説明

シートサスペンション制御機構、磁気バネ、及び磁気ダンパ

【課題】 座り心地、乗り心地を向上させる。
【解決手段】第1及び第2の磁石ユニット30,40の対向する永久磁石の少なくとも一方31,41を面方向に沿って回転させ、対向する永久磁石同士の相対位置関係を変化させる磁石位置調整機構50を備えている。対向する永久磁石31,32又は41,42の磁極が、異極同士又は同極同士となるように調整することで、第1及び第2のアーム22,23に支持された可動側永久磁石24及び導体25が通過する際の減衰比が変化する。着座動作時や走行開始時において、例えば、所定時間、磁気バネを負のバネ定数が生じない範囲に調整し、磁気ダンパにおける減衰係数が小さくなるように設定しておけば、バネ感の強い座り心地となり、着座動作時の抜け感を抑制でき、走行開始時の違和感も抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両用のシートサスペンションの制御機構、磁気バネ、及び磁気ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、次のようなシートサスペンションが開示されている。車体フロアに取り付けられる下部フレームに対して上下動可能に設けられる上部フレームを磁気バネとトーションバーとにより弾性的に支持したもので、所定の変位範囲において磁気バネが負のバネ定数を有することを利用し、正のバネ定数を有するトーションバーを組み合わせることによって、全体のバネ定数を極めて小さく、好ましくは全体のバネ定数を実質的に略ゼロになる構成とし、この所定の変位範囲(平衡点付近)における略ゼロなるバネ定数と、所定の変位範囲外における数kg/mm〜10kg/mmの範囲で変化するバネ定数との組み合わせにより振動を吸収するものである。また、この構造に対し、さらに、磁石間に導体を通過させる磁束収束型の磁気回路によるうず電流を利用した磁気ダンパを組み合わせ、入力される振動の速度が大きい場合に、大きな減衰力を機能させる構造のものもある。
【0003】
【特許文献1】特開2003−320884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたものは、全体のバネ定数が極めて小さくなるため、振動による人体への負担を低減させることができるが、人体への振動の伝達が小さくなるということは、人体と車体が逆位相となり、車体を基準とした人体の変位が大きくなることを意味する。このため、特許文献1に開示されたものは、振動の影響は小さくなるものの、人体と車体との大きな相対変位から、感覚がそれに慣れるまでの間つまり走行開始時にそれが違和感として感じたり、あるいは、低周波、大振幅の振動が入力された際に違和感を感じさせたりする。また、着座して荷重(体重)がかかった際に、バネ定数が略ゼロになる範囲でつり合うように設定されているため、無負荷の状態から着座動作を行っていくと、平衡点で安定するまでの間では、抜け落ちるような感覚(抜け感)を感じる場合があると共に、着座動作時に平衡点以下まで至ってしまった場合には、平衡点位置に復帰させる調節手段が動作するため、それによる底付き感を感じる場合もある。また、走行時における振動等の外的刺激によっては、減衰比の小さい場合が快適に感じられたり、逆に、減衰比の大きい場合が快適に感じられたりする場合がある。しかるに、従来のシートサスペンションは一定のバネ定数で振動を吸収したり、振動の入力速度が速くなると減衰力が大きくなったりする構造であり、外的刺激の大きさ等に応じて調整することはできなかった。例えば、振動の入力速度が小さい低周波振動のときに減衰力を大きくしたり、振動の入力速度が速い高周波振動のときに減衰力を小さくしたりする調整は行うことができなかった。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、トーションバーやコイルスプリングなどの正のバネ定数を有するバネと負のバネ定数範囲を有する磁気バネとを組み合わせ、所定の変位範囲で全体のバネ定数が略ゼロになるように設定したシートサスペンションにおいて、着座動作時や走行開始時の違和感、あるいは、低周波、大振幅の入力振動に対する違和感を減衰力の調整により低減でき、また、高速走行時における高周波振動をバネ定数及び減衰力の調整による逆位相により低減し、さらに走行時における様々な入力周波数に対しては、該入力周波数に応じて減衰比を変化させて振動を減衰させることもでき、座り心地、乗り心地を向上させることができるシートサスペンション制御機構、磁気バネ、及び磁気ダンパを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明では、車体フロア側に取り付けられる第1の取り付け部材と、振動により、シートと共に車体フロアに対して相対変位する部材に取り付けられる第2の取り付け部材とを備えてなるシートサスペンション制御機構であって、
所定間隔をおいて対向して配設された一対の永久磁石を備えてなる磁石ユニットと、前記磁石ユニットの対向する永久磁石間で相対的に可動に配置される永久磁石を備えた動作部材とを有し、前記磁石ユニットの対向する永久磁石の少なくとも一方を面方向に沿って回転させ、対向する永久磁石同士の相対位置関係を調整してバネ定数を変化させる磁石位置調整機構を具備する磁気バネと、
所定間隔をおいて対向して配設された一対の永久磁石を備えてなる磁石ユニットと、前記磁石ユニットの対向する永久磁石間で相対的に可動に配置される非磁性体からなる導体を備えた動作部材とを有し、前記磁石ユニットの対向する永久磁石の少なくとも一方を面方向に沿って回転させ、対向する永久磁石同士の相対位置関係を調整して減衰係数を変化させる磁石位置調整機構を具備する磁気ダンパとを備えてなり、
前記第1の取り付け部材及び第2の取り付け部材のうちの一方に前記磁気バネの磁石ユニット及び前記磁気ダンパの磁石ユニットを、他方に前記磁気バネの動作部材及び前記磁気ダンパの動作部材をそれぞれ固定したことを特徴とするシートサスペンション制御機構を提供する。
請求項2記載の発明では、前記磁気バネは、永久磁石から構成される前記動作部材が、前記磁石位置調整機構により所定の相対位置関係で調整されている磁石ユニットの永久磁石間で動作する際、所定の変位範囲において負のバネ定数となる領域を備えており、
シートサスペンションに設けられる正のバネ定数を具備した弾性部材とにより、重畳したバネ定数が略ゼロに近づくように調整するものであることを特徴とする請求項1記載のシートサスペンション制御機構を提供する。
