説明

シート用クッション体およびその製造方法

【課題】優れた座り心地が得られると共に、優れた弾力性を発揮し、耐熱性を有し、長期間使用してもへたりが少なく、通気性がよく、軽量で、安全性に優れ、環境汚染の恐れもなく、適度な圧縮特性(弾性)を有するシート用クッション体を提供する。
【解決手段】本発明にかかるシート用クッション体は、多数の合成繊維が3次元的に絡み合ってなる繊維集合体からなり、前記多数の合成繊維同士の交絡部分が熱硬化したウレタン樹脂により接合されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車両および航空機等の乗物用シートのクッション体あるいは椅子やベンチなどの着座家具用シートのクッション体等に好適なシート用クッション体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、鉄道車輌、航空機などの乗物の座席シートや着座家具用シートのクッション体としては、良好な着座感を確保するために弾力性のある軟質ウレタンフォームや繊維集合体が使用されている。これらクッション体の上に表皮カバーを被着させたものが座席シートや着座家具用シートとして用いられている。
近年、市場の多様化、高級化といった背景から、高品質のクッション体に対する要望が高く、上記各クッション体に対して以下のような改良すべき問題点が指摘されている。
【0003】
ウレタンフォームは、クッション体としてへたり難い(耐へたり性が良い)という特性を有しているものの、クッション体としては弾性が強すぎるため、座り心地に難がある。また、ウレタンフォームは、面剛性が低いため、急に沈み込んだり、体の揺れが大きくなったりして安定した座り心地が得られないという問題もある。また、ウレタンフォームは、圧縮初期では硬く、着座後に急に沈み込むという独特の圧縮特性を有している。そのためウレタンフォームからなるクッション体は、クッション性が乏しく、底突き感が大きいという問題点を有している。また、ウレタンポリマー自体は軟らかく、かつ発泡体であるため、圧縮に対する反撥性を出すには密度を高くしなければならず、密度を増すと、弾性が強くなり過ぎ、かつ重量が増加するという問題点が生じる。また、ウレタンフォームは、通気性が悪く、熱を蓄積しやすいため、使用感が悪いとか、蒸れ易く、快適感が阻害される等の問題点も有している。さらに、ウレタンフォームは、火災時あるいは廃棄処理において、燃焼により有毒ガス(青酸ガス)が発生するという安全上および環境保全上の問題点もある。
【0004】
これに対して、ポリエステル繊維の中では剛性が高いPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維の交絡点に末端イソシアネート基のウレタンバインダーを付着させ、水蒸気で固めた繊維系クッション体が提案されている(特許文献1)。繊維系クッション体は通気性が良く、面剛性が高いので乗り心地も改善される。
【0005】
しかし、特許文献1において用いられている末端イソシアネート基のウレタンバインダーは粘度が高く、かつ水と化学反応を起こす。そこで、特許文献1では、PET繊維にウレタンバインダーを適切量付着させる方策として、ウレタンバインダーを塩素系の有機溶剤で希釈し、適切な粘度に調整して用いていた。現今では、塩素系の有機溶剤は使用禁止であり、特許文献1に記載の製品は生産されていない。
【0006】
また、前記ウレタンフォームに替わり得るクッション体として、高捲縮繊維と熱接着性繊維からなり、熱接着性繊維によって繊維相互が部分的に接合した構造の繊維集合体を用いることが提案されている(特許文献2)。
【0007】
この繊維集合体は、クッション体として良好な弾性を有し、座り心地が良く、通気性も良好である。しかしながら、この繊維集合体においては、繊維間の接合を担っている熱接着性繊維は繊維集合体構造を支持する繊維を兼ねている。熱接着性繊維は接着のために一部溶融した後、繊維集合体の3次元構造を支持する繊維の一部を担うことになる。一部溶融した熱接着性繊維の耐久性および強度は不十分なものとなる。その結果、この繊維集合体は、接着耐久性が低く、使用中に接着が破壊されシート形状の劣化や反撥性の大幅な低下が生じ、それに伴ってへたりが大きくなる。クッション体にへたりが生じると、それに伴って着座者のアイポイントが低くなり、例えば、自動車用シートの場合では、安全な運転に支障を来たしたり、乗り心地も悪化するという問題点が生じる。
【0008】
このような背景から長期間使用してもへたりの少ない耐久性に優れたシート用クッション体の開発が求められているのが、現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−279277号公報
