説明

シート用クッション材およびその製造方法

【課題】軽量、高クッション性、薄型なシート用クッション材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本シート用クッション材は、ポリウレタン発泡成形体の内部に多数の線状通気孔を有し、ヒステリシス・ロスが22%以下、反発弾性が60%以下である。製造方法は、ポリオール単独もしくポリオールと不飽和単量体重合ポリオールとの混合物からなるポリオール成分(A)と、前記成分(A)に分散された繊維状水溶性高分子(B)と、ポリイソシアネート成分(C)と、発泡剤(D)とを含有するポリウレタン組成物(E)を調製するポリウレタン組成物調製工程と、前記組成物(E)をシート状に発泡成形してシート状発泡成形体(F)を得るシート状発泡体成形工程と、前記成形体(F)を水分に接触させて、内部の繊維状水溶性高分子(B)を部分的または完全に除去して、内部に前記多数の線状通気孔を形成する繊維状水溶性高分子除去工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物用シートや家具・寝具などに好適な通気性、柔軟性、及び反発弾性に優れたシート用クッション材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントシートやリアシート、そして家具・寝具など各種の用途には、汎用の軟質ポリウレタンフォームが多用されてきている。この汎用ウレタンフォームは、例えば、ポリエーテルポリオールを単独もしくは不飽和単量体重合ポリオール(以下、ポリマーポリオールと記す場合もある)と併用したポリオール成分と、ポリイソシアナート成分とを主原料とし、これに発泡剤と触媒および整泡剤を加えて所定の形状と厚みに発泡成形したものである。このようにして得られた汎用ポリウレタンフォームは、比較的フォーム密度の低い軽量なクッション材である。また、この種の汎用ウレタンフォームはコスト的にも安価なものとなっている。
【0003】
例えば、自動車シート用クッション材に使用されている上記汎用ポリウレタンフォームは、軽量であるが、反発弾性が低いため、その厚さを100mm以上と比較的厚くして使われている。これに対して、車内の空間をより広いものとする最近のニーズに対応するために、軽量性やクッション性が良いだけでなく、同時に薄型化が可能なシート用ポリウレタンフォームが求められている。
しかしながら、汎用ウレタンフォームにおいては、クッション性と薄型化とは相克関係にあり、薄型化を進めると、いわゆる底突き感を生じるなどして乗り心地が悪くなる。
【0004】
最近では上記相克関係による問題を解決するために、高弾性ウレタンフォームも開発されているが(特許文献1)、このものは、フォーム密度が汎用ウレタンフォームよりもかなり高いため、薄型化とクッション性を同時に満足できても、重量が重くなるといった別の問題が発生する。しかも、従来の高弾性フォームは、フォームの骨格にセル膜が残るために通気性が悪く、着座感触に劣るといった欠点もあった。
【0005】
【特許文献1】特開平7−330843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、その課題は、軽量で、クッション性と薄型化が同時に実現可能なシート用クッション材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のシート用クッション材は、ポリウレタン発泡成形体の内部に多数の線状通気孔を有し、ヒステリシス・ロス(JIS E7104)が20%以下、反発弾性(JIS K6400−3)が60%以下であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかるシート用クッション材の製造方法は、シート状のポリウレタン発泡成形体の内部に多数の線状通気孔を有し、ヒステリシス・ロス(JIS E7104)が20%以下、反発弾性(JIS K6400−3)が60%以下のシート状クッション材を得るシート状クッション材の製造方法であって、ポリオール単独もしくポリオールと不飽和単量体重合ポリオールとの混合物からなるポリオール成分(A)と、前記ポリオール成分(A)に分散された繊維状水溶性高分子(B)と、ポリイソシアネート成分(C)と、発泡剤(D)とを含有するポリウレタン組成物(E)を調製するポリウレタン組成物調製工程と、前記ポリウレタン組成物(E)をシート状に発泡成形してシート状発泡成形体(F)を得るシート状発泡体成形工程と、前記シート状発泡成形体(F)を水分に接触させて、内部の繊維状水溶性高分子(B)を部分的または完全に除去して、内部に前記多数の線状通気孔を形成する繊維状水溶性高分子除去工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