請求項3記載の発明では、シートサスペンション全体の減衰比を大きくする場合には、前記磁気バネの磁石位置調整機構により、該磁気バネの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、所定の変位範囲におけるバネ定数が負方向に最大になる相対位置関係となる方向に所定量回転させ、シートサスペンションに設けられる正のバネ定数を具備した弾性部材との重畳したバネ定数を略ゼロに近づけるように制御し、
シートサスペンション全体の減衰比を小さくする場合には、前記磁気バネの磁石位置調整機構により、該磁気バネの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、所定の変位範囲におけるバネ定数が負方向に最大になる相対位置関係から遠ざかる方向に所定量回転させ、シートサスペンションに設けられる正のバネ定数を具備した弾性部材との重畳したバネ定数を正方向に大きくするように制御することを特徴とする請求項1又は2記載のシートサスペンション制御機構を提供する。
請求項4記載の発明では、シートサスペンション全体の減衰比を大きくする場合には、前記磁気ダンパの磁石位置調整機構により、該磁気ダンパの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、減衰係数が最大になる相対位置関係となる方向に所定量回転させ、
シートサスペンション全体の減衰比を小さくする場合には、前記磁気ダンパの磁石位置調整機構により、該磁気ダンパの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、減衰係数が最小になる相対位置関係となる方向に所定量回転させることを特徴とする請求項1又は2記載のシートサスペンション制御機構を提供する。
請求項5記載の発明では、シートサスペンション全体の減衰比を大きくする場合には、前記磁気バネの磁石位置調整機構により、該磁気バネの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、所定の変位範囲におけるバネ定数が負方向に最大になる相対位置関係となる方向に所定量回転させ、シートサスペンションに設けられる正のバネ定数を具備した弾性部材との重畳したバネ定数を略ゼロに近づけるように制御すると共に、前記磁気ダンパの磁石位置調整機構により、該磁気ダンパの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、減衰係数が最大になる相対位置関係となる方向に回転させ、
シートサスペンション全体の減衰比を小さくする場合には、前記磁気バネの磁石位置調整機構により、該磁気バネの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、所定の変位範囲におけるバネ定数が負方向に最大になる相対位置関係から遠ざかる方向に所定量回転させ、シートサスペンションに設けられる正のバネ定数を具備した弾性部材との重畳したバネ定数を正方向に大きくするように制御すると共に、前記磁気ダンパの磁石位置調整機構により、該磁気ダンパの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、減衰係数が最小になる相対位置関係となる方向に調整することを特徴とする請求項1又は2記載のシートサスペンション制御機構を提供する。
請求項6記載の発明では、前記磁気バネを構成する磁石位置調整機構と前記磁気ダンパを構成する磁石位置調整機構とは、同じ回転駆動部により制御される構成であると共に、
前記磁気バネ及び磁気ダンパを構成するいずれか一方の組の磁石ユニットのいずれか一方の永久磁石に連結される第1のギア部材と、
前記いずれか他方の組の磁石ユニットのいずれか一方の永久磁石に連結される第2のギア部材と、
前記第1のギア部材と第2のギア部材とに噛み合う第3のギア部材と
を具備し、
前記回転駆動部を第1のギア部材、第2のギア部材及び第3のギア部材のうちのいずれかに連結し、該回転駆動部の駆動により、第1のギア部材と第2のギア部材が同期して回転する構成であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載のシートサスペンション制御機構を提供する。
請求項7記載の発明では、前記磁気バネを構成する磁石位置調整機構と前記磁気ダンパを構成する磁石位置調整機構とは、それぞれに設けられた回転駆動部により独立して制御され、
各回転駆動部は、前記磁気バネ及び磁気ダンパを構成するいずれか一方の組の磁石ユニットのいずれか一方の永久磁石と、前記いずれか他方の組の磁石ユニットのいずれか一方の永久磁石とに連結され、各組の永久磁石をそれぞれ単独で回転させて位置調整を行う構成であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載のシートサスペンション制御機構を提供する。
請求項8記載の発明では、前記磁石位置調整機構は、前記各磁石ユニットにおける少なくとも一方の永久磁石を、周期的に、ランダムに、又はカオティックに回転させるように設定されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載のシートサスペンション制御機構を提供する。
請求項9記載の発明では、所定間隔をおいて対向して配設された一対の永久磁石を備えてなる磁石ユニットと、前記磁石ユニットの対向する永久磁石間で相対的に可動に配置される永久磁石を備えた動作部材とを有する磁気バネであって、
前記磁石ユニットの対向する永久磁石の少なくとも一方を面方向に沿って回転させ、対向する永久磁石同士の相対位置関係を調整してバネ定数を変化させる磁石位置調整機構を具備することを特徴とする磁気バネを提供する。
請求項10記載の発明では、所定間隔をおいて対向して配設された一対の永久磁石を備えてなる磁石ユニットと、前記磁石ユニットの対向する永久磁石間で相対的に可動に配置される非磁性体からなる導体を備えた動作部材とを有する磁気ダンパであって、
前記磁石ユニットの対向する永久磁石の少なくとも一方を面方向に沿って回転させ、対向する永久磁石同士の相対位置関係を調整して減衰係数を変化させる磁石位置調整機構を具備することを特徴とする磁気ダンパを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、磁気バネ及び磁気ダンパを構成する各磁石ユニットの対向する永久磁石の少なくとも一方を面方向に沿って回転させ、対向する永久磁石同士の相対位置関係を変化させる磁石位置調整機構を備えている。従って、対向する永久磁石の磁極が、例えば、異極同士又は同極同士となるように調整することで、動作部材が通過する際の減衰比を変化させることができる。すなわち、磁気バネを構成する部分においては、該磁気バネの磁石ユニットにおける永久磁石の回転によりバネ定数が変化し、磁気ダンパを構成する部分においては、該磁気ダンパの磁石ユニットにおける永久磁石の回転により、非磁性体に生ずるうず電流を制御する磁気回路が、磁束収束型あるいは磁束発散型に変化して減衰係数が変化する。このため、着座動作時や走行開始時において、例えば、所定時間、磁気バネを負のバネ定数が生じない範囲に調整し、磁気ダンパにおける減衰係数が小さくなるように設定しておけば、バネ感の強い座り心地となり、着座動作時の抜け感を抑制でき、走行開始時の違和感も抑制できる。
