説明

シート状汚染範囲検知紙

【課題】製造過程と使用時に発色粉末層が落下して発色機能を劣化させることのない揮発性親水性透明溶媒に対する着色能に優れた汚染範囲検知紙を提供すること。
【解決手段】紙基材1表面に、滴下した揮発性親水性透明溶媒によって発色し、溶媒が蒸発した後も溶媒が浸透した範囲をリング状に着色させる発色層2を印刷によって形成し、紙基材1の下面に、透明保護層3を形成する。発色層2は水分によって発色するインキをグラビア印刷方式によって形成してなり、グラビア印刷されるインキは、揮発性透明性溶媒に可溶な発色剤と、この発色剤を紙などの基材に固定させるためのバインダー樹脂と、必要に応じて、この発色剤を溶解させて発色させる為の揮発性透明性溶媒がバインダー樹脂を通過可能にするためのポーラス化剤および、架橋剤を添加してなり、さらに、溶剤を加えて濃度を調整したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性親水性透明溶媒、例えば、汚染された透明な水の少量の付着によって付着位置が着色され、その着色された部分が、水の乾燥後も、リング状の濃い着色域として残ることによって汚染範囲が検知できるシート状の検知紙に関する。
【0002】
ここで、揮発性親水性透明溶媒とは、自然条件下で親水性で無色透明な液体で気化して跡形がなくなる溶媒のことで、具体的には水、アルコール、体液などを言う。そして、その溶媒の中に、肉眼では確認できない放射性物質、原子力発電所の冷却水や、病気の診断に使われる放射性同位元素を含んだ輸液、その輸液を投与された人の体液や病人の病原菌を含んだ体液などを言う。
【背景技術】
【0003】
原子力発電所、病院、研究施設等で液体の放射性物質を取り扱う場合、床や作業台への汚染を防止する目的で下面に防水処理した紙シートが使用されている。
【0004】
ところが、無色透明の放射性物質を含む溶液がこぼれた場合、時間の経過とともに溶媒が蒸発するため、こぼれた場所の視認ができなくなり、的確な対策ができず、汚染拡大の可能性が高まる。
【0005】
このための検知紙として、水溶性塗料を含有した吸水シートが下記の特許文献に開示されているように広く知られている。
【0006】
この検知紙として、図3に示す断面構造のものも提案されている。
【0007】
同図に示すように、この検知紙は、上面から、滴下した水を浸透させるための表面浸透紙4と、澱粉のような水分を浸透する粉末と水分に触れて発色する色素との混合粉体と加熱によって溶融する低融点樹脂粉末との混合物からなる発色粉末層5と、その下面に色素によって着色した水分を浸透する下面紙6と、最下面に合成樹脂系の防水保護層3とからなるもので代表的な製品形態は通常800mm幅、33m長さのものを紙管巻にしたものである。
【0008】
つまりは、無色の吸水シートと防水シートで挟み込むことによって、液体がこぼれた場合、水溶性塗料が溶け出し、あとが残る汚染検知シートとし、図4に示すように、それぞれの層3〜6をラミネートし、加熱圧縮して一体の200μm厚程度のシート材としたものである。
【特許文献1】特開平6−202560号公報
【特許文献2】特開平7−055788号公報
【特許文献3】特開平9−105692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、この検知紙の製造に際しては、発色粉末層5が飛散し、工場内を汚染する。また、一体物とした後にあっても、発色粉末層5は溶融固化してならず粉末状態は維持されている必要がある。そのため、使用時に紙管から検知紙を巻き戻し、床などに広げて必要量を裁断するとき、ラミネートした製品の4面の切断面から発色粉末層5の一部が落下して、使用場所を汚したり、汚染範囲を誤認させ、ひいては、発色機能を劣化させる欠点がある。
【0010】
本発明が解決すべき課題は、製造過程と使用時に発色粉末層が落下して発色機能を劣化させることのない揮発性親水性透明溶媒に対する着色能に優れた汚染範囲検知紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のシート状汚染範囲検知紙は、紙材表面に滴下した揮発性親水性透明溶媒によって発色する発色層をコーティングによって形成し、その下面に透明な防液保護層を形成したものである。
【0012】
紙材は、本発明のシート状汚染範囲検知紙としての基材をなすもので、中でも、とりわけ、揮発性親水性透明溶媒の浸透性とともに、適度の保持性を有する親水性の密度が粗い、ろ紙、和紙や下記の方法で加工されたクレープ紙がとくに好適に使用できる。
【0013】
