説明

シルクマットレス

【課題】適度な柔軟性を有し、吸湿性に優れたマットレスを提供する。
【解決手段】シルクフィブロイン多孔質体を用いたシルクマットレスである。ここで、シルクフィブロイン多孔質体とは、シルクフィブロインを含有し、好ましくは10〜300μmの平均細孔径を有する多孔質体をいう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシルクマットレスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、休息時あるいは睡眠時に人の全身を弾性的にサポートする寝具としては、中材として綿などを詰めた布団や、ウレタンフォームを使用したマットレスなどが知られている。布団やマットレスの使用者は、幼児から老人まで、男女の別、健康な人または病人など様々であり、使用者の健康状態や好みに応じて幅広い柔軟性を有するものを提供することが求められている。
【0003】
特に、ウレタンフォームを中材とする、低反発マットレス(例えば、特許文献1参照)は、ウレタンフォームの性状を制御することで、幅広い柔軟性を有するものを提供可能であり、また、クッション性や体圧分散性に優れるため、使用者を包み込むような寝心地が好まれ、その需要は益々増大している。
しかしながら、これらのウレタンフォームを用いた寝具を使用した場合、体圧分散性と引き換えに体への密着性が高い上に、ウレタンフォーム自体の吸湿性が低いため、接触面における蒸れ感が問題となる。また、特に製造直後には特有のウレタン臭を発する問題があり、使用者の快適な睡眠を阻害することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−230605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、適度な柔軟性を有し、吸湿性に優れたマットレスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、シルクフィブロイン多孔質体を用いてなるシルクマットレスにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、適度な柔軟性を有し、吸湿性に優れたマットレスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のシルクマットレスの一態様を示す斜視図である。
【図2】本発明のシルクマットレスの一態様を示す断面図である。
【図3】本発明のシルクマットレスの一態様を示す断面図である。
【図4】実施例1で製造される多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のシルクマットレスは、シルクフィブロイン多孔質体を用いてなることを特徴とする。
ここで、シルクフィブロイン多孔質体とは、シルクフィブロインを含有し、好ましくは10〜300μmの平均細孔径を有する多孔質体をいう。
【0010】
本発明に係るシルクマットレスは、いずれかの部位にシルクフィブロイン多孔質体を用いてなるものであれば特に限定されず、具体的には中材やその一部、外装材やその一部などにシルクフィブロイン多孔質体を有するものや、マットレス全体がシルクフィブロイン多孔質体で構成されているものが挙げられる。
【0011】
図1〜3に本発明に係るシルクマットレスの一態様を示す。本発明のシルクマットレス10は、シルクフィブロイン多孔質体のみからなる単層のものであってもよいが、図2に示すように、中材1及び外装材2を有し、これらの一方あるいは両方にシルクフィブロイン多孔質体を用いてもよい。さらに、図3に示すように、スプリング層3を設けるなどして、ベッド用マットレスとしてもよい。使用者に触れる側の外装材2をシルクフィブロイン多孔質体で構成した場合、シルク特有のなめらかな肌触りが得られる。
シルクフィブロイン多孔質体は、製造方法によってその柔軟性、強度、形状等を制御することができるため、使用者の要求に応じて、所望の性状を有する多孔質体を用いることができる。従って、例えば中材1及び外装材2の両方に、それぞれ特性の異なるシルクフィブロイン多孔質体を用いることもできる。特に相対的に体積の大きい中材1をシルクフィブロイン多孔質体で構成する場合には、適度な柔軟性により体圧分散性が得られ、かつ、吸湿性に優れるため蒸れにくくなり、寝心地が快適となる。
【0012】
本発明のシルクマットレスの形状は特に限定されず、比較的厚みのない布団状のマットレスとしたり、ベッド用の厚いものとすることができる。また、収納可能とするために折りたたみ部位を設けてもよい。
【0013】