上記構成において、前記線状通気孔の平均径が0.1μm〜20μmであることが、好ましい。
【0010】
また、本発明にかかるシート用クッション材は、さらに、25%硬さ(JIS K6400−2)が170〜260N/314cmであり、通気性(JIS K6400−7)が10〜60L/minであることが、好ましい。
【0011】
また、本発明にかかるシート用クッション材は、ポリオール単独もしくポリオールと不飽和単量体重合ポリオールとの混合物からなるポリオール成分(A)と、前記ポリオール成分(A)に分散された繊維状水溶性高分子(B)と、ポリイソシアネート成分(C)と、発泡剤(D)を含有するポリウレタン組成物(E)をシート状に発泡成形し、得られたシート状発泡成形体中の繊維状水溶性高分子を部分的または完全に洗浄除去することにより得られたものであることが、好ましい。
【0012】
なお、本発明のシート用クッション材において、ポリウレタン発泡体の内部に形成される線状通気孔の平均径は、上述のように20μm以下が好ましく、下限値としては、0.1μm以上が好ましい。線状通気孔の平均径を0.1μm〜20μmとするためには、ウレタン組成物(E)中に分散した繊維状水溶性高分子(B)の繊度を、概ねのところ1.0デシテックス〜15.0デシテックスに調整すればよい。
【0013】
上記構成において、前記繊維状水溶性高分子(B)の配合量が前記ポリウレタン組成物(E)100重量部に対して2〜50重量部、更に5〜30重量部とすることが線状通気孔を安定的に分散形成する上で、好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるシート用クッション材は、ポリオール成分(A)中に分散された繊維状ポリビニルアルコール(B)の部分的あるいは完全な溶解除去工程により、母材のポリウレタンフォームの内部に多数の線状通気孔が形成される。したがって、母材のポリウレタンフォームとして、汎用の高発泡フォームや、クローズセルの発生率が高く且つフォームの骨格強度に富んだ反発弾性に優れた高発泡フォームを用いた場合でも、通気性が極めて優れ、柔軟性に富み、従来の高弾性フォームよりも密度の軽量なものが得られる。さらに、母材の内部に形成された多数の線状通気孔によって、クッション材に着座荷重が作用した際のクッション材内部の空気の流出入が容易となる。このため着座時の減衰性能が適度に向上し、座り心地が一層良いものとなる。かかる着座荷重が作用した際のクッション性の向上は、圧縮率に対する応力によって確認することができる。この圧縮率に対する応力の好適な範囲は、ヒステリシス・ロス(JIS E7104)が20%以下、反発弾性(JIS K6400−3)が60%以下である場合に実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明にかかるシート用クッション材は、ポリオール単独もしくポリオールと不飽和単量体重合ポリオールとの混合物からなるポリオール成分(A)と、前記ポリオール成分(A)に分散された繊維状水溶性高分子(B)と、ポリイソシアネート成分(C)と、発泡剤(D)を含有するポリウレタン組成物(E)を用いて製造することができる。以下、各成分について、説明する。
【0016】
(ポリオール成分(A))
上記繊維状水溶性高分子(B)が分散されたポリオール成分(A)は、水あるいは有機溶媒等の分散媒に含有された繊維状水溶性高分子(B)と高分子量のポリオール成分(A)との混合物から、上記分散媒を除去したものが使われる。
【0017】
ポリオール成分(A)は、特に限定されず、高弾性ウレタンフォームや汎用のポリウレタンフォームを製造する場合に通常使用されるあらゆるタイプのものを用いることができる。例えば、ポリエーテルポリオール、ポリマーポリオールが挙げられることができる。本発明のポリオール成分(A)として、2種以上のポリオールを混合して用いてもよい。
