説明

シートベルト用細幅織物

【課題】ニードル織機を用いて、両側に同一の耳部をもつベルトウェビングを提供する。
【解決手段】左右から交互に打ち込まれる緯糸の一部に絡み糸からなる耳糸を係合させ、緯糸が当該耳部に顕在しない様に構成したシートベルト用ウェビング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニードル織機で織成された耳部付き細幅織物からなるシートベルト用細幅織物及びその製造方法に関するものであり、特に詳しくは、ニードル織機を用いて、その両側に同一構造からなる鎖編組織で構成された耳部を持つベルトウェビングであって、当該耳部の外部から、細幅織物を構成する緯糸が目視されない様に構成されたシートベルト用細幅織物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のシートベルトは乗員を衝突時の衝撃から保護するための最も基本的なシステムであり、現在ではほぼ全ての自動車に採用されている。従来は、自動車の前部座席にはシートベルト用の細幅織物(以下ウェビングと称す)を巻き取るためのリトラクターを装備したシートベルトが装備され、後部座席はリトラクターのないシートベルトが装備される例も多かったが、近年では衝突時の後部座席での安全性を向上させる観点から、後部座席もリトラクター付のシートベルトが装備された自動車が多くなってきている。このような傾向の中で、リトラクターを含めたシートベルトシステムの配置は、自動車の室内の設計を検討する上で無視できない要素であり、設計の自由度を大きくする意味でも、車両全体の軽量化を進める上でもリトラクターの容積を小さくすることは有意性のあるテーマと考えられる。現状のリトラクターの構造から考えた場合、最も大きな体積を占めているのがリトラクター内部に収納されるウェビングであることから、ウェビングの性能を保ったままで幅を狭くする、あるいは厚さを薄くすることにより、収納されるウェビングそのものの体積を小さくすることが、リトラクターの容積を小さくすることに結びつくと考えられる。
【0003】
ウェビングの幅を狭くすることは、設計段階で既存のウェビング設計時の知見を加えることにより、ある程度の自由度が得られるが、シートベルトシステムとしての使用を考えた場合、ウェビングの幅が狭くなりすぎると衝突時に乗員に加わる応力に影響し、公的な規格や各自動車メーカーの独自の規格でも幅の下限が定められている例が多いため、現実的に設計上で選択できるウェビングの幅は制限されている。
【0004】
一方で、ウェビングの厚みを薄くするという課題を解決するには、緯糸の打ち込み数を落とし、強力利用率を上げて経糸本数を少なくする方法或は、緯糸を細くする方法等が考えられる。然しながら、上記した方法では、当該シートベルト用ウェビングの幅方向の剛性が減少するという問題を伴う。シートベルト用ウェビングにあっては、リトラクターに巻き取られたり、当該リトラクターから巻き戻されると言う操作が頻繁に実行される為、当該シートベルト用ウェビングの本体部に於ける幅方向の曲げ硬さを所望の硬さに設定する事が必要となっている。即ち、当該シートベルト用ウェビングの幅方向の曲げ硬さが十分でないと、当該シートベルトを操作する際に、当該シートベルトが幅方向に曲げられ、或は折り畳まれてしまい、当該リトラクター内部に当該シートベルトが収納出来なくなったり、当該リトラクターから容易に引き出せなくなるといった問題が発生する。
【0005】
シートベルト用ウェビングの幅方向の曲げ硬さを改善し剛性を増すための手段としては、当該シートベルト用ウェビングの緯糸として、太い糸を使用するとか、モノフィラメント糸のみ或はモノフィラメント糸とマルチフィラメント糸との混繊糸を使用する事が提案されている。然しながら、緯糸に太い糸を使用することは、ウェビングの厚みを薄くするために緯糸を細くするという前述の要求と矛盾し、ウェビングの厚さを増す方向に作用する。よって、ウェビングの厚さに影響を与えずに幅方向の曲げ硬さを改善し剛性を増すための手段としては、緯糸にモノフィラメント糸を用いるのが最も現実的な選択と考えられる。
【0006】
