説明

シート搬送装置及び印刷装置

【課題】インクシートに必要な一定の弛み量を発生でき、インクシートカセットの着脱性を損なわず、信頼性の高いシート搬送技術を実現する。
【解決手段】インクシート2が巻かれた供給側ボビン11と、前記供給側ボビンから送り出されるインクシートを巻き取る巻き取り側ボビン10と、前記巻き取り側ボビンを駆動する駆動手段とを有し、前記インクシートをサーマルヘッド1に対して搬送するシート搬送装置であって、前記巻き取り側ボビンの巻き取り方向とは逆方向への回転を許容しつつ、その回転量を所定範囲に規制する規制手段12,13を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置におけるシート搬送技術に関する。
【背景技術】
【0002】
小型の昇華型プリンタ等において、通常は、インクシートを巻いた供給軸とインクシートを巻き取る巻き取り軸とを回転させ、サーマルヘッド上にインクシートを走行させる。その中でも、高精彩な写真等を印刷するようなカラープリンタにおいては、インクシートは、一度印刷をして昇華させた部分のインクシートは再利用できないので、巻き戻す必要はない。それどころか、巻き戻ってしまうと、間違った色のインクシートを誤認して、印刷をしてしまうエラーが発生する可能性が高いので、インクシートの巻き取り駆動系には、ワンウェイクラッチ等の巻き戻り防止機構を入れることが多い。
【特許文献1】特開平06−015904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図5は、サーマルヘッドTHを固定してプラテンローラ53を圧着、離間するタイプの昇華型プリンタの主要な構成を示す側断面図である。
【0004】
図5において、インクシート巻き取り軸52にワンウェイクラッチを入れると、印刷終了後に、インクシート51が巻き戻らないので、ピンと張った状態で保たれることになる。ここで、インクシート51を含むインクシートカセット54を取り出そうとした場合、緊張したインクシート51がサーマルヘッドTHに押し付けられたままであるため、カセット54を取り出す際の負荷になってしまい、取り出し難くなることがある。
【0005】
図6は、インクシート巻き取り機構に設けられるワンウェイクラッチを示す斜視図である。
【0006】
図6において、ワンウェイクラッチは、インクシートを巻き取るボビン軸61の外周に、トーションスプリング62のコイル部分を巻きつけて構成されている。インクシートを巻き取る方向にボビン軸61が回転すると、トーションスプリング62のコイル部分が弛み、巻き取り時の負荷になることはない。一方、巻き戻すような回転力が作用すると、コイル部分が抱き締まり、トーションスプリング62の腕部がボビン軸の一部に係合し、突っ張るため、回転が静止される。
【0007】
このようなワンウェイクラッチでは、インクシートの巻き取り方向とは逆に回転し得る量は、トーションスプリングが抱き締まって、ボビン軸とトーションスプリングが同期して回転するまでの量になる。この逆回転可能量が小さすぎると巻き取り方向への正回転時にもボビン軸に多大な摩擦力を与え、巻き取り負荷になってしまうので望ましくない。また、逆回転可能量が大きすぎると、抱き締まり力が弱くなるため、逆回転静止力が弱くなり、逆回転を抑えられずワンウェイクラッチとしての機能が成立しなくなってしまう。
【0008】
以上の理由から、インクシートが絡まったり、誤色刷りを防止するため、所定範囲以上の逆回転は抑止し、且つインクシートカセット取り出し時には必要な所望の弛み量を発生させるような機構が望ましい。
【0009】
また、上述した課題は、ワンウェイクラッチがなく、モータの静止トルクが高く、逆回転しにくいような機構でもありえる。
【0010】
本発明は、インクシートに必要な一定の弛み量を発生でき、インクシートカセットの着脱性を損なわず、信頼性の高いシート搬送技術を実現することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のシート搬送装置は、インクシートが巻かれた供給側ボビンと、前記供給側ボビンから送り出されるインクシートを巻き取る巻き取り側ボビンと、前記巻き取り側ボビンを駆動する駆動手段とを有し、前記インクシートをサーマルヘッドに対して搬送するシート搬送装置であって、前記巻き取り側ボビンの巻き取り方向とは逆方向への回転を許容しつつ、その回転量を所定範囲に規制する規制手段を設けた。
【0012】
