説明

シート状物

【課題】比較的安価に製造することができ、且つ分離膜支持体として使用した場合に、製膜液の裏抜けを効果的に防止し、分離膜との密着性に優れ、安価で安定した品質を有する分離膜を提供し得るシート状物、及び分離膜付きシート状物を提供すること。
【解決手段】本発明は、主として製紙用繊維で構成された、2層以上の多層抄き合わせシート状物であって、上層にはバインダー繊維が混入され、かつ上層の坪量が20〜100g/m、厚さが20〜200μm、透気抵抗度が0.1〜5秒であり、下層においては坪量が20〜100g/m、厚さが20〜200μm、透気抵抗度が0.1〜8秒であるシート状物である。下層にもバインダー繊維を混入させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として製紙用パルプ繊維とバインダー繊維で構成された多層構造のシート状物に関し、詳しくは、限外濾過膜、精密濾過膜、逆浸透(RO)膜等の分離機能を有する分離膜の製造において、製膜のための支持体となり、分離膜を補強することを目的とした分離膜支持体として用いられるシート状物、及び該シート状物と分離膜とが接着された分離膜付きシート状物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、限外濾過膜、精密濾過膜、逆浸透膜といった分離機能を有する分離膜は、分離膜となる高分子材料を溶媒に溶解した製膜液を分離膜支持体の表面に塗布することで製膜され使用されている。一般的には、分離膜支持体としては乾式法、あるいは湿式法により製造された不織布を熱圧加工したものが使用されている。これらの支持体として従来使用されている不織布は、主体繊維として使用されている短繊維の合成繊維を立体的に集合させてなるため、製膜液が塗布される表面に起毛が存在し、この起毛が分離膜の製膜時に分離膜表面にピンホール等の欠陥を生じさせる主な原因となっていた。これは、分離膜支持体としての不織布に薄膜の製膜液を付着させたときに、起毛が製膜液を貫通して突出するためである。
【0003】
このようなピンホール等の欠陥を補うため、さらには、支持体としての不織布自体の強度を増すことによって年々高圧化している逆圧洗浄時の負圧に耐えられるようにするため、不織布を構成する繊維として、該不織布の主体繊維(熱可塑性の合成繊維等)に加えてこれよりも低融点のバインダー繊維を用い、且つこれらの繊維を混合してなる繊維集合体を熱圧加工する技術が提案されている。斯かる技術により、支持体となる不織布の強度が向上するとともに、不織布表面の起毛を抑える効果の発現により分離膜の製膜時におけるピンホールの発生が抑制される。これは、繊維集合体を熱圧加工することにより、融点の低いバインダー繊維が溶融して短繊維からなる主体繊維どうしがそれらの交点で接合されて不織布の強度が向上すると共に、主体繊維の表面が加熱と同時にプレスされるからである。
【0004】
しかし、上述した技術においては、ピンホールの発生をより有効に防止しようとすると、熱圧加工における加熱温度や加圧圧力を高くする必要があり、これらの作用が進んでくると不織布の強度が高まり、不織布表面の起毛もより抑えられる傾向はあるが、その反面、不織布の密度が高くなる傾向がある。分離膜支持体として用いられる不織布の密度が高まると、分離膜の製膜時に該不織布に製膜液を塗布したときに、該製膜液が該不織布の表面に留まってしまい、不織布の内部に浸透しにくくなる傾向が強まる。このような状況では、製膜液の不織布(分離膜支持体)に対するアンカー効果が減少して分離膜と支持体表面との間の接着力が低下し、逆圧洗浄時に支持体表面から分離膜が剥離し易くなる、という欠陥が生じやすくなる。さらには、分離膜支持体として用いられる不織布の密度が高くなることによって濾過効率が減少するという欠陥も生じてくる。
【0005】
分離膜の製膜液が分離膜支持体(不織布層)の内部へ浸透することを助長し、製膜液の支持体に対するアンカー効果を増すためには、不織布を構成している主体繊維の径を太くし、不織布における繊維間隔を広げることが有効である。しかし、不織布の主体繊維の太さを太くした不織布においては、繊維の絶対本数が減少するために分離膜支持体としての均一性が低下し、これにより部分的に製膜液が裏抜けしてしまうという問題が生じる。製膜液の裏抜けが発生すると、支持体の表裏面に同時に膜が形成されて、ピンホールなどの欠陥に繋がるおそれがある。
【0006】
上記したような問題を解決するために、特許文献1では、分離膜支持体の膜形成面に細かい凹状のくぼみをつけることで、分離膜の膜形成面に対するアンカー効果を増すという提案がなされている。しかし、この提案では、アンカー効果が不十分で、且つ凹状のくぼみに汚染物質が堆積することにより有効濾過面積が減少したり、製膜液が裏抜けしてしまう、といった問題点があった。
【0007】
特許文献2では、分離膜支持体を表面層と裏面層との2層の積層構造とし、分離膜が被着される表面層には太い繊維を使用して濾過効率とアンカー効果を高め、裏面層には細い繊維を使用して緻密な層とすることで、分離膜の製膜液の裏抜けを防止するという提案がなされている。しかし、この提案では、合成繊維からなる不織布は、それ自体が高価な材料であることから、より安価な材料への選択が困難であることと、分離膜の製膜液の裏抜け防止を行うためには異なる構成の不織布を使用する必要があり、濾過効率を向上させるという面からも対応の限界があった。
【0008】
特許文献3では、特許文献2の発明をさらに推し進め、不織布の材料としてポリエステル繊維にポリアクリロニトリル繊維を加えることで分離膜との接着強度と支持体としての強度のバランスをとるという提案がなされている。しかし、この提案も上記の発明と同様に、不織布が高価格であることには変わりなく、支持体としての強度、分離膜との結合性および総合的なコストダウンの全てを解決することはできなかった。
【0009】
