説明

シート材分離機能付き把持ハンドとこれを用いたシート材分離把持方法

【課題】アクチュエータの必要数が少なく、かつ簡単な構造と制御で、複数のシート材が積層されたスタックから最上段のシート材を1枚ずつ確実に分離し把持することができるシート材分離機能付き把持ハンドとこれを用いたシート材分離把持方法を提供する。
【解決手段】複数のシート材1が水平に積層されたスタック2から最上段のシート材を1枚ずつ分離し把持するシート材分離機能付き把持ハンド10。搬送用ロボットのハンド取付部9に取り付けられ、シート材の両端部間をカバーする水平長さを有する上部ハンド12と、上部ハンドの下方に位置しシート材の両端部間をカバーする水平長さを有する下部ハンド14と、下部ハンドの下面に分散して取り付けられた複数の吸盤16とを備える。下部ハンド14は、シート材1の両端部に対向する位置で、上部ハンド12の下面に両端支持されており、かつ少なくともその両端部近傍が吸盤の吸着力により弾性的に撓むように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のシート材が積層されたスタックから最上段のシート材を1枚ずつ分離し把持するシート材分離機能付き把持ハンドとこれを用いたシート材分離把持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シート材、例えばステンレス板や鋼板は、通常所定の大きさ及び形状に切断した後、パレット等にそのまま積層し、積層状態のスタックとして、工場間又は工場内で搬送又は保管される。
また、プレス装置等の加工設備でシート材を加工する際には、スタックから加工設備に、スタックの最上段のシート材を1枚ずつ分離・把持し供給する必要がある。
【0003】
しかし、シート材の表面に油分や水分が付着している場合、シート材同士が表面張力等で強く密着し、最上段のシート材を持ち上げても、2段目、或いは2段目以下のシート材を同時に持ち上げてしまい、最上段のシート材のみを1枚ずつ分離し把持するのが困難な場合がある。
そこで複数のシート材が積層されたスタックから最上段のシート材を1枚ずつ分離し把持するために、例えば特許文献1〜4が既に提案されている。
【0004】
特許文献1は、圧延油等の粘性の高い油の密着力に抗してスタックされた金属板を確実に分離することを目的とする。
そのため、特許文献1では、図5に示すように、多段状にスタックされた金属板51上の平面視上長さ方向に、バキュームパッド52を必要数間隔をおいて正対させ、該バキュームパッド52において最外側に位置するバキュームパッド52から順に時間差をおいて正対する金属板51部分を吸着且つ扛上させて徐々に下位の金属板51に対して上位の金属板51を剥離させ、最後に中央部のバキュームパッド52で正対する金属板51部分を吸着且つ扛上させるものである。
【0005】
特許文献2は、複数枚の積層されたシート材から最上層のシート材を、重ね取りなく一枚ずつ分離して取り出すことを目的とする。
そのため、特許文献2では、図6に示すように、独立して上下移動されるバキュームパッド61,62,63が3列に並んで配列された装置を使用する。バキュームパッド61,62,63を下降させて、最上層のシート材Sの上面に当接させる(A)。バキュームパッド61,62,63のうち、その配設方向の一方向外方にあるバキュームパッド61を上昇させることにより、シート材Sの一端部を吸着して持上げる(B)。中央のバキュームパッド62を上昇させることにより、シート材Sの中央部位を吸着して持上げる(C)。バキュームパッド61を下降させる(D)。バキュームパッド61を上昇させた後に、残るバキュームパッド63を上昇させることにより、シート材Sの他端部を吸着して持上げるものである。
なお、この図で64はノズル、65は圧縮空気である。
【0006】
特許文献3は、含水率が高いボード材であってもその積層体から確実に1枚ずつを剥離して後続ラインに移載できることを目的とする。