また、本発明の印刷装置は、インクシートに担持されたインクをプリントシートに転写して印刷する印刷装置であって、サーマルヘッドと、前記サーマルヘッドの発熱部に対向して設けられたプラテンローラと、前記インクシートが巻かれた供給側ボビンと、前記供給側ボビンから送り出されるインクシートを巻き取る巻き取り側ボビンと、前記巻き取り側ボビンを駆動する駆動手段とを有し、前記インクシートを前記サーマルヘッドに対して搬送するシート搬送装置とを有し、前記シート搬送装置に、前記巻き取り側ボビンの巻き取り方向とは逆方向への回転を許容しつつ、その回転量を所定範囲に規制する規制手段を設けた。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インクシートに必要な一定の弛み量を発生でき、インクシートカセットの着脱性を損なわず、信頼性の高いシート搬送技術を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
尚、以下に説明する実施形態は、本発明を実現するための一例であり、本発明が適用される装置の構成や各種条件によって適宜修正又は変更されるべきものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
[第1の実施形態]
図1は本発明の実施形態のインクシート巻き取り機構を示す平面図(a)及び側断面図(b)である。
【0017】
図1において、1はサーマルヘッド、2はインクシート、3はプラテンローラ、4はキャプスタンローラ、5はピンチローラ、6はシート送り駆動モータ、7は巻き取りモータ、8は減速ギア列である。また、9はトルクリミッタ、9aは入力ギア、9bはフエルト等の低摩擦高耐久材からなるスリップ部材、9cは出力ギア、9dは摩擦力を発生させスリップトルクを決定するばね部材である。
【0018】
10は印刷済みのインクシート2を先端から巻き取る巻き取り側ボビン、11は未印刷のインクシート2を供給する供給側ボビン、12は供給側ボビン11の回転に同期させたギアで、周方向に一定の間隔を持ったラッチが形成されている。
【0019】
13は、インクシート2の搬送が必要ないプリントシートPのみの搬送中に、インクシート2がプリントシートPに引き摺られて搬送されないように、ラッチ12に噛み込み、供給側ボビン11の回転を制止する係合レバー部材である。
【0020】
14は、巻き取り側ボビン10の逆回転を制止するためのワンウェイクラッチである。14aは入力ギヤ、14bは入力ギヤ14aとある位相から同期して回転するロータである。また、14cは入力ギヤ14a及びロータ14bの回転軸を有し、ケーシングの内側にギヤが形成された保持部材、14dは遊星ギヤであり、保持部材14cの内歯と噛み合いながら回転する。
【0021】
図1は、本実施形態のインクシート巻き取り機構の印刷時の状態を示し、サーマルヘッド1に対向するプラテンローラ3はサーマルヘッド1に押圧された状態にあり、係合レバー部材13は供給側ボビン11を回転自在にする解除状態にある。
【0022】
15は、インクシート2がスムーズに移動するための整流シャフトである。
【0023】
上記構成において、サーマルヘッド1の発熱部でインクシート2に担持されたインクをプリントシートP上に熱転写させながら、シート搬送方向下流のキャプスタンローラ4とピンチローラ5とモータ6で回転駆動してプリントシートPを搬送させて印刷を行う。
【0024】
1色目の印刷が終了すると、次色の印刷を行うために、プラテンローラ3を離間する。この状態でキャプスタンローラ4とピンチローラ5をシート送り駆動モータ6で印刷時とは逆方向に回転させて印刷開始位置までプリントシートPを戻し、1色目と同様の動作で2色目以降を印刷する。
【0025】
次に、インクシート巻き取り機構について説明する。
【0026】
印刷時のインクシート2の搬送速度はプリントシートPの搬送速度と略同一であるので一定である。しかしながら、インクシート2の巻き取り側ボビン10は一定の回転速度に制御しても径が増大していくのに伴いリボン搬送量は増大してしまう。
【0027】
このような問題を解消するために、インクシート2の巻き取り側ボビン10と駆動源である巻き取りモータ7の間にスリップ式のトルクリミッタ9が設けられている。そして、印刷時にトルクリミッタ9をスリップさせることによって、巻き取り側ボビン10の外径の変化による回転速度の変化を吸収して円滑なリボンの巻き取りを実現している。
【0028】
また、トルクリミッタ9や出力ギヤ9cよりも後段側にワンウェイクラッチ14を設けることで、巻き取り側ボビン10が逆回転して余計なたるみが発生しないように構成している。これにより、インクシート2がキャプスタンローラ4及びピンチローラ5に挟まって紙詰まり等が発生しないようになっている。
