説明

シンチレーション検出器

【課題】光電子増倍管の受光面への集光を向上させ、大面積または大容量の被測定物から放出される電離性放射線を高感度で測定するシンチレーション検出器を提供する。
【解決手段】シンチレーション検出器10は、遮光部11を通過した電離性放射線18が入射すると励起光を発生するシンチレータ12と、このシンチレータ12を支持するとともに励起光を通過させる導光部13と、この導光部13を通過した励起光を受光面22に入射して電気信号に変換する光電子増倍管21と、この導光部13とともに形成する内部空間16に少なくとも受光面22を収容するケース17と、この内部空間16に露出する導光部13の表面の一部又は全面に設けられる微細構造層14と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電離性放射線を高感度で検出するシンチレーション検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレーション検出器は、その検出面に電離性放射線(β線等)が入射すると、この検出面に配置されるシンチレータから励起光が発生する。そして、この発生した励起光は、光電子増倍管の受光面に入射し、電気信号(電圧値)に変換され、電離性放射線が計数されることになる。
このシンチレータで発生した励起光を効率的に光電子増倍管の受光面に導くために、励起光を反射させる反射面を設ける従来技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−278972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、大面積または大容量の被測定物から放出される電離性放射線を効率的に測定するためには、この電離性放射線が入射するシンチレータの検出面を大きくする必要がある。そして、このシンチレータで発生する励起光を受光する光電子増倍管の受光面も、このシンチレータの検出面に対応して大きく設計されることが望まれる。
しかし、一般的な光電子増倍管では受光面の大きさは限られており、シンチレータの検出面に対し、光電子増倍管の受光面の面積が相対的に小さくなり、電離性放射線の検出感度が低下する課題があった。
【0005】
これは、励起光が入射しやすい位置に光電子増倍管を設置しても、全ての励起光を直接受光することが困難なためである。シンチレータで発生した励起光の多くは、シンチレータの内部、光電子増倍管に接合されたライトガイド、検出器の容器内部の底部や側面部に何度も反射した後に受光されることになる。
このように、光電子増倍管の受光面に対しシンチレータの検出面が相対的に大きくなる程、励起光の反射回数が増加し、吸収による検出感度の低下が避けられない。
【0006】
このため、従来技術のように、励起光を光電子増倍管の受光面に導く反射面を設けることは、シンチレータの面積が光電子増倍管の受光面よりも相対的に大きなシンチレーション検出器において、検出感度低下の防止策とはならない。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、光電子増倍管の受光面への集光を向上させ、大面積または大容量の被測定物から放出される電離性放射線を高感度で測定することができるシンチレーション検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
シンチレーション検出器において、遮光部を通過した電離性放射線が入射すると励起光を発生するシンチレータと、前記シンチレータを支持するとともに前記励起光を通過させる導光部と、前記導光部を通過した前記励起光を受光面に入射させ電気信号に変換する光電子増倍管と、前記導光部とともに形成する内部空間に少なくとも前記受光面を収容するケースと、前記内部空間に露出する前記導光部の表面の一部又は全面に設けられる微細構造層と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、光電子増倍管の受光面への集光が向上し、大面積または大容量の被測定物から放出される電離性放射線を高感度で測定するシンチレーション検出器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るシンチレーション検出器の第1実施形態を示す縦断面図。
【図2】第1実施形態に係るシンチレーション検出器の平面透視図。
【図3】シンチレーション検出器の検出面における、(A)は微細構造層が未形成の部位、(B)(C)(D)は微細構造層が形成されている部位の縦断面。
【図4】(A)(B)(C)(D)はシンチレーション検出器の微細構造層の実施例を示す縦断面。
【図5】本発明に係るシンチレーション検出器の第2実施形態を示す縦断面図。
【図6】第2実施形態に係るシンチレーション検出器の平面透視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、シンチレーション検出器10は、遮光部11を通過した電離性放射線18が入射すると励起光19(図3)を発生するシンチレータ12と、このシンチレータ12を支持するとともに励起光19を通過させる導光部13と、この導光部13を通過した励起光19を受光面22に入射させ電気信号に変換する光電子増倍管21と、この導光部13とともに形成する内部空間16に少なくとも受光面22を収容するケース17と、この内部空間16に露出する導光部13の表面の一部又は全面に設けられる微細構造層14と、を備えている。