【0008】
そして、走行を開始して徐々に慣れてきたならば、磁気バネを負のバネ定数が生じる範囲を有するように調整すると共に、磁気ダンパにおける減衰係数が大きくなるように調整すれば、シートサスペンションにおける平衡点付近での全体のバネ定数が略ゼロになると共に、減衰係数も大きいため、低周波、大振幅の衝撃性振動に対する違和感(突き上げ感、落ち込み感、抜け感など)などを低減しつつ、高い除振性能を付与することができる。また、走行中の外的刺激の大きさ等に応じて永久磁石同士の相対位置関係を変化させる構成とすることにより、例えば、振動周波数を検知する手段を設け、振動周波数に応じて磁石位置調整機構が所定の角度永久磁石を回転させる構成とすれば、振動周波数に応じて人が快適に感じる減衰比に設定することも可能になるため、より快適な座り心地、乗り心地を達成できる。
【0009】
また、磁石位置調整機構は、磁気バネ又は磁気ダンパを構成する各磁石ユニットにおける少なくとも一方の永久磁石を、周期的に、ランダムに、又はカオティックに回転させるように設定することもできる。永久磁石が周期的に、ランダムに又はカオティックに回転することにより、バネ定数、減衰係数は一定ではなく、一定のタイミングで又は任意のタイミングで常に変化することになる。特に、既存カオスの因果律、例えば、ローレンツ則をかけてやることでカオティックなパッシブ制御となり、振動吸収特性が向上する。人の知覚に対しては、ランダムよりも、カオティックに制御する方が望ましい。また、周期的に制御する場合は、自分の周囲がゆれることを嫌う人の特性から、生体のゆらぎに同調するように規定することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に示した実施形態に基づき本発明をさらに詳細に説明する。図1は、本発明の一の実施形態に係るシートサスペンション制御機構1を示す斜視図であり、図2はその正面図、図3はその側面図である。図4は、第2の取り付け部材をフレームに連結した状態を示す斜視図であり、図5はその分解斜視図である。
【0011】
これらの図に示したように、本実施形態のシートサスペンション制御機構1は、車体フロア(図示せず)の任意部位に固定される第1の取り付け部材10と、振動により、シートと共に車体フロアに対して相対変位するように設けられる任意の部材(例えば、シートクッション部にリンク部材等を介して連結されると共に、車体フロアに固定した軸を中心に揺動するフレーム100)に固定される第2の取り付け部材20とを備えている(図5参照)。なお、第1の取り付け部材10と第2の取り付け部材20を逆の位置関係で、すなわち、第2の取り付け部材20を車体フロア側に、第1の取り付け部材10をフレーム100側に取り付けてもよいことはもちろんである。
【0012】
第1の取り付け部材10は、所定間隔をおいて配設された断面略L字状の第1及び第2の端壁部材11,12と、該端壁部材11,12間の略中央部に配置される仕切板13とを備えると共に、連結フレーム14がこれらを厚み方向に貫通する方向に沿って設けられ、相互に所定間隔を保った状態で連結保持されている。
【0013】
第1の端壁部材11及び仕切板13には第1の磁石ユニット30が支持され、第2の端壁部材12及び仕切板13には第2の磁石ユニット40が支持されている。図5に示したように、第1の磁石ユニット30は、第1の端壁部材11の内面に沿って配設された第1の永久磁石31と、仕切板13のうち第1の端壁部材11の内面に対向する一方の面に沿って配設された第2の永久磁石32とを有してなる。同様に、第2の磁石ユニット40は、第2の端壁部材12の内面に沿って配設された第3の永久磁石41と、仕切板13のうち第2の端壁部材12の内面に対向する他方の面に沿って配設された第4の永久磁石42とを有してなる。
【0014】
本実施形態では、上記のうち、第2の永久磁石32と第4の永久磁石42は、仕切板13の各面に対してそれぞれ固定して取り付けられ、第1の永久磁石31と第3の永久磁石41は、磁石位置調整機構50により、各端壁部材11,12に対して回転可能に取り付けられる。
【0015】
磁石位置調整機構50は、モータなどの回転駆動部(図示せず)と、該回転駆動部の駆動により回転する回転軸51と、回転駆動力を伝達するギア部材52〜54を有して構成される。回転駆動部は、例えば、第2の端壁部材12の外側に設けられ、回転軸51は第2の端壁部材12を厚み方向に貫通して配設され、第2の端壁部材12の内面に沿わせて配設された第1のギア部材52に連結されている。そして、上記した第3の永久磁石41がこの第1のギア部材52の内面に積層されて固定されることにより、回転駆動部の駆動によって第3の永久磁石41がその面方向に沿って回転することになる。また、第1の端壁部材11には第2のギア部材53がその内面に沿って回転可能に配設されていると共に、第1のギア部材52と第2のギア部材53との間には、両者に噛み合うことができるように所定の長さを備えた第3のギア部材54が配設されており、第1の永久磁石31は、第2のギア部材53の内面に積層されて固定されている。従って、第1のギア部材52が回転した場合には、第3のギア部材54を介して第2のギア部材53が回転する。このため、第1の永久磁石31は、第3の永久磁石41と同期して回転駆動部の駆動により所定量回転することができる。なお、回転駆動部は、第1のギア部材52に連結された回転軸51に接続するのではなく、第2のギア部材53に連結したり、第3のギア部材54に連結したりしてもよい。第1〜第3の各ギア部材52〜54が相互に噛み合っているため、回転駆動部をいずれに連結しても第1及び第2のギア部材52,53は同期して回転する。
【0016】
第2の取り付け部材20は、ブロック状に形成され、その両側に下方に伸びるように動作部材としての第1及び第2のアーム22,23が固定されている。第2の取り付け部材20を挟んで第1及び第2のアーム22,23が配設されることにより、第1のアーム22は、第1の磁石ユニット30を構成する第1の永久磁石31と第2の永久磁石32との間に位置することができ、第2のアーム23は、第2の磁石ユニット40を構成する第3の永久磁石41と第4の永久磁石42との間に位置することができる。第1のアーム22には、永久磁石(可動側永久磁石)24が、第1の永久磁石31及び第2の永久磁石32に対して対向可能な位置に取り付けられ、第2のアーム23には、非磁性体からなる銅などの導体25が、第3の永久磁石41及び第4の永久磁石42に対して対向可能な位置に取り付けられている。なお、本実施形態では第2のアーム23自体を銅から形成しているため、第2のアーム23の下部が導体25を兼用している。
