説明

シリンダボディ及びシリンダボディの製造方法

【課題】ポートを穿設するためにシリンダボディの外周側に形成する凹部を、手間をかけずに簡単に形成できるとともに、ポートを確実に形成することができるシリンダボディ及びシリンダボディの製造方法を提供する。
【解決手段】シリンダボディ1の外周壁1bに、ポート4の径よりも大径の凹部3を形成する。凹部3は、底部に、ポート4を形成する位置を通り、且つ、シリンダボディ1の軸線CLと平行な凹溝3aを備えている。シリンダ孔2の開口側からポンチ13を挿入し、シリンダ孔2の内側から凹部形成位置にポンチ13を打ち込んで作動液を流通させるポート4を穿設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧アクチュエータに用いられるシリンダボディ及びシリンダボディの製造方法に関し、詳しくは、車両用液圧マスタシリンダやスレーブシリンダ等に用いられるシリンダボディ及びシリンダボディの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用液圧マスタシリンダ等の液圧アクチュエータに用いられるシリンダボディは、内部にシリンダ孔を備えた有底円筒状に形成され、周壁に作動液を流通させるポートを備えたものがあった。このポートは、シリンダボディの外周壁に予め凹部を加工して形成しておき、この凹部形成位置に、シリンダ孔の内側からポンチを打ち込むことで穿設されるものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−16100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1のものでは、シリンダボディの外周壁に形成する凹部は、鋳造後のシリンダボディを切削加工して形成していたことから、凹部の形成に手間が掛かっていた。また、ポンチをシリンダ孔の開口側から挿入して打ち込む際に、シリンダボディのシリンダ軸方向の寸法交差により打ち込む位置がシリンダ軸方向にずれ、ポートを良好に形成できない虞があった。
【0005】
そこで本発明は、ポートを穿設するためにシリンダボディの外周側に形成する凹部を、手間を掛けずに簡単に形成できるとともに、ポートを確実に形成することができるシリンダボディ及びシリンダボディの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のシリンダボディは、ピストンを収容するシリンダ孔を内部に有する有底円筒状のシリンダボディの外周壁に凹部を形成し、該凹部形成位置にシリンダ孔の内側から穿孔用の工具によって、作動液を流通させるポートを穿設したシリンダボディにおいて、前記凹部は、前記ポートの径よりも大きな寸法に形成され、凹部の底面には、前記ポートを形成する位置を通り、且つ、前記シリンダボディの軸線と平行な方向の凹溝を備えていることを特徴とし、前記凹部の底面は、前記凹溝の両側部分が厚肉に形成されていると好適である。
【0007】
また、本発明のシリンダボディの製造方法は、ピストンを収容するシリンダ孔を内部に有する有底円筒状のシリンダボディの外周壁に凹部を形成し、該凹部形成位置にシリンダ孔の内側から穿孔用の工具によって、作動液を流通させるポートを穿設したシリンダボディの製造方法において、前記凹部は、前記シリンダボディの鋳造時に成形型を用いて前記ポートの径よりも大きな寸法に形成され、前記凹部の底面には、前記ポートを形成する位置を通り、且つ、シリンダボディの軸線と平行な方向の凹溝を備えていることを特徴とし、前記凹部は、前記成形型を用いて、前記凹溝の両側部分が厚肉に形成されると好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシリンダボディによれば、凹部は、ポートの径よりも大きな寸法に形成され、底面に、ポートを形成する位置を通り、且つ、シリンダボディの軸線と平行な凹溝を備えていることから、シリンダボディのシリンダ軸方向の寸法交差に拘わらず、凹部の凹溝内に確実にポンチを打ち込むことができ、ポートを良好に形成することができる。さらに、凹部の底面に、前記凹溝の両側部分を厚肉に形成したことにより、シリンダ孔の内側からポートを穿設する際に、ポート周辺のシリンダボディの強度を確保することができ、ポートを良好に形成することができる。
【0009】
また、本発明のシリンダボディの製造方法によれば、凹部は、シリンダボディの鋳造時に成形型を用いて形成されることから、手間を掛けずに凹部を簡単に形成することができる。さらに、前記成形型を用いて、前記凹溝の両側部分が厚肉に形成されることにより、ポンチを打ち込んでポートを穿設する際のシリンダボディの強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一形態例を示すシリンダボディの要部平面図である。
【図2】図1のII-II断面図図である。
【図3】図2のIII-III断面図である。
【図4】同じくシリンダボディの鋳造時の説明図である。
【図5】同じくシリンダボディの製造過程を示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本形態例は、本発明を車両用ディスクブレーキの液圧マスタシリンダのシリンダボディに適用したもので、このシリンダボディ1は、内部にピストン(図示せず)を収容する有底のシリンダ孔2を備え、シリンダ孔開口側に車体取付フランジ1aが設けられている。さらに、シリンダボディ1の外周壁1bには凹部3が形成されており、凹部3の底部には、シリンダ孔2内とシリンダボディ1の外側に配置されるリザーバタンク(図示せず)との間に作動液を流通させるためのポート4が穿設されている。
