説明

シートプラズマ成膜装置

【課題】 シートプラズマ成膜装置を大型化することなく、基板により均一な膜厚の膜を効果的に形成することが可能なシートプラズマ成膜装置を提供する。
【解決手段】 シートプラズマ成膜装置100が、成膜槽30と、シートプラズマ発生機構60と、多重リングターゲット33及び基板ホルダ34と、電源装置V2〜V6と、を備え、前記多重リングターゲットは、センターターゲット及び複数のリングターゲットを備え、前記多重リングターゲットの中央から周囲に向けて、前記センターターゲット及び前記複数のリングターゲットの偶数番目にバイアス電圧が印加されるように構成されている場合にはその奇数番目が少なくとも接地可能に構成され、その奇数番目にバイアス電圧が印加されるように構成されている場合には偶数番目が少なくとも接地可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状に変形されたプラズマを用いて成膜を行うシートプラズマ成膜装置に関し、特に、均一な成膜を行うシートプラズマ成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シート状に形成されたプラズマを用いて成膜を行うシートプラズマ成膜装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このシートプラズマ成膜装置では、プラズマの発生源により発生された円柱状のプラズマが永久磁石の作用によりシート状に変形され、このように形成されたシート状のプラズマ(以下、「シートプラズマ」という)が用いられてターゲットからそのターゲットを構成する材料(以下、「ターゲット材料」という)がスパッタされ、このスパッタされたターゲット材料からなる膜が基板上に形成される。
【0004】
しかし、シートプラズマ成膜装置を用いて基板に膜を形成する場合においては、基板に形成される膜の膜厚が、基板の中心付近と外縁付近とで均一にならないという問題があった。具体的には、シートプラズマ成膜装置を用いる場合、ターゲットからスパッタされたターゲット材料は、cosnθで表される放射状の角度分布をもって放出される。そのため、基板上へのターゲット材料の到達量は、その中心部では多く、その外縁部では少なくなるという、不均一な到達量となる。従って、基板に形成される膜の膜厚は、基板の中心付近と外縁付近とで均一にならない。ここで、このような、基板面内における膜厚の不均一に係る問題は、大型の基板に膜を形成する場合において、特に顕著な問題となる。そのため、シートプラズマ成膜装置を用いる場合には、基板面内の膜厚の均一性を好適に保つことが重要になる。
【0005】
一方、シートプラズマ成膜装置以外の成膜装置においては、基板に形成される膜の膜厚を均一にするために、さまざまな工夫がなされている。
【0006】
例えば、円形ターゲットと、この円形ターゲットを中心に有する環状リング形状ターゲットとを備え、円形ターゲットには電源から通電されると共に、環状リング形状ターゲットには外側陰極電源から通電され、円形ターゲット及び環状リング形状ターゲットの相対電力及び他のオペレーティングパラメータが別々に制御されるスパッタリング装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、処理チャンバ内に配置された基板にターゲット材料を成膜するスパッタリング装置であって、処理チャンバ内で基板に対向して配置されたターゲットを同心状に複数に分割し、その分割された各ターゲットのスパッタ率を調整する手段を設けたものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
さらには、表面が被スパッタ物質からなるターゲット材料と、そのターゲット材料から出て該ターゲット材料に戻る磁力線を発生させる磁場形成手段とを有し、磁力線と該ターゲット材料とで囲まれる領域に電子を閉じ込めてスパッタを行うようにしたマグネトロンスパッタ電極において、電子を閉じ込める領域に面したターゲット材料を互いに電気的に絶縁された複数のターゲット材料に分割して配置したマグネトロンスパッタ電極が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
このような、特許文献2,3に示されたスパッタリング装置及び特許文献4に示されたマグネトロンスパッタ電極を用いると、被処理体(基板)上の面内において、ほぼ均一な膜厚で所望の膜を形成することができる。
【特許文献1】特開2005−179767号公報
【特許文献2】特表2002−538309号公報
【特許文献3】特開2000−144399号公報
【特許文献4】特開平5−59542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献2乃至4に記載の構成を、特許文献1に記載のシートプラズマ成膜装置にそのまま適用しても、基板に形成される膜の膜厚を、その基板の中心付近と外縁付近とで均一にすることができない場合がある。
【0011】
すなわち、シートプラズマ成膜装置は、形成されるシートプラズマの面積が大きく、それに伴って、大面積のターゲット及び基板を用いることを可能とする。その一方で、このシートプラズマ成膜装置が用いられる場合には、目標とする膜厚や、基板の形状等が考慮されて、ターゲットと基板との間隔が適切に設定される。この場合、基板に形成される膜の厚みをその全面に渡り均一にするためには、ターゲットと基板との間隔やその基板の大きさの程度に応じて、基板上へのターゲット材料の到達量の面内分布を適切に設定する必要がある。つまり、シートプラズマ成膜装置を用いて基板への成膜を行う場合には、その基板上へのターゲット材料の到達量の面内分布を精密に制御する必要がある。
【0012】
これに対して、特許文献2乃至4は、ターゲットが単に同心状に分割され、この分割されたターゲットのそれぞれに電力が供給される構成を開示しているのみである。
【0013】
従って、特許文献2乃至4に記載の構成を特許文献1に記載のシートプラズマ成膜装置に単純に適用しても、この特許文献2乃至4に記載の構成は基板上へのターゲット材料の到達量の面内分布を精密に制御可能とするものではないため、基板に形成される膜の膜厚を、その基板の中心付近と外縁付近とで均一にすることができない場合がある。
【0014】
また、特許文献2乃至4に記載の上記技術をシートプラズマ成膜装置に単純に適用しても、スパッタ材料の回り込みにより各ターゲット同士を絶縁するための絶縁部材の絶縁性が劣化することや、各ターゲット間にシートプラズマが回り込むことでそのシートプラズマを安定に維持することが困難となるため、基板に形成される膜の厚みを所望の均一度に制御することは困難である。
【0015】
なお、シートプラズマ成膜装置において、基板に形成される膜の膜厚を均一にするためには、ターゲットの面積を基板の面積の約1.5倍以上にすることが考えられる。しかしながら、このような構成では、成膜槽の大型化や真空ポンプの大型化を招くため、シートプラズマ成膜装置の大型化を招いてしまう。
【0016】