【特許文献2】特開平5−161765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の技術的背景に鑑みてなされたものであって、その課題は、優れた座り心地が得られると共に、優れた弾力性を発揮し、耐熱性を有し、長期間使用してもへたりが少なく、通気性がよく、軽量で、安全性に優れ、環境汚染の恐れもなく、適度な圧縮特性(弾性)を有するシート用クッション体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために、下記構成を採用したシート用クッション体およびその製造方法を提供する。
【0012】
[1] 多数の合成繊維が3次元的に絡み合ってなる繊維集合体からなり、前記多数の合成繊維同士の交絡部分が熱硬化したウレタン樹脂により接合されていることを特徴とするシート用クッション体。
【0013】
[2] 前記合成繊維がポリトリメチレンテレフタレート繊維およびポリブチレンテレフタレート繊維から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、上記[1]に記載のシート用クッション体。
【0014】
[3] 前記熱硬化したウレタン樹脂が、水分散可能なポリイソシアネート、ポリエーテルポリオールを含む熱硬化性ウレタン樹脂前駆体組成物を水に分散させてなる熱硬化性ウレタンバインダーを前記多数の合成繊維同士の交絡部分にのみ付着させた後に熱風加熱することにより形成されたものであることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載のシート用クッション体。
【0015】
[4] 上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載のシート用クッション体の製造方法であって、多数の合成繊維が3次元的に絡み合ってなる繊維集合体に熱硬化性ウレタン樹脂前駆体組成物を含む水分散性の熱硬化性ウレタンバインダーを含浸させる第1の工程と、前記第1の工程後の繊維集合体に遠心力をかけて該繊維集合体から前記ウレタンバインダーの一部を振り落とすことにより前記多数の合成繊維同士の交絡部分にのみ前記ウレタンバインダーを残存させる第2の工程と、前記第2の工程後の繊維集合体を所定形状の多孔性の金型内に収容し、金型内の繊維集合体に熱風を送り込んで該繊維集合体中の多数の合成繊維同士の交絡部分に付着しているウレタンバインダーを硬化させることにより前記多数の合成繊維同士の交絡部分が熱硬化したウレタン樹脂によって接合されている繊維集合体を得る第3の工程と、を有するシート用クッション体の製造方法。
【0016】
[5] 前記第2の工程における遠心力を50〜100m/secに設定することを特徴とする、上記[4]に記載のシート用クッション体の製造方法。
【0017】
[6] 前記第3の工程における熱風の温度を110℃〜160℃に設定することを特徴とする、上記[4]または[5]に記載のシート用クッション体の製造方法。
【0018】
[7] 前記第3の工程における金型内への繊維集合体を収容した時の繊維集合体の密度を制御することによりクッション体の硬度を調節することを特徴とする、上記[4]〜[6]のいずれか一つに記載のシート用クッション体の製造方法。
【0019】
[8] 前記合成繊維としてニードリング処理した繊維を用いることによりクッション体の硬度を高めることを特徴とする、上記[4]〜[7]のいずれか一つに記載のシート用クッション体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシート用クッション体は、従来シート用クッション体として多用されているウレタンフォームに比べ、大幅に軽量化(約15質量%)され、通気性が高く、高い面剛性、高い反発弾性率、および高い耐久性を有し、厚さ方向の硬度調節が可能である。したがって、本発明のシート用クッション体を用いてシートを製造することにより、座り心地やホールド性、および耐久性が大幅に向上したシートを提供することができる。
また、本発明のシート用クッション体の製造方法は、多孔性の金型を用いて簡易にシート用クッション体を製造することができ、脱型時間も短縮できるので、クッション体の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、実施例1および実施例3で得たクッション体を構成する繊維集合体における繊維の絡み合い構造を示す図である。
