説明

シート形成物、該シート形成物を用いた多孔質半導体電極の製造方法

【課題】光電変換素子の光電効率を上げることが可能な多孔質半導体電極を、容易に、効率よく製造することが可能とするシート形成物および製造方法を提供する
【解決手段】本発明は、樹脂からなるフィルム上に酸化物半導体粒子とバインダーとを含有する混練物層が形成されたことを特徴とする転写用シート形成物および該シート形成物の混練物層を透明耐熱基板および透明導電層の積層物の透明導電層上に積層した後焼成して得られる多孔質半導体電極の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、酸化物半導体を含有する転写用シート形成物および該シート形成物を用いた多孔質半導体電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子として、色素増感型太陽電池が開発されている。色素増感型太陽電池は、透明基板および透明導電層を通過した光が、酸化物半導体に担持された増感色素を励起し、励起された電子が酸化物半導体を経由して透明電極に移動し、一方で電解質が対電極から得た電子を、電荷輸送層を介して増感色素に伝達し、増感色素が元の状態に戻る。従って、光電変換効率を高めるためには、酸化物半導体が入射された光を最大限吸収することが重要となる。
【0003】
入射光を酸化物半導体が効率よく利用する方法として、たとえば、非特許文献1には、光の入射側から次第に酸化物半導体粒子の平均粒子径が大きくなるように、酸化物半導体粒子の多層構造を形成することにより光電効率が上昇させる方法が記載されている(非特許文献1参照)。また、非特許文献2には、入射光の太陽電池内の散乱光および反射光を利用する方法が記載されている(非特許文献2参照)。
【0004】
一方、色素増感型太陽電池の色素増感半導体電極は、透明電極の上に酸化物半導体粒子をバインダーに分散させたペーストを塗工した層を焼成することにより多孔質半導体電極を形成し、該電極を色素溶液に浸漬することで得ることができる。焼成は、溶媒やバインダーを除去するのみならず、酸化物半導体粒子同士を融着させ(ネッキング)、多孔質の構造とするために必要であり、その結果、色素吸着面積を増大させつつ、電子の移動が可能なネットワークを形成することができる。
【0005】
よって、酸化物半導体粒子層の多層構造を有する色素増感半導体電極を製造するためには、塗布および乾燥という工程を繰り返した後焼成を行う、または塗布、乾燥および焼成という工程を繰り返す必要がある。前者の場合、焼成は繰り返す必要はないが、バインダーに用いられる溶媒は、水などの低沸点溶媒を用いる必要がある。しかしながら、低沸点溶媒は制御が困難であるため、前者は実用性に乏しい。一方、後者の場合、バインダーに用いられる溶媒として高沸点溶媒を用いることが可能であるため、制御は容易であるが、焼成を繰り返す必要がある。後者のように塗布、乾燥および焼成を繰り返すと、繰り返し工程毎に形成される層同士の界面に抵抗が形成されるという問題、焼成を繰り返すことによって、ネッキングが過度に促進され、酸化物半導体粒子の粒子径が増大して色素吸着面積が減少する、および、空孔が縮小して電解液中のイオン拡散スペースが減少するという問題があり、光電効率の向上を妨げる要因となっていた。
【0006】
上記問題を解決する方法として、耐熱基板上に小粒径の酸化物半導体粒子を含む層と大粒径または小粒径および大粒径の酸化物半導体粒子の層を有する焼結体を転写材として、電極となる基板フィルムまたは透明導電層上に転写する方法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法であると、粒子の組み合わせの自由度が少なく、このように複数の粒径の酸化物半導体粒子を有する焼結層の形成には、また酸化物半導体粒子を含むペーストの調整法および塗工法などのノウハウを必要とした。また、上記転写材は、ガラス、セラミックス、金属等の硬質の耐熱基材上に形成されているため、ローラーに転写材を巻きつけて効率よく生産する方法を採用することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−313668号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Coordination Chemistry Reviews, Elsevier, 2004, 248,1381-1389
【非特許文献2】Solar Energy Materials & Solar Cells, Elsevier, 1999, 58, 321-326