本発明は、上記のような従来の課題を解決するためになされたもので、シートプラズマ成膜装置を大型化することなく、基板により均一な膜厚の膜を効果的に形成することが可能なシートプラズマ成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、上記従来の課題を解決するため、本発明のシートプラズマ成膜装置は、その内部空間を減圧可能に構成された成膜槽と、前記成膜槽を通過するようにシートプラズマを発生させるシートプラズマ発生機構と、前記成膜槽の内部空間に、前記通過するシートプラズマを該シートプラズマの厚み方向において挟むように配置された多重リングターゲット及び基板ホルダと、前記多重リングターゲットにバイアス電圧を印加する電源装置と、を備え、前記多重リングターゲットは、前記シートプラズマの厚み方向から見て該多重リングターゲットの中央に配置されたセンターターゲットと、該センターターゲットの周囲に同心状に配置された複数のリングターゲットと、を備え、前記複数のリングターゲットのそれぞれは、互いに絶縁して配設されると共に、前記センターターゲットと絶縁して配設され、前記多重リングターゲットの中央から周囲に向けて、前記センターターゲット及び前記複数のリングターゲットの偶数番目に前記バイアス電圧が印加されるように構成されている場合にはその奇数番目を接地可能又は該奇数番目の電位を浮動電位とすることができるように構成され、前記センターターゲット及び前記複数のリングターゲットの奇数番目に前記バイアス電圧が印加されるように構成されている場合にはその偶数番目を接地可能又は該偶数番目の電位を浮動電位とすることができるように構成されている。
【0018】
このような構成とすると、基板上へのターゲット材料の到達量の面内分布を自由に制御することができるので、装置を大型化することなく、基板の中心付近と外縁付近との膜厚の不均衡が是正された、より均一な膜厚の膜を効果的に形成することができるシートプラズマ成膜装置を提供することが可能になる。
【0019】
この場合、シートプラズマ成膜装置において、前記多重リングターゲットの中央から周囲に向けて、前記センターターゲット及び前記複数のリングターゲットの偶数番目に前記バイアス電圧が印加されるように構成されている場合にはその奇数番目が接地されるように構成され、前記センターターゲット及び前記複数のリングターゲットの奇数番目に前記バイアス電圧が印加されるように構成されている場合にはその偶数番目が接地されるように構成されている。
【0020】
また、上記の場合、シートプラズマ成膜装置において、前記多重リングターゲットの中央から周囲に向けて、前記センターターゲット及び前記複数のリングターゲットの偶数番目及び奇数番目の全てに前記バイアス電圧が印加されるように構成されている。
【0021】
一方、上記の場合、シートプラズマ成膜装置において、前記シートプラズマの厚み方向から見て、前記多重リングターゲットのセンターターゲット及び複数のリングターゲットのそれぞれが、互いに5mm以下の間隔を構成するように配置されている。
【0022】
また、上記の場合、シートプラズマ成膜装置において、前記シートプラズマの厚み方向と直交する方向から見て、前記多重リングターゲットのセンターターゲット及び複数のリングターゲットのそれぞれの下面が、同一平面上に位置するように構成されている。
【0023】
この場合、シートプラズマ成膜装置において、前記シートプラズマの厚み方向と直交する方向から見て、前記多重リングターゲットのセンターターゲット及び複数のリングターゲットのそれぞれの下面が、同一平面上に位置しかつ前記シートプラズマに対して平行となるように構成されている。
【0024】
このような構成とすると、各ターゲット間の距離がシートプラズマの回り込みを防止するための適切な距離とされていると共に、各ターゲットの下面が同一平面上に位置するように構成されているので、成膜槽の内部空間を通過するシートプラズマが多重リングターゲットのセンターターゲット及び複数のリングターゲットのそれぞれの側面に回り込むことや、スパッタ材料の回り込みにより各ターゲット同士を絶縁するための絶縁部材の絶縁性が劣化することを、確実に防止することが可能になる。
【0025】
また、このような構成とすると、シートプラズマ発生機構が成膜槽を通過するように発生させたシートプラズマが、その成膜槽の内部空間を通過する際に乱されることを防止することが可能になる。
【0026】
また、上記の場合、シートプラズマ成膜装置が、前記多重リングターゲットのセンターターゲット及び複数のリングターゲットのそれぞれを冷却する冷却器を更に備えている。
【0027】
このような構成とすると、基板に膜を形成する際、温度上昇する多重リングターゲットのセンターターゲット及び複数のリングターゲットのそれぞれを、任意にそれぞれ独立して冷却することが可能になる。
【0028】
また、上記の場合、シートプラズマ成膜装置が、前記多重リングターゲットのセンターターゲット及び複数のリングターゲットのそれぞれに任意の前記バイアス電圧を独立して印加可能に構成されている。
【0029】
このような構成とすると、多重リングターゲットのセンターターゲット及び複数のリングターゲットのそれぞれに、任意のバイアス電圧を独立して印加することができるので、通常の円盤状のターゲットを用いる場合と比べて、より一層均一な膜厚の膜を基板上に形成することが可能になる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るシートプラズマ成膜装置によれば、シートプラズマ成膜装置を大型化することなく、基板により均一な膜厚の膜を効果的に形成することができるシートプラズマ成膜装置を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、全図面を通じて同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下の説明では、便宜上、実施の形態1として多重リングターゲットの一部が接地されている形態を説明し、実施の形態2として多重リングターゲットの全てにバイアス電圧が印加される形態について説明する。
【0032】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るシートプラズマ成膜装置の概略構成を模式的に示す正面図である。なお、本実施の形態では、便宜上、シートプラズマ成膜装置のX,Y,Z軸を図1に示すように定義する。
【0033】
また、図2は、図1のシートプラズマ成膜装置に用いる多重リングターゲットの構成を模式的に示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は斜視図であり、(c)は側面図である。
【0034】
また、図3は、図1のシートプラズマ成膜装置により基板上に形成される膜の膜厚分布を模式的に示すグラフであって、(a)は多重リングターゲットを用いない場合の膜厚分布であり、(b)は多重リングターゲットを用いる場合の膜厚分布である。
【0035】
以下、図1乃至図3を参照しながら、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置について説明する。