そのため、特許文献3では、図7に示すように、撓み性を持つボード材71の積層体に対し、最上段のボード材71を順にその下層のボード材から剥離するに際し、最上段のボード材71を下層のボード材との間に空間ができるように撓み変形させ、この撓み変形の後に最上段のボード材を下層のボード材側に緩く倣わせる向きに変形させることによって、先の空間の中に招き込んだ空気をボード材どうしの全面に行き渡らせるようにし、最上段のボード材71をその下層のボード材から剥離する。また、最上段のボード材71のコーナー部を強制的に下段配置のものから引き剥がす機構72を備えることによって、剥離をより確実に行えるようにするものである。
なお、この図で73,74,75はバキュームパッドである。
【0007】
特許文献4は、バキュームカップで吊り上げられた最上位の金属板に密着して一緒に上がった下方の金属板を、容易に最上位の金属板から分離することを目的とする。
そのため、特許文献4では、図8に示すように、中央部をバキュームカップ84で押圧し、両側をバキュームカップ84で吊り上げた金属板82の両側の外側斜め上方から、引掻板83のエアブローを金属板82の端部に向け下降させながら空気を金属板82の端部付近に噴射する。引掻板83を金属板82の端部に接触し、バキュームカップ84で吸着された最上位の金属板82に密着して一緒に上がった下方の金属板82を、最上位の金属板82から分離するものである。
【0008】
【特許文献1】特開平5−77948号公報、「スタックされた金属板の分離方法及びその装置」
【特許文献2】特開平9−194056号公報、「シート材分離方法」
【特許文献3】特開平10−72131号公報、「積層ボード材の剥離方法及びその装置」
【特許文献4】特開2000−313525号公報、「フィーダーに於ける吊上時の金属板分離方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1〜4の手段では、複数のシート材(金属板等)が積層されたスタックから最上段のシート材を1枚ずつ分離するために、複数のアクチュエータ(例えばエアシリンダ)を独立に制御してシート材の端部から引き上げている。
そのため、さまざまなシート材の大きさ及び形状に対応するため、アクチュエータを多数用意する必要がある。また、それぞれシート材の大きさ及び形状に合わせて引き上げタイミングを微妙に制御しなければならないため、機構・制御ともに複雑になっていた。
【0010】
また、近年、厚さの異なる金属板をレーザ溶接等で接合したシート材(以下、「TBシート材:テーラードブランク」と呼ぶ)を、同様にそのまま積層したスタック(以下、「TBスタック」と呼ぶ)として用いる場合がある。
TBスタックは、TBシート材の厚肉部分(例えば2.3mm厚)に対して薄肉部分(例えば1.6mm厚)は、積層すると厚さの差(隙間)が累積されるため、厚肉部分から下方に撓んだ状態となる。
このようなTBスタックに対しても、最上段のTBシート材を1枚ずつ確実に分離し把持することが望まれていた。
【0011】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の第1の目的は、アクチュエータの必要数が少なく、かつ簡単な構造と制御で、複数のシート材が積層されたスタックから最上段のシート材を1枚ずつ確実に分離し把持することができるシート材分離機能付き把持ハンドとこれを用いたシート材分離把持方法を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、厚さの異なる金属板を接合したTB材を積層したTBスタックから最上段のシート材を1枚ずつ確実に分離し把持することができるシート材分離機能付き把持ハンドとこれを用いたシート材分離把持方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、複数のシート材が水平に積層されたスタックから最上段のシート材を1枚ずつ分離し把持するシート材分離機能付き把持ハンドであって、
搬送用ロボットのハンド取付部に取り付けられ、シート材の両端部間をカバーする水平長さを有する上部ハンドと、
該上部ハンドの下方に位置し、シート材の両端部間をカバーする水平長さを有する下部ハンドと、
