説明

シートベルト装置

【課題】プリテンショナー機構が作動した時には、シートベルトを巻き取るスピンドルと電動アクチュエータとの接続を確実に切断して、乗員の拘束を確実に行なうシートベルト装置を提供する。
【解決手段】プリテンショナー機構による第1回転部材50の回転を利用して係合部49aが第1回転部材50から遠ざかる方向に移動した時に、係合部材49によって弾性変形されて係合部材49の移動を規制し、電動アクチュエータとスピンドルとの間を非結合にするクラッチを備え、係合部49aが被係合部50aと係合するように揺動する係合部材49の支軸に対して係合部49aと反対側に延びる延出部49cを案内する案内部43bが、前記延出部49cが前記第1回転部材50の中心から見て半径方向外側方向に移動するのを案内する径方向案内部43aを含み、該径方向案内部43aは、前記延出部49cと接する面で前記延出部方向に曲率中心を持つ曲面を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルト装置に関し、特に、モータを用いる電動アクチュエータと火薬式アクチュエータ(プリテンショナー機構)とを備えたシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のシートベルト装置では、衝突の可能性がある場合、衝突前にセンサが作動し、電動アクチュエータを作動させてシートベルト(ウェビング)を巻き取り、乗員を軽拘束し、また、衝突時には、プリテンショナー機構によってシートベルトを巻き取って、乗員をより確実に拘束することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のシートベルト装置では、電動アクチュエータからの動力をスピンドルに伝達する動力伝達機構において、スピンドル側からの回転が電動アクチュエータに伝わることを防止するため、クラッチが介在されている。
【0004】
このクラッチは、電動アクチュエータの回転が伝達されて回転するギヤホイール及びロータを備えている。ロータには、付勢部材によって常にスピンドルとの係合方向へ付勢されたパウルが支持されており、このパウルは、通常はロータに設けられた保持部材によってスピンドルとの係合解除位置に保持されている。そして、モータの駆動力によりロータが軸線周り一方へ回転すると、保持部材によるパウルの保持が解除され、パウルは付勢部材の付勢力によってスピンドルに係合する。これにより、ロータの回転がスピンドルに伝達されてスピンドルが回転する。一方、ロータが軸線周り他方へ回転すると、保持部材はパウルを付勢部材の付勢力に抗してスピンドルとの係合解除位置に移動させて保持するようになっている。
【0005】
また、保持部材とパウルとは、ロータが停止した状態で互いの保持状態を維持するように、離間方向に抗力を発生する傾斜面を形成して、クラッチの誤結合を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−103657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、シートベルト装置では、プリテンショナー機構の作動時にもパウルはスピンドルとの係合解除位置に保持される必要があるが、衝突時の衝撃などによる車両の激しい揺れ等によって依然としてクラッチが誤結合する可能性がある。
【0008】
また、車両の振動、例えばドアを急に閉めた時などに、パウルが不必要に動き、ラッチリングと係合してしまうことがある。このような場合、乗員がベルトを引き出そうとしても引き出せなくなってしまうという課題があった。
【0009】
また、衝突の状況によっては、プリテンショナー機構が作動した後に電動アクチュエータが作動してしまうような場合がある。この場合、電動アクチュエータを制御するECUの性能によっては、電動アクチュエータの作動信号がプリテンショナー機構作動後も所定期間継続的に送られ、パウルがスピンドルの回転によって係合解除方向に弾き飛ばされたにも拘わらず、再度スピンドルと係合しようとする。このため、プリテンショナー機構の動作に悪影響を及ぼすという課題がある。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、スピンドルを回転する動力を発生する電動アクチュエータと、スピンドルを回転する他の動力を発生するプリテンショナー機構とを備えるシートベルト装置において、プリテンショナー機構が作動した時には、シートベルトを巻き取るスピンドルと電動アクチュエータとの接続を確実に切断して、プリテンショナー作動時の乗員の拘束を確実に行なうことができるシートベルト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成される。