シルクフィブロイン多孔質体の引張り強度は、1kPa〜400kPaであることが好ましい。1kPa以上であれば、十分な強度があり、マットレスとしての耐久性が十分となる。一方、400kPa以下であれば、マットレスに適度の柔軟性を与えることができる。以上の観点から、引張り強度は40kPa〜300kPaであることがより好ましく、80kPa〜200kPaであることがさらに好ましい。
【0014】
また、本発明におけるシルクフィブロイン多孔質体は、多孔質層と、その一方の面又は両面に細孔を有しないフィルム層を有していてもよく、一方、シルクフィブロイン多孔質体が多孔質層のみからなっていてもよい。
上記フィルム層は、細孔を有しない、又は多孔質層と比較して、極めて細孔が少なく、表面の平滑性の高い層である。このようなフィルム層を有することにより、シルクマットレスの柔軟性を制御したり、表面の汚れを拭き取り易くすることができる。
また、本発明のシルクマットレスは、その多孔質層に様々な有効成分を含有させることができる。例えば、ラベンダー、ペパーミント、ローズマリー、ジャスミン、セージ、タイム、カモミール等の精油等を含ませることでアロマテラピー効果を付与したり、抗菌成分や脱臭成分等を含ませることもできる。特に、中材1にこれらの有効成分を含有させる場合、有効成分を含む液に中材1を浸漬した後に乾燥することで、内部にまで有効成分を保持させることができ、その効果を長期間維持することができる。
【0015】
次に、本発明において用いられるシルクフィブロイン多孔質体の製造方法について説明する。
本発明で用いられるシルクフィブロイン多孔質体は、シルクフィブロイン水溶液に特定の添加剤を加えたシルクフィブロイン溶液を凍結させ、次いで融解させることにより製造することができる。
ここで用いられるシルクフィブロインは、家蚕、野蚕、天蚕等の蚕から産生されるものであればいずれでもよく、その製造方法も問わない。本発明におけるシルクフィブロイン多孔質体の製造においては、シルクフィブロイン水溶液として用いるが、シルクフィブロインは溶解性が悪く、直接水に溶解することが困難である。シルクフィブロイン水溶液を得る方法としては、公知のいかなる手法を用いてもよいが、高濃度の臭化リチウム水溶液にシルクフィブロインを溶解後、透析による脱塩、風乾による濃縮を経る手法が簡便である。
シルクフィブロイン多孔質体の製造方法において、シルクフィブロインの濃度は、添加剤を添加したシルクフィブロイン溶液中で0.1〜40質量%であることが好ましく、0.5〜20質量%であることがより好ましく、1〜12質量%であることがさらに好ましい。この範囲内に設定することで、強度と柔軟性のバランスに優れた多孔質体を効率的に製造することができる。
【0016】
前記添加剤としては、水溶性有機溶媒や、脂肪族カルボン酸、アミノ酸が挙げられる。添加剤としては、特に制限はないが、水溶性のものが好ましい。
上記添加剤としては、シルクフィブロイン多孔質体の強度の観点からは、脂肪族カルボン酸及び/又はアミノ酸を用いることが好ましい。
また、シルクフィブロイン多孔質体の製造において用いられる脂肪族カルボン酸としては、pKaが、5.0以下のものが好ましく、3.0〜5.0のものがより好ましく、3.5〜5.0のものがさらに好ましい。
【0017】
水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、グリセロール、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ピリジン、アセトン、アセトニトリル等が挙げられる。
【0018】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数3〜5の飽和または不飽和のモノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸を好ましく用いることができ、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、アクリル酸、2−ブテン酸、3−ブテン酸などのモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸などのジカルボン酸などが好ましく挙げられる。これらの脂肪族カルボン酸は、単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0019】