【図2】図2は、実施例3で作成した着座クッションの断面構造を示す図である。
【図3】図3は、比較例2で得たクッション体を構成する繊維集合体における繊維の絡み合い合構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明にかかるシート用クッション体は、上述のように、多数の合成繊維が3次元的に絡み合ってなる繊維集合体からなり、前記多数の合成繊維同士の交絡部分が熱硬化したウレタン樹脂により接合されていることを特徴とする。
また、本発明にかかるシート用クッション体の製造方法は、上述のように、多数の合成繊維が3次元的に絡み合ってなる繊維集合体に熱硬化性ウレタン樹脂前駆体を含む水分散ウレタンバインダーを含浸させる第1の工程と、前記第1の工程後の繊維集合体に遠心力をかけて該繊維集合体から前記ウレタンバインダーの一部を振り落とすことにより前記多数の合成繊維同士の交絡部分にのみ前記ウレタンバインダーを残存させる第2の工程と、前記第2工程後の繊維集合体を所定形状の多孔性の金型内に収容し、金型内の繊維集合体に熱風を送り込んで該繊維集合体中の多数の合成繊維同士の交絡部分に付着しているウレタンバインダーを硬化させることにより前記多数の合成繊維同士の交絡部分が硬化したウレタン樹脂によって接合されている繊維集合体を得る第3の工程と、を有することを特徴とする。
以下、上記構成の本発明にかかるシート用クッション体およびその製造方法の実施形態について説明する。
【0023】
(合成繊維)
クッション体を形成する合成繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維などが挙げられる。これらの中でも、好ましくはポリエステル繊維であり、さらに好ましくはPTT(ポリトリメチレンテレフタレート)繊維およびPBT(ポリブチレンテレフタレート)繊維が用いられる。
【0024】
PTT繊維やPBT繊維は、従来のPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維に比べ、繊維そのものの分子構造が螺旋状のばねのような形状をしているため、柔軟で、弾力性に優れ、荷重を除去した後の回復力に優れる。したがって、この繊維を使用したクッション体は弾力性があり、乗り心地が良くなり、通気性も高いので蒸れ感が解消される。
【0025】
繊維の性状は、繊度1〜50デニール、繊維長25〜150mm、巻縮数3〜25/inch、中実タイプ、中空コンジュケートタイプ、扁平断面形状であることが好ましい。
扁平断面形状の繊維の場合、繊度6〜80デニール、繊維長13〜125mm、扁平度2〜6、断面形状は長軸方向に複数の山(1〜10程度)であることが好ましい。
【0026】
(繊維集合体)
上記合成繊維の固まりを開綿して(ほぐして)、繊維密度を調整するとともに、多数の繊維を3次元方向にランダムに配列させる。多数の繊維を3次元方向にランダムに配列させることにより、目的のクッション体の耐へたり性を向上させることができる。
繊維集合体は、単一種類の合成繊維から構成してもよいし、種類の異なる2種以上の合成繊維を混綿することにより構成してもよい。例えば、開綿して得られたPTT短繊維集合体とPBT短繊維集合体とを混綿して用いてもよく、その場合は、PTT短繊維集合体とPBT短繊維集合体とを80:20〜50:50の比率で混綿することが好ましい。
【0027】
(水分散ウレタンバインダー)
本発明に用いる水分散性の熱可塑性ウレタンバインダーは、水分散可能なポリイソシアネート、ポリエーテルポリオールを含む熱硬化性ウレタン樹脂前駆体組成物を水に分散させることにより調製される。前記熱硬化性ウレタン樹脂前駆体組成物には必要に応じて、鎖延長剤、架橋剤等の添加剤が加えられてもよい。
【0028】
上記水分散可能なポリイソシアネートとしては、例えば、三井化学ポリウレタン社製のポリイソシアネート(商品名「タケラックWD−725」、粘度は800mPa・sec)を用いることができる。
【0029】
上記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、旭硝子社製のポリエーテルポリオール(商品名「EXCENOL230」、官能基数3、分子量3,000、水酸基価56、エチレンオキサイド付加)、EXCENOL820(官能基数3、分子量4,900、水酸基価34、エチレンオキサイド付加)を用いることができる。
【0030】