(1) シートベルトを巻き取るスピンドルと、
該スピンドルを回転する動力を発生する電動アクチュエータと、
前記スピンドルを回転する他の動力を発生するプリテンショナー機構と、
前記電動アクチュエータからの動力を前記スピンドルに伝達可能な動力伝達機構と、
を備えるリトラクタを含むシートベルト装置であって、
前記動力伝達機構は、
前記スピンドルと共に回転し、周面に被係合部を有する第1回転部材と、
前記第1回転部材と係合する方向に付勢され、前記電動アクチュエータの回転に応じて移動し、且つ、前記第1回転部材の被係合部と係合可能な係合部を有する支軸を中心に揺動自在な係合部材と、
前記係合部材が移動する際に、前記係合部が前記被係合部と係合するように揺動する前記係合部材の前記支軸に対して前記係合部と反対側に延びる延出部を案内する案内部と、
前記プリテンショナー機構が作動し、前記プリテンショナー機構による前記第1回転部材の回転を利用して前記係合部が前記被係合部から遠ざかる方向に揺動した時に、前記電動アクチュエータと前記スピンドルとの間を非結合にするクラッチを有し、
前記案内部は、前記延出部が前記第1回転部材の中心から見て半径方向外側方向に移動するのを案内する径方向案内部を含み、該径方向案内部は、前記延出部と接する面で前記延出部方向に曲率中心を持つ曲面を有することを特徴とするシートベルト装置。
ここで、前記第1回転部材の前記被係合部を有する前記周面は、リトラクタの構造によって決まり、外周面であっても内周面であってもよい。
【0012】
(2) 前記案内部は、前記曲面の始端に連続して、前記第1回転部材の接線方向に延びる壁面を有することを特徴とする前記(1)記載のシートベルト装置。
【0013】
(3) シートベルトを巻き取るスピンドルと、
該スピンドルを回転する動力を発生する電動アクチュエータと、
前記スピンドルを回転する他の動力を発生するプリテンショナー機構と、
前記電動アクチュエータからの動力を前記スピンドルに伝達可能な動力伝達機構と、
を備えるリトラクタを含むシートベルト装置であって、
前記動力伝達機構は、
前記スピンドルと共に回転し、周面に被係合部を有する第1回転部材と、
前記第1回転部材と係合する方向に付勢され、前記電動アクチュエータの回転に応じて移動し、且つ、前記第1回転部材の被係合部と係合可能な係合部を有する揺動自在な係合部材と、
前記電動アクチュエータの回転に応じて前記係合部材が移動する際に、前記係合部が前記被係合部と係合するように前記係合部材の揺動を案内する案内部と、
前記プリテンショナー機構が作動し、前記プリテンショナー機構による前記第1回転部材の回転を利用して前記係合部が前記被係合部から遠ざかる方向に揺動した時に、前記係合部材によって弾性変形されて前記係合部材の揺動を規制し、前記電動アクチュエータと前記スピンドルとの間を非結合にするクラッチ解除用付勢部材と、を備えるクラッチを有し、
前記係合部材と前記クラッチ解除用付勢部材とが同一の部材に装着されたことを特徴とするシートベルト装置。
ここで、前記第1回転部材の前記被係合部を有する前記周面は、リトラクタの構造によって決まり、外周面であっても内周面であってもよい。
【0014】
(4) 前記係合部材と前記クラッチ解除用付勢部材とが装着される部材は、前記電動アクチュエータの回転に応じて回転する第2回転部材であり、
前記案内部は、前記第2回転部材に接して前記第2回転部材に対して所定の角度で相対回転可能に配置される摩擦ホイールに形成されたことを特徴とする前記(3)に記載のシートベルト装置。
【0015】
