説明

シルクペプチドの製造方法

【課題】家蚕や野蚕の繭殻や蚕糸などを原料とする絹物質を原料とし、これからアルカリ性物質や酸、中性塩、界面活性剤などの人体への悪影響が懸念される化学薬品を用いることなく分解し、例えば化粧品や食品などに使用できる安全性の高い汎用性のあるシルクペプチドを高収率で製造することである。
【解決手段】フィブロインを含む絹蛋白を加圧水蒸気中から大気圧下に開放することによって蒸煮爆砕し、その後、マイクロ波で処理することによりフィブロインを加水分解させてオリゴペプチド含有のシルクペプチドの製造方法とする。重量平均分子量280〜6000の化粧品や食品に適用される化学薬品無添加のシルクペプチドが効率よく得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化粧品や食品に適用されるシルクペプチドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、絹蛋白の総称として知られるシルクは、皮膚に対する親和性や、UVカット、抗酸化などのさまざまな機能性に加え、血中コレステロール濃度の調節、アルコール代謝促進、抗痴呆効果などのさまざまな生理活性を示す優れた機能性素材であり、化粧品や食品への活用が期待されている。
【0003】
このようなシルクは、非水溶性の繊維部分であるフィブロインと、フィブロインを接着している熱水溶性のセリシンの2種類のタンパク質からなる。
【0004】
フィブロインは、結晶性が高く、分子量が30万以上の高分子量物質である。このようなシルクを化粧品および食品素材として用いるためには、低分子量化して、体内に吸収されやすいシルクペプチドに加工することが望ましい。
【0005】
通常、シルクは、アルカリ性物質、酸、中性塩および界面活性剤などの化学薬品を用いて分解される。
その例として、絹蛋白を強酸、強アルカリまたは蛋白分解酵素によって加水分解されたものを含む飲料やゼリーなどの食品が知られている(特許文献1)。
【0006】
また、低分子量フィブロインの製造方法として、中性塩含有の水溶液に高分子量フィブロインを溶解し、蛋白質分解酵素によって平均分子量200〜4000のポリペプチドを生成することが知られている(特許文献2)。
【0007】
蛋白質の分解に際して化学薬品を用いると、シルクを加水分解したのち、中和し、脱塩し、乾燥するなどの煩雑な操作や工程が必要となり、得られたシルクペプチドにも、化学薬品による処理の悪影響が生じる。
【0008】
一方、化学薬品を用いることなく物理的にシルクを粉砕する方法には、シルクを高圧蒸気で処理したのち、低圧下に放出して粉砕する爆砕法がある。シルクの皮膚への親和性や紫外線吸収性を利用した口紅などの化粧料として、セリシンを含有するか、または除去した絹物質を蒸煮爆砕することにより、着色しやすい絹粒子を得る方法が記載されている(特許文献3)。
【0009】
【特許文献1】特許第2737790号公報
【特許文献2】特開平6−292595号公報
【特許文献3】特開2005−307041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、蒸煮爆砕法により得られた爆砕シルクのうち一部分は水に溶解するものの、大部分のフィブロインは水に不溶であるため、広く利用できないという問題点がある。
このように絹物質に対して、蒸煮および爆砕という加水分解処理だけでは、例えば分子量280〜6000程度のシルクペプチドの収率は低い。
【0011】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、家蚕や野蚕の繭殻や蚕糸などを原料とする絹物質を原料とし、これからアルカリ性物質や酸、中性塩、界面活性剤などの人体への悪影響が懸念される化学薬品を用いることなく分解し、例えば化粧品や食品などに使用できる安全性の高い汎用性のあるシルクペプチドを高収率で製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明では、フィブロインを含む絹蛋白を蒸煮爆砕し、すなわち、フィブロインを含む絹蛋白を加圧水蒸気中から大気圧下に開放することによって爆砕し、その後、マイクロ波で処理(照射処理をいう、以下同じ。)することによりフィブロインを加水分解させてオリゴペプチドも含有されているペプチドを得ることからなるシルクペプチドの製造方法としたのである。
