説明

シリンジ用ガスケット及びその製造方法並びに該ガスケットを用いたプレフィルドシリンジ

【課題】効率よく且つ経済的に製造することができ、摺動性に優れるのみならず、長期間安定して使用することが可能なシリンジ用ガスケットと、係るシリンジ用ガスケットを用いたプレフィルドシリンジとを提供する。
【解決手段】架橋型シリコーンゴムからなるガスケット本体12の表面に、PTFEフィルム14を積層してなるシリンジ用ガスケット10であって、前記PTFEフィルム14の前記ガスケット本体12との接合面に、シリカ微粒子層16が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレフィルドシリンジに好適なシリンジ用ガスケットと、該ガスケットを用いたプレフィルドシリンジとに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、注射筒兼容器となるシリンダ内に予め注射液を充填しておき、注射針が取り付けられる先端部分をキャップで密閉・封止した状態で輸送、保管し、投与の際にはシリンダの先端部分に注射針を取り付け、ピストンを先端側に向けて押し込んでガスケットを摺動させることにより注射針を介して注射液を投与する、いわゆるプレフィルドシリンジが注目を集めている。
【0003】
このプレフィルドシリンジは、注射液を誤用することなく正確な量にて投与することができる点や、注射液の移し替え作業が不要であり、かかる作業に起因する注射液の微生物汚染等を防止できる点などから、近年多用されるようになってきている。
【0004】
ところで、従来のプレフィルドシリンジでは、ガスケットがブチルゴムなどの加熱加硫型ゴムで構成されており、このガスケットのシリンダ内での摺動性を改善するため、ガスケット表面やシリンダの内面にシリコーングリスが塗布されていた。しかしながら、近年、プレフィルドシリンジにおいて、ガスケット表面に塗布したシリコーングリスが該表面から剥離して注射液中で微小な油球となって存在し、かかる油球が注射液と共に人体内に注射された場合、シリコーングリス自体に人体に対する毒性は無いものの、脳の抹消血管を閉塞するようになる可能性が指摘されている。
【0005】
また、ガスケットとして加熱加硫型ゴム製のものを使用した場合、当該ゴムに配合されている可塑剤,硫黄系やアミン等の架橋助剤,プロセス油及び顔料などが注射液に浸出して注射液中の有効成分の力価を低下させたり、有効成分を変質させたりする虞があった。このため、これらの弊害を防止するために出来たガスケットを、高温強酸洗浄→中和→高温強アルカリ洗浄→中和→無菌水洗浄→無菌乾燥と云った煩雑な洗浄工程を経た後でなければ使用することができず、効率よく且つ経済的にガスケットを製造するのが困難であると云う問題もあった。
【0006】
そこで、かかる問題を解決すべく、図2に示すようなガスケット1を用いたプレフィルドシリンジ2が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。このプレフィルドシリンジ2は、シリンダ3と加熱加硫型ゴムからなるガスケット1との摺動性を改善するため、ガスケット本体1aの表面に、摩擦係数の極めて低いPTFE(ポリテトラフルオロエチレン;四フッ化エチレン樹脂)フィルム又は超高分子量ポリエチレンフィルムからなる樹脂フィルム4を積層したものである。なお、図2中の5は、注射針が取り付けられるプレフィルドシリンジ2の先端部分を密閉するキャップであり、6は、プレフィルドシリンジ2の内部に充填された注射液である。又、図2中の1bは、図示しないピストンの先端が螺着されるピストン取付部である。
【0007】
かかる技術によれば、シリンダ3内におけるガスケット1の摺動性を改善することができ、ガスケット1の表面やシリンダの内面にシリコーングリスを塗布する必要がなくなることから、シリコーングリスによる上記人体への悪影響を回避することができる。
【特許文献1】特許第3387775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のプレフィルドシリンジ2では、ガスケット1を加熱加硫型ゴムで形成していることから、先に詳述したような煩雑な洗浄工程を経た後でなければガスケット1として使用することが出来ず、依然として効率よく且つ経済的にガスケット1(ひいてはプレフィルドシリンジ2)を製造するのが困難である。
【0009】
また、ガスケット本体1aの表面に積層する樹脂フィルム4としてPTFEフィルムを用いた場合、このPTFEは、非粘着性であり、ガスケット本体1aとの接合力が極めて弱いため、長期保存や輸送の際に外部からプレフィルドシリンジ2に与えられた応力がガスケット本体1aと樹脂フィルム4との接合面に伝播し、係る応力によってガスケット本体1aと樹脂フィルム4との接合が外れ、ガスケット1の摺動性が悪化するのみならず、シリンダ3内に充填した注射液がシリンダ3とガスケット1との間から漏れるようになると云った問題の生じる虞がある。