そのような組み合わせの例として、ポリオキシアルキレンポリオールと末端にポリオキシエチレン基を有するポリオキシポロピレンオキシエチレンポリオール等がある。
その水酸基価は、16〜60mgKOH/gの範囲のものが適当であり、ポリオールの総不飽和度は、0.1meq/g以下が好ましい。
【0018】
(繊維状水溶性高分子(B))
繊維状水溶性高分子(B)として用いられるものに、繊維状ポリビニルアルコール、デンプ系のアミロース,アミロペクチン、タンパク質系のゼラチン,シルク(フィブロイン),カゼイン、ファイバー状の多糖類系のブルラン,グアーガム分解物,大豆多糖,寒天,セルローズ,アラビノキシラン,アルギン酸ナトリウム,カラギーナン,ペクチンなどが挙げられる。
【0019】
なお、本発明でいう「繊維状水溶性高分子」には、初期形状が繊維状でポリオールに分散させる時に叩解して好適な繊度に調整可能なものばかりでなく、配合時には粒状やフィルム状であって、ポリオールに分散する時あるいはポリイソシアネート成分(C)やその他の成分と攪拌発泡成形する際に、さらに剪断力を加えることにより叩解してフィブリル化(小繊維化)し、調製後のポリウレタン組成物(E)中に好適な繊度の繊維状として存在することが可能となるものも、含まれる。
【0020】
上記繊維状水溶性高分子の一種である繊維状ポリビニルアルコールの市販品としては、株式会社クラレ製の「クラロン」が挙げられる。この繊維状水溶性高分子(B)は、低温から沸騰水までの水あるいは水蒸気などの、さまざまな温度、状態の水分に溶解可能な易水溶性であり、所望の溶解温度を有する銘柄を選択し、用いることができる。
【0021】
繊繊維状水溶性高分子(B)は、ポリウレタン組成物(E)中に分散した時点で、繊度(太さ)が、通常、1.0〜15.0デシテックスであることが好ましい。また、この繊繊維状水溶性高分子(B)の平均長さは、通常、1.0mm〜100mmであり、好ましくは1.0〜50mmである。ポリウレタン組成物中(E)に分散された繊繊維状水溶性高分子(B)の繊度と平均長さが、上記範囲にあると、製造されたシート用クッション材に着座荷重が作用した際のクッション材内部の空気の流出入抵抗が良好なクッション性を得るために好適な範囲とすることができる。かかる良好なクッション性が得られる線状通気孔の径寸法としては、0.1μm〜20μmが相当する範囲である。
【0022】
周知のように、繊維(糸)の太さは、長さと重さの相互関係から割り出すが、繊維の断面は円形でないため、直径で太さを表すことができず、「長さ」と「質量」の関係でその太さを表す。その表示方法は、長さを基準とした「恒長式表示法」と重さを基準とした「恒重式表示法」があり、本発明では、前者の恒長式表示法の一種であるデシテックス(dtex)にて、繊維状水溶性高分子(B)の太さを規定する。
【0023】
デシテックス(dtex)は、すべての単繊維、糸、繊維束に共通に用いられて恒長式の太さ表示方法であり、糸の長さ10000mに対し、糸の重さ1gを1デシテックスと表示する。
すなわち、本発明で用いる繊度の単位(dtex)は、糸の長さをL(m)、糸の重さをW(g)で示すと、下記の式で表される。
dtex(テックス)=10000×W(g)/L(m)
【0024】
上述のように、本発明で用いる繊維状水溶性高分子(B)のポリウレタン組成物中に分散した時の繊度を、1.0〜15.0デシテックス(dtex)とするには、繊維状水溶性高分子(B)をポリオール成分(A)中に分散する際の剪断力を適宜に制御して繊維状水溶性高分子(B)を叩解し、フィブリル化(小繊維化)する。
【0025】
前記繊維状水溶性高分子(B)の配合量は、前記ポリウレタン組成物(E)100重量部に対して2〜50重量部、更に5〜30重量部とすることが線状通気孔を安定的に分散形成する上で、好ましい。
【0026】
繊維状水溶性高分子(B)をポリオール成分(A)に分散する場合に用いられる分散媒としては、水を用いることができ、その他、1価あるいは多価のアルコール等の親水性有機溶媒も使用することができる。
【0027】
なお、前記ポリオール成分(A)の沸騰点は、繊維状水溶性高分子(B)の分散媒である有機溶媒に比較して充分に高いため、繊維状水溶性高分子(B)の分散媒が有機溶媒である場合には、ポリオール成分(A)と繊維状水溶性高分子(B)との混合物から有機溶媒を蒸留によって除去することができる。
【0028】
