説明

シンジオタクチックポリスチレン系樹脂シート又はフィルム

【課題】優れた外観(フィッシュアイの低減化および透明性)を有するシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シート又はフィルムを提供する。
【解決手段】スチレン系モノマーとして、スチレンとp−メチルスチレンを共重合させて得られたシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を製膜してなるシートまたはフィルムであって、100μm厚みのフィルムに換算した際の10μm以上のフィッシュアイが5個/cm2以下であることを特徴とするシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シートまたはフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シート又はフィルムに関し、詳しくは、優れた外観(フィッシュアイの低減化および透明性)を有する当該樹脂シート又はフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体(本明細書においては、シンジオタクチックポリスチレンとも称し、これをSPSと略すことがある。)は、耐熱性や耐薬品性等に優れたエンジニアリングプラスチックとして広く知られている。このため、これまでに種々の成形法が適用され、様々な用途に供されている。例えば、上記特性が生かせることから、シート、フィルム状に成形されたSPSにおいては、包装、光学、離型フィルムなどの分野における用途開発が進んでいる。
【0003】
従来、スチレン単独重合体からなるSPSは、硬く、結晶化度が高いという特徴があり、このためにフィルム、シート状に成形した場合、柔軟性に欠ける、透明性がよくない等の問題があった。このため、p−メチルスチレンを少量加えて共重合させることで、上記欠点を改良することが行われてきた。
【0004】
しかしながら、一般にp−メチルスチレンを少量加えたSPSは、シート、フィルム状に成形した場合、スチレン単独重合体からなるSPSに比較してフィッシュアイが多く発生し、成形品の外観が低下する傾向があった。
【0005】
SPS成形品の外観向上に関しては、ヘイズの改良に関する技術が知られており、例えば、特許文献1には、押出機を用いてSPSの粉末からペレットを製造する際、一部のSPSが粉末状で存在している部位に失活剤を注入し、フィルムのヘイズの改良および外観向上を達成する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1にはフィッシュアイの低減化技術に関する記載はない。
【0006】
上記のように、SPSシートまたはフィルムのヘイズに関しては改良されているものの、フィッシュアイの低減化技術は未だ十分ではなく、その用途拡大のためには、さらに外観を向上させ、柔軟性と両立させることが望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開平10−195206
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況下でなされたものであり、優れた外観(フィッシュアイの低減化および透明性)を有するシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シート又はフィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、SPSシート又はフィルム中のフィッシュアイは、スチレン系モノマーに含まれるジビニルベンゼンの反応に由来する架橋構造が原因であること、および当該架橋構造が重合禁止剤除去後のモノマー溶液中で発生することを見出した。さらには、上記知見に基づき、特定のスチレン系モノマーを原料とするシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を製膜してなるシート又はフィルムは上記目的に適合しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)スチレン系モノマーとして、スチレンとp−メチルスチレンを共重合させて得られたシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を製膜してなるシートまたはフィルムであって、100μm厚みのフィルムに換算した際の10μm以上のフィッシュアイが5個/cm2以下であることを特徴とするシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シートまたはフィルム、
(2)スチレン系モノマー中のp−メチルスチレン含有率が3〜30モル%であることを特徴とする上記(1)記載のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シートまたはフィルム、
(3)触媒残渣として含有されるアルミニウム化合物の平均粒径が10μm以下であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シートまたはフィルム、
(4)スチレン系モノマーに含まれるジビニルベンゼン含有量が33質量ppm以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シートまたはフィルム
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた外観(フィッシュアイの低減化および透明性)を有するシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シート又はフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シート又はフィルムは、スチレン系モノマーとして、スチレンとp−メチルスチレンを共重合させて得られたシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を製膜してなるものである。