下部ハンドの下面に分散して取り付けられた複数の吸盤とを備え、
前記下部ハンドは、シート材の両端部に対向する位置で、上部ハンドに両端支持されており、かつ少なくともその両端部近傍が吸盤の吸着力により弾性的に撓むように構成されている、ことを特徴とするシート材分離機能付き把持ハンドが提供される。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記両端部の内側に、吸盤の吸着力による下部ハンドの撓み量を制限し、かつ下部ハンドを上部ハンドに向けて上方に付勢する撓み制限部材を備える。
【0014】
前記上部ハンドは、シート材の長さ方向に延びる複数の第1高剛性部材と、これと交差して連結され幅方向に延びる複数の第2高剛性部材とからなり、
前記下部ハンドは、シート材の長さ方向に、前記第1高剛性部材に沿って延びる複数の第3高剛性部材と、その両端に一端が固定され外方に延びる複数の低剛性板とからなり、
該低剛性板の先端部が第1高剛性部材に支持され、
前記撓み制限部材は、前記第1高剛性部材と第3高剛性部材の間に設けられる、ことが好ましい。
【0015】
また本発明によれば、上述のシート材分離機能付き把持ハンドを、複数のシート材が水平に積層されたスタックの上方から下降させて最上段のシート材の上面に複数の吸盤を密着させて各吸盤でシート材全面を吸着し、
前記上部ハンドを上昇させて、両端支持された下部ハンドの両端部近傍を、これと吸盤で吸着された最上段のシート材の両端部と共に、吸盤の吸着力とシート材の重量により上方に弾性的に撓ませる、ことを特徴とするシート材分離機能付き把持ハンドを用いたシート材分離把持方法が提供される。
【0016】
さらに本発明によれば、上述のシート材分離機能付き把持ハンドをTBシート材の薄肉部分の傾斜角度にあわせた姿勢をとり、複数のTBシート材が水平に積層されたTBスタックの上方から下降させて最上段のTBシート材の薄肉部分に複数の吸盤を密着させて複数の吸盤でTBシート材の薄肉部分を吸着し、
次いで、シート材分離機能付き把持ハンドをTBシート材の厚肉部分と薄肉部分の段差を中心に水平になるように厚肉部分側に回転して、複数の吸盤でTBシート材の厚肉部分を吸着する、ことを特徴とするシート材分離機能付き把持ハンドを用いたシート材分離把持方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明の装置及び方法によれば、下部ハンドが、上部ハンドに両端支持されており、かつ少なくともその両端部近傍が吸盤の吸着力により弾性的に撓むように構成されているので、
複数のシート材が水平に積層されたスタックの最上段のシート材の上面に複数の吸盤を密着させて各吸盤でシート材全面を吸着した状態で上部ハンドを上昇させると、上部ハンドに両端支持された下部ハンドの両端部は上部ハンドと共に上昇するが、下部ハンドの中央部は2段目以下のシート材の密着力により上昇できないため、両端支持された下部ハンドの両端部近傍を、これと吸盤で吸着された最上段のシート材の両端部と共に、吸盤の吸着力とシート材の重量により上方に弾性的に撓ませることができる。
【0018】
最上段のシート材の両端部が上方に撓んでも、2段目以下のシート材は吸盤で吸着されていないので、シート材同士の密着力に抗して元の平面を維持するように内部応力が発生する。
この結果、吸盤の吸着力はシート材同士の密着力より大きいので、シート材自体の曲げ剛性により最上段のシート材の両端部のみを2段目のシート材から剥がすことができる。
この状態で一定時間保持することにより、シート材の弾性により、最上段のシート材全体を2段目のシート材から自然に剥がすことができる。なお、この際に、周知のマグネットや空気ノズルを併用して、最上段のシート材全体を2段目のシート材から積極的に剥がしてもよい。
【0019】
従って、上記本発明の装置及び方法によれば、把持ハンド自体にはアクチュエータがなく、簡単な構造と制御で、複数のシート材が積層されたスタックから最上段のシート材を1枚ずつ確実に分離し把持することができる。
【0020】