【0012】
ここで、遮光部11、シンチレータ12及び導光部13は、積層されて電離性放射線18の検出面15を形成している。そして、この検出面15は、有底形状に成形されたケース17の開口に固定されている。
【0013】
ケース17の内部空間16には、光電子増倍管21が設置され、外光がこの光電子増倍管21の受光面22に入射しないよう構成されている。また、このケース17の内表面は、導光部13を通過した励起光19(図3)が吸収されないように、導後部13が露出した内表面の全面又は一部が、この励起光19を反射または散乱させる加工が施されている。
【0014】
これにより、導光部13を通過した励起光19は、光電子増倍管21の受光面22に高効率で入射することになる。なお、記載を省略するが、励起光19の受光面22への入射効率をさらに高めるために、公知の部材をケース17の内表面や内部空間16に配置してもよい。
【0015】
遮光部11は、検出面15の最表面に位置し、外光を反射してケース17の内部空間16に侵入するのを防止するが、電離性放射線18(β線)は通過させる。そして、シンチレータ12から外側に向かう励起光19を反射して導光部13に向かわせて外部に漏れないようにするものである。
【0016】
そのため、遮光部11は、シンチレータ12内で発生した励起光19(図3)の全てが導光部13を通過するように、光を透過させずかつ高反射率の材質で構成されている。具体的に遮光部11は、シート状のビニールの両面に真空蒸着法によってアルミニウムを成膜したシートやそれらを複数枚重ねたシートなどである。
【0017】
シンチレータ12は、電離性放射線18(β線)が入射すると、このシンチレータ12の内部でβ線が失ったエネルギー量に比例した数の400nm程度の波長の励起光19(図3)を発生するものである。
このシンチレータ12として、例えば、スチレンやトルエンなどの有機溶剤に蛍光体(アントラセン、スチルベンゼンなど)を溶解して高分子化(ポリスチレン、ポリビニルトルエンなど)したプラスチックシンチレータ等が挙げられる。
【0018】
このプラスチックシンチレータによれば、薄膜の大面積化や長尺形状などへの成形加工が容易であるばかりでなく、軽量かつ柔軟性を有することで耐衝撃性に優れ、かつ低コストで入手が容易であるといった利点を有する。さらに、材料の比重が小さくγ線感度が低いことから、β線を対象とした放射線測定において検出感度が高いといった特性を有している。
【0019】
なお、シンチレータ12を大面積化することにより、検出面15に入射する電離性放射線18の量が増大し、その検出感度の向上に寄与することになる。
【0020】
光電子増倍管21は、受光面22に入射した励起光19(図3)を増倍して、電気信号(電圧値)に変換し、検出面15に入射した電離性放射線18(β線)を計数するものである。なお、導光部13を通過した励起光19は、ケース17の内部空間16において様々な方向へ反射を繰り返すので、この反射の回数が少ないうちに受光面22に入射することが検出感度を向上させる観点から望まれる。このように、良好な検出感度が得られるように配置される光電子増倍管21の数や位置を調整する必要がある。
【0021】
第1実施形態において光電子増倍管21は、全体がケース17の内部空間16に収容されている。これにより、省ペースのシンチレーション検出器10を実現することができる。また、第1実施形態においては、複数の光電子増倍管21が配置されており、これら複数による計数値の総和が電離性放射線18の計測値となる。このように光電子増倍管21を複数設けることにより、内部空間16における励起光19の反射回数が低減し、電離性放射線18の高感度測定に寄与する。
【0022】
導光部13は、図3に示すように、シンチレータ12に対し、遮光部11とは反対側に配置され、励起光19に対して透明性の高い例えばアクリル樹脂からなるものである。また、この導光部13は、検出面15の機械的強度を確保する役割も果たし、その上面に配置される遮光部11及びシンチレータ12を支持している。
【0023】
この導光部13の内部に入射した励起光19は、進行方向の界面に交わる角度が臨界角θcよりも小さい場合は、この界面を通過して内部空間16に飛び込む。
しかし、図3(A)に示すように、進行方向の界面に交わる角度が臨界角θc以上である場合、励起光19はこの界面を全反射する。そして、この界面を全反射した励起光19は、反対側の界面においても全反射し、このような全反射を繰り返して導光部13の内部を伝播する。
【0024】
一方において、図3(B)に示すように、微細構造層14が設けられている導光部13の界面では、励起光19の進行方向が界面に臨界角θcよりも大きい角度で交わったとしても、この界面を通過して内部空間16に飛び込むことができる。
