説明

シート製品およびその製造方法

【課題】美粧性に優れたエンボス付与シート製品を提供する。
【解決手段】エンボスが付与された原紙シートS1、S2のエンボス凸部頭頂部に付与された糊G1、G2によって原紙シートS1、S2が接着されており、前記原紙シートを接着するための接着剤G1、G2が、顔料により着色されたものであってシート製品の表裏面から視認可能とされ、この接着剤および前記エンボスE1、E2によって図案が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キッチンペーパーロール、トイレットロール、ティシュペーパー等のシート製品に関し、特に、エンボス加工が施された原紙シートを複数毎重ねた形態のシート製品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパー、および化粧用紙といった紙製のシート製品は、パルプ等からなる原紙シートを二枚以上重ねて貼り合わせた形態で消費者に提供される。そして、これらのシート製品の主な用途は液体等を拭き取ることであり、その品質には特に嵩高性および吸液性が要求される。そのため、通常、このシート製品の前記原紙シートには、エンボス加工が施されて、貼り合わせた原紙シート同士の間に空間を画成し、もって嵩高性および吸液性を高めるようにしている。
ここで、一般に人間は、視覚的に認識した見た目のイメージによって行動を左右され易く、例えば、美粧性に優れた商品は抵抗感無く購入し易いものである。このため、エンボス加工を行うにあたっては、エンボス凸部が所定の規則性や対称性等をもつように配置して図柄を構成するようにして、その意匠性を良くするようにするのが一般的である。これは、規則性や対称性をもって近接配置された複数のエンボス凸部を、まとめて一つの図形や図柄と認識する人間の視覚的性質を利用したものである。
他方、視覚的なイメージ向上のためにシート製品に施される手段として、原紙シートに対して種々の色インキを用いた模様印刷を施すことが行われることがある。この模様印刷は、エンボス加工のみでは得ることのできない色彩を付与することができることから美粧性の向上に一層寄与し、消費者により一層の購買意欲を引き立たせることができる。
【特許文献1】特開平2003−116741
【特許文献2】特願平2003−409213
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、模様印刷のシート製品を製造するにあたって、エンボス加工等と別ラインで模様印刷を行ういわゆるオフライン印刷工程を取る場合であっても、同ラインで行ういわゆるオンライン印刷工程を取る場合であっても、模様印刷工程がエンボス付与工程とは別の単独の工程となっていたため、必然的に模様印刷を行わないシート製品の製造工程と比較して、ペーパーラインが長くなることに起因する原紙シートの嵩の低下を招いていた。そして、これが結果的にシート製品の嵩高性を阻害する弊害を引き起こしていた。
他方で、このように模様印刷工程とエンボス付与工程が別工程であると、印刷模様とズレやすく、この場合には、かえって美粧性に劣ることになる。
そこで、本発明の主たる課題は、嵩低下を引き起こすことなく製造可能であり、しかも従来にはない美粧性を有するシート製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決した本発明は、次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
2枚以上の原紙シートが重ねられたシート製品であって、
少なくとも一枚の原紙シートにエンボス加工が施され、このエンボスが付与された原紙シートのエンボス凸部頭頂部に付与された接着剤によって当該原紙シートと他の原紙シートとが接着されており、
かつ、前記原紙シート相互を接着するための接着剤が顔料により着色されたものであってシート製品の表裏面から視認可能とされ、この着色接着剤および前記エンボスによって図案が形成されていることを特徴とするシート製品。
【0005】
<請求項2記載の発明>