【0010】
ここで、ガスケット本体1aと樹脂フィルム4との接着性を改善するため、樹脂フィルム4を金属ナトリウムで表面処理し、該樹脂フィルム4の表面にカルボキシル基を形成させることも考えられるが、係る表面処理を行った場合、日本薬局方にて規定された所定の溶出試験をクリアすることができず、又、樹脂フィルム4が茶褐色に変色するようになるため、係る表面処理方法をガスケット1などの医療用途に使用することはできない。
【0011】
それゆえ、本発明の主たる課題は、効率よく且つ経済的に製造することができ、摺動性に優れるのみならず、長期間安定して使用することが可能なシリンジ用ガスケットを提供することである。又、本発明の更なる課題は、かかるシリンジ用ガスケットを用い、効率よく且つ経済的に製造することができ、長期保存や輸送によってもシリンジ用ガスケットの摺動性や密閉性が損なわれることのないプレフィルドシリンジを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載した発明は、
(a)架橋型シリコーンゴムからなるガスケット本体12の表面に、PTFEフィルム14を共成形してなるシリンジ用ガスケット10であって、
(b)前記PTFEフィルム14の前記ガスケット本体12との接合面に、シリカ微粒子層16が設けられていることを特徴とする
(c)シリンジ用ガスケット10である。
【0013】
この発明では、ガスケット本体12が、加熱加硫型ゴムのように可塑剤,硫黄系やアミン等の架橋助剤,プロセス油及び顔料などが注射液に浸出する心配がなく、人体に対して無害な架橋型シリコーンゴムで構成されているので、ガスケット本体12成形後、煩雑な洗浄工程を経ることなく、そのまま製品として使用することができる。
【0014】
また、非粘着性のPTFEフィルム14のガスケット本体12との接合面に、シリカ微粒子層16が設けられているので、シリカ微粒子層16に配置されたシリカ微粒子16bの架橋型シリコーンゴムに対する親和性及びアンカー効果によって、架橋型シリコーンゴムで構成されたガスケット本体12とPTFEフィルム14とを強固に接合させることができる。しかもこのシリカ微粒子層16は、日本薬局方にて規定された所定の溶出試験をクリアすることができるものである。
【0015】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載のシリンジ用ガスケット10において、「前記架橋型シリコーンゴムが過酸化物或いは白金系の硬化剤で架橋する熱硬化性の架橋型シリコーンゴムである」ことを特徴とするもので、これにより、蒸気消毒にも十分に耐え得るような高い耐熱性を付与することができるようになる。
【0016】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載のシリンジ用ガスケット10の製造方法に関するものであり、「架橋型シリコーンゴムからなるガスケット本体12の表面に、前記ガスケット本体12との接合面にシリカ微粒子層16を設けたPTFEフィルム14を共成形するシリンジ用ガスケット10の製造方法であって、前記PTFEフィルム14の表面にシリカ微粒子16bを分散させたPTFE水性分散液を塗布して乾燥した後、これを250〜360℃で焼成して前記シリカ微粒子層16を形成する」ことを特徴とするシリンジ用ガスケット10の製造方法である。
【0017】
請求項4に記載した発明も、請求項1又は2に記載のシリンジ用ガスケット10の製造方法に関するものであり、「架橋型シリコーンゴムからなるガスケット本体12の表面に、前記ガスケット本体12との接合面にシリカ微粒子層16を設けたPTFEフィルム14を共成形するシリンジ用ガスケット10の製造方法であって、前記PTFEフィルム14の表面に非晶質のパーフルオロフッ素樹脂をパーフルオロ溶媒に溶解した溶液にシリカ微粒子16bを分散させたワニスを塗設して前記シリカ微粒子層16を形成する」ことを特徴とするシリンジ用ガスケット10の製造方法である。
【0018】
請求項5に記載した発明は、
(1)薬剤を充填したシリンダCをシリンジ用ガスケット10で密封してなるプレフィルドシリンジAであって、
(2)前記シリンジ用ガスケット10が、架橋型シリコーンゴムからなるガスケット本体12の表面に、PTFEフィルム14を共成形してなると共に、
(3)前記PTFEフィルム14の前記ガスケット本体12との接合面に、シリカ微粒子層16が設けられていることを特徴とする
(4)プレフィルドシリンジAである。
【0019】