【0017】
また、第2の取り付け部材20は、図4及び図5に示したように、振動によってシート共に相対変位するフレーム100に固着された取り付け板110にボルト111によって固定される。フレーム100は、図示しないトーションバーによって弾性的に支持されており、シートクッションの上下動に伴って円弧を描くように回転動作する。従って、本実施形態においては、第2の取り付け部材20に支持された動作部材としての各アーム22,23は、図3の矢印で示したように、シートクッションの上下動により、第1及び第2の永久磁石31,32間の隙間、並びに第3及び第4の永久磁石41,42間の隙間において、円弧を描くように往復回転運動を行う。なお、動作部材としては、このように回転運動を行うものに限らず、各永久磁石間の隙間において直線運動を行うような構造とした場合でも本発明は適用可能である。
【0018】
本実施形態においては、第1の磁石ユニット30を構成する第1及び第2の永久磁石31,32と第1のアーム22に取り付けられた可動側永久磁石24とにより、請求項において定義した磁気バネが構成される。この磁気バネの回転角(第1のアーム22の回転角)−モーメント特性は、図9に示したとおりであり、所定の回転角の範囲(垂直状態を0度としてその前後約−4度〜+4度の範囲)では、回転角が正方向に変化するに従ってモーメントが小さくなる負のバネ定数を有している。従って、シートと共に相対変位するフレーム100を支持するトーションバーやコイルスプリングなどとして絶対値がほぼ同じ正のバネ定数を有する金属バネ等を使用すれば、両者を重畳した全体のバネ定数が図9に示したように上記した回転角の範囲において略ゼロになる。また、第2の磁石ユニット40を構成する第3及び第4の永久磁石41,42と第2のアーム23に取り付けられた導体25とにより、請求項において定義した磁気ダンパが構成される。なお、本実施形態においては、磁石位置調整機構50は、上記のように、磁気バネに含まれる第1の永久磁石31と、磁気ダンパに含まれる第3の永久磁石41とを、共に調整可能な構成としており、本実施形態の磁石位置調整機構50のみで、請求項1で定義した磁気バネに含まれる磁石位置調整機構と磁気ダンパに含まれる磁石位置調整機構とを兼ねている。
【0019】
すなわち、本実施形態では、第1の磁石ユニット30を構成する第1及び第2の永久磁石31,32と第1のアーム22に取り付けられた可動側永久磁石24とにより形成される磁気バネと、シートサスペンションの適宜位置に設けられるトーションバーなどの正のバネ定数を有するバネとの組み合わせにより、従来例として指摘した着座者の荷重(体重)とつり合った平衡点付近におけるバネ定数が略ゼロとなる機構が構成され、それに加えて、可動側永久磁石24及び導体25を備えた第1及び第2のアーム22,23が、磁石ユニット30,40の永久磁石間で動作する際の減衰比を調整するための磁石位置調整機構50を備えていることを特徴とするものである。
【0020】
ここで、磁気バネを構成する第1の磁石ユニット30の第1及び第2の永久磁石31,32は、第1のアーム22に支持された可動側磁石24の通過方向に沿ってN極、S極が着磁された単極磁石を用いることも可能であるが、図6に示したように、厚み方向にN極、S極が着磁された磁石を可動側磁石24の通過方向に沿って異極同士が隣り合うように接合してなる2極磁石を用いることが磁束を効率よく利用できるため好ましい。これにより、第1の永久磁石31と第2の永久磁石32とが同極同士が正対面している場合(図6(b)の状態)と、異極同士が正対面している場合(図6(a)の状態)とで磁界が変化するため、可動側磁石24が第1及び第2の永久磁石31,32間を通過する際のバネ定数が第1の永久磁石31の回転量によって変化することになる。本実施形態では、第1及び第2の永久磁石31,32の相対位置関係を、同極同士が正対面する位置関係とした場合には、可動側磁石24が動作する際の所定の変位範囲におけるバネ定数が、上記のように負方向に最大となり、異極同士が正対面する位置関係とした場合には、所定の変位範囲において負方向に最大となるバネ定数の位置関係から最も遠ざかった状態(本実施形態では、負方向に最大となるバネ定数の位置関係から第1の永久磁石31を180度回転させた状態)になる。従って、第1の永久磁石31を第2の永久磁石32と同極同士が正対面する方向に近づけるように回転させるほど、負方向のバネ定数が大きくなっていく。なお、同極同士が正対面する場合でも、第1の永久磁石31及び第2の永久磁石32を共に180度回転させた場合には、正対面するN極同士、S極同士の位置が逆になるため、図9における回転角において、例えば、−4度の角度から+4度へと正方向に変位する場合に正のバネ定数を生じることになる。
【0021】
一方、磁気ダンパを構成する第2の磁石ユニット40を構成する第3及び第4の永久磁石41,42は、上記と同様に単極磁石を用いることも可能であるが、図6に示したように2極磁石を用いることが好ましい。また、図7に示したように、第2のアーム23に支持された導体25の動作方向に沿って着磁させた3枚の磁石を、該導体25の動作方向に沿って隣り合わせに接合した3極磁石を用いることも可能である。いずれの場合も、同極同士を正対面させた場合(図6(a)の状態)には、図10(b)に示したように、磁束が導体25上に集まらず(収束せず)減少するため電磁誘導による減衰力の減衰係数が最小となる(磁束発散型)。また、異極同士を正対面させた場合(図6(b)及び図7の状態)には、図10(a)に示したように、導体25上に磁束が集まり(収束し)、減衰係数が最大となる(磁束収束型)。従って、本実施形態では、同極同士が正対面するか異極同士が正対面するか、いずれかの方向に第3の永久磁石41の回転量を調整することにより、適宜の減衰係数に調整できる。ここで、図8に示したような3つの条件で設定した第3及び第4の永久磁石41,42について減衰係数を求めた。すなわち、導体(銅)25の厚みが5.5mmで、第3及び第4の永久磁石41,42の厚みが4.4mmの2極磁石を用いた場合(図8(a),(d))、導体(銅)25の厚みが3.5mmで、第3及び第4の永久磁石41,42の厚みが5.4mmの2極磁石を用いた場合(図8(b),(e))、導体(銅)25の厚みが5.5mmで、第3及び第4の永久磁石41,42の厚みが4.4mmの3極磁石を用いた場合(図8(c),(f))についてそれぞれ減衰係数を求めた。なお、図8(a)〜(c)は、第3及び第4の永久磁石41,42を異極同士で正対面させた場合であり、図8(d)〜(f)は、180度回転させて第3及び第4の永久磁石41,42を同極同士で正対面させた場合である。