2枚の原紙シートが重ねられたシート製品であって、
原紙シートごとにエンボス加工が施され、エンボスの凸部頭頂部に付与された糊によって原紙シート同士が接着され、
かつ、前記原紙シート同士を接着する接着剤が、原紙シートの地色とは異なる色に顔料により着色されたものであってシート製品の表裏面から視認可能とされ、この着色接着剤および前記エンボスによって図案が形成されていることを特徴とするシート製品。
【0006】
<請求項3記載の発明>
原紙シートに高さの異なる複数の種類のエンボスが施されている請求項1または2記載のシート製品。
【0007】
<請求項4記載の発明>
原紙シートに施されたエンボスのうちの一部のエンボスの凸部頭頂部にのみ前記着色接着剤が付与されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のシート製品。
【0008】
<請求項5記載の発明>
原紙シートに、前記着色接着剤を付与するエンボスとは別に、マイクロエンボスが施されている請求項1〜4のいずれか1項に記載のシート製品。
【0009】
<請求項6記載の発明>
前記着色接着剤が複数用いられ、各々異なる色の顔料を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のシート製品。
【0010】
<請求項7記載の発明>
前記着色接着剤中の顔料が、0.01〜50%である請求項1〜6のいずれか1項に記載のシート製品。
【0011】
<請求項8記載の発明>
前記着色接着剤を付与する総面積が、シート製品1m2当たり0.5〜30%である請求項1〜7のいずれか1項に記載のシート製品。
【0012】
<請求項9記載の発明>
原紙シートのJIS P 8149に基づく不透明度が、30〜80%である請求項1〜8のいずれか1項に記載のシート製品。
【0013】
<請求項10記載の発明>
2枚以上の原紙シートが重ねられたシート製品を製造するにあたって、少なくとも一枚の原紙シートにエンボスロールによりエンボスを付与したのち、前記原紙シートに形成された全てのまたは一部のエンボスの凸部頭頂部に顔料により着色された接着剤を塗布し、
次いで、この原紙シートのエンボス凸面を他の原紙シートと前記接着剤により接着させることを特徴とするシート製品の製造方法。
【0014】
<請求項11記載の発明>
原紙シートごとに異なる色の顔料を含む前記接着剤を塗布する請求項10載のシート製品の製造方法。
【0015】
<請求項12記載の発明>
前記接着剤を塗布するためのエンボスを形成するとともにあるいは形成する前に、原紙シートに対して予めマイクロエンボス加工を行う請求項10または11に記載のシート製品の製造方法。
【0016】
<請求項13記載の発明>
高さの異なる2種以上の凸部を備えるエンボスロールによりエンボスを付与する請求項10〜12のいずれか1項に記載のシート製品の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来、印刷工程を設けなければなし得なかった彩色図案を、エンボス加工に伴う原紙シート同士の接着剤付与時に設けることができるので、エンボス加工とは別途に模様印刷工程を有していた従来製造方法と比較して、ペーパーラインを短くすることができる。これによって原紙シートがローラーによってガイド等される部分が少なくなり、製造時における紙厚低下が少なくなり、製造時における嵩低下要因が削減され、もって色彩およびエンボスを有するシート製品を嵩高にすることが可能となる。
【0018】
ここで、本発明および本明細書において「接着剤」とは、少なくとも顔料を含むものであればよく、例えば、顔料を含むインクそのものも接着剤とされる。また、PVA(ポリビニルアルコール)やCMC(カルボキシメチルセルロース)、アクリル樹脂といった接着性効果のある物質を別途加えたとしても、少なくとも顔料を含む限り、全体として本発明の接着剤とする。但し、染料は含まない。この点の理由は後述する。なお、本発明および本明細書では、「接着剤」と「着色接着剤」は同義語である。
【0019】