これにより、図3(A)に示すように、微細構造層14が未形成の部位において、臨界角θc以上の角度の方向に進行する励起光19は、導光部13の内部で全反射を繰り返し、図3(B)に示される微細構造層14が設けられている部位において、内部空間16に飛び込むことになる。
【0025】
微細構造層14は、図1及び図2に示すように、受光面22又はその延長面の手前から導光部13に向かって下ろした垂線Hの足が、導光部13に占める領域の重心点Gとなるように設けられている。
これにより、導光部13の内部を全反射を繰り返して伝播する励起光19の多くは、光電子増倍管21の受光面22の手前近傍に飛び込むこととなる。
【0026】
このように、励起光19の多くが受光面22の手前近傍に飛び込むことにより、直接的に受光面22に受光される励起光19が増加するとともに、間接的に受光される場合であっても内部空間16における反射回数を低減させることができる。
【0027】
微細構造層14は、導光部13の表面に複数の球面体(図3)、尖端体(図4(A))、又は矩形体(図4(B)(C))及びこれらの組み合わせ(図4(D))の要素14a(14b)が配列して構成される。しかし、これら要素14aの形状は特に限定されない。
ここで、尖端体とは、例えば、円錐形、三角錐(又は多角錐)といった形状であり、矩形体とは、断面形状が略台形であるようなものをいう。
【0028】
微細構造層14の要素14aは、外径が1〜100μmの範囲に含まれる。そして、一定のピッチ間隔で周期的に配置されるか、もしくは、このピッチ間隔をランダムにしたり、二種以上の周期パターンにしたりすることができる。このピッチ間隔は、微細構造層14の要素14aの外径以上で1cm以下の範囲に含まれる。
【0029】
また、微細構造層14の要素14aは、受光面22又はその延長面の手前から導光部13に向かって下ろした垂線の足を中心に密に、この中心から離れるに従い疎に配置させることができる。
これにより、励起光19を光電子増倍管21の受光面22の近傍に効率的に集光させることができる。これによって、受光面22に受光される励起光19の割合が増えて電離性放射線の感度向上に寄与することになる。
【0030】
このような微細構造層14の要素14aの形状並びに配置パターンは、コンピュータシミュレーションを使用して最適値を導くことができる。
このコンピュータシミュレーションでは、ユーザ定義によるシンチレーション検出器10の内部の幾何学的形状、構成物の配置及び材質等に起因する光学的性質を表す数値を使用する。そして、加工形状パラメータの値を様々に変化させ、シンチレータ12の任意の位置における励起光19の進行方向、ユーザ定義による波長、及び反射面で吸収される励起光19の確率に基づいて、光電子増倍管21の受光面22に入射する励起光19の割合を求め、この割合が最大となる加工形状パラメータを採用する。
【0031】
構成物の材質等に起因する光学的性質の例としては、光を材料が吸収する吸収率、光の反射方向を表わす確率分布などが挙げられる。構成物の例としては、ケース17、光電子増倍管21等がある。
【0032】
ユーザ定義値は、検出器で実測することによって求めても良い。効率的に加工形状のパラメータを変化させるために、GA(ジェネティックアルゴリズム)やシミュレーティッドアーリングなどの既存の最適化手法を用いてもよい。
【0033】
加工形状パラメータの一例としては、N点の加工中心点の配置パターンを、座標面でシミュレートしたり、1点の加工中心点に対する形状をシミュレートしたりする。このとき、加工中心点の座標面上の配置は、周期的な間隔を有する場合も、ランダムである場合もどちらも考慮される。
【0034】
微細構造層14は、導光部13の表面を直接的にエッチング、コーティング、スタンピング、グラインディング、レーザ加工といった処理により形成される。
エッチングとは、腐食剤により導光部13の表面を粗面に仕上げることであり、コーティングとは、塗料を塗布して乾燥させて被膜を形成させることであり、スタンピングとは、反転形状に加工した金型を導光部13の表面に押し当てる方法であり、グラインディングとは研磨材により導光部13の表面を粗面に仕上げることであり、レーザ加工とはレーザビームを走査することでパターンを形成する方法である。
【0035】
また、微細構造層14は、図3(C)に示すように、導光部13とは別体で作成されたシート状のものをこの導光部13の表面に貼付して形成してもよい。
これにより、製造工程の簡略化が図れる。なお、そのようなシートの作成方法は、導光部13の表面に微細構造層14を直接形成する場合に前述した方法を、そのまま適用することができる。
【0036】
また、微細構造層14は、図3(D)に示すように、導光部13よりも屈折率の高い部材で形成させる場合がある。
この場合は、導光部13を通過した励起光19の内部空間16における進行方向が、より鋭角となって、この励起光19を光電子増倍管21の受光面22の近傍に集光させることができる。これによって、受光面22に受光される励起光19の割合が増えて電離性放射線の感度向上に寄与することになる。
【0037】
(第2実施形態)
次に図5、図6を参照して本発明における第2実施形態について説明する。なお、図5、図6において図1と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、すでにした記載を援用して、詳細な説明を省略する。