この発明では、請求項1に記載のシリンジ用ガスケット10を用いることにより、効率よく且つ経済的にプレフィルドシリンジAを製造することができる。又、シリンジ用ガスケット10を構成するガスケット本体12とPTFEフィルム14とが強固に接合されているので、長期保存や輸送の際に外部からプレフィルドシリンジAに与えられた応力がガスケット本体12とPTFEフィルム14との接合面に伝播したとしても、係る応力によってガスケット本体12とPTFEフィルム14との接合が外れる心配はなく、シリンジ用ガスケット10の摺動性の悪化や液漏れが生じるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、効率よく且つ経済的に製造することができ、摺動性に優れるのみならず、長期間安定して使用することが可能なシリンジ用ガスケットを提供することができる。
【0021】
また、このようなシリンジ用ガスケットを用い、効率よく且つ経済的に製造することができ、長期保存や輸送によってもシリンジ用ガスケットの摺動性や密閉性が損なわれることのないプレフィルドシリンジを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を図示実施例に従って詳述する。図1は、本発明の一実施例のシリンジ用ガスケット10が適用されたプレフィルドシリンジAを示した概略断面図である。この図が示すように、本発明のプレフィルドシリンジAは、大略、シリンダCとピストンPとシリンジ用ガスケット10(以下、単に「ガスケット10」という。)とキャップKとで構成されている。なお、同図中のMはシリンジA内に予め充填された注射液である。
【0023】
シリンダCは、先端に針装着部c1、後端に指掛け部c2、これらの間に筒状の注射液装填部c3が設けられた、いわゆる注射筒である。本例では、このシリンダCが環状ポリオレフィンにて構成されているが、別段この樹脂に限定されるものではなく、ポリプロピレン等の樹脂やガラス等も好適なものとして挙げることができる。
【0024】
ピストンPは、先端部にガスケット装着部p1、後端に指当て部p2が設けられたロッド状の部材である。このピストンPのガスケット装着部p1には、後述するガスケット10をネジ装着するための雄ネジが形成されている。なお、ピストンPとガスケット10との接合はネジ装着に限定されるものではなく、例えば圧入などであってもよい。また、このピストンPも上述のシリンダCと同様に、環状ポリオレフィン,ポリカーボネート及びポリプロピレン等の樹脂やガラス等で構成されている。
【0025】
なお、シリンダC及びピストンPをいずれも熱可塑性の樹脂で構成する場合、射出成形により簡単に製造することができる。射出材料は環状ポリオレフィンが好ましいが、別段これに限定されるものではない。
【0026】
ガスケット10は、図1に示すように、ガスケット本体12、PTFEフィルム14及びシリカ微粒子層16で構成されている。
【0027】
ガスケット本体12は、架橋型シリコーンゴムによって構成された胴体部12aと、その外周に一体的に設けられた1又は複数列(本実施例では3列)の弾性摺接部12bとで構成されている。又、胴体部12aの後端側には、上述したガスケット装着部p1が螺着される雌ネジ部12a1が設けられている。
【0028】
ここで、ガスケット本体12を構成する架橋型シリコーンゴムとしては、熱可塑性を有するイソブチレン系部分架橋型エラストマーや過酸化物或いは白金系の硬化剤で架橋する熱硬化性の架橋型シリコーンゴムなどを用いることができる。架橋型シリコーンゴムとして熱硬化性の架橋型シリコーンゴムを用いた場合、ガスケット10に蒸気消毒にも十分に耐え得るような高い耐熱性を付与することができる。
【0029】
PTFEフィルム14は、シリコーンゴムからなるガスケット本体12に摺動性を付与するためのものである。このPTFEフィルム14の厚みは、20μm〜80μmの範囲にあるのが好ましい。PTFEの厚みが20μm未満の場合には、PTFEフィルム14を経済的に得るのが困難になり、逆に、PTFEの厚みが80μmより大きい場合には、ガスケット本体12の弾性を十分に発揮させることができなくなるからである。
【0030】
また、このPTFEフィルム14は、主として後述する圧縮成形或いは射出成形にて好適にガスケット10が製造できるようにするため、更にはシリコーンゴムからなるガスケット本体12のゴム弾性を阻害しないようにするため、少なくとも150%〜300%程度の伸び(より詳しくは破断伸度)を示すものである必要がある。
【0031】
なお、このPTFEフィルム14は、PTFEを圧縮成形によりシート状に成形した物や、ブロック状に成形した後に刃物で切削するスライス加工により得た物、又はスカイビング加工によって得た物など、何れの方法で製造されたものであってもよい。