また、厚さの異なる金属板を接合したTB材を積層したTBスタックであっても、シート材分離機能付き把持ハンドをTBシート材の厚肉部分と薄肉部分の段差を中心に所定の角度薄肉部分側に回転して、複数の吸盤でTBシート材の薄肉部分を吸着することにより、TBスタックから最上段のTBシート材を1枚ずつ確実に分離し把持することができる。
【0021】
従って、本発明の装置及び方法によれば、簡単な構造と制御で、複数のシート材が積層されたスタックから最上段のシート材を1枚ずつ確実に分離し把持することができ、コストダウンと装置の調整期間の短縮が可能となり、さらにセンサーやアクチュエータをなくすことにより、故障率を激減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0023】
図1は、本発明の把持ハンドとその把持方法の第1実施形態図である。
図1(A)は、本発明によるシート材分離機能付き把持ハンド10(以下、単に「把持ハンド」と呼ぶ)の全体側面図である。
本発明の把持ハンド10は、複数のシート材1が水平に積層されたスタック2から最上段のシート材1を1枚ずつ分離し把持する機能を有する。シート材1は、例えば2000mm×4000mm、厚さ0.7〜3mmの鋼板であるが、本発明はこれに限定されず、任意の形状および厚さであってもよい。
【0024】
図1(A)において、本発明の把持ハンド10は、上部ハンド12、下部ハンド14、および複数の吸盤16を備える。
【0025】
上部ハンド12は、図示しない搬送用ロボットのハンド取付部9に取り付けられ、ハンド取付部9により3次元的に昇降、横行、旋回、等を自由にできるようになっている。上部ハンド12のハンド取付部9への取付け位置は、上部ハンド12の中央でも中央からオフセットした位置でもよい。
【0026】
また、上部ハンド12は、シート材1の両端部間をカバーする水平長さを有する。シート材1の両端部は、好ましくは長さ方向の両端部であるが、幅方向でも、その他の両端部でもよい。また、上部ハンド12は、シート材1の全面をカバーする大きさでありのが好ましいが、シート材1の一部をカバーしていなくてもよい。
上部ハンド12の構造は任意であり、この例では1枚の厚板であるが、複数の板または棒材を組み合わせてもよい。上部ハンド12の剛性は十分高いのが好ましく、例えば、ハンド取付部9で全体を支持し、かつ下方に下部ハンド14、吸盤16、及びシート材1を吊り下げた場合でも、最大撓みが十分小さい(例えば1mm未満)ように設定するのがよい。
【0027】
下部ハンド14は、上部ハンド12の下方に位置し、シート材1の両端部間をカバーする水平長さを有する。また下部ハンド14は、シート材1の両端部に対向する位置で、両端支持金具13を介して、上部ハンド12の下面に両端支持されている。両端支持金具13は、この例では、下端が下部ハンド14に固定され、上部ハンド12を貫通して延び、上端部が拡径された部材であるが、本発明はこの構成に限定されず、下部ハンド14の両端部を回転可能に支持できる限りで、その他の構造であってもよい。
この両端支持金具13が取り付けられるシート材1の両端部は、シート材1が矩形板の場合にはその長さ方向の両端部であるのが好ましいが、幅方向の両端部であってもよい。また、シート材1が異形部材の場合には、シート材1を剥がし易い両端部を予め設定する。両端部の形状は、直線であるのが好ましいが、円弧でもその他の形状であってもよい。
【0028】
さらに下部ハンド14は、少なくともその両端部近傍が吸盤16の吸着力により弾性的に撓むように構成されている。下部ハンド14の構造は任意であり、この例では1枚の薄板であるが、複数の板または棒材を組み合わせてもよい。
下部ハンド14の剛性は両端部を両端支持して持ち上げた場合に、吸盤16の吸着力により両端部が弾性的に2〜3mm以上撓む程度、例えば、シート材1の1枚〜3枚程度に相当する剛性であるのがよい。
【0029】
複数の吸盤16は、下部ハンド14の下面に分散して取り付けられている。分散位置は、シート材1の全面に均等でも、シート材1の両端部に集中的に分散させてもよい。
吸盤16は、内部を図示しないバキュームラインで減圧できるバキュームカップであるのが好ましいが、必要時に吸着を自由に解除できる限りで、バキュームラインのない単なる吸盤であってもよい。
