ことは難しい。特に、多数の空気粒の全てを取り除くことは不可能に近い。しかも、空気玉7が残存するか否かを外部から目視判断することは非常に困難である。
【0009】
この空気玉7が残存したままでは充填後製品としては不合格で、粗悪品乃至不良品として取り扱われる。また、運用の実際上は、プランジャー16を押込んでも、空気(7)が吐出されるだけで流動体5が吐出されない空打ち現象、空気玉7が緩衝層として作用することから流動体5の吐出量が一時的に変化する脈動現象や、空気玉7の破裂により吐出された流動体5が周囲に飛び散る飛散現象が発生する虞が強い。特に、正確な定量吐出を保証できない事態は、例えば歯科材料である2液混合接着剤を調合する場合等において、致命的欠陥と言わざるを得ない。
【0010】
かくして、従来は、シリンジ10(外筒11)内への充填作業を、厳格かつ慎重に行うことで対処していたのが実状である。つまり、作業効率が悪くかつ長時間を必要とする。この点に関しては、技術的に種々検討されている。しかし、検討結果に基づいて実際に具現化しても、構造複雑でかつ取扱いが面倒な装置であることが多かった。しかも、空気玉7を排斥できかつ確実に充填することができる保障性が低く、さらに経済的負担が大きいという問題点が残っている。このように、有用な装置は未だ実現されていない。
【0011】
本発明の目的は、流動体の確実な充填ができる構造簡単で取扱い容易なシリンジ内への充填装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明に係る充填装置は、流動体を収納する密封型の収納容器と、一方端部が収納容器に密封接続可能でかつ他方端部がシリンジの先端部を密封接続可能であるとともに収納容器内およびシリンジの先端部内を密封状態で連通可能に形成された供給流路と、常態において解放状態でかつ供給流路内の圧力が設定真空値以下の値に低下したことを条件に閉塞状態に切換わる内外差圧作動型の流路開放閉塞手段と、解放状態の流路開放閉塞手段を通して真空引きすることで供給流路内,シリンジの先端部内および収納容器内に真空を形成するための真空形成手段と、収納容器内の流動体を加圧しつつ供給流路およびその先端部を通してシリンジ内に当該流動体を供給可能な加圧供給手段と、を具備してなる。
【0013】
請求項2の発明は、流路開放閉塞手段が本体内に装着された内外差圧作動要素が内包気体圧力と供給流路内の圧力との差によって膨張収縮可能に形成されている。請求項3の発明は、シリンジおよび流路開放閉塞手段が共通のチャンバー内に収容されている。また、請求項4の発明は、シリンジの基端部内に真空を形成するための第2の真空形成手段が設けられている。
【0014】
また、請求項5の発明は、加圧供給手段が収納容器の内容積を小さくすることで加圧・供給可能に形成されている。請求項6の発明は、供給流路が複数のシリンジを着脱可能に形成されている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、シリンジ内に空気玉を残存させないで流動体の確実な充填ができ、構造簡単で取扱い容易である。しかも、経済的負担が小さくかつ具現化が容易である。
【0016】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の場合に比較して、一段と構造簡単でかつコスト低減ができる。
【0017】
また、請求項3の発明によれば、請求項1,2の発明の場合と同様な効果を奏することができることに加え、流動体充填時の加圧供給手段の負荷を大幅に軽減できる。請求項4の発明によれば、請求項3の発明の場合と比較して、1台の真空形成手段であるからシリンジへの着脱作業を含む取り扱いが一段と容易である。
【0018】
また、請求項5の発明によれば、請求項1〜4の発明の場合と同様な効果を奏することができることに加え、流動体への空気玉の混入阻止効果を一段と助長できるとともに、加圧供給手段の負荷軽減化およびコスト低減を一層促進できる。さらに、請求項6の発明によれば、請求項1〜5の発明の場合と同様な効果を奏することができることに加え、充填済シリンジの生産効率を大幅に向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