【0022】
その結果、図8(a)は、467.48[Nm−1s]、(b)は、543.18[Nm−1s]、(c)は595.84[Nm−1s]であった。また、180度回転させて同極同士を対面させた場合には、図8(d)は、50.47[Nm−1s]、(e)は、57.78[Nm−1s]、(f)は329.40[Nm−1s]であった。従って、2極磁石の場合には、減衰係数の最小値は最大値の約1割程度であり、変動幅が大きかったが、3極磁石の場合には最大値と最小値との変動幅が小さかった。また、図8(a),(b)から、同じ2極磁石でも、銅(導体25)の厚み、磁石(第3及び第4の永久磁石41,42)の厚みを変えることで、より大きな減衰係数のものが得られることがわかった。
【0023】
以上のことから、上記した磁石位置調整機構50を駆動させることにより、磁気バネを構成する第1の磁石ユニット30の第1の永久磁石31及び磁気ダンパを構成する第2の磁石ユニット40の第3の永久磁石41の向きを変化させれば、バネ定数、減衰係数が大幅に変化し、その結果としてシートサスペンション全体の減衰比の可変が可能となる。但し、バネ定数が負方向に最大となる際の各永久磁石の対面する磁極、減衰係数が最大又は最小になる際の各永久磁石の対面する磁極は、本実施形態のように各磁石ユニットにおいて一方のみを回転させるか、あるいは、両方回転させるかによって異なり、また、動作部材の動作方向や、N極、S極の向きによっても異なる。また、使用する永久磁石の構成(2極磁石か、3極磁石か、あるいは着磁方向等)によっても異なる。さらに、180度反転させた場合に、バネ定数が負方向に最大となる場合と最小になる場合、あるいは減衰係数が最大となる場合と最小になる場合が現れるとは限らず、0度の状態から90度回転させた場合に反対の特性が生じる場合もある。従って、請求項に定義した「バネ定数が負方向に最大となる相対位置関係から遠ざかる方向」とは、磁気バネを構成する永久磁石の少なくとも一方を、反対の特性(磁気バネのバネ定数が負方向に最小になること)が生じる方向に面方向に沿って回転させることを意味し、本実施形態のように180度反転させる場合に限定されるものではない。
【0024】
ここで、バネ定数、減衰係数、減衰比の関係は、次式により表される。
【数1】

(但し、ξは減衰比、cは減衰係数、kはバネ定数、mは荷重である)
【0025】
上記式より、シートサスペンション全体では、トーションバーなどの正のバネ定数を有するバネと、本実施形態に係るシートサスペンション制御機構の磁気バネのバネ定数との重畳したバネ定数が最小で、本実施形態に係るシートサスペンション制御機構の磁気ダンパの減衰係数が最大となるように調整すると、減衰比は最大となり、重畳したバネ定数が最大、減衰係数が最小となるように調整すると、減衰比は最小となる。従って、本実施形態のように、磁石位置調整機構50として一つの回転駆動部により第1及び第2のギア部材51,52を同期して動作させる場合には、初期設定として、第1及び第2の永久磁石31,32を同極同士で正対面させたならば、第3及び第4の永久磁石41,42を異極同士で正対面させ、逆に、第1及び第2の永久磁石31,32の異極同士で正対面させたならば、第3及び第4の永久磁石41,42を同極同士で正対面させておく。これにより、本実施形態では、磁石位置調整機構50により、第1の永久磁石31と第3の永久磁石41の向きを180度回転させた場合とそうでない場合とで、減衰比が最大と最小とに変化する。
【0026】
例えば、図6(b)に示した状態では、磁気バネを構成する第1及び第2の永久磁石31,32は、同極同士が正対面し、磁気ダンパを構成する第3及び第4の永久磁石41,42は異極同士が正対面している。従って、かかる状態では、磁気バネは所定の変位範囲において負のバネ定数領域を有しているため、トーションバーなどの正のバネ定数と重畳したバネ定数が最小となり、磁気ダンパの減衰係数が大きくなるため、シートサスペンション全体の減衰比は最大になる。このときの変位量(回転角の変化量)とモーメントの関係のリサージュ図形を描くと、図9に示したように円に近い形状(「減衰比大」で示した図形))になる。これに対し、磁石位置調整機構50を駆動させ、第1の永久磁石31と第3の永久磁石41の向きを180度回転させた場合には、図6(a)に示したように、第1及び第2の永久磁石31,32は、異極同士が正対面し、第3及び第4の永久磁石41,42は同極同士が正対面するため、トーションバーなどのバネと組み合わせた全体のバネ定数は大きくなり、磁気ダンパの減衰係数が小さくなるため、減衰比が小さくなる。このときの減衰比は、図9に示したリサージュ図形(「減衰比小」で示した図形)のとおりであり、所定の傾きを持った長円状に描かれ、平衡点付近においてバネ定数は略ゼロではなく、所定の正のバネ定数となることがわかる。
【0027】
従って、着座動作時や走行開始時(例えば、走行から一定時間経過する間での間)は、磁石位置調整機構50により、減衰比が小になるように設定しておけば、平衡点付近においても所定の正のバネ定数のバネ力が作用するため、着座動作時の抜け感や走行開始時の違和感が抑制される。その後は、磁石位置調整機構50により、減衰比が大になるように設定すれば、平衡点付近でのバネ定数略ゼロの機能により、高い振動吸収特性が得られる。なお、制御の一例については後述する(図12参照)。
【0028】
また、走行時における振動周波数を検知する手段を設け、その振動周波数に応じて磁石位置調整機構50を動作させ、第1の永久磁石31と第3の永久磁石41の向きを調整し、減衰比を変化させるようにすることもできる。この場合、磁石位置調整機構50の回転駆動部としてモータを用いた場合には、検知した振動周波数に応じてモータの回転量を制御し、例えば、3Hz以下の低周波数域では減衰比が大きくなるように調整し、それを超える高周波数域では減衰比が小さくなるように調整するように設定することができる。これにより、振動等の外的刺激に対する制御が微細となり、乗車時の快適性を向上させることができる。もちろん、上記の設定例はあくまで一例であり、例えば、振動周波数と減衰比の関係は、予め、人が快適に感じる減衰比を振動周波数ごとに実験により求め、そのデータに応じて制御するように設定することにより達成できる。
【0029】