他方、模様印刷とエンボス加工を別工程として行うのではなく、エンボス部分に着色したので、エンボスと色彩とを同調させた明りょうなデザインが可能となる。
【0020】
また、エンボス群のうち対象のエンボスのみを着色することにより、全てのエンボスに着色接着剤を付与する場合による柔軟性の低下を回避でき、さらに、原紙シートにマイクロエンボスを施せば、より一層やわらかさを発現させることができる。
【0021】
本発明においては、顔料を使用して着色する。従来のキッチンペーパーロール、トイレットロール、ティシュペーパー等の家庭用薄葉紙製品では、染料をもって着色するのが一般的である。しかし、デザインの構成部分(エンボス部分)を鮮明に現出させるためには、染料による着色では適さず、顔料による着色が好ましいことを知見した。その理由は、染料ではパルプ繊維間に染料が浸透し、エンボス表面部分に残留する割合が少ない、並びに染料の浸透に伴って平面的に拡散し、目的の面積内と外との区画が明瞭でないのに対し、本発明に従って顔料を使用すれば、パルプ繊維間に顔料が浸透し難く、エンボス表面部分に残留する割合がきわめて多く、パルプ繊維表面及び中を平面的に拡散することが実質的にないので、目的のエンボス面積内と外との区画が明瞭にあらわれ、鮮明なデザインを現出させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明に係るシート製品は、少なくとも2枚以上の紙などからなる原紙シートが重ねられた形態を採る。重ねられる原紙シートの枚数は特に限定されるものではなく、例えば2枚、3枚、4枚、それ以上と適宜変更することができる。着色の視認性からは2枚あるいは3枚であるのが望ましい。
【0023】
また、原紙シートは、NBKP、LBKP、BCTMP、古紙などのパルプを、目的の製品に応じた割合で配合した原料パルプを抄紙してなる原紙をシートとする。
【0024】
さらに、原紙シートの物性としては、シート製品がトイレットペーパー、ティシュペーパーである場合には縦強度(MDT)が75〜200gf/15mm、横強度(CDT)が20〜70gf/15mmであり、縦伸び(MDS)が10〜30%(測定はJIS P 8113に準拠)であることが好ましい。またその他、強度が要求されるシート製品(ペーパータオル、ナプキン)の場合には1プライのペーパーシート(原紙)の縦強度(MDT)が200〜700gf/15mm、横強度(CDT)が50〜200gf/15mmであり、縦伸び(MDS)が5〜30%(測定はJIS P 8113に準拠)であることが好ましい。原紙強度が、これらの下限値以下ではシートの破断等が起き、上限値以上では風合いが悪化する。またシートの伸びがこれらの下限値以下ではシートの破断等が起き、上限値以上では、シートにしわ等が発生して操業性が悪化する。
【0025】
(第1の実施形態)
以下2枚の原紙シートを重ねたシート製品の形態について、図1〜3を参照しながら詳述するが、この形態に限定されるわけではない。
本形態のシート製品Xは、重ねられた2枚の原紙シートS1、S2に、30〜100個/cm2のエンボス密度および0.2〜2.0mmのエンボス深さを有するマイクロエンボス(第1エンボス)Mがそれぞれ施されている。図1において、全体を砂目状に描いてあるが、その各点がマイクロエンボス(第1エンボス)Mに相当するものと描いているものである。
【0026】
これらの原紙シートS1,S2は対面しており、図2に示すように、マイクロエンボス凸面同士及び凹面同士が近接して向い合っている。この原紙シートS1,S2のマイクロエンボスMの一部上に重ねて図柄模様を形成する図案エンボス(前記マイクロエンボスMよりエンボス密度が疎でエンボス深さの深いもの)E1,E2がそれぞれ加工されており、原紙シートS1,S2のマイクロエンボスMに対して図案エンボスE1,E2が重畳して形成されている。原紙シートS1,S2はこの重畳部で接合されている。なお、図2は原理的な説明図であり、現実的には、図案エンボスE1,E2部分においてマイクロエンボスMも含めてこれらの形状は図示の形状に対して角部が崩れるものであることを付言する。