繊維状水溶性高分子(B)の分散媒が水の場合には、蒸留を低温でかつ必要に応じて減圧下で脱水することにより、分散安定度の高い繊維状水溶性高分子の分散ポリオールが得られる。
【0029】
また、ポリオール成分(A)として、ポリオールとポリマーポリオールを混合して用いる場合には、上述のように繊維状水溶性高分子(B)をポリオールに分散させて繊維状水溶性高分子分散ポリオールを調製し、この繊維状水溶性高分子分散ポリオールにポリマーポリオールを併用して使用する。
【0030】
(ポリイソシアネート成分(C))
ポリイソシアナート(C)としては、特に限定されず、例えば、イソシアネート基を2以上有する芳香族,脂環族,もしくは脂肪族径のイソシアネート化合物、その変性体、あるいはこれらの混合物を用いることができる。具体的には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)の単体及び化合物が例示される。
【0031】
(その他の成分)
上記主原料以外に使用される成分は、架橋剤、触媒、発泡剤、整泡剤などである。
【0032】
上記架橋剤としては、ジエタノールアミンや、ポリオキシエチレンテトラオールなどを用いることができる。
【0033】
上記触媒としては、特に限定されず、ポリウレタンを製造する場合に用いられる慣用の各種触媒を用いることができる。例えば、トリエチレンジアミン、ビス−(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、N,N,N’,N''−ペンタメチルジエチレンアミン、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7,1,2−ジメチルイミダゾール、1−ブチル−2−メチルイミダゾール、N,N−ジメチル−N−ヘキサノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N−取り置きしエチレン−N,N−ジメチルアミン等のアミン;又はこれらの有機酸塩;及びスタナスオクトエート、ジブチルチンジラウレート、ナフタン酸亜鉛などの有機金属が、挙げられる。
【0034】
上記発泡剤としては、発泡剤としては、フロン系、代替フロン系(ハイドロフルオロエーテル「HFE−254pc」)、塩素化炭化水素系、炭化水素系、窒素、炭酸ガス、水などが使用できるが、環境問題に配慮された発泡剤を使うことが望ましい。
【0035】
上記整泡剤としては、アルキレンポリエーテル変成シリコン系界面活性剤が使用される。またフッ素系面活性剤も用いることもできる。
【0036】
(シート用クッション材の製造方法)
本発明のシート用クッション材は、上述の成分(A)〜(D)の主原料と、その他の成分を適宜に組み合わせてポリウレタン組成物(E)を調製し(ポリウレタン組成物調製工程)、得られたポリウレタン組成物(E)をシート状に発泡成形してシート状発泡成形体(F)を得えて(シート状発泡体成形工程)、得られたシート状発泡成形体(F)を水分に接触させて、内部の繊維状水溶性高分子(B)を部分的または完全に除去して、内部に前記多数の線状通気孔を形成する(繊維状水溶性高分子除去工程)ことにより、得ることができる。
【0037】
上記繊維状水溶性高分子除去工程では、得られたシート状発泡成形体(F)を、水,温水,沸騰水または水蒸気から選択した水分に接触(浸漬もしくは暴露)することで、部分または全体を溶解除去する。この繊維状水溶性高分子除去工程により、通気性と柔軟性に優れたシート用クッション材が得られる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明にかかるシート用クッション材及びその製造方法の実施例を説明する。以下に示す実施例は、本発明を説明するための好適な例示であり、なんら本発明を限定するものではない。
【0039】
(実施例1)
繊維状水溶性高分子として繊維状ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、商品名「クラロンK−II、EQ5−R」;繊度が2.0デシテックス、平均長さが4.0mm)を用い、ポリオール成分として、ポリオールとポリマーポリオールを併用した。繊維状ポリビニルアルコールはポリオールに分散させた。この繊維状ポリビニルアルコールの配合量は、ポリオール100重量部に対して、14.7重量部(ポリウレタン組成物100重量部に対して5.0重量部とした。