【0012】
本発明におけるシンジオタクチックポリスチレン系樹脂は、スチレンとp−メチルスチレンを共重合させて得られたシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂である。シンジオタクチック構造とは、立体構造がシンジオタクチック構造、すなわち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基や置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により定量される。13C−NMR法により測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド,3個の場合はトリアッド,5個の場合はペンタッドによって示すことができるが、本発明に言うシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂とは、通常はラセミダイアッドで75モル%以上、好ましくは85モル%以上、若しくはラセミペンタッドで30モル%以上、好ましくは50モル%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン系樹脂を指す。
【0013】
上記SPSは、分子量について特に制限はないが、重量平均分子量が好ましくは10000以上、より好ましくは50000以上である。さらに、分子量分布についてもその広狭は制約がなく、様々なものを充当することが可能である。ここで、重量平均分子量が10000未満のものでは、得られる組成物あるいは成形品の熱的性質,力学的物性が低下する場合があり好ましくない。
【0014】
本発明におけるSPSは、スチレン系モノマーとして、スチレンとp−メチルスチレンを共重合させて得られた樹脂であり、シート又はフィルムの柔軟性と外観の向上の両立の観点から、スチレン系モノマー中のp−メチルスチレンの含有率は3〜30モル%であることが好ましく、3〜15モル%であることがより好ましい。
【0015】
本発明においては、SPSの原料として、不純物として混在するジビニルベンゼン量が特定値以下であるスチレン系モノマーを使用することが好ましい。
【0016】
ジビニルベンゼンはビニル基を2個有する化合物であり、一般にスチレンモノマーやp−メチルスチレンモノマー等のスチレン系モノマー中に不純物として含まれる。このため、重合反応時に架橋点になり、ゲル化物を形成しやすく、フィッシュアイが生成すると考えられる。本発明においては原料のスチレン系モノマー中のジビニルベンゼン含有量が33質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは22質量ppm以下、特に好ましくは11質量ppm以下である。33質量ppm以下であれば、フィルム化した際にフィッシュアイの数を低減化することができ、優れた外観が得られる。
【0017】
通常、ジビニルベンゼンはスチレンモノマー中には約50質量ppm含まれ、p−メチルスチレンモノマー中には約100質量ppm含まれる。したがって、SPSを製造する際には、原料スチレン系モノマーを精製処理し、ジビニルベンゼン含有量を低減化する必要がある。原料スチレン系モノマーの精製処理方法としては、減圧蒸留方法が挙げられ、圧力15〜50mmHg、温度45〜75℃での減圧蒸留条件が用いられる。
【0018】
本発明のSPSの製造において、上記の原料スチレン系モノマー中に混在するジビニルベンゼン量を規定する以外は従来公知の方法を使用することができ、例えば不活性炭化水素溶媒中又は溶媒の不存在下に、種々の公知の触媒を用いて、当該スチレン系モノマーを重合することにより製造することができる。
【0019】
上記の方法により得られたSPS粉末を、押出機による溶融押出工程により造粒する。上記工程またはシートやフィルム成形時に特定の酸化防止剤を添加することで、フィッシュアイをさらに低減化することが可能であり、フィルムの外観を向上させることが可能になる。
【0020】
上記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤またはリン系酸化防止剤が挙げられ、これらは通常使用されているものを用いることができる。これらの酸化防止剤は、本発明においては通常の酸化防止剤としての効果の他に、Alや触媒等を分散させる効果があると考えられ、これによりフィッシュアイを低減化することが可能になる。
【0021】
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−フェニルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−n−ノニルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタン、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−〔1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ─t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4─ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、3,9−ビス〔1,1─ジ−メチル−2−〔β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル〕−2,4,8,10−テトラキオサスピロ〔5,5〕ウンデカン、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス(n─オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t─ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、トリス(4−t−ブチル−2,6−ジ−メチル−3−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレイト等が挙げられる。これらフェノール系化合物の中でも、一般式(I)で表されるものが特に好ましい。