【0027】
本形態においては、図4に示されるように、原紙シートS1に「花」柄エンボスE1、原紙シートS2に「葉」柄エンボスE2がそれぞれ付与されている。なお、図案エンボスは、大きさ、形状などは特に限定されるものではなく、ロゴマーク、数字、文字、幾何学模様など適宜選択することができる。
【0028】
このように各原紙シートS1,S2に、それぞれ単独で図案エンボスE1,E2加工が施され、かつマイクロエンボス同士が対面していることにより、各原紙シートS1,S2を重ね合わせてできるシート製品Sの嵩高性が向上され、シートの吸収性や柔らかさが良好なものとされる。
【0029】
他方、前記図案エンボスE1,E2の凸部頭頂部Etには、シート製品Xの地色とは異なる色に顔料により着色された接着剤G1,G2が付与されており、この接着剤G1,G2によって両原紙シートS1,S2が接着されている。本形態では、花柄エンボスE1の凸部頭頂部Et1に赤色顔料の接着剤G1が付与され、葉柄エンボスE2の凸部頭頂部Et2に緑色顔料の接着剤G2が付与されている。
【0030】
そして、この接着剤G1,G2が、原紙シートS1、S2を透してシート製品Xの表裏面F、Bから視覚認識されることにより、図案エンボスE1、E2が彩色が施された図案として視認される。すなわち、赤い花柄のエンボスと緑の葉柄のエンボスが一体的とされた図案として視認される。
【0031】
ここで、本発明では、前記接着剤G1,G2が、シート製品Xの表裏面から視認されることにより、図案を構成することとなるので、接着剤G1,G2が十分にシート製品Xの表裏面から明りょうに視認可能となるように、原紙シートS1,S2のJIS P 8149に基づく不透明度を、30〜80%、望ましくは60〜70%とするのが好適である。この程度の不透明度であれば、十分にシート製品の表裏面から接着剤の色彩が明りょうに視識可能となる。
【0032】
他方、接着剤G1,G2の具体例としては、例えば、PVA(ポリビニルアルコール)、CMC(カルボキシメチルセルロース)等の接着成分に対して、顔料により着色したものを使用する。
【0033】
ここで、原紙シートS1,S2の対する前記接着剤G1,G2の塗布量としては、例えば、シート製品Xがトイレットロールであれば0.01〜0.18g/m2とするのが望ましい。0.18g/m2を超えると、ごわつくようになり、0.01g/m2未満であると原紙シート同士の接着が不十分となる。なお、糊の塗布量は、シート製品の種類に応じて適宜増減することができる。
【0034】
ここで、本発明および本明細書において「原紙シートの地色と異なる色」とは、色相が異なる場合はもちろん、彩度、明度のみが異なり、原紙シートの地色と着色糊付与部分の色とがグラデーション模様を構成する場合をも含む。
【0035】
接着剤付与部分と接着剤非付与部分とのL*値の3.0以上あるのが望ましい。なお、L*値の測定は、日本電色工業製の測定装置「PF−10」を用いて行うことができる。測定は、接着剤非付与原紙シートを10枚以上重ねたシート上に、一枚の接着剤付与部分を備える原紙シートを当該接着剤付与部分が内面となるようにして載せたものを試験片とし、この試験片の接着剤付与シートを載せた面から接着剤付与部分と接着剤非付与部分のL*値をそれぞれ測定する。
【0036】
以上説明の本形態のシート製品Xを製造するにあたっては、例えば、次記のようにして行うことができる。予めシートS1及びS2に、肌触り性の向上という観点から好ましくは60%以上、より好ましくは90%以上の実質的に全領域にわたって、それぞれ図示しないマイクロエンボス加工ロール装置によってマイクロエンボスM加工を施す。
【0037】
次いで、図3に示すように、各原紙シートS1、S2は、原紙シートS1用、原紙シートS2用にそれぞれ設置された図案エンボスを付与するための、金属製凸エンボスロール1S,2Sとゴム製抑えロール1R,2Rとの一対のニップでそれぞれ構成される図案エンボスロール1,2に通され、図案エンボスE1,E2が付与される。本形態では、金属エンボスロール1に「花」柄、金属エンボスロール2に「葉」柄が形成されており、原紙シートS1に「花」の柄のエンボス、原紙シートS2に「葉」の柄の各図案エンボスE1,E2がそれぞれ付与される。