特許文献4では、分離膜支持体を構成する不織布の裂断長を特定範囲に規定することで、不織布の製造や熱圧加工時のウエブの収縮を防止し、地合いの向上とウエブの破断を防止する、という提案がなされている。また、特許文献5では、熱圧加工してなる不織布において、フィルム化領域を含ませないことによって不織布の強度及び寸法安定性を向上させるという提案がなされている。これらの提案はいずれも合成繊維のみを使用した不織布を使用して分離膜の支持体を形成するものであり、いずれの方法を採用しても不織布の性能の範疇から逃れられるものではなかった。
【0010】
特許文献6では、分離膜が塗工される上層を合成繊維を主体とする不織布に、また下層はパルプを主体とするシート状物とすることで、2種類のシート状物の特徴を活かした複合材料とすることで、コスト的にも有利な分離膜支持体とすることが提案されている。しかし、合成繊維を主体とする不織布を使用することのデメリットは残存しており、シート状物を製造する際の操業性やコストメリットの点で難点が残されていた。
【0011】
【特許文献1】特開昭61−15705号公報
【特許文献2】特公平4−21256号公報
【特許文献3】特開2001−79368号公報
【特許文献4】特開平10−225630号公報
【特許文献5】特開2004−10047号公報
【特許文献6】特願2008−19343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決し、比較的安価に製造することができ、且つ分離膜支持体として使用した場合に、製膜液の裏抜けを効果的に防止し、分離膜との密着性に優れ、安価で安定した品質を有する分離膜を提供し得るシート状物、及び分離膜付きシート状物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明の請求項1に係る発明は、主として製紙用繊維で構成された、2層以上の多層抄き合わせシート状物であって、上層にはバインダー繊維が混入され、かつ上層の坪量が20〜100g/m、厚さが20〜200μm、透気抵抗度が0.1〜5秒であり、下層においては坪量が20〜100g/m、厚さが20〜200μm、透気抵抗度が0.1〜8秒であって、前記シート状物全体としての坪量が60〜140g/m、厚さが50〜150μm、透気抵抗度が0.1〜15秒であることを特徴とするシート状物である。
【0014】
即ち、本発明の請求項2に係る発明は、下層にバインダー繊維が混入されたことを特徴とする請求項1に記載のシート状物である。
【0015】
即ち、本発明の請求項3に係る発明は、製紙用繊維が化学パルプであることを特徴とする、請求項1または2に記載のシート状物である。
【0016】
即ち、本発明の請求項4に係る発明は、少なくとも前記下層には製紙用添加剤が実質的に含まれていないことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシート状物である。
【0017】
即ち、本発明の請求項5に係る発明は、バインダー繊維が、芯部分が高融点繊維であり、鞘部分が低融点繊維である芯鞘型の二重構造からなるバインダー繊維であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシート状物である。
【0018】
即ち、本発明の請求項6に係る発明は、請求項1〜5の何れか1項に記載のシート状物の上層の表面上に、分離機能を有する分離膜を形成してなる分離膜付きシート状物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシート状物は、製紙用繊維とバインダー繊維を主体とした2層以上の多層抄きあわせシート状物から構成されることにより、従来の不織布層のみからなるシート状物に比して製造コストの低廉化が図られており、且つ限外濾過膜や逆浸透膜等の分離膜の支持体として使用した場合には、製膜液の裏抜けを効果的に防止し、分離膜との密着性に優れ、ろ過流量の低下や逆圧洗浄時における支持体表面からの分離膜の剥離といった不都合を生じることがなく、安価で安定した品質を有する分離膜を提供することができる。また、本発明の分離膜付きシート状物は、上記効果を奏する本発明のシート状物を用いているため、比較的安価に製造することができ、且つ分離膜として安定した品質を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、先ず、本発明のシート状物について、その好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。本発明のシート状物は、主として製紙用繊維とバインダー繊維で構成され、少なくとも上層及び下層を含んで構成される多層構造のシート状物である。該上層は、シート状物の一面を構成し、該下層は、シート状物の他面を構成している。本発明のシート状物は、特に限外濾過膜、逆浸透膜、精密濾過膜等の分離膜の支持体(分離膜支持体)として有用であり、以下では、分離膜支持体としての用途を中心に本発明のシート状物を説明する。
【0021】
本発明に係るシート状物における上層は、主として製紙用繊維とバインダー繊維からなるシート状物である。ここでいう上層とは、その表面に分離膜を構成させる側の面をいう。各層におけるシート状物、およびシート状物全体としての坪量、厚さ、透気抵抗度の全て、あるいは一部が設定の数値未満であると、構成されるシート状物の密度が不安定になり分離膜とシート状物との密着性や裏抜け防止性能、あるいはピンホール発生の危険性といった問題が発生しやすくなるので好ましくない。また、それぞれの数値の全て、あるいは一部が上限を超えるような場合には、分離膜を構成する層自体の厚さが増すことにより、単位面積あたりの有効濾過面積が減少したり、濾過液の濾過抵抗が増加してくるので好ましくない。このような構成とした多層構造のシート状物とすることにより、特許文献1〜5に記載の如き不織布層のみからなるシート状物に比して、製造コストの低廉化を図ることができる。また一般に、製紙用繊維としてパルプシートを使用することで、不織布に比して生分解性に優れ、廃棄による環境に対する負荷が少ないことから、パルプシート層を含む本発明のシート状物は、特許文献1〜5に記載の如き合成繊維からなる不織布層からなるシート状物、あるいは特許文献6に記載のようにパルプシートと合成繊維からなる不織布層との積層物に比して廃棄しやすいものであるといえる。
