説明

シート状骨補填材及びその製造方法

【課題】 生体内において骨誘導性が高く、適度な強度と伸びを有し、補填時の操作性に優れたシート状骨補填材を提供する。
【解決手段】 孔径が5〜50μmの連通小孔を有さない厚さ0.02〜3mmのシート状の生分解性高分子の表面に、平均粒子径100〜3000μmの顆粒状のリン酸カルシウム化合物が保持されていることを特徴とするシート状骨補填材である。その作製方法は、生分解性高分子が溶解された溶液を凍結させないで乾燥させシート状の生分解性高分子を作製する行程において、シート状の生分解性高分子の表面に平均粒子径100〜3000μmの顆粒状のリン酸カルシウム化合物を散布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨腫瘍や骨髄炎等により病巣を取り除いた後の欠損部や歯科用インプラント埋入のための顎骨の補強や補填に用いられる、リン酸カルシウム系化合物と生分解性高分子との複合体からなるシート状骨補填材に関する。
【背景技術】
【0002】
骨組織,軟骨組織のような硬組織及び上皮組織,結合組織,神経組織のような軟組織の外傷,炎症,腫瘍あるいは再建美容術等により生じた生体内の欠損部は、従来から補綴による機能回復が行われており、それに用いる材料も研究されてきた。
【0003】
このような材料としては、乳酸,グリコール酸,トリメチレンカーボネート,ε−カプロラクトン等のポリマー及びそれらの共重合体が検討されてきた。また、ポリ乳酸とポリε−カプロラクトンとポリグリコール酸とのブロック共重合体も検討されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、これらの材料は、骨誘導性に関しての作用は期待できない。
【0004】
一方、アルミナ,バイオグラス,A−W結晶化ガラス,リン酸カルシウム化合物等のバイオセラミックスは、生体親和性が高く、人工骨,歯科用インプラント等の材料として利用され、生体内において材料表面に新生骨の形成が行われるので補填機能と骨組織との接着性に優れている。しかしこれらの材料のほとんどは生体内において非吸収性の材料であるため形成された骨組織内に残存し新生骨の成長に悪影響を与え、新生骨の強度が低下する問題が指摘されている。バイオセラミックスの中でもリン酸三カルシウムは生分解性があるが、骨と比較して機械的強度が小さく負荷のかかる部位への使用制限がある。また、多くのバイオセラミックスは顆粒状を有するため、骨移植材の形態付与性及びその維持安定性に乏しく、複雑で広範囲な欠損に対しては充填操作が困難となり顆粒の流出に伴う治癒の遅延等の問題が残る。
【0005】
これらの問題を解決する方法として、バイオセラミックスとポリマーを複合化した材料も数多く研究されている。例えば、溶剤中にリン酸カルシウム系化合物を懸濁したスラリーに生分解性高分子からなるシートを浸漬したり、該スラリーを生分解性高分子からなるシートに塗布した骨修復用複合材料(例えば、特許文献2参照。)、生分解性高分子からなるシートの少なくとも片側面にリン酸カルシウム系化合物粒子を付着させプレスした骨補填用シート(例えば、特許文献3参照。)、生分解性高分子とリン酸カルシウム系化合物を加熱混練した後にホットプレスすることによりシート状に成型させた生体材料(例えば、特許文献4参照。)、バイオセラミックス粒子が混合され生分解性高分子が溶解された有機溶媒を凍結させずに乾燥して該有機溶媒を取り除いたバイオセラミックス粒子と生分解性高分子との複合体からなるシート状骨補填材(例えば、特許文献5参照。)等が開示されている。
【0006】
ところが、溶剤中にリン酸カルシウム系化合物を懸濁したスラリーに生分解性高分子物質からなるシートを浸漬または塗布した材料や、生分解性高分子物質からなる基材シートにリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を付着させプレスしただけでは、リン酸カルシウム系化合物がシートに十分に固定されないので使用時の操作性が悪化する問題があった。また、使用時にシートから脱離して体内に散在したリン酸カルシウム系化合物粒子が部位によっては組織為害性を発現する虞があった。また、生分解性高分子とリン酸カルシウム系化合物を加熱混練した後にホットプレスした場合や、バイオセラミックス粒子が混合され生分解性高分子が溶解された有機溶媒を凍結させずに乾燥して該有機溶媒を取り除いた場合には、リン酸カルシウム系化合物がシート内に完全に埋没されていることが多く、リン酸カルシウム系化合物による骨伝導,骨誘導等の機能が発現されず骨の補填が効率よく進行しない。さらに、これらの過程で作製されたシート状の材料は伸び難く柔軟性に欠けるので操作性が悪く欠損部に補填する際にシートが千切れてしまったり崩れてしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−132638号公報