【0029】
次に、ワンウェイクラッチ14の機構及び動作について図2を参照して説明する。
【0030】
図2はワンウェイクラッチの側面図(a)、(a)のA−A断面図(b)、(a)のB−B断面図(c)である。図3は、ワンウェイクラッチ14を回転軸の前端方向(a)及び後端方向(b)から見た分解斜視図である。
【0031】
先ず、インクシート2を巻き取る方向に巻き取りモータ7が回転した場合、入力ギヤ14aのギヤ部に伝わった回転力は、保持部材14cの回転軸で同軸に回転し得るロータ14bへ伝わる。即ち、入力ギヤ14aに形成された溝形状14a−1とロータ14bに形成されたキー形状14b−1とにより、入力ギヤ14aがある位相分だけ回転し、溝形状14a−1の一端の壁部にキー形状14b−1が当接した時点でロータ14bへ伝わる。
【0032】
ロータ14bが回転すると、ロータ14b上の3つの遊星ギヤ14dは保持部材14cの内歯に噛み合いながら空転する。
【0033】
一方、インクシート2が弛む方向に回転力が作用した場合、入力ギヤ14aのギヤ部に伝わった回転力は、先ず入力ギヤ14aが、上記巻き取り時に当接しなかった溝形状14a−1の他方の壁部にキー形状14b−1が当接する位置まで回転する。
【0034】
次に、入力ギヤ14aからロータ14bに回転力が伝わり回転しようとするが、その方向に回転しようとすると、ロータ14b上の遊星ギヤを半内包する壁部に設けられた凹形状14b−2に遊星ギヤ14dが噛み込み、ロータ14bの回転を静止する。
【0035】
上述した構成及び動作により、ワンウェイクラッチ14に巻き取り方向とは逆の回転力が入力された場合には、ロータ14bのキー形状14b−1が、入力ギヤ14aの溝形状14a−1の一端から他端まで回転し得る位相分だけ回転し、その後回転が静止する。
【0036】
従って、溝形状14a−1に対するキー形状14b−1の回動可能角度を設定することで、所望の逆回転量を設定することができる。
【0037】
上記ワンウェイクラッチをトルクリミッタ9よりも後段側に入れることで、インクシート2にテンションがかかるような場合に、所望の回転量だけインクシート2が弛む方向に巻き取り側ボビン10が回動可能になるため、余計なテンションを解放できる。
【0038】
尚、トルクリミッタ9よりも前段側に上記機構を入れてしまうと、逆回転力がスリップトルクを超えてかかった場合、トルクリミッタ9内でスリップが発生して如何程でも逆回転できてしまう。
【0039】
上記構成により、例えば、インクシート2を巻き取った後、インクシート2にテンションがかかり、サーマルヘッドを押さえるような力を及ぼしている場合であっても、余計な負荷を発生させずにインクシートカセットを取り出すことができる。即ち、巻き取り側ボビン10が巻き取り方向とは逆に回転するのを許容するので、インクシート2がサーマルヘッドを押さえつけていたテンションが解放されて、インクシートカセットをスムーズに取り出すことができる。
【0040】
また、巻き取り側ボビン10の逆回転量を所定範囲に規制し、一定量以上弛むとワンウェイクラッチ14によりロックがかかるため、必要以上にインクシート2が弛むことがなくなる。
【0041】
本実施形態では、インクシート巻き取り機構にトルクリミッタ9とワンウェイクラッチ14を設けた例について説明したが、これらを搭載しない場合でも同様の効果が得られる。例えば、巻き取り側ボビンが逆回転した場合、巻き取りモータの静止トルクでロックがかかるような単純な巻き取り機構であっても、例えばギヤ列中に空動位相ができる機構を入れることで同様の効果が得られる。
【0042】
[第2の実施形態]
次に、本発明に係る第2の実施形態について説明する。
【0043】
第1の実施形態とインクシート巻き取り機構の全体構成は略同一であって、第1の実施形態のワンウェイクラッチ14の入力ギヤ14aとロータ14bの動力伝達部を変更したものである。
【0044】
図4は、第2の実施形態のワンウェイクラッチを回転軸の前端方向(a)及び後端方向(b)から見た分解斜視図である。
【0045】
図4において、第1の実施形態と同一の構成については説明を省略するが、入力ギヤ21におけるロータ22との係合部である溝21a内部に付勢部材25が固定されている。付勢部材25はインクシート巻き取り時にロータ22のキー形状22aが当接する一端の壁部に設けられている。
【0046】
これにより、インクシート巻き取り時に、付勢部材25は圧縮された状態で入力ギヤ21とロータ22とが同期して回転する。
【0047】