本シリンジ10内への充填装置1は、図1に示す如く、収納容器50と供給流路25と流路開放閉塞手段40と真空形成手段70と加圧供給手段80とを具備し、解放状態の流路開放閉塞手段40(41)を通して真空引きすることにより供給流路25内、シリンジ10(先端部14)内および収納容器50内を真空状態とし、供給流路25内が設定真空値以下の値に低下したことを条件に流路開放閉塞手段40(41)が閉塞状態に切換わった後に、収納容器50内の流動体5を加圧しつつ先端部14側から供給することでシリンジ10(外筒11,先端部14)内に流動体5を充填可能に形成されている。
【0021】
図1において、収納容器50の上壁面51Uに着脱用の冶具20が取り付けられ、この冶具20にシリンジ10が装着されている。冶具20内に供給流路25が形成されている。加圧供給手段80は、収納容器50の下方側に設けてある。
【0022】
シリンジ10は、図10に示した場合と同じ構造である。同一部分には同一の符号を付してそれらについての構造説明は省略する。なお、この実施形態における流動体5は、比較的に粘性の高いペースト状の歯科用印像材料である。
【0023】
収納容器50は、下部解放型のタンク部51と隔壁板部材55とからなり、流動体5を収納可能な密封型である。タンク部51は、図示しない架台に固定されている。隔壁板部材55は、タンク部51の起立内周面にシール部材56を介して上下方向に摺動(移動)可能に装着されている。隔壁板部材55を上昇させれば、タンク部51内の内容積を小さくすることができ、収納された流動体5の供給圧力を高められる。
【0024】
ここに、供給流路25は、一方端部(図1で下端部)25Lが収納容器50に密封状態で接続可能でありかつ他方端部(上端部)25Uがシリンジ10(外筒11)の先端部14を密封接続可能である。すなわち、供給流路25は、収納容器50(タンク部51)内およびシリンジ10(外筒11)の先端部14内を密封状態で連通可能に形成されている。
【0025】
この実施の形態では、収容容器50への取付け容易化およびシリンジ10の装着容易化や構造簡素化を企図する着脱用冶具20を採用し、この円筒形状の冶具20の縦方向に延在する中空部(垂直軸線方向に貫通する。)をそのまま供給流路25として利用している。
【0026】
すなわち、冶具20は、上記した中空部(25)を有する本体21からなり、上端部がシリンジ10の着脱部22で、下端部がタンク部51(51U)への装着部29である。供給流路25の一方端部25Lはタンク部51内に連通され、他方端部25Uは装着されたシリンジ10に連通される。中空円筒形状の本体21は、合成樹脂や金属製である。
【0027】
さらに、供給流路25を形成する中空部の中央付近には、水平方向に延在する中空部(嵌装部28)が設けられている。この嵌装部28の内側は供給流路25に連通され、外側は接続具74および吸込管73を介して真空形成手段(真空ポンプ72)に接続される。
【0028】
ここにおいて、流路開放閉塞手段40は、内外差圧作動型であり、常態(大気圧下:1013hPa)において解放状態でかつ供給流路25内の圧力が設定真空値以下の値に低下したことを条件に閉塞状態に切換わる。なお、設定真空値は例えば133.3hPaであり、供給経路25内の圧力がこれ以下に低下したときに、流路開放閉塞手段40は閉塞する。ただし、設定真空値は、流路開放閉塞手段40の構造によって自由に設定することが可能である。設定真空値は、例えば大気圧の10分の1、あるいは、大気圧の100分の1としてもよい。
【0029】
流路開放閉塞手段40は、この実施の形態では、内外差圧作動要素41を本体21(嵌装部28)内に装着した構造とされている。外周面は嵌装部28の内周面に接着固定されている。段差を設けて機械的に保持するように形成してもよい。