【0022】
本発明に係る上層は、坪量が20〜100g/m、好ましくは30〜60g/mであり、厚さが20〜200μm、好ましくは30〜120μmであり、透気抵抗度が0.1〜5秒であり、好ましくは0.1〜3秒である。また、本発明に係る下層は、坪量が20〜100g/m、好ましくは30〜60g/mであり、厚さが20〜200μm、好ましくは30〜120μmであり、透気抵抗度が0.1〜8秒、好ましくは0.1〜5秒である。ここで、厚さは、各層の無荷重下における厚さを意味する。また、透気抵抗度は、JIS P 8117(1998年)に従って測定される。斯かる透気抵抗度は、紙の通気性評価としての透気抵抗度ではなく、織物の通気性評価としての透気抵抗度である。上層及び下層が一体化されているシート状物においては、透気抵抗度の測定対象となる層をカッター等を用いてシート状物から分離し、この分離された層についてJIS P 8117(1998年)に従って透気抵抗度を測定する。
【0023】
上層の坪量が20g/m未満であると、シート状物を分離膜支持体として用いた場合に、分離膜の製膜液の裏抜けを防止するために密度を上げるにも限度があるので、製膜液の裏抜けを防止することができず、100g/mを越えると、シート状物が分離膜と接着された状態で濾過液の濾過に用いられた場合に、濾過液の透過抵抗が増加し濾過効率の低下を招くおそれがある(この場合、上層を極端に低密度にする必要がある)。また、上層の厚さが20μm未満であると、シート状物としての密度が不安定になり、分離膜との接着性や裏抜け防止性能に問題が発生するので好ましくなく、200μmを越えると、分離膜を構成する層自体の厚さが増すことにより、単位体積あたりの有効濾過面積が減少するので好ましくない。また、上層の透気抵抗度が0.1秒未満であると、製膜液の裏抜けを防止することができず、5秒を越えると、濾過液の濾過抵抗が増加してくるので好ましくない。下層においても坪量、厚さ、透気抵抗度が上述した特定範囲から逸脱すると、上記したような問題が出てくるので好ましくない。
【0024】
各層の透気抵抗度を調整する方法としては、製紙用繊維の叩解度を調整する(叩解度を大きくすると透気抵抗度が上昇する傾向がある)、製紙用繊維の種類を調整する(パルプ繊維の太さや長さによって透気抵抗度が変化する)、各層の厚さや坪量を調整して密度を調整する等の方法があり、これらの方法は単独であるいは適宜組み合わせて行なうことができる。
【0025】
上層と下層との坪量比(上層:下層)は、好ましくは1:5〜5:1、更に好ましくは1:3〜3:1である。また、上層と下層との厚さ比(上層:下層)は、好ましくは1:10〜10:1、更に好ましくは1:5〜5:1である。
【0026】
本発明のシート状物は、坪量が60〜140g/m、好ましくは80〜120g/mであり、厚さが50〜150μm、好ましくは70〜120μmであり、透気抵抗度が0.1〜15秒、好ましくは0.1〜8秒である。ここで、厚さ及び透気抵抗度は上述した通りである。上層及び下層を含む多層構造全体としての坪量、厚さ及び透気抵抗度がそれぞれ斯かる範囲にあることにより、分離膜支持体として有用なシート状物が得られる。上層及び下層の坪量、厚さ及び透気抵抗度を上述した範囲に設定することにより、シート状物の坪量、厚さ及び透気抵抗度を斯かる範囲に設定することが可能となる。
【0027】
本発明のシート状物は、少なくとも上層及び下層からなる2層構造であって、製紙用繊維と共に少なくとも上層にはバインダー繊維を混合して使用する必要がある。また、本発明におけるシート状物においては、上層は分離膜の支持体として使用する際に濾過流量の低下をおこさず、さらには濾過膜の支持体表面における接着強度を増加させるために、できるだけ低密度で低坪量であることが好ましい。また、下層は上層のバックアップとしての強度を維持しつつ、分離膜としての濾過流量を確保し、かつ、上層表面に塗布された分離膜の裏抜けやピンホールといったトラブルを未然に防止する能力を必要としている。これらの性能を満たすために上層は低密度で、下層は上層と比較して高密度に設計する。上層の密度としては0.35〜0.65g/mが好ましく、さらに好ましくは0.40〜0.50g/mである。下層の密度としては0.45〜0.85g/mが好ましく、さらに好ましくは0.50〜0.60g/mである。
【0028】
本発明のシート状物は、上層における製紙用繊維間、および上層及び下層の層間がバインダー繊維によって接着されている必要がある。セルロースのような製紙用繊維は、繊維間が水素結合によって強固に接合されているが、濾過液といった水分が多量に流入して層自体が浸漬されるような状況では、水素結合が緩んできて最終的には各繊維がバラバラに崩れてしまう結果になる。このような状態を防ぐために、製紙用繊維の交点をバインダー繊維で接着し、水に浸漬されて水素結合が緩んでも製紙用繊維の崩壊がおこらないようにする必要がある。バインダー繊維は上層、下層ともに含まれることが好ましいが、最低限上層をバインダー繊維で固めておくことで、下層にはバインダー繊維を含まなくても上層がシート状物全体の支持体となって形状維持が確保できる。しかし、下層と上層との接合も上層に混入されているバインダー繊維のみで行う必要があるので、各層間の接合強度を上げる意味でも上層、下層の両方にバインダー繊維が混入されていることが好ましい。
【0029】
本発明に係る上層は、上述したように製紙用繊維とバインダー繊維を主体としたシート状物である。上層は本発明のシート状物の一面を構成する層であり、該シート状物が分離膜支持体として用いられる場合には、該上層の表面(シート状物の一面)に、分離膜の製膜液が塗布される。つまり、上層は分離膜が被着される層である。