【0013】
上記したように構成されるこの発明のシルクペプチドの製造方法は、先ず、フィブロインを含む絹蛋白を加圧水蒸気中から大気圧下に開放することによって爆砕することにより、低分子量化し難いフィブロインがある程度加水分解されて、その一部がペプチドとなった状態とする。その際、フィブロインの未だ加水分解されていない残部は、分子が非水溶性の状態ではあるが、短鎖状に切断されていると考えられる。
【0014】
次に、このような不均一な爆砕物に対してマイクロ波で処理することにより、フィブロインを加水分解させれば、オリゴペプチドも含有される水溶性のシルクペプチドが得られる。
【0015】
上記のマイクロ波で処理する工程は、シルクペプチドが、オリゴペプチドを含む重量平均分子量(Mw)280〜6000のシルクペプチドに加水分解する工程であることが、化粧品や食品に適用されるシルクペプチドをより確実に効率よく得るために好ましい条件である。
【0016】
前記のフィブロインを含む絹蛋白としては、蚕の繭殻または蚕糸からなる絹蛋白であるものを採用することができる。また、蚕の繭殻または蚕糸を熱水精練してセリシンが除去されたフィブロインを含む絹蛋白を原材料として採用することもできる。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、フィブロインを含む絹蛋白を蒸煮爆砕し、その後、マイクロ波で処理してシルクペプチドを得るので、人体への悪影響が懸念されるような化学薬品を用いることなく分解できると共にその分解効率が優れており、例えば化粧品や食品などに使用できる安全性の高い化学薬品無添加のシルクペプチドを高収率で製造できるという利点がある。
【0018】
また、得られるシルクペプチドの分子量(Mw)は、280から6000に低分子量化されており、体内に吸収されやすいオリゴペプチドを含んでいて、化粧品および食品素材としての高い機能性を期待できるシルクペプチドになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明におけるシルクペプチドの製造方法は、フィブロインを含む絹蛋白を特に限定することなく原材料として採用し、これを加圧水蒸気中から大気圧下に開放することによって蒸煮(水蒸気)爆砕し、その後、マイクロ波で処理することによりフィブロインを加水分解させてオリゴペプチド含有のシルクペプチドを得る。
【0020】
この発明に用いるフィブロインを含む絹蛋白は、例えば蚕の繭殻または蚕糸などを採用でき、原材料の生産に利用される蚕は、家蚕または野蚕のいずれであってもよい。また、繭殻もしくは蚕糸の裁断物を使用する他、予め熱水で精練してセリシンが除去されたフィブロインであってもよい。
【0021】
このようなフィブロインを含む絹蛋白を原材料とし、爆砕機に投入し、高圧蒸気を送入して爆砕処理する。
爆砕機は、市販品を利用することができ、例えば耐圧製の反応釜に高圧・過熱水蒸気の導入路と、開閉弁および放出路とが併設された周知構造のもの(例えば特許文献3の図1参照)を用いて、反応釜中に200〜250℃の水蒸気を導入し、0.3〜3MPaの加圧条件で2分〜120分という所定時間を保持した後、開閉弁を開いて瞬時に大気圧下に開放することにより、過熱水蒸気に接して加熱加圧され加水分解反応中のフィブロインを、分子構造の内部から外部に膨張する際の圧力によって物理的に破壊できる。
【0022】
蒸煮爆砕の際の好ましい加熱加圧条件を例示すると、0.5〜3.546MPa(5〜35気圧)に加圧し、その際に例えば220℃の高圧水蒸気を用いて30秒〜40分加熱加圧条件を保持する。
このような加熱加圧により、フィブロインは、非水溶性ながらも短鎖状に分解される。
【0023】
このようにして得られた爆砕後のフィブロインに水を加えて一部を水溶化し、残部をフィブロイン分散液にしておき、その後、マイクロ波を照射してフィブロイン水溶液が透き通るまで間歇的にマイクロ波で照射処理を繰り返して加水分解してペプチド化する。
【0024】