【0036】
<構成>
まず、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置の一般的な構成について説明する。
【0037】
図1に示すように、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置100は、プラズマ発生源10(プラズマガン)と、シートプラズマ形成槽20と、成膜槽30と、アノード槽50と、を備えている。ここで、プラズマガン10と、シートプラズマ形成槽20と、アノード槽50とが、シートプラズマ発生機構60を構成する。なお、これらのプラズマガン10,シートプラズマ形成槽20,成膜槽30,アノード槽50と、後述する第1及び第2フランジ29,47とは、プラズマを輸送する通路を介して、互いに気密状態を保って連通されている。
【0038】
プラズマ発生源10は、公知の圧力勾配型プラズマガンで構成されているので、簡単に説明する。
【0039】
プラズマガン10は、カソードマウント11と、このカソードマウント11に設けられたカソード12と、筒状部材13と、この筒状部材13と同心状に配設された第1中間電極G1及び第2中間電極G2と、をその主な構成要素として備えている。
【0040】
筒状部材13は、その内部に放電ガス導入管17を通じて放電ガスとしてのアルゴンガスが導入されるように構成されている。カソード12(カソードマウント11)と後述するアノード51とには、可変抵抗体RVを介して、主バイアス電圧印加装置V1の負極端子及び正極端子がそれぞれ接続されている。
【0041】
第1中間電極G1には、抵抗体R1を介して、主バイアス電圧印加装置V1の正極端子が接続されている。第2中間電極G2には、抵抗体R2を介して、主バイアス電圧印加装置V1の正極端子が接続されている。主バイアス電圧印加装置V1と可変抵抗体RV,R1,R2との組み合わせによって、カソード12とアノード51との間に所定のバイアス電圧が印加される。これにより、プラズマガン10のカソード12の近傍において、円柱状プラズマ22が発生する。
【0042】
プラズマガン10の前端には、シートプラズマ形成槽20の後端が接続されている。シートプラズマ形成槽20は、筒状部材19の後端及び前端が、それぞれ、中央部が開口した絶縁蓋部材15及び中央部が開口した第1フランジ29によって閉鎖されて形成されている。ここで、筒状部材19は、非磁性体で構成されている。また、筒状部材19の後端側の周囲には、導入された円柱状プラズマ22の形状を整える第1環状コイル23が配設されている。筒状部材19における第1環状コイル23が配設された位置の前方には、一対の永久磁石24A,24Bが配設されている。これらの一対の永久磁石24A,24Bは、それぞれのN極を対向させるようにして配設されている。一対の永久磁石24A,24Bは、導入された円柱状プラズマ22をシートプラズマ27に形成する。さらに、筒状部材19の前端側の周囲には、形成されたシートプラズマ27の形状を整える第2環状コイル28が配設されている。
【0043】
シートプラズマ形成槽20の前端には、成膜槽30の後端が接続されている。シートプラズマ形成槽20において形成されたシートプラズマ27は、成膜槽30の内部に導入される。
【0044】
成膜槽30は、第1チャンバ61と、第2チャンバ67と、を備えている。第1チャンバ61及び第2チャンバ67は、非磁性の材料、例えば、ステンレス、アルミニウム等で構成される。第1チャンバ61には、その高さ方向(Y方向)のほぼ中間に、シートプラズマ27が通過する第1通路42が設けられている。第1通路42の内部空間は、形成されたシートプラズマ27がその第1通路42を通り抜けることができる大きさに形成されている。第1通路42の上流側には、第1絶縁部材71を介して、第1通路42と接合する第1フランジ29が配設されている。シートプラズマ形成槽20と成膜槽30とは、第1チャンバ61の側面に形成された第1通路42、第1フランジ29、及び第1絶縁部材71を介して連結されている。
【0045】
成膜槽30の内部には、成膜空間31が形成されている。成膜空間31は、ターゲット収容部31Aと基板収容部31Bとからなっている。
【0046】
第1チャンバ61の上側には、円柱状空間61Aが形成されている。第1チャンバ61の下側には、円柱状空間61Bが形成されている。第1チャンバ61の上端には、絶縁部材65が設けられている。絶縁部材65は、第1チャンバ61の上側開口の大きさに対応する短円筒状に形成されていて、上側開口に対して同心状に設けられている。絶縁部材65の上面には、上蓋35が設けられている。なお、絶縁部材65及び上蓋35は、第1チャンバ61に対して気密的に取り付けられている。そして、第1チャンバ61の上側の円柱状空間61Aと、絶縁部材65と上蓋35とで囲まれた空間と、を合わせたものが、ターゲット収容部31Aを構成する。
【0047】
ターゲット収容部31Aには、多重リングターゲット33を保持する多重リング状のバッキングプレート63が配設されている。多重リングターゲット33は、シートプラズマ27の一方の主面からターゲット収容部31A側に後退した位置に配置されている。ここで、バッキングプレート63は、導電性材料により、多重リング状に形成されている。また、このバッキングプレート63のそれぞれには、冷却機構(図示せず)が設けられている。例えば、バッキングプレート63のそれぞれの内部に冷却水流路(図示せず)を形成し、この冷却水流路と成膜槽30の外部において成膜槽30に対して気密的に設けられた冷却水循環装置(図示せず)とを接続し、バッキングプレート63のそれぞれの内部に冷却水を循環させる。この冷却機構により、バッキングプレート63に保持された多重リングターゲット33のスパッタによる温度上昇が適切に抑制される。
【0048】
また、バッキングプレート63は、絶縁部材39A〜39Eを介して上蓋35に取り付けられている。ここで、絶縁部材39A〜39Eは、上蓋35に設けられた貫通穴(図示せず)に挿通されている。さらに、バッキングプレート63と上蓋35との間に介在するように、図示しない絶縁部材が設けられている。すなわち、本実施の形態において、バッキングプレート63は、成膜槽30と短絡しないよう、成膜槽30(上蓋35)に対して電気的に絶縁されている。
【0049】
また、絶縁部材39A〜39Eは、成膜槽30の内部の成膜空間31の真空度を保つことができるよう、上蓋35に対して気密的に配設されている。多重リングターゲット33の材料としては、単体の金属材料や誘電体等の絶縁物材料その他の材料を用いることができる。この材料は、後述する基板34Aに形成される膜に応じて適宜選択される。
【0050】
バッキングプレート63の、多重リングターゲット33の中央からその周囲に向けて1番目、3番目、5番目に対応する部分には、バイアス電圧印加装置V2,V4,V6が接続されている。バイアス電圧印加装置V2,V4,V6は、絶縁部材39A,39C,39Eに設けられた貫通孔40A,40C,40Eを介して、バッキングプレート63のそれぞれに接続されている。そして、このバイアス電圧印加装置V2,V4,V6により、バッキングプレート63を介して多重リングターゲット33の中央からその周囲に向けて1番目、3番目、5番目に、アース電位に対する負の直流バイアス電圧が印加される。なお、このバイアス電圧印加装置V2は、高周波電圧により負のバイアス電圧が印加されるものであってもよい。