【0030】
本発明におけるシート状物の上層には、製紙用繊維に加えてバインダー繊維を含有させることが必要である。上層にバインダー繊維が含有されていることにより、上層自体の強度や上層が向上すると共に他の層(下層)との間の熱圧着が可能となる。バインダー繊維としては、このような作用効果を確実に奏させるようにする観点から、低融点である繊維を用いることが好ましい。
【0031】
バインダー繊維としては、例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等が挙げられる。これらのバインダー繊維は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも特にポリエステル繊維は、機械的強度や熱加工適性、さらにはコストの面で好ましい。特に低融点ポリエステル繊維や未延伸ポリエステル繊維が好ましい。バインダー繊維の融点は、好ましくは80〜260℃、更に好ましくは90〜240℃である。バインダー繊維の融点が80℃未満であると、シート状物の乾燥工程や熱圧工程においてバインダー繊維が容易にフィルム化してしまい、濾過高率を引き下げるので好ましくない。また260℃を超えるような場合は、熱圧着する際の作業効率が著しく低下し、バインダー繊維としての特性を活かせなくなるので好ましくない。
【0032】
バインダー繊維を溶融させて各繊維間および各層間を熱圧接合させるには、シート状物を製造後に加熱ロールを使用して熱圧接合させることも可能であるし、シート状物の製造時に、乾燥ゾーンの加熱シリンダーの熱を利用して熱圧接合させても構わない。乾燥ゾーンの加熱シリンダーの熱を利用する場合は、加熱ロールによる熱圧接合と異なり、加熱温度の上限に限界があることと、加圧効果があまり期待できないので、当該温度でバインダー繊維がフィルム化しないぎりぎりの低融点バインダー繊維を選択する必要がある。ただし、この方法では別途、加熱ロールによる熱圧接合の工程を必要としないので、工程短縮と費用の削減といった効果が期待できる。乾燥ゾーンの加熱シリンダーを使用してバインダー繊維の効果を発揮させるためには、バインダー繊維の溶融温度は70〜100℃が好ましい。バインダー繊維の溶融温度が70℃未満であると、バインダー繊維が加熱シリンダーの熱で容易にフィルム化してしまい、製紙用繊維間の接合強度を向上させる効果は認められるものの、製紙用繊維間隙を狭めてしまうので濾過流量が減少する方向になり、好ましくない。また、バインダー繊維の溶融温度が100℃以上であると、加熱シリンダーの表面温度を上昇させたり、加熱シリンダーとの接触時間を延長する必要を生じさせるので、製造条件が厳しいものとなり、好ましくない。
【0033】
積層体の熱圧加工は、抄紙工程における乾燥ロールを利用してもよいが、熱源を有する金属ロール等の熱ロールで積層体を加熱しながらプレスするのが好ましい。熱ロールは積層体の一面側にのみ配しても良く、両面側それぞれに配しても良い。熱圧加工時における熱ロールの表面温度は、シート状物の構成繊維の融点によって適宜設定されるが、150℃以上が好ましく、さらに好ましいのは190℃以上である。熱ロールの表面温度が150℃未満であると、バインダー繊維の溶融が不充分となりやすく、バインダー繊維としての効果が発揮できなくなるおそれがあるので好ましくない。また、熱圧加工時における熱ロールの表面温度の上限は300℃が好ましく、これ以上に加熱すると加工効率が著しく低下するので好ましくない。また、熱圧加工時における熱ロールの加圧力(線圧)は、好ましくは2.0〜29.4MPaであり、さらに好ましくは4.9〜24.5MPaである。加圧力が2.0MPa未満であると、各層間を熱圧接着させる力が弱くなるおそれがあるので好ましくない。加圧力が29.4MPaを越えると、各層間を熱圧接着させて得られたシート状物における各層の密度が高くなりすぎてしまい、該シート状物を分離膜支持体として用いた場合に濾過効率が低下するおそれがあるので好ましくない。また、熱圧加工時における積層体が熱ロールを通過す時間に関しては、熱ロールの表面温度と熱ロールの加圧力から、最終的に得られるシート状物の密度と透気抵抗度を考慮して決定される。
【0034】
バインダー繊維としては、上述したものの他に、芯鞘型複合繊維を用いることができる。芯鞘型複合繊維としては、鞘部の構成樹脂が芯部の構成樹脂よりも低融点であるものが好ましく用いられる。このような芯鞘型複合繊維を使用すると、バインダー繊維としての効果の他に、構造体としての強度を上げる効果も期待できるので好ましい。鞘部の構成樹脂が芯部の構成樹脂よりも低融点である芯鞘型複合繊維において、芯部の構成樹脂の融点と鞘部の構成樹脂の融点との差は、好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上である。
【0035】
芯鞘型複合繊維としては、例えば、1)芯部の構成樹脂がポリプロピレン、鞘部の構成樹脂がポリエチレン、2)芯部の構成樹脂がポリエステル、鞘部の構成樹脂が共重合ポリエステル、3)芯部の構成樹脂がナイロン、鞘部の構成樹脂がポリエステル等が挙げられる。本発明においては、これら1)〜3)の1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。これらの中でも特に、前記2)の芯鞘型複合繊維が好ましい。また、芯部の構成樹脂の融点は、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上であり、鞘部の構成樹脂の融点は、好ましくは80〜260℃、更に好ましくは90〜240℃である。
【0036】