【0022】
【化1】

【0023】
(R1はメチル基又はt−ブチル基を、Aは1〜4個の水酸基を有するアルコールのn個の水酸基を除いた残基を示し、またnは1〜4の整数をそれぞれ示す。)
【0024】
リン系酸化防止剤の具体例としては、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニル−ビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、ジオクチルペンタエリスリトールジフォスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジフォスファイト、ジフェニルペンタエリスリトールジフォスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンフォスフォナイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フルオロフォスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルフォスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキシド、トリス(イソデシル)フォスファイト、トリス(トリデシル)フォスファイト、フェニルジイソオクチルフォスファイト、フェニルジイソデシルフォスファイト、フェニルジ(トリデシル)フォスファイト、ジフェニルイソオクチルフォスファイト、ジフェニルイソデシルフォスファイト、ジフェニルトリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、トリス(モノノリルフェニル)フォスファイト、トリス(モノ,ジノリルフェニル)フォスファイト、炭素数12〜15のアルキル基を有する4,4’−イソプロピリデンジフェノールテトラアルキルジフォスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)フォスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルフォスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。これらのリン系化合物の中でも、一般式(II)で表されるものが特に好ましいが、中でもR2、R3がアルキルアリール基である場合が望ましい。
【0025】
【化2】

【0026】
(ここにR2及びR3は各々独立して、アルキル基、アリール基又はアルキルアリール基を示す。)
【0027】
当該酸化防止剤の添加量は、SPS100質量部に対して、0.005〜5質量部が好ましく、0.01〜3質量部がより好ましく、0.01〜2質量部が特に好ましい。0.005質量部未満であると、外観向上効果が得られにくく、5質量部を超えると、シートやフィルムのヘイズの上昇、ブリード発生、機械的強度の低下が生じやすい。当該酸化防止剤の添加方法の好ましい例としては、上記溶融押出工程における、粉体でサイドフィードによる添加、またはペレタイズ後、シートやフィルムに成形される前に、ペレットに対し酸化防止剤マスターバッチまたは粉体でのドライブレンドでの添加が挙げられる。
【0028】
本発明においては上記溶融押出工程において、水を添加してもよく、これによりシートやフィルムのヘイズを低下させ、外観を向上させることができる。当該方法としては、特開平10−195206号公報に記載の方法を好ましく使用できる。
【0029】
本発明においては、好ましくは、上記溶融押出工程で得られたペレットを80〜140℃、3〜10時間乾燥する。ペレットの乾燥条件はより好ましくは100〜120℃、5〜10時間である。このペレットの乾燥は一般の加熱空気、乾燥空気、真空下等の雰囲気下で行うことが出来る。この乾燥によりペレットに含まれる水分及び揮発成分の多くを除去することが出来る。
【0030】
次に押出機で押出し、シリンダー及びダイス温度280〜320℃程度、ロール温度50〜99℃程度でシートやフィルムに成形する。シリンダー及びダイス温度が320℃を超えると、熱劣化に伴う分子量の低下やオリゴマー等の低分子量成分の増加を起こしやすい。また、すべてのロール温度が50℃未満であるとロールへの密着不足の為、表面の平滑性が低下し、ヘイズなどの外観不良を起こしやすい。さらにすべてのロール温度が99℃を超えると生産性の低下ならびにロールへの粘着、密着により表面の密着、剥がしむらが生じ、良外観のシートやフィルムが得られにくい。
【0031】
またシートやフィルム成形用の押出装置には脱揮装置の付いていることが好ましい。この脱揮装置は溶融状態にて大気圧力以下に減圧出来るものであり、押出時に8kPa以下好ましくは4kPa以下に減圧する。この減圧脱揮によりペレットに残存する水分及び揮発成分を除去するとともに、本押出成形により生成する副次的な揮発性の反応副生成物をも除去することができる。上記乾燥および押出成形時の脱揮を十分に行うことでシートやフィルムの発泡や表面状態の肌荒れによる表面外観の低下を回避することができる。
【0032】