【0030】
内外差圧作動要素41は、図2に示す如く、中空円筒形状の伸縮性部材(弾性部材)42内に1または2以上の気体(空気)43を内包させた構造で、内包気体43の圧力と供給流路25内の実際圧力との差によって全体形状が3次元方向に膨張収縮可能に形成されている。伸縮性部材42は、例えば、スポンジや可撓性に富んたゴム、プラスチック等であり、複数の不連続(不連通)の気体を内包させる。
【0031】
内包する気体の種類は、空気に限定されない。空気以外の気体としては膨張(収縮)率の大きなガスが望ましい。但し、空気とすることが、経済性、安全性の点から好ましい。なお、内包気体43は、玉形状,粒形状や層形状などである。つまり、その形態乃至形状は問わない。
【0032】
具体的には、供給流路25内の圧力が、内包気体43の圧力よりも低い圧力状態になるにつれて空気(43)が膨張するので、伸縮性部材42が伸長しかつ膨張(変形拡大)する。このとき、供給流路25内の圧力が下がるに従い、伸縮性部材42(内外差圧作動要素41)は徐々に膨張する。その結果、伸縮性部材42(内外差圧作動要素41)全体の総体積が大きくなる。さらに、低圧化して供給流路25内の圧力が設定真空値以下の値に低下すると、図3(A)に示すように伸縮性部材42が一段と膨張拡大する。伸縮性部材42の外周部は嵌装部28で位置規制されているので、中空部44を縮径する方向に変形する。すなわち、中空部44(嵌装部28)を閉塞することができる。中空部44が閉塞されるときの供給流路25内の圧力(設定値)は、嵌装部28の形状や内外差圧作動要素41の形状や構造(伸縮性部材42の材質や内包気体43の圧力)を調整することによって設定することができる。この閉塞状態は、大気開放されるまで維持される。なお、充填後に大気解放されると、図2に示す解放状態(初期状態)に戻るので、再利用が可能である。
【0033】
この供給流路25内の圧力を低圧化するために真空形成手段が設けられている。この実施の形態では、真空ポンプ72からなる。すなわち、真空形成手段(72)は、解放状態の流路開放閉塞手段40(内外差圧作動要素41の中空部44)を通して真空引きすることで供給流路25内に真空を形成する。同時に、供給流路25に連通されたシリンジ10の先端部14内および収納容器50内にも真空を形成することができる。
【0034】
つまり、真空引きにより供給流路25内の圧力を負圧化しつつ設定真空値以下の圧力(真空)を確立(形成)する。内外差圧作動要素41が閉塞状態にある限りにおいて、その圧力(真空)を維持できる。この状態では、真空ポンプ72を停止させてもよい。
【0035】
ここに、本願発明の特別な技術的特徴は、真空雰囲気内において先端部14から流動体5を供給してシリンジ10(ピストン部19よりも下方の外筒11および先端部14)内に充填することにある。かくすれば、空気玉(大気)7を取り込まずに確実な充填ができる。しかも、真空形成手段(72)を用いて真空雰囲気を確立(形成)できたことを条件として、内外差圧作動型の流路開放閉塞手段40(41)が自動的作動して真空雰囲気を維持可能に形成されていることである。
【0036】
すなわち、真空ポンプ72で真空雰囲気が確立されたことを圧力センサで検出し、この検出信号を用いて例えばソレノイドバルブを閉めて流路を閉塞するような構造や、取り扱いが複雑でコスト高の複雑高価なシステムを構築する必要がない。換言すれば、本願発明によれば、真空ポンプ72を起動するだけでよく、供給流路内の圧力監視やバルブの切換作業等を必要としない。よって、構造簡単で取り扱いが非常に容易であると理解される。
【0037】
かかる観点から、流路開放閉塞手段40は、内外差圧作動型であれば、この実施の形態の構造に限定されない。例えば、密閉型蛇腹構造体の先に閉塞駒を設けかつ供給流路25内の圧力低下に伴い蛇腹構造体を吸引方向に伸長させることで、テーパー形状とされた真空引き管路(吸込管73)内を閉塞する構造、または密閉型蛇腹構造体の代わりに弾性に富んだ材料からなる風船を用いる構造、さらにはシール剤を内蔵させた風船の破裂によりシール剤を飛散させて閉塞する構造、あるいは圧力低下により球体係止用のカンチレバー(弾性部材)を傾斜させることで球体係止を解きかつ吸引移動される当該球体で流路内を閉塞する構造等である。さらには、吸込管73自体を弾性に富んだ材料のチューブから形成し、真空形成後にチューブがつぶれる構造としてもよい。