(5) 前記クラッチは、前記プリテンショナー機構が作動し、前記プリテンショナー機構による前記第1回転部材の回転を利用して前記係合部が前記被係合部から遠ざかる方向に揺動した時に、前記係合部材によって弾性変形されて前記係合部材の揺動を規制し、前記電動アクチュエータと前記スピンドルとの間を非結合にするクラッチ解除用付勢部材を備え、
前記係合部材と前記クラッチ解除用付勢部材とが同一の部材に装着されたことを特徴とする前記(1)記載のシートベルト装置。
【0016】
(6) 前記案内部は、前記曲面の始端に連続して、前記第1回転部材の接線方向に延びる壁面を有することを特徴とする前記(5)記載のシートベルト装置。
【0017】
(7) 前記係合部材と前記クラッチ解除用付勢部材とが装着される部材は、前記電動アクチュエータの回転に応じて回転する第2回転部材であり、
前記案内部は、前記第2回転部材に接して前記第2回転部材に対して所定の角度で相対回転可能に配置される摩擦ホイールに形成されたことを特徴とする前記(5)記載のシートベルト装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシートベルト装置によれば、クラッチは、プリテンショナー機構が作動し、プリテンショナー機構による第1回転部材の回転を利用して係合部が第1回転部材から遠ざかる方向に移動した時に、係合部材によって弾性変形されて係合部材の移動を規制し、電動アクチュエータとスピンドルとの間を非結合にするクラッチ解除用付勢部材を備えている。クラッチ解除用付勢部材は、電動アクチュエータ作動時には外部から何ら力が掛からず劣化することがないので、プリテンショナーが作動した時には、このクラッチ解除用付勢部材によって、シートベルトを巻き取るスピンドルと電動アクチュエータとの接続を確実に切断することができる。
【0019】
また、車両の振動、例えばドアを急に閉めたときの振動により係合部材が係合方向に回転し、第1回転部材と係合してしまうことを防ぐことができる。これにより、車両の振動等によるシートベルトのロックを防ぐことができ、ドア開閉時後に乗員がベルトを引き出せなくなることを防止できる。
【0020】
また、係合部材の揺動が案内される案内部が曲面とされていることからプリテンショナー機構の動きが滑らかになる。また、前記案内部は、前記曲面の始端に連続して、前記回転部材の接線方向に延びる壁面を有することにより、通常時に、衝撃等により係合部材に係合方向への力が加わっても、壁面が係合部材に対してストッパとなるので、係合部材が係合方向に回転して被係合部に係合することがなく、クラッチ解除状態を確実に維持できる。また、通常時に、衝撃等により係合部材に接線方向の力が加わっても、係合部材は壁面上を移動するので、係合部材が係合方向に回転して被係合部に係合することがなく、クラッチ解除状態を確実に維持できる。
【0021】
また、特許文献1では必要とされているロックバーをスライダに保持するために引っ掛けて留めておく部分を設けることが不要となる。特許文献1では、プリテンショナー機構作動時には前記の引っ掛かっている部分を乗り越えなくてはならないが、その引っ掛かりを乗り越えて動作するためには、その保持力を上回る力が必要となる。ここでは摩擦力でその保持力を上回る力が与えられているため動作が不安定で、その摩擦力が弱まると最悪の場合、プリテンショナー機構が作動しなくなるが、本発明のシートベルト装置ではそれを防止できる。
【0022】
また、係合部材とクラッチ解除用付勢部材とが同一の部材に装着されているので、係合部材とクラッチ解除用付勢部材との位相が常に変わらず、係合部材とクラッチ解除用付勢部材とが正確に作動し、クラッチ解除が確実に行われる。これら装置の動きにより、このリトラクタを含むシートベルト装置は、プリテンショナー作動時の乗員の拘束を確実に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかるシートベルト装置の分解斜視図である。
【図2】モータからの動力を伝達するクラッチの通常状態の作動を説明するための図である。
【図3】モータからの動力を伝達するクラッチの衝突発生時の作動を説明するための図である。
【図4】モータからの動力を伝達するクラッチの衝突発生時の作動を説明するための図である。