そして、インクシート2の巻き取り方向への入力がなくなると、付勢部材25の復元力によってロータ22のキー形状22aには巻き取り方向と逆方向に回転する力が作用する。しなしながら、逆方向に回転しようとすると、ロータ22上の遊星ギヤ23を半内包する壁部に設けられた凹形状22bに遊星ギヤ23が噛み込み、ロータ22の回転を静止する。
【0048】
一方、ロータ22のキー形状22aを押す反力が入力ギヤ21に作用し、インクシート2が弛む方向に入力ギヤ21が回転する。従って、所望の弛み量分、強制的に弛ませるような力が作用する。
【0049】
上記構成により、インクシート2を巻き取るとき以外には、所定の弛み量を確実に与えることができるので、インクシートカセットを取り出すとき等にテンションを確実に低下させることができる。
【0050】
上述した各実施形態によれば、例えば、サーマルヘッドが固定された昇華型プリンタにおいて、インクシート巻き上げ機構の一部の伝達動作に空動位相を発生させる機構を追加したことで、インクシート2に必要な一定の弛み量を発生させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る実施形態のインクシート巻き取り機構を示す平面図(a)及び側面図(b)である。
【図2】ワンウェイクラッチの側面図(a)、(a)のA−A断面図(b)、(a)のB−B断面図(c)である。
【図3】第1の実施形態のワンウェイクラッチを回転軸の前端方向(a)及び後端方向(b)から見た分解斜視図である。
【図4】第2の実施形態のワンウェイクラッチを回転軸の前端方向(a)及び後端方向(b)から見た分解斜視図である。
【図5】サーマルヘッドが固定された昇華型プリンタの主要な構成を示す側断面図である。
【図6】図5のインクシート巻き取り機構を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
1 サーマルヘッド
2 インクシート
3 プラテンローラ
4 キャプスタンローラ
5 ピンチローラ
6 シート送り駆動モータ
7 巻き取りモータ
8 減速ギア列
9 トルクリミッタ
10 巻き取り側ボビン
11 供給側ボビン
12 ギア
13 係合レバー部材
14 ワンウェイクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクシートが巻かれた供給側ボビンと、前記供給側ボビンから送り出されるインクシートを巻き取る巻き取り側ボビンと、前記巻き取り側ボビンを駆動する駆動手段とを有し、前記インクシートをサーマルヘッドに対して搬送するシート搬送装置であって、
前記巻き取り側ボビンの巻き取り方向とは逆方向への回転を許容しつつ、その回転量を所定範囲に規制する規制手段を設けたことを特徴とするシート搬送装置。
【請求項2】
前記巻き取り側ボビンの外径の変化によるインクシートの巻き取り速度の変化を許容するために、前記駆動手段の駆動源から前記巻き取り側ボビンまでの間にトルクリミッタが設けられ、
前記規制手段を前記トルクリミッタの後段側に設けたことを特徴とする請求項1に記載のシート搬送装置。
【請求項3】
前記規制手段は、前記巻き取り方向とは逆方向への回転を所定範囲で許容するワンウェイクラッチと、前記駆動手段による駆動を解除した状態で、前記巻き取り側ボビンを巻き取り方向とは逆方向に付勢する付勢手段と、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のシート搬送装置。
【請求項4】
インクシートに担持されたインクをプリントシートに転写して印刷する印刷装置であって、
サーマルヘッドと、
前記サーマルヘッドの発熱部に対向して設けられたプラテンローラと、
前記インクシートが巻かれた供給側ボビンと、前記供給側ボビンから送り出されるインクシートを巻き取る巻き取り側ボビンと、前記巻き取り側ボビンを駆動する駆動手段とを有し、前記インクシートを前記サーマルヘッドに対して搬送するシート搬送装置とを有し、
前記シート搬送装置に、前記巻き取り側ボビンの巻き取り方向とは逆方向への回転を許容しつつ、その回転量を所定範囲に規制する規制手段を設けたことを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−78400(P2009−78400A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248186(P2007−248186)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】