【0051】
また、バッキングプレート63の、多重リングターゲット33の中央からその周囲に向けて2番目、4番目に対応する部分は、接地されている。具体的には、絶縁部材39B,39Dに設けられた貫通孔40B,40Dを介して、バッキングプレート63の中央からその周囲に向けて2番目及び4番目が、それぞれ接地されている。これにより、バッキングプレート63を介して多重リングターゲット33の中央からその周囲に向けて2番目及び4番目が、それぞれ接地されている。
【0052】
なお、多重リングターゲット33の詳細な構成、および、多重リングターゲット33へのバイアス電圧の詳細な印加形態、ならびに、多重リングターゲット33の詳細な接地形態については、後に具体的に説明する。
【0053】
第1チャンバ61の下側開口には、第2チャンバ67が設けられている。第2チャンバ67は、第1チャンバ61の下側開口の大きさに対応した円筒状に形成されていて、下側開口に対して同軸状に設けられている。第2チャンバ67の下端には、下蓋36が設けられている。なお、第1チャンバ61と第2チャンバ67、及び第2チャンバ67と下蓋36とは、互いに気密的に取り付けられている。そして、第1チャンバ61の下側の円柱状空間61Bと、第2チャンバ67と下蓋36とで囲まれた空間と、を合わせたものが、基板収容部31Bを構成する。
【0054】
基板収容部31Bには、基板34Aを保持する導電性の基板ホルダ34が配設されている。基板34Aは、シートプラズマ27の他方の主面から基板収容部31B側に後退した位置に配置されている。ここで、基板ホルダ34は、円板状の導電性のホルダ34Bを備えている。このホルダ34Bには、Y方向に延びる円柱状の導電性の支軸34Cが接続されている。そして、支軸34Cは、前記成膜槽30の下蓋36に設けられた貫通穴(図示せず)に挿通されている。支軸34Cは、絶縁部材34Dを介して下蓋36に取り付けられている。すなわち、支軸34Cは、成膜槽30と短絡しないよう、成膜槽30に対して電気的に絶縁されている。基板ホルダ34は、形成されたシートプラズマ27を挟んで前記多重リングターゲット33と対向するよう(ここでは、共に水平に)配設されている。支軸34Cは、成膜槽30内部の成膜空間31の真空度を保つことができるよう、成膜槽30に対して気密的に配設されている。
【0055】
基板ホルダ34には、バイアス電圧印加装置V7が接続されている。このバイアス電圧印加装置V7により、基板ホルダ34を介して基板34Aに、アース電位に対する負の直流バイアス電圧が印加される。なお、このバイアス電圧印加装置V7は、高周波電圧により負のバイアス電圧が印加されるものであってもよい。
【0056】
成膜槽30の適所には、成膜空間31を真空引きするための排気口32が設けられている。排気口32は、バルブ37により開閉可能に構成されている。排気口32には、真空ポンプ38が接続されている。真空ポンプ38は、シートプラズマ27が輸送できるレベルにまで、成膜空間31の内部を速やかに減圧する。
【0057】
また、第1チャンバ61の第2通路45の下流側には、第2絶縁部材73を介して、第2通路45に接合する第2フランジ47が配設されている。成膜槽30と後述するアノード槽50とは、第2通路45、第2絶縁部材73、及び第2フランジ47を介して連結されている。
【0058】
アノード槽50は、筒状部材53を備えている。筒状部材53は、本実施の形態ではガラスにより構成されている。アノード槽50は、上記の第2フランジ47に筒状部材53の一端が接続され、この筒状部材53の他端がアノード51により閉鎖されて形成されている。筒状部材53の周囲には、第3電磁コイル48(プラズマ流動手段)が配設されている。第3電磁コイル48は、形成されたシートプラズマ27の幅方向の形状を整えるために用いられる。ここで、筒状部材53とアノード51とは、絶縁物(図示せず)を介して接続されている。アノード51の裏面には、永久磁石52が配設されている。永久磁石52は、そのS極がアノード51と接触するように配設されている。永久磁石52は、シートプラズマ27のZ方向の末端の形状を整える。本実施の形態では、アノード51が接地されている。
【0059】
また、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置100は、制御装置90を備えている。この制御装置90は、主バイアス電圧印加装置V1、真空ポンプ38、バイアス電圧印加装置V2,V4,V6,V7等の動作を制御する。制御装置90は、マイコン等の演算装置で構成され、シートプラズマ成膜装置100の所要の構成要素を制御して、シートプラズマ成膜装置100の動作を制御する。ここで、本明細書においては、制御装置90とは、単独の制御器だけではなく、複数の制御器が協働して制御を実行する制御器群をも意味する。よって、制御装置90は、必ずしも単独の制御器で構成される必要はなく、複数の制御器が分散配置されていて、それらが協働してシートプラズマ成膜装置100の動作を制御するよう構成されていてもよい。
【0060】
次に、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置100の特徴的な構成について説明する。
【0061】
図1に示すように、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置100においては、通常は円盤状のターゲットが配設されているのに対して、成膜槽30におけるターゲット収容部31Aに、多重リングターゲット33が配設されている。
【0062】
図1,2を参照しながら説明すれば、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置100は、その内部空間を減圧可能に構成された成膜槽30と、この成膜槽30を通過するようにシートプラズマを発生させるシートプラズマ発生機構60と、成膜槽30の内部空間に、シートプラズマ27を該シートプラズマ27の厚み方向において挟むように配置された多重リングターゲット33及び基板ホルダ34と、多重リングターゲット33にアース電位に対する負のバイアス電圧を印加するバイアス電圧印加装置V2,V4,V6と、を備えている。ここで、多重リングターゲット33は、シートプラズマ27の厚み方向から見て該多重リングターゲット33の中央に配置されたセンターターゲット33Aと、該センターターゲット33Aの周囲に同心状に配置された複数の第1〜第4リングターゲット33B,33C,33D,33Eとを備えている。また、本実施の形態では、複数の第1〜第4リングターゲット33B,33C,33D,33Eのそれぞれは、互いに絶縁して配設されると共に、センターターゲット33Aと絶縁して配設されている。そして、本実施の形態では、多重リングターゲット33の中央から周囲に向けて、センターターゲット33A及び複数の第1〜第4リングターゲット33B,33C,33D,33Eの奇数番目に負のバイアス電圧が印加されるように構成され、センターターゲット33A及び複数の第1〜第4リングターゲット33B,33C,33D,33Eの偶数番目が接地されるように構成されている。なお、本発明において、センターターゲット33A及び複数の第1〜第4リングターゲット33B,33C,33D,33Eの偶数番目に負のバイアス電圧が印加されるように構成されている場合には、その奇数番目が接地されるように構成されている。また、バイアス電圧印加装置V2,V4,V6は、高周波電圧により負のバイアス電圧が印加されるものであってもよい。