【0038】
第2実施形態のシンチレーション検出器10は、受光面22に受光される励起光19の割合を増加させるために光電子増倍管21のレイアウトを変更したものである。この場合、受光面22は、内部空間16に配置されるが、光電子増倍管21の本体部分は外部に位置することになる。
そして、このような光電子増倍管21の配置に対応して、導光部13に配置される微細構造層14も、分割して配置されることになる。
【0039】
なお、この第2実施形態において、光電子増倍管21は、ケース17の側壁に貫通して二つの受光面22がそれぞれ対向するように配置したものを例示しているが、これに限定されるものではない。例えば、光電子増倍管21を、ケース17の底面に貫通させる場合もあるし、受光面22をケース17の側壁や底面に対して傾斜するように配置する場合も含まれる。
【0040】
本発明では、シンチレーション検出器10の検出面15を広くすることにより、電離性放射線18の入射量を増やすことができる。そして、シンチレータ12における励起光19の発生を増やすことができる。
【0041】
さらにケース17の内部空間16に露出する導光部13の表面に設けられる微細構造層14から、導光部13を伝播する励起光19が光電子増倍管21の受光面22に導かれる。これにより、導光部13の内部で全反射を繰り返して減衰・吸収されてしまう励起光19のうち受光面22に入射する割合が増え、電離性放射線18を高感度で測定することが可能になる。
【0042】
本発明は前記した実施形態に限定されるものでなく、共通する技術思想の範囲内において、適宜変形して実施することができる。例えば、導光部13に設けられる微細構造層14の領域は、図示した態様に限定されるものではなく、光電子増倍管21の受光面22に入射する励起光19の割合が最大となるように、適宜設定されるものである。また、この微細構造層14が、ケース17の内部空間16に露出する導光部13の全面に設けられる場合もある。
【符号の説明】
【0043】
10…シンチレーション検出器、11…遮光部、12…シンチレータ、13…導光部、14…微細構造層、14a(14b)…要素、15…検出面、16…内部空間、17…ケース、18…電離性放射線、19…励起光、21…光電子増倍管、22…受光面、G…重心点、H…垂線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮光部を通過した電離性放射線が入射すると励起光を発生するシンチレータと、
前記シンチレータを支持するとともに前記励起光を通過させる導光部と、
前記導光部を通過した前記励起光を受光面に入射させ電気信号に変換する光電子増倍管と、
前記導光部とともに形成する内部空間に少なくとも前記受光面を収容するケースと、
前記内部空間に露出する前記導光部の表面の一部又は全面に設けられる微細構造層と、を備えることを特徴とするシンチレーション検出器。
【請求項2】
前記微細構造層は、前記受光面又はその延長面の手前から前記導光部に向かって下ろした垂線の足が前記導光部に占める領域の重心点となるように設けられることを特徴とする請求項1に記載のシンチレーション検出器。
【請求項3】
前記微細構造層の要素は、前記受光面又はその延長面の手前から前記導光部に向かって下ろした垂線の足を中心に密に、この中心から離れるに従い疎に配置されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシンチレーション検出器。
【請求項4】
前記微細構造層は、前記導光部の表面に複数の球面体、尖端体、又は矩形体の要素が配列してなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシンチレーション検出器。
【請求項5】
前記微細構造層は、ランダムパターン、又は少なくとも1つ以上の周期パターンにより要素を配列させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のシンチレーション検出器。
【請求項6】
前記微細構造層は、前記導光部とは別体で作成されたものをこの導光部の表面に貼付してなることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のシンチレーション検出器。
【請求項7】
前記微細構造層は、前記導光部よりも屈折率の高い部材から形成されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のシンチレーション検出器。
【請求項8】
前記微細構造層は、エッチング、コーティング、スタンピング、グラインディング、レーザ加工のうちいずれかの処理により形成されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のシンチレーション検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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