また、上記鎖延長剤や架橋剤としては、例えば、多価アルコール(エチレングリコール(f=2)、1、4ブタンジオール(f=2)、トリメチロールプロパン(f=3)およびハイドロキノンジエチロールエーテル(f=2)等)や多価アミン(ジエタノールアミン(f=3)、トリエタノールアミン(f=3)等)等を挙げることができる。これらの内の官能基数f=2のものが鎖延長剤として、官能基数f=3以上のものが架橋剤として機能する。
【0031】
上記ポリイソシアネート中の−NCO基数と(ポリエーテルポリオール+鎖延長剤+架橋剤)中の−OH基数を合計した総−OH基数の比率(−NCO/総−OH)が0.90〜1.1になるように配合することが望ましい。水溶液中の(ポリイソシアネート+ポリエーテルポリオール+鎖延長剤+架橋剤)成分の合計濃度は20〜95質量%であることが好ましい。
【0032】
水分散ウレタンバインダー(水溶液)中の熱硬化性ウレタン樹脂前駆体組成物の濃度は20〜95質量%、好ましくは50〜95質量%である。
【0033】
(第1の工程)
合成繊維の固まりを開綿して(ほぐして)、繊維密度を調整するとともに、多数の繊維を3次元方向にランダムに配列させることにより繊維集合体を調製する。得られた繊維集合体に水分散性ウレタンバインダー(水溶液)を含浸させる。含浸の方法は特に限定されないが、水分散性ウレタンバインダー(水溶液)中に繊維集合体を浸漬する方法が簡易であるので、好ましい。
【0034】
(第2の工程)
水分散性ウレタンバインダーの付着量制御は、開綿後の繊維集合体に過剰のウレタンバインダーを浸漬させた後に遠心力を利用して脱液することにより行う。遠心力を利用して脱液した場合、ウレタンバインダーは繊維表面に殆どコーティングされず、各合成繊維間の交絡部分の毛管現象によりウレタンバインダーが交絡部分にのみ残存するので、必要最低限のバインダー量で良く、クッション体の軽量化が図れる。
【0035】
余分な水分散性ウレタンバインダーを脱液するための遠心力は50〜1000m/sec2が望ましい。脱液後の繊維集合体へのウレタンバインダーの付着量は10〜50質量%とすることが望ましい。この場合、繊維集合体とウレタンバインダーの重量比は8:2〜6:4程度となる。
【0036】
(第3の工程)成型、硬化工程
ウレタンフォーム成形時に使用するアルミ鋳造型は重いが、本発明の繊維集合体をウレタンバインダーで固めたクッション体では、成形時の金型は厚さ約2mmのパンチングメタル等の多孔性金属板から形成した多孔性の金型でよい。この金型は、安価で軽量である。
【0037】
型内に充填した繊維集合体に110〜160℃の熱風を通し、ウレタンバインダー水溶液の水分を蒸発させるとともに、ウレタン樹脂前駆体組成物を硬化させる。その後、金型から繊維集合体を取り出す。
【0038】
前記金型はパンチングメタル製であるため通気性に優れており、この第3の工程では、この通気性の金型の片側から熱風を当て、もう一面から吸引するので、ウレタンバインダー中の水分を短時間で蒸発させることができる。加熱時間は3〜5分程度で、水分の蒸発と前駆体組成物の硬化を完了させることができる。すなわち、熱風加熱時にポリイソシアネート化合物とポリエーテルポリオール、鎖延長剤や架橋剤が反応することで熱硬化性ウレタン樹脂が形成される。
【0039】
(クッション体の硬度調整)
着座シートの部分的に硬くしたい部位(例えば、自動車用の座席シートでは、シートクッションサイド部の硬さを、カーブ走行時のホールド性向上のため、大きくすることが望まれる。)は、金型へ繊維集合体を充填する際の繊維密度を上げることにより対応できる。また、シートの断面構造として、着座者の臀部が直接接触する上部のクッション体を柔らかく、下部のクッション体を硬くすることにより、座り心地を向上させることもできる。
【0040】
硬度の高いクッション体を得るために、ニードリングした繊維集合体を用いてもよい。ニードリングした繊維集合体をウレタンバインダーで固めると、硬いクッション体ができる。この硬いクッション体を着座シートの所要部位に用いることにより、所望の硬度分布のシートを得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を説明する。以下に示す実施例は、本発明を説明するに好適な例示であり、本発明を限定するものではない。
【0042】
(実施例1)
(第1の工程)
合成繊維としては、繊度6デニール、繊維長64mmの捲縮されたPTT短繊維を用いた。このPTT短繊維の塊を開綿することで多数の短繊維が3次元的にランダムに配列し、互いに3次元的に絡み合った構造の繊維集合体を得た。この開綿処理後の繊維集合体の質量密度は概略0.01g/cmであった。
【0043】