尚、本明細書において、繊維の融点は、該繊維が例えば芯鞘型複合繊維のように2種以上の成分が融合せずに独立して存在している場合には、2種以上の成分の中で最も融点の低い成分の該融点を、当該繊維の融点とする。また、例えば未延伸繊維のように明確な融点が無い繊維の場合には、該繊維を徐々に加熱したときに熱接着性を帯び始めたときの温度(軟化点)を、当該繊維の融点とする。繊維の融点の測定方法としては、DTA(示差熱分析)やDSC(示差走査熱量計)といった熱分析測定機を使用し、1℃/分程度の割合で温度上昇させたときの温度差、あるいはエネルギー入力の差が確認された温度を、当該融点とする。
【0037】
バインダー繊維の平均繊維度は0.4〜6.6デシテックスで平均繊維長は3〜20mmであることが好ましい。さらに好ましくは平均繊維度が0.4〜4.8デシテックスで平均繊維長が3〜10mmである。バインダー繊維の平均繊維度及び平均繊維長が斯かる範囲にあることにより、上層と下層との間の接合がより一層向上する。
【0038】
上層に製紙用繊維及びバインダー繊維を含有させる場合、両繊維の含有質量比は、製紙用繊維:バインダー繊維=20:80〜80:20であることが好ましい。さらに好ましくは35:65〜65:35である。上層以外のシート状物において製紙用繊維にバインダー繊維を含有させると、下層と他の層(上層)との間の熱圧接着が一層効果的に行われ、層間強度が高まるので好ましい。下層に使用するバインダー繊維としては、上述した上層に使用されるバインダー繊維と同様のものが挙げられるが、これに拘る必要はない。下層にバインダー繊維を含有させる場合、下層における製紙用パルプとバインダー繊維との含有質量比は、製紙用パルプ:バインダー繊維=5:95〜95:5であることが好ましい。さらに好ましくは35:65〜65:35である。バインダー繊維の含有比率が上記範囲を超えて少なすぎると、バインダー繊維による効果、即ち、製紙用繊維どうしの交点での接合効果や上層と他の層(下層)との間を熱圧接着する効果が低減するため好ましくない。また、バインダー繊維の含有比率が上記範囲を超えて多すぎると、製紙用繊維が少なくなりすぎて濾過効率を低下させてしまうため好ましくない。
【0039】
本発明によるシート状物に使用される製紙繊維としては、製紙用として一般的に使用されるものが使用できる。たとえば木材パルプとしては針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等、麻、竹、藁、ケナフ、楮、三椏や木綿等の非木材パルプ、カチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプ、ミクロフィブリル化パルプ等を単独で、あるいは必要に応じて2種類以上を混合して使用することができる。またレーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリエステル等の合成繊維や化学繊維を必要に応じて混合して併用することもできる。
【0040】
製紙用繊維としては木材パルプを主体とすることが好ましく、木材パルプの中でも機械パルプ(GP)等を使用するよりも、化学パルプを使用することが好ましい。化学パルプは、化学的な反応で木材を分解・分離することにより得られたパルプであり、クラフトパルプ(KP)やサルファイトパルプ(SP)等がある。一般に、化学パルプは、機械パルプ等の製法により得られたパルプに比して、樹脂分などのセルロース以外の成分が少ないのが特徴である。本発明で用いられる製紙用パルプ中に樹脂分等の不純物が多く含まれていると、本発明のシート状物を分離膜支持体として用いた場合において、該分離膜支持体に被着した分離膜によって濾過された液(透過液)に該樹脂分が不純物として混入する危険があるので、これらを極力減少させた化学パルプ(例えば針葉樹晒クラフトパルプや広葉樹晒クラフトパルプ)を使用することが好ましい。
【0041】
シート状物には製紙用添加剤が実質的に含まれていないことが好ましい。シート状物に製紙用添加剤が含まれていると、シート状物を分離膜支持体として用いた場合に、分離膜支持体に被着した分離膜を通して得られた透過液中に製紙用添加剤が混入するおそれがあるためである。ここで、製紙用添加剤とは、通常、製紙用として使用される填料や製紙用薬品であり、例えば、歩留まり向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、染料、顔料、スライムコントロール剤等の製紙用補助薬品、ラテックスのような内添用バインダー、タルク、クレー、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン等の填料が挙げられる。また、「実質的に含まれていない」とは、製紙用添加剤が全く含まれていない場合のみならず、ごく少量の製紙用添加剤が含まれている(好ましくは下層の全質量に対して5質量%以下)場合を含む。
【0042】
シート状物は、従来公知の湿式抄紙法を利用して製造することができる。抄紙機としては、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、傾斜ワイヤー抄紙機等の公知の抄紙機を特に制限無く使用することができるが、多層シート状物を効率よく製造するためには、円網多槽抄き抄紙機の使用が好ましい。
【0043】
シート状物には、シート状物を分離膜支持体として用いた場合において濾液における細菌類の増殖を防止する目的で、抗菌性物質を含有させることができる。抗菌性物質としては、銀イオンや銅イオンといった抗菌性金属イオンを含有する抗菌性物質が好ましく、逆に、抗菌性の化学物質からなる薬品類(抗菌性薬品)は、濾液に該抗菌性薬品の溶解物が混入するので好ましくない。抗菌性金属イオンを含有する抗菌性物質としては、例えば、銀、銅、亜鉛等の抗菌性金属イオンを含有させたゼオライトや、該抗菌性金属イオンを合成繊維に練り込んだ抗菌性繊維等が好ましく使用できる。抗菌性物質の含有量は、シート状物を分離膜支持体として用いた場合における濾過量や濾液のレベルを考慮してその最適量を設定する。抗菌性物質は、シート状物の各層のいずれかに含有させてもよいし、シート状物全体に含有させてもかまわない。
【0044】