この吸盤16の吸着力は、シート材同士の表面張力等による密着力よりは、十分大きく設定するのがよい。
【0030】
図1(B)〜図1(E)は、第1実施形態の把持ハンド10を用いたシート材分離把持方法(以下、単に「把持方法」と呼ぶ)の説明図である。この図において、図1(B)は「吸着状態」、図1(C)は「しなり状態」、図1(D)は「剥がれ待ち状態」、図1(E)は「搬送状態」である。
【0031】
図1(B)において、上述したシート材分離機能付き把持ハンド10を、複数のシート材1が水平に積層されたスタック2の上方から下降させて最上段のシート材1の上面に複数の吸盤16を密着させて各吸盤16でシート材全面を吸着する。
次いで、図1(C)に示すように、上部ハンド12を下部ハンド14の両端部の撓み量に相当する距離(例えば50mm程度)だけ上昇させて、最上段のシート材1の上面に複数の吸盤16が吸着した状態で、両端支持された下部ハンド14の両端部近傍を、これと吸盤16で吸着された最上段のシート材1の両端部と共に、吸盤16の吸着力とシート材1の重量により上方に弾性的に撓ませる。
次に、図1(D)に示すように、最上段のシート材1が2段目のシート材1から剥がれるのを待ち、図1(E)に示すように、把持ハンド10を上昇及び横行させる。
【0032】
上述した本発明の装置及び方法によれば、下部ハンド14が、上部ハンド12に両端支持されており、かつ少なくともその両端部近傍が吸盤16の吸着力により弾性的に撓むように構成されているので、複数のシート材1が水平に積層されたスタック2の最上段のシート材1の上面に複数の吸盤16を密着させて各吸盤16でシート材全面を吸着した状態(図1(B))で上部ハンド12を上昇させると、上部ハンドに両端支持された下部ハンド14の両端部は上部ハンド12と共に上昇するが、下部ハンド14の中央部は2段目以下のシート材1の密着力により上昇できず、下部ハンド14の両端部近傍のみが上方に撓む(図1(C))。
【0033】
従って、下部ハンド14の両端部近傍の撓みに追従して吸盤16で吸着された最上段のシート材1の両端部が上方に撓み、2段目以下のシート材1は吸盤16で吸着されていないので、シート材同士の密着力に抗して元の平面を維持するように内部応力が発生する。
この結果、吸盤16の吸着力はシート材同士の密着力より大きいので、シート材自体の曲げ剛性により最上段のシート材1の両端部のみを2段目のシート材1から剥がすことができる。
この状態で一定時間保持することにより、シート材1の弾性により、最上段のシート材全体を2段目のシート材1から自然に剥がすことができる。なお、この際に、周知のマグネットや空気ノズルを併用して、最上段のシート材全体を2段目のシート材から積極的に剥がしてもよい。
【0034】
従って、上記本発明の装置及び方法によれば、把持ハンド10自体にはアクチュエータがなく、簡単な構造と制御で、複数のシート材が積層されたスタックから最上段のシート材を1枚ずつ確実に分離し把持することができる。
【0035】
図2は、本発明の把持ハンドとその把持方法の第2実施形態図である。
図2(A)は、本発明の第2実施形態の把持ハンド10の全体側面図である。この図において、本発明の把持ハンド10は、下部ハンド14の両端部の内側、すなわち両端支持金具13の内側に、複数の撓み制限部材18を備える。
撓み制限部材18は、吸盤16の吸着力による下部ハンド14の撓み量を制限し、かつ下部ハンド14を上部ハンド12に向けて上方に付勢する機能を有する。
撓み制限部材18は、この例では、下端が下部ハンド14に固定され、上部ハンド12を貫通して延び、上端部が拡径された連結部材18aと、連結部材18aの拡径部と上部ハンド12との間に挟持された圧縮ばね18bとからなる。
【0036】
両端支持金具13と撓み制限部材18の間は、上述した両端部近傍に相当する。その水平間隔は、シート材1の端部を中央よりも先に撓ませる(めくる)距離、例えばシート材の端部から吸盤1〜2個の範囲、例えば700mm以上であるのがよい。