【0040】
前記繊維状ポリビニルアルコール分散ポリオール50重量部に対して、ポリマーポリオール50重量部、発泡剤として水2.8重量部、整泡剤1.0重量部、触媒としてトリエチレンジアミン希釈溶液(33%)を0.4重量部とテトラメチルヘキサメチレンジアミン0.3重量部、ジフェニルメタンジイソシアナート/トルエンジイソシアナート「(=20/80)INDEX105」を105重量部、配合して、ポリウレタン組成物を得た。
【0041】
次に上記配合のポリウレタン組成物を用いて、縦500mm×横500mm×厚さ75mmのウレタンフォームのテストピースを発泡成形した。
【0042】
続いて、上記テストピースの発泡成形体を温水70℃に浸漬させ、内部の繊維状ポリビニルアルコールを完全に溶解除去し、シート用クッション材のサンプル(E1)を得た。
【0043】
(実施例2)
上記実施例1において、繊維状ポリビニルアルコールとして同じ製品(株式会社クラレ製、商品名「クラロンK−II、EQ5−R」)を用いたが、ポリオールに分散する時の剪断力を実施例1より低めに制御したこと以外、実施例1と同様にして、シート用クッション材のサンプル(E2)を得た。
【0044】
(実施例3)
上記実施例1において、繊維状ポリビニルアルコールをポリウレタン組成物100重量部に対して30重量部となるように配合し、ポリオールに分散する時の剪断力を実施例2より低めに制御したこと以外、実施例2と同様にして、シート用クッション材のサンプル(E3)を得た。
【0045】
(比較例1)
汎用モールドウレタンフォームを、下記に示した配合により、実施例1と同様のサイズに作製した(サンプルC1)。
配合組成は、ポリエーテルポリオール70重量部、ポリマーポリオール30重量部、発泡剤として水4.0重量部とハイドロフルオロエーテル「HFE−254pc」を5.0重量部、整泡剤1.0重量部、触媒としてトリエチレンジアミン希釈溶液(33%)を0.28部とジブチルチンジウラレート0.06重量部、トリレンジイソシアナート「(T−80)INDEX100」を100重量部とした。
【0046】
(比較例2)
乗り心地の改善を目的として開発された高弾性モールドフォームを、下記に示した配合を用いて実施例1と同様のサイズに作製した(サンプルC2)。
配合組成は、ポリエーテルポリオール50重量部、ポリマーポリオール50重量部、発泡剤として水2.8重量部、整泡剤1.0重量部、触媒としてトリエチルジアミン希釈溶液(33%)を0.4重量部とテトラヘキサメチレンジアイン0.3重量部、ジフェニルメタンジイソシアナート/トルエンジイソシアナート「(=20/80)INDEX105」105重量部とした。
【0047】
(比較例3)
上記実施例1において、繊維状ポリビニルアルコールをポリウレタン組成物100重量部に対して1重量部となるように配合したこと以外、実施例1と同様にして、シート用クッション材のサンプル(C3)を得た。
【0048】
(比較例4)
上記実施例1において、繊維状ポリビニルアルコールをポリウレタン組成物100重量部に対して51重量部となるように配合したこと以外、実施例1と同様にして、シート用クッション材のサンプル(C4)を得た。
【0049】
(評価)
上記実施例1〜3で得られたサンプルE1〜E3、及び比較例1〜4で得られたサンプルC1〜C4に対して、フォーム密度(kg/m)、25%硬さ(ILD)(N/314cm)、反発弾性(%)、ヒステリシス・ロス(%)、通気性(L/min)、及び線状通気孔の径寸法(μm)を測定した。
【0050】
上記各評価試験の準拠標準(JIS規格)及び方法は、以下のようである。
(フォーム密度)
各ポリウレタン発泡成形体サンプルからスキン部を除いて、縦横100mm、高さ50mmの寸法に切り出し、この切り出しサンプルにつき、重量を測定して、得られた重量を体積で除すことにより、算出した。
【0051】
(25%硬さ(ILD))
JIS K6400−2に準拠して測定した。
【0052】
(反発弾性)
各ポリウレタン発泡成形体サンプルからスキン部を除いて、縦横100mm、高さ50mmの寸法に切り出し、この切り出しサンプルをJIS K6400−3に準拠して測定することにより、求めた。
【0053】
(ヒステリシス・ロス)
各ポリウレタン発泡成形体サンプルからスキン部を除いて、縦横100mm、高さ50mmの寸法に切り出し、この切り出しサンプルをJIS E7104に準拠することにより、求めた。