【特許文献2】特開平02−241460号公報
【特許文献3】特開2000−126280号公報
【特許文献4】特開2001−054564号公報
【特許文献5】特開2008−086511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生体内において骨誘導性が高く、適度な強度と伸びを有し、補填時の操作性に優れたシート状骨補填材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究した結果、生分解性高分子が溶解された溶液を凍結させずに乾燥させ厚さ0.02〜3mmのシート状の生分解性高分子を作製する行程において、シート状の生分解性高分子の表面に平均粒子径100〜3000μmの顆粒状のリン酸カルシウム化合物を散布すれば、孔径が5〜50μmの連通小孔を有さない厚さ0.02〜3mmのシート状の生分解性高分子の表面に、平均粒子径100〜3000μmの顆粒状のリン酸カルシウム化合物が保持されているシート状骨補填材が作製ができることを見出した。このシート状骨補填材は、塗布やプレスと比較して顆粒状のリン酸カルシウム化合物がシートの表面に確実に保持されるので補填時の操作性に優れ、シートの表面に顆粒状のリン酸カルシウム化合物が確実に保持されているので生体内において骨誘導性が高く、加熱過程等を経ていないので使用時にも千切れたりすることなく適度な強度と伸びを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、生体内において骨誘導性が高く、適度な強度と伸びを有し、補填時の操作性に優れたシート状骨補填材である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は孔径が5〜50μmの連通小孔を有さない厚さ0.02〜3mmのシート状の生分解性高分子の表面に、平均粒子径100〜3000μmの顆粒状のリン酸カルシウム化合物が保持されていることを特徴とするシート状骨補填材である。その作製方法は、生分解性高分子が溶解された溶液を凍結させないで乾燥させシート状の生分解性高分子を作製する行程において、シート状の生分解性高分子の表面に平均粒子径100〜3000μmの顆粒状のリン酸カルシウム化合物を散布する。
【0012】
本発明においてシート状の生分解性高分子を作製するには、生分解性高分子が溶解された溶液を型に注入した後に凍結させずに乾燥させる。生分解性高分子が溶解された溶液を乾燥させる温度は、凍結させない温度である必要があり、好ましくは常温常圧である。常温は日本工業規格(JIS Z 8703)で規定されている通り20℃±15℃(5〜35℃)の範囲となる。凍結あるいは真空にして乾燥してしまうと、シートの伸び易さが低下してしまい欠損部への補填時の操作性が悪化してしまう。生分解性高分子が溶解された溶液を凍結あるいは真空にしない状態で乾燥し作製されたシート状の生分解性高分子は、孔径が5〜50μmの連通小孔を有していない。
【0013】
孔径が5〜50μmの連通小孔を有さないシート状の生分解性高分子の厚みは、0.02〜3mmである必要がある。厚さが0.02mm未満では薄く破れ易く操作性が低下し、3mmを超えるとシートが固くなり過ぎて操作性が低下する。厚みは、生分解性高分子が溶解された溶液を型に注入する量で調節する。
【0014】
シート状の生分解性高分子の表面に顆粒状のリン酸カルシウム化合物を散布する方法としては、シート状の生分解性高分子の表面に上から振り掛ける方法が最も簡単である。ただし、生分解性高分子が溶解された溶液が完全に乾燥してから散布しても顆粒状のリン酸カルシウム化合物が生分解性高分子の表面に確実に保持されない。従って、シート状の生分解性高分子の表面に顆粒状のリン酸カルシウム化合物の散布は、溶液が完全に乾燥するより前、且つ、顆粒状のリン酸カルシウム化合物が生分解性高分子が溶解された溶液に完全に沈殿してしまわない条件で行わなければならない。
【0015】
本発明で使用する生分解性高分子としては、生体に安全であり、一定期間、体内でその形態を維持できれば特に限定することなく用いることができる。例えば従来から用いられているポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA:D体、L体、DL体)、ポリ−ε−カプロラクトン(PLC),ポリジオキサノン,ポリアミノ酸,ポリアンハイドライド,ポリオルソエステル及びそれらの共重合体中から選択される一種または二種以上の混合物を例示することができ、中でもポリグリコール酸,ポリ乳酸,乳酸-グリコール酸共重合体,乳酸−ε−カプロラクトン共重合体がすでに本邦にて既承認品の原料として使用されていること及びその実績の面から最も好ましい。生分解性高分子の重量平均分子量は5000〜2000000であることが好ましく、より好ましくは10000〜500000である。