シートベルト用ウェビングを製造する方法としては、ニードル織機を使用して経糸群間に片側から緯糸を挿入し、織組織を構成して当該シートベルト用ウェビングを製造する事が一般的である。この一般的な製造方法で緯糸にマルチフィラメント糸を使用してウェビングを製織する試みは実験的に行われたが、ウェビングの両端部の緯糸の折り返し部分でマルチフィラメント糸が端部に露出することにより、ウェビングの商品性において非常に重要な要素である耳部の感触が極めて悪くなるという結果を招いた。この問題を解決する方法としては、例えば、米国公開特許第4313473号公報(特許文献1)において緯糸にモノフィラメント糸とマルチフィラメント糸の両方を用いることで、モノフィラメント糸のウェビング端部への露出を防ぎながら、幅方向の曲げ硬さを改善し剛性を増すための技術が開示されている。
【0007】
また、特開2006−161265号公報(特許文献2)では、ニードル織機を使用して経糸群間に両側から緯糸を挿入するという方法でウェビングを製織する技術が開示されており、この技術を用いて緯糸にマルチフィラメント糸とモノフィラメント糸を使用することが述べられている。
【0008】
その他、モノフィラメント糸を緯糸に使用したシートベルト用ウェビングに於ける耳部の特性を改善するため技術として、特開2004−324011号公報(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国公開特許第4313473号公報
【特許文献2】特開2006−161265号公報
【特許文献3】特開2004−324011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、シートベルトシステムにおいてシートベルト用ウェビングの体積を小さくするには、ウェビングそのものの厚さを薄くすることが必要であり、そのための方策として、緯糸の打ち込み数を落とし、強力利用率を上げて経糸本数を少なくする方法或は、緯糸を細くする方法等が考えられる。このような方法では、ウェビングの幅方向の剛性が低下するため、これを補うために緯糸にモノフィラメント糸を用いる方法が用いられている。然しながら、これまで公知となっている技術は、モノフィラメント糸を緯糸に用いてウェビングの幅方向の剛性を高める目的のみに沿ったもので、本来の要求であるウェビングの厚さを薄くするという目的に応用できる例は見られない。よって、本発明ではウェビング織物の両側からモノフィラメント糸の緯糸を挿入し、ウェビングの厚さを増大させることなく当該ウェビングの幅方向の剛性を高め、且つモノフィラメント糸を当該ウェビングの端部に露出させないことで、シートベルト用ウェビングとしての商品性を損なわない細幅織物とその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記した目的を達成するために、基本的には、以下に記載された様な技術構成を採用するものである。即ち、本発明に係るシートベルト用ウェビングの第1の態様としては、ニードル織機を用いて織成されたシートベルト用ウェビングであって、当該ウェビングは、複数本の経糸群と、当該経糸群の中に、少なくとも一部にモノフィラメントを含んでいる緯糸が当該経糸群の左右の端縁部から交互に、それぞれ個別に折り畳まれた状態で打ち込まれる緯糸群とで織成されたものであり、且つ当該ウェビングの当該経糸群の左右の端縁部には、当該経糸群を構成する糸条及び当該緯糸群を構成する糸条の何れとも異なる糸条からなる絡み糸による鎖編構造体が配置されており、当該鎖編構造体は、当該緯糸の折り返し側端部とは係合しておらず、当該緯糸の引き込み側端部とのみ係合して、当該係合部が当該経糸群内に引き込まれている構成を有し、当該緯糸が当該鎖編構造体から目視できない様に構成されている事を特徴とするシートベルト用ウェビングであり、又、本発明に於ける第2の態様としては、ニードル織機を用いて織成されたシートベルト用ウェビングの製造方法であって、当該ウェビングは、複数本の経糸群の中に、少なくとも一部にモノフィラメントを含んでいる緯糸が当該経糸群の左右の端縁部から交互に、それぞれ個別に折り畳まれた状態で打ち込まれると共に、当該経