【0038】
加圧供給手段80は、収納容器50内の流動体5を加圧しつつ供給流路25および先端部14を通してシリンジ10(外筒11)内に供給する手段である。この実施の形態では、図1で上下移動可能な隔壁板部材55と、この隔壁板部材55の下面に連結された頭部82を有するロッド部81と、図示しない昇降手段とからなる。頭部82と下面とは、当接分離可能に形成してもよい。
【0039】
かかる実施の形態では、プランジャー16を押込んだ状態のシリンジ10を、図1に示すように冶具20にセットする。この段階で、供給流路25内、シリンジ10の先端部14内および収納容器50内は、密封状態で連通する。この供給流路25内および吸込管73内は大気圧(常態)であるから、内外差圧作動要素41内の気体43は初期状態(収縮状態)であり供給流路25は解放状態である。
【0040】
真空ポンプ72を起動し、吸込管73および解放状態の流路開放閉塞手段(41)を通して真空引きすると、供給流路25内,シリンジ10の先端部14内および収納容器50内が負圧化され、やがて真空が形成される。そして、内外差圧作動要素41の内包気体圧力が初期圧力(例えば、1013hPa+α)であるところ、供給流路25内の圧力が低下して設定真空値以下の値になる。
【0041】
内外差圧作動要素41は、内外圧力差によって、徐々に総体積が膨張(拡大変形)し、最終的に中空部44を閉塞する。つまり、図3(A)に示すように供給流路25を閉塞状態に切換える。供給流路25と外部(73等)とが遮断されるので、供給流路25内、シリンジ10の先端部14内および収納容器50内に確立された真空が維持される。
【0042】
すなわち、供給流路25に接続されかつ常態(大気圧下)において解放状態の流路開放閉塞手段40を通して真空引きすることにより、供給流路25内、供給流路25の一方端部25Lに連通された収納容器50内およびその他方端部25Uに連通されたシリンジ10の先端部14内を真空状態とする。
【0043】
次いで、流路開放閉塞手段40が、供給流路25内の圧力が設定真空値以下の値に低下したことを条件に閉塞状態に切換わった後に、加圧供給手段80を稼動(ロッド部81を上昇させる。)させることで、図3(B)に示すように、収納容器50内の流動体5を加圧しつつ供給流路25を通しかつその先端部14側から供給する。真空雰囲気内で行なわれるので、空気玉7の混入(侵入)を完全に防止できる。つまり、シリンジ10(11,14)内に流動体5を確実に充填することができる。
【0044】
また、加圧供給手段80が、隔壁板部材55を押上げて収納容器50の内容積を小さくすることにより流動体5を加圧・供給するので、この点からも空気の混入(侵入)を阻止できる。
【0045】
この流動体5の加圧・供給の際に、外力を加えてプランジャー16の引き上げを行なうようにすれば、加圧供給手段80の負荷を軽減しつつ流動体5の吸引力も発生し得る。例えば、加圧供給手段80の駆動源にリンク機構の主動リンクを連結しかつ従動リンクをプランジャー16の押圧部17に係止させれば自動的な引き上げが可能になる。
【0046】
しかして、この実施の形態によれば、解放状態の流路開放閉塞手段40(41)を通して真空引きすることにより供給流路25内,シリンジ先端部14内および収納容器50内を真空状態とし、供給流路25内が設定真空値以下の値に低下したことを条件に流路開放閉塞手段40(44)が閉塞状態に切換わった後に収納容器50内の流動体5を加圧しつつ先端部14側からシリンジ10内に流動体5を充填可能に形成されているから、粘度の高い流動体5でも空気玉7を残存させないでシリンジ10内に確実に充填することができるとともに、構造簡単で取扱い容易である。しかも、経済的負担が小さくて具現化できる。