本発明のシート状物を分離膜支持体として用いる場合、該シート状物の上層の表面上に流延される製膜液としては、分離機能を有する層が形成可能であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレントリメスアミド[PET]、ポリ(トリメソイルピペラジン)[PTP]、ポリ(m−オフェニレントリメスアミド)[PMT]等の芳香族ポリアミドの他、アリル・アルキルポリアミド/ポリウレア、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、ポリアクリロニトリル、ポリベンズイミダゾロン、ポリピペラジンアミド、架橋ポリエーテル、スルホン化ポリサルフォン、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、セラミック等を、適当な溶媒に溶解・分散させた製膜液が挙げられる。
【0045】
分離膜の一種である限外濾過膜は、例えば次のようにして製造することができる。即ち、スルホン化ポリサルフォンをN-Nジメチルホルムアミドに溶解して調製した製膜液を、シート状物の上層(不織布)の表面に塗布して分離膜層を形成した後、該分離膜層を水と接触させてゲル化させ、その後浸漬層を通して残留しているN-Nジメチルホルムアミドを洗浄除去して、上層の表面にスルホン化ポリサルフォンの層を設けることで、限外濾過膜(限外濾過膜付きシート状物)を製造することができる。限外濾過膜の厚さは20〜100μmが好ましく、厚さが20μm未満であると分離膜強度の低下や異物の混入といった問題があるので好ましくなく、100μmを越えると濾過流量の低下といった問題があるので好ましくない。
【0046】
また、分離膜の一種である逆浸透膜(複合膜)は、例えば次のようにして製造することができる。即ち、上記のようにして得られた限外濾過膜付きシート状物における該限外濾過膜の表面に、酢酸セルロース等のセルロース系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリサルフォン系、ポリビニルアルコール系等の高分子材料を適当な溶媒に溶解・分散させた製膜液を塗布して新たに膜を設けることで、逆浸透膜(逆浸透膜付きシート状物)を製造することができる。このようにして得られた逆浸透膜においては、限外濾過膜が支持層(スポンジ層)として機能し、該限外濾過膜の表面に新たに形成された膜が分離機能を司るスキン層として機能する。スキン層の厚さはスポンジ層よりも薄く、0.1〜1μmの厚さで製造される。スキン層の厚さが0.1μm未満であると分離膜強度の低下といった問題があるので好ましくなく、1μm以上になると濾過流量の低下や目詰まりといった問題があるので好ましくない。
【0047】
上記のような分離膜及び分離膜支持体からなる分離膜付きシート状物(流体分離素子)の好ましい使用形態としては、平膜のプレートフレーム型モジュール、スパイラル型モジュール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
図1には、限外濾過膜(限外濾過膜付きシート状物)を用いたスパイラル型モジュールの一例が示されている。図1に示すスパイラル型モジュール10は、原液側スペーサー11と透過液側スペーサー12との間に、限外濾過膜13(限外濾過膜付きシート状物)が配置された構造を有する。原液側スペーサー11には、濾過の対象となる原液5を供給するための通過隙間が設けられており、透過液側スペーサー12には、透過液6を通過させる通過隙間が設けられている。透過液6は、原液5が限外濾過膜13を透過することによって得られるものである。限外濾過膜13は、原液側スペーサー11と透過液側スペーサー12と共に集水管14の周りにスパイラル状に巻き付けられている。このスパイラル状部分は、原液側スペーサー11と透過液側スペーサー12と限外濾過膜13とを重ね合わせて2つ折りにし、更に所定部位を接着して袋状物とし、縦一直線に切れ目を入れた集水管14で該袋状物の開口部を挟み、集水管14を芯にして該袋状物をロールケーキ状に巻回することにより得られる。このような構造のスパイラル型モジュール10においては、スパイラル状部分の軸方向(集水管14の延びる方向)に向けて原液5を加圧しつつ供給することで、透過液側スペーサー12側から濃縮水7を、集水管16から透過液6がそれぞれ得られる。
【0049】
原液側スペーサー11及び透過液側スペーサー12の構造としては、両者ともに同じ構造でも構わないが、原液側スペーサー11は網目構造、透過液側スペーサー12は編地構造であることが好ましい。原液側スペーサー11を網目構造にすると、該原液側スペーサー11が原液5の乱流促進材として作用し、原液5の濃度分極がおこりにくくなることで膜面流速を均一にすることができ、原液5の汚れによる詰まりの発生が少なくなるので好ましい。原液側スペーサー11としては、厚さが0.5〜2.0mmの合成繊維製ネットが好ましく使用される。原液側スペーサー11に使用される合成繊維としては、ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維が使用され、必要に応じて該合成繊維に抗菌性繊維も混入される。合成繊維製ネットに使用される繊維の太さとしては20〜300μmが好ましい。20μm未満であるとスペーサーの隙間が狭くなり、空隙率が小さくなるので有効膜面積も小さくなり、濾過流量が低下するので好ましくない。300μmを越えるとモジュールの充填密度が低下して分離膜の面積が小さくなるので好ましくない。透過液側スペーサー12としては、厚さが0.2〜1.0mmの合成繊維の編地が好ましく使用され、この編地にメラミン樹脂やエポキシ樹脂等を含浸させてから熱硬化させたものが使用される。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づき更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0051】