アミノ酸としては、特に制限はないが、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、メチオニン等のモノアミノカルボン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等のモノアミノジカルボン酸(酸性アミノ酸)などの脂肪族アミノ酸、フェニルアラニン等の芳香族アミノ酸、ヒドロキシプロリン等の複素環を有するアミノ酸などがあげられ、中でも形状の調整が容易な観点から酸性アミノ酸や、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン等のオキシアミノ酸が好ましい。同様な観点で、酸性アミノ酸の中でもモノアミノカルボン酸がより好ましく、アスパラギン酸やグルタミン酸が特に好ましく、オキシアミノ酸の中でもヒドロキシプロリンがより好ましい。これらのアミノ酸は、いずれか1種を単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
なお、アミノ酸には、L型とD型の光学異性体があるが、L型とD型を用いた場合に、得られる多孔質体に違いが見られないため、どちらのアミノ酸を用いてもよい。
【0020】
シルクフィブロイン溶液における水溶性添加剤の量は、0.01〜18質量%であることが好ましく、0.1〜5.0質量%であることがより好ましく、0.5〜4.0質量%であることがさらに好ましい。この範囲内に設定することで、十分な強度を持った多孔質体を製造することができる。また、18.0質量%以下であれば、シルクフィブロイン水溶液に添加剤を添加したシルクフィブロイン溶液を静置する際、該溶液がゲル化しにくく、安定して均一な構造のシルクフィブロイン多孔質体が得られる。また、アミノ酸の配合量は、フィブロインに対して、1〜500質量%であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
次に、上記添加剤が加えられたシルクフィブロイン溶液を型あるいは容器に流し込み、低温恒温槽中に入れて凍結させ、次いで融解することによって、シルクフィブロイン多孔質体を製造する。凍結温度は、添加剤を含有させたシルクフィブロイン溶液が凍結する温度であれば特に制限されないが、−10〜−30℃程度が好ましい。また、凍結時間は、十分に凍結し、かつ凍結状態を一定時間保持できるよう、所定の凍結温度で4時間以上であることが好ましい。なお、凍結の方法としては、シルクフィブロイン溶液を一気に凍結温度まで下げて凍結してもよいが、一旦、−5℃程度に2時間程度保持して過冷却状態とし、その後、凍結温度まで下げて凍結することが、力学的強度の高い多孔質体を得る上で好ましい。−5℃から凍結温度までにかける時間を調整することで、多孔質体の構造や強度をある程度制御することが可能である。
その後に、凍結したシルクフィブロイン溶液を、融解することによってシルクフィブロイン多孔質体が得られる。融解の方法は特に制限はないが、自然融解のほか、恒温槽内に保管する方法などが挙げられる。
【0022】
得られた多孔質体には添加剤が含まれるが、用途に応じて、添加剤を除去する必要がある場合には、適当な方法で多孔質体から添加剤を除去して用いることができる。たとえば、多孔質体を、純水中に浸漬して、添加剤を除去することが最も簡便な方法として挙げられる。あるいは、添加剤の種類によっては、多孔質体を凍結乾燥することによって、添加剤と水分を同時に除去することが可能である。
【0023】
シルクフィブロイン多孔質体は、多孔質体作製時の型や容器を適宜選択することにより、フィルム状、ブロック状、管状等、目的に応じた形状とすることができる。
これらの型や容器から取り出したシルクフィブロイン多孔質体において、該型や容器に触れる面には、厚さ1〜100μm程度のフィルム層が形成している。該フィルム層は、上述のように実質的に細孔を有しない層であって、細孔を有しない、又は多孔質層と比較して極めて細孔の少ない層である。すなわち、シルクフィブロイン多孔質体は、多孔質層と、そのまわりを被覆するフィルム層とを有していてもよく、その用途に応じて、フィルム層を取り除いて用いてもよいし、積極的にフィルム層を残して用いてもよい。例えば、ブロック状の型あるいは容器で作製したシルクフィブロイン多孔質体の場合、側面の四面のフィルム層を取り除き、多孔質層の部分で裁断すると、多孔質層とその一方の面に細孔を有しないフィルム層を有するシルクフィブロイン多孔質体を得ることができる。
【0024】
型や容器は、熱伝導を考慮して通常アルミニウム製のものが好ましく用いられるが、その内側に予めテフロンシートなどの樹脂シートや、ろ紙などといった表面が荒いシートを設置してから、シルクフィブロイン溶液を流し込んで、多孔質体を作製することができる。テフロンシートなどの樹脂シートを設置する場合には、フィルム層をより積極的に形成することができ、ろ紙などの表面が粗いシートを設置する場合には、該シートがフィルム層を剥離するため、型から取り出した際にフィルム層を有しない多孔質体が得られる。これらのシートの採用については、多孔質体の用途に応じて、適宜選択すればよい。