【0047】
シリンジ10(11,14)内および流動体5内に空気玉7が残存しないので、目的に応じた流動体5の実際使用に際し、空打ち現象、脈動現象や飛散現象を一掃することができ、定量吐出を保証できる。つまり、流動体5のもつ特性を有効・確実に発現できるとともに高品質な加工品(例えば、歯科材料である2液混合接着剤の調合品)を得られる。
【0048】
また、流路開放閉塞手段40が、気体43を内包する内外差圧作動要素41を冶具20(本体21)内に装着した構造とされ、その内包気体圧力と供給流路25内の圧力との差によって膨張収縮可能に形成されているので、一段と構造簡単でかつコスト低減ができる。取り扱いが一層容易で、故障がなく安定作動できる。
【0049】
また、冶具20を介して収納容器50にシリンジ10を着脱する構造であるから、装置組立てが簡単で、この点からもシリンジ10の着脱作業が容易になる。
【0050】
さらに、加圧供給手段80が、収納容器50の内容積を小さくすることで流動体5を加圧かつ供給可能に形成されているので、流動体5への空気混入阻止効果を一段と助長できるとともに、加圧供給手段80(81,55等)の構造簡素化およびコスト低減を一層促進できる。
【0051】
(第2の実施の形態)
この実施の形態の充填装置1は、図4に示す如く流路開放閉塞手段40(44)を通すことなく真空引きしてシリンジ10(外筒11)の基端部12内に真空を形成するための第2の真空形成手段(第2の真空ポンプ76)を設けている。
【0052】
すなわち、基本的な構成・機能は、第1の実施形態の場合(図1〜図3)と同様であるが、シリンジ10をチャンバー60内に収納させかつ第2の真空ポンプ76でチャンバー60内に真空を形成し、結果として基端部12内に真空を形成するように構築してある。
【0053】
なお、第1の実施形態の場合と共通乃至同一の部分には同一の符号を付して、それらについての構造説明等は省略する。
【0054】
図4において、チャンバー60は、下方のフランジ65を介して収納容器50の上壁面51Uに着脱容易な構造とされている。パッキンは図示省略した。シリンジ10を冶具20に取付けおよび取外しするための着脱作業を容易に行なえるようにする。なお、チャンバー60を上下に2分割して、上半分を収納容器50に固定された下半分に着脱可能に形成してもよい。
【0055】
このチャンバー60の上方の接続具63には、吸込管77を介して第2の真空ポンプ76が連結されている。この第2の真空ポンプ76は、真空ポンプ72に遅れて起動させることが望ましい。かくすれば、流動体5に供給時におけるプランジャー16の上昇移動を円滑化しつつ加圧供給手段80の負荷軽減化を促進することができる。
【0056】
かかる実施の形態では、第1の実施の形態の場合と同様に真空ポンプ72を用いて供給流路25内に真空を形成する。この際、チャンバー60内は大気圧であるから、プランジャー16(17)には重力作用により下降(押下)力が働く。つまり、真空ポンプ72による真空引きの際に、大気圧が掛かるプランジャー16を外筒11の下限位置まで迅速かつ確実に下降させることができる。しかも、真空ポンプ72の負荷を軽減することができる。
【0057】
真空ポンプ72の起動により供給流路25内が真空となった後でかつ加圧供給手段80により流動体5を加圧・供給する以前(乃至加圧・供給中)に、第2の真空ポンプ76を起動させる。つまり、時間差(時間遅れ)をもって起動させる。
【0058】
また、供給流路25内および基端部12内が真空となった後は、プランジャー16(ピストン部19)に掛かる上下圧力差がなくなるので、第1の実施の形態の場合に比較して、プランジャー16の上昇移動負荷を小さくすることができる。つまり、シリンジ10内に流動体5を加圧・供給する際の加圧供給手段80の負荷(加圧力)を大幅に軽減できる。さらに、加圧力が小さいので、流路解放閉塞手段40(内外差圧作動要素41)の閉塞状態を確実かつ安定して維持できる。
【0059】