【0063】
ここで、図1に示すように、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置100は、第1,3リングターゲット33B,33Dを接地可能、または、第1,3リングターゲット33B,33Dの電位を浮動電位とすることができるように、第1,2スイッチSW1,SW2を備えている。ここで、第1スイッチSW1は、接地状態とされた端子aと、浮動電位状態とされた端子bと、バイアス電圧印加装置V3の負極と接続された端子cと、第1リングターゲット33Bと接続された端子dと、を備えている。また、第2スイッチSW2は、接地状態とされた端子aと、浮動電位状態とされた端子bと、バイアス電圧印加装置V5の負極と接続された端子cと、第3リングターゲット33Dと接続された端子dと、を備えている。そして、本実施の形態では、第1スイッチSW1の端子aと端子dとが電気的に接続されることにより、第1リングターゲット33Bが接地されるように構成されている。また、第2スイッチSW2の端子aと端子dとが電気的に接続されることにより、第3リングターゲット33Dが接地されるように構成されている。
【0064】
なお、図1に示すように、第1,2スイッチSW1,SW2のそれぞれにおける端子cと端子dとを電気的に接続すれば、第1リングターゲット33Bにバイアス電圧印加装置V3から負のバイアス電圧が印加されるとともに、第3リングターゲット33Dにバイアス電圧印加装置V5から負のバイアス電圧が印加される。この実施の形態については、実施の形態2において説明する。
【0065】
また、図2(a)に示すように、本実施の形態では、シートプラズマ27の厚み方向から見て、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A及び複数の第1〜第4リングターゲット33B,33C,33D,33Eのそれぞれが、互いに5mm以下の間隔dを構成するように配置されている。
【0066】
また、図2(c)に示すように、本実施の形態では、シートプラズマ27の厚み方向と直交する方向から見て、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A及び複数の第1〜第4リングターゲット33B,33C,33D,33Eのそれぞれの下面が、同一平面S上に位置するように構成されている。そして、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A及び複数の第1〜第4リングターゲット33B,33C,33D,33Eのそれぞれの下面が、シートプラズマ27に対して平行となるように構成されている。
【0067】
また、本実施の形態では、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A及び複数の第1〜第4リングターゲット33B,33C,33D,33Eのそれぞれを冷却する冷却機構を更に備えている。この冷却機構により、スパッタによる多重リングターゲット33の温度上昇が抑制される。
【0068】
また、本実施の形態では、バイアス電圧印加装置V2,V4,V6等により、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A及び複数の第1〜第4リングターゲット33B,33C,33D,33Eのそれぞれに、任意のバイアス電圧を独立して印加可能に構成されている。例えば、本実施の形態では、バイアス電圧印加装置V2,V4,V6によって、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、第2,4リングターゲット33C,33Eのそれぞれに、任意のバイアス電圧を独立して印加可能に構成されている。
【0069】
なお、本実施の形態では、多重リングターゲット33が、センターターゲット33Aに加えて、第1〜第4リングターゲット33B,33C,33D,33Eを備えている形態を例示しているが、このような形態に限定されることはない。すなわち、多重リングターゲット33の分割形態は、基板の大きさ及び要求される被膜の均一度等に応じて、適宜設定される。また、図1に示すように、多重リングターゲット33のセンターターゲット33Aにバイアス電圧が印加されるように構成されている場合には、多重リングターゲット33の分割数は奇数となるが、多重リングターゲット33のセンターターゲット33Aが接地されるように構成されている場合には、多重リングターゲット33の分割数は偶数となる。
【0070】
また、多重リングターゲット33においては、基板34A上に成膜される薄膜への不純物の混入を防止するために、センターターゲット33A及び複数の第1〜第4リングターゲット33B,33C,33D,33Eのそれぞれを同一の材料により構成することが望ましい。
【0071】
<動作>
次に、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置100の動作を説明する。ここで、シートプラズマ成膜装置100の動作は、制御装置90によって遂行される。
【0072】
本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置100においては、成膜槽30の内部を、真空ポンプ38により1×10-6Paのオーダーにまで真空引きする。次に、シートプラズマ形成槽20の内部に、プラズマガン10により形成された円柱状プラズマ22を導入する。そして、この円柱状プラズマ22は、一対の永久磁石24A,24Bにより、シートプラズマ27に変形され、成膜槽30の内部に導入される。その後、成膜槽30の内部の圧力は、1×10-3Pa〜10Paのオーダーとされる。
【0073】
成膜槽30内においては、バイアス電圧印加装置V2,V4,V6から負のバイアス電圧が多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、複数の第2,4リングターゲット33C,33Eに印加されている。一方、バイアス電圧印加装置V7から負のバイアス電圧が基板ホルダ34を介して基板34Aに印加されている。そして、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、複数の第2,4リングターゲット33C,33Eが負バイアスに帯電することにより、シートプラズマ27中のアルゴンイオンが多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、複数の第2,4リングターゲット33C,33Eへと引き付けられる。多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、および、複数の第2,4リングターゲット33C,33Eに引き付けられたアルゴンイオンは、多重リングターゲット33を構成するターゲット材料(ターゲット原子)をスパッタする。すると、スパッタされたターゲット原子は、シートプラズマ27をその厚み方向へ通過して、その際にイオンへと変換される。変換されたイオンは、基板34Aの表面に堆積することによって膜を形成する。