糸群の左右の端縁部に絡み糸による鎖編構造体からなる耳部を形成することによって、ウェビングを織成するに際し、当該経糸群の左右の端縁部に於ける当該鎖編構造体を構成する絡み糸と係合する編針の編み目形成部位に対応する位置に、当該緯糸の配置位置を変更する緯糸配置位置変更手段を設け、一方の端縁部に於ける当該緯糸を、他方の端縁部から別の緯糸が移動してきた際に、当該緯糸配置位置変更手段を作動させて、当該鎖編構造体を形成する編針の作動位置から離反させる事を特徴とするシートベルト用ウェビング製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる当該シートベルト用ウェビング及び当該シートベルト用ウェビングの製造方法は、上記した様な技術構成を採用している事から、当該シートベルト用ウェビングの厚みを例えば1.0mm以下に設定したものであっても、当該シートベルト用ウェビングの幅方向の曲げ硬さは、従来のシートベルト用ウェビングと同様の製品と同等のレベルを有し、然も、当該シートベルト用ウェビングの両端部の鎖編み目からなる耳部は、当該シートベルト用ウェビングの両端部の側面を十分に被覆しており、緯糸が当該耳部の外表面部に顕在せず又それを外部から透視する事も出来ない様に構成されているので、風合いは柔軟で耐摩耗性も十分確保できる、高品質のシートベルト用ウェビングを得る事が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に於けるシートベルト用ウェビングの一具体例に於ける構成を説明する図である。
【図2】図2は、本発明に於けるシートベルト用ウェビングの織成方法の一具体例の装置の構成を概略的に説明する図である。
【図3】図3は、本発明に於けるシートベルト用ウェビングの織成工程に於ける緯糸配置位置変更手段の動作及びその機能を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかるシートベルト用ウェビングの一具体例の構成を、図面を参照しながら詳細に説明する。即ち、図1は、本発明に係るシートベルト用ウェビング1の一具体例の構成を示す平面図であって、図中、ニードル織機を用いて織成されたシートベルト用ウェビング1であって、当該ウェビング1は、複数本の経糸群2と、当該経糸群2の中に、少なくとも一部にモノフィラメントを含んでいる緯糸4が当該経糸群2の左右の端縁部7、7’から交互に、それぞれ個別に折り畳まれた状態8、8’で打ち込まれる緯糸群4とで織成されたものであり、且つ当該ウェビング1の当該経糸群2の左右の端縁部7、7’には、当該経糸群2を構成する糸条及び当該緯糸群4を構成する糸条の何れとも異なる糸条からなる絡み糸9、9’による鎖編構造体10、10’から構成された耳部6、6’が配置されており、当該鎖編構造体10、10’は、当該緯糸4の折り返し側端部11、11’とは係合しておらず、当該緯糸4の引き込み側端部12、12’とのみ係合して、係合部13、13’を形成し、当該係合部13、13’が当該経糸群2内に引き込まれている構成を有し、当該緯糸4、4’が当該鎖編構造体10、10’により目視できない様に構成されているシートベルト用ウェビング1が示されている。
【0015】
即ち、本発明にかかる当該シートベルト用ウェビング1に於いては、当該シートベルト用ウェビング1の本体部20を構成する複数本の経糸群2の両端部を形成する経糸21、21’の外側に当該経糸2及び当該緯糸4とは異なる糸条からなる絡み糸9による鎖編構造で形成された鎖編構造体10、10’が直接当接して配置されているものである。そして、当該鎖編構造体10、10’の内、当該経糸群2の一方の端部に配置されている当該鎖編構造体10を構成する当該絡み糸9は、当該経糸群2の反対側の端部から所定のニードル5によって折畳状8に当該経糸群2内を通過してくる緯糸4の引き込み側端部12とのみ係合して、係合部13を形成すると共に、当該係合部13は、当該緯糸4が受ける張力によって、当該経糸群2内に引き込まれる様に構成されている。一方、当該絡み糸9は、当該鎖編構造体10が存在する当該経糸群2の端縁部から当該経糸群2の反対側の縦糸端縁部側に向けて、別のニードル5’によって当該経糸群2間を通過して挿入される別の緯糸4’が当該端縁部で形成する当該緯糸4の折り返し側端部11とは係合しないように構成されている。