また、磁石位置調整機構50による第1の永久磁石31と第3の永久磁石41の向きの調整は、周期的に、ランダムに、又はカオティックに調整し続ける構成とすることができる。この場合、バネ定数及び減衰係数、すなわち、減衰比は、周期的に変化し続けるか、任意のタイミングで変化し続けることになる。減衰比が変化し続けることにより、人体に伝わる振動の質が改善されることになり、不快感を和らげる。特に、カオティックに制御することにより、快適な振動環境となり、人に優しい振動となる。
【0030】
これは、減衰比が大きい状態と小さい状態を交互に繰り返す変化になるため、人に優しい微妙なゆらぎ、いわゆる1/fゆらぎに近似したものに変化することによる。本来、路面から入力される振動自体も適度なゆらぎを持つが、車両に用いられている様々な機械要素を経て人体に伝達されることにより、機械に揺らされている感覚に変質する。しかし、本実施形態のシートサスペンション制御機構によって周期的に、ランダムに、又はカオティックに減衰比を変化させると、これが振動のフィルタとなり、機械に揺らされている感覚を相殺し、心地よい振動として再生される。
【0031】
このことを図13を用いて説明する。図13(a)は、磁石位置調整機構50により、磁気バネを構成する第1の永久磁石31を5秒周期で回転させた場合におけるバネ定数の変化を示し、図13(b)は、1周期におけるバネ定数の最高値、最小値、及びその中間値の値を示し、矢印方向にバネ定数が変化することを示す図である。これらの図から明らかなように、車体フロアから振動が入力されたとしても、バネ定数の最高値26.9N/mmから最小値3.1N/mmに変化する間に減衰比は増大していく。これにより、入力振動は減衰される。一方、最小値から最大値へとバネ定数が変化する間に入力される振動はこの磁気バネによっては減衰されないが、バネ機能が高くなっていくため、入力振動のノイズが低減される。しかしながら、次の回転周期で再び減衰比が増大するため、入力振動が減衰される。第1の永久磁石31を回転させることにより、このようにバネ定数の変化による減衰比大の状態と減衰比小の状態を繰り返し、路面から連続的に入力される振動は機械要素を介して不規則に人体に伝達されるのではなく、滑らかな適度なゆらぎをもつ揺れに変換されることになる。
【0032】
図11は、本実施形態のシートサスペンション制御機構を搭載したシートサスペンションに、シートを取り付け、体重85kgの日本人男性が着座し、加振機により振動させた際の加速度伝達率を、図5に示したフレーム100(シートクッションに配置されるウレタンパッドなどのクッション部材より下部に含まれるいわゆるバネ下系のフレーム100)に取り付けた加速度計を用いて測定したものである。図11の細線で示した「制御OFF」は、磁石位置調整機構50により、図6(a)に示したように、第1及び第2の永久磁石31,32は、異極同士が正対面し、第3及び第4の永久磁石41,42は同極同士が正対面するように調整し、その位置で固定し、図9のリサージュ図形で示した減衰比が小さくなった状態、すなわち、所定の正のバネ定数を有する状態(高バネ状態)に固定して加振した際のデータである。太線で示した「制御ON」は、第1の永久磁石31と第3の永久磁石41とを、上記した「減衰比小」の状態(高バネ状態)と、図6(b)に示したように、磁気バネを構成する第1及び第2の永久磁石31,32は、同極同士が正対面し、磁気ダンパを構成する第3及び第4の永久磁石41,42は異極同士が正対面する状態、すなわち、図9のリサージュ図形の減衰比大の状態(低バネ状態)との間で変化するように、磁石位置調整機構50をカオティックに駆動させながら加振した際のデータである。
【0033】
図11から、本実施形態の減衰比小(高バネ状態)で固定した場合には、共振が現れるが、磁石位置調整機構50により減衰比をカオティックに制御した場合には、共振が現れず、加速度伝達率が大きく改善されることがわかる。すなわち、磁石位置調整機構50の回転駆動部であるモータなどの電気エネルギーは、第1及び第3の永久磁石31,41をカオティック(あるいは、周期的、ランダム)に回転させてバネ定数、減衰係数を変化させ、静磁エネルギーによって増幅された物理エネルギーに変換される。この物理エネルギーは、第1及び第3の永久磁石31,41を回転させずにクッションパン上の質量を増大させた状態の位置エネルギーに対応するものであり、車体フロアに入力された振動エネルギーはこの位置エネルギーを変動させるのに消費され、クッションパンに伝わる振動を減衰する。
【0034】
図12(a)は、磁石位置調整機構50により、第1及び第3の永久磁石31,41をどのように回転制御するかのタイムチャートの一例を示す図であり、図12(b)は各制御モードの具体的内容を示す表であり、図12(c)は、「高バネ」「中バネ」「低バネ」の各状態におけるバネ定数の値の一例を示す表である。
【0035】
「高バネ(高バネモード)」とは、磁石位置調整機構50によって、図6(a)に示した、磁気バネにおけるバネ定数が負の方向に最大となる位置関係から第1の永久磁石を180度回転させた状態(減衰比小の状態)に調整し、その状態を保持する設定であり、「低バネ(低バネモード)」とは、磁石位置調整機構50によって、図6(b)に示した磁気バネにおけるバネ定数が負の方向に最大となる位置関係(0度の状態(減衰比大の状態))に調整し、その状態を保持する設定であり、「中バネ(中バネモード)」とは、両者の間である、磁気バネにおけるバネ定数が負の方向に最大となる位置関係から第1の永久磁石を90度回転させた状態に調整し、その状態を保持する設定である。
【0036】
図12(b)に示したように、「高バネカオスモード」とは、弱いカーブにおいて、中バネモードと高バネモードの間でカオティックに変化させ、直線走行では中バネモードに調整してその状態で固定し、強いカーブや停止する際には高バネモードに調整してその状態で固定する設定である。「全域カオスモード」とは、弱いカーブにおいて、低バネモードと高バネモードの間でカオティックに変化させ、直線走行では低バネモードに調整してその状態で固定し、強いカーブや停止する際には高バネモードに調整してその状態で固定する設定である。「低バネカオスモード」とは、弱いカーブにおいて、低バネモードと中バネモードの間でカオティックに変化させ、直線走行では低バネモードに調整してその状態で固定し、強いカーブや停止する際には高バネモードに調整してその状態で固定する設定である。
【0037】
そして、自動制御する場合のタイムチャートとしては、例えば、図12(a)に示したように、走行開始から5分経過するまでは、高バネモードとなるように設定し、次の30分間は高バネカオスモードとなるように設定する。これにより、着座時や走行開始時には、比較的バネ感のある支持を受けるため、違和感が低減される。その後の30分間は全域カオスモードとし、その後は、低バネカオスモードにする。これにより、減衰比が大きくなり振動が効果的に除振される。減衰比が大きくなった状態でも、弱いカーブではカオティックに制御したり、強いカーブでは高バネモードで制御するため、カーブにおける底付き感なども低減される。そして、さらに停止直後には高バネモードとなるように調整すると、停止時における底付き感を低減し、人を確実に支持できる。なお、強いカーブ、弱いカーブ、停止等の各状態は、車両に取り付けた各種のセンサ(加速度センサなど)により検知し、それをシートサスペンション制御機構にフィードバックして自動制御する。