【図5】カム部材に案内されるパウルの動きを表す動作図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の一実施形態にかかるシートベルト装置について図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
図1に示すように、本実施形態のリトラクタを含むシートベルト装置10は、シートベルト(図示せず)を巻き取るスピンドル12と、スピンドル12をシートベルトの巻き取り方向へ付勢する巻き取りバネ装置13と、加速度センサ(図示せず)によって検出される加速度に応じてシートベルトの引出動作をロックするロック機構14と、スピンドル12を回転させる動力を発生する電動アクチュエータであるモータ34と、スピンドル12を回転させる他の動力を発生するプリテンショナー機構15と、モータ34からの動力をスピンドル12に伝達可能な動力伝達機構17と、を有している。
【0026】
スピンドル12は、両端が支持フレーム11によって回転可能に支持されている。また、スピンドル12内には、一端側(図1において左端側)でスピンドル12に接続され、他端側(図1において右端側)でプリテンショナー機構15からの力が入力されるトレッドヘッド21と接続される、エネルギー吸収機構を構成するトーションバー(図示せず)が設けられている。
【0027】
プリテンショナー機構15は、火薬を点火して発生したガスによってボール(図示せず)を強く押し出し、ボールがピニオン26の溝に沿って移動する。ピニオン26の回転は、ロック機構14を介してトレッドヘッド21、トーションバー、スピンドル12へと伝達される。なお、このようにプリテンショナー機構15がトーションバーを介してスピンドル12と結合されるように構成すると、エネルギー吸収機構が作動する際にはプリテンショナーの動作に影響を受けない。
【0028】
また、支持フレーム11の図中左側面には、ベアリングリング24を介して、ロアカバー25がねじ27により取り付けられている。ロアカバー25とそれに取り付けられるアッパーカバー53との間には、動力伝達機構17が収容される空間が形成される。
【0029】
ロアカバー25の下部、即ち支持フレーム11の下方位置には、モータアセンブリ16が取り付けられている。モータアセンブリ16は、リアキャップ31、ハーネス32、リアケース33、モータ34、第1ギヤ35、及びフロントケース36から構成されている。なお、第1ギヤ35はモータ34の回転軸に取り付けられており、ロアカバー25の内部に挿入されて、動力伝達機構17に設けられているトルクリミッター機構19の第2大ギヤ57と噛合する。
【0030】
トルクリミッター機構19は、第3ギヤ58と噛合する第2小ギヤ59と、第2小ギヤ59に一体回転可能に取り付けられるスプリングホルダ55と、スプリングホルダ55に保持される複数のリミットスプリング56と、第2小ギヤ59と同軸に配置され、第1ギヤ35と噛合する第2大ギヤ57と、を有している。リミットスプリング56は、スプリングホルダ55に保持された状態で、一端部を第2大ギヤ57の内周面に形成された凹凸面(図示せず)に係合させ、弾性変形することで第2大ギヤ57の第2小ギヤ59に対する相対回転を許容する。
【0031】
このため、トルクリミッター機構19では、通常状態では第2大ギヤ57と第2小ギヤ59は、リミットスプリング56によって相対的な位相が保持されて同一方向に回転する。ここで、モータ34の駆動による巻き取り時に、プリテンショナー機構15が作動しないような軽衝突やブレーキングにより、第2大ギヤ57と第2小ギヤ59との間に所定値より大きなトルク差が生じた場合、リミットスプリング56の一端部と第2大ギヤ57の凹凸面との係合が解除され、弾性変形しながら滑り始める。この結果、モータ34による過大なトルクの伝達が抑制され、ギヤ歯の破損が防止できるとともに、エネルギー吸収動作時における拘束性能への影響を低減することができる。なお、本実施形態では、第1ギヤ35、第2小ギヤ59、第2大ギヤ57、第3ギヤ58、後述のファイナルギヤ47によってギヤアッセンブリを構成している。
【0032】