次に、熱硬化性ウレタン樹脂前駆体組成物の成分として、水分散可能なポリイソシアネート(三井化学ポリウレタン社製、商品名「タケラックWD−725」、粘度は800mPa・sec)と、ポリエーテルポリオール、鎖延長剤および架橋剤を用いた。これら成分を水に分散させることにより熱硬化性ウレタンバインダーを調製した。
【0044】
上記ポリエーテルポリオールとしては、旭硝子社製のポリエーテルポリオール(商品名「EXCENOL230」、官能基数3、分子量3,000、水酸基価56、エチレンオキサイド付加)、を使用した。また、上記鎖延長剤としては、エチレングリコールを使用した。架橋剤としては、トリエタノールアミンを使用した。
【0045】
上記ポリイソシアネート中の−NCO基数と、上記(ポリエーテルポリオール+鎖延長剤+架橋剤)の総−OH基数の比率(−NCO/総−OH)が、1.0となるように配合した。得られた水分散性の熱硬化性ウレタンバインダー(水溶液)中の(ポリイソシアネート化合物+ポリエーテルポリオール+鎖延長剤+架橋剤)成分の合計濃度は、70質量%であった。
前記繊維集合体に、前記熱硬化性ウレタンバインダーを過剰に含浸させた。
【0046】
(第2の工程)
上記熱硬化性ウレタンバインダーを含浸させた繊維集合体の各繊維間の交絡部にのみバインダーが残るように、繊維集合体から余分なバインダーを遠心脱液機により振り落とした。遠心脱液処理後の繊維集合体とウレタンバインダーの重量比は7:3であった。
【0047】
(第3の工程)
上記脱液処理後の繊維集合体を質量密度が0.03g/cmとなるようにパンチングメタル(厚さ2mm、パンチ径3mm)製の通気性の金型に充填した。
【0048】
次に、型内に詰められた繊維集合体に150℃の熱風を3分間通して、ウレタンバインダーの水分を蒸発させるとともに、ウレタン樹脂前駆体組成物を硬化させた。
【0049】
前記金型はパンチングメタル製であるため通気性に優れており、この第3の工程では、この通気性の金型の片側から熱風を当て、もう一面から吸引するので、ウレタンバインダー中の水分を短時間で蒸発することができる。この熱風処理によって、繊維集合体の各繊維間の交絡部分に付着していたウレタン樹脂前駆体組成物(ポリイソシアネート、ポリエーテルポリオール、鎖延長剤、および架橋剤)は硬化反応により硬化ウレタン樹脂となり、各繊維同士をそれらの交絡部分において確実に接合する。
【0050】
以上の工程によって得られたクッション体は、図1に概略構造を示したように、PTT繊維1同士が3次元的に絡み合ってなる繊維集合体の各繊維間の交絡部2のみに付着していたウレタンバインダーが硬化して硬化ウレタン樹脂3となり、各繊維1の交絡部2においてのみ硬化ウレタン樹脂3により繊維1同士が硬く接合されたものとなる。熱硬化したウレタン樹脂は接着力が強く、かつ耐熱性に優れる。
【0051】
(実施例2)
繊度6デニール、繊維長64mmで巻縮されたPTT短繊維の塊を開綿することでPTT短繊維集合体を得た。別に繊度6デニール、繊維長64mmで巻縮されたPBT短繊維の塊も開綿することでPBT短繊維集合体を得た。
上記開綿して得られたPTT短繊維集合体とPBT短繊維集合体を80:20〜50:50の比率で混綿する。
この混綿処理により得られた繊維集合体を用いて実施例1と同様にしてクッション体を得た。
【0052】
(実施例3)
(第1の工程)
繊度38デニールの巻縮されたPET短繊維の塊を開綿して第1の繊維集合体を得た。別に14デニールの巻縮されたPET短繊維の塊を開綿して第2の繊維集合体を得た。
第1の繊維集合体と第2の繊維集合体とを重量比率1:1で混合して混合繊維集合体を得た。この混合繊維集合体をニードリング(針本数:100/cm,パンチ回数:600回/分.送り速度1.5m)し、目付け750g/mで片側がウエップ状をなす圧密されたシート状のもの(厚さ10mm)に成形した。
【0053】
次にヒータを内蔵するピン(径3mm)をピッチ10mmで多数配列させた穿孔装置を使用し、260〜300℃(ポリエステル繊維の融点から分解点の間の温度)に加熱したピンを上記シート状物に当てて溶融貫通させ、所要数の透孔(径3mm,ビッチ10mm間隔)を形成した。このシート状物の質量密度は概略0.075g/cmであった。
穿孔された上記シート状物に実施例1で調製した熱硬化性ウレタンバインダーを過剰に含浸させた。
【0054】
(第2の工程)
上記熱硬化性ウレタンバインダーを含浸させた繊維集合体の各繊維間の交絡部にのみバインダーが残るように、繊維集合体から余分なバインダーを遠心脱液機により振り落とした。遠心脱液処理後の繊維集合体とウレタンバインダーの重量比は7:3であった。
【0055】
(第3の工程)
