説明

シンボル同期捕捉システム及びその方法

【解決課題】 低C/N環境下においても、また突発的な外乱を含みうる通信路環境下においても、安定して高速・高精度なシンボルの同期捕捉と同期追従を行うことを可能としたシンボル同期捕捉システムを得る。
【解決手段】 ディジタル変調された入力系列のシンボルクロックをPLL回路を用いて同期捕捉するシンボル同期捕捉システムにおいて、入力系列の特徴量系列を算出する手段と、最初のNサンプル(Nは2以上の整数)の特徴量系列をFFT処理する手段71と、このFFT処理結果に基づいてスペクトル最大成分を探索する手段72と、FFT処理結果に基づいて第N/2サンプルの時刻におけるシンボルクロックの位相推定をなす手段73とを含み、このスペクトル最大成分の周波数と位相推定値とをPPLL回路の初期設定値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシンボル同期捕捉システム及びその方法に関し、特に無線通信システム等に用いられるディジタル復調器におけるシンボル同期捕捉システム及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日の一般的なディジタル通信システムにおける復調器においては、受信信号それ自体の構成的な特徴を利用しつつ、受信信号の時系列における各シンボルの生起時刻を推定し、抽出されたシンボル列から復調を行う。シンボル時刻の推定は、各シンボルが等しい時間間隔で送信されることから、一定周期で反復されるシンボル抽出タイミングを、受信信号の変調形式に依存して定まる特徴量の系列に含まれる、シンボル送信周期に対応するシンボルクロック成分に同期させることにより行われる。通常、ディジタル通信のシンボル同期とはこのことを指すものである。
【0003】
この特徴量の時系列として何が最適であるかは、ディジタル通信の変調形式によって、また通信路や通信機器に関して想定される状況によって、それぞれ異なるものの、基本的には、変調形式によって予め(つまり、復調開始以前に)決定される。例えば、位相変移(PSK)変調では、特徴量の時系列として、受信信号の振幅成分もしくは振幅成分の二乗値(電力)の時系列が用いられることが多い。
【0004】
いずれにせよ、こうした状況下におけるシンボル同期の達成は、当該特徴量の時系列におけるシンボルクロック成分の周波数と各時刻におけるその位相とを、高精度で推定することの達成に帰着される。
【0005】
しかしながら、現実的には、どのような状況においてもシンボルクロックは様々な要因によって揺らぐものであるから、シンボル同期の追従機構においては適応的な制御が必要であり、シンボル同期機構の動作が安定に保たれることは、復調性能を左右する最も重要な事項の一つとなっている。
【0006】
この目的を達成する方法としては、従来より種々考案されているが、多くはPLL(Phase Locked Loop)回路による逐次的な位相制御を基礎としている。
【0007】
図8に、一般的なディジタル復調器の一例のブロック図を示しており、このディジタル復調器に使用されるシンボル抽出のためのシンボル同期捕捉及び追従機能のための一構成例を示している。
【0008】
図8において、受信信号は、周波数シフト回路1から、リサンプラ2及びベースバンド復調回路3を経て、整合フィルタ4までの過程を通ることによりベースバンドの復調信号となる。なお、これら各部1〜4の詳細は、本発明と共通するので、後述する図1,2の説明において述べるものとする。
【0009】
このベースバンド復調信号はシンボル抽出回路10の入力となる一方、特徴量系列算出回路6を経て、シンボル抽出回路10におけるシンボル抽出用のシンボル同期機能部に入力される。このシンボル同期機能部は、シンボル同期捕捉・追従回路15とクロック生成回路9とにより構成されており、シンボル同期捕捉・追従回路15とクロック生成回路9との具体例が、図9のPLL構成となっており後述する。
【0010】
シンボル抽出回路10は、クロック生成回路9から出力されるシンボル抽出シグナル(パルス)が生起する毎に、ベースバンド信号をサンプルし、シンボル系列とする。このシンボル系列は、キャリア同期回路11とシンボル判定回路12とを経て復調結果として出力される。
【0011】
シンボル同期捕捉・追従回路15は、ベースバンド信号の特徴量系列とクロック生成回路9で生成される複素正弦波信号との系列相関をとって、両者の位相差を求め、この値をフィードバックしてクロック生成回路9の周波数と位相を補正するようになっている。