そして、発色剤をコーティングするため、表面はベック平滑度が10秒以下の粗い方が好ましい。平滑にし過ぎると、作業時に手のひらの接触面積が多くなり、退色、変色、発色の原因となりやすい。さらに、表面を粗くするために、抄紙時にウエット又はドライのクレープ率5〜20%のクレープ加工を施したり、エンボス加工を施すこともできる。
【0014】
この粗面化のための加工は巻紙に仕上げた製品の巻き癖防止機能、さらには、落下飛散した揮発性親水性透明溶媒の保持機能と発色層から溶出した色素の顕色層としての機能を果たすものである。
【0015】
紙材の坪量は、10〜100g/mが適当である。10g/m未満では溶媒保持量と強度が不足し、不適であり、100g/mより厚くなると、巻き癖が強くなりロール状製品としては不適である。また、通常の紙質の材料のいわゆる紙の他に、植物繊維リッチの乾式不織布も好適に使用できる。
【0016】
また、紙材表面に滴下した揮発性親水性透明溶媒によって発色する発色層を形成する印刷用インキとしては、希望の色、色調、溶媒への溶解度、環境を汚染しにくい材質等によって、任意選択できる。
【0017】
このインキは、加工時、使用時に自然条件下で、特に湿度の高い時期に空気中の湿気を吸収して、発色してはならない。また手で触る為、手の水分によって発色してはならない。さらに、摩擦によって簡単に色落ち色移りしてはならない。
【0018】
したがって、このインキは、揮発性透明性溶媒に可溶な発色剤、この発色剤を紙などの基材に固定させるためのバインダー樹脂、必要に応じて、この発色剤を溶解させて発色させる為の揮発性透明性溶媒がバインダー樹脂を通過可能にするためのポーラス化剤・架橋剤を添加したものに、溶剤を加えて濃度を調整したものを使用する。また、必要に応じて、発色剤を含まない透明又は白色の親水性あるいは透水性又は水溶性層を設けて、指紋の間に潜む汗などの極少量の水分では発色しないようにすることもある。
【0019】
揮発性透明性溶媒に可溶な発色剤としては、水溶性の酸性、塩基性、直接、酸性媒染、反応性、いずれの染料でもかまわないが、安全性の面から食品添加物として許可された食品用色素から選ぶ方が好ましい。食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色40号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用緑色3号、食用青色1号、食用青色2号、の中から1又は複数好適に選ばれる。
【0020】
上記バインダー樹脂としては、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アセタール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、石油系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂の中から1又は複数選ぶ方が好ましい。
【0021】
なお、揮発性親水性透明溶媒によって、リング状に着色させる発色層を形成するには、揮発性親水性透明溶媒に対して親和性の部位と、非親和性の部位とを有するバインダー樹脂とすることが好ましい。ここで、例えば、親和性の部位としては、酸素や窒素が関与する官能基や結合部位、すなわち、水酸基、酸基、アミノ基などの官能基、エステル結合、エーテル結合、ウレタン結合、アミド結合、尿素結合等の極性の結合部位を挙げることができ、一方、非親和性の部位としては、炭素数が4つ以上の鎖状炭化水素基、脂環族および芳香族炭化水素基等を挙げることができる。
【0022】
そして、分子内に両方の部位を有するバインダー樹脂については、概ね1種でも利用でき、どちらか一方の部位を有するバインダー樹脂については、親和性の部位を有するバインダー樹脂と、非親和性の部位を有するバインダー樹脂とを併用することが好ましい。さらに検知しようとする揮発性親水性透明溶媒に応じて、官能基や結合部位の濃度などを適宜選択することが好ましい。
【0023】
上記ポーラス化剤としては、アパタイト、ゼオライト、カオリン、タルク、珪酸アルミニウム、酸化珪素、炭酸カルシウム、澱粉、微粉末セルロースなど及びそれらの誘導体の中から1又は複数選ぶほうが好ましい。
【0024】
上記インキ用溶剤としては、バインダー樹脂を溶解し、ポーラス化剤を安定的に分散させることができるものを利用する。また、揮発性親水性透明溶媒と接触するまでは、発色層を着色させないという観点から、前記発色剤を溶解せずに、分散状態となるように溶剤成分を選択することが好ましい。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素系溶剤、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、クロロホルム、トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノエチルテーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコール誘導体、石油エーテルなどの中から1又は複数選ばれる。