【0074】
この基板34上への膜の形成の際、多重リングターゲット33が配設されていないと仮定した場合には、基板34A上に形成される膜の膜厚は、図3(a)の曲線aに示すように、基板34Aの中心付近では厚くなり、基板34Aの中心からの距離が離れ基板34Aの外縁に近づくに連れて薄くなる。すなわち、基板34Aの中心における膜の膜厚を100%と仮定すると、基板34Aの外縁付近では例えば約65%の厚みの膜厚となる。従って、このように、多重リングターゲット33が配設されていないと仮定した場合には、基板34Aの中心と基板34Aの外縁とに形成される膜の膜厚に不均衡が生じる。
【0075】
これに対して、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置100では、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、複数の第2,4リングターゲット33C,33Eに負のバイアス電圧が印加されると共に、多重リングターゲット33の複数の第1,3リングターゲット33B,33Dが接地され、これにより、センターターゲット33Aおよび複数の第2,4リングターゲット33C,33Eを構成するターゲット材料が、シートプラズマ27によってスパッタされる。そして、このようにスパッタされたターゲット材料が、基板34A上に堆積して、その基板34A上に膜を形成する。その際、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、複数の第2,4リングターゲット33C,33Eには、バイアス電圧印加装置V2,V4,V6から負のバイアス電圧がそれぞれ独立して適切な電圧で印加されているので、多重リングターゲット33を構成するターゲット材料は、基板34Aの上面に均一に堆積するようにスパッタされる。これにより、図3(b)の曲線bに示すように、基板34Aの上面にはスパッタ材料が均一に堆積される。そのため、基板34Aの中心付近と外縁付近とに形成される膜の膜厚の不均衡が解消される。
【0076】
なお、本実施の形態では、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、複数の第2,4リングターゲット33C,33Eに負のバイアス電圧が印加され、多重リングターゲット33の第1,3リングターゲット33B,33Dが接地される形態を例示したが、このような形態に限定されることはない。例えば、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、第2,4リングターゲット33C,33Eに負のバイアス電圧が印加される一方で、第1,2スイッチSW1,SW2が操作されて、多重リングターゲット33の第1,3リングターゲット33B,33Dが接地されずにそれらの電位が浮動電位とされるように構成されていてもよい。このような構成としても、本実施の形態により得られる効果と同様の効果を得ることができる。
【0077】
(実施の形態2)
以下の説明では、便宜上、第1〜4リングターゲット33B〜33Eを単に「リングターゲット33B〜33E」と記載する。
【0078】
図4は、本発明の実施の形態2に係るシートプラズマ成膜装置の概略構成を模式的に示す正面図である。
【0079】
また、図5は、図4のシートプラズマ成膜装置により基板上に形成される膜の膜厚分布を模式的に示すグラフであって、(a)は多重リングターゲットを用いない場合の膜厚分布であり、(b)は多重リングターゲットを用いる場合の膜厚分布である。
【0080】
図4に示すように、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置200の構成は、実施の形態1に示すシートプラズマ成膜装置100の構成と基本的に同じである。しかし、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置200の構成は、多重リングターゲット33を構成するセンターターゲット33A、複数のリングターゲット33B,33C,33D,33Eの全てにバイアス電圧印加装置V2,V3,V4,V5,V6から負のバイアス電圧が印加されるように構成されている点で、実施の形態1に示すシートプラズマ成膜装置100の構成とは異なっている。
【0081】
以下、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置200の特徴的な構成及びその動作について説明する。
【0082】
<構成>
先ず、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置200の特徴的な構成を説明する。
【0083】
本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置200においては、実施の形態1の場合と同様にして、成膜槽30におけるターゲット収容部31Aに、多重リングターゲット33が配設されている。
【0084】
そして、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置200は、その内部空間を減圧可能に構成された成膜槽30と、この成膜槽30を通過するようにシートプラズマ27を発生させるシートプラズマ発生機構60と、成膜槽30の内部空間に、シートプラズマ27を該シートプラズマ27の厚み方向において挟むように配置された多重リングターゲット33及び基板ホルダ34と、多重リングターゲット33にアース電位に対して負のバイアス電圧を印加するバイアス電圧印加装置V2,V3,V4,V5,V6と、を備え、多重リングターゲット33は、シートプラズマ27の厚み方向から見て該多重リングターゲット33の中央に配置されたセンターターゲット33Aと、該センターターゲット33Aの周囲に同心状に配置された複数のリングターゲット33B,33C,33D,33Eと、を備え、複数のリングターゲット33B,33C,33D,33Eのそれぞれは、互いに絶縁して配設されると共に、センターターゲット33Aと絶縁して配設され、多重リングターゲット33の中央から周囲に向けて、センターターゲット33A及び複数のリングターゲット33B,33C,33D,33Eの偶数番目及び奇数番目の全てに負のバイアス電圧が印加されるように構成されている。
【0085】