しかして、この実施の形態によれば、第1の実施の形態の場合と同様な効果を奏することができることに加え、さらに流動体5の充填時の加圧供給手段80の負荷を大幅に軽減できる。
【0060】
(第3の実施の形態)
この実施の形態に係る充填装置1は、図5に示す如く、基本的構成・機能は、第2の実施の形態の場合(図4)と同様であるが、チャンバー60内に複数(図5では、2つ)のシリンジ10を収納可能としかつ加圧供給手段80を上方側から操作可能に形成してある。なお、第2の実施形態の場合(図4)と同じ構造・機能については説明を割愛する。
【0061】
さて、複数のシリンジ10を、各プランジャー16を同じ下限位置(図5に示す状態)に位置決めした状態で準備(用意)できる場合も多い。この点に着目してこの実施の形態では、第2の実施形態における第2の真空形成手段(第2の真空ポンプ76)と真空形成手段(真空ポンプ72)とを兼用する1台の真空形成手段(72)で、充填作業中においてチャンバー60内に真空形成することができるように構築してある。チャンバー60は、フランジ65を介してタンク部51に着脱可能である。
【0062】
つまり、真空ポンプの台数削減を達成できるとともに、各プランジャー16がランダムな位置に位置決めされた状態でシリンジ10が準備された場合に比較して、重力利用によるプランジャー16ごとの下降移動時間(そのうちの最長時間)だけ待つという無駄時間を一掃することができるから、流動体5の充填作業に迅速に移行できる。
【0063】
図5において、加圧供給手段80は、第1、第2の実施の形態の場合と異なり、チャンバー60の上壁面60Uを貫通するロッド部81を外部から押下操作することで、流動体5を加圧供給する構造である。
【0064】
また、収納容器50は、上部解放型のタンク部51と隔壁板部材55とからなる。冶具20(シリンジ10)は、隔壁板部材55に取り付けられている。冶具20(シリンジ10)は隔壁板部材55とともに上下方向に同期移動可能である。かかる巧みな構造により、各冶具20および各シリンジ10の重量を、流動体5の加圧・供給負荷を軽減するための助長手段として有効利用することができる。
【0065】
かかる実施の形態では、真空ポンプ72を起動してチャンバー60内に真空を形成する。すると、各シリンジ10に対応する供給流路25内,先端部14内および収納容器50内のみならず各シリンジ10の基端部12(詳しくは、ピストン部19よりも上方の外筒11内)を同時に真空状態とすることができる。
【0066】
各プランジャー16は最下位置にありかつ各プランジャー16(19)の上下圧力差が生じないので、第2の実施の形態の場合に比較して、プランジャー16の上昇移動に必要な待ち時間を一掃できるから、充填作業に迅速に移行できる。
【0067】
各供給流路25内が設定真空値以下の値に低下したことを条件に、各流路開放閉塞手段40(44)が同時的に閉塞状態に切換わる。その後に、1台の加圧供給手段80を駆動して収納容器50内の流動体5を加圧しつつ先端部14側から供給することで、各シリンジ10内に流動体5を同時に充填することができる。
【0068】
しかして、この実施の形態によれば、第2の実施の形態の場合と同様な効果を奏することができることに加え、さらに1台の真空形成手段(72)でよいのでシリンジ10への着脱作業を含む取り扱いが一段と容易である。
【0069】
また、チャンバー60内に装着された複数のシリンジ10に同時に充填できるので、生産性が高い。
【0070】
(第4の実施の形態)
本充填装置1は、図6に示す如く、基本的構成・機能は、第3の実施形態の場合(図5)と同様であるが、流路開放閉塞手段40(41)の装着構造が異なりかつ冶具20の構造を変更してある。
【0071】
図6において、各冶具20は、複数の着脱部32を有する本体水平部31と、この本体水平部31と隔壁板部材55とを連結する本体起立部33とからなる。供給流路25は、本体水平部31内の水平供給流路36および本体起立部33内の起立供給流路37から形成されている。
【0072】