さらに、ロアカバー25とアッパーカバー53間の上部には、動力伝達機構17を構成するクラッチ52が収容されている。クラッチ52は、インナーブッシュ40、アウターブッシュ41,フリクションスプリング42、摩擦ホイールであるガイドリング43、クラッチ解除用付勢部材であるオフスプリング45、第2回転部材であるリングプレート46及びファイナルギヤ47、リターンスプリング48、係合部材であるパウル49、第1回転部材であるラッチリング50、及びブッシュ51とから構成される。
【0033】
ラッチリング50は、スピンドル12に一体的に取付けられるジョイント22と内歯(図示せず)にて結合されてスピンドル12と一体に回転し、また、外周面には被係合部である外歯50aを有する(図2参照。)。
【0034】
ファイナルギヤ47は、ラッチリング50と同軸に配置され、モータ34の回転軸とギヤ結合する。また、リングプレート46は、ファイナルギヤ47に取り付けられ、ファイナルギヤ47と一体回転する。
【0035】
パウル49は、リングプレート46に設けられた揺動軸46bに揺動可能に取り付けられる。パウル49は、リングプレート46に取り付けられたリターンスプリング48によって(図2参照。)、その係合部49aがラッチリング50の外歯50aと係合する方向に付勢されている。また、パウル49は、揺動軸46bに対して係合部49aと異なる方向に延出した延出部49cを有している。パウル49は、その重心が揺動中心付近となるように形成されており、振動等によるパウル49の誤作動を軽減することができる。
【0036】
また、リングプレート46には、オフスプリング45を支持するばね支持部43cが設けられており、オフスプリング45はリングプレート46に装着されている。すなわち、パウル49とオフスプリング45とはともにリングプレート46に装着されているので、両者の装着部の相対位置は変わらない。
【0037】
そして、図2に示すように、通常時は、パウル49の延出部49cが後述するカム部材43bの接線方向の壁面43eに当接することにより、係合部49aは、オフスプリング45の先端45aよりも、リングプレート46の中心寄りに位置している。
【0038】
ガイドリング43は、ラッチリング50及びリングプレート46と同軸に配置され、端部がロアカバー25に嵌入して取り付けられたフリクションスプリング42と摩擦摺動により接続されている。また、ガイドリング43は、リングプレート46に設けられた円弧状の長孔46cに突出する少なくとも1個のストッパ43eを備えており、リングプレート46が回転した際にストッパ43eが長孔46c内を移動しながら、リングプレート46に対して所定の角度で相対回転する。そして、ストッパ43eが長孔46cの端面に当接した後は、ガイドリング43はフリクションスプリング42による摩擦力に抗して、リングプレート46及びファイナルギヤ47と一体回転する。
【0039】
また、ガイドリング43のリングプレート46側の側面には、リングプレート46の揺動軸46bの近傍に形成された切欠き46aから臨む、カム部材43bが形成されている。
【0040】
図5に示すように、カム部材43bは、パウル49の延出部49cがラッチリング50の回転軸中心から見て半径方向外側方向に移動するのを案内する径方向案内部であるカム面43aと、回転中心に対する接線方向に延びる壁面43eを有する。カム面43aは、ラッチリング50の回転軸中心方向の内周側、即ち延出部49cのある方向に向かって曲率中心を持つ円弧状の曲面となっている。通常時は、パウル49の延出部49cが接線方向の壁面43eに当接して、パウル49の係合部49aがラッチリング50の外歯50aと係合できない位置に規制し、また、モータ34の回転に応じてパウル49が移動する際に、係合部49aが外歯50aと係合するようにカム面43aがパウル49の延出部49cと当接してパウル49の揺動を案内する。
【0041】
カム部材43bは、回転中心に対する接線方向に延びる壁面43eを有するので、通常時に、衝撃等によりパウル49に図2中反時計回り方向への力が加わっても、壁面43eが延出部49cに対してストッパとなり、パウル49が反時計回りに回転してラッチリング50に係合することがなく、クラッチ解除状態を確実に維持できる。また、通常時に、衝撃等によりパウル49に接線方向の力が加わっても、パウル49は延出部49cが壁面43e上を移動するので、パウル49が反時計回りに回転してラッチリング50に係合することがなく、クラッチ解除状態を確実に維持できる。