ここで、図4に示すように、本実施の形態では、第1スイッチSW1の端子cと端子dとが電気的に接続されることにより、第1リングターゲット33Bにバイアス電圧印加装置V3から負のバイアス電圧が印加されるように構成されている。また、第2スイッチSW2の端子cと端子dとが電気的に接続されることにより、第3リングターゲット33Dにバイアス電圧印加装置V5から負のバイアス電圧が印加されるように構成されている。これにより、センターターゲット33A及び複数のリングターゲット33B,33C,33D,33Eの偶数番目及び奇数番目の全てに、負のバイアス電圧が印加されるように構成されている。
【0086】
バイアス電圧印加装置V2,V3,V4,V5,V6から、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、複数のリングターゲット33B,33C,33D,33Eに印加されるバイアス電圧の値は、基板34Aの大きさや、基板34A上に形成する薄膜に要求される膜厚の均一度等に応じて、それぞれ独立して適切に設定される。勿論、この設定される負のバイアス電圧の値のそれぞれは、ここでは詳細には説明しないが、基板34Aの大きさ等を自動的に検出して、この検出される基板34Aの大きさに応じて自動的に設定される構成としてもよい。なお、このバイアス電圧印加装置V2,V3,V4,V5,V6から高周波電圧により負のバイアス電圧が印加される構成としてもよい。
【0087】
なお、本実施の形態においても、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、複数のリングターゲット33B,33C,33D,33Eは、それぞれ冷却されることが望ましい。そして、所定の冷媒を通流させる冷媒管を設け、この冷媒管を多重リングターゲット33へのバイアス電圧の印加経路として用いることも可能である。この場合、冷媒管は成膜槽30に対して電気的に絶縁されていなければならない。かかる構成とすると、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、複数のリングターゲット33B,33C,33D,33Eのそれぞれを冷却するための冷媒管が、バイアス電圧の印加経路としても機能するので、シートプラズマ成膜装置200の構成をより一層簡略化することが可能になる。
【0088】
なお、その他の点については、実施の形態1の場合と同様である。
【0089】
<動作>
次に、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置200の動作を説明する。
【0090】
本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置200においても、基板34A上に膜を形成する場合には、成膜槽30の内部を、真空ポンプ38により1×10-6Paのオーダーにまで真空引きする。そして、シートプラズマ形成槽20の内部に、プラズマガン10により形成された円柱状プラズマ22を導入する。すると、この円柱状プラズマ22は、一対の永久磁石24A,24Bにより、シートプラズマ27に変形され、成膜槽30の内部に導入される。その後、成膜槽30の内部の圧力は、1×10-3Pa〜10Paのオーダーとされる。
【0091】
成膜槽30内においては、バイアス電圧印加装置V2,V3,V4,V5,V6から負のバイアス電圧が多重リングターゲット33に印加されていると共に、実施の形態1の場合と同様、バイアス電圧印加装置V7から負のバイアス電圧が基板ホルダ34を介して基板34Aに印加されている。そして、多重リングターゲット33が負バイアスに帯電することにより、シートプラズマ27中のアルゴンイオンが多重リングターゲット33へと引き付けられる。多重リングターゲット33に引き付けられたアルゴンイオンは、多重リングターゲット33を構成するターゲット原子をスパッタする。すると、スパッタされたターゲット原子は、シートプラズマ27をその厚み方向へ通過して、その際にイオンへと変換される。この変換されたイオンは、基板34Aの表面に堆積することによって膜を形成する。
【0092】
また、このシートプラズマ成膜装置200では、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、複数のリングターゲット33B,33C,33D,33Eのそれぞれに、バイアス電圧印加装置V2,V3,V4,V5,V6から負のバイアス電圧が独立して印加される。これにより、多重リングターゲット33を構成するターゲット材料が、シートプラズマ27によって適切にスパッタされる。この適切にスパッタされたターゲット材料が、基板34Aの全面に渡り堆積する。
【0093】
この際、多重リングターゲット33を具備していない場合には、基板34Aにおける面内膜厚分布が悪化する場合がある。従って、このように、多重リングターゲット33が配設されていないと仮定した場合には、基板中心と基板外縁とに形成される膜の膜厚に不均衡が生じる場合がある。
【0094】
そこで、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置200では、多重リングターゲット33にバイアス電圧印加装置V2,V3,V4,V5,V6から負のバイアス電圧が適切に印加される。これにより、基板34Aにおける面内膜厚分布がより一層改善される。つまり、基板34Aの中心付近と外縁付近とに形成される膜の膜厚の不均衡が好適に解消される。また、基板34Aが備える微細な孔や溝へのターゲット原子のカバレッジ性が好適に改善される。
【0095】
図5は、図4のシートプラズマ成膜装置により基板上に形成される膜の膜厚分布を模式的に示すグラフであって、(a)は多重リングターゲットを用いない場合の膜厚分布であり、(b)は多重リングターゲットを用いる場合の膜厚分布である。
【0096】
図5(a)の曲線aに示すように、基板34上への膜の形成の際、多重リングターゲット33が配設されていないと仮定した場合には、基板34A上に形成される膜の膜厚は、基板34Aの中心付近では厚くなり、基板34Aの中心からの距離が離れ基板34Aの外縁に近づくに連れて薄くなる。このように、多重リングターゲット33が配設されていないと仮定した場合には、基板34Aの中心と基板34Aの外縁とに形成される膜の膜厚に不均衡が生じる。
【0097】
これに対して、本実施の形態に係るシートプラズマ成膜装置200では、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、複数のリングターゲット33B,33C,33D,33Eに負のバイアス電圧が印加される。これにより、センターターゲット33Aおよび複数のリングターゲット33B,33C,33D,33Eを構成するターゲット材料が、シートプラズマ27によってスパッタされる。そして、このようにスパッタされたターゲット材料が、基板34A上に堆積することにより、その基板34A上に膜が形成される。この際、多重リングターゲット33のセンターターゲット33A、複数のリングターゲット33B,33C,33D,33Eのそれぞれには、バイアス電圧印加装置V2,V3,V4,V5,V6から負のバイアス電圧がそれぞれ独立して適切な電圧で印加されているので、ターゲット材料は、基板34Aの上面に均一に堆積するようにスパッタされる。これにより、図5(b)の曲線bに示すように、基板34Aの上面にはスパッタ材料が均一に堆積される。そのため、基板34Aの中心付近と外縁付近とに形成される膜の膜厚の不均衡が解消される。