【0054】
(通気性)
各ポリウレタン発泡成形体サンプルからスキン部を除いて、縦横100mm、高さ50mmの寸法に切り出し、この切り出しサンプルをJIS K6400−7に準拠して測定することにより、求めた。
【0055】
(線状通気孔の径寸法の測定)
ポリウレタン発泡成形体中の気泡により形成されたセルの径寸法は、一般的に100μm〜500μmであり、50μm以下となることはほとんどない。一方、繊維状水溶性高分子が最も強く叩解され、繊度が最も小さくなった場合、この小さい繊度の繊維状水溶性高分子の溶解除去により形成される線状通気孔の径寸法は、0.01μm程の小さなものとなり得る。また、繊維状水溶性高分子の配合量が多く、互いに凝集して束になった場合には、その束状の水溶性高分子の溶解除去により形成される線状通気孔の径寸法は、50μm程度の大きなものとなり得る。
【0056】
このように線状通気孔の径の上限値は、50μm程度であり、気泡によるセルの径の下限値は、100μm程度である。すなわち、ポリウレタン発泡成形体の断面に現れる孔の寸法が50μm以下の範囲を観察すれば、ポリウレタン発泡成形体内に形成されている線状通気孔の径寸法の範囲を知ることができる。
【0057】
したがって、本実施例及び比較例のポリウレタン発泡成形体サンプルの線状通気孔の径寸法は、以下のようにして測定した。
各ポリウレタン発泡成形体サンプルからスキン部を除いて、発泡方向が縦方向に一致するようにして、縦横100mm、高さ50mmの寸法に切り出す。この切り出しサンプル(サンプル数は5点)の中央を通るようにして前記発泡方向に対して、垂直にスライスし、そのスライス断面を走査型電子顕微鏡で観察し、線状通気孔の径寸法を確認した。確認方法としては、前記スライス断面に現れている通気孔を視野の上で観察し得る走査型電子顕微鏡の倍率に基づいて、存在する通気孔を、0.01〜0.1μm径、0.1〜10μm径、10〜20μm径、20〜30μm径、30〜40μm径、40〜50μm径、50μm径以上の径別グループに分類する方法を用いた。すなわち、10〜20μm径、20〜30μm径、30〜40μm径、40〜50μm径、50μm径以上の径別については、約1300倍の倍率で任意の5サンプルにつき100μm角内における存在の有無を観察し、0.1〜10μm径については、約3000倍の倍率で任意の5サンプルにつき30μm角内における存在の有無を観察し、また0.01〜0.1μm径については、約10000倍の倍率で任意の5サンプルにつき10μm角内における存在の有無を観察し、それらの結果から線状通気孔の径寸法の存在範囲を決定した。
【0058】
上記ヒステリシス・ロスと通気性が低いほど、クッション材の弾性が高くなり、反発弾性が小さいほど、着座した時の沈み込み速度が小さくなり、クッション材はゆっくりと圧縮される。
【0059】
上記評価結果を下記(表1:実施例1〜3)および(表2:比較例1〜4)に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
上記(表1)及び(表2)において、反発弾性、通気性はいずれもクッション材のコア部での値である。
【0063】
(表1)から分かるように、比較例1の汎用フォームは反発弾性が低く、乗り心地に難点のあるクッション材である。また、比較例2は、フォーム密度と反発弾性が高く、乗り心地の評価が極めて悪い為、着座感触に劣る。しかも、重量が重い。
これに対して、実施例1は通気性が極めて優れており、しかも反発弾性のかなり高いクッション材であるから、厚さが100mm以下と、従来品よりも薄型化しても乗り心地の良いものとなる。そしてフォーム密度は比較例1の汎用フォームと大差が無く、軽量である。このためクッション性に優れ、かつ軽量であるとともに通気性が良い為、着座感触も非常に良好である。
【0064】
また、実施例のクッション材は、ヒステリシス・ロス(%)が22%以下である。これに対して、比較例のクッション材は、ヒステリシス・ロス(%)が22%以下である。つまり、実施例のクッション材は、比較例のクッション材に比べて、ヒステリシス・ロスが低くなっている。先に述べたように、ヒステリシス・ロスが低いほど、クッション材の弾性が高くなる。したがって、実施例のクッション材は、比較例のクッション材に比べて、高い弾性を持っている。
【0065】