【0038】
なお、上記実施形態では磁石位置調整機構の回転駆動部としてモータを例示しているが、モータに代え、又はモータと共に、例えば、路面から入力される振動等に応じて駆動するアクチュエータとフライホイールを組み合わせたものを用いることもできる。この場合には、例えば、高バネモードにおいて共振したならばアクチュエータが駆動するように設定し、それにより、第1又は第3の永久磁石を回転させ、減衰比を増大させるように動作させることができる。
【0039】
また、上記実施形態では、一つの磁石位置調整機構50により、請求項で定義した磁気バネの磁石位置調整機構と磁気ダンパの磁石位置調整機構とを兼用しているが、それぞれ別々の独立した磁石位置調整機構を設け、磁気バネのバネ定数と磁気ダンパの減衰係数を個別に制御する構成とすることも可能である。
さらに、上記実施形態では、磁気バネを構成する部分と磁気ダンパを構成する部分とを一つのユニットにしてシートサスペンション制御機構として用いているが、対面する永久磁石の相対位置関係を調整する磁石位置調整機構を備えた磁気バネ単体、又は磁気ダンパ単体の構造とすることもできる。これにより、バネ定数可変の磁気バネ又は減衰係数可変の磁気ダンパを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、本発明の一の実施形態に係るシートサスペンション制御機構を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1の正面図である。
【図3】図3は、図1の側面図である。
【図4】図4は、上記シートサスペンション制御機構をフレームに連結した状態を示す斜視図である。
【図5】図5は、図4のその分解斜視図である。
【図6】図6は、図2のA−A線矢視図であって、磁石位置調整機構による調整手法を説明するための図であり、(a)は、減衰比が小さい場合の各磁石ユニットの磁石位置(向き)を示し、(b)は、減衰比が大きい場合の各磁石ユニットの磁石位置(向き)を示す。
【図7】図7は、第2の磁石ユニットを構成する永久磁石の他の例を示した図である。
【図8】図8(a),(d)は、導体を構成する銅の厚みを厚くし、第2の磁石ユニットを構成する永久磁石の厚みを薄くして減衰係数を求めた際の各永久磁石と導体の構成を示す図であり、図8(b),(e)は、導体を構成する銅の厚みを薄くし、第2の磁石ユニットを構成する永久磁石の厚みを厚くして減衰係数を求めた際の各永久磁石と導体の構成を示す図であり、図8(c),(f)は、第2の磁石ユニットを構成する永久磁石として3極磁石を採用して減衰係数を求めた際の各永久磁石と導体の構成を示す図である。
【図9】図9は、第1の磁石ユニットを構成する永久磁石と可動側永久磁石により構成される磁気バネ、トーションバーなどの金属バネ、及び磁気バネと金属バネとを重畳した全体の各回転角−モーメント特性と、減衰比を大に設定した場合と小に設定した場合の各リサージュ図形を示す図である。
【図10】図10(a)は減衰係数が最大となる場合の磁束の様子を示す図であり、図10(b)は減衰係数が最小となる場合の磁束の様子を示す図である。
【図11】図11は、上記実施形態のシートサスペンション制御機構を搭載したシートサスペンションに、シートを取り付け、加振機により振動させた際の加速度伝達率を示す図である。
【図12】図12(a)は、磁石位置調整機構により、第1及び第3の永久磁石を回転制御する際のタイムチャートの一例を示す図であり、図12(b)は各制御モードの具体的内容を示す表であり、図12(c)は、「高バネ」「中バネ」「低バネ」の各状態におけるバネ定数の値の一例を示す表である。
【図13】図13(a)は、磁石位置調整機構により、磁気バネを構成する第1の永久磁石を5秒周期で回転させた場合におけるバネ定数の変化を示す図であり、図13(b)は、1周期におけるバネ定数の最高値、最小値、及びその中間値の値を示し、矢印方向にバネ定数が変化することを示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 シートサスペンション制御機構
10 第1の取り付け部材
20 第2の取り付け部材
22 第1のアーム
23 第2のアーム
24 可動側永久磁石
25 導体
30 第1の磁石ユニット
31 第1の永久磁石
32 第2の永久磁石
40 第2の磁石ユニット
41 第3の永久磁石
42 第4の永久磁石
50 磁石位置調整機構
52 第1のギア部材
53 第2のギア部材
54 第3のギア部材
100 フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フロア側に取り付けられる第1の取り付け部材と、振動により、シートと共に車体フロアに対して相対変位する部材に取り付けられる第2の取り付け部材とを備えてなるシートサスペンション制御機構であって、
所定間隔をおいて対向して配設された一対の永久磁石を備えてなる磁石ユニットと、前記磁石ユニットの対向する永久磁石間で相対的に可動に配置される永久磁石を備えた動作部材とを有し、前記磁石ユニットの対向する永久磁石の少なくとも一方を面方向に沿って回転させ、対向する永久磁石同士の相対位置関係を調整してバネ定数を変化させる磁石位置調整機構を具備する磁気バネと、
所定間隔をおいて対向して配設された一対の永久磁石を備えてなる磁石ユニットと、前記磁石ユニットの対向する永久磁石間で相対的に可動に配置される非磁性体からなる導体を備えた動作部材とを有し、前記磁石ユニットの対向する永久磁石の少なくとも一方を面方向に沿って回転させ、対向する永久磁石同士の相対位置関係を調整して減衰係数を変化させる磁石位置調整機構を具備する磁気ダンパとを備えてなり、
前記第1の取り付け部材及び第2の取り付け部材のうちの一方に前記磁気バネの磁石ユニット及び前記磁気ダンパの磁石ユニットを、他方に前記磁気バネの動作部材及び前記磁気ダンパの動作部材をそれぞれ固定したことを特徴とするシートサスペンション制御機構。
【請求項2】
前記磁気バネは、永久磁石から構成される前記動作部材が、前記磁石位置調整機構により所定の相対位置関係で調整されている磁石ユニットの永久磁石間で動作する際、所定の変位範囲において負のバネ定数となる領域を備えており、