【0012】
図9は、図8におけるクロック生成回路9と、シンボル同期捕捉・追従回路15との具体例を示している。特徴系列算出回路6からの特徴量系列は、乗算器81を経て指数重み付き積分回路へ入力される。この指数重み付き積分回路は、周知の構成であり、加算器82と、遅延器83と、指数重み係数器84とにより構成されており、前シンボルの特徴系列との重み付き積分が行われて、位相算出回路85へ入力される。
【0013】
位相算出回路85による算出結果に基づいて、複素正弦波オシレータ91の位相補正及び周波数補正が、バッファ86,87を介してなされるようになっている。このオシレータ91の出力が乗算器81にフィードバックされると共に、シンボル・タイミング判定回路92へ入力されてシンボル抽出シグナルとして導出され、シンボル抽出回路10へ供給されるのである。
【0014】
なお、関連技術として下記の文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002−314505号公報
【特許文献2】特開2007−027987号公報
【特許文献3】特開2010−226348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
近年、ハードウェアの進歩によりディジタル計算機のプログラム論理を用いたソフトウェア復調器が実用化されている。ソフトウェア復調器は従来のアナログ電子回路を用いた復調器と比較して相対的に小規模な回路構成で実現可能であり、また、その性能が安定していることなどが利点となっている。
【0017】
しかしながら、既存のソフトウェア復調器の構成は、アナログ電子回路の機能と動作をそのままディジタル計算機のプログラム論理に置き換えた、すなわち理論的な等価物の実現であり、従来方式に対して本質的な性能向上をもたらすものではない。
【0018】
回路の動作に関する理想的な条件を仮定した場合、アナログ電子回路による復調器で復調できない信号は、理論的に等価なソフトウェア復調器においても当然復調できない。あるいは低C/N環境下の復調におけるシンボル同期の捕捉および追従において、通信路の定常雑音ないし突発的な外乱等の影響を遮断・逓減するうえで本質的な性能向上をもたらすものではない。
【0019】
従来のアナログ電子回路による復調器における受信信号のシンボル同期回路では、上述したように、PLL回路などの位相制御回路が用いられている。よって、その理論的な等価物であるソフトウェア復調器では、本来が電子回路であるPLL回路の動作を計算機のプログラム論理に置き換えたものが用いられる。
【0020】
一般に、PLL回路による位相制御では、目的に関して互いに相反する二つの性能指標が存在する。PLL回路を用いたシンボル同期においても、それらの指標はそのまま反映される。すなわち、PLL回路を構成するフィルタ(以下、PLLフィルタと称す)の特性から決定されるシンボルクロック(周波数)の引き込み性能と追従範囲性能が、その二つである。
【0021】
これら二つの性能指標は互いに背反する関係にあり、従って、PLL回路による位相制御を行う限り、シンボル同期の実現においては、次のような問題が生じることが避けられない。シンボルクロックの引き込み性能、つまりシンボルクロックに正確に同期させるためには、PLLフィルタは、ほぼシンボルクロックの周波数成分だけを抽出するような鋭敏な特性を持つ必要がある。このことは直ちにPLL回路が追従する周波数範囲を狭めてしまうことを意味する。
【0022】
つまり、PLLフィルタ特性が鋭敏になるほど、同期そのものは正確になる一方で、通信路の突発的な外乱などによる変動に対しては、その情報がフィルタでそぎ落とされてしまうため追従できなくなる。つまり、同期が脆くなってしまう。
【0023】
逆に、そうした変動にも柔軟に追従させるためには、PLLフィルタ特性はより広い実効的な台(この台の幅が追従範囲となる)をもつ必要がある。そのようなフィルタは、当然に、シンボルクロック以外の雑音成分をより多く拾ってしまう。この雑音成分は、復調器のシンボル(抽出)タイミングにおけるジッタ(揺れ)となって現れ、ひいてはシンボル判定時のS/N比低下、すなわちビット誤り率の悪化をもたらす。
【0024】