本発明においては特定の原料スチレン系モノマーを使用することで、100μm厚みのフィルムに換算した際の10μm以上のフィッシュアイが5個/cm2以下であることを特徴とするシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シートまたはフィルムが得られる。また、特定の酸化防止剤を添加することで、触媒残渣として含有されるアルミニウム化合物の平均粒径値を低下させることができ、当該平均粒径が10μm以下であることを特徴とするシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シートまたはフィルムが得られる。
【実施例】
【0033】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0034】
評価方法
以下に示す製造例、実施例および比較例において製造されたSPS、SPSフィルムに関して、以下の測定により評価した。
ジビニルベンゼン量:ガスクロマトグラフィー(アジレント・テクノロジ―製6890N GC)測定により求めた。
アルミニウム化合物の粒径測定:日本電子社製EPMA(JXA−8200)により、フィルム表面のAlマッピングを実施し、50μm2の視野中、無作為に10点のAl像をピックアップし、マッピング用スケールを用いて平均粒径を算出した。
フィッシュアイ個数:日本アルミ(株)製のフィルム中異物検査装置を用いて、30mmφ単軸押出機を用いてキャストしたフィルムに垂直にストロボを照射し、投下光像をパソコンに取り込み、個数を解析した。
フィッシュアイ形態:光学顕微鏡にて観察し、光の不透過性ブツ、透明ゲル状ブツおよびこれらの複合状ブツに形態分類した。これらはそれぞれAl化合物、架橋性ゲル物、および複合物であることを、IR,ラマン、EPMAにより同定した。
ヘイズ:JIS K7105に記載の方法に準拠した。
【0035】
製造例1(シンジオタクチックポリスチレンAの製造)
2リットルの反応容器にアルミナカラムにて重合禁止剤のトリクロロベンゼン(TCB)を除去した、精製スチレン(ジビニルベンゼン含有率が3μg/ml)と精製p−メチルスチレン(ジビニルベンゼン含有率が5μg/ml)とを93:7のモル比で混合し、等量のヘキサン及びトリエチルアルミニウム1mmolを加え、80℃に加熱した。ここに、予備混合触媒〔ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリメトキシド90μmol、ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート90μmol、トルエン29.1mmol、トリイソブチルアルミニウム1.8mmol〕16.5mlを添加し、80℃で5時間重合を行った。反応終了後、ヘキサンより析出した生成物をろ過回収した。生成物をメタノールにて繰り返し洗浄し、乾燥したものを、1,2,4−トリクロロベンゼンを溶媒とし、130℃でゲルパーミエイションクロマトグラフィーにて測定したところ重量平均分子量は、200,000で、分子量分布は2.5であった。さらに13C−NMRより算出したペンタッドでのシンジオタクティシティーは96%であり、重合体をSPSと確認した。
なお、精製スチレン(ジビニルベンゼン含有率が3μg/ml)及び精製p−メチルスチレン(ジビニルベンゼン含有率が5μg/ml)は、市販スチレン(ジビニルベンゼン含有率が100μg/ml)及び市販p−メチルスチレン(ジビニルベンゼン含有率が50μg/ml)を25〜35mmHgの圧力、60℃の温度で減圧蒸留して得たものである。
【0036】
製造例2(シンジオタクチックポリスチレンBの製造)
p−メチルスチレン(ジビニルベンゼン含有率が5μg/ml)に代えて、p−メチルスチレン(ジビニルベンゼン含有率が10μg/ml)を使用した他は、製造例1に記載の方法により、シンジオタクチックポリスチレンBを製造した。重量平均分子量は、200,000で、分子量分布は2.5であった。さらに13C−NMRよりペンタッドでのシンジオタクティシティーは96%であり、重合体をSPSと確認した。
【0037】
製造例3(シンジオタクチックポリスチレンCの製造)
p−メチルスチレン(ジビニルベンゼン含有率が5μg/ml)に代えて、p−メチルスチレン(ジビニルベンゼン含有率が20μg/ml)を使用した他は、製造例1に記載の方法により、シンジオタクチックポリスチレンCを製造した。重量平均分子量は、200,000で、分子量分布は2.5であった。さらに13C−NMRよりペンタッドでのシンジオタクティシティーは96%であり、重合体をSPSと確認した。
【0038】
製造例4(シンジオタクチックポリスチレンDの製造)
p−メチルスチレン(ジビニルベンゼン含有率が5μg/ml)に代えて、p−メチルスチレン(ジビニルベンゼン含有率が35μg/ml)を使用した他は、製造例1に記載の方法により、シンジオタクチックポリスチレンDを製造した。重量平均分子量は、200,000で、分子量分布は2.5であった。さらに13C−NMRよりペンタッドでのシンジオタクティシティーは96%であり、重合体をSPSと確認した。
【0039】
【表1】

【0040】
製造例5(ペレットの製造)
上記製造例1〜4において得られたSPSを用いて、以下の方法でペレットを製造した。
SPSパウダーを、日本製鋼所(株)製二軸押出機〔TEX30SS−52.5AW−7V(L/D=52.5,D=30mm,H=4.5mm,ベント数=5)〕を用い、シリンダー温度290℃、成形温度300〜320℃、第一ベント部温度275℃(圧力50.5kPa)、第二ベント部温度275℃(圧力17.3kPa)、第三及び第四ベント部温度290℃(圧力2.0kPa)、第五ベント部温度290℃(圧力0.67kPa)、スクリュー周速0.4m/s(同回転方向)、SPS粉末供給量=12kg/h、即ち、Q/DHV=1.9×105の条件で脱揮,造粒を行った。ここにおいて、水の添加は次の要領で行った。添加位置は、押出機内においてSPSが粉末状態で存在している、内部温度50℃の部位とし、該部位での注入量は100g/h(SPS粉末供給量に対し、1.0質量%)とした。