また、圧縮ばね18bの圧縮力は、後述する図2(D)のように、最上段のシート材1が2段目のシート材1から剥がれた後、図2(E)に示すように、下部ハンド14を上部ハンド12に密着させ、シート材1を水平に戻すのに十分な強さに設定するのがよい。
なお、撓み制限部材18は、この構成に限定されず、下部ハンド14の撓み量を制限できる限りで、その他の構造であってもよい。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0037】
図2(B)〜図2(E)は、第2実施形態の把持ハンド10を用いた把持方法の説明図である。この図において、図2(B)は「吸着状態」、図2(C)は「しなり状態」、図2(D)は「剥がれ待ち状態」、図2(E)は「搬送状態」である。
【0038】
図2(B)において、上述した把持ハンド10を、複数のシート材1が水平に積層されたスタック2の上方から下降させて最上段のシート材1の上面に複数の吸盤16を密着させて各吸盤16でシート材全面を吸着する。
次いで、図2(C)に示すように、上部ハンド12を下部ハンド14の両端部の撓み量に相当する距離だけ上昇させて、最上段のシート材1の上面に複数の吸盤16が吸着した状態で、両端支持された下部ハンド14の両端部近傍を、これと吸盤16で吸着された最上段のシート材1の両端部と共に、吸盤16の吸着力とシート材1の重量により上方に弾性的に撓ませる。
次に、図2(D)に示すように、最上段のシート材1が2段目のシート材1から剥がれるのを待ち、図2(E)に示すように、把持ハンド10を上昇及び横行させる。
【0039】
上述した本発明の装置及び方法によれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、この第2実施形態では、撓み制限部材18を備えるので、図2(C)に示すように、撓み制限部材18の外側に位置する下部ハンド14の両端部分を大きく撓ませ、撓み制限部材18の内側に位置する下部ハンド14の撓みを小さくできる。
さらにこの第2実施形態では、撓み制限部材18の圧縮ばね18bにより、図2(D)のように、最上段のシート材1が2段目のシート材1から剥がれた後、図2(E)に示すように、下部ハンド14を上部ハンド12に密着させ、シート材1を平面に戻すことができる。
【0040】
図3は、本発明の把持ハンドとその把持方法の第3実施形態図である。この図において、図3(A)は、本発明の第3実施形態の把持ハンド10の全体側面図、図3(B)は、図3(A)を上部から見た、把持ハンド10の全体平面図である。
【0041】
この第3実施形態において、上部ハンド12は、シート材1の長さ方向(図3(B)で左右)に延びる複数(この例で4本)の第1高剛性部材12aと、これと交差して連結され幅方向に延びる複数(この例で2本)の第2高剛性部材12bとからなる。
【0042】
また下部ハンド14は、シート材1の長さ方向(図3(A)で左右)に、第1高剛性部材12aに沿って延びる複数(この例で4本)の第3高剛性部材14aと、その両端に一端が固定され外方に延びる複数の低剛性板15とからなる。低剛性板15は、カーボンファイバなどのしなる素材であるのがよい。
低剛性板15のしなり部分(第3高剛性部材14aの外側)の長さは、この例では700mmであるが、シート材1の寸法に応じて、適宜変更することができる。
【0043】
図3(A)に示すように、低剛性板15の先端部が両端支持金具13により第1高剛性部材12aの下面に支持されている。
また、撓み制限部材18は、第1高剛性部材12aを貫通し、第3高剛性部材14aに固定されている。
また、図示しない搬送用ロボットと例えばプレス機械のような周辺装置との干渉を避けるため、ハンド取付部9をシート材1の中心からこの例では約750mmオフセットして取り付けている。
その他の構成は、第2実施形態と同様である。
【0044】
第3実施形態において、第1高剛性部材12a、第2高剛性部材12b、及び第3高剛性部材14aは、CFRP製の角パイプ又は角材であるの好ましい。
この構成により、本発明の把持ハンド10を軽量化することができる。
【0045】
図4は、本発明の把持ハンドとその把持方法の第4実施形態図である。