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は光電変換素子の光電効率を上げることが可能な多孔質半導体電極を、容易に、効率よく製造することが可能とするシート形成物および製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、たとえば以下の[1]〜[10]からなる。
[1]樹脂からなるフィルム上に
酸化物半導体粒子とバインダーとを含有する混練物層が形成されていることを特徴とするシート形成物。
[2](工程1−1)透明耐熱基板上の透明導電層上に、請求項1に記載のシート形成物をその混練物層が前記透明導電層に接するように積層し、次いで該シート形成物のフィルムを混練物層から剥離する工程と、
(工程2)前記混練物層を焼成する工程とを含むことを特徴とする多孔質半導体電極の製造方法。
[3]前記工程1−1の後、工程2の前に
(工程1−2)工程1−1で得られた積層物の混練物層上に、請求項1に記載のシート形成物をその混練物層が前記積層物の混練物層に接するように積層し、次いで該シート形成物のフィルムを剥離する工程を1回から複数回行う工程を含むことを特徴とする[2]に記載の多孔質半導体電極の製造方法。
[4]工程1−1および工程1−2において、シート形成物の混練物層中の酸化物半導体粒子の平均粒子径が、各工程に用いるシート形成物毎に異なることを特徴とする[3]に記載の多孔質半導体電極の製造方法。
【0011】
[5]シート形成物毎に混練物層中の酸化物半導体粒子の平均粒子径が異なるシート形成物群の中で、最小の平均粒子径の酸化物半導体粒子を含有する混練物層を有するシート形成物を工程1−1に用い、その他のシート形成物を工程1−2に用いることを特徴とする[3]または[4]に記載の光電変換素子の製造方法。
[6]前記透明導電層上に積層された混練物層中の酸化物半導体粒子の平均粒子径が透明導電層側から段階的に大きくなるように、工程1−1および工程1−2を行うことを特徴とする[3]〜[5]のいずれか一項に記載の多孔質半導体電極の製造方法。
[7]工程1−1および工程1−2において、シート形成物の混練物層中の酸化物半導体粒子の平均粒子径が、いずれの工程に用いるシート形成物においても同一であることを特徴とする[3]に記載の多孔質半導体電極の製造方法。
[8][2]〜[7]のいずれかに記載の製造方法で製造された多孔質半導体電極。
[9][2]〜[7]のいずれかに記載の製造方法で製造された多孔質半導体電極を用いた光電変換素子。
[10]光電変換素子の多孔質半導体電極製造用である[1]に記載のシート形成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシート形成物を光電変換素子の多孔質半導体電極の製造に用いると、光電変換素子において、入射光の酸化物半導体粒子による吸収量が増大するように、多孔質半導体電極の酸化物半導体粒子の配列を任意に調整可能であり、容易に光電変換素子の光電効率を向上させることができる。また、軟質のフィルムを基板としたシート形成物とすることで、多孔質半導体電極の多孔質半導体層を、ローラー等を用いて効率よく製造することができるとともに、シート形成物をロール状にして運搬することも容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、多孔質半導体の製造方法を示す。
【図2】光電変換素子の電流電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
本明細書においてシート形成物とは半導体を製造する際の被焼結物となるものがフィルム上に層を形成しているものであって、酸化物半導体粒子をバインダー樹脂等と混合して塗料とし、該塗料をフィルム上に数μmから数百μmの厚さに成膜した後乾燥してなるシートをいう。粒子とは、SEM観察によって測定した平均粒子径が1〜1000nmのものであれば、形状は球状に限らず、棒状、針状等も含むものをいう。
【0015】
1.シート形成物
本発明のシート形成物は、転写用であり、樹脂からなるフィルム上に酸化物半導体粒子とバインダーとを含有する混練物層が形成されたことを特徴とする。
【0016】
本発明のシート形成物に用いるフィルムに使用される樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ビニロン、ポリ塩化ビニリデン、アクリル、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニルサルファイド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、シクロオレフィンが挙げられ、好ましくはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0017】
フィルムは混練物層と剥離する必要があることから、混練物層と接する面に通常シリコーン等の剥離剤が塗布されている。