【0025】
なお、検知しようとする揮発性親水性透明溶媒が、アルコールなどの高極性有機溶媒であるときには、高極性有機溶剤に可溶な着色剤が選択されることになる。この場合、インキ用溶剤も高極性であると、着色剤が溶解して、発色層を着色する可能性が高くなるため好ましくない。したがって、インキ用溶剤の組成についても、検知しようとする揮発性親水性透明溶媒に応じて適宜選択することが好ましい。
【0026】
このように、検知しようとする揮発性親水性透明溶媒にアルコール等の高極性の有機溶剤も含めると、水のみを対象とするより、インキ用溶剤としての選択に必要な条件も多くなる。しかし、概して、バインダー樹脂としては、揮発性親水性透明溶媒に対して親和性の部位と非親和性の部位とを有するものを利用し、インキ用溶剤としては、揮発性親水性透明溶媒よりずっと低極性のものを利用すると、相乗的に良好な結果を得ることができる。
【0027】
さらに、インキ用材料の組み合わせのバランスから、バインダー樹脂だけで親和性の部位と非親和性の部位との量的な調整が困難な場合には、界面活性剤や乳化剤等の親和性を向上させる材料、低分子非極性化合物等の非親和性材料を添加しても良い。
【0028】
コーティング手段としては、スプレーによる吹き付け方式、フレキソ、グラビア、スクリーンなどの印刷方式、リバース、グラビア、ディップ・スクイズ、エアナイフなどのコーター方式、いずれの既存の方式でも構わないが、生産性の点から、グラビア印刷が望ましい。
【0029】
紙材の片面にフィルムをラミネ−トして防液性の透明な保護層を設ける。そのフィルムの材質は、ポリオレフィン系、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系それらの単体又は複合体いずれでも構わない。
【0030】
厚さは、15〜50μmが適当である。滴下する揮発性親水性透明溶媒が0.05cc未満の場所に使用する場合は発色層の反対側へ保護層を設けるほうが好ましい。発色剤が溶出し発色するための溶媒が少ないため、溶媒が付着した表面だけしか発色しないで反対側まで発色が広がらず、発色が確認しにくいからである。
【0031】
滴下する揮発性親水性透明溶媒が0.05cc以上の場所に使用する場合は発色層側へ保護層を設けても構わない。なぜなら、滴下した揮発性溶媒が紙表面から浸透して反対面の発色剤を溶出させ発色した溶媒が防水層で跳ね返されて紙表面まで溶出して溶媒は界面で気化して、溶媒で汚染された境界面に発色剤を多く残し乾燥するため、汚染範囲が明瞭に確認できるからである。
【0032】
以上の材料と製造方法から得られたシート状汚染範囲検知紙は、そのままの形状で床や壁を覆うのに利用するほか、さらに器具や機械等のカバーのように、特定の形状に加工して利用することもできる。また、例えば、無菌室や特定の細菌類を扱う施設などで利用する場合、医療器具と同様に、予め、ガンマ線やEOガスによる滅菌処理を施してから利用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明の汚染範囲検知紙においては、粉末層を形成しないため、製造に際しても、また、使用に際しても、粉末が落下することがないので、製造現場、あるいは、使用現場を汚染することがなく、また、染料の落下による着色能が低下することもない。
【0034】
また、本発明の検知紙は、粉末層が不要で、且つ、積層する紙材も不要であるため、全体の厚みを薄く構成できるので、折り曲げが簡単になり、適用分野も広くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、実施例によって、本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0036】
図1は、本発明の汚染範囲検知紙10の断面構成を示す。
【0037】
紙基材1:機械すき和紙 材料;木材パルプ100%、坪量;80g/m、ベック平滑度;2.6秒
発色層2:インキ XGS−1704 ブルー 中村 3(分子内にウレタン結合と脂環族炭化水素基とを有するポリウレタン系バインダー樹脂、およびアルコールを含有するインキ、サカタインクス株式会社製)、グラビア版深 24μm
保護層3(ポリエチレンフィルム層):20μm
上記紙基材の片面へ上記発色層をグラビア印刷方式で設け、紙基材の反対面に保護層(溶剤防護層)をポリエチレンの押し出しラミネートにより形成して、シート状汚染範囲検知紙を得た。