上記脱液処理後の繊維集合体を質量密度が0.107g/cmとなるようにパンチングメタル(厚さ2mm、パンチ径3mm)製の通気性の金型に充填した。
次に、型内に詰められた繊維集合体に150℃の熱風を3分間通して、ウレタンバインダーの水分を蒸発させるとともに、ウレタン樹脂前駆体組成物を硬化させた。
【0056】
前記金型はパンチングメタル製であるため通気性に優れており、この第3の工程では、この通気性の金型の片側から熱風を当て、もう一面から吸引するので、ウレタンバインダー中の水分を短時間で蒸発することができる。この熱風処理によって、繊維集合体の各繊維間の交絡部分に付着していたウレタン樹脂前駆体組成物(ポリイソシアネート、ポリエーテルポリオール、鎖延長剤、および架橋剤)は硬化反応により硬化ウレタン樹脂となり、各繊維同士をそれらの交絡部分において確実に接合する。
【0057】
以上の工程によって得られたクッション体は、実施例1で得たクッション体と同様に、図1に概略構造を示したように、PTT繊維1同士が3次元的に絡み合ってなる繊維集合体の各繊維間の交絡部2のみに付着していたウレタンバインダーが硬化して硬化ウレタン樹脂3となり、各繊維1の交絡部2においてのみ硬化ウレタン樹脂3により繊維1同士が硬く接合されたものとなる。熱硬化したウレタン樹脂は接着力が強く、かつ耐熱性に優れる。
【0058】
この実施例3で得られたクッション体は硬度が高いものとなるので、例えば、図2に示すように、着座シートの上部クッション材4の下の下部クッション材5として用いることができる。図2の着座シートは、下部クッション材5が代用ばね受け材として充分な面剛性を有し、上部クッション材3と一体となって形状的にも機能的にも安定なシートである。しかも、このシートは、ウレタンフォームからなるクッション体と異なり、このシートのクッション体は繊維集合体から構成されているので、クッション体には多数の透孔が存在し、大変通気性に優れたシートである。
【0059】
なお、この実施例3では、下部クッション材5の厚みを10mmとしたが、一般的に1〜30mmが望ましく、さらに3〜15mmが望ましい。また、この実施例3では、繊維集合体を構成する合成繊維としてPET繊維を用いたが、それは下部クッション材5は面剛性を必要とする部分であるので、繊維集合体からなるクッション体の面合成を高めるためには、PET繊維が好ましいためである。しかし、上部クッション材4に好適に用いられるPTT繊維やPBT繊維も成形時に充填密度を変えるなどの手段を用いることにより使用することができる。
【0060】
(比較例1)
ポリエーテルポリオール(旭硝子社製、商品名「EXCENOL230」、官能基数3、分子量3,000、水酸基価56、エチレンオキサイド付加):100重量部と、トリレンジイソシアネート(三井ポリウレタン社製、商品名「T−80」):50.3重量部と、発泡剤としての水:4.0重量部と、整泡剤(日本ユニカー社製、商品名「L−520」):1.5重量部を撹拌容器に投入し、ミキシングヘッドで攪拌し、ウレタン原料を得た。
上記ウレタン原料を温調された金型に所定量注入し、金型を閉じた。その後、金型を170℃×10分間加熱し、ウレタンフォームを硬化させた後、脱型した。
【0061】
(比較例2)
PET繊維(6デニール、繊維長64mm)に低融点バインダー繊維(PET繊維の外周を低融点バインダー成分で覆ったもの、6デニール、融点160℃)を重量比7:3の割合で混綿した。この混綿品を開綿して質量密度0.01g/cmのバインダー繊維混綿繊維集合体を得た。
【0062】
このバインダー繊維混綿繊維集合体を質量密度が0.03g/cmとなるように実施例1で用いた金型と同じ金型に詰めた。金型を閉じた後にバインダー繊維の融点以上の温度(160℃)の熱風にて低融点バインダー繊維の表面を溶融させた。その後、冷却により低融点バインダー繊維を凝固し、脱型して、厚さ20mmのクッション体を得た。
【0063】
得られたクッション体では、図3に示されるように、低融点バインダー繊維6同士の交絡部分のみが融合され、バインダー繊維6からなる網目構造を形成している。PET繊維7は、前記バインダー繊維6の網目構造中に絡み込んだ状態で存在している。したがって、このクッション体の強度は主にバインダー繊維からなる網目構造が担っており、PET繊維の強度への寄与は繊維間の摩擦抵抗に支えられた副次的ものにならざるを得ない。
【0064】
(比較例3)
繊度6デニール、繊維長64mmのPTT繊維を開綿して質量密度0.01g/cmの繊維集合体を得た。