フィルムの厚さは、シート巻取り時の加工性の観点から10〜200μmが好ましく、25〜100μmがより好ましい。
【0018】
本発明のシート形成物の酸化物半導体粒子とバインダーとを含む混練物層の酸化物半導体粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウムが挙げられ、好ましくは酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズが挙げられ、より好ましくは酸化チタンが挙げられる。これらの酸化物半導体粒子は1種用いても良いし、2種以上組み合わせて用いてもよい。酸化物半導体粒子の平均粒子径としては、SEM観察による平均粒子径が1〜1000nmであることが好ましく、10〜500nmであることがより好ましい。混練物層中の酸化物半導体粒子の平均粒子径は1種類でも良いし、2種以上であってもよい。
【0019】
酸化物半導体粒子の形状は、特に限定されず、球状、棒状、針状、鱗状等であってよい。
混練物層に含まれるバインダーは、酸化物半導体粒子を担持して、混練物層中に分散させる。バインダーとしては、(メタ)アクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリエーテル、エチルセルロース、ポリエステル、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリウレタン等が挙げられ、好ましくは(メタ)アクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリエーテル、エチルセルロール、ポリエステルが挙げられ、より好ましくは(メタ)アクリル樹脂、ブチラール樹脂が挙げられる。好ましい理由としては酸化物微粒子の分散性および焼成性が良好だからである。
【0020】
混練物層は、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに混練物層焼成後の多孔質の孔の調整のために、アクリル微粒子、オレフィン微粒子、ブチラール微粒子、エチルセルロール微粒子等の微粒子を含んでいてよく、酸化物半導体粒子の混練物層中での分散安定剤としてアセチルアセトンや酸やアミンを含んでいてよく、混練物層に接着力を与えるために可塑剤を含んでいてよく、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、塩化メチレン、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、トリクロロエタン、臭化エチル、臭化プロピル、臭化イソプロピル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、n-ブチルニトリル、ニトロメタン、ニトロエタン、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、アセチルアセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸アミル、n-酪酸ブチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、シクロヘキサノール、2-エチルヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等の分散溶媒を含んでいてよい。
【0021】
混練物層は、酸化物半導体粒子とバインダーとの質量比が、固形分比で好ましくは80:20〜40:60、より好ましくは70:30〜50:50である。上記配合比とするのは、酸化物半導体粒子の分散性および転写性が良好だからである。また、混練物層中、分散溶媒の質量は、全固形分の質量に対して好ましくは1〜7倍量である。
【0022】
フィルムに塗布され、乾燥後の混練物層の厚さは、焼成後の膜厚、転写性およびシート強度の観点から5〜50μmが好ましく、15〜40μmがより好ましい。
シート形成物の製造方法は、先ず、上記成分を例えば自転・公転ミキサー、ビーズミルおよび3本ロールミル等の酸化物半導体粒子が均一に分散できる方法により混練する。次に、前記フィルム上に、前記混練物を、10〜100μm厚に例えば、グラビアコーター、マイヤーバーコーター、ドクターブレード、ダイコーター等により塗布した後、80〜150℃で1〜10分程度で乾燥する。
【0023】
2.多孔質半導体電極の製造方法
本発明の多孔質半導体電極の製造方法を図1を用いて説明する。
本発明の多孔質半導体電極の製造方法は、
(工程1−1)透明耐熱基板上の透明導電層上に、本発明のシート形成物をその混練物層が前記透明導電層に接するように積層し、次いで該シート形成物のフィルムを混練物層から剥離する工程と、
(工程2)前記混練物層を焼成する工程とを含み、好ましくはさらに
前記工程1−1の後、工程2の前に