従って、従来のPLL回路によるシンボル同期方式をそのまま用いたソフトウェア復調では、安定した復調性能を得ようとした場合、アナログ電子回路による復調器とまったく同様に、初期同期補足速度、一定のC/N値以下の環境での復調性能とシンボルジッタへの対応性能がPLLフィルタ特性により決定される。
【0025】
これら相反する二つの性能指標に関して、復調器全体の性能を最適化することは、一般に、理論的には困難か不可能であって、現実的な環境下での試行錯誤を要し、その送受信環境下における最適なフィルタ特性が決定されることになる。このことは、ソフトウェア復調器の利点であるはずの、信号状況に応じた可変的構成の実現可能性を損なうことにもつながっている。
【0026】
なお、特許文献1には、送信すべき信号以外のパイロットトーンを用いたシンボル同期方法において、粗調整を行った後に微調整を行うに際して、サンプルデータのFFT処理結果に基づいてパイロットトーンの位相情報を取得して微調整を行う技術が開示されている。
【0027】
この技術では、FFT処理結果を、微調整時のパイロットトーンの位相情報を取得するのに使用しているものであって、後述するように、本発明の如く、送信すべきディジタル変調された入力信号系列に中に存在するシンボルクロックを抽出するためのPLL回路の初期設定に用いるものではない。
【0028】
本発明の目的は、低C/N環境下においても、また、突発的な外乱を含みうる通信路環境下においても、安定して高速・高精度なシンボルの同期捕捉と同期追従を行うことを可能としたシンボル同期捕捉システム及びその方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明によるシンボル同期捕捉システムは、
ディジタル変調された入力系列のシンボルクロックをPLL回路を用いて同期捕捉するシンボル同期捕捉システムであって、
前記入力系列の特徴量系列を算出する手段と、
最初のNサンプル(Nは2以上の整数)の前記特徴量系列をFFT処理する手段と、
このFFT処理結果に基づいてスペクトル最大成分を探索する手段と、
前記FFT処理結果に基づいて第N/2サンプルの時刻におけるシンボルクロックの位相推定をなす手段とを含み、
前記スペクトル最大成分の周波数と前記位相推定による位相推定値とを前記PLL回路の初期設定値とすることを特徴とする。
【0030】
本発明によるシンボル同期捕捉方法は、
ディジタル変調された入力系列のシンボルクロックをPLL回路を用いて同期捕捉するシンボル同期捕捉方法であって、
前記入力系列の特徴量系列を算出するステップと、
最初のNサンプル(Nは2以上の整数)の前記特徴量系列をFFT処理するステップと、
このFFT処理結果に基づいてスペクトル最大成分を探索するステップと、
前記FFT処理結果に基づいて第N/2サンプルの時刻におけるシンボルクロックの位相推定をなすステップと、
前記スペクトル最大成分の周波数と前記位相推定による位相推定値とを前記PLL回路の初期設値とするステップとを含むことを特徴とする。
【0031】
本発明によるプログラムは、
ディジタル変調された入力系列のシンボルクロックをPLL回路を用いて同期捕捉するシンボル同期捕捉方法をコンピュータにより実行させるためのプログラムであって、
前記入力系列の特徴量系列を算出する処理と、
最初のNサンプル(Nは2以上の整数)の前記特徴量系列をFFT処理する処理と、
このFFT処理結果に基づいてスペクトル最大成分を探索する処理と、
前記FFT処理結果に基づいて第N/2サンプルの時刻におけるシンボルクロックの位相推定をなす処理と、
前記スペクトル最大成分の周波数と前記位相推定による位相推定値とを前記PLL回路の初期設定値とする処理とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、受信信号に陰伏しているシンボルクロック成分の周波数と位相とを、高速フーリエ変換による精密推定を行うことによって実現するようにしたので、特定のサンプリング周波数によるサンプリング系列で表現される周波数成分の全帯域に亘って、個々の周波数成分の全てについて、その強度と位相を、実用上、瞬時かつ同時に算出することができるという効果がある。これにより、シンボル同期の捕捉周波数範囲を可能な最大限まで拡大することが可能となって、低C/Nの受信信号についても同期補足が可能となる。
【0033】