予めシリンジ10および流路開放閉塞手段40を装着した冶具20を、隔壁板部材55の所定位置に取り付けることができるので、準備作業および交換作業が簡単である。
【0073】
ここに、流路開放閉塞手段40は、シリンジ10(外筒11)と同じ構造の外筒状部材45に、第3の実施形態の場合と同様な内外差圧作動要素41を装着してある。この実施の形態では、内外差圧作動要素41の外周面を外筒状部材45の内周面に接着固定してある。
【0074】
なお、外筒状部材45をシリンジ10の外筒11を利用して形成してもよい。
【0075】
内外差圧作動要素41の固定方法としては、図7に示すようにプランジャー16と同じ構造のプランジャー状部材47を設け、上端部48を押下げることにより下端部49で内外差圧作動要素41を所定位置まで押込んで装着保持させる構造や、外筒状部材45内に図示しない段差を設けかつこの段差を利用して脱落防止を図るように形成してもよい。第1〜第3の実施の形態においても、かかる構造を採用することができる。
【0076】
しかして、この実施の形態によれば、第3の実施の形態の場合と同様な効果を奏することができることに加え、さらに流路開放閉塞手段40の装着構造がシリンジ10の一部を構成する外筒11相当部材(45)から形成されているので、組み立てが容易で一段のコスト低減ができる。
【0077】
(第5の実施の形態)
この実施の形態に係る充填装置1は、図8に示す如く、基本的構成・機能は、第4の実施形態の場合(図6)と同様であるが、1つの冶具20に1つの流路開放閉塞手段40と複数のシリンジ10を装着可能に形成されている。
【0078】
図8において、冶具20(本体水平部31)の中央に設けられた着脱部32には流路開放閉塞手段40が装着され、他の着脱部32にはシリンジ10が装着される。この本体水平部31の平面は円盤形状とされ、シリンジ装着用の着脱部32が外筒状部材(45)を装着する中央の着脱部32を中心とした複数(2つ)の同心仮想円軌跡上に等間隔に配設されている。したがって、仮想円軌跡の数と間隔を適宜に決定した構造とすれば、多数(例えば、50以上)にシリンジ10に1回動作で同時に充填作業を行なえる。
【0079】
なお、図8では図示省略したが、図6の場合と同様な加圧供給手段80が設けられている。この場合において、機械的強度と左右前後方向の操作力のバランスの観点からは、ロッド部81は複数本とすることが好ましい。本体起立部33および起立供給流路37の複数化についても同様である。
【0080】
しかして、この実施の形態によれば、第4の実施の形態の場合と同様な効果を奏することができることに加え、さらなる組立容易化、コスト低減化ができかつ生産性を大幅に向上できる。しかも、準備作業および交換作業を迅速かつ簡単に行なえるので、この点からも製品コストの低減ができる。大量生産に好適な充填装置を提供できる。
【0081】
(第6の実施の形態)
この実施の形態に係る充填装置1は、図9に示す如く、基本的構成・機能は、第5の実施形態の場合(図8)と同様であるが、流路開放閉塞手段40(詳しくは、内外差圧作動要素41)の構造が改良してある。
【0082】
図9(A)において、内外差圧作動要素41は、外形が四角形状の伸縮性部材(例えば、弾力性に富んだ柔軟なゴム系材料)42に不連通の複数の空気粒乃至気泡形状の気体43を内包させた構造である。各角部42Kは外筒状部材45の内周面45Nに当接された状態で接着剤により固定されている。
【0083】
外筒状部材45内つまり供給流路25内が真空になると、図9(B)に示すように各気体43の内圧が相対的に高くなるのでその内外差圧により外筒状部材45が全体膨張する。つまり、伸縮性部材42の総体積が膨張拡大する。この実施形態では外筒状部材45のラジアル方向に膨張する。結果として、外筒状部材45内の空間を閉塞することができる。
【0084】
しかして、この実施の形態によれば、第5の実施の形態の場合と同様な効果を奏することができることに加え、さらに外側への体積膨張現象を利用することから、中空円筒状の伸縮性部材42の場合に比較して製造コストが低く、閉塞効果を一段と確実とすることができる。
