説明

シリンダヘッドの高圧縮化手段

【課題】市販の車両に搭載されるエンジンを過大な手間や過剰なコストを要することなく高圧縮比エンジンに改造して、エンジンの理論熱効率を向上できるようにする。
【解決手段】市販の車両に搭載されているエンジンを形成するシリンダヘッド2Aの燃焼室3におけるピストン4上死点よりも上側の空間に、所定の体積を有する空間占有手段50を設けて前記所定の体積分だけ前記燃焼室の実容積を減少させて高圧縮比とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを形成するシリンダヘッドの高圧縮化手段に関し、殊に、市販の車両に搭載されているエンジンの圧縮比を高くなるように改造してエンジンの理論熱効率の向上を図るため等に際に用いられるシリンダヘッドの高圧縮化手段に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばLPGなどの高オクタン価ガス燃料は、ガソリンと比較してアンチノック性が高いという特性を有している。そのため、ガソリンエンジンをベースとしてガス燃料を燃料として運転できるように改造したガスエンジンでは、燃料のアンチノック性の高さからベースのガソリンエンジンと比べ圧縮比を高くしてもノッキングを起こさない運転が可能となることから、エンジンの理論熱効率の向上が期待できると言われている。
【0003】
ところで、使用する燃料の変更に伴いエンジンの圧縮比を変更するための方法としては、シリンダヘッドに加工を施したりピストンを変更したりすることが従来より行われている。また、特表2002−525473号公報には、ディーゼルエンジンをガスエンジンに改造する場合に、シリンダヘッドとエンジンブロックの間にスペーサプレートを挿入して圧縮比を変更する方法が提案されている。
【0004】
しかし、前者の変更方法を採用する際、シリンダヘッド本体を加工するには過大な手間を要するものとなり、ピストンを変更するには余分な部品調達費を要して過剰な製造コストを要する点が問題となる。殊に、既存のガソリンエンジンを改造してLPGを使用できるようにしたガソリン代替LPGエンジンを高圧縮比化する場合には、この問題が大きな障害となっている。また、後者の方法はそもそも圧縮比を低下させるための方法であるため、エンジンの高圧縮比化を目的とする場合に適用することができない。
【特許文献1】特表2002−525473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、市販の車両に搭載されているエンジンを過大な手間や過剰なコストを要することなく高圧縮比エンジンに改造可能としてエンジンの理論熱効率を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するためになされた本発明は、市販の車両に搭載されているエンジンを形成するシリンダヘッドの燃焼室におけるピストン上死点よりも上側の空間に、所定の体積を有する空間占有手段を設けて前記所定の体積分だけ前記燃焼室の実容積を減少させることにより高圧縮比エンジンに改造することとした。
【0007】
このように市販の車両に搭載されているエンジンにおける燃焼室の実容積を減少させるための空間占有手段を設けることにより、シリンダヘッド自体に加工を施したりピストンを変更したりすることなく、確実に高圧縮比したものとすることができる。
【0008】
或いは、前記空間占有手段が、吸気バルブ又排気バルブの少なくとも一方の閉弁時に前記燃焼室側に露出する部分を、エンジン既設の吸気バルブ又は排気バルブの少なくとも一方よりも前記燃焼室側に余分に突出したものとすれば、比較的容易に空間占有手段を設けることができる。
【発明の効果】
【0009】
燃焼室の実容積を減少させる空間占有手段を設けるものとした本発明によると、過大な手間及び過剰なコストを要することなく高圧縮比化を確実に実現して、エンジンの理論熱効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。尚、本実施の形態は、市販の車両に搭載されるガソリンエンジンをベースとしてLPGなどの高オクタン価ガス燃料を使用するエンジンに改造する場合に適用されるものであり、改造により得られるエンジンを高圧縮比化して理論熱効率を向上させることを目的としたものであるが、本発明は市販の車両に搭載されるエンジンを高圧縮エンジンに改造する目的であれば用途を問わないで実施することができるものである。
【0011】
図1は改造前のガソリンエンジのシリンダヘッド2A部分の縦断面図を示すものであり、従来、ガソリンと比較してオクタン価が高くアンチノック性能が高いLPGなどのガス燃料の特性が生かすために、シリンダヘッド本体を加工したりピストン4を別のものに変更したりして燃焼室3の容積を減じ高圧縮比化することにより、エンジンの理論熱効率を高めていた。そのため、エンジンの改造に過大な手間を要するとともに過剰なコストを要していた。