また、シンボルクロック成分の周波数が(ごく微小な揺動を除いて)一定であるという条件のもとで、高速フーリエ変換の対象期間(入力サンプル数)を任意に延長することによって、突発的な外乱により受信信号中のシンボルクロック成分の喪失を補間することで、同期追従を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明によるシンボル同期捕捉回路の一実施の形態を適用した受信側の機能ブロック図である。
【図2】図1の受信側に対応する送信側の概略機能ブロック図である。
【図3】図1の特徴量系列算出回路6の具体例を示す図である。
【図4】本発明によるシンボル同期捕捉回路7の一実施の形態の機能ブロック図を、図1の同期追従回路8及びクロック生成回路9との関係において示したものである。
【図5】特徴量時系列(振幅二乗値)のパワースペクトルの例を示す図である。
【図6】図1の同期追従回路8とクロック生成回路9とによるPLL回路の機能ブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態における動作の概要を示すフローチャートである。
【図8】本発明に関連する受信側の機能ブロック図である。
【図9】図8におけるクロック生成回路9とシンボル同期捕捉・追従回路15とによるPLL回路の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は本発明によるシンボル同期捕捉回路の一実施の形態を適用した受信側の機能ブロック図であり、図において図8と同等部分には同一符号を付して示している。なお、図1に示した例は、位相変移(PSK:Phase Shift Keying)変調された信号の復調器に適用した例である。
【0036】
図2は、図1における入力信号であるPSK変調信号のモデルを、送信側での信号生成(変調器)の過程と共に説明するためのものであり、先ず図2を参照してPSK変調信号のモデルを説明する。入力ビット列は、1シンボルあたりビット数をnとすると(nは2以上整数)、ビット分割回路21により、nビット毎に分割されて数値(シンボル値)系列となる。
【0037】
この系列の各シンボル値は、シンボル変換回路22において、対応する複素シンボルに変換された後、アップサンプラ23によりシンボル周期にアップ・サンプリングされた上で、シンボルパルス整形のためのフィルタ(整形フィルタ)24が適用されて、ベースバンド信号となる。これに、乗算器25において搬送波(26)が乗算されて変調波として送信されるようになっている。
【0038】
かかるPSK変調信号の受信側での復調は、上記の図2の変調過程を逆にたどることになる。図1において、先ず、周波数シフト回路1は、受信信号全体を搬送波周波数の逆方向へ周波数シフトし、当該信号をベースバンド(中心周波数0)に合わせる役目を有する。
【0039】
次に、入力系列をリサンプラ2によりリサンプリングしてシンボル時間あたりサンプル数を一定にする。これは、シンボル同期の動作特性を決定するパラメータが、シンボルあたりサンプル数に依存するためである。シンボルあたりサンプル数をほぼ一定とすることで、シンボル同期の特性は搬送波帯域やシンボルレートに依存しなくなる。
【0040】
そして、ベースバンド復調回路3は、リサンプラ2の出力をベースバンド信号に復調する。次段の整合フィルタ4は、図2の変調側の整形フィルタ24と同一の特性を持つフィルタである。ベースバンド信号にこの整合フィルタ4を適用することは、整形フィルタ24で整形されたシンボルパルスとの系列相関をとることを意味しており、この相関値はシンボル時刻において最大となる。
【0041】
受信信号に含まれる(伝送路上で加わる)雑音が加法的白色Gaussian雑音であるという前提に立てば、この時刻(シンボル時刻)に抽出されたシンボルの誤り率(残差の分散)は理論上最小となる。
【0042】
整合フィルタ4の出力は、遅延回路5とシンボルクロック検出回路13内の特徴量(電力)系列算出回路6とにそれぞれ送られる。遅延回路5は、シンボル同期捕捉回路7における高速フーリエ変換(FFT)で使用するサンプル数をN(2以上の整数)とした場合において、N/2サンプルに相当する遅延が設定される。
【0043】
遅延回路5の出力は、シンボル抽出回路10、キャリア同期回路11、シンボル判定回路12を、この順に経ることにより、復調結果として導出されるものである。なお、本実施の形態では、受信信号として搬送波をディジタル変調して得られた被変調波の復調に適用した例であり、受信信号を復調した結果の(硬または軟)ビット列を出力するものとする。