【0032】
そして、このPTFEフィルム14のガスケット本体12との接合面にシリカ微粒子層16が設けられている。
【0033】
シリカ微粒子層16は、バインダー16aとシリカ(SiO2)微粒子16bとからなり、シリカ微粒子16bの架橋型シリコーンゴムとの親和性及びアンカー効果により、非粘着性のPTFEフィルム14とガスケット本体12とを強固に接合させるため、PTFEフィルム14のガスケット本体12との接合面に形成される層である。なお、シリカ微粒子層16を構成するシリカ微粒子16bは、バインダー16aにより、PTFEフィルム14の表面にある程度露出した状態で接着されると共に、この露出した部分がガスケット本体12の表面に食い込んでアンカー効果を発揮する。
【0034】
PTFEフィルム14の表面にこのシリカ微粒子層16を形成する方法としては、具体的に以下の2つの方法が挙げられる。
【0035】
1つ目の方法は、PTFEフィルム14の表面にシリカ微粒子16bを固着させるバインダー16aとしてPTFE樹脂を用いる方法で、具体的には、PTFE樹脂16aの水性分散液にシリカ微粒子16b及び界面活性剤を混合・攪拌して得た混合分散液を、公知の塗布方法(例えば、スプレー法やロール塗布法など)を用いてPTFEフィルム14の片面に均一に塗布し、図示しない炉に導入して100℃で乾燥した後、PTFEフィルム14の形状が保持できる装置を用いて250〜360℃でPTFE樹脂の焼成を行う。
【0036】
これによりバインダー16aであるPTFE樹脂がPTFEフィルム14と一体化し、PTFEフィルム14の表面にシリカ微粒子16bを強固に固着させることができる。又、上記形状が保持できる装置並びに温度範囲で焼成することにより、PTFEフィルム14の伸びが低下するのを防止することができ、その結果、圧縮成形或いは射出成形にて好適にガスケット10が製造(すなわち共成形)できるようになると共に、PTFEフィルム14がガスケット本体12のゴム弾性を阻害するのを防止することができる。
【0037】
2つ目の方法は、PTFEフィルム14の表面にシリカ微粒子16bを固着させるバインダー16aとしてパーフルオロフッ素樹脂を用いる方法で、具体的には、パーフルオロフッ素樹脂とシリカ微粒子16bとをパーフルオロ溶剤(例えば、旭硝子(株)製のCT−solv.100など)に分散して得たワニスを、公知の塗布方法を用いて、プラズマなどで表面処理したPTFEフィルム14の片面に均一に塗布・乾燥して形成する。
【0038】
かかる方法によれば、バインダー16aとしてPTFE樹脂を用いる場合のように焼成が必要でないことから、PTFEフィルム14の表面に効率よくシリカ微粒子層16を形成することができる。
【0039】
ここで、上述のような各方法で形成されるシリカ微粒子層16の厚みは、0.5μm〜10μmの範囲内であることが好ましい。かかる範囲内であれば、PTFEフィルム14の伸びやガスケット本体12の弾性を阻害することなく、両者を強固に接合することができるからである。
【0040】
また、シリカ微粒子層16を構成するシリカ微粒子16bの平均粒径は、0.1μm〜10μmの範囲内であるのが好ましく、より好ましくは0.5μm〜2μmの範囲内である。シリカ微粒子16bの平均粒径が0.1μm未満の場合には、シリカ微粒子16bの取扱いが困難になると共に、当該シリカ微粒子16bを経済的に製造するのが困難になり、逆に、シリカ微粒子16bの平均粒径が10μmより大きい場合には、当該シリカ微粒子16bの比表面積が小さくなり、シリコーンゴムからなるガスケット本体12に対して十分なアンカー効果を発揮できなくなるからである。
【0041】
以上のように構成された本発明のガスケット10を製造する際には、まず始めに、上述のようにガスケット本体12との接合面にシリカ微粒子層16が形成されたPTFEフィルム14を所定の大きさに切り出す。
【0042】
そして、架橋型シリコーンゴムが熱硬化性の架橋型シリコーンゴムである場合には、表面(より詳しくはガスケット本体12との接合面)に接合層16が形成されたPTFEフィルム14を、ガスケット本体12の基材となるシリコーンゴムのコンパウンドと共に成形用金型内に配置し、所定の温度及び圧力を加えて圧縮成形し、所定のガスケット形状に賦形する。
【0043】
一方、架橋型シリコーンゴムが熱可塑性を有するエラストマーである場合には、表面に接合層16が形成されたPTFEフィルム14を成形用金型内に配置すると共に、成形用金型内に溶融したシリコーンゴムを射出した後、加圧・冷却して所定形状のガスケット10を得る。
【0044】