【0041】
実施例1
製造例5の方法でペレット化された製造例1のSPS(シンジオタクチックポリスチレンA)を用いて、35mmの単軸押出機(サーモプラスチック社製)にて押出温度290℃で90℃の冷却ロールにキャストし、幅120mm、膜厚100μmのフィルムを成形した。このフィルム中のフィッシュアイ個数を測定したところ、フィッシュアイ個数は2個/cm2であり、Al化合物の平均粒径は5μmであった。フィッシュアイの形態を観察した結果、Al化合物単体、透明ゲル状物及び、透明ゲル中にAl化合物を含む複合体の3種が主に確認された。
【0042】
実施例2
ペレット100質量部に対して、0.2質量部の酸化防止剤(ADEKA社製、商品名PEP36)を添加したものを使用した他は、実施例1と同様の方法でフィルムを成形した。フィッシュアイ個数は1個/cm2であり、Al化合物の平均粒径は1μmまたはそれ以下であった。フィッシュアイの形態を観察した結果、透明ゲル状物が主に確認された。
【0043】
実施例3
製造例2のSPS(シンジオタクチックポリスチレンB)を使用した他は、実施例1と同様の方法でフィルムを成形した。フィッシュアイ個数は4個/cm2であり、Al化合物の平均粒径は5μmであった。フィッシュアイの形態を観察した結果、Al化合物単体、透明ゲル状物及び、透明ゲル中にAl化合物を含む複合体の3種が主に確認された。
【0044】
実施例4
製造例3のSPS(シンジオタクチックポリスチレンC)を使用した他は、実施例1と同様の方法でフィルムを成形した。フィッシュアイ個数は5個/cm2であり、Al化合物の平均粒径は5μmであった。フィッシュアイの形態を観察した結果、Al化合物単体、透明ゲル状物及び、透明ゲル中にAl化合物を含む複合体の3種が主に確認された。
【0045】
実施例5
ペレット100質量部に対して、0.2質量部の酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名Irganox1010)を添加したものを使用した他は、実施例4と同様の方法でフィルムを成形した。フィッシュアイ個数は3個/cm2であり、Al化合物の平均粒径は2μmであった。フィッシュアイの形態を観察した結果、透明ゲル状物が主に確認された。
【0046】
実施例6
ペレット100質量部に対して、0.2質量部の酸化防止剤(PEP36、前出)を添加したものを使用した他は、実施例4と同様の方法でフィルムを成形した。フィッシュアイ個数は2個/cm2であり、Al化合物の平均粒径は1μmまたはそれ以下であった。フィッシュアイの形態を観察した結果、透明ゲル状物が主に確認された。
【0047】
比較例1
製造例4のSPS(シンジオタクチックポリスチレンD)を使用した他は、実施例1と同様の方法でフィルムを成形した。フィッシュアイ個数は14個/cm2であり、Al化合物の平均粒径は5μmであった。フィッシュアイの形態を観察した結果、Al化合物単体、透明ゲル状物及び、透明ゲル中にAl化合物を含む複合体の3種が主に確認された。
【0048】
比較例2
ペレット100質量部に対して、0.2質量部の酸化防止剤(PEP36、前出)を添加したものを使用した他は、比較例1と同様の方法でフィルムを成形した。フィッシュアイ個数は7個/cm2であり、Al化合物の平均粒径は1μmまたはそれ以下であった。フィッシュアイの形態を観察した結果、透明ゲル状物が主に確認された。
【0049】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、優れた外観(フィッシュアイの低減化および透明性)を有するシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シート又はフィルムが提供される。当該樹脂シート又はフィルムは、包装、光学、離型フィルムなどの分野において好適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系モノマーとして、スチレンとp−メチルスチレンを共重合させて得られたシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を製膜してなるシートまたはフィルムであって、100μm厚みのフィルムに換算した際の10μm以上のフィッシュアイが5個/cm2以下であることを特徴とするシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シートまたはフィルム。
【請求項2】
スチレン系モノマー中のp−メチルスチレン含有率が3〜30モル%であることを特徴とする請求項1記載のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シートまたはフィルム。
【請求項3】
触媒残渣として含有されるアルミニウム化合物の平均粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シートまたはフィルム。
【請求項4】
スチレン系モノマーに含まれるジビニルベンゼン含有量が33質量ppm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂シートまたはフィルム。

【公開番号】特開2008−266491(P2008−266491A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112861(P2007−112861)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】