説明

シートベルトアンカーの取付構造

【課題】 シートベルトアンカーの取付強度の確保とインナパネルの変形による衝撃の緩和とを両立して図る
【解決手段】 ピラー1は、アウタパネル5とインナパネル6とを有し、アウタパネル5とインナパネル6とが閉空間7を形成する。インナパネル6には、開口部8が形成されている。レインフォース2は、接合部11とアンカー支持部9とを有する。接合部11は、閉空間7内でアウタパネル5の車内側に接合される。アンカー支持部9の車内側の表面は、インナパネル6の開口部8から突出する。トリムカバー3は、取付穴12を有し、インナパネル6の車内側に設けられる。シートベルトアンカー4は、トリムカバー3の車内側に配置され、取付穴12を挿通するアンカーボルト14によってレインフォース2のアンカー支持部9に取り付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両におけるシートベルトアンカーの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のシートベルトアンカーの取付構造として、シートベルトアンカーの取付強度を確保するために剛性の高いレインフォースによってピラーのインナパネルを補強し、この補強されたインナパネルにシートベルトアンカーをアンカーボルトによって締結固定するものがある。インナパネルの車内側はトリムカバーにより覆われ、シートベルトアンカーはトリムカバー上に配置される。
【0003】
【特許文献1】特開2000−272540号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記構成では、シートベルトアンカーの取付部分の周縁領域では、インナパネルを補強するレインフォースがインナパネルの車外側への変形を規制する。すなわち、インナパネルの変形による衝撃吸収が、レインフォースによって妨げられる。このため、車両衝突時などに乗員の頭部等がピラーに衝突した際に、その衝撃を充分に緩和することが難しい。
【0005】
上記不都合は、トリムカバーをインナパネルから離間して設け、トリムカバーとインナパネルとの間に、衝撃吸収材を配置することにより、解消することが可能である。
【0006】
しかし、トリムカバーをインナパネルから離間して設ける場合、トリムカバーとインナパネルとの間にスペーサを介在させると共に、長いアンカーボルトを使用する必要があり、シートベルトアンカーとインナパネルとの距離が増大し、作用するモーメントも自ずと増大する。このため、シートベルトアンカーに過大な引張力が作用した際に、インナパネルとアンカーボルトとの締結部分やスペーサに過大なモーメントが作用し、アンカーボルトの破損や離脱が生じてしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、シートベルトアンカーの取付強度の確保とインナパネルの変形による衝撃の緩和とを両立して図ることが可能なシートベルトの取付構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る構造は、ピラーとレインフォースとトリムカバーとシートベルトアンカーとを備える。ピラーは、アウタパネルとインナパネルとを有し、このアウタパネルとインナパネルとが閉空間を形成する。インナパネルには、開口部が設けられている。レインフォースは、接合部とアンカー支持部とを有する。接合部は、アウタパネルとインナパネルの間の閉空間内でアウタパネルの車内側に接合される。アンカー支持部は、インナパネルの開口部から突出する位置、又は開口部に車外側から近接して臨む位置に配置される。トリムカバーは、取付穴を有し、インナパネルの車内側に設けられる。シートベルトアンカーは、トリムカバーの車内側に配置され、取付穴を挿通する締結部材によってレインフォースのアンカー支持部に取り付けられる。
【0009】
上記構成では、インナパネルがレインフォースに固定されていないので、レインフォースによってインナパネルの車外側への変形が規制されることがない。従って、車両衝突時などに乗員の頭部等の被衝突物がピラーに衝突した際に、インナパネルの変形によってその衝撃を吸収することができ、被衝突物に付与される衝撃を充分に緩和することができる。
【0010】
また、シートベルトアンカーが取り付けられるアンカー支持部は、インナパネルの開口部から突出する位置、又は開口部に車外側から近接して臨む位置に配置されているので、シートベルトアンカーとアンカー支持部との距離が大きく離間することがなく、作用するモーメントの増大も抑えられる。従って、シートベルトアンカーに過大な引張力が作用した場合であっても、アンカー支持部や締結部材に過大なモーメントが作用することがなく、締結部材の破損や離脱の発生を確実に防止することができる。
【0011】
このように、上記構成によれば、シートベルトアンカーの取付強度の確保とインナパネルの変形による衝撃の緩和とを両立して図ることができる。
【0012】
また、インナパネルとトリムカバーとの間に、衝撃吸収用の閉空間を形成してもよい。
【0013】
上記構成では、インナパネルの変形に加えてトリムカバーの変形によっても衝撃を吸収することができるので、被衝突物に付与される衝撃をさらに良好に緩和することができる。