【0044】
シンボルクロック検出回路13は、特徴量(電力)系列算出回路6と、シンボル同期捕捉回路7と、同期追従回路8と、クロック生成回路9とを含んでいる。特徴量(電力)系列算出回路6は、入力信号がPSK変調信号の場合には、シンボル同期の特徴量系列は、一般に、
電力系列P[k]=I[k]の2乗+Q[k]の2乗 ……(1)
(但し、kはサンプル番号、I[k]は整合フィルタ出力の複素系列の同相成分、Q[k]は同じく直交成分を表す)が用いられる。
【0045】
図3は、この場合における特徴量(電力)系列算出回路6の例を、周辺部と共に示している。図3において、整合フィルタ4からの直接の出力(複素)は、乗算器61,62と、加算器63とからなる演算回路により、上記(1)式の電力系列が得られる。この電力系列はシンボル同期捕捉回路7へ入力される。
【0046】
また、整合フィルタ4の出力(複素)の遅延回路5を経た出力は、乗算器6465と、加算器66とからなる演算回路により、同様に上記(1)式の電力系列が得られる。この電力系列は同期追従回路8へ入力される。
【0047】
図4は、シンボル同期捕捉回路7のより詳しい構成を、同期追従回路8とクロック生成回路9との関連で示している。特徴量(電力)系列の最初のNサンプルが、FFT回路7で高速フーリエ変換される。このFFT回路7による高速フーリエ変換の結果は、各周波数成分の複素係数ベクトルであり、係数の各々からは周波数成分のスペクトルを振幅の2乗値として得ることができる。
【0048】
この結果を適当な範囲で探索すれば、スペクトルの最大値を与える周波数成分をシンボルクロック周波数の精密な推定値とすることができる。よって、FFT結果を入力とするスペクトル最大成分探索回路72が設けられている。
【0049】
また、この周波数をfclock とすると、fclock のフーリエ係数aclock の位相成分は第N/2サンプルの時刻におけるシンボルクロックの位相の推定値となる。よって、スペクトル最大成分の位相算出回路73が設けられているのである。
【0050】
こうして求めたシンボルクロック周波数と第N/2サンプルにおけるシンボルクロックの位相の推定値とを、同期追従回路8及びクロック生成回路9によるPLL回路のクロック生成のための初期値として設定することにより、以後の追従動作は、シンボル同期が達成(捕捉)された状態から開始されることになるのである。
【0051】
図5は、サンプリング周波数10MHz、シンボル速度1Mシンボル/秒として4値位相変移(QPSK)変調された信号の特徴量時系列,すなわち振幅二乗値の時系列のパワー・スペクトル(フーリエ変換後の係数ベクトルの各成分の振幅二乗値を、各成分に対応する周波数値に沿ってdB表示した系列)である。シンボル速度に対応する±1MHzの位置に、シンボルクロックの周波数成分が強く現れている。
【0052】
振幅二乗値系列は実数系列であるから、スペクトラムは左右対称となり、従って、正負いずれかの側でスペクトルの最大値を与える周波数成分を所与の範囲で線形探索することがシンボルクロック周波数推定となる。このようにして求めたシンボルクロック周波数と初期位相とを、シンボル同期追従(追従回路8)のPLL回路の初期状態として設定する。
【0053】
以後、図1のクロック生成回路9が特定の状態(生成される単周期信号の位相)をとる時刻を捉えてシンボルタイミングとする。シンボルタイミングによるシンボル抽出シグナルはクロック周期毎に生成され、シンボル抽出10は、シグナルが生起した時刻の信号状態を複素値としてサンプリングしてシンボル列を再生(抽出)する。
【0054】
シンボルタイミングの同期追従は、通常のPLL回路を用いて図6のように構成される(図9のPLL回路の例と同等である)。同期追従回路8は、特徴量系列とシンボルクロックの指数重みつき系列相関、すなわち特徴量系列におけるシンボルクロック周波数成分のフーリエ係数を逐次的に求め、その位相成分から検出される位相誤差とその時間変化とを、クロック生成回路9にフィードバックすることで達成される。なお、図6は図9と同等であるので、その詳細な説明は省略する。
【0055】