【0038】
原紙シートS1、S2は、図案エンボスロール1,2間を通り抜けてエンボスE1,E2が付与された後には、ゴム製抑えロール1R,2Rから離間し、金属製凸エンボスロール1S,2Sに沿ってガイドされて移動し、エンボス凸部頭頂部Et1,Et2に対して糊が付与される。予め顔料により着色された接着剤が、ドクターチャンバー方式を用いたグルーユニットG1,G2によって塗布されるようにされ、最終的に転写ロール31,32により転写塗布される。
【0039】
次いで、重ね合せロール4にて、原紙シートS1の花柄エンボスE1と、原紙シートS2の葉柄エンボスE2とが重ならないようにして、かつ、マイクロエンボス凸面と花柄エンボスE1及び葉柄エンボスE2とが対面するようにして両原紙シートS1,S2が重ねられて接着される。
【0040】
かくして、シート製品Xの表裏面F,Bから接着剤G1,G2の色が視認されて、赤色に彩色された花柄エンボスE1と緑色に彩色された葉柄エンボスE2を備えた、接着剤の彩色とエンボスパターンによる図案が形成された従来にはない美粧性を備えるシート製品Xが製造される。
【0041】
なお、エンボス深さ(高さでもある)の異なる二種類以上のエンボスパターンを有する金属エンボスロールを用いれば、高さの異なる二種類以上のエンボスが一度に付与することが可能である。この場合においては、図3の転写方式から直ちに判るように、エンボス高さの高いエンボスにのみ接着剤を付与することができ、接着剤が塗布されたエンボス凸部頭頂部と接着剤が塗布されていないエンボス凸部頭頂部を形成することができる。
【0042】
上記形態では、原紙シートS1と原紙シートS2の各図案エンボスが異なる図案であって各図案エンボスE1,E2が重ならないように両原紙シートS1,S2を重ね合わせる形態であるが、図8に断面図を示すように、各原紙シートS1,S2に同じ図案の図柄エンボスE1,E2を付与し、当該図案エンボスE1,E2同士を重ねるようにして、原紙シートS1,S2を接着するシート製品X2の形態であってもよい。
【0043】
(特にトイレットペーパーまたはティシュペーパー)
本発明は、特にトイレットペーパーまたはティシュペーパー(化粧用も含む)に対して適用する場合に顕著に効果が現れる。
先に関連説明したように、従来、シート全体の着色及びインキによる模様印刷は公知である。しかるに、後者の模様印刷した原紙シートにエンボス加工を施す場合、模様印刷が別工程であること、あるいは模様印刷をオンラインで行うとしてもシートの伸びや誤差のために、模様部分とエンボス加工部分と連係させることは実際的にできない。したがって、模様部分とエンボス加工部分との関連性がないことによりデザイン的に無味乾燥的なものとならざるを得ない。
【0044】
これに対し、本発明によれば、図案エンボス部分に顔料により着色された接着剤が付与されるために、凹凸部分と着色とが一体となって、周辺領域と区画化されることにより、明りょうな図案として現出するものとなる。
【0045】
トイレットペーパーまたはティシュペーパーでは、極端な、あるいは度の過ぎた着色は好まれないが、本発明によれば、図案エンボスが着色部分と一体となって図案を現出させるので、そして顔料による着色であるので、淡い着色であっても、明りょうな図案として現出させることができるのである。
【0046】
トイレットペーパーまたはティシュペーパーとしては2プライの製品が好ましく、その1プライのJIS P8124による坪量としては、10〜25g/m2となるのが好ましい。下限を10g/m2と規定したのは、10g/m2を下回ると、柔らかさの向上の観点からは好ましいが強度を適正に確保することができないためである。また、上限を25g/m2と規定したのは、25g/m2を上回ると、硬くなりすぎて、肌触りが悪化するためである。
【0047】