〔実施例1〕
上層用として、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)50質量部と広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)50質量部を混合して離解し、500mlC.S.F.に叩解したスラリーにバインダー繊維として平均繊維度が1.7デシテックスで平均繊維長が5mmであり、且つ融点が110℃である芯鞘型ポリエステル繊維(商品名「TJ04CN」、帝人ファイバー(株)製造)を加え、硫酸アルミニウムを適量混合し、スラリーを調整した。また、下層用として、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)100質量部を叩解度が450mlC.S.F.になるように叩解し、湿潤紙力増強剤(商品名「スミレッツレジン675A」、田岡化学工業(株)製造)を1質量部添加し、硫酸アルミニウムを適量混合してスラリーを調整した。該スラリーを円網2槽抄き抄紙機用いて、上層の坪量が30g/m、厚さ50μm、透気抵抗度0.3秒になるように調整し、下層の坪量が40g/m、厚さ70μm、透気抵抗度4秒になるように調整して2層を抄き合わせさせ、各層間を乾燥用の加熱シリンダー(表面温度120℃、接触時間30秒)を使用して加熱接合させてシート状物を得、これを実施例1のサンプルとした。なお、上層における製紙用繊維とバインダー繊維との混合比率は、含有質量比で製紙用繊維:バインダー繊維=70:30とした。こうして得られた実施例1のシート状物は、坪量70g/m、厚さ102μm、透気抵抗度5秒であった。
【0052】
〔実施例2〕
下層のスラリーとして、平均繊維度が1.2デシテックスで平均繊維長が5mmであり、且つ融点が110℃である芯鞘型ポリエステル繊維(商品名「TJ94CN」)を加え、かつ湿潤紙力増強剤を除いた他は実施例1と同様の方法によりシート状物を得、これを実施例2のサンプルとした。なお、下層における製紙用繊維とバインダー繊維との混合比率は、含有質量比で製紙用繊維:バインダー繊維=80:20とした。実施例2のシート状物は、坪量70g/m、厚さ98μm、透気抵抗度5秒であった。
【0053】
〔実施例3〕
上層におけるバインダー繊維を、平均繊維度が1.2デシテックスで平均繊維長が5mmであり、かつ融点が150℃である未延伸ポリエステル繊維(商品名「TA07N」、帝人ファイバー(株)製造)、下層におけるバインダー繊維を、平均繊維度が1.7デシテックスで、平均繊維長が5mmであり、かつ融点が110℃である芯鞘型ポリエステル繊維(商品名「TJ04CN」)とした他は実施例3と同様にしてシート状物を得た。このシート状物を熱ロールを用いて熱圧加工(熱ロールの表面温度225℃、加圧力8.8MPa)を施して、製紙用繊維間及び上層と下層を熱圧接合させ、これを実施例3のサンプルとした。実施例3のシート状物は、坪量70g/m、厚さ95μm、透気抵抗度6秒であった。
【0054】
〔実施例4〕
上層における坪量を20g/m、下層における坪量を40g/mとした他は実施例3と同様にしてシート状物を得、これを実施例4のサンプルとした。実施例4のシート状物は、坪量60g/m、厚さ88μm、透気抵抗度3秒であった。
【0055】
〔実施例5〕
上層における坪量を40g/m、下層における坪量を60g/mとした他は実施例3と同様にしてシート状物を得、これを実施例4のサンプルとした。実施例4のシート状物は、坪量100g/m、厚さ148μm、透気抵抗度12秒であった。
【0056】
〔比較例1〕
上層用としてバインダー繊維を混合させないこと以外は実施例1と同様にしてシート状物を得、これを比較例1とした。比較例1のシート状物は、坪量70g/m、厚さ100μm、透気抵抗度5秒であった。
【0057】
〔比較例2〕
上層の坪量を18g/m、とし、下層の坪量を20g/m、とした他は実施例1と同様にしてシート状物を得、これを比較例2のサンプルとした。比較例2のシート状物は、坪量38g/m、厚さ60μm、透気抵抗度3秒であった。
【0058】
〔比較例3〕
上層の坪量を80g/m、とした他は実施例1と同様にしてシート状物を得、これを比較例3のサンプルとした。比較例2のシート状物は、坪量120g/m、厚さ185μm、透気抵抗度35秒であった。
【0059】
〔スパイラル型モジュールの作製〕
スルホン化ポリサルフォンをN-Nジメチルホルムアミドに溶解させて、固形分濃度17質量%の製膜液を調製した。この製膜液を、実施例及び比較例で得られたシート状物の上層の表面に塗布した後、水と接触させて該製膜液をゲル化させ、次いで、浸漬層を通すことで残留しているN-Nジメチルホルムアミドを洗浄除去して、該上層の表面に厚さ50μmのスルホン化ポリサルフォンの層(限外濾過膜)を形成した。尚、実施例及び比較例の何れのシート状物においても、製膜液の裏抜けは見られなかった。また、実施例及び比較例の何れのシート状物を用いた場合においても、限外濾過膜にピンホール等の欠陥は見られなかった。
【0060】
こうして得られた限外濾過膜(限外濾過膜付きシート状物)を用いて、図1に示す如きスパイラル型モジュールを作製した。詳細には、原液側スペーサーとして、繊維径0.7μmのポリプロピレン繊維からなり且つ開孔率40%の網目構造のネットを挿入し、また透過液側スペーサーとして、シングルトリコット編物で幅400μmの溝を有する厚さ0.4mmのポリエステルシートを挿入し、これらを重ね合わせて2つ折りにして袋状に接着した後、縦一直線に切れ目を入れた集水管で袋の口を挟み、これを芯にしてロールケーキ状に巻くことでスパイラル状部分を形成し、スパイラル型モジュールを作製した。スパイラル状部分の軸方向(集水管の延びる方向)と直交する方向の2つの断面のうちの一方から原液を加圧しつつ供給し、他方の断面から濃縮水を、集水管から透過液を得る方法を採用した。
【0061】
〔性能評価〕