【0042】
なお、図5はファイナルギヤ47の回転角に応じたパウル49の揺動時の軌跡を経時的に表している。図5に示すように、カム面43aはわずかに凹んだその内周側に中心を持つ曲率Rの曲面からなり、パウル49の係合部49aがラッチリング50にスムーズに係合することができるようになっている。すわなち、カム面43aの曲面は、パウル49の揺動時に係合部49aがまず周方向に沿ってラッチリング50の外歯50aに近づき、次いで半径方向に沿って外歯50aに近づいて係合するような形状になっている。したがって、パウル49の係合部49aは、ラッチリング50の外歯50aに周方向に沿って近づき、引き続き半径方向に沿って近づくので、外歯50aの先端に衝突することなく、スムーズに係合することができる。
【0043】
オフスプリング45は、プリテンショナー機構15が作動してラッチリング50を高速で回転させ、ラッチリング50の回転によって、パウル49の係合部49aがラッチリング50の外歯50aと係合している状態からパウル49がその係合が解除される方向に強く揺動した時(図4参照)に、係合部49aによって弾性変形される。これにより、カム面43aによる延出部49cの案内が解除される位置にパウル49が維持されて、パウル49の揺動が規制される。パウル49がこの位置に維持されることで、モータ34とスピンドル12間は非結合となる。
【0044】
次に、本実施形態のリトラクタを含むシートベルト装置10の作動について説明する。
衝突の可能性がある場合、衝突前に、モータ34によって動力伝達機構17を介してスピンドル12を回転させてシートベルトをある程度巻き取り、予備的に乗員の軽拘束を行なう。また、衝突の可能性がなくなると、モータ34を逆転させて、衝突前の状態に戻す。さらに、衝突発生時には、プリテンショナー機構15により、衝突前のモータ34による巻き取り速度よりも大きい速度で直接スピンドル12を回転させてシートベルトを巻き取り、乗員をしっかりと拘束する。このとき、シートベルトに所定の張力以上の過剰な巻き取り力が加わった時には、トーションバーにより張力を制限する。
【0045】
次に、クラッチ52の作動を図2〜図4を参照して説明する。
まず、図2に示すように、モータ34による巻き取りが行なわれていない場合は、パウル49は延出部49cがガイドリング43の接線方向の壁面43eに規制されているので、係合部49aはリターンスプリング48の付勢力に抗してラッチリング50から遠ざかった位置にあり、ラッチリング50とパウル49とは非係合である。このため、スピンドル11と一体のラッチリング50のみ回転可能となり、シートベルトの通常の巻き取り及び引き出しが可能である。
【0046】
モータ34が巻き取り側に回転すると、モータ34の回転軸にギヤ結合しているファイナルギヤ47が反時計方向へ回転する。回転開始の状態では、ガイドリング43はフリクションスプリング42の摩擦力によって回転が阻止されるので、ファイナルギヤ47はパウル49がガイドリング43のカム面43aから離れる方向にガイドリング43に対して相対移動する。これに伴い、パウル49の延出部49cは接線方向の壁面43eからカム面43aに沿って移動し、リターンスプリング48の付勢力によりパウル49が反時計回りへ揺動を開始する。
【0047】
パウル49がガイドリング43のカム面43aに案内されながらリターンスプリング48によって反時計回りにさらに揺動すると、係合部49aがラッチリング50の外歯50aに係合する。これにより、ラッチリング50がファイナルギヤ47と一体に反時計回りに回転する。これによりファイナルギヤ47の回転がラッチリング50を介してスピンドル12に伝達され、シートベルトの巻き取りを開始する。
【0048】
なお、モータ34が解除側に回転した場合には、ファイナルギヤ47が時計回りに回転する。ガイドリング43はフリクションスプリング42の摩擦力によって回転が阻止されるので、ファイナルギヤ47はパウル49がガイドリング43のカム面43aに近づく方向にガイドリング43に対して相対移動する。これにより、パウル49が時計回りに回転し、その係合部49aはラッチリング50の外歯50aから離れ、パウル49はラッチリング50と非係合となる。