また、実施例のクッション材は、反発弾性(%)が47〜55であるのに対し、比較例のクッション材は、反発弾性(%)が48〜83である。先に述べたように、反発弾性が小さいほど、着座した時の沈み込み速度が小さくなり、クッション材はゆっくりと圧縮される。したがって、実施例のクッション材は、比較例のクッション材に比べて、着座した時の沈み込みが緩やかであり、快適な着座特性が得られる。
【0066】
比較例4で得られたクッション材が、反発弾性が低い値になっているにもかかわらず、着座時の快適性が悪いのは、次のような理由によると考えられる。すなわち、比較例4のクッション材の組成配合で、繊維状ポリビニルアルコールがポリウレタン組成物100重量部に対して51重量部と配合量が多くなっている。そのため、ポリウレタン発泡成形時に、叩解して撹拌分散された繊維同士が隣接し過ぎることになる。その結果、繊維状水溶性高分子除去工程後、単独線状通気孔も多いが、隣接合体したものも多くなる。そのため、径寸法が5μm以上の連続気泡孔を多く形成され、それにより通気度が大きく、ヒステリシス・ロスも大きい値になり、着座時の沈み込みが早く、快適性に劣ることになる。
【0067】
本実施例のクッション材において、このような優れたクッション性が得られる理由は、適切な繊維状水溶性高分子材料(種類、量)が配合されたポリウレタン成形体から繊維状水溶性高分子が除去されたことによりポリウレタン成形体内に生じる線状通気孔が、ポリウレタン成形体内の多数の独立発泡部(セル)を相互に連通させると共に、ポリウレタン成形体の外気に開口させるからであり、多数の線状通気孔がクッション材の圧縮時に内部の圧縮空気を徐放するからである。
【0068】
(実施例4)
実施例1と同様の繊維状ポリビニルアルコール分散ポリオールを用いて、下記の配合により、実際に使用される2000cc級の乗用車のリアシートと同様の寸法・形状のクッション材を作製した。但し、このクッション材の座面フォーム厚みは、75mmの薄型とし、性能の評価を行った。
【0069】
配合は、繊維状ポリビニルアルコール分散ポリオール50重量部に対して、ポリマーポリオール50重量部、発泡剤として水2.8重量部、整泡剤1.0重量部、触媒としてトリエチレンジアミン希釈溶液(33%)を0.4重量部とテトラメチルヘキサメチレンジアミン0.3重量部、ジフェニルメタンジイソシアナート/トルエンジイソシアナート「(=20/80;INDEX105)」を105重量部、配合した。
【0070】
(比較例5)
配合組成を上記比較例2と全く同じとし、実施例4と同様に、実際に使用される2000cc級の乗用車のリアシートと同様の寸法・形状のクッション材を作製した。実施例4と同様に、クッション材の座面フォーム厚は75mmの薄型とし、性能の評価を行った。
【0071】
上記実施例4と比較例5のシート成形体に対して、フォーム密度(Kg/m)、25%硬さ(KPa)、及び衝撃度を測定した。
【0072】
上記衝撃度とは、底突き試験というクッション材の快適性を確認するためのパラメータに使用される指標あり、シート表面より、120mmの高さから体重60kgの人が着座した時の衝撃の度合い(重力加速度)が被験者の感覚(相対的な大小)によって示される。この衝撃度による評価は、上述のヒステリシス・ロス、反発弾性、及び通気性の各値が所定の範囲にあることによって、定量的に確認することもできる。
測定結果を下記(表3)に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
(表3)から、実施例4のクッション材においては、比較例5の高弾性フォームに比べて着座荷重に対する衝撃度は小さい値が得られ、着座時の感触が優れていると判断される。
【0075】
本発明のクッション材、すなわち、繊維状ポリビニルアルコールが混入され、それがフォーム成形後に除去されて、ポリウレタン発泡体内部に多数の線状通気孔が形成されたウレタンフォームにおいては、薄型化のためにポリウレタン発泡体を高弾性体とすることによってポリウレタン発泡体内に形成されるクローズセルの発生率が多数の線状通気孔によって抑えられる。すなわち、高弾性タイプのポリウレタン発泡体内のクローズドセルが多数の線状通気孔によって相互に連通され、外気に開口させられ、高弾性でありながら、着座時に生じる内部の高圧空気を多数の線状通気孔を通して外部に徐放することによって、着座時の柔軟性も実現される。