シートサスペンションに設けられる正のバネ定数を具備した弾性部材とにより、重畳したバネ定数が略ゼロに近づくように調整するものであることを特徴とする請求項1記載のシートサスペンション制御機構。
【請求項3】
シートサスペンション全体の減衰比を大きくする場合には、前記磁気バネの磁石位置調整機構により、該磁気バネの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、所定の変位範囲におけるバネ定数が負方向に最大になる相対位置関係となる方向に所定量回転させ、シートサスペンションに設けられる正のバネ定数を具備した弾性部材との重畳したバネ定数を略ゼロに近づけるように制御し、
シートサスペンション全体の減衰比を小さくする場合には、前記磁気バネの磁石位置調整機構により、該磁気バネの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、所定の変位範囲におけるバネ定数が負方向に最大になる相対位置関係から遠ざかる方向に所定量回転させ、シートサスペンションに設けられる正のバネ定数を具備した弾性部材との重畳したバネ定数を正方向に大きくするように制御することを特徴とする請求項1又は2記載のシートサスペンション制御機構。
【請求項4】
シートサスペンション全体の減衰比を大きくする場合には、前記磁気ダンパの磁石位置調整機構により、該磁気ダンパの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、減衰係数が最大になる相対位置関係となる方向に所定量回転させ、
シートサスペンション全体の減衰比を小さくする場合には、前記磁気ダンパの磁石位置調整機構により、該磁気ダンパの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、減衰係数が最小になる相対位置関係となる方向に所定量回転させることを特徴とする請求項1又は2記載のシートサスペンション制御機構。
【請求項5】
シートサスペンション全体の減衰比を大きくする場合には、前記磁気バネの磁石位置調整機構により、該磁気バネの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、所定の変位範囲におけるバネ定数が負方向に最大になる相対位置関係となる方向に所定量回転させ、シートサスペンションに設けられる正のバネ定数を具備した弾性部材との重畳したバネ定数を略ゼロに近づけるように制御すると共に、前記磁気ダンパの磁石位置調整機構により、該磁気ダンパの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、減衰係数が最大になる相対位置関係となる方向に回転させ、
シートサスペンション全体の減衰比を小さくする場合には、前記磁気バネの磁石位置調整機構により、該磁気バネの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、所定の変位範囲におけるバネ定数が負方向に最大になる相対位置関係から遠ざかる方向に所定量回転させ、シートサスペンションに設けられる正のバネ定数を具備した弾性部材との重畳したバネ定数を正方向に大きくするように制御すると共に、前記磁気ダンパの磁石位置調整機構により、該磁気ダンパの磁石ユニットを構成する少なくとも一方の永久磁石を、減衰係数が最小になる相対位置関係となる方向に調整することを特徴とする請求項1又は2記載のシートサスペンション制御機構。
【請求項6】
前記磁気バネを構成する磁石位置調整機構と前記磁気ダンパを構成する磁石位置調整機構とは、同じ回転駆動部により制御される構成であると共に、
前記磁気バネ及び磁気ダンパを構成するいずれか一方の組の磁石ユニットのいずれか一方の永久磁石に連結される第1のギア部材と、
前記いずれか他方の組の磁石ユニットのいずれか一方の永久磁石に連結される第2のギア部材と、
前記第1のギア部材と第2のギア部材とに噛み合う第3のギア部材と
を具備し、
前記回転駆動部を第1のギア部材、第2のギア部材及び第3のギア部材のうちのいずれかに連結し、該回転駆動部の駆動により、第1のギア部材と第2のギア部材が同期して回転する構成であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載のシートサスペンション制御機構。
【請求項7】
前記磁気バネを構成する磁石位置調整機構と前記磁気ダンパを構成する磁石位置調整機構とは、それぞれに設けられた回転駆動部により独立して制御され、
各回転駆動部は、前記磁気バネ及び磁気ダンパを構成するいずれか一方の組の磁石ユニットのいずれか一方の永久磁石と、前記いずれか他方の組の磁石ユニットのいずれか一方の永久磁石とに連結され、各組の永久磁石をそれぞれ単独で回転させて位置調整を行う構成であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載のシートサスペンション制御機構。
【請求項8】
前記磁石位置調整機構は、前記各磁石ユニットにおける少なくとも一方の永久磁石を、周期的に、ランダムに、又はカオティックに回転させるように設定されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載のシートサスペンション制御機構。
【請求項9】
所定間隔をおいて対向して配設された一対の永久磁石を備えてなる磁石ユニットと、前記磁石ユニットの対向する永久磁石間で相対的に可動に配置される永久磁石を備えた動作部材とを有する磁気バネであって、
前記磁石ユニットの対向する永久磁石の少なくとも一方を面方向に沿って回転させ、対向する永久磁石同士の相対位置関係を調整してバネ定数を変化させる磁石位置調整機構を具備することを特徴とする磁気バネ。
【請求項10】
所定間隔をおいて対向して配設された一対の永久磁石を備えてなる磁石ユニットと、前記磁石ユニットの対向する永久磁石間で相対的に可動に配置される非磁性体からなる導体を備えた動作部材とを有する磁気ダンパであって、
前記磁石ユニットの対向する永久磁石の少なくとも一方を面方向に沿って回転させ、対向する永久磁石同士の相対位置関係を調整して減衰係数を変化させる磁石位置調整機構を具備することを特徴とする磁気ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−256391(P2006−256391A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73928(P2005−73928)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(594176202)株式会社デルタツーリング (111)
【Fターム(参考)】