【0016】
つまり、本発明に係る当該シートベルト用ウェビング1の耳部6近傍の構成にあっては、当該経糸2及び当該緯糸4とは異なる糸条からなる当該絡み糸9は、当該経糸の端縁部に於いて、当該緯糸の引き込み側端部12とのみ係合し、当該緯糸の折り返し側端部11とは係合しないように構成されていると同時に、当該絡み糸9と当該緯糸の引き込み側端部12との係合部13は、当該経糸群2の内部側に引き込まれた構造を有し、当該鎖編構造体10からなる耳部6は、強固に安定して当該シートベルト用ウェビング1の本体部20の端縁部に固定されることになる。即ち、本発明に於ける当該緯糸4の引き込み側端部12は、当該鎖編構造体10を形成する絡み糸9によるループの一部と係合している。本発明に於いては、当該シートベルト用ウェビングの本体部20の反対側の経糸群の端縁部でも全く同一の構成を有する耳部6’が形成されるものである。
【0017】
本発明に於ける当該絡み糸9と当該緯糸の引き込み側端部12との係合部13の引き込み位置は、特に限定されるものではなく、当該シートベルト用ウェビングに要求される特性に応じて、適宜決定する事が可能である。一方、本発明に於いては、当該絡み糸9、9’に更に別の絡み糸14、14’をロッキングスレッドとして、当該絡み糸9、9’の編み込みに同期して鎖編組織を使用して編みこむ事も可能である。本発明に於ける当該絡み糸14、14’は、適宜の糸条で構成され、当該緯糸4、4’とは係合しない様に構成されることが望ましい。又、本発明に於いては、当該シートベルト用ウェビング1の耳部6、6’を当該シートベルト用ウェビング2の本体部20を構成する緯糸4及び経糸2とは別に供給される絡み糸9、9’を使用するので、当該耳部6、6’の構成を自由に設計する事が可能である。
【0018】
尚、本発明に於いて使用される当該緯糸4、4’は、モノフィラメントで構成されたものであっても良く、或は、モノフィラメントとマルチフィラメントとの併用であっても良い。
【0019】
上記したとおり、本発明に於いては、当該緯糸4、4’の当該緯糸の折り返し側端部11、11’は、当該シートベルト用ウェビング1の本体部20を形成する経糸群2の最端部にある経糸21、21’と係合する様に構成されているので、耳部6、6’近傍の織構造は強度或は硬さ、磨耗等の特性に対して十分な性能を発揮できるものである。本発明に於ける当該シートベルト用ウェビング1の具体例及び比較例を別紙の表1乃至表6に示す。
【0020】
即ち、表1は、本発明に係るシートベルト用ウェビングの第1の実施例の構成と試験結果を示すものであって、当該第1の実施例では、図1に示す織組織と同一の織組織を採用し、経糸2としては、ポリエステル系合成繊維マルチフィラメント糸(繊度:1670T、直径が0.175mm)を276本使用すると共に、緯糸4としては、ポリエステル系合成繊維モノフィラメント糸(繊度:267T)2本を、それぞれのニードル5、5’に個別に一本ずつ挿通させて使用した。
【0021】
又、絡み糸9には、ポリエステル系合成繊維マルチフィラメント糸(繊度:1100T)2本を、それぞれの編針31、31’に個別に一本ずつ係合させて使用した。
【0022】
尚、ロッキング糸14として、ポリエステル系合成繊維マルチフィラメント糸(繊度:280T)2本を、それぞれの絡み糸9と対応させて、編針31、31’に個別に一本ずつ係合させて使用した。
【0023】
本実施例1により製造されたウェビング1は、織幅が47.5mm、緯糸の打ち込み数が22.0/30mmで、厚みが1.08mmと成っていた。
【0024】
又、当該実施例1のウェビング1に関して、引張強さ(KN)、磨耗試験(六角棒:5000回)後の残存強力(%)、硬さ(長手方向)(ガーレ値)及び硬さ(幅方向)(ガーレ値)をそれぞれ個別に測定し、その結果は表1示す。
【0025】