かかる原紙シートに対し、前述のように、30〜100個/cm2のエンボス密度で0.2〜2.0mmのエンボス深さを有するマイクロエンボス(第1エンボス)Mがそれぞれ施される。
【0048】
原紙シートS1,S2のマイクロエンボスMの一部上に重ねて、前記マイクロエンボスMよりエンボス密度が疎でエンボス深さの深い図案エンボスE1,E2がそれぞれ加工される。この図案エンボスE1,E2としては、0.1〜5個/cm2のエンボス密度で0.3〜2.5mmのエンボス深さを有するものが望ましい。個数が少ないと 、美粧性に乏しく、他方多いと、エンボスの押し込みによる紙の強度低下が生じる恐れがある。さらにエンボス深さが浅いと図案としての明りょう性が確保しがたく、過度に深いと肌触り性を阻害する。
【0049】
図案エンボスが占める面積としては、1m2当たり、0.5〜30%、特に3〜15%が望ましい。面積割合が小さいと図案として現出しかね、また過度に大きいと過剰な図案となり、商品デザインとして望ましくないものとなる。
【0050】
原紙シートS1,S2は、接着剤によって接着される。原紙シートS1,S2の剥離強度[CN]としては5〜100であることが好ましい。下限を5CNと規定したのは、5CNを下回ると、原紙シートS1,S2どうしの貼り合わせを適正に行うことができないためである。また、上限を100CNと規定したのは、100CNを上回ると、衛生薄葉紙として硬くなりすぎて肌触りが悪化するためである。剥離強度の測定方法は、例えば、試料を50mm角に切り取り、所定の長さ分剥がした後、剥離試験用ロードセル(TG200N、ミネビア社製)を用いて、試料の表裏面に対して略垂直方向に300mm/分の速度で引張ることで剥離させて、その時の強度を測定するものである。
【0051】
原紙シートはたとえば薄いピンクやブルーなどに着色されたものでもよいし、着色されないパルプ自体の色が現出したものでもよい。接着剤の色としては限定されない。
【0052】
ここで注意すべきは、着色接着剤中の顔料が、0.01〜50%であることである。顔料含有量が少ないと、図案エンボス部分において着色がまだらとなり、図案をシャープに(明りょうに)に現出しがたいと共に、色のカスレが生じ易くなり、前記重量比が過度に大きいと接着性が悪くなり、前記剥離強度条件を満たし難いものとなると共に、色の滲みが生じ易くなる恐れがある。
【0053】
着色糊の粘度としては、1〜100mpa、特に5〜30が望ましい。
【0054】
(第2の実施形態)
図5〜図7に、3枚の原紙シートを使用する場合の第2の実施形態を示した。
この第2の実施形態は、1プライ当たりの坪量が10〜25g/m2である3枚の原紙シートS3、S4、S5が重ねられたシート製品である。
【0055】
2枚の原紙シートS3、S4は、適宜の段階で、積層状態とされ、この積層シートSWに面積が大きくかつ深さが深いマクロエンボスE3、面積が小さくかつ深さが浅いマイクロエンボスE4が、たとえばゴム製抑えロール51Rに対する金属製凸エンボスロール51Sによる押圧によって形成される。金属製凸エンボスロール51Sの押圧は15〜30kg/cmとするのが望ましい。押圧が小さいと嵩が出にくく、吸液性を阻害する原因に繋がる。逆に大きいと、シートのエンボス部分での破れに繋がり易くなる。
【0056】
他方の1枚の単独原紙シートS5には、面積が小さくかつ深さが浅いマイクロエンボスが、ゴム製抑えロール61Rに対する金属製凸エンボスロール61Sによる押圧によって形成される。
【0057】
また、金属製凸エンボスロール51Sに対向して、グルーユニットG3及び転写ロール33が配設され、顔料により着色された接着剤G3が、ドクターチャンバー方式によって、マイクロエンボスE4の凸部頭頂部に転写塗布される。
【0058】
マクロエンボスE3が形成された積層シートSWは、単独原紙シートS5と共に、金属製凸エンボスロール51Sに対向する重ね合わせロール70間に案内され、積層シートSWと単独原紙シートS5とがニップされ、両者が接着糊G3によって接着される。その後は、長紙管に巻き付けられた後、細幅のトイレットペーパーロールとされたり、インタホルダに導かれティシュペーパーなどのシート製品とされる。