(工程1−2)工程1−1で得られた積層物の混練物層上に、本発明のシート形成物をその混練物層が前記積層物の混練物層に接するように積層し、次いで該シート形成物のフィルムを剥離する工程を1回から複数回行う工程を含んでいてもよい。
【0024】
(工程1−1)
図1の(I)に示すように、透明耐熱基板1上の透明導電層2上に、本発明のシート形成物A−1を、混練物層3−1が透明導電層2と接するように積層する。次にシート形成物A−1のフィルム4を混練物層3−1から剥離して、図1の(II)に示すように、下から順に透明耐熱基板1、透明導電層2および混練物層3−1が積層された積層物を製造する。
【0025】
透明耐熱基板1としては、透明性と耐熱性を有する板であれば特に制限されないが、ガラスなどのセラミックスが挙げられる。透明性が良好で且つ焼成に耐えうるものであるからである。
【0026】
透明導電層2としては、透明性を有する導電物質の層であれば特に制限されないが、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化スズ、酸化アンチモン、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、ニオブドープ酸化チタン等を1種または2種以上組み合わせた層が挙げられる。
【0027】
透明導電層2上に混練物層3−1を積層する際の透明耐熱基板1および透明導電層の積層物の温度は、20〜120℃であることが、貼り合わせ後の密着性の観点から好ましい。
混練物層3−1の厚さとしては、5〜50μm、好ましくは15〜40μmである。
【0028】
(工程1−2)
図1の(III)に示すように、本発明のシート形成物A−2を、工程1−1で製造された透明耐熱基板1、透明導電層2および混練物層3−1の積層物の混練物層3−1上に、混練物層3−2が接するように積層する。次にシート形成物A−2のフィルム4を混練物層3−2から剥離して、図1の(IV)に示すように、下から順に透明耐熱基板1、透明導電層2、混練物層3−1および混練物層3−2が積層された積層物を製造する。
【0029】
工程1−2は、繰り返されてもよい。すなわち、シート形成物A−nを用いて、混練物層3−2上にさらなる混練物層3−n(nは3以上の整数)を積層してもよい。
混練物層3−2〜3−nのそれぞれの厚さとしては、5〜50μm、好ましくは15〜40μmである。
【0030】
工程1−1で用いるシート形成物A−1および工程1−2で用いるシート形成物A−2〜A−nは、シート毎に混練物層中の酸化物半導体粒子の平均粒子径が異なっていることが好ましい。たとえば混練物層3−1には、小粒(SEM観察による平均粒子径10〜30nm)の酸化物半導体粒子が含有され、混練物層3−2には大粒(SEM観察による平均粒子径100〜500nm)の酸化物半導体粒子が含有される場合の他、混練物層3−1には小粒の酸化物半導体粒子が含有され、混練物層3−2には中粒(SEM観察による平均粒子径30nm以上100nm未満)と大粒の酸化物半導体粒子が含有される場合、混練物層3−1には小粒の酸化物半導体粒子、3−2には中粒の酸化物半導体粒子、3−3には大粒の酸化物半導体粒子が含有される場合等が挙げられる。その中でも酸化物半導体粒子の平均粒子径が異なるシート形成物群の中で、工程1−1で用いられるシート形成物A−1の混練物層3−1に含有される酸化物半導体粒子の平均粒子径が、他のシート形成物A−2〜A−nの混練物層3−2〜3−nに含有される酸化物半導体粒子の平均粒子径よりも小さいことが好ましい。また、酸化物半導体粒子の平均粒子径が透明導電層側から段階的に大きくなるように、酸化物半導体粒子の平均粒子径が異なるシート形成物群の中からシート形成物を選択して、混練物層を積層することも好ましい。
その理由は次の通りである。
【0031】
光電変換素子は、透明基板および透明導電層を通過した光を増感色素の吸着された酸化物半導体粒子を含む混練物層で効率よく利用することが求められる。そのためには、入射の際に酸化物半導体粒子で吸収されずに通過した光を散乱させ、再度吸収に利用することが望ましい。よって、混練物層の酸化物半導体粒子の平均粒子径は、その観点から選択され、複数の平均粒子径を有する酸化物半導体粒子を用いることが好ましい。たとえば、工程1−1で形成される透明導電層側に一番近い混練物層3−1に含まれる酸化物半導体粒子の平均粒子径が最小であり、工程1−2で形成される混練物層3−2〜3−nにおいて、混練物層3−1中の酸化物半導体粒子の平均粒子径よりも大きい平均粒子径の酸化物半導体粒子を用いれば、混練物層3−1で吸収されなかった光を、混練物層3−2〜3−nで散乱させて、混練物層3−1に戻し、混練物層3−1中の酸化物半導体粒子で吸収することにより、光を効率よく利用することができる。酸化物半導体粒子の平均粒子径が透明導電層側から段階的に大きくなる場合も同様である。