このクロック生成回路9によるシンボル抽出シグナルは、シンボル抽出回路10へ供給され、このシンボル抽出回路10で抽出されたシンボル列は、キャリア同期回路11によって搬送波周波数と位相の設定誤差および揺動が補正される。補正後のシンボル列は、シンボル判定回路12で、各シンボルの位相成分を対応するビット列へ変換(直接0/1のビット値への変換を行う硬判定、もしくはビット値の推定を意味する実数値への変換を行う軟判定)され、この結果が復調結果として出力される。
【0056】
図7は、上述した本発明の実施の形態の動作の概略を示すフローチャートである。先ず、特徴量系列算出回路6により、PSK変調された受信信号の特徴量(電力)系列が算出され(ステップS1)、次にFFT回路71により、この特徴量系列の最初のNサンプルがFFT処理される(ステップS2)。このFFT処理結果を基に、スペクトル最大成分検索回路72によりスペクトル最大成分の検索が行われ(ステップS3)、また、位相算出回路73により、第N/2サンプルの時刻におけるシンボルクロックの位相が算出される((ステップS4)。この場合、前述したように、スペクトル最大成分の周波数のフーリエ係数の位相成分が、第N/2サンプルの時刻におけるシンボルクロックの位相と推定される。
【0057】
ステップS3で検索されたスペクトル最大成分の周波数が、同期追従回路8及びクロック生成回路9によるPLL回路の初期周波数として設定され(ステップS5)、またステップS4で推定された位相推定値が、当該PLL回路の初期位相として設定されることになる(ステップS6)。PLL回路はこの初期設定の後に追従動作を開始して、以後追従を続けるのである(ステップS7)。
【0058】
以上のように、本発明では、一定量の特徴量系列のデータからシンボルクロック周波数とそれに対応する各時刻の位相の推定値を、直接的かつ一挙に、全て算出することができる。すなわち、シンボル同期の捕捉機構において、高速フーリエ変換を利用して直接的なシンボルクロック周波数およびそれに対応する各時刻の位相の推定値算出を行い、これを同期追従機構のPLL回路の初期状態に反映させるようにしている。
【0059】
更には、同期追従においても、一定量の特徴量系列からシンボルクロックを抽出することにより、突発的な外乱などによるシンボルクロックの喪失などが発生しても、適切なシンボルクロックの指数重み付き系列相関を選択することで安定的に動作することが可能となる。
【0060】
よって、本発明によれば、シンボル同期捕捉可能な周波数範囲を理論上最大(受信信号の全帯域)とすることができる。捕捉の精度と対応可能なC/Nは、単にFFT(高速フーリエ変換)の入力サンプル数によって定まり、PLL回路を用いる場合のような試行錯誤は不要である。
【0061】
また、復調器の構成としても、捕捉と追従の両機能が互いに独立しているために、シンボル同期追従の最適化は、追従という目的に限って行うことが可能になる。追従においても、調整すべきパラメータは、PLL回路の指数重み付き相関積分の実効的な長さを定める指数重み(減衰)係数だけでよく、PLL係数を細かく調整することなどは不要になる。
【0062】
なお、図1のブロック図において、ベースバンド復調回路3は、周波数変移(FSK)変調の場合にはFM検波方式であり、振幅変移(ASK)変調の場合には包絡線検波であり、位相変移(PSK)変調ないしは直交振幅変調(QAM)の場合には特になしとなる。
【0063】
また、図1のブロック図において、整合フィルタ4の特性は、シンボルパルスの時間特性によって異なり得るものである。更に、特徴量は、変調形式によって、また想定される通信状況によっても異なり得るものであり、例えば、オフセットQPSKでは、複素差分の絶対値を用いるものである。
【0064】
更にはまた、図1のブロック図において、キャリア同期回路11を必要とするのは、PSK、QAM、MSKなどで同期検波を行う場合のみであり、PSK変調で差動変調が行われている場合や、シンボル毎位相シフトが加えられている場合の処理をここで行うことがある。
【0065】
これらベースバンド復調回路3、整合フィルタ4、キャリア同期回路11などの詳細については、周知の技術であり、本発明とは直接関係しないので、詳述していない。
【0066】
本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、シンボル同期機構を必要とするディジタル通信一般に適用することができる。すなわち、(1)シンボルの信号パルスを、有限かつ一定の時間間隔(周期)で送受信する通信方式であり、また(2)受信信号それ自体からシンボルタイミングを推定する他に参照可能な情報が与えられない場合の全てに対して本発明を適用することが可能である。