【0014】
さらに、アウタパネルとインナパネルとの間の閉空間及びインナパネルとトリムカバーとの間の閉空間の少なくとも一方に、衝撃吸収材を配置してもよい。
【0015】
上記構成では、被衝突物に付与される衝撃を衝撃吸収材によってさらに効果的に緩和することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シートベルトアンカーの取付強度の確保とインナパネルの変形による衝撃の緩和とを両立して図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は本発明の第1実施形態に係るシートベルトアンカーの取付構造の断面図、図2は図1の要部分解斜視図である。なお、図中INは車内側を、UPは車両上方をそれぞれ示している。
【0019】
図1及び図2に示すように、本発明に係る構造は、ピラー1とレインフォース2とトリムカバー3とシートベルトアンカー4とを備える。
【0020】
ピラー1は、車体の柱部材を構成し、車外側のアウタパネル5と車内側のインナパネル6とを有する。アウタパネル5とインナパネル6との間には閉空間7が形成され、インナパネル6の所定位置には、開口部8が形成されている。開口部8は、後述するレインフォース2のアンカー支持部9よりも僅かに大きい略矩形状を有する。
【0021】
レインフォース2は、アンカー支持部9と2つの連結部10と2つの接合部11とを有する。各連結部10は、アンカー支持部9と各接合部11とを連結する。アンカー支持部9は略矩形状を有し、その略中央には後述するアンカーボルト14のための挿通孔9aが形成されている。各連結部10は、アンカー支持部9の相対向する両端縁から同方向にそれぞれ曲折されている。各連結部10は、アンカー支持部9から略同幅で延びた後に接合部11に向かって拡幅する略台形状を有する。各接合部11は、略矩形状を有し、各連結部10からアンカー支持部9の反対側で且つアンカー支持部9と略平行に曲折されている。また、2つの連結部10は、その両者間の幅がアンカー支持部9側で最小となり接合部11側で最大となるように、アンカー支持部9及び接合部11に対して傾斜している。
【0022】
各接合部11は、アウタパネル5とインナパネル6の間の閉空間7内でアウタパネル5の車内側の表面上の所定の位置に溶着により接合されている。係る状態で、アンカー支持部9の車内側の表面は、インナパネル6の開口部8から車内側へ僅かに突出する。
【0023】
トリムカバー3は、樹脂材により形成され、インナパネル6の車内側に取り付けられてインナパネル6を覆う。トリムカバー3には、インナパネル6の開口部8と対向する取付穴12が形成されている。なお、トリムカバー3の上端は、ガラスパネル17を支持している。
【0024】
シートベルトアンカー4は、トリムカバー3の車内側に配置され、車室内の乗員を拘束するためのシートベルト13を支持する。シートベルトアンカー4は、トリムカバー3の取付穴12を挿通する締結部材としてのアンカーボルト14によってアンカー支持部9に対して締結固定される。レインフォース2のアンカー支持部9の車外側には、アンカーボルト14と螺合するナット15が、挿通孔9aと連通した状態で予め溶接等により固着されている。なお、アンカーボルト14の外周には、アンカーボルト14とナット15との締結力がトリムカバー3に直接作用するのを防ぐためのスペーサ16が設けられている。
【0025】
上記構成によれば、インナパネル6がレインフォース2に固定されていないので、レインフォース2によってインナパネル6の車外側への変形が規制されることがない。従って、車両衝突時などに乗員の頭部等の被衝突物がピラー1に衝突した際に、インナパネル6の変形によってその衝撃を吸収することができ、被衝突物に付与される衝撃を充分に緩和することができる。
【0026】
また、シートベルトアンカー4が取り付けられるレインフォース2のアンカー支持部9は、インナパネル6の開口部8から突出する位置に配置されているので、シートベルトアンカー4とアンカー支持部9との距離(シートベルトアンカー4に作用する引張力Fの入力位置とその支持位置との距離)Lが大きく離間することがなく、作用するモーメントの増大が抑えられる。従って、シートベルト13を介してシートベルトアンカー4に過大な引張力Fが作用した場合であっても、アンカー支持部4やアンカーボルト14やナット15に過大なモーメントが作用することがなく、アンカーボルト14及びナット15の破損や外れを確実に防止することができる。
【0027】
このように、本実施形態によれば、シートベルトアンカー4の取付強度の確保とインナパネル6の変形による衝撃の緩和とを両立して図ることができる。
【0028】
また、本実施形態では、アンカー支持部9をインナパネル6の開口部8から車内側へ突出させたが、図3に示すように、アンカー支持部9を開口部8に車外側から近接して臨む位置に配置してもよい。
【0029】
次に、本発明の第2実施形態について、図4〜図6に基づき説明する。図4は本発明の第2実施形態に係るシートベルトアンカーの取付構造の断面図、図5は図4のV−V矢視断面図、図6は図4の要部分解斜視図である。なお、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0030】