図4(A)は、本発明の第4実施形態の把持ハンド10の全体側面図である。この例で、低剛性板15のしなり部分(第3高剛性部材14aの外側)の長さは、1200mmであるが、TBシート材3の寸法に応じて、適宜変更することができる。
その他の構成は、第3実施形態と同様である。
【0046】
図4(B)〜図4(E)は、第4実施形態の把持ハンド10を用いた把持方法の説明図である。この把持方法では、TBシート材3を対象とする。
TBシート材3は、厚さの異なる金属板をレーザ溶接等で接合したシート材であり、中央の厚肉部分3aと周辺の薄肉部分3bとからなる。TBシート材3を積層したスタック4(TBスタック)は、TBシート材3の厚肉部分3a(例えば2.3mm厚)に対して薄肉部分3b(例えば1.6mm厚)は、積層すると厚さの相違が累積されるため、厚肉部分3aから下方に撓んだ状態となっている。
【0047】
この図において、図4(B)は「第1傾斜状態」、図4(C)は「水平吸着状態」、図4(D)は「第2傾斜状態」、図4(E)は「搬送状態」である。
【0048】
図4(B)において、把持ハンド10を、複数のTBシート材3が水平に積層されたTBスタック4の上方から下降させて最上段のTBシート材3の上面に複数の吸盤16を密着させて複数の吸盤16でTBシート材3の厚肉部分3aを吸着する。
次いで、図4(C)に示すように、TBシート材の厚肉部分3aと薄肉部分3bの段差を中心に所定の角度(例えば7度)厚肉部分側に回転して水平な姿勢をとり、複数の吸盤16でTBシート材の厚肉部分3aを吸着する。この工程において、TBシート材の厚肉部分3bの一端(図で左側)は、上述した第1実施形態〜第3実施形態と同様にして、最上段のTBシート材の薄肉部分3bが2段目のTBシート材の薄肉部分3bから剥がされる。
次いで、図4(D)に示すように、把持ハンド10をTBシート材の厚肉部分3aと薄肉部分3bの段差を中心に所定の角度(例えば7度)反対方向の薄肉部分側に回転して、複数の吸盤16でTBシート材3の他方の薄肉部分3bを吸着する。
次に、把持ハンド10をTBシート材の厚肉部分3aと薄肉部分3bの段差を中心に所定の角度(例えば7度)厚肉部分側に回転して水平な姿勢をとり、TBシート材の厚肉部分3bの一端(図で右側)が、上述した第1実施形態〜第3実施形態と同様にして、最上段のTBシート材の薄肉部分3bが2段目のTBシート材の薄肉部分3bから剥がされるのを待って、図4(E)に示すように、把持ハンド10を上昇及び横行させる。
【0049】
上述した把持方法により、厚さの異なる金属板を接合したTBシート材3を積層したTBスタック4であっても、本発明の把持ハンド10をTBシート材3の厚肉部分3aと薄肉部分3bの段差を中心に所定の角度回転して、複数の吸盤16でTBシート材3の薄肉部分3bを吸着することにより、TBスタック3から最上段のTBシート材3を1枚ずつ確実に分離し把持することができる。
また、初めに把持ハンド10でTBシート材の厚肉部分3aを吸着した後、左右の薄肉部分3bの片側または両側の吸着を行う手順でも良い。
なお、この把持方法は、上述した第1〜第3実施形態の把持ハンド10を用いてもよい。
【0050】
従って、本発明の装置及び方法によれば、簡単な構造と制御で、複数のシート材が積層されたスタックから最上段のシート材を1枚ずつ確実に分離し把持することができ、コストダウンと装置の調整期間の短縮が可能となり、さらにセンサーやアクチュエータをなくすことにより、故障率を激減させることができる。
【0051】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ワークが鉄製である場合には、真空パッド(吸盤)の代わりに電磁石を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の把持ハンドとその把持方法の第1実施形態図である。
【図2】本発明の把持ハンドとその把持方法の第2実施形態図である。
【図3】本発明の把持ハンドとその把持方法の第3実施形態図である。
【図4】本発明の把持ハンドとその把持方法の第4実施形態図である。