【0032】
上記のような酸化物半導体粒子を含有する層における粒子配列の調整は、従来、塗工技術に委ねられていたが、本発明では工程1−1および1−2で、シート形成物毎に酸化物半導体粒子の平均粒子径が異なるシート形成物群から選ばれるシート形成物を用いて、その混練物層を積層することで容易に行うことができる。
【0033】
さらには、工程1−1で用いるシート形成物A−1および工程1−2で用いるシート形成物A−2〜A−nは、シート毎の混練物層中の酸化物半導体粒子の平均粒子径が同一であってもよい。
【0034】
同じ平均粒子径の酸化物半導体粒子を含有する混練物層を重ねることによって、セル中の色素吸着量が増大し、セルの光の吸収量を増大させることができる。
【0035】
(工程2)
工程1−1および任意の工程1−2で形成された単層または積層の混練物層3−1、または3−1および3−2、または3−1および3−2〜3−n(nは3以上の整数)を焼成する。
【0036】
焼成の条件としては、バインダーが消失する温度であることが必要とされ、例えば400℃〜1000℃程度である。
焼成により、バインダー、添加剤等が消失し、多孔質半導体電極が製造される。
焼成後の混練物層3−1〜3−nの各層の厚さは3〜40μmが好ましく、5〜30μmがより好ましい。
【0037】
3.光電変換素子
本発明の製造方法により、製造された多孔質半導体電極は、光電変換素子に用いることができる。光電変換素子の製造方法は、本発明の製造方法により製造された多孔質半導体電極を光増感色素に浸漬した後、色素の吸着した多孔質半導体電極と対極を有する光電子変換素子基材とを接着剤等を用いて接合する。そして、多孔質半導体電極および対極間を電解質液で満たす。前記光増感色素はRu錯体、フタロシアニン、ポルフィリンなどの錯体色素のほか、カルバゾール系、クマリン系、キサンテン系、インドリン系などの有機色素を用いることができる。前記対極を有する光電子変換素子基材は公知の導電材料を制限なく用いることができ、プラチナ、金、銀、パラジウム、アルミニウム、炭素の他、PEDOTのような有機導電材料および本願の多孔質半導体電極の透明導電層に用いた材料も用いることができる。前記電解質液は、ヨウ素、ヨウ化物塩、イミダゾリウム塩、ピリジン等の公知の電解質を含む液体のほか、固体の有機無機ホール輸送材を用いることもできる。
【0038】
上記光電変換素子は、本発明の多孔質半導体電極の電極側から光を入射することにより発電する。
【実施例】
【0039】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本明細書において、以下の値は、特にことわりのない限り、以下の測定方法で測定した。
【0040】
<平均粒子径>
SEM観察による粒度分布測定による。
[ポリマー製造例1(バインダー用)]
攪拌装置、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、トルエン60重量部、2−エチルヘキシルメタクリレート98重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部を仕込み、フラスコ内に窒素ガスを導入しながら30分攪拌して窒素置換を行った後、フラスコの内容物を90℃まで昇温した。ついで、フラスコ内の内容物を90℃に維持しながら、ジメチル 2,2-アゾビス(2-メチルプロピネート)0.3重量部添加し、重合を開始した。重合開始から1時間毎に2,2-アゾビス(2-メチルプロピネート)0.3重量部を計3回添加した。重合開始から12時間後、トルエン10重量部を添加し、室温まで冷却して、ポリマー固形分55%のポリマー(A)を得た。得られたポリマー(A)の重量平均分子量(GPC法で用いて測定したポリスチレン換算、以下同じ)は15万であった。
【0041】
[ポリマー製造例2(バインダー用)]
攪拌装置、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、トルエン60重量部、2−エチルヘキシルメタクリレート98重量部、アクリル酸2重量部を仕込み、フラスコ内に窒素ガスを導入しながら30分攪拌して窒素置換を行った後、フラスコの内容物を90℃まで昇温した。ついで、フラスコ内の内容物を90℃に維持しながら、ジメチル 2,2-アゾビス(2-メチルプロピネート)0.3重量部添加し、重合を開始した。重合開始から1時間毎に2,2-アゾビス(2-メチルプロピネート)0.3重量部を計3回添加した。重合開始から12時間後、トルエン10重量部を添加し、室温まで冷却して、ポリマー固形分55%のポリマー(B)を得た。得られたポリマー(B)の重量平均分子量は15万であった。
【0042】
[実施例1]