この発明に採用されるマイクロ波による処理は、所定のマイクロ波の照射によって絹蛋白分子内で発生する電気双極子の回転と振動によって、内部発熱させることであり、マイクロ波の周波数は、例えば調理用の電子レンジに日本国内においてISMバンドとして調理用電子レンジに使用が許可されている2.45GHzであり、その他にも米国で使用されている915MHなど、使用する国で法上の使用許可基準に合せた周波数300MHz〜300GHz、波長1mm〜1mの範囲の電磁波を採用すればよい。
【0025】
このようなマイクロ波の照射された後のシルクペプチド含有液を遠心分離し、加水分解された上澄み液を分離して乾燥させ、オリゴペプチド含有のシルクペプチドを得ることができる。
【実施例1】
【0026】
家蚕繭殻を5mm角に裁断して、120℃で2時間処理して熱水精練を行ない、セリシンが除去されたフィブロインを得た。このフィブロインを爆砕機に投入し、高圧蒸気を送入して220℃で24気圧を12分間保持し、次いで24気圧から大気圧に瞬時に開放して爆砕することにより、蒸煮爆砕(以下、単に爆砕という。)されたフィブロインを得た。
【0027】
得られた爆砕後のフィブロインに10倍重量の水を加え、マイクロ波(2.45GHz、出力:700W)を照射して処理し、加水分解した。
その際、フィブロイン水溶液は突沸するため、マイクロ波の照射処理は間歇的に繰り返した。マイクロ波の間欠的な照射時間としては、700Wで2分、1分休止後700Wで1分、1分休止後700Wで1分であった。このとき、フィブロイン水溶液が透明な水溶液になっていることを確認し、照射処理を終了した。
【0028】
マイクロ波を照射した後のフィブロイン水溶液から上澄み液を分離し、これを凍結乾燥させてフィブロインの加水分解されたシルクペプチド(以下、フィブロインペプチドという。)を回収した。
【0029】
得られたフィブロインペプチドの収率を、比較例1として爆砕のみしたフィブロインペプチドとの比較により評価した。表1に、比較例1(爆砕フィブロインペプチド)と、実施例1(爆砕してマイクロウェーブを照射したフィブロインペプチド)の収率を比較して示した。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果からも明らかなように、実施例1のフィブロインペプチドの収率は、比較例1の爆砕のみによる処理の場合の43%(爆砕フィブロイン10g当り4.3g)から73%(爆砕フィブロイン10g当り7.3g)に増加し、高い収率が得られたことがわかる。
【0032】
次に、実施例1で得られたフィブロインペプチドの分子量分布をゲルろ過クロマトグラフィー(GPC:測定波長230nm)により調べた。
図1の結果からも明らかなように、実施例1(爆砕後にマイクロ波処理したフィブロインペプチド)では、高分子量側と低分子量側に2つのピーク(存在量)が出現した。高分子量側の分子量のピークは約6000であり、低分子量側の分子量のピークは約280であった。
このように爆砕後にマイクロ波で処理された実施例1のシルクペプチドは、ペプチド結合を数個含んだオリゴペプチド(分子量約280)を多く含んでおり、そのために体内に吸収されやすく、機能性の発現が期待できるフィブロインペプチドとなったことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1のフィブロインペプチドの分子量分布を示す図表

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブロインを含む絹蛋白を蒸煮爆砕し、その後、マイクロ波で処理することによりフィブロインを加水分解させてペプチドを得ることからなるシルクペプチドの製造方法。
【請求項2】
シルクペプチドが、オリゴペプチドを含む重量平均分子量280〜6000のシルクペプチドである請求項1に記載のシルクペプチドの製造方法。
【請求項3】
フィブロインを含む絹蛋白が、蚕の繭殻または蚕糸からなる絹蛋白である請求項1または2に記載のシルクペプチドの製造方法。
【請求項4】
シルクペプチドが、水溶性ペプチドである請求項1〜3のいずれかに記載のシルクペプチドの製造方法。

【図1】
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