【0025】
このようにして得られたシルクフィブロイン多孔質体は、スポンジ状の多孔質構造を有しており、通常この多孔質体には凍結乾燥等により水除去を行わなければ水が含まれ、含水状態で堅い構造物である。多孔質体を凍結乾燥することにより、シルクフィブロイン多孔質体の乾燥品を得ることができるが、シルクフィブロイン多孔質体の乾燥品は、硬く、脆いものであるため、ポリエチレングリコールやグリセリンの水溶液に浸漬しておいたり、乾燥防止剤を含有させることで、乾燥後も良好な柔軟性を有するものが得られ、シルクマットレスの部材として好適である。
また、含水状態のシルクフィブロイン多孔質体を、シルクマットレスの部材として用いる場合、水分の漏出を防ぐために、プラスチックフィルム等に含水状態のシルクフィブロイン多孔質体を封入し、パウチ化することが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0027】
実施例1
シルクフィブロイン水溶液は、フィブロイン粉末(KBセーレン社製、商品名:「フィブロインIM」)を9M臭化リチウム水溶液に溶解し、遠心分離で不溶物を除去したのち、超純水に対して透析を繰り返すことによって得た。得られたシルクフィブロイン水溶液を透析チューブ中で風乾し濃縮した。この濃縮液に酢酸水溶液を添加し、シルクフィブロイン濃度が5質量%、酢酸濃度が2質量%であるシルクフィブロイン溶液を調製した。
このシルクフィブロイン溶液をアルミ板で作製した型(内側サイズ;80mm×40mm×4mm)に流し込み、低温恒温槽(EYELA社製NCB−3300)に入れて凍結保存した。
凍結は、予め低温恒温槽を−5℃に冷却しておいて低温恒温槽中にシルクフィブロイン溶液を入れた型を投入して2時間保持し、その後−20℃に冷却後5時間保持した。凍結した試料を自然解凍で室温に戻してから、型から取り出し、超純水に浸漬し、超純水を1日2回、3日間交換することによって、使用した酢酸を除去した。
【0028】
(力学特性の測定方法)
得られたシルクフィブロイン多孔質体の力学的特性を、INSTRON社マイクロテスター5548型を用いて評価した。作製したシルクフィブロイン多孔質体から40mm×4mm×4mmの試験片を切り出し、この試験片を2mm/minの条件で引っ張った際の最大破断強度(引っ張り強度)と最大ひずみ(伸び)を測定した。また、強度とひずみをグラフ化した時の傾きから弾性率を求めた。その結果を表1に示す。なお、測定結果は、作製した多孔質体から5点の試験片を作製し、さらに異なる日に作製した多孔質体から5点の試験片を切り出し、それら10点について測定を行った平均値を示している。
【0029】
また、得られたシルクフィブロイン多孔質体の構造を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。走査型電子顕微鏡は、Philips社製XL30−FEGを使用して、低真空無蒸着モード、加速電圧10kVで測定を行った。なお、シルクフィブロイン多孔質体の構造は、多孔質体の表面ではなく、多孔質体を切断して露出させた内部を観察した。得られた多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真を図4に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示す結果から、シルクフィブロイン多孔質体の引っ張り強度は、シルクマットレスの部材として好適であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のシルクマットレスは、シルクフィブロイン多孔質体を用いてなり、適度な柔軟性を有し、吸湿性に優れるため、使用者に快適な寝心地を提供する。
【符号の説明】
【0033】
10:シルクマットレス
1:中材
2:外装材
3:スプリング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シルクフィブロイン多孔質体を用いてなるシルクマットレス。
【請求項2】
前記シルクフィブロイン多孔質体の引張り強度が1〜400kPaである請求項1に記載のシルクマットレス。
【請求項3】
中材としてシルクフィブロイン多孔質体を有する請求項1又は2に記載のシルクマットレス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−80920(P2012−80920A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227049(P2010−227049)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】