このことは、ポリウレタン発泡体の厚さが40〜100mmの領域において、顕著に現われる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のクッション材は、ポリオール中に繊維状水溶性高分子を配合することにより内部に多数の繊維状水溶性高分子を分散させたポリウレタン発泡成形体を作成し、この成形対から部分的または完全に繊維状水溶性高分子を除去することで、多数の線状通気孔を有するものとなっている。本発明のクッション材は、通気性は悪いが、実際の連続気泡率(現行通気度測定では検出できない数ミクロン以下の気孔)が極めて高く存在すると予想され、かつ着座時の沈み込み速度を小さくすることができて、高い弾性率を持ちながらも、柔軟なクッション性を実現できる。また、本発明のシート用クッション材は、繊維状水溶性高分子が除去された分、従来のフォームよりも密度が小さくなる。
【0077】
以上の理由により、本発明によれば、高い弾性率を維持しつつ、軽くかつ柔軟で、クッション性に優れ、薄型化が可能であり、適度な通気性があり、着座面の蒸れなく快適であるなど、乗り物用シートや家具あるいは寝具用として総合的に優れたシート用クッション材を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン発泡成形体の内部に多数の線状通気孔を有し、ヒステリシス・ロスが22%以下、反発弾性が60%以下であるシート用クッション材。
【請求項2】
前記線状通気孔の径寸法が0.1μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のシート用クッション材。
【請求項3】
25%硬さ(ILD)が170〜260N/314cmであり、通気性が10〜60L/minであることを特徴とする請求項1又は2に記載のシート用クッション材。
【請求項4】
ポリオール単独もしくポリオールと不飽和単量体重合ポリオールとの混合物からなるポリオール成分(A)と、前記ポリオール成分(A)に分散された繊維状水溶性高分子(B)と、ポリイソシアネート成分(C)と、発泡剤(D)を含有するポリウレタン組成物(E)をシート状に発泡成形し、得られたシート状発泡成形体中の繊維状水溶性高分子を部分的または完全に洗浄除去することにより得られたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシート用クッション材。
【請求項5】
前記繊維状水溶性高分子(B)の配合量が前記ポリウレタン組成物(E)100重量部に対して2〜30重量部であることを特徴とする請求項4に記載のシート用クッション材。
【請求項6】
シート状のポリウレタン発泡成形体の内部に多数の線状通気孔を有し、ヒステリシス・ロスが22%以下、反発弾性が60%以下のシート状クッション材を得るシート状クッション材の製造方法であって、
ポリオール単独もしくポリオールと不飽和単量体重合ポリオールとの混合物からなるポリオール成分(A)と、前記ポリオール成分(A)に分散された繊維状水溶性高分子(B)と、ポリイソシアネート成分(C)と、発泡剤(D)とを含有するポリウレタン組成物(E)を調製するポリウレタン組成物調製工程と、
前記ポリウレタン組成物(E)をシート状に発泡成形してシート状発泡成形体(F)を得るシート状発泡体成形工程と、
前記シート状発泡成形体(F)を水分に接触させて、内部の繊維状水溶性高分子(B)を部分的または完全に除去して、内部に前記多数の線状通気孔を形成する繊維状水溶性高分子除去工程と、
を有することを特徴とするシート状クッション材の製造方法。
【請求項7】
前記線状通気孔の径寸法が0.1μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項6に記載のシート用クッション材の製造方法。
【請求項8】
前記繊維状水溶性高分子(B)の配合量が前記ポリウレタン組成物(E)100重量部に対して2〜50重量部であることを特徴とする請求項7に記載のシート用クッション材の製造方法。

【公開番号】特開2009−298879(P2009−298879A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153124(P2008−153124)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】