図4〜図6に示すように、本実施形態では、第1実施形態よりもインナパネル6を車外側に配置される形状とし、開口部8から車内側へのアンカー支持部9の突出量を増大させことにより、インナパネル6とトリムカバー3との間にトリムカバー3の車外側への変形を許容する衝撃吸収用の閉空間18を形成したものである。
【0031】
本実施形態によれば、インナパネル6の変形に加えて樹脂製のトリムカバー3の変形によっても衝撃を吸収することができるので、被衝突物に付与される衝撃をさらに良好に緩和することができる。
【0032】
さらに、図4に示すように、アウタパネル5とインナパネル6との間の閉空間7及びインナパネル6とトリムカバー3との間の閉空間18の少なくとも一方に、衝撃吸収材19,20を配置してもよい。
【0033】
ここで、衝撃吸収材19,20の例を図7〜図13に示す。
【0034】
図7及び図8は、略U状に曲折された板状弾性部材21を、衝撃吸収材19,20としてピラー1の上下方向に沿って複数配置したものである。図9〜図11は、略S状に繰り返して折り返された波板状の板状弾性部材22を、衝撃吸収材19としてピラー1の幅方向に沿って複数配置したものである。図12は、トリムカバー3に車外側へ突出するリブ23を一体的に形成し、このリブ23を衝撃吸収材20として機能させるものである。さらに、図13は、略S状に繰り返して折り返された波板部24をインナパネル6に一体的に屈曲形成し、この波板部24を衝撃吸収材19,20として機能させるものである。
【0035】
本実施形態によれば、被衝突物に付与される衝撃を、衝撃吸収材19,20によってさらに効果的に緩和することができる。
【0036】
なお、上記第1及び第2実施形態では、レインフォース2の接合部11とアウタパネル5との接合を溶着により行っているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、図14に示すようにボルト25及びナット26による締結によって接合してもよく、また図15に示すように接着材27によって接合してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、様々な自動車のシートベルトアンカーの取付構造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態に係るシートベルトアンカーの取付構造の断面図である。
【図2】図1の要部分解斜視図である。
【図3】第1実施形態の変形例を示す断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るシートベルトアンカーの取付構造の断面図である。
【図5】図4のV−V矢視断面図である。
【図6】図4の要部分解斜視図である。
【図7】衝撃吸収材の一例を示す断面図である。
【図8】図7の要部斜視図である。
【図9】衝撃吸収材の他の例を示す断面図である。
【図10】図9の衝撃吸収材を他の断面で切断した断面図である。
【図11】図9及び図10の要部斜視図である。
【図12】衝撃吸収材のさらに他の例を示す断面図である。
【図13】衝撃吸収材のさらに他の例を示す断面図である。
【図14】第2実施形態の変形例を示す断面図である。
【図15】第2実施形態の他の変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1:ピラー
2:レインフォース
3:トリムカバー
4:シートベルトアンカー
5:アウタパネル
6:インナパネル
7:閉空間
8:開口部
9:アンカー支持部
9a:挿通孔
10:連結部
11:接合部
12:取付穴
14:アンカーボルト(締結部材)
15:ナット
16:スペーサ
16a:ボルトの頭部
17:ガラスパネル
18:閉空間
19,20:衝撃吸収材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウタパネルとインナパネルとにより閉空間を形成し、前記インナパネルに開口部を有するピラーと、
前記閉空間内で前記アウタパネルの車内側に接合される接合部と、前記インナパネルの開口部から突出し又は該開口部に車外側から近接して臨むアンカー支持部と、を有するレインフォースと、
前記インナパネルの車内側に設けられ、取付穴を有するトリムカバーと、
前記トリムカバーの車内側に配置され、前記取付穴を挿通する締結部材によって前記レインフォースのアンカー支持部に取り付けられるシートベルトアンカーと、を備えた
ことを特徴とするシートベルトアンカーの取付構造。
【請求項2】
請求項1に記載のシートベルトアンカーの取付構造であって、
前記インナパネルと前記トリムカバーとの間に、衝撃吸収用の閉空間が形成されている
ことを特徴とするシートベルトアンカーの取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−123812(P2006−123812A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316540(P2004−316540)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】