一方、上記実施例1の比較例として、従来から広く製造されている片側ニードル方式のニードル織機を使用して2/2/の綾織組織を採用し、且つ上記した特許文献3に示される様に、当該経糸の一方の端縁部は織耳が構成され、他方の端縁部では、鎖編による耳部が形成される当該ウェビング1を表2に示される各糸を使用して比較サンプルを製造し、表1に示す項目と同じ項目について試験を行い、その結果を表2に示す。
【0026】
尚、当該比較例では、緯糸がポリエステル系合成繊維マルチフィラメント糸(繊度:560T)としている。
【0027】
上記比較から明らかな通り、比較例では、経糸の繊度は本発明の実施例1と同一であるが使用本数が大きく、又緯糸は本発明の実施例1のものに比べて倍近く太くなっており、絡み糸は逆に小さくなっているが、評価特性は両者略近似したものであるが、比較例のウェビングの厚みが1.22mmとかなり厚みのあるものとなっているのに対し、本発明の実施例ではウェビングでは、その厚みが1mmに略近い理想的なウェビングが得られている事が判明する。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
次に、表3は、本発明に係るシートベルト用ウェビングの第2の実施例の構成と試験結果を示すものであって、当該第2の実施例では、図1に示す織組織と同一の織組織を採用し、経糸2、緯糸4、絡み糸9及びロッキング糸14は、何れも実施例1と同じ構成となっているが、経糸の使用本数のみ238本と少なく設定されている。
【0031】
本実施例2により製造されたウェビング1は、織幅が47.5mm、緯糸の打ち込み数が23.0/30mmであるが、厚みが0.98mmと1mmの厚みを切る理想的なウェビングが得られた。
【0032】
又、当該実施例2のウェビングに関して、引張強さ(KN)、磨耗試験(六角棒:5000回)後の残存強力(%)、硬さ(長手方向)(ガーレ値)及び硬さ(幅方向)(ガーレ値)をそれぞれ個別に測定し、その結果は表3示すが、当該特性は、若干実施例1の特性よりも低くなっているが、実質的な問題は無い。
【0033】
一方、上記実施例2の比較例として、前記した実施例1に対する比較例と同様の織構成のウェビングを製造するに際して、糸構成を種々変更した3種類のウェビングを製造し、比較実験を行いその結果を表4乃至表6に示す。
【0034】
但し、当該実施例2の比較例1では、当該実施例1の比較例と比べて絡み糸の繊度が2倍となり、経糸の使用本数を252本と少なくしてある。
【0035】
更に、当該実施例2の比較例1と実施例2とを比較してみると、緯糸がポリエステル系合成繊維マルチフィラメント糸(繊度:560T)が採用され、実施例2の緯糸に対してマルチとモノの違いの他、当該実施例2の比較例1の緯糸の繊度が実施例2の緯糸の繊度の2倍となっている。
【0036】
表4と表3との比較から明らかな通り、実施例2の比較例1では、経糸の繊度は本発明の実施例2と同一であるが使用本数が大きく、又緯糸は本発明の実施例2のものに比べてマルチフィラメントを使用し且つその繊度が倍近く太くなっている。更に実施例2の比較例1では、絡み糸の太さも実施例2に比べて倍近く太くなっている。これは、当該実施例2の比較例1では、引張強さを実施例2両者と同等にする方向の比較例となっているが、結局の処、実施例2の比較例1によるウェビングの厚さが1.17mmとなり、本発明の目的である厚みの薄いウェビングを得る事は不可能である事が判明した。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
又、表5は、上記した、実施例2の比較例2によるウェビングの構成とその特性値を示したものであって、上記実施例2の比較例2としては、表2に示す比較例と同様の織構成のウェビングを製造するに際して、経糸、及び絡み糸は、当該実施例2の経糸、及び絡み糸と同じ構成のものを使用するが、緯糸は、ポリエステル系合成繊維マルチフィラメント糸(繊度:560T)とポリエステル系合成繊維モノフィラメント糸(繊度:700T)とを併用するものであり、実施例2の緯糸と比べてその繊度が2.3倍となっている。
【0040】
表5と表3との比較から明らかな通り、実施例2の比較例2では、緯糸の繊度を本発明の実施例2の緯糸と同一にして、当該ウェビングの幅方向の湾曲時の硬さを高める様に構成したものであるが、厚みが1.20mmとなり、厚味を低減するという本願の目的には合致しないものである事が判明した。