実施例及び比較例のシート状物それぞれについて、上述した方法〔JIS P 8117(1998年)〕に従って透気抵抗度(秒)を測定した。透気抵抗度が0.1〜15秒であるサンプルを合格とした。また、各サンプルの上層表面に、スルホン化ポリサルフォンをN-Nジメチルホルムアミドに溶解させて、固形分濃度17質量%からなる製膜液を、製膜後の厚さが50μmになるように塗布した後、各サンプルの裏面を目視観察して、製膜液の裏抜けの有無を確認した。製膜液の裏抜けが確認されないサンプルを合格とした。
さらに、上記のようにして得られたスパイラル型モジュールについて、逆圧洗浄時の分離膜の剥離状態、濾過流量をそれぞれ下記方法により評価した。これらの結果を下記表1及び表2に示す。
【0062】
<逆圧洗浄時の分離膜の剥離状態>
スパイラル型モジュールを逆圧洗浄する。その際、逆圧洗浄時の圧力を徐々に増していき、分離膜がシート状物(分離膜支持体)から完全に剥離したときの圧力(剥離圧力)を測定する。この剥離圧力が大きいほど、分離膜と支持体(シート状物)との間の接着力が強く両者が密着していることを示し、高評価となる。ここでは、剥離圧力が9.8MPa以上のものを合格と判断した。
【0063】
<濾過流量の確認>
スパイラル型モジュールに、原液側スペーサーから透過液側スペーサーに向けて0.1MPaの圧力を加えつつ純水を流し、透過液側スペーサーから流れ出てくる透過液の流量を測定する。該流量が0.5m/m/日以上のものを合格と判断した。
【0064】
実施例8および比較例7を使用して実施例10および比較例9のモジュールを作成した際の、逆洗浄時における濾過膜の剥離状態、濾過流量、ピンホールおよび濾過性能の確認結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表1に示す通り、実施例1〜5は、上層、下層及びシート状物自体の坪量、厚さ及び透気抵抗度がそれぞれ上述した特定範囲内にあるため、これらを使用したスパイラル型モジュールにおいては、逆圧洗浄時の高圧力にも耐える分離膜の強い接着強度を示し、濾過流量も満足すべきものであった。また、製膜液の裏抜けも確認されなかった。このことから、本発明のシート状物は、製造コストの低廉化や環境に対する負荷の低減を実現し、且つ分離膜支持体として有用なものであることがわかる。これに対して表2に示すとおり、比較例1は、シート状物の各層全てにバインダーシートを含まないため、濾液を充填して濾過しようとして加圧したり逆圧洗浄をかけたりすると、シート層が分解してしまい濾過不可能の状態になってしまった。また比較例2では上層の坪量が設定値を下まわっていたため、製膜膜を塗工した際に、下層の表面まで膜の一部が確認できる、いわゆる裏抜け状態になってしまった。また、比較例3では透気抵抗度が設定値を超えてしまっているために、濾過流量が著しく減少してしまい、分離膜としての性能を満たせなかった。以上のように、比較例においては、これらを使用したスパイラル型モジュールにおいては、評価を合格レベルにすることはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、本発明のシート状物を用いた分離膜付きシート状物が組み込まれたスパイラル型モジュールの一実施形態を一部展開して示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
5 原液
6 透過液
7 濃縮液
10 スパイラル型モジュール
11 原液側スペーサー
12 透過液側スペーサー
13 限外濾過膜(限外濾過膜付きシート状物)
14 集水管
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、限外濾過膜や逆浸透膜用の支持体として、十分な強度と透過流量を確保し、かつ安価な限外濾過膜や逆浸透膜用の支持体、およびこれを基材とした限外濾過膜や逆浸透膜、およびこれらを使用したモジュールとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として製紙用繊維で構成された、2層以上の多層抄き合わせシート状物であって、上層にはバインダー繊維が混入され、かつ上層の坪量が20〜100g/m、厚さが20〜200μm、透気抵抗度が0.1〜5秒であり、下層においては坪量が20〜100g/m、厚さが20〜200μm、透気抵抗度が0.1〜8秒であって、前記シート状物全体としての坪量が60〜140g/m、厚さが50〜150μm、透気抵抗度が0.1〜15秒であることを特徴とするシート状物。
【請求項2】
下層にバインダー繊維が混入されたことを特徴とする請求項1に記載のシート状物。
【請求項3】
製紙用繊維が化学パルプであることを特徴とする、請求項1または2に記載のシート状物。
【請求項4】
少なくとも前記下層には製紙用添加剤が実質的に含まれていないことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシート状物。
【請求項5】
バインダー繊維が、芯部分が高融点繊維であり、鞘部分が低融点繊維である芯鞘型の二重構造からなるバインダー繊維であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシート状物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のシート状物の上層の表面上に、分離機能を有する分離膜を形成してなる分離膜付きシート状物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−240894(P2009−240894A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89504(P2008−89504)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000225049)特種製紙株式会社 (45)
【Fターム(参考)】