【0059】
ここで、金属製凸エンボスロール51Sに対向する重ね合わせロール70間のニップのクリアランスは5〜200μm、ニップ圧は5〜20kg/cmとするのが望ましい。クリアランス及びニップ圧が小さいと接着性が悪く、逆に大きいと、エンボスの形崩れが生じ、また、接着剤の他のシートへの過度の浸透が多くなり、ザラツキの原因となる。
【0060】
第2の実施形態における、マクロエンボスE3及びマイクロエンボスE4の形成は適宜選択できるが、その例示が図5に示すものである。図5の例では、間欠点の曲線と、花弁部分にマクロエンボスE3を形成し、間欠点の曲線で囲まれる領域内にマイクロエンボスE4を形成し例である。したがって、第1の実施形態のように、マイクロエンボスにマクロエンボスが重畳していない例であるが、重畳させてもよい。本発明において基本的にデザインが限定されるものではない。
【0061】
第2の実施形態はトイレットペーパーロールとして好適なものであり、ロールの外面側を積層シートSWとし、内面側を単独原紙シートS5とするのが、消費者に対し嵩高性を印象付けるのに適している。
【実施例】
【0062】
次いで、本発明の実施例を示す。
(実施例)
白色の原紙シートの三枚を用意し、一枚にマイクロエンボス(ドット状)を施し、他二枚に同じ二種類のマクロエンボス(花弁及び点状の曲線)を施した。なお、原紙シートの物性は、米坪16.5g/m2、3枚重ねでの乾燥引張強度が725(縦)/295(横)CN/25mm、3枚重ねでの湿潤引張強度が90(縦)/42(横)CN/25mmであった。
【0063】
次いで、マクロエンボスの凸部頭頂部に、ラミネート糊に青色顔料(サカタインクス株式会社製「ブライトーンXFT−8」)を分散して得た粘度8mpaの着色接着剤を塗布した。なお、塗布面積率(着色面積率又はマクロエンボス占有面積率)は7.01%とし、着色接着剤中の顔料濃度を、0.005%、0.01%、0.20%、10.0%、30.0%、50.0%、60.0%の7種類を準備した。これら7種類を先述の一枚にマイクロエンボスを施したものと重ね合わせて、3プライのトイレットロールを作成した。
【0064】
この7組の3プライトイレットロールについて、20名の評者に、図案の明りょうさにつき評価してもらった。
図案の明りょうさの評点は、5点:カスレている又は滲んでいると判断つかない明りょうさである、4点:よく観察するとカスレ又は滲みを見つけられる、3点:着色部分のカスレ又は滲みを判別することができる、2点:図案は何であるか判るが、カスレ又は滲みが目立ち過ぎる、1点:図案は何か判別できず、ほとんどがカスレている又は滲んでいる、との判定した結果を、平均したものが表1である。
【0065】
【表1】

【0066】
以上詳述のとおり、本発明によれば、やわらかさおよび嵩高性などに優れ、しかも彩色図案を備えた美粧性に優れるシート製品およびその製造方法が提供される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、種々の改良並びに設計の変更を行うことが可能である。すなわち、薄葉紙等の原紙シートを二枚以上重ねてなるトイレットロールのほか、キッチンペーパー、ティシュペーパー、化粧拭取り紙等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明にかかるシート製品の正面図である。
【図2】本発明にかかるシート製品の断面図である。
【図3】本発明にかかるシート製品の製造工程を示す概略図である。
【図4】本発明にかかるシート製品の分解図である。
【図5】第2の実施形態にかかる他のシート製品の正面図である。
【図6】第2の実施形態にかかるシート製品の製造工程を示す概略図である。
【図7】第2の実施形態にかかるシート製品の製造工程を示す概略図である。