以上のように形成されたガスケット10は、ガスケット本体12が、加熱加硫型ゴムのように可塑剤,硫黄系やアミン等の架橋助剤,プロセス油及び顔料などが注射液に浸出する心配がなく、人体に対して無害な架橋型シリコーンゴムで構成されているので、ガスケット10成形後、煩雑な洗浄工程を経ることなく、そのまま製品となる。
【0045】
キャップKは、本例では図1に示すような形状のもので、シリンダCの先端の針装着部c1を挿入する有底筒状の挿着穴部k1を中央部に有し、この挿着穴部k1に外筒部k2が連結されている。
【0046】
当該キャップKにおいて、上記挿着穴部k1の筒部の肉厚は底部側から開口部側にかけて漸次薄くなるように形成されている。しかも、挿着穴部k1は先細り状の穴に構成されており、底部近傍の穴径は、シリンダCの針装着部c1の先端の外径よりも若干小さくなるように調節されている。
【0047】
このキャップKも上述のシリンダCやピストンPと同様に、射出成形により簡単に構成することができる。射出材料も環状ポリオレフィンが好ましいが、別段これに限定されるものではなく、ポリプロピレンやポリカーボネート等の熱可塑性プラスチックも好適なものとして挙げることができる。
【0048】
以上のように構成された本実施例のプレフィルドシリンジAによれば、ガスケット10を構成するガスケット本体12とPTFEフィルム14とがシリカ微粒子層16を介して強固に接合されているので、長期保存や輸送の際に外部からプレフィルドシリンジAに与えられた応力がガスケット本体12とPTFEフィルム14との接合面に伝播したとしても、係る応力によってガスケット本体12とPTFEフィルム14との接合が外れる心配はなく、ガスケット10の摺動性の悪化や液漏れが生じるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のシリンジ用ガスケットが適用されたプレフィルドシリンジの一例を示す概略断面図である。
【図2】従来のプレフィルドシリンジの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10…シリンジ用ガスケット
12…ガスケット本体
14…PTFEフィルム
16…シリカ微粒子層
16a…バインダー
16b…シリカ微粒子
A…プレフィルドシリンジ
C…シリンダ
P…ピストン
K…キャップ
M…注射液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋型シリコーンゴムからなるガスケット本体の表面に、PTFEフィルムを共成形してなるシリンジ用ガスケットであって、
前記PTFEフィルムにおける前記ガスケット本体との接合面に、シリカ微粒子層が設けられていることを特徴とするシリンジ用ガスケット。
【請求項2】
前記架橋型シリコーンゴムが過酸化物或いは白金系の硬化剤で架橋する熱硬化性の架橋型シリコーンゴムであることを特徴とする請求項1に記載のシリンジ用ガスケット。
【請求項3】
架橋型シリコーンゴムからなるガスケット本体の表面に、前記ガスケット本体との接合面にシリカ微粒子層を設けたPTFEフィルムを共成形するシリンジ用ガスケットの製造方法であって、
前記PTFEフィルムの表面にシリカ微粒子を分散させたPTFE水性分散液を塗布して乾燥した後、これを250〜360℃で焼成して前記シリカ微粒子層を形成することを特徴とするシリンジ用ガスケットの製造方法。
【請求項4】
架橋型シリコーンゴムからなるガスケット本体の表面に、前記ガスケット本体との接合面にシリカ微粒子層を設けたPTFEフィルムを共成形するシリンジ用ガスケットの製造方法であって、
前記PTFEフィルムの表面に非晶質のパーフルオロフッ素樹脂をパーフルオロ溶媒に溶解した溶液にシリカ微粒子を分散させたワニスを塗設して前記シリカ微粒子層を形成することを特徴とするシリンジ用ガスケットの製造方法。
【請求項5】
薬剤を充填したシリンダをシリンジ用ガスケットで密封してなるプレフィルドシリンジであって、
前記シリンジ用ガスケットが、架橋型シリコーンゴムからなるガスケット本体の表面における少なくとも接液面及びシリンダ内面との摺接面に、PTFE樹脂フィルムを共成形してなると共に、
前記PTFEフィルムにおける前記ガスケット本体との接合面に、シリカ微粒子層が設けられていることを特徴とするプレフィルドシリンジ。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−142573(P2010−142573A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325917(P2008−325917)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(591109751)有限会社コーキ・エンジニアリング (9)
【Fターム(参考)】