【0041】
【表5】

【0042】
一方、表6は、上記した、実施例2の比較例3によるウェビングの構成とその特性値を示したものであって、上記実施例2の比較例3としては、表2に示す比較例と同様の織構成のウェビングを製造するに際して、経糸、及び絡み糸は、表2に示す比較例の経糸、及び絡み糸と同じ構成のものを使用するが、緯糸は、ポリエステル系合成繊維マルチフィラメント糸(繊度:280T)を使用するものであり、実施例2の緯糸のポリエステル系合成繊維モノフィラメント糸(繊度:267T)と比べてその繊度が若干太くなっている。
【0043】
一方、表6と表3との比較から明らかな通り、実施例2の比較例3では、緯糸は、ポリエステル系合成繊維マルチフィラメント糸(繊度:280T)を使用するのに対し、実施例2では、ポリエステル系合成繊維モノフィラメント糸(繊度:267T)を使用するものであるから、実施例2の緯糸に対してマルチとモノの違いの他、当該実施例2の比較例3の緯糸の繊度が実施例2の緯糸の繊度より若干太くなる様に設定されている。
【0044】
一方、上記実施例2の比較例3は、緯糸を細くしてウェビングの厚みを薄くする様にコンセプトされたものであって、確かにウェビングの厚みが1.04mmと目標通りの厚みを実現してはいるが、幅方向の硬さ著しくが低下してしまうので、実用性は全くないものとなる。
【0045】
【表6】

【0046】
次に、本発明に係るシートベルト用ウェビング1の製造方法の一具体例について図2及び図3を参照しながら詳細に説明する。
【0047】
即ち、図2に於いて、本発明に於けるシートベルト用ウェビング1の製造方法としては、ニードル織機30を用いて織成されたシートベルト用ウェビング1の製造方法であって、当該ウェビング1は、複数本の経糸2群の中に、少なくとも一部にモノフィラメント糸を含んでいる緯糸4が、当該経糸群2の左右の端縁部21、21’の外方部に設けられたニードル5、5’によって当該左右の端縁部21、21’の外方部から交互に、それぞれ個別に折り畳まれた状態で打ち込まれることによって、ウェビングを織成するに際し、当該経糸群2の左右の端縁部21、21’の外側近傍に於いて当該緯糸4の配置位置を変更する緯糸配置位置変更手段22、22’を設け、当該緯糸配置位置変更手段22、22’の一方を、経糸群2の一方の端縁部21’側に於ける当該緯糸4’を、他方の端縁部経糸21が配置されている他方の端縁部側から別の緯糸4が移動してきた際に、当該緯糸4’を、鎖編構造体10を形成する編み針31の作動位置、つまり編目が形成される位置近傍から離反させる様に変位させる事を特徴とするシートベルト用ウェビング製造方法である。
【0048】
その後、緯糸4’が当該ニードル5’によって反対側の端縁部側に向けて当該経糸群2間に挿入される際には、当該経糸群2の一方の端縁部を構成する経糸21’の織組織を、緯糸4が当該ニードル5によって反対側の端縁部側から当該経糸群2間に挿入される際の織組織とは異なるようにしておく事が望ましい。
【0049】
係る構成は、反対側にある当該緯糸配置位置変更手段22でも同じである。
【0050】
本発明に於いて使用されるニードル織機30は、図2に示す様な構成を有するものであって、具体的には、互いに逆方向に向かって交互に作動する2本のニードル5、5’がそれぞれ適宜の緯糸供給手段32、32’から繰り出される緯糸4、4’を把持しながら経糸群2により形成される杼口内に、当該経糸群2の一方の端縁部経糸21側端縁部から他方の端縁部経糸21’が存在する他方の端縁部側に向けて挿入され、他方の端縁部21’側に配置された鎖編形成用の編針31、31’と係合して緯打操作を完了する様に構成されている。尚、3は筬を示す。
【0051】