【0038】
この紙を幅80cm長さ33mの巻紙にして肉厚0.04mmのポリ袋に入れて封をして製品とした。
【0039】
この紙に、インスリン注射器で0.02cc水を滴下すると、長径15mm、短径10mmに水が広がり、鮮やかなブルーに発色して、水が蒸発乾燥した後も、青色は消えなかった。
【0040】
またこの紙に0.05ccの水を滴下すると、長径40mm、短径23mmに水が広がり、外周部は青色が濃くドーナツ状に着色し、中心部は外周部より薄く着色した。乾燥後も同様に着色したままであった。
【0041】
この紙の湿度耐久試験、湿度85% 気温23℃の雰囲気下で24時間放置しても変色しなかった。
【0042】
JIS L 0803(染色堅ろう度試験用添付白布)に基づいて摩擦テストを行った結果、JIS L 0805(染色用グレースケール)における5段階の3となり、通常の使用に耐えられることがわかった。
【0043】
図2は、この汚染範囲検知紙10の着色状態を示す図である。同図に示すように、矢印に示すように水が発色層2の表面に滴下すると、その滴下した水分は、発色層2内を浸透し、その下面に形成したポリエチレンフィルム層3において、反射した状態になって上方に拡散し、その周辺が濃い水分浸透域21を示すものである。
【実施例2】
【0044】
図1において、以下の汚染範囲検知紙10を作成した。
【0045】
紙基材1:機械すき和紙 材料;木材パルプ100%、坪量80g/m、ベック平滑度;2.6秒
発色層2:インキ XGS−1705 ブルー エタ検知(分子内にウレタン結合と脂環族炭化水素基とを有するポリウレタン系バインダー樹脂を含有し、アルコールを含有しないインキ、サカタインクス株式会社製)、グラビア版深 24μm
保護層3(ポリエチレンフィルム層):20μm
上記紙基材の片面へ上記発色層をグラビア印刷方式で設け、紙基材の反対面に保護層(溶剤防護層)をポリエチレンの押し出しラミネートにより形成して、シート状汚染範囲検知紙を得た。
【0046】
この紙に、インスリン注射器で0.02ccエタノールを滴下すると、長径12mm、短径7mmに水が広がり、鮮やかなブルーに発色して、水が蒸発乾燥した後も、青色は消えなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
原子力発電所、病院、研究施設等で液体の放射性物質を取り扱う場所での汚染検知にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の汚染範囲検知紙の断面構造を示す。
【図2】本発明の汚染範囲検知紙の着色の機構を示す。
【図3】従来例の断面構造を示す。
【図4】従来例の製造過程を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10: 本発明の検知紙
1: 紙基材
2: 発色層
3: 保護層
4: 表面浸透紙
5: 発色粉末層
6: 下面紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材表面に、滴下した揮発性親水性透明溶媒によって発色し、溶媒が蒸発した後も溶媒が浸透した範囲をリング状に着色させる発色層を印刷によって形成し、
前記紙基材の下面には、透明保護層を形成したシート状汚染範囲検知紙。
【請求項2】
発色層が、水分によって発色するインキをグラビア印刷方式によって形成した請求項1に記載のシート状汚染範囲検知紙。
【請求項3】
グラビア印刷されるインキが、揮発性透明性溶媒に可溶な発色剤と、この発色剤を紙などの基材に固定させるためのバインダー樹脂と、必要に応じて、この発色剤を溶解させて発色させる為の揮発性透明性溶媒がバインダー樹脂を通過可能にするためのポーラス化剤および、架橋剤を添加してなり、さらに、溶剤を加えて濃度を調整した請求項2に記載のシート状汚染範囲検知紙。
【請求項4】
紙材が揮発性親水性透明溶媒の浸透性とともに、ベック平滑度が10秒以下の表面粗度を有する請求項1に記載のシート状汚染範囲検知紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−234689(P2006−234689A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51852(P2005−51852)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(594042479)株式会社中村製紙所 (4)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】