【図8】本発明にかかる他のシート製品の断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1S,2S…金属エンボスロール、1R,2R…ゴム製押さえロール、4…重ねロール、51R、61R…ゴム製抑えロール、51S、61S…金属製凸エンボスロール、70…重ね合わせロール、S1〜S5…原紙シート、SW…積層シート、E1,E2…図案マクロエンボス、E3…マクロエンボス、E4…マイクロエンボス、G1,G2,G3…接着剤、M…マイクロエンボス、X…シート製品、F…シート製品の表面側、B…シート製品の裏面側。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚以上の原紙シートが重ねられたシート製品であって、
少なくとも一枚の原紙シートにエンボス加工が施され、このエンボスが付与された原紙シートのエンボス凸部頭頂部に付与された接着剤によって当該原紙シートと他の原紙シートとが接着されており、
かつ、前記原紙シート相互を接着するための接着剤が顔料により着色されたものであってシート製品の表裏面から視認可能とされ、この着色接着剤および前記エンボスによって図案が形成されていることを特徴とするシート製品。
【請求項2】
2枚の原紙シートが重ねられたシート製品であって、
原紙シートごとにエンボス加工が施され、エンボスの凸部頭頂部に付与された接着剤によって原紙シート同士が接着され、
かつ、前記原紙シート同士を接着する接着剤が、原紙シートの地色とは異なる色に顔料により着色されたものであってシート製品の表裏面から視認可能とされ、この着色接着剤および前記エンボスによって図案が形成されていることを特徴とするシート製品。
【請求項3】
原紙シートに高さの異なる複数の種類のエンボスが施されている請求項1または2記載のシート製品。
【請求項4】
原紙シートに施されたエンボスのうちの一部のエンボスの凸部頭頂部にのみ前記着色接着剤が付与されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のシート製品。
【請求項5】
原紙シートに、前記着色接着剤を付与するエンボスとは別に、マイクロエンボスが施されている請求項1〜4のいずれか1項に記載のシート製品。
【請求項6】
前記着色接着剤が複数用いられ、各々異なる色の顔料を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のシート製品。
【請求項7】
前記着色接着剤中の顔料が、0.01〜50%である請求項1〜6のいずれか1項に記載のシート製品。
【請求項8】
前記着色接着剤を付与する総面積が、シート製品1m2当たり0.5〜30%である請求項1〜7のいずれか1項に記載のシート製品。
【請求項9】
原紙シートのJIS P 8149に基づく不透明度が、30〜80%である請求項1〜8のいずれか1項に記載のシート製品。
【請求項10】
2枚以上の原紙シートが重ねられたシート製品を製造するにあたって、少なくとも一枚の原紙シートにエンボスロールによりエンボスを付与したのち、前記原紙シートに形成された全てのまたは一部のエンボスの凸部頭頂部に顔料により着色された接着剤を塗布し、
次いで、この原紙シートのエンボス凸面を他の原紙シートと前記接着剤により接着させることを特徴とするシート製品の製造方法。
【請求項11】
原紙シートごとに異なる色の顔料を含む前記接着剤を塗布する請求項10記載のシート製品の製造方法。
【請求項12】
前記接着剤を塗布するためのエンボスを形成するとともにあるいは形成する前に、原紙シートに対して予めマイクロエンボス加工を行う請求項10または11記載のシート製品の製造方法。
【請求項13】
高さの異なる2種以上の凸部を備えるエンボスロールによりエンボスを付与する請求項10〜12のいずれか1項に記載のシート製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−61510(P2007−61510A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254187(P2005−254187)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】