【0085】
なお、他の実施形態の場合においても、流路開放閉塞手段40(41)をこの構造に変えても本願発明を実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、流動体(歯科用材料、接着剤等々)を空気混入なくシリンジ内に確実に充填する場合に利用され、充填済シリンジ製品の品質向上および生産性向上に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1の実施形態を説明するための縦断面図である。
【図2】同じく、流路解放閉塞手段を構成する内外差圧作動要素を説明するための図である。
【図3】同じく、動作を説明するための図である。
【図4】本発明の第2の実施形態を説明するための縦断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態を説明するための縦断面図である。
【図6】本発明の第4の実施形態を説明するための縦断面図である。
【図7】同じく、流路解放閉塞手段を説明するための図である。
【図8】本発明の第5の実施形態を説明するための縦断面図である。
【図9】本発明の第6の実施形態に係る内外差圧作動要素を説明するための横断面図である。
【図10】シリンジを説明するための図である。
【図11】従来例とその問題点を説明するための図である。
【符号の説明】
【0088】
1…充填装置、 5…流動体、 7…空気玉、 10…シリンジ、 11…外筒、 14…先端部、 20…冶具、 25…供給流路、 40…流路解放閉塞手段、 41…内外差圧作動要素、 50…収納容器、 60…チャンバー、 72…真空ポンプ(真空形成手段)、 76…第2の真空ポンプ(第2の真空形成手段)、 80…加圧供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動体を収納する密封型の収納容器と、
一方端部が収納容器に密封接続可能でかつ他方端部がシリンジの先端部を密封接続可能であるとともに収納容器内およびシリンジの先端部内を密封状態で連通可能に形成された供給流路と、
常態において解放状態でかつ供給流路内の圧力が設定真空値以下の値に低下したことを条件に閉塞状態に切換わる内外差圧作動型の流路開放閉塞手段と、
解放状態の流路開放閉塞手段を通して真空引きすることで供給流路内,シリンジの先端部内および収納容器内に真空を形成するための真空形成手段と、
収納容器内の流動体を加圧しつつ供給流路およびその先端部を通してシリンジ内に当該流動体を供給可能な加圧供給手段と、を具備したシリンジ内への充填装置。
【請求項2】
前記流路開放閉塞手段が、気体を内包する内外差圧作動要素を本体内に装着した構造とされ、この内外差圧作動要素が内包気体圧力と前記供給流路内の圧力との差によって膨張収縮可能に形成されている、請求項1記載のシリンジ内への充填装置。
【請求項3】
前記シリンジおよび流路開放閉塞手段が共通のチャンバー内に収容され、このチャンバーに前記真空形成手段が接続されている、請求項1または2に記載されたシリンジ内への充填装置。
【請求項4】
流路開放閉塞手段を通すことなく真空引きしてシリンジの基端部内に真空を形成するための第2の真空形成手段が設けられている、請求項1または2に記載されたシリンジ内への充填装置。
【請求項5】
前記加圧供給手段が、前記収納容器の内容積を小さくすることで流動体を加圧かつ供給可能に形成されている、請求項1〜4までのいずれか1項に記載されたシリンジ内への充填装置。
【請求項6】
前記供給流路が、他方端部に複数のシリンジを着脱可能に形成されている、請求項1〜5までのいずれか1項に記載されたシリンジ内への充填装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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