また、水分散タイプの熱可塑性ウレタンエマルジョン(大成ファインケミカル社製、商品名「WBR−2018」、固形分32.5±2.5%、粘度20〜800mPa・sec、溶媒は水、ポリエーテルポリウレタン、分子量10万以上、伸び率660%)をバインダーとして用意した。
【0065】
上記熱可塑性ウレタンエマルジョンを50〜90質量%の水で希釈し、上記PTT繊維集合体に過剰に含浸させた。このバインダー含浸繊維集合体から実施例1で用いた遠心脱液装置と同じ遠心脱液装置を用いてバインダーを振り落とした。遠心脱液後の繊維集合体とウレタンバインダーの重量比は7:3であった。
【0066】
上記脱液後の繊維集合体を質量密度が0.03g/cmとなるように実施例1で用いた金型と同じ金型に充填した。次に、型内に充填したPTT繊維集合体に150℃の熱風を通し、ウレタンバインダー水溶液の水分を蒸発させ、金型から脱型した。
得られた繊維集合体を用いて、実施例1と同様にしてクッション体を得た。
【0067】
(評価)
上記実施例1〜3および比較例1〜3で得たクッション体の品質を以下の項目により評価した。評価結果を(表1)に示した。
【0068】
(オーバーオール密度)
オーバーオール密度(g/cm)は、クッション体全体の平均質量密度であり、繊維重合体の場合、繊維の充填密度の目安とすることができる。以下のようにして、各サンプルの測定した。
クッション体から100cmの直方体を3個採取する。最初に重量を測定し、直方体の縦、横、高さをスケールで測定する。オーバーオール密度は次の式から算出する。
ρ=(W/V)×E6
ここで、ρ:オーバーオール密度(kg/m)、W:試験片の重量(g)、V:試験片の体積(mm)であり、E6は10の6乗を示す。
【0069】
(25%硬さ)
25%硬さ(N/314cm)は、JIS6400に定められた測定法により求められる値であり、この値によってシート・クッション体として各種特性の定性的評価をすることができる。
【0070】
(反発弾性率)
反発弾性率(%)は、JIS6400に定められた測定法により求められる値であり、シート・クッション体のとして各種特性の定性的評価をすることができる。
【0071】
(繰り返し圧縮残留歪み)
繰り返し圧縮残留歪み(%)は、JIS6400に定められた測定法により求められる値であり、シート・クッション体のへたり性の目安とすることができる。
【0072】
(乾熱圧縮残留歪み)
乾熱圧縮残留歪み(%)は、JIS6400に定められた測定法により求められる値であり、シート・クッション体の熱へたり性の目安とすることができる。
【0073】
(通気度)
通気度(cc/cm・sec)は、JIS6400に定められた測定法により求められる値であり、クッション体の通気性を評価することができる。値が大きい方が通気性が良く、着座時の蒸れ感の解消が速い。
【0074】
(厚さ方向の硬さ変化)
ここでいう厚さ方向の硬さ変化とは、組成分や工程の調節により対象とするクッション体に厚さ方向に異なる硬さを付与可能か否かを示すものである。クッション体が繊維集合体から構成する例では、厚さ方向の硬さを制御することは可能であるが、ウレタンフォームから構成されたクッション体では困難である。
【0075】
(脱型までの時間)
ここでいう脱型までの時間とは、クッション体を構成する材料を金型に充填してから硬化反応が完了して金型から完成したクッション体を取り出すことができるまでの時間を示す。この時間が少なければ、その分、生産効率が高いと評価できる。
【0076】
(燃焼試験)
自動車用燃焼試験(FMVSS−302)、鉄道車両用燃焼試験(車材燃焼試験11−489K)、および航空機用燃焼試験(FAR25853(C))の3種類の標準化されている燃焼試験を行った。これらの試験基準では、「難燃」、「自己消火」が合格品である。
【0077】
【表1】

注:(表1)中の実施例3については、実施例3のクッション体が、ニードリング後、穿孔されたシート状物をウレタンバインダーで固めたものの上に実施例1のクッション体を接着して得た2層構造の複合クッション体であるので、物性値はオーハ゛ーオール密度、燃焼試験のみ記載した。
【0078】