【0098】
なお、その他の点については、実施の形態1の場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係るシートプラズマ成膜装置は、シートプラズマ成膜装置を大型化することなく、基板により一層均一な膜厚の膜を効果的に形成することが可能なシートプラズマ成膜装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係るシートプラズマ成膜装置の概略構成を模式的に示す正面図である。
【図2】図2は、図1のシートプラズマ成膜装置に用いる多重リングターゲットの構成を模式的に示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は斜視図であり、(c)は側面図である。
【図3】図3は、図1のシートプラズマ成膜装置により基板上に形成される膜の膜厚分布を模式的に示すグラフであって、(a)は多重リングターゲットを用いない場合の膜厚分布であり、(b)は多重リングターゲットを用いる場合の膜厚分布である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2に係るシートプラズマ成膜装置の概略構成を模式的に示す正面図である。
【図5】図5は、図4のシートプラズマ成膜装置により基板上に形成される膜の膜厚分布を模式的に示すグラフであって、(a)は多重リングターゲットを用いない場合の膜厚分布であり、(b)は多重リングターゲットを用いる場合の膜厚分布である。
【符号の説明】
【0101】
10 プラズマガン
11 フランジ
12 カソード
13 筒状部材
14 放電空間
15 絶縁体
17 放電ガス導入管
19 筒状部材
20 シートプラズマ形成槽
21 輸送空間
22 円柱状プラズマ
22A 円柱状プラズマの中心
23 第1電磁コイル
24A,24B 永久磁石
27 シートプラズマ(シートプラズマの可視部)
28 第2電磁コイル
29 第1フランジ
30 成膜槽
31 成膜空間
31A ターゲット収容部
31B 基板収容部
32 排気口
33 多重リングターゲット
33A センターターゲット
33B 第1リングターゲット
33C 第2リングターゲット
33D 第3リングターゲット
33E 第4リングターゲット
34 基板ホルダ
34A 基板
34B ホルダ
34C 支軸
34D 絶縁部材
35 上蓋
36 下蓋
37 バルブ
38 真空ポンプ
39A〜39E 絶縁部材
40A〜40E 貫通孔
42 第1通路
45 第2通路
47 第2フランジ
48 第3電磁コイル
50 アノード槽
51 アノード
52 永久磁石
53 筒状部材
60 シートプラズマ発生機構
61 第1チャンバ
61A 上側の円柱状空間
61B 下側の円柱状空間
63 多重リングバッキングプレート
65 絶縁部材
67 第2チャンバ
71 第1絶縁部材
73 第2絶縁部材
90 制御装置
100,200 シートプラズマ成膜装置
G1 第1中間電極
G2 第2中間電極
V1 主バイアス電圧印加装置
V2〜V7 バイアス電圧印加装置
R1,R2 抵抗体
RV 可変抵抗体
d 間隙
s 平面
SW1 第1スイッチ
SW2 第2スイッチ
a〜d 端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部空間を減圧可能に構成された成膜槽と、
前記成膜槽を通過するようにシートプラズマを発生させるシートプラズマ発生機構と、
前記成膜槽の内部空間に、前記通過するシートプラズマを該シートプラズマの厚み方向において挟むように配置された多重リングターゲット及び基板ホルダと、
前記多重リングターゲットにバイアス電圧を印加する電源装置と、を備え、
前記多重リングターゲットは、前記シートプラズマの厚み方向から見て該多重リングターゲットの中央に配置されたセンターターゲットと、該センターターゲットの周囲に同心状に配置された複数のリングターゲットと、を備え、
前記複数のリングターゲットのそれぞれは、互いに絶縁して配設されると共に、前記センターターゲットと絶縁して配設され、
前記多重リングターゲットの中央から周囲に向けて、前記センターターゲット及び前記複数のリングターゲットの偶数番目に前記バイアス電圧が印加されるように構成されている場合にはその奇数番目を接地可能又は該奇数番目の電位を浮動電位とすることができるように構成され、前記センターターゲット及び前記複数のリングターゲットの奇数番目に前記バイアス電圧が印加されるように構成されている場合にはその偶数番目を接地可能又は該偶数番目の電位を浮動電位とすることができるように構成されている、シートプラズマ成膜装置。
【請求項2】
前記多重リングターゲットの中央から周囲に向けて、前記センターターゲット及び前記複数のリングターゲットの偶数番目に前記バイアス電圧が印加されるように構成されている場合にはその奇数番目が接地されるように構成され、前記センターターゲット及び前記複数のリングターゲットの奇数番目に前記バイアス電圧が印加されるように構成されている場合にはその偶数番目が接地されるように構成されている、請求項1記載のシートプラズマ成膜装置。
【請求項3】
前記多重リングターゲットの中央から周囲に向けて、前記センターターゲット及び前記複数のリングターゲットの偶数番目及び奇数番目の全てに前記バイアス電圧が印加されるように構成されている、請求項1記載のシートプラズマ成膜装置。
【請求項4】
前記シートプラズマの厚み方向から見て、前記多重リングターゲットのセンターターゲット及び複数のリングターゲットのそれぞれが、互いに5mm以下の間隔を構成するように配置されている、請求項1記載のシートプラズマ成膜装置。
【請求項5】
前記シートプラズマの厚み方向と直交する方向から見て、前記多重リングターゲットのセンターターゲット及び複数のリングターゲットのそれぞれの下面が、同一平面上に位置するように構成されている、請求項1記載のシートプラズマ成膜装置。
【請求項6】
前記シートプラズマの厚み方向と直交する方向から見て、前記多重リングターゲットのセンターターゲット及び複数のリングターゲットのそれぞれの下面が、同一平面上に位置しかつ前記シートプラズマに対して平行となるように構成されている、請求項5記載のシートプラズマ成膜装置。
【請求項7】
前記多重リングターゲットのセンターターゲット及び複数のリングターゲットのそれぞれを冷却する冷却器を更に備えている、請求項1記載のシートプラズマ成膜装置。
【請求項8】
前記多重リングターゲットのセンターターゲット及び複数のリングターゲットのそれぞれに任意の前記バイアス電圧を独立して印加可能に構成されている、請求項1記載のシートプラズマ成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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