係る構造のニードル織機30に於いて、本発明では、図3(A)及び(B)に示す様に、当該経糸群2の両端部21、21’の近傍に設けられている、当該絡み糸9、9’(要すればロッキング糸14、14’を併用して)を鎖編によって当該鎖編構造体10、10’を形成する縦編針31、31’の編目を形成する作動位置近傍に、例えば、一方の当該経糸群2の端縁部21側から当該経糸群2の反対側の端縁部21’に向けてニードル5によって当該経糸群2間を通過して挿入される緯糸4が当該縦編針31’と係合する際に、別の緯糸4’が当該編針31’と係合しない様に当該緯糸4’の配置位置を変化させる為の緯糸配置位置変更手段22、22’を設けるものである。
【0052】
当該緯糸配置位置変更手段22、22’は、上記機能を有する構造であれば如何なる構造のものでも採用できるが、例えば、図3に示す様に、一部に緯糸4、4’を係止、保持するフック状部を有し、適宜のタイミングで当該緯糸の配置位置を上方或は下方又は側方に変位させるものである事が望ましい。更に上記変位機構としては、例えば図3に示す様な回転式カム35等を使用する事が出来る。
【0053】
即ち、本発明では、当該経糸群2の反対側の端縁部経糸21が存在する側から当該経糸群2の端縁部経糸21’が存在する端縁部側まで当該ニードル5によって緯糸4が挿入されてきた時点で、当該緯糸配置位置変更手段22’を駆動させ、当該別の緯糸4’の当該緯糸の折り返し側端部11、11’内に当該鎖編形成用の編針31、31’が進入しない様に、当該別の緯糸4’の配置位置を当該編針31’の作動位置から離反させる様に変位させるものである。
【0054】
かかる操作によって、当該編針31’は、当該該経糸群2の反対側の端縁部21側から当該経糸群2の端縁部21’まで当該ニードル5によって挿入されてきた当該緯糸4の折り畳まれた引き込み側端部12内に侵入して当該絡み糸9をくわえて引き込み、次のループを形成するが、当該別の緯糸4’とは係合しない様に構成することが可能となる。その結果、当該別の緯糸4’は、当該絡み糸9とは直接係合せずに、当該経糸群2の最端部7の経糸21’に直接接触して折り返されるという構成が実現出来るのである。この際、12、12’の位置は耳部の手触りを良くする為に端縁部21、21’から最低でも1mm以上は引き込まれていることが望ましい。
【0055】
尚、本発明の別の態様としては、ニードル織機を用いて織成されたシートベルト用ウェビングの製造装置であって、当該ウェビングは、複数本の経糸群の中に、少なくとも一部にモノフィラメントを含んでいる緯糸を当該経糸群の左右の端縁部から交互に、それぞれ個別に折り畳まれた状態で打ち込む一対のニードルと当該経糸群の左右の端縁部に絡み糸による鎖編構造体からなる耳部を形成する当該経糸群の左右の端縁部に設けられている一対の編針とを有するものであり、当該シートベルト用ウェビング製造装置は、更に当該経糸群の左右の端縁部に於ける当該鎖編構造体を構成する絡み糸と係合する当該編針の編み目形成部位に対応する位置に、当該緯糸の配置位置を変更する緯糸配置位置変更手段が設けられており、当該緯糸配置位置変更手段は、一方の端縁部に於ける当該緯糸を、他方の端縁部から別の緯糸が移動してきた際に、当該編針の作動位置から離反させる機能を有する事を特徴とするシートベルト用ウェビング製造装置である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る当該シートベルト用ウェビングは、車両の安全ベルトに有効に使用する事が出来る。
【符号の説明】
【0057】
1. シートベルト用ウェビング
2. 経糸
3. 筬
4、4’. 緯糸
5、5’. ニードル、
6、6’. 耳部
7、7’. 経糸群の端縁部
8. 緯糸の折畳部
9. 絡み糸
10、10’. 鎖編構造体
11、11’. 緯糸の折り返し側端部
12、12’. 緯糸4の引き込み側端部
13、13’. 係合部
30. ニードル織機
31、31’. 編針
32. 緯糸供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニードル織機を用いて織成されたシートベルト用ウェビングであって、当該ウェビングは、複数本の経糸群と、当該経糸群の中に、少なくとも一部にモノフィラメントを含んでいる緯糸が当該経糸群の左右の端縁部から交互に、それぞれ個別に折り畳まれた状態で打ち込まれる緯糸群とで織成されたものであり、且つ当該ウェビングの当該経糸群の左右の端縁部には、当該経糸群を構成する糸条及び当該緯糸群を構成する糸条の何れとも異なる糸条からなる絡み糸による鎖編構造体が配置されており、当該鎖編構造体は、当該緯糸の折り返し側端部とは係合しておらず、当該緯糸の引き込み側端部とのみ係合して、当該係合部が当該経糸群内に引き込まれている構成を有し、当該緯糸が当該鎖編構造体から目視できない様に構成されている事を特徴とするシートベルト用ウェビング。