酸化チタン粒子(商品名P−25、平均粒子径21nm(SEM観察の粒度分布測定による)、Degussa社製)4gをビーズミル(製品名pulverisette7、FRITSCH社製、以下同じ)を用いて、ブタノール16g中に分散させ酸化チタン粒子分散液を得た。得られた分散液にポリマー(A)を4.85g加え、自転・公転ミキサー(製品名 あわとり練太郎 ARE-310、シンキー社製、以下同じ)を用いて混合攪拌し、混練物を得た(酸化物チタン粒子とポリマー(A)の配合質量比=60:40(固形分比))。
【0043】
上記混練物をドクターブレード(クリアランス60μm)により、シリコーンで剥離処理がなされたポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ40μm)(商品名セラピールMFA、東レフィルム加工社製、以下同じ)の剥離処理面上に60μmの厚さに塗布した後、熱風循環式乾燥機で90℃で10分間乾燥して、シート形成物(a)を得た。混練物層の厚さは25μmであった。
【0044】
このシート形成物(a)の混練物層を100℃でフッ素ドープ酸化スズの薄膜を有するガラス(以下FTOガラスともいう)(商品名A110U80、旭硝子(株)製、以下同じ)の透明導電層上に転写し、450℃のオーブンで15分間で焼結することで多孔質酸化チタン電極(a)を得た。焼成後の混練物層の厚さは、16.1μmであった。
【0045】
[実施例2]
ポリマー(A)の代わりにポリマー(B)を用いた以外は同様の操作で、シート形成物(b)を得た。シート形成物(b)を用いて実施例1と同様の転写方法および焼成方法にて、多孔質酸化チタン電極(b)を得た。
【0046】
[実施例3]
酸化チタン粒子(P−25)4gをビーズミルを用いてブタノール16g中に分散させた。その分散液にトルエンとエタノール50:50(重量比)に固形分10%となるように溶解したポリビニルブチラール(商品名エスレックBH−3、積水化学工業社製、以下同じ)溶液を28gと、さらに可塑剤としてジブチルオクチルフタレート1.2gを加え、自転・公転ミキサーを用いて混合攪拌し、混練物を得た(酸化物チタン粒子とポリビニルブチラールと可塑剤の配合質量比=50:35:15(固形分比))。
【0047】
上記混練物をドクターブレード(クリアランス150μm)により、ポリエチレンテレフタレートフィルム(セラピールMFA)の剥離処理面上に90μmの厚さに塗布した後、熱風循環式乾燥機で90℃で10分間乾燥して、シート形成物(c)を得た。混練物層の厚さは25μmであった。
このシート形成物(C)を用いて、実施例1と同様の転写方法および焼成方法にて、多孔質酸化チタン電極(c)を得た。
【0048】
[実施例4]
酸化チタン粒子(P−25)4gをビーズミルを用いて、ブタノール16g中に分散させた。その分散液に酢酸エチルに固形分10%となるように溶解したエチルセルロース(商品名エトセルGr.10、日進化成社製、以下同じ)溶液を28gと、さらに可塑剤としてジブチルオクチルフターレート1.2gを加え、自転・公転ミキサーを用いて混合攪拌し、混練物を得た(酸化物チタン粒子とエチルセルロースと可塑剤の配合質量比=50:35:15(固形分比))。
【0049】
上記混練物をドクターブレード(クリアランス150μm)により、セラピールMFAの剥離処理面上に90μmの厚さに塗布した後、熱風循環式乾燥機で90℃で10分間乾燥して、シート形成物(d)を得た。混練物層の厚さは25μmであった。
このシート形成物(d)を用いて実施例1と同様の転写方法および焼成方法にて、多孔質酸化チタン電極(d)を得た。
【0050】
[実施例5]
実施例3で作製したシート形成物(c)の混練物層を実施例1と同様の方法でFTOガラス(A110U80)の透明導電層上に転写し、更に、その混練物層上に100℃でシート形成物(c)の混練物層をもう一層転写し積層物を得た。該積層物を実施例1と同様の方法で焼成し、2層積層した多孔質酸化チタン電極(c−c)を得た。
【0051】
[実施例6]
粒子径が大きい酸化チタン(商品名ST41、平均粒子径160nm(BET法からの換算)、石原産業社製)を用いた以外、実施例3と同様の条件でシート形成物(e)を作製した。FTOガラス(A110U80)の透明導電層上にシート形成物(c)の混練物層を転写後、その混練物層上にシート形成物(e)の混練物層を100℃で転写して積層した。該積層物を実施例1と同様の方法で焼成し、2層積層した多孔質酸化チタン電極(c−e)を得た。
【0052】
[製造例1]
実施例1で得られた焼成後の多孔質酸化チタン電極を、Ru錯体(通称N719)色素(PECD07、ペクセルテクノロジーズ社製)アセトニトリル溶液に18時間浸漬し、次にアセトニトリルで濯ぎ、乾燥させ色素増感電極を作製した。上記色素増感電極の半導体面を30μmの熱接着フィルム(商品名HM−52 、タマポリ社製)を介して、プラチナ電極と貼り合わせた。その後、上記貼合物をヨウ素、ヨウ化リチウム、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムヨージドおよび4-tert-ブチルピリジンをアセトニトリルに溶解した溶液を電極間に注入し、色素増感光電変換素子を作製した。