【0016】
本発明で使用する生分解性高分子を溶解させる溶媒としては、生分解性高分子は溶解させるがリン酸カルシウム化合物は溶解させない溶媒から適宜選択して使用すればよい。例えば、クロロホルム,ジクロロメタン,四塩化炭素,アセトン,ジオキサン,テトラハイドロフランから選ばれる1種または2種以上の混合物が好ましく使用できる。
【0017】
溶解される生分解性高分子の量は、溶媒100に対して生分解性高分子が1〜20重量部であることが好ましく、1重量部未満であると骨補填材が脆くなり欠損部へ補填する際の操作性が劣る傾向があり、20重量部を超えるとシート状の骨補填材としての柔軟性が十分得られないので好ましくない。
【0018】
本発明で使用する顆粒状のリン酸カルシウム化合物としては、人工骨や人工歯根として従来から用いられている水酸アパタイト,炭酸アパタイト,フッ素アパタイト,リン酸水素カルシウム(無水物または2水和物),リン酸三カルシウム,リン酸四カルシウム,リン酸八カルシウム等が挙げられ、これらは2種以上混合してもよい。特に生体内で崩壊性を示す低結晶性の炭酸アパタイトが好ましい。
【0019】
本発明で使用する顆粒状のリン酸カルシウム化合物は、粒径が50〜5000μmであることが好ましく、50μm未満では生体内で炎症等を惹起させる虞があり、5000μmを超えると製造されたシート状の骨補填材を欠損部へ適用する際に操作性の点で問題がある。また、リン酸カルシウム化合物の表面が多孔質であると、生分解性高分子が生体内で分解されることにより生じたスペースに生体組織が侵入した際に、リン酸カルシウム化合物の多孔質部分へも侵入することにより骨組織再生が促進されるので好ましい。
【0020】
本発明において、シート状の生分解性高分子の表面に散布される顆粒状のリン酸カルシウム化合物の量は、生分解性高分子を溶解させた溶液全体を100重量部としたときに顆粒状のリン酸カルシウム化合物が1〜20重量部であることが好ましい。1重量部未満であると骨補填材を欠損部へ補填した際の骨再生性に乏しく、20重量部を超えると生分解性高分子の割合が減り、シート状の骨補填材の柔軟性が乏しくなって欠損部へ補填する際の操作性が劣るので好ましくない。
【実施例】
【0021】
本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
<実施例1>
ジオキサン100重量部に対して、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体(乳酸:ε−カプロラクトン=50:50,重量平均分子量約100000)を8重量部溶解させた溶液1.5gを底面の1辺が50mm,高さ10mmのガラス型に流し込んだ。その後、23℃,およそ1気圧下で30分間放置し生分解性高分子が溶解された溶液の表面がべとつく程度まで乾燥させた。次いで平均粒径300〜600μmの炭酸アパタイト2gを型の上方から均等に散布した後、続けて23℃の常圧下で48時間放置させることによってジオキサンを完全に蒸発させ、シート状骨補填材を得た。表面をデジタルマイクロスコープで観察したところ、炭酸アパタイト顆粒の表面は生分解性高分子では覆われておらず露出していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性高分子が溶解された溶液を凍結させずに乾燥させ厚さ0.02〜3mmのシート状の生分解性高分子を作製する行程において、シート状の生分解性高分子の表面に平均粒子径100〜3000μmの顆粒状のリン酸カルシウム化合物を散布することを特徴とするシート状骨補填材の作製方法。
【請求項2】
孔径が5〜50μmの連通小孔を有さない厚さ0.02〜3mmのシート状の生分解性高分子の表面に、平均粒子径100〜3000μmの顆粒状のリン酸カルシウム化合物が保持されていることを特徴とするシート状骨補填材。

【公開番号】特開2011−212256(P2011−212256A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83762(P2010−83762)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】