【0049】
図3に示すように、衝突前のモータ34による巻き取り後に、プリテンショナー機構15が作動すると、スピンドル12は高速で回転され、スピンドル12と一体回転するラッチリング50が高速で反時計回りへ回転し、ラッチリング50に係合しているパウル49の係合部49aがラッチリング50の外歯50aによって外側へ跳ね飛ばされ、パウル49は時計回りへ揺動する。これに伴い、パウル49の係合部49aは、オフスプリング45の先端45aを弾性変形させてこの先端45aを乗り越えてラッチリング50から離れる方向へ移動しようとする。
【0050】
ここで、仮にパウル49とオフスプリング45とがそれぞれ異なる部品に装着されている構成であると、係合部49aがオフスプリング45の先端45aを押している間、通常ガイドリング43は、フリクションスプリング42との摩擦力で非回転なのでリングプレート46に対する相対位置は変わらない。しかし、ガイドリング43とフリクションスプリング42との摩擦力が低いと、ガイドリング43とリングプレート46の相対位置が変わってしまう可能性があり、オフスプリング54の先端部45aと係合部49aの重なり具合が変化して、係合部49aがオフスプリング45の先端45aを乗り越えることができなくなる恐れがある。すると、パウル49の係合部49aがラッチリング50に再度係合してしまいクラッチ解除ができない恐れがある。
【0051】
これに対し、本実施形態のように、パウル49とオフスプリング45とがともにリングプレート46に装着されていれば、パウル49とオフスプリング45との相対位置が常に変わらず、図4に示すように、係合部49aがオフスプリング45の先端45aを確実に乗り越えることができる。
【0052】
オフスプリング45の先端45aは、係合部49aが乗り越えると弾性変形して元の位置に復帰するため、パウル49の係合部49aはオフスプリング45の先端45aの外側(リングプレート46の半径方向外側)に保持されてカム面43aに案内される位置へ戻ることができなくなる。これにより、パウル49は、ラッチリング50と非係合に維持され、クラッチ解除が確実に行われ、これらの動作後にモータ34の動力がスピンドル12に伝達されることはない。
【0053】
以上、説明したリトラクタを含むシートベルト装置10によれば、クラッチ52は、プリテンショナー機構15が作動し、プリテンショナー機構15によるラッチリング50の回転を利用して係合部49aがラッチリング50から遠ざかる方向に移動した時に、パウル49によって弾性変形されてパウル49の移動を規制し、モータ34とスピンドル12との間を非結合にするオフスプリング45を備えている。このため、オフスプリング45は、モータ34作動時には外部から何ら力が掛からず劣化することがないので、プリテンショナー機構15が作動した時には、このオフスプリング45によって、シートベルトを巻き取るスピンドル12とモータ34との接続を確実に切断することができ、プリテンショナー機構15作動時の乗員の拘束を確実に行なうことができる。
【0054】
また、車両の振動、例えばドアを急に閉めたときの振動によりパウル49が係合方向に回転し、ラッチリング50と係合してしまうことを防ぐことができる。これにより、車両の振動等によるシートベルトのロックを防ぐことができ、ドア開閉時後に乗員がベルトを引き出せなくなることを防止できる。
【0055】
また、カム部材43bは、曲面からなるカム面43aの始端に連続して、ラッチリング50の接線方向に延びる壁面43eを有することにより、通常時に、衝撃等によりパウル49に係合方向への力が加わっても、壁面43eがパウル49に対してストッパとなるので、パウル49が係合方向に回転して外歯50aに係合することがなく、クラッチ解除状態を確実に維持できる。また、通常時に、衝撃等によりパウル49に接線方向の力が加わっても、パウル49は壁面43e上を移動するので、パウル49が係合方向に回転して外歯50aに係合することがなく、クラッチ解除状態を確実に維持できる。
【0056】