【0053】
[製造例2]
実施例2で得られた焼成後の多孔質酸化チタン電極(b)を用いて、製造例1と同様にして、色素増感光電変換素子を作製した。
【0054】
[製造例3]
実施例3で得られた焼成後の多孔質酸化チタン電極(c)を用いて、製造例1と同様にして、色素増感光電変換素子を作製した。
【0055】
[製造例4]
実施例4で得られた焼成後の多孔質酸化チタン電極(d)を用いて、製造例1と同様にして、色素増感光電変換素子を作製した。
【0056】
[製造例5]
実施例5で得られた焼成後の多孔質酸化チタン電極(c−c)を用いて、製造例1と同様にして、色素増感光電変換素子を作製した。
【0057】
[製造例6]
実施例6で得られた焼成後の多孔質酸化チタン電極(c−e)を用いて、製造例1と同様にして、色素増感光電変換素子を作製した。
【0058】
[光電変換素子の性能評価]
1SUN、擬似太陽光(入射光強度100mW/cm2(AM1. 5)を光源として、光電変換素子の色素増感電極側から入射させ、電圧/電流発生器(R6243, ADVANTEST社製)によって電圧印加し、電流電圧特性を測定した。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のシート形成物および多孔質半導体の製造方法は、光電変換素子の製造に用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
1:透明耐熱基板
2:透明導電層
3−1、3−2:混練物層
4:フィルム
A−1、A−2:シート形成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなるフィルム上に
酸化物半導体粒子とバインダーとを含有する混練物層が形成されていることを特徴とするシート形成物。
【請求項2】
(工程1−1)透明耐熱基板上の透明導電層上に、請求項1に記載のシート形成物をその混練物層が前記透明導電層に接するように積層し、次いで該シート形成物のフィルムを混練物層から剥離する工程と、
(工程2)前記混練物層を焼成する工程とを含むことを特徴とする多孔質半導体電極の製造方法。
【請求項3】
前記工程1−1の後、工程2の前に
(工程1−2)工程1−1で得られた積層物の混練物層上に、請求項1に記載のシート形成物をその混練物層が前記積層物の混練物層に接するように積層し、次いで該シート形成物のフィルムを剥離する工程を1回から複数回行う工程を含むことを特徴とする請求項2に記載の多孔質半導体電極の製造方法。
【請求項4】
工程1−1および工程1−2において、シート形成物の混練物層中の酸化物半導体粒子の平均粒子径が、各工程に用いるシート形成物毎に異なることを特徴とする請求項3に記載の多孔質半導体電極の製造方法。
【請求項5】
シート形成物毎に混練物層中の酸化物半導体粒子の平均粒子径が異なるシート形成物群の中で、最小の平均粒子径の酸化物半導体粒子を含有する混練物層を有するシート形成物を工程1−1に用い、その他のシート形成物を工程1−2に用いることを特徴とする請求項3または4に記載の多孔質半導体電極の製造方法。
【請求項6】
前記透明導電層上に積層された混練物層中の酸化物半導体粒子の平均粒子径が透明導電層側から段階的に大きくなるように、工程1−1および工程1−2を行うことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の多孔質半導体電極の製造方法。
【請求項7】
工程1−1および工程1−2において、シート形成物の混練物層中の酸化物半導体粒子の平均粒子径が、いずれの工程に用いるシート形成物においても同一であることを特徴とする請求項3に記載の多孔質半導体電極の製造方法。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれか一項に記載の製造方法で製造された多孔質半導体電極。
【請求項9】
請求項2〜7のいずれか一項に記載の製造方法で製造された多孔質半導体電極を用いた光電変換素子。
【請求項10】
光電変換素子の多孔質半導体電極製造用である請求項1に記載のシート形成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−146505(P2012−146505A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3889(P2011−3889)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】