【0012】
凹部3は、ポート4の直径よりも大径に形成され、底部にポート4の形成位置を通り、且つ、シリンダボディ1の軸線CLと平行で、ポート4の直径と同程度の溝幅を有する凹溝3aが形成され、該凹溝3aの両側部分は外周側に向けて漸次厚肉に形成されるテーパー部3b,3bとなっている。
【0013】
上述のようなシリンダボディ1は、図4に示されるように、車体取付フランジ1aよりもシリンダ孔開口側を形成する上型10aと下型10bと、車体取付フランジ1aと該車体取付フランジ1aよりもシリンダ孔底部側を形成する上型10cと下型10dと、シリンダ孔2の下孔を形成するシリンダ孔用の中子11と、前記凹部3を形成する凹部形成用の中子12とを用いて鋳造される。鋳造後のシリンダボディは、シリンダ孔2が仕上げ加工され、車体取付フランジ1aにボルト孔が機械加工され、ポート4が機械加工により穿設される。凹部3は、シリンダボディ1の鋳造時に、凹部形成用の中子12(本発明の成形型)によって同時に形成され、凹溝3aやテーパー部3b,3bを加工する必要はない。
【0014】
ポート4は、図5に示されるように、開口部側からシリンダ孔2内の設定された位置までポンチ13(本発明の穿孔用の工具)を挿入し、該ポンチ13を前記凹部3に向けて打ち込むことにより穿設される。このとき、シリンダ孔2に挿入されるポンチ13の位置は、シリンダボディ1のシリンダ孔開口端面からの位置が高精度に規定されており、一方の凹部3の位置は、シリンダボディ1と同時に鋳造成形されるため、鋳物の公差によってポンチ13の位置精度に比べて位置精度が劣っていてシリンダボディ1のシリンダ孔開口端面からの凹部3の位置がずれていたとしても、凹溝3aの軸線CL方向の長さを鋳物の公差に応じて設定しておくことにより、凹溝3aの部分にポンチ13を確実に位置させることができる。これにより、凹溝3aの薄肉の底壁をポンチ13によって穿孔すればよいため、例えば、ポート4の直径が0.5mm程度の場合でも、細いポンチ13の先端部に大きな負荷を掛けずにポート4を確実に所定位置に穿孔することができる。
【0015】
また、凹溝3aの両側にテーパー部3b,3bを形成してポート4の穿孔部周辺の底部の強度を確保するようにしているので、ポンチ13での加工を容易にするために凹溝3aの底壁を薄肉に形成しても、ポート4を穿孔する際にシリンダ孔2の内周面が変形したりすることがなく、ピストンの作動を損なうこともない。
【0016】
ポート4を穿孔する部分に設ける凹部3を上述の形状とすることにより、凹部3をシリンダボディ1を鋳造する際に中子によって同時に形成することが可能となるため、従来のように、鋳造後のシリンダボディの外面に凹部を機械加工するものに比べて機械加工の工程を簡略化することができることから、製造コストを大幅に削減することができる。
【0017】
なお、凹部は、シリンダボディの軸線方向が長い長円形、楕円形等であっても良く、凹溝の両側のテーパー部は、凹溝に沿って底面に肉盛りしたものであっても良い。さらに、本形態例では凹部を中子を用いて形成しているが、シリンダボディ形成用の成形型に凹部形成部を一体的に設けることもできる。また、本発明のシリンダボディは、液圧マスタシリンダのシリンダボディに限るものではなく、スレーブシリンダのシリンダボディにも適用できる。
【符号の説明】
【0018】
1…シリンダボディ、1a…車体取付フランジ、1b…外周壁、2…シリンダ孔、3…凹部、3a…凹溝、3b…テーパー部、4…ポート、10a,10c…上型、10b,10d…下型、11,12…中子、13…ポンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンを収容するシリンダ孔を内部に有する有底円筒状のシリンダボディの外周壁に凹部を形成し、該凹部形成位置にシリンダ孔の内側から穿孔用の工具によって、作動液を流通させるポートを穿設したシリンダボディにおいて、前記凹部は、前記ポートの径よりも大きな寸法に形成され、凹部の底面には、前記ポートを形成する位置を通り、且つ、前記シリンダボディの軸線と平行な方向の凹溝を備えていることを特徴とするシリンダボディ。
【請求項2】
前記凹部の底面は、前記凹溝の両側部分が厚肉に形成されていることを特徴とする請求項1記載のシリンダボディ。
【請求項3】
ピストンを収容するシリンダ孔を内部に有する有底円筒状のシリンダボディの外周壁に凹部を形成し、該凹部形成位置にシリンダ孔の内側から穿孔用の工具によって、作動液を流通させるポートを穿設したシリンダボディの製造方法において、前記凹部は、前記シリンダボディの鋳造時に成形型を用いて前記ポートの径よりも大きな寸法に形成され、前記凹部の底面には、前記ポートを形成する位置を通り、且つ、シリンダボディの軸線と平行な方向の凹溝を備えていることを特徴とするシリンダボディの製造方法。
【請求項4】
前記凹部は、前記成形型を用いて、前記凹溝の両側部分が厚肉に形成されることを特徴とする請求項3記載のシリンダボディの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−280292(P2010−280292A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134982(P2009−134982)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】