【請求項2】
当該鎖編構造体には、更に当該緯糸とは係合しない鎖編されたロッキング糸が含まれている事を特徴とする請求項2に記載のシートベルト用ウェビング。
【請求項3】
当該経糸群は、複数本の本体部経糸と当該本体部経糸の両側に配置された当該本体部経糸と同一或は異なる複数本の耳部経糸とから構成されている事を特徴とする請求項1又は2に記載のシートベルト用ウェビング。
【請求項4】
当該ウェビングの双方の端縁部に於いては、当該鎖編構造体は、当該緯糸の引き込み側端部との当該係合部が当該経糸群内に引き込まれている構成によってのみ、当該ウェビングの端縁部と接合せしめられている事を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のシートベルト用ウェビング。
【請求項5】
当該ウェビングの双方の端縁部に於いては、当該緯糸の当該折り返し端部は、当該経糸群の最端部の縦糸と係合している事を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のシートベルト用ウェビング。
【請求項6】
当該緯糸の引き込み側端部は、当該鎖編構造体を形成する絡み糸によるループの一部と係合している事を特徴とする請求項4に記載のシートベルト用ウェビング。
【請求項7】
ニードル織機を用いて織成されたシートベルト用ウェビングの製造方法であって、当該ウェビングは、複数本の経糸群の中に、少なくとも一部にモノフィラメントを含んでいる緯糸が当該経糸群の左右の端縁部から交互に、それぞれ個別に折り畳まれた状態で打ち込まれると共に、当該経糸群の左右の端縁部に絡み糸による鎖編構造体からなる耳部を形成することによって、ウェビングを織成するに際し、当該経糸群の左右の端縁部に於ける当該鎖編構造体を構成する絡み糸と係合する編針の編み目形成部位に対応する位置に、当該緯糸の配置位置を変更する緯糸配置位置変更手段を設け、一方の端縁部に於ける当該緯糸を、他方の端縁部から別の緯糸が移動してきた際に、当該緯糸配置位置変更手段を作動させて、当該鎖編構造体を形成する編針の作動位置から離反させる事を特徴とするシートベルト用ウェビング製造方法。
【請求項8】
ニードル織機を用いて織成されたシートベルト用ウェビングの製造装置であって、当該ウェビングは、複数本の経糸群の中に、少なくとも一部にモノフィラメントを含んでいる緯糸を当該経糸群の左右の端縁部から交互に、それぞれ個別に折り畳まれた状態で打ち込む一対のニードルと当該経糸群の左右の端縁部に絡み糸による鎖編構造体からなる耳部を形成する当該経糸群の左右の端縁部に設けられている一対の編針とを有するものであり、当該シートベルト用ウェビング製造装置は、更に当該経糸群の左右の端縁部に於ける当該鎖編構造体を構成する絡み糸と係合する当該編針の編み目形成部位に対応する位置に、当該緯糸の配置位置を変更する緯糸配置位置変更手段が設けられており、当該緯糸配置位置変更手段は、一方の端縁部に於ける当該緯糸を、他方の端縁部から別の緯糸が移動してきた際に、当該編針の作動位置から離反させる機能を有する事を特徴とするシートベルト用ウェビング製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−21301(P2011−21301A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168794(P2009−168794)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000159146)菊地工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】