【0067】
なお、上記の図7に示した処理は、その動作手順を予めプログラムとして記録媒体に格納しておき、これをコンピュータにより読み取らせて実行させるように構成できることは勿論である。
【符号の説明】
【0068】
1 周波数シフト回路
2 リサンプラ
3 ベースバンド復調回路
4 整合フィルタ
5 遅延回路
6 特徴量算系列出回路
7 シンボル同期捕捉回路
8 同期追従回路
9 クロック生成回路
10 シンボル抽出回路
11 キャリア同期回路
12 シンボル判定回路
13 シンボルクロック検出回路
71 FFT回路
72 スペクトル最大成分検索回路
73 スペクトル最大成分の位相算出回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディジタル変調された入力系列のシンボルクロックをPLL回路を用いて同期捕捉するシンボル同期捕捉システムであって、
前記入力系列の特徴量系列を算出する手段と、
最初のNサンプル(Nは2以上の整数)の前記特徴量系列をFFT処理する手段と、
このFFT処理結果に基づいてスペクトル最大成分を探索する手段と、
前記FFT処理結果に基づいて第N/2サンプルの時刻におけるシンボルクロックの位相推定をなす手段とを含み、
前記スペクトル最大成分の周波数と前記位相推定による位相推定値とを前記PPLL回路の初期設定値とすることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記PLL回路は、前記初期設定以降、前記特徴量系列に対して追従動作をなすことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記ディジタル変調は位相変移(PSK)変調であり、前記特徴量系列は、電力量系列であることを特徴とする請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記位相推定値は、前記スペクトル最大成分の周波数のフーリエ係数の位相成分であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のシステム。
【請求項5】
ディジタル変調された入力系列のシンボルクロックをPLL回路を用いて同期捕捉するシンボル同期捕捉方法であって、
前記入力系列の特徴量系列を算出するステップと、
最初のNサンプル(Nは2以上の整数)の前記特徴量系列をFFT処理するステップと、
このFFT処理結果に基づいてスペクトル最大成分を探索するステップと、
前記FFT処理結果に基づいて第N/2サンプルの時刻におけるシンボルクロックの位相推定をなすステップと、
前記スペクトル最大成分の周波数と前記位相推定による位相推定値とを前記PPLL回路の初期設定値とするステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記PLL回路は、前記初期設定以降、前記特徴量系列に対して追従動作をなすことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ディジタル変調は位相変移(PSK)変調であり、前記特徴量系列は、電力量系列であることを特徴とする請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記位相推定値は、前記スペクトル最大成分の周波数のフーリエ係数の位相成分であることを特徴とする請求項5〜7いずれかに記載の方法。
【請求項9】
ディジタル変調された入力系列のシンボルクロックをPLL回路を用いて同期捕捉するシンボル同期捕捉方法をコンピュータにより実行させるためのプログラムであって、
前記入力系列の特徴量系列を算出する処理と、
最初のNサンプル(Nは2以上の整数)の前記特徴量系列をFFT処理する処理と、
このFFT処理結果に基づいてスペクトル最大成分を探索する処理と、
前記FFT処理結果に基づいて第N/2サンプルの時刻におけるシンボルクロックの位相推定をなす処理と、
前記スペクトル最大成分の周波数と前記位相推定による位相推定値とを前記PPLL回路の初期設定とする処理とを含むことを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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