【0012】
これに対し、図2に示した本実施の形態においては、市販の車両に搭載されているガソリンエンジンをガス燃料エンジンに改造するにあたり、シリンダヘッドBにおける燃焼室3のピストン4上死点よりも上側の空間に、所定の体積を有する空間占有手段50を設けて、その所定の体積分だけ燃焼室3の実容積を減少させることにより、エンジンの高圧縮比化を実現させた点を特徴としている。
【0013】
本実施の形態では、空間占有手段50として、吸気バルブ50a及び排気バルブ50bの閉弁時に燃焼室3側に露出する部分を、図1に示した改造前のガソリンエンジンのシリンダ2Aに既設の吸気バルブ5a及び排気バルブ5bと比べて燃焼室3側に余分に突出させたものとしたことにより、エンジンの高圧縮比化を実現させた点を特徴としている。
【0014】
即ち、改造前ガソリンエンジンにおけるシリンダ2Aに形成される吸気バルブ5a及び排気バルブ5bの閉弁時に燃焼室3側に露出する部分の突出量と比べて、改造後のガソリン代替LPGエンジン2Bの吸気バルブ50a及び排気バルブ50bが余分に突出した分だけ、燃焼室3内の空間をより多く占有してその実容積を減少させたものとなっている。従って、このような構成の第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様にエンジンの高圧縮比化を実現できるものであり、理論熱効率を確実に向上させることができる。
【0015】
尚、この場合、吸気バルブ50a及び排気バルブ50bの燃焼室3側への突出量は、ピストン4の上下運動に干渉したり、良好な燃焼を妨げたりすることがない範囲で所望のエンジンの圧縮比を実現するように設定すればよいが、吸気バルブ50aと排気バルブ50bのいずれかのみで予定する燃焼室3の実容積減少量を達成できる場合には、いずれか一方のみを突出させるような構成としてもよい。
【0016】
また、吸気バルブ50a及び排気バルブ50bを燃焼室3側に余分に突出させる方法としては、シリンダ2Bに既設の吸気バルブ5a及び排気バルブ5bを、新たな別部品としての吸気バルブ50a及び排気バルブ50bに交換することの他に、吸気バルブ5a及び排気バルブ5bが燃焼室3側に露出した円形の各底面に、底面形状がこれと同形の円盤状のスペーサ部材51,51を各々固定するようにしても上記同様の効果が期待できるものであり、この場合、吸気バルブ5a及び排気バルブ5bそのものを新たな部品に交換するよりも低コストで済む。
【0017】
尚、図3は吸気バルブ50a(排気バルブ50b)を燃焼室側に余分に突出させる場合の異なる実施の形態を示すものであり、前記図1に示した実施の形態における空間占有手段50が円盤状であったのに対して、球面状である点が異なる。
【0018】
以上、述べたように、ガソリンエンジンをガス燃料エンジンに改造する場合に、本発明により、過大な手間や過剰なコストを要することなく高圧縮比化を実現して、エンジンの理論熱効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】改造前のガソリンエンジンのシリンダヘッド部分の縦断面図。
【図2】本発明における実施の形態のシリンダヘッド部分の縦断面図。
【図3】本発明における異なる実施の形態の吸気バルブ(または排気バルブ)を示す正面部分図。
【符号の説明】
【0020】
2A,2B シリンダ、3 燃焼室、4 ピストン、5a,50a 吸気バルブ、5b,50b 排気バルブ、51 スペーサ部材,50 空間占有手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
市販の車両に搭載されているエンジンを形成するシリンダヘッドの燃焼室におけるピストン上死点よりも上側の空間に、所定の体積を有する空間占有手段を設けて前記所定の体積分だけ前記燃焼室の実容積を減少させることにより高圧縮比エンジンに改造することを特徴とするシリンダヘッドの高圧縮化手段。
【請求項2】
前記空間占有手段が、吸気バルブ又排気バルブの少なくとも一方の閉弁時に前記燃焼室側に露出する部分を、エンジン既設の吸気バルブ又は排気バルブの少なくとも一方よりも前記燃焼室側に余分に突出したことを特徴とする請求項1に記載したシリンダヘッドの高圧縮化手段。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−138826(P2010−138826A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316575(P2008−316575)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(301028761)独立行政法人交通安全環境研究所 (55)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)
【Fターム(参考)】