(表1)から明らかなように、実施例のクッション体は、比較例と比較して同等以上のクッション性能を有しており、しかも比較例のクッション体が厚さ方向の硬さ変化が不可能であるのに対して、厚さ方向の硬さ変化を容易に実現でき、脱型までの時間が短く、各種燃焼試験にも合格する難燃性を有している。実施例のクッション体は上述の性能を有していることに加えて、従来の繊維集合体からなるクッション体に比べて耐久性が優れている利点を有する。この耐久性は繊維集合体を構成する各繊維間の交絡部分が熱硬化性ウレタン樹脂により接合されているからである。このことは、実施例のクッション体が比較例1のウレタンフォームからなるクッション体と同等以上の繰り返し圧縮残留歪みを示していることから確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本発明のシート用クッション体は、通気性が高く、高い面剛性、高い反発弾性率、および高い耐久性を有し、厚さ方向の硬度調節が可能である。したがって、本発明のシート用クッション体を用いてシートを製造することにより、座り心地やホールド性、および耐久性が大幅に向上したシートを提供することができる。
また、本発明のシート用クッション体の製造方法は、多孔性の金型を用いて簡易にシート用クッション体を製造することができ、脱型時間も短縮できるので、クッション体の生産性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 PTT繊維
2 各繊維間の交絡部
3 硬化ウレタン樹脂
4 着座シートの上部クッション材
5 着座シートの下部クッション材
6 バインダー繊維
7 PET繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の合成繊維が3次元的に絡み合ってなる繊維集合体からなり、前記多数の合成繊維同士の交絡部分が熱硬化したウレタン樹脂により接合されていることを特徴とするシート用クッション体。
【請求項2】
前記合成繊維がポリトリメチレンテレフタレート繊維およびポリブチレンテレフタレート繊維から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のシート用クッション体。
【請求項3】
前記熱硬化したウレタン樹脂が、水分散可能なポリイソシアネートとポリエーテルポリオールを含む熱硬化性ウレタン樹脂前駆体組成物を水に分散させてなる熱硬化性ウレタンバインダーを前記多数の合成繊維同士の交絡部分にのみ付着させた後に熱風加熱することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のシート用クッション体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシート用クッション体の製造方法であって、
多数の合成繊維が立体的に絡み合ってなる繊維集合体に熱硬化性ウレタン樹脂前駆体組成物を含む水分散性の熱硬化性ウレタンバインダーを含浸させる第1の工程と、
前記第1の工程後の繊維集合体に遠心力をかけて該繊維集合体から前記ウレタンバインダーの一部を振り落とすことにより前記多数の合成繊維同士の交絡部分にのみ前記ウレタンバインダーを残存させる第2の工程と、
前記第2工程後の繊維集合体を所定形状の多孔性の金型内に収容し、金型内の繊維集合体に熱風を送り込んで該繊維集合体中の多数の合成繊維同士の交絡部分に付着しているウレタンバインダーを硬化させることにより前記多数の合成繊維同士の交絡部分が熱硬化したウレタン樹脂によって接合されている繊維集合体を得る第3の工程と、
を有するシート用クッション体の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程における遠心力を50〜100m/secに設定することを特徴とする請求項4に記載のシート用クッション体の製造方法。
【請求項6】
前記第3工程における熱風の温度を110℃〜160℃に設定することを特徴とする請求項4または5に記載のシート用クッション体の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程における金型内への繊維集合体を収容した時の繊維集合体の密度を制御することによりクッション体の硬度を調節することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のシート用クッション体の製造方法。
【請求項8】
前記捲縮繊維としてニードリング処理した繊維を用いることによりクッション体の硬度を高めることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載のシート用クッション体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−240024(P2010−240024A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89217(P2009−89217)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】