【図5】特許文献1の方法の模式図である。
【図6】特許文献2の方法の模式図である。
【図7】特許文献3の方法の模式図である。
【図8】特許文献4の方法の模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1 シート材、2 スタック、3 TBシート材、
3a 厚肉部分、3b 薄肉部分、4 TBスタック、
9 ハンド取付部、
10 シート材分離機能付き把持ハンド(把持ハンド)、
12 上部ハンド、第1高剛性部材12a、第2高剛性部材12b、
13 両端支持金具、14 下部ハンド、14a 第3高剛性部材、
15 低剛性板、16 吸盤(バキュームカップ)、
18 撓み制限部材、18a 連結部材、18b 圧縮ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシート材が水平に積層されたスタックから最上段のシート材を1枚ずつ分離し把持するシート材分離機能付き把持ハンドであって、
搬送用ロボットのハンド取付部に取り付けられ、シート材の両端部間をカバーする水平長さを有する上部ハンドと、
該上部ハンドの下方に位置し、シート材の両端部間をカバーする水平長さを有する下部ハンドと、
下部ハンドの下面に分散して取り付けられた複数の吸盤とを備え、
前記下部ハンドは、シート材の両端部に対向する位置で、上部ハンドに両端支持されており、かつ少なくともその両端部近傍が吸盤の吸着力により弾性的に撓むように構成されている、ことを特徴とするシート材分離機能付き把持ハンド。
【請求項2】
前記両端部の内側に、吸盤の吸着力による下部ハンドの撓み量を制限し、かつ下部ハンドを上部ハンドに向けて上方に付勢する撓み制限部材を備える、ことを特徴とする請求項1に記載のシート材分離機能付き把持ハンド。
【請求項3】
前記上部ハンドは、シート材の長さ方向に延びる複数の第1高剛性部材と、これと交差して連結され幅方向に延びる複数の第2高剛性部材とからなり、
前記下部ハンドは、シート材の長さ方向に、前記第1高剛性部材に沿って延びる複数の第3高剛性部材と、その両端に一端が固定され外方に延びる複数の低剛性板とからなり、
該低剛性板の先端部が第1高剛性部材に支持され、
前記撓み制限部材は、前記第1高剛性部材と第3高剛性部材の間に設けられる、ことを特徴とする請求項2に記載のシート材分離機能付き把持ハンド。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシート材分離機能付き把持ハンドを、 複数のシート材が水平に積層されたスタックの上方から下降させて最上段のシート材の上面に複数の吸盤を密着させて各吸盤でシート材全面を吸着し、
前記上部ハンドを上昇させて、両端支持された下部ハンドの両端部近傍を、これと吸盤で吸着された最上段のシート材の両端部と共に、吸盤の吸着力とシート材の重量により上方に弾性的に撓ませる、ことを特徴とするシート材分離機能付き把持ハンドを用いたシート材分離把持方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシート材分離機能付き把持ハンドをTBシート材の薄肉部分の傾斜角度にあわせた姿勢をとり、複数のTBシート材が水平に積層されたTBスタックの上方から下降させて最上段のTBシート材の薄肉部分に複数の吸盤を密着させて複数の吸盤でTBシート材の薄肉部分を吸着し、
次いで、シート材分離機能付き把持ハンドをTBシート材の厚肉部分と薄肉部分の段差を中心に水平になるように厚肉部分側に回転して、複数の吸盤でTBシート材の厚肉部分を吸着する、ことを特徴とするシート材分離機能付き把持ハンドを用いたシート材分離把持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−30711(P2010−30711A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192591(P2008−192591)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】