また、パウル49とオフスプリング45とが同一の部材に装着されているので、パウル49とオフスプリング45との相対位置が常に変わらず、パウル49とオフスプリング45とが正確に作動し、クラッチ解除が確実に行われる。
【0057】
本発明のシートベルト装置は、上記のリトラクタに、一般に知られている乗員を直接的に拘束するシートベルト(図示せず)、該シートベルトの端部を車両に固定するためのバックル等(図示せず)をさらに備える。このシートベルト装置は、前記のリトラクタと一体的に働き、緊急時にプリテンショナーが作動したとき、シートに着座した乗員を確実に拘束できる。
【0058】
以上に説明したリトラクタを含むシートベルト装置は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施又は遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0059】
なお、上記実施形態は、特願2006−355534の技術に基づくものであり、シートベルト装置10の基本的構成及び動作は、特願2006−355534の技術と同じである。
【0060】
なお、本出願は、2007年5月31日出願の日本出願(特願2007−145693)及び2007年5月31日出願の日本出願(特願2007−145854)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0061】
10 シートベルト装置
12 スピンドル
15 プリテンショナー機構
17 動力伝達機構
34 モータ(電動アクチュエータ)
43 ガイドリング(摩擦ホイール)
43a カム面(径方向案内部)
43e 壁面
45 オフスプリング(付勢部材)
46 リングプレート(第2回転部材)
49 パウル(係合部材)
49a 係合部
50 ラッチリング(第1回転部材)
50a 外歯(被係合部)
52 クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトを巻き取るスピンドルと、
該スピンドルを回転する動力を発生する電動アクチュエータと、
前記スピンドルを回転する他の動力を発生するプリテンショナー機構と、
前記電動アクチュエータからの動力を前記スピンドルに伝達可能な動力伝達機構と、
を備えるリトラクタを含むシートベルト装置であって、
前記動力伝達機構は、
前記スピンドルと共に回転し、周面に被係合部を有する第1回転部材と、
前記第1回転部材と係合する方向に付勢され、前記電動アクチュエータの回転に応じて移動し、且つ、前記第1回転部材の被係合部と係合可能な係合部を有する揺動自在な係合部材と、
前記電動アクチュエータの回転に応じて前記係合部材が移動する際に、前記係合部が前記被係合部と係合するように前記係合部材の揺動を案内する案内部と、
前記プリテンショナー機構が作動し、前記プリテンショナー機構による前記第1回転部材の回転を利用して前記係合部が前記被係合部から遠ざかる方向に揺動した時に、前記係合部材によって弾性変形されて前記係合部材の揺動を規制し、前記電動アクチュエータと前記スピンドルとの間を非結合にするクラッチ解除用付勢部材と、を備えるクラッチを有し、
前記係合部材と前記クラッチ解除用付勢部材とが同一の部材に装着されたことを特徴とするシートベルト装置。
【請求項2】
前記係合部材と前記クラッチ解除用付勢部材とが装着される部材は、前記電動アクチュエータの回転に応じて回転する第2回転部材であり、
前記案内部は、前記第2回転部材に接して前記第2回転部材に対して所定の角度で相対回転可能に配置される摩擦ホイールに形成されたことを特徴とする請求項1記載のシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−162264(P2012−162264A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−98821(P2012−98821)
【出願日】平成24年4月24日(2012.4.24)
【分割の表示】特願2009−517817(P2